上 下
196 / 333
第5章 公都

第165話 えっ!? 俺!? いや、人の所為にすんなよ!?

しおりを挟む
 
 えっ!? あいつ何やってんの!?

 ああ、間違いねえ。

 西狭砦さいさとりでで潜入捜査してた近衛騎士の色男だ。名前は……何つった?

 顔のインパクトが強すぎて、覚えてねえわ。

 流石にシンとかじゃなかったはずだがな……。

 「何をしているっ!! 双方とも武器を収めよっ!!」

 片や金棒を構え、片や無手で構える俺たちに向かって声が飛んでくる。まあ、俺というよりも金棒持ってる騎士団長の方だろうがな。

 「ちっ、面倒臭い奴が来やがった。おい、模擬戦は終わりだ。行って良いぞ」

 明らかに不服そうな顔で舌打ちした団長が、顎でヒルダたちの方を指す。

 「何だそりゃ? 随分いい加減な裁決だな? まあ、行って良いんなら行きたいとこなんだがな。多分、あの顔は無理だ……」

 砦の中の最高責任者は、そこを守護する騎士団長だ。そいつの言葉に意義を挟む気はねえが、俺を見た瞬間に目をみはったあいつが黙って行かせるはずがねえんだよな。

 「お前、まさか近衛騎士と面識があるのか!?」

 明らかに、俺の方へ視線を合わせたまま足早に近づいて来るイケメン近衛騎士と俺を見比べながら、慌てて早口に尋ねて来る団長。

 「あったらどうした? まあ腐れ縁だがな」

 「ぐっ」

 返答に窮したのを見てピンと来たね。はは~ん。これあれか。砦の独自法ってやつか?

 「どうした? 有無を言わせずに模擬戦を強要するのは、国の・・・法に触れるか?」

 「……」

 「貸し1つだ」

 「なっ!?」

 「ダメならバラす」

 「卑怯だぞっ!」

 「んなに難しい事なんか言わんさ。都で、雪毛ゆきげが泊まっても問題のねえ宿を教えてくれ。出来れば、飯が美味いとこが良い」

 「お前っ!? 殺されかけたのにそれで良いのか?」

 金かと思ったのか? まあ、金も悪くねえが、巻き上げられたって思われると後引くからな。

 そうなると面倒だから、情報にしたんだよ。こういうちょっと悪さをしてそうな奴なら1つや2つ、そういうとこに行ってると思ったのさ。下街からの情報は以外に的を射てることが多いからな。できる奴は、んな情報源を持ってるもんさ。

 農耕神殿に行けば泊まれと五月蝿うるさいだろうから、しばらく行きたくねえ。

 「周りから見たらどうか知らんが、俺としては良い実践訓練ができたと思ってるんだぜ? ウチのやつらに手を出してたら話は違ったが、そこは意外としっかりしてたからな。ま、ちょうど体がなまっててよ、良い錆落さびおとしになったんだわ」

 「……どうかしてやがる」

 「褒めんな。照れるだろうが」

 「褒めてねえ。……分かった。後で部下に届けさせる」

 「おう。俺らがここから出る迄に頼むわ。よお、随分久し振りだな、シン!」

 名前が思い出せん時は、カマを掛けるに限る!

 「誰だ、それは!? アマデオだ! もう忘れたのか!?」

 おふっ、違ったか。ああ、そう言やあんな名前だったな。

 「いやいや、んな訳ねえだろ。大騎士様ノ事ヲ忘レタ事ナド片時モアリマセン」

 カッと目を見開いて訂正するイケメンに少しいらっとしながら、半目で感情を込めずに臭い台詞を口にする。揶揄からかって見るか。

 「止めろ、気色悪い。もう公都に着いていると思えば、こんなとこで何油を売ってるのだ? 青牛騎士団団長マルク・エトヴィン・ポンエー」

 五月蝿そうに手を振るが、しっかり頭の上から足の先までチェックしやがったな。

 「はっ!」

 ほう、アマデオ色男の方が立場が上なのか。名前をフルネームで呼ばれて直立不動気をつけ姿勢になる団長を見ながら関係性を想像しちまった。騎士団長より近衛騎士の百人隊長の方が偉いってどういうこったよ。知名度ネームバリューの問題か?

 「状況を説明してもらおう。何故ハクトが・・・・傷を負っている?」

 うおっ!? こいつ俺の事を今、名前で呼びやがったぞ!? 野郎の騎士じゃ初めてじゃねえか!? 逆に俺が吃驚びっくりしちまったぜ。

 「あー、それな。血の気の多い奴が多かったもんでよ。俺からここを使わせてくれるように頼んだのさ。成り行きで、稽古を着けることになってな。お互いちと血が昇ってこのざまだ」

 後ろに回した左手で、「お前も合わせろ」とばかりに指をパタパタ動かす。

 それが通じたのか、慌ててずいと身を乗り出しやがった。

 「そ、そうです! 武闘家と手合わせする機会がないので、この機を逃すまいと模擬戦をしたら熱が入ってしまったのです!」

 「その金棒で【舞技ぶぎ】迄使ったのか?」

 【ぶぎ】? 武士の武の方か? 何か技があったか?

 「流石にそこまでは! ですが、後少し到着が遅かったら使っていたかもしれません」

 使う気だったんかいっ!? 良いとこで来てくれたよ。本当。

 「……恥をかずに済んで良かったな」

 「は?」

 いや、それ俺の台詞せりふ。どういうこった?

 「こいつはわたしの【剣舞】をかわしてなお、一撃を入れれるほどの猛者だ。お前では歯が立つまいよ。部下の前で恥を掻くのはお前だったと言ってるのだ」

 【けんぶ】……【剣舞】ね! 思い出したわ。西狭砦さいさとりでで侯爵を殺った時に使ったあれか! なる程な。武なのか舞なのかどっちか判らんが、ヤバいことは判るぜ?

 「なっ!? 【白剣びゃくけん】でもですか!?」

 おうおう。二つ名持っとるんかい。【びゃくけん】? 百なのか、白なのか判らんが……けっ。

 「それと、ハクト。お前には陛下からの付託状・・・・・・・・・・・・を渡していたはずだ。何故それを見せん?」

 「あっ……」

 その一言に、砦の連中がざわりと動く。あ~こりゃわりい事したか?

 あったな。俺の右手の人差し指にはまって、外れなくなった指輪と一緒にもらった記憶がある。確か「俺たちの身の保証を確約する物」をって言ったら、大公から届いたやつだったな。

 「貴様、忘れていたな?」

 「い、いや、んな訳あるか。ほら、あれだ。目立つのは困るからよ。なるだけ穏便に……」

 「我が国でも十指に入る勇猛な青牛騎士団を相手に単身で立ち回っておいて、何が目立つのは困るだ? 他の騎士団が黙っておらんぞ?」

 マヂで? いや~面倒臭いのはもう要らん。

 「それは困る。むさ苦しい男に囲まれるのはもう遠慮したい」

 「全く、貴様という男は。そもそもこの四月よつきの間何をしていたのだ? わたしなどあれから40日で帰って来たというのに」

 「気忙きぜわしいな?」

 「誰の所為せいだと思ってる!?」

 「お前さんがヘマした?」

 「貴様だ」

 「えっ!? 俺!? いや、人の所為にすんなよ!? 俺が何したってんだ?」

 「侯爵家を潰しただろうが!」

 『えっ!!!?』

 こいつの【ぶぎ】をかわしたと言った時よりも、空気が凍りついたのが分かった。

 この莫迦ばかっ! こんな人が多い場所で何を口走ってやがる!?

 「いやいやいやいや!! ちょーっと待て! お前らも真に受けるな! と言うか聞くな。聞き流せ! 忘れろ! おい、アマデオ! いやもうアンポンタンで良いっ!」「アンポンーーッ!?」「何でそうなってる!? 俺は何もしてねえ。口は出したかも知れんが、手は出してねえだろっ!?」

 「ちょっと待て、アンポンタンとはどういう意味だ!?」

 はっ!? そっちに喰い付く!?

 「ああーーもうっ! 頭の固い奴はこれだからいけねえっ! ちょっと来いっ!」

 「良かろうっ! 貴様とは一度話をせねばならんと思っていたとこだ!」

 良く判らん方向に火が着いちまった。これ以上ここで話してると全部ダダ漏れになっちまう。人の口に戸は立てれねえからな。この阿呆の所為で面倒な事になっちまったじゃねえかよ。

 周りが唖然として、どうすりゃ良いのか判らないままおろおろしてるのを余所に、俺たちは闘技場の隅へ移動する事にしたーー。





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...