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第5章 公都

第183話 えっ!? そんな事してただで済むと思ってるの!?

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 『ハクトさーーんっ!!』

 控え室から出ると、青い小鳥スピカがフードの中にぼふっと飛び込んできた。

 「おわっ!? スピカ!? ふところに入ってたんじゃなかったのかよ!?」

 俺の頭を整えて、いつもの場所に陣取ったスピカの報告を聞く。てっきり懐で寝てるとばかり思ってたんだが、いかんいかん。

 『ちょっと気になることがあってこっそり調べに行ってたんです。そしたら変な人に見つかって急いで逃げてきました』

 「変な人?」

 『そうなんです! 年齢の割りに綺麗な女の人なんですが、気配が人じゃない・・・・・・んですよ』

 「ほお……そりゃ奇遇だな。俺もそんな奴見掛けたぜ? と言うか、最前列に居たけどな」

 スピカの話を聞きながら、思い当たる人物が浮かんできたわ。そうか、あいつらか。俺の感覚も間違ってねえみたいだな。

 『え、そうなんですか?』

 「と言うか、いつから冒険に出てたんだ?」

 『えっと、競売の会場に入って直ぐです』

 「マヂで!?」

 『マヂです』

 Oh……ウチの嫁はどんどん自由になっていく気がする。

 「あ、あの、ご主人様?」

 「ん?」

 「こそこそと、どなたとしゃべっておられるんですか?」

 ゆっくり歩く俺の横に並んだエルフの嬢ちゃんが見上げてきた。

 「お? 聞こえてたのか?」

 「は、はい。エルフも兎人とじん族程ではありませんが、そこそこ耳が良いのです」

 「スピカ、ちょっと鰐の鼻の先まで出てくれるか? お前さんが居ない時に、丁度その人の気配がない連中に買われそうになったのを俺が買い取ったのさ」

 ぴょこぴょこと跳ねながら、鰐の上顎に姿を表す青い小鳥スピカ

 『おーっ、エルフなのです!』

 直ぐ判別できるもんだな。特徴は耳くらいか?

 「名前は何つったかな。ろ……」

 「ロサ・マリア・ベル・スルバランです。ベル・スルバランは氏族と家の名前なので、ロサ・マリアが名前です」

 「だそうだ。ああ、これは妄言じゃなく本当の話だが、内緒だぞ? スピカは俺の嫁だ」

 「へ?」

 「呪いでこの姿になってるが、俺ともう2人居る嫁たちとは意志の疎通ができる。ま、お前さんもその内聞こえるようになるさ。だから、頭のネジが緩んでる訳じゃねえぞ?」

 「あと2人?」

 「それにメイドとメイド見習い入れて今4人。お前さんが入れば5人だな」

 「雪毛の兎人なのにメイドも居るのですか!?」

 「莫迦ばか、声がでけえ」

 奴隷の自分を棚に上げれるくらい、雪毛の社会的なヒエラルキーは低いらしい。解っちゃいるが、面と向かって指摘されるとへこむな。……これも慣れ得るしかねえか。

 「す、すみません」

 「ま、普通じゃねえのは重々じゅうじゅう承知だ。お前さんもそれに慣れてくれや」

 「は、はい。頑張ります。スピカ様。どうぞ宜しくお願いします」

 『宜しくなのです! 正妻はわたしですよ?』

 聞こえてねえが、その内判るだろうさ。それにしても、俺のイメージしてたエルフ像と随分違うな。もっとこう、長生きする種族の優位性を笠に着てるから、奴隷の立場は受け入れられんかと思ってたわ。

 それともあれか? 調教しつけで相当心を折られたとか?

 「エルフって言えば、もっと鼻に付くような高飛車かと思ってたが、お前さんを見る限りそうでもないんだな?」

 「い、いえ。わたくしは変わり者と言われていましたので、ご主人様の認識で間違ってないと思います」

 あ~そうかい。どうしてこう変わりもんばかりウチに集まるかね?

 『それはそうと、ハクトさんに競り落としてもらいたい物があるんです』

 そんな青い小鳥スピカの言葉に驚きながら、俺たちは再び会場の席に着いたーー。



                 ◆◇◆



 結局、青い小鳥スピカの希望通りの物を競り落とすことができた。



 何をかって?



 莫迦ばかでかい翠玉エメラルドかたまりだ。

 短くて太い3本足のセクシーな大根をイメージできるか? あれを横にした様なエメラルドの塊さ。加工してあるんだろうが、どうも雑な仕上がりなんだよ。と言っても。半分くらいは岩の中なんだがな。

 掘り出してみたが、どうやら加工済みにも見える。中に挟まってる岩を取り除きたいが、取り除いてる際にエメラルドの足を割ってしまうのも怖い。じゃあ、このまま競りに出すか。

 と言う葛藤かっとうが手に取るように想像できた。まあ、それが本当がどうかは掘り出したもんしかわからんがな。

 例のステージ前最前列に陣取ってた、精神病質者サイコパスどもは初めの内競りに参加してたが、直ぐに降りやがった。ま、結果そんなに値が張らず金貨120枚で落札できたのはおんの字だろう。

 けどな、前にも言ったが金貨120枚なんて阿呆あほみてえな大金だ。金銭感覚が可怪しくなってくるのが良く判るってもんだぜ。ここは長居しちゃいけねえ場所だ。

 んで、落札できたし後は興味も失せたから、清算を済ませて帰ることにしたわ。

 そしたらよ、“美食の君”たちが内々にエメラルドを譲ってはもらえないかと縦巻き髪カール経由で打診して来たのさ。



 どう考えても、怪しいだろ?



 下手に出る要素が全くない権威の上にふんぞり返った様なあいつらが、態々わざわざ雪毛の俺に対して下手に出ても手にしたいと思う代物を俺が落札したって訳だ。

 部屋に入った時点で襲われるだろうさ。

 俺じゃなく、ロサ・マリアか青い小鳥スピカがな。

 と言う訳で、とんずらこいてやった。いや、黙って帰った訳じゃねえぞ?

 「会うかどうか迷っている。身の安全が保証されている訳でないし、譲れということは無償譲渡と言うことなのか、適正な値で買い取ってくれるのかそれだけでは会うという決断までに踏み切れない。不安を払拭ふっしょくしてくれれば前向きに考える」

 って縦巻き髪カールの女に言伝ことづてを頼んでから虎人族のオネエヴォルフガングに帰るって伝えたのさ。そしたらーー。

 「えっ!? そんな事してただで済むと思ってるの!? “美食の君”は大陸全土に影響力持ってる組織の人間なのよ!?」

 ーーと怒られちまったわ。いや、んなこと言われても知らんし。

 会わねえようにすれば良いこった。顔もさらしてねえしな。

 「いや、前向きに考えた上で、やっぱり会わねえ方が良いと俺の勘が言ってるのさ。それに会うとは一言も言ってねえだろ?」

 って屁理屈をねてやったら、苦笑いを浮かべてたよ。

 とは言っても、連れて来てもらった手前オエネに迷惑はかけられん。だから、あいつらに「目を離した隙に帰られた。置き手紙にこれが」って今言った内容が書いてある物を渡してもらう小芝居を演じてもらう事にした。

 安全なとこまでは、俺を運んでくれた虎人族と豹人族の男が案内してくれるらしい。

 しかも、裏口からだ。来た道とは違うって事だろう。来た道も覚えてねえがな。現に、裏口から出た瞬間、そこにあったはずの扉が消えた。これじゃあ覚えられん。

 扉も魔道具の一種か何かなんだろう。それだけ秘密にしときたい場所って事だな。

 大公のおっさんには競売が組織の良い金蔓かねづるになってるのと、貴族を含め変な奴らが競売に参加してたこと、後場所は特定できなかったが地下にあることを報告しときゃ責任は果たせるってもんだ。

 「後はこのまままっすぐ行けば上に上がる階段がある。出れば屎尿捨しにょうすて場だ」

 かなりの時間歩いたとこで、不意に立ち止まった虎男が振り返って教えてくれた。

 「助かった。あの迷路を迷わずにって凄えもんだな」

 「慣れだ。では、我々らこれで」

 「ああ、宜しく言っといてくれ。お前さんらもあいつらに・・・・・見つからん様にな?」

 虎男と豹男と無言で拳を軽く打ち合わせた時だった。

 「誰に見つからない様にかしら?」

 「行けっ! 全力で走れっ! 振り返んなよっ!」「「っ!?」」

 艶のある女の声が前方から聞こえて来たんだ。ゾクリとした悪寒が背筋を走るのを感じながら、案内してくれた男たちを急かす。バレてはいるだろうが、証拠として死体を突き出されるよりも、逃げ切ってシラを切れる状態の方が多少は良いだろう。

 弾かれた様に暗闇へ向かって疾走を始めた気配を感じながら、ロサ・マリアを背中に隠す。

 聞き覚えのない声だが、確信はある。



 ーーあいつらだ。



 「さあ誰にだろうな?」

 気配を探るが、感じ取れるのは目の前に現れた声の主おんなだけだ。

 横の黒い水路を流れる細流せせらぎと、俺とロサ・マリアの息遣いしか聞こえん。臭いもだ。

 俺たちの顔に緩やかに当たる風上・・・・からの風に女の体臭も香水の香りも乗って無い、地下道の黴臭かびくさい臭いと、かすかなアンモニア臭だけ。



 人の皮を被った、人非ひとあらざるモノ。



 「まさか、胴元どうもとを使って小芝居を打たれるとは、油断しました。折角、あなたたちと有意義なお話し合いが出きると思いましたのに。ねえ、“わにきみ”?」

 「止せやい。まだ鍋の具材にされたかねえぜ」

 「うふふふふふ」

 「冗談は通じる様だな?」

 「ええ。わたくしを前にして冗談を言えたのはあなたが初めててですよ。誇ってください」

 「そりゃどうも。ありがた過ぎて膝が震えてくらあ。……んで、こんな場所へ茶を飲みに来た訳でもねえんだろ、“美食の君”?」

 「あら、せっかちな男性は嫌われますわよ? でも、その通りね。単刀直入に言います。あのエメラルドを譲って下さらないかしら? 譲って下さるのでしたら、わたくしにした無礼を不問とし、金貨300枚を支払う用意があります」

 皆夜目が利くから油灯カンテラを火をけずに来たんだが、俺たちの正面た立つ女もカンテラを持ってねえ。それなのに、女の両目が妖しく金色に光ってる様に見えるのさ。



 《耐魅了の熟練度が2に上がりました》



 唐突に、頭の中でそのアナウンスが流れた。

 そういうことかよ。

 「何も小細工なしに交渉してくれれば、譲るのもやぶさかじゃなかったんだがな。気が変わった」

 「うふふふ。あら。わたくしの眼が弾かれたのね。残念だわ。さぞ生きの良い具材になったでしょうに」

 「結局喰う気だったのかよ」

 「そちらのエルフの小娘もね? 若いエルフの娘の肉の味、気にならないかしら?」

 食人嗜好者カニバリズムかよっ!? 精神病質者サイコパスどころの話じゃねえぞ!?

 「ひぃっ」

 その言葉に、ロサ・マリアが背中クロークを握り締めたのが伝わってきた。あの時の言葉はそのまま本気だったって事だ。どうなってやがる異世界!?

 「ならねえな。肉は牛に限る」

 「そう、残念ね。交渉して手に入れたかったのだけれど。わたくしの眼が効かないのなら、強引にお願いするしかなさそうだわ」

 その何処が交渉だ!? 魅了する眼って厄介過ぎるだろうが!

 女の言葉に内心突っ込んでると、パチンッと言う女の指鳴らしスナップの音に合わせて、一瞬では数え切れないくらいの気配が闇の向こう側、女の背後に現れたーー。





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