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第3章 領都
第135話 えっ!? オジサン、正気!?
しおりを挟む「なあ彰。悪い事は言わん。あの子たちのことを思うんだったら、あの子たちと別れて単独で動け、そう」「オジサン! オジサンでも言いって言い事と悪い事があるよっ!?」
厳しいが、誰かが言っておかねえと後で痛い目を見るのは彰だ。
そう思って口を開いたのは良かったんだが、地雷というか逆鱗に触れてしまったと言うべきか、最後まで言わせてもらえずに、彰が凄い剣幕て俺に詰め寄って来るのが見えたーー。
切れ過ぎる剣鉈を右手に持ったま、顔を怒りで真っ赤にして鼻息荒く詰め寄ってくる青二才の頭に手が届くとこまで来たとこでガツンッと拳骨で側頭部を殴ってやったぜ。
「阿呆っ! 人の話を最後まで聞け!」「痛っ!」
頭を殴らてグラッとよろけるが、踏みとどまった彰は鋭い目つきで俺を睨んでた。へえ。良い面構えになってるじゃねえか。
『男子、三日会わざれば刮目して見よ』とは言うが、異世界に来て随分揉まれたみてえだな。色んな意味で童貞も捨ててるみてえだし。
ーー発破を掛けるだけでいいか。
「言われなくても解ってるだろうが、お前だけ突出して強くても、オマケが多けりゃそれがお前の命取りになる。いざとなったら、あの子らを捨てられんのか?」
「ぐっ」
言われたくない事を言われた子どもみたいな顔付きになってやがる。ったく、だからまだ青いって言われるの解ってのか?
「お前が赤の他人なら、ここまで言うつもりもねえ。こっちは俺にとってもお前にとってもやり直しだ。オマケにリセットは出来ねえ。だろ? この先、あの子らと一緒に居てえのなら、ここでお前が出来たことくらいは出来るようにならねえと、他の勇者には敵わねえぞ?」
「なっ!? そんなことは!?」
「ねえと、どうして言い切れる? お前はこの矢が何時撃たれたのか知ってるのか?」
「っ!?」
そう言って足元に刺さった太い矢を指差すと、言葉に詰まりやがった。
取り巻きは心配そうに彰を見てるのも居れば、俺を睨んでる奴も居る。愛されてるね~。
「音も気配もねえ矢に狙われたら待ってるのは死だけだ。それもこの矢を撃ったのは年端もいかねえおかっぱ頭の嬢ちゃんだったぜ? あの鉄ヘルメット男は良いとして、あのお嬢ちゃんくらいの力がねえと無理だな」
「ーーじゃあ、どうしろっていうのさ」
おかっぱ頭で思い浮かぶ存在が居たんだろう。少しに間を開けて、そう問い返してきた。幾分語気が落ち着いてきたな。
「お? 拗ねてたのが、やる気になったか?」
「五月蝿いっ!」
「わははははっ! そこら辺は変わって無えよな。負けず嫌いも良いが、もちっと冷静になれ。で、あの子らと離れたくねえなら、一緒に深淵の森で修行してこい」
慌てて視線を逸らす彰の髪に右手を突っ込んで、乱暴に撫でながら笑うと、撫でられてるのを忘れたかのような反応が返って来た。
「えっ!? オジサン、正気!? 本気で言ってんの!?」
お? 喰い付きが良いな。
「正気も正気。クソ真面目だぞ?」
「でも、あの深淵の森だよ!?」
「そうか? 俺はあそこで1ヶ月ちょっと過ごしたが、なかなか良いとこだぞ? 飯は美味いしな。森の主と湿地に入らねえようにちょこっと気を付けとけば、後は何とかなる。洞窟に小屋も作って置いて来たし、自由に使っていいぞ?」
『ええっ!?』
ヒルダとプルシャン以外が口を揃えて驚いてやがる。何故だ?
おい、そんな目で俺たちを見るんじゃねえ。
「えっと、オジサン。それ、本当なの?」
「お前相手に法螺吹いてどうすんだ? いきなり中が無理なら、外縁の森で力を付けて、中へ入ればいいだろ? 近くに廃墟もあるし、拠点としては申し分ねえ」
「…………オジサンこそ、チーターだよね?」
こそっと耳打ちして俺の腹案を説明したら、間を開けて彰が可怪しな事言いやがった。
「いや、チーターじゃなく、兎だぞ?」
「はあ。もう説明するのが面倒だからそれでいいや。まあ、実力不足は僕も皆も思うとこがあるから、オジサンの案に乗っかるよ。でも、皆とも話し合って決めたいから」
「ああ、いい。どうすることにしたとか俺に報告は要らん。自分らの事だ。忠告はしたが、どうするかはお前さんら次第だからな。責任を俺に擦り付けんじゃねえ」
「……相変わらず面倒臭がり屋なんだね……」
「そんなに褒めんな。照れるだろうが」
「いや、褒めてないから!?」
「そうか? ま、気楽に行けや。勇者っていうくらいだ。そこそこ荷物も運べるもんも持ってんだろ? 今日は皆、ここで泊まらせてもらって、どうするかは決めたらいい。あ~俺らも泊まっていいんだよな?」
「も、勿論です!」
大司教の姉ちゃんに話を振ったら、慌てて返事が返って来た。何ぼーっとしてんだ?
「そういうこった。また襲撃がねえとも限らねえからな。さっさと雲隠れしちまおうぜ? 外も騒がしくなって来たしな」
アレだけドンパチやって、派手に礼拝堂をぶっ壊せば誰だって何があったのかと気になるもんだ。寧ろ、気にしねえ方が可怪しい。
外から中を覗き込む、神官たちの姿も見える。潮時だろう。
パンッ! パンッ!
「アキラ様たちを奥にご案内しなさい。ハクト様はわたしが案内します。他の者は、礼拝堂に誰も入らないように安全を図りなさい。まだ崩れる恐れがあります!」
「は、はい、ただいま! 皆様こちらにお出で下さい」「畏まりました!」
大司教の姉ちゃんが柏手を打つと、礼拝堂の奥に繋がる扉から2人の女官が現れて彰たちを案内し始め、内1人が外に走った。律令神殿から連れてこられた可愛子ちゃんは、ぱっと見る限り骨まではいってなさそうだからそのまま彰たちに任せることにしたよ。
知らんオッサンに体を触られるよりかはマシだろう。
俺はヒルダやプルシャンと一緒に、マギーとプラムのとこへ行き、大司教の姉ちゃんに任せることにした。勝手が判らねえんだから、仕方ねえよな。それこそ、入っちゃいけねえとこもあるだろうし。
ああ、例の石畳に突き刺さった太い矢は俺が貰うことにした。
ちょっと気になることもあったしな。
そう思った矢先だった。
「あらあら。わたしが居ない時に何楽しい事をしてるのかしら? もう少し待ってもらわないと困るわね」
崩れた第二礼拝堂の入口は丁度陽射しが差し込む形になり、そこに立つと輪郭は判るものの顔までは見えねえ。
眩しいんだよ。
んで、ざわざわ騒がしい野次馬を背に、そこへ立つ女性らしい人影から柔らかい、そして少しガッカリしたような声が礼拝堂に滑り込んで来たのさ。
そして、俺にはその声に聞き覚えがあったーー。
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