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第5章 公都

第173話 えっ!? 真っ黒い……俺!?

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 恙無つつがく茶会は開かれた。

 歓談に花が咲けば時間が経つのは早いもんだ。

 「大公さんよ、あんたこんなとこで長々と油を売ってて良いのか?」と何度口から出そうになったことか。大統領が、良く決裁承認のサインを書いてる映像をニュースや映画で見たことがある。「あんな仕事はねえのかよ?」と問いたい。

 後な、ジェシーの奴、人の名前を使って俺の人となりを見るのに乗り込んでたんだと。

 本当の名前は、ティツィアーナ・セザール・アルマーニオ。近衛騎士団、団長だ・・・・・・

 それを聞いた瞬間クラッと眩暈めまいがしたね。城の守りはどうした? そもそも雪毛の兎人一人に手間暇てまひま掛け過ぎなんだよ。

 で、俺は近衛騎士団長こいつをティナと呼ぶように強要された。プラムを膝の上で人質に取ってから言うんだぜ? ひでえ話だ。

 レリア姫さんたちは、あの後砦体制を整えてから都に戻ったんだと。どこで入れ違いになったか分からんが、恐らく川辺の街ホバーロでギルドの依頼を森に入ってこなしてる時に追い抜かれたんだろう。

 結構な日数、森に居たからな。オークにも遭ったし。

 姫さんたちの方は収穫なしと言う事だった。

 ああ、この話をしたときは執事もメイドたちもかなり四阿あずまやから離してたな。ま、誰が黒なのか判らねえんだから仕方ねえか。

 その事を言うために俺をここに呼んだのかと思ったら、そうじゃないらしい。

 本来の目的は、大公さんが俺が都に来るのならくだんの礼がしたいんだと。侯爵の謀叛むほん未遂のことだな。会わせて、姫さんと騎士団も救ってくれた事も含めてらしい。

 白金貨1枚と騎士爵を提示してくれた。

 白金貨ってたら飛んでもねえ額だなんぞ!? 貧しい底辺の生活をしてる四人家族なら、一月ひとつき銀貨一枚で済む。それが白金貨っていったら金貨で1000枚分。銀貨に直せば10万枚分だぞ!?



 大事おおごとだぜ。そんな大金勘弁してくれ。



 「陛下。わりいが金も爵位も要らん。国に縛られるつもりはねえ。その代わり、大公家御用達の家具屋と、あんまり教えたくねえが行きつけの良い武器屋があるんなら、教えてもらいたい。それを報酬って事にしてもらえんかな? ああ、勿論紹介状付きでな。折角行ったのに、一見いちげんさんお断り。雪毛お断りって言われたらお仕舞いだからな」

 「何と無欲な。何処かの貴族に聞かせてやりたいものだな、アマデオ」

 いやいや。その貴族どもに目を付けられたくねえからに決まってるだろ?

 それに正直金には困っちゃいねえ。骨の谷で回収した金は、何十年と遊んで暮らせるくらいの額だ。城に入る時に預けた魔法鞄マジックバッグじゃなく、【無限収納】に入ってるからな。心配要らん。

 「は」

 「税金は、俺みたいな奴に使うよりかは、もっと有効に使ってもらいたいですな。で、紹介状はもらえるんで?」

 「ああ。今すぐは無理だが、近日中に届けさせよう」

 「そりゃありがたい」

 「だが武器屋は済まぬ。余は守ってもらう身ゆえな。その辺りはうといのだ」

 「それならばわたしがお連れします」

 大公さんの言葉を受けて、ティナがプラムを膝に乗せたまま手を上げてくれた。相変わらず、プラムを抱き枕化してやがる。

 プラムはプラムで、甘い物を食べさせて貰えてるもんだからいい気なもんだ。

 「良いのか?」

 「はい。アマデオが居りますので、団の指揮は問題ないかと」

 「いや、余が言いたいのは、お前が贔屓ひいきにしている店なのだろう? 教えても良いのか?」

 随分家臣に気を砕く人だな。もっと権威にふんぞり返ってるかと思ってたが……。いや、逆にリーダーシップを感じられねえとか言って、人心が離れるタイプか?



 俺は、好感が持てるがな。



 いや、そういう意味じゃねえ。俺はドノーマルだ。

 「はい。店の主人は偏屈と頑固で出来たドワーフです。紹介はしますが、交渉までは致しませんので」

 「何と」

 おい、そりゃ相当ハードル高くねえか?

 「へ。そりゃお優しいこって」

 「でしょ? もっとめてくれていいのよ?」

 「そうか? ふむ。そういうことなら……ティナの赤毛交じりの金髪は陽に当たると宝石のようにキラキラして綺麗だな」

 「ふぇ?」『えっ!?』

 ティナを含めた女衆が一斉に俺を見た。何を急に言い出すのかって顔だ。

 「雪毛の俺とプラムを差別にせずに接してくれるのは、心根の優しいからなんだろう。それに色々と物知りだ。俺たちの知らないことを莫迦ばかにすることなく丁寧ていねいに」「ちょっとちょっとっ止めて! 急にどうしたの!?」

 耳まで真っ赤にしたティナにさえぎられた。プラムが膝の上に居なかったら、それこそ飛び掛って首をめかねん勢いだ。

 「は? 褒めろって言っただろうが?」

 「莫迦正直に褒めてくるとは思わないじゃないっ! 恥ずかしいからもう止めて!」

 ぷいっと俺から顔を背けながら言い捨て、カップの茶をあおるティナ。いや、それさっき飲み切って中身入ってねえだろ?

 「へいへい」

 冗談の通じんやつめ。だったら褒めろって言うな。

 照れ隠しを怒って胡麻化ごまかそうとするティナに、首をすくめて応えておく。

 「ふはははは。ティツィアーナが手玉に取られるとはな。いや、面白いものを見せてもらった」

 「陛下まで……」

 耳まで真っ赤になるティナの横顔を見るのは新鮮だった。元々美人だからな。照れた横顔も絵になるのさ。あたっ。んなこと思ってたら、頭の上に降りてきた青い小鳥スピカに頭を刺されちまった。大公さんにも笑ってもらったんだから勘弁してくれ。

 いや、見惚れたのはすまん。

 「さて、名残惜しいが長居してしまった様だ。しかめっ面の宰相が来たようなので帰ることにしよう。時にハクト」

 庭園の入り口の方に小太りのおっさんと、付き添いの近衛騎士らしき姿が小さく見えた。あれの事だろう。

 「はい」

 「臣下ではないの方に1つ頼みたい事があるのだが?」

 「俺が無理なく・・・・できることであれば」

 「後二ヶ月後に闇の競売きょうばいが開かれるという話を耳にした。くだんの組織が絡んでるやもしれん。調査に協力してくれぬだろうか?」

 競売。オークションって事か。ま、活動資金を集めるにはもってこいだろうな。

 「……競売を阻止しろって言うのは無理だが、行って様子をのぞいてくるくらいは出来ると思うぞ? ま、それでも良ければ、だがな?」

 本来なら、こんなタメぐちは即首ちょんぱ何だろうが、普段の口調で問題ないとお墨付きもらってるからここでは・・・・地を出してるんだが、宰相の前では止めた方が良さそうだな。

 要らぬ、騒ぎは避けねえと。

 「どうした、何故立つ?」

 怪訝けげんそうに俺を見上げる陛下に、テーブルから一歩下がって短く応える。

 「いえね。宰相閣下に説明するのも面倒なんで、騒ぎになる前の予防策見たいなもんだ」

 そんな俺の行動に、城の連中が息を呑むのが判った。そんなに驚くことか?

 「……ハクトよ、余に仕える気はないか?」

 短い沈黙を破って大公さんの口から出た言葉に、正直驚いた。だが、受ける気は更々ねえ。

 「ははは。俺を高く買ってくれるのはありがたいが、勘弁してくれ。アマデオもんなに睨むんじゃねえよ。ここに居る面々は、雪毛にそこまで嫌悪感けんおかん忌避感きひかんを持ってねえから助かってるんだが、世間の大多数はそうじゃねえ。陛下が俺を召し抱えれば、要らん炭火をふところに抱くことになる。俺としては、陛下は男として尊敬できる。が、主従は別だ。気に入らん奴らにまで頭を下げ続けれる程、俺は出来ちゃいねえ。そんな事すりゃ、陛下に迷惑が掛かる。ボロが出る前にさっさととんずらした方が、お互いの為なのさ」

 直立不動気を付けの姿勢で、右手を胸に当てたまま普通の口調で話す。傍目はためには、うやうやしくしてる様に見えるだろさ。

 「ふ~……。誰がその言葉を聞いて雪毛とあなどるかよ。それだけに惜しい」

 大公さんが大きく息を吐きながら椅子に背中を預けると、ぎしりと背凭せもたれが軋む。

 「陛下っ!! 何を悠長ゆうちょうに油を売っておられるのですかっ!?」

 そんな中、宰相の怒気をはらんだ声が、なごやかな雰囲気を切り裂くように届けられた。これで茶会はお開きだな。そんな事を考えながら、短く答える。プラムもティナの膝から下ろされて、ヒルダたちと同じように俺の後ろに戻って来た。

 「顔をこっそり見せにくるくらいは、やぶさかじゃねえよ?」

 「ふふふ。この度はそれで妥協するか。ハクトよ、仔細しさいは姫に聞け。調査の件は頼む」

 「心得ました。御身おんみもご壮健そうけんで」

 「ティツィアーナ、アマデオ、参るぞ。レリア後は任せた」

 「「はっ」」「はい、お父様」

 大公の離席に合わせて一同が席を立ち、頭を下げて見送る。これが見送る事になるのかのかどうか俺には判らんが、少なくとも周りはそういう理解で居る様だ。

 ティナとアマデオが後ろに続き、その後ろを執事やメイドたちがゾロゾロと列を作る様子を目で追いながら、「宮仕みやづかえも楽じゃねえな」と笑みがこぼれそうになった瞬間だったーー。

 「プラムッ!?」「ひゃっ!?」「がはっ!!?」

 さっきまでなかった気配が庭の垣根かきねに現れたと思った途端、黒い塊がプラムに殺気を向けて飛び込んで来やがったのさ。

 「主君っ!?」「ハクト!?」「旦那様!?」「おっさん!?」「ハクト殿!?」「きゃあっ!?」

 そばに居た面々の悲鳴を聞きながら吹き飛ばされた俺は、脇腹に鈍い痛が広がるのを感じながらプラムと一緒に近くの垣根に突っ込んだ。やってくれたな!

 「プラム、怪我はねえか?」

 「は、はい。でも、旦那様がっ!?」

 「ちょっと枝の先で切ったくれえさ。それよりも、このタイミングを狙ってやがったな? 何処のどいつだ?」

 プラムに怪我がねえのなら、一安心だ。次は誰がこんな事をしてくれたかってこった。

 「旦那様」

 「ん?」

 「あ、あれ……」

 俺より先に何かに気付いたプラムが指差す方向に目を向けた俺は、目を疑う事になる。

 「えっ!? 真っ黒い……俺!?」

 そこに居たのは、周囲の怒りのもった視線を気にする事もなく悠然ゆうぜんと立つ、真っ黒い、俺とそっくりな兎人が居たのさ。



 いや、俺、同族の見分け方判らんし!!!



 心の中の突っ込みは誰に聞こえるともなく、静かに俺の心をえぐったーー。





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