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第4章 カヴァリ―ニャの迷宮
第151話 えっ!? 動かす、ですか!?
しおりを挟む俺は今、猛烈に恥ずかしい。
さっきまで俺は、死物狂いで銀色の上半身蟻、下半身牛姿の将軍蟻と一騎打ちをしてた。
正真正銘、手加減抜きの死合だ。
けど、どういう訳か知らねえが将軍蟻の戦闘欲を満たせたようで、将軍は帰って行っちまったのさ。お蔭で今は嘘みたいに静かだぜ?
でだ。俺が恥ずかしさを感じてるのはそこにある。
マギーとプラム。それにノボルと召喚契約とかいう契約を結んでいる鬼姫が、キラキラした視線で俺をずっと目で追ってるのさ。ああ、何も喋らずにずっと目で追ってんの。
生まれてこの方んな視線を受けたことのない俺にとって、ある種拷問なんだよ。
尊敬の眼差し? 憧憬の眼差し? 賞賛の眼差し?
何でも良いが、止めてくれ。恥ずかしくって鳥肌が立っちまうぜ。
ヒルダとプルシャンは、深淵の森で色んな魔物を一緒に狩ってたからな。驚きはしても、この3人ほど熱い目で俺を見ることはねえ。スピカも同じだ。
まあ、スピカに至っては初めから色眼鏡で見てくれてるから、プラス補正が効いてるのさ。
「おい、鬼姫さんや。俺の事はもう良いから、ノボルの所へ案内してくれや」
「そ、そうでした! 申し訳ありません! 皆様こちらです!」
やれやれ、やっと要件を思い出してくれたぜ。
ガバッとお辞儀をし、慌てて骨の山を登ろうとする素振りに思わず引き止める。
「あ~ちょっと待ちな」
「はい?」
「今更なんだが……。ひょっとしてこの骨の山を越えていかにゃならんのか?」
どう積んだのか知らんが、天井に届きそうな量なんだぜ?
「そうですが?」
「マヂかよ。また面倒臭えな。で、肝心のノボルは何処だ? この骨の山を布団に寝てる訳じゃねえだろ?」
「わたしたちが出て来る時は、この山の奥に簡易のテントを張って休まれてました。それにこの山は、定期的に兵隊蟻が骨を捨てに来るので」
「待て。今何つった?」
「はい? テントを張って」
「そこじゃねえ。兵隊蟻が何だって?」
7パッスス近い天井に届きそうな骨の山。天井に穴が開いてて、そこから骨が落ちて来る感じもねえ。鬼姫が言うように兵隊蟻がせっせと骨を捨てに来たってことか?
「ああ、兵隊蟻が骨を捨てに来るんです。近くに居ると、槍を投げてくるので槍の届かない位置にテントを張ってます」
どうやら本当らしい。
「主君。昔から言われてた事を思い出したんだが」
「お、何だ?」
横からヒルダが会話に入って来た。
「それが今もそういう理解のままなのかは知らないが、迷宮の中の“聖域”は迷宮の中にありながら、迷宮にとっては異物らしい。迷宮で生まれた魔物が中に入れないのは、女神の加護が働いているからだと聞いたことがある」
「女神の加護? 何でまたんな面倒な事を?」
女神ねえ。スピカ辺りが何か知ってるんじゃねえのか?
「そこまでは知らぬ。吾も聞いた事があるという程度の知識だ」
「ふ~ん。そうかよ。ま、それなら筋は通ってるな」
この話を聞こえるとこでしてるのに、頭の上に止まってるスピカが話に割り込んで来ないという事は……推して知るべしだな。俺たちが、興味本位だけで首を突っ込んでいい話じゃねえってことだろう。
「で、ハクト、どうするの? 登る?」
「マギー、悪いが先行して安全の確認を頼めるか?」
「はい、旦那様!」
そんなに気合入れんなよ。遣り辛くなるだろうが……。
キリッとした美人顔でお辞儀をしたマギーが、どう骨に足を乗せてるのか判らねえくらい静かに、山を崩すこと無く向こう側へ消えて行った。斥候のスキルか? だったら凄えな。
「あ、わたしも行った方が」
「いや、マギーが戻って来たら一緒に行けばいい。どうせ暫くは、蟻どもは来ねえだろう」
慌ててマギーの後を追おうとした鬼姫を、再度引き止める。
こういう時じゃねえと使えないスキルがあるのを思い出してな。ちょっと試してみたいのさ。
「そ、そうですか」
「旦那様。鬼姫が言う通り、テントが1張り設営してあり、人の気配がありました」
「ご苦労さん。ちょとこの骨の山動かすから、戻って来い」
「えっ!? 動かす、ですか!? わ、分かりました」
骨山に向かって右の稜線からマギーが顔を出して報告して来る。そこに居たままだとスキルが試せないから呼び戻すことにした。いや、そのままでも出来ん事はないだろうが、その後のフォローが面倒だからだよ。
「おっと、その前に【解除】、【骨治癒】、【骨治癒】、【骨治癒】……んなもんか」
【粉骨砕身】を【解除】してないことを思い出して、キャンセルしておく。リミットタイムギリギリまで使っちまうと、深淵の森で主と殺り合った時のように全身の骨が文字通り大変なことになっちまうのさ。
【解除】してケアしておけば、今のところ使った後動けねえという事態は避けれてる、な。
「主君、何をするつもりなのだ?」
「そうだよ、気になる!」
「まあ、見てな。上手くいったらお慰みだ。ふーーっ。山から離れてろよ? 【骨壁】」
ヒルダとプルシャンに問い質されたが、言ってしまったら面白くねえ。2人に距離を取らせてから、骨の山の前で片膝を付いて屈み、両手を地面に付けて【骨法】を発動させる。
この【骨壁】な。大量に骨があるとこしか使えねえらしい。
どっかから骨が集まってきて壁がぬるっと出るのかと思いきや、骨がなきゃ使えねえと来たもんだ。「じゃあ、今しかねえだろう」って話よ。
両の掌から魔力が吸い出されてるのが判る。
次の瞬間、骨の山がガシャガシャと音を立てて集まり始めたじゃねえか。
《【骨壁】の熟練度が2に上がりました》
と、久し振りに頭の中でアナウンスが流れる。
こりゃ、上手いことやればここの山を壁にするだけで、熟練度が結構上がるかも知んぞ?
期待と魔力が抜けていく気怠さを感じながら、俺はイメージ通りに壁を形成することに意識を集中することにしたーー。
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