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第4章 カヴァリ―ニャの迷宮
第141話 えっ!? おいっ!? そりゃ拙いって事か!?
しおりを挟むあれから農耕神殿に戻って、プラムのクラスチェンジをした。
2次職の盗賊から選べる選択肢は、3次職の短刀使いか新米冒険者へ戻って新しいクラス探しをするかの2択だ。
それまでに何種類もの職を経験してる者ほど、クラスチェンジに時に現れる選択肢が多いらしい。物凄い手間だが、中にはそれを繰り返す物好きな者も居ると言う。
「器用貧乏になるんじゃねえか?」と言いたくもなったが、目の前でそういう選択をしている奴が居なかったからな。何も言わずに呑み込んださ。
時間は有限だが、色んな職を経験すれば専門職でしか得られないスキルを身に着けることができ、クラスチェンジしてもそのスキルが残るんだとか。
おまけに隠された職も現れることがあるらしい。
どっかのゲーム好きな異世界人とかが喰い付きそうな話だ。
プラムはというと、そのまま3次職の短刀使いになることが出来た。
6歳で3次職は、農耕神殿の中で初らしい。おまけに雪毛の兎人と来たもんだから、驚かれるのも無理はねえだろう。
雪毛というだけでチャンスの扉が閉じられてるんだからな。
これまでもそういう才能が潰されてきたんだと思うと、遣る瀬無くなったぜ。
その間に大量の食料、ヒールポーションとマナポーションを【無限収納】に納める。神殿からの付き添いはねえから、回復する物は持っとかねえとな。
ああ、各種解毒薬も用意してもらった。
あと大量の矢と油、ボロ布、作りかけの弓と剣の部材一式も用意してもらったな。今ヒルダとプルシャンが使ってる武器は、骨の谷で拾ったやつだ。
潜ったとこで作ろと思ってるのさ。骨粘土でな。
まあ色々と準備してはいたんだが、気になることがある。
つうのも、律令神殿に赤っ恥かかせたのに抗議の1つも言って来やがらねえのさ。影使いのカズマが殺されたのも判ってるだろうに、だ。誘いも兼ねて20日も迷宮の上層部を神殿、ギルド、迷宮と行ったり来たりしてたのに、ちょっかいも出してきやがらねえ。
どうなってやがる?
不審に思いはするが、こっちからちょっかいを出す気はねえから静観してるんだが、どうも気持ち悪いのさ。
人族以外を蔑んでる宗教団体だ。その時点で碌なもんじゃねえよな。
兎に角、俺たちは支度を整えて再度迷宮に潜ることにした。冒険者ギルドにも一応報告は入れておく。依頼は帰って来て合致したものがあれば、討伐依頼達成として処理してもらえるという言質は貰った。
何がどれくらいというのは覚えきれん。
どの道、迷宮内の魔物は適宜間引かなきゃならんらしいから、潜ってくれるのは大歓迎なんだと。調子の良いこと言いやがる。
現に、俺たち以外も結構な人数が迷宮に出入りしてるらしい。
数? 知らん。
前にも言ったが、このカヴァリーニャの迷宮は蟻の巣型だ。四方八方に枝が伸びてる。
しかも天井までが結構高い、洞窟のような大きさだ。
それも、階層分けがどういう基準でなってるのか解らねえが、ちゃんとしてあるのさ。判ってるだけで30階層はあるらしい。それ以上はまだ未到達なんだと。
つまりそれだけ、蟻の巣が面倒な作りになってるってこった。
俺たちは第5階層から第10階層辺りをプラムのレベル上げと、ヒルダとプルシャンの修練を兼ねてウロチョロしてたんだが、今回はもっと奥を目指す。
食料も用意してもらったが、迷宮内でも調達できるんじゃねえのか、と思ってたりもする。根拠はねえが、強いて言えば勘、だな。
第11階層への転移陣はウロチョロしてる時に見付けてある。
マッピングはマギーに丸投げだ。ゲームだと1回通れば勝手に出るんだが、現実はそうじゃねえってこった。
これが蟻の巣型の迷宮の特徴らしい。
逆に、蜂の巣型が階段なんだと。
転移陣の方が管理しやすいと、迷宮の入り口に立ってる衛視の兄ちゃんたちが教えてくれたな。何となく解る気もする。
階段の方が下からドバっと出て来やすいのに比べて、転移陣は大きさに限りがある。一度に通れる数に限界があるってことだろう。
準備をして、第11階層への転移陣に来るのに半日しか掛からなかった。
戦闘をして、討伐部位を切り取って後は迷宮に吸わせる、の繰り返しだ。
ああ、そうだ。俺は初めて知ったんだが、迷宮で死ぬと迷宮の栄養分になるらしい。
迷宮に湧く魔獣然り、死んだ冒険者然り、後は装備品も一緒に吸われる。でも吸収できねえから、迷宮の所々に現れる宝箱の何かに入ってるんだと。
金や貴金属、金属製の装飾品、武器、防具とかだな。
逆に、紙、布、革はどんだけ凄い物でも綺麗に吸収されちまうってマギーが教えてくれた。
巧く出来てるもんだ。
ヒルダはそこまで知らなかったらしい。迷宮に入った経験はあるが、御貴族様の遠足だったんだと。守られて、魔法を打って終わり。貴族の間ではよくある話らしい。
――けっ。
気を取り直して、俺は未体験の場所へ踏み出すことにした。
「よし、乗るぞ。離れるなよ?」
『はいっ!』「うむ」「分かった!」「問題ありません」「はいっ」
俺の合図で、一斉に皆が転移陣に上がる。
転移陣の発動は、誰かがその上に乗ってからゆっくり10数えた時点で発動するんだ。だから、緊急時に逃げたくても10秒は我慢しねえと上がれねえってことだな。
足元の幾何学模様が描かれた二重円の魔法陣が緑色の光をゆっくりと発し、それが一段と強くなった次の瞬間、俺たちは初めて第11階層へ到達した。
――途端。
「どけろっ!!」「どいてっ!」「逃げなきゃっ!」「やっと転移陣が使えるっ!」「う、腕がっ」「しっかりして!」「何で11階層でこいつらが居るんだよっ!?」「先に行けっ!」「で、でもっ!?」
「おわっ!?」「「「きゃあっ!?」」」「ひっ!?」『冒険者さんたちが一杯です!』
俺たちは転移陣から外に引っ張りだされちまったのさ。
転移陣の特性とでも言えば良いのか、仕様といえば良いのか判らねえが、転移して来た者が魔法陣の上に乗ったままだと、再起動しねえという縛りがあるらしい。
血と汗の臭いが充満する第11階層に放り出された俺たちが見たのは、逃げて来る冒険者たちと、その後を追う蟻のような黒光りする甲冑を身に着けた6本足の牛の群れだった。
転移陣から牛までの距離はまだあるが、その間に冒険者のパーティーがまだ何組も居る。
おいおいおいっ。どうなんてやがる!?
「牛? いや、蟻か? 何だありゃ……」
「何、何っ!?」「主君、どうするのだ!?」「あれは、まさか!?」「――っ!?」『牛? 蟻?』
マギーは何か知ってそうな素振りだが、今は問いただせるような状況じゃねえ。
横を走り抜けていく冒険者の兄ちゃんにガシッと腕を取られた。
「おいっ! お前らも逃げろ! あれは30階層に居る蟻牛だっ! 身体は鎧で硬えし、怪力で振り舞わされる角に引っ掛けられたら俺らは一溜りもねえっ! おまけに肉食だ! あいつらが通ったあとは骨も残らねえっ!」
俺の腕を取って一気に喋った人族の冒険者が指差す先に、轟音を響かせて迫り来る黒い角の林が、誰かが投げ捨てた油灯の火に照らされてギラリと光を反射したのが見えた――。
えっ!? おいっ!? そりゃ拙いって事か!?
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