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女神たちの茶会15

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 ふぅ。仕事が一息ついても、遣ることがまだあるというのも困ったものです。

 思わず溜息をいてしまったのは、ザニアわたしです。

 先の、すぐ下の妹ポリマから訊き出したアウヴァ姉様とヴィンデミアトリックス姉様のげんに引っ掛かるものを感じたわたしは、仕事が終わった足で歓談室サロンに来たところです。

 丁度今、サロンの中央にある大きな水盤を覗きながら、水面に現れているハクトの【骨法ユニークスキル】を調べていました。

 ◆骨法◆
 Lv1:骨抜き(※使用不能)
 Lv2:骨飛礫ほねつぶて(※使用不能)
 Lv3:骨接ぎ(※使用不能)
 Lv4:骨形成(熟練度10)
 Lv5:骨錬成(熟練度10)
 Lv6:骨融合(熟練度10)
 Lv7:骨爪こっそう(熟練度10)
 Lv8:骨譲渡(熟練度10)
 Lv9:骨人形(※使用不能)
 Lv10:粉骨砕身(熟練度10)
 Lv11:骨離ほねばなれ(※使用不能)
 Lv12:骨釘ほねくぎ(熟練度10)
 Lv13:骨切り(熟練度10)
 Lv14:骨細工(熟練度10)
 Lv15:骨粗鬆掌(熟練度10)
 Lv16:白骨化(熟練度10)
 Lv17:骨鎧ほねよろい(熟練度10)
 Lv18:骨支配(※使用不能)
 Lv19:骸骨騎士(熟練度10)
 Lv20:換骨羽化(※使用不能)
 Lv21:骨盗ほねとり(熟練度3)
 Lv22:骨槍ほねやり(熟練度2)
 Lv23:骨治癒(熟練度1)
 Lv24:骨硬化(熟練度1)
 Lv25:骨異形成(熟練度1)
 Lv26:魔骨化(熟練度1)
 Lv27:骨壁ほねかべ(熟練度1)
 Lv28:骨魅了(熟練度1)
 Lv29:餓者髑髏がしゃどくろ(熟練度1)
 Lv30:ーーーー(熟練度ー)

 上位相互のスキルを覚えた事で使えなくなっているスキルもあるようですが、それでもフォルトゥーナの住民や勇者に比べると遥かに多いスキルを有しているハクト。

 1つの【法】には10のスキルというきまりがあるのですが、どうしてこんなに増えてしまったのか……。スピカとわたし以外の姉妹きょうだいで作ってもらったこれ・・に不安を覚えたのです。

 不安を覚えた原因は色々あります。

 一番下の妹ライエル・アル・アウラと、その次の妹シュルマが作った【粉骨砕身】は洒落が効きすぎた危険なものでした。なまじ強力なスキルだけに手に余る感が否めません。

 まだ使えるようになっていないスキルもあるようですが、このままで十分な気がしますね。

 それと、【骨譲渡】。詳細を見ると……。

 【骨譲渡】
  骨法Lv8スキル。
  取り込んだ骨を他人へ譲渡できる。
  使用には【骨錬成】と【骨融合】のスキルが必要。熟練度により譲渡量が左右される。
  消費魔力100
  熟練度10

 とありますが、何処にも従者契約に発展しそうな項目はありません。

 気になる文言は、「取り込んだ骨」です。

 取り込むということはその前に、【骨融合】で自分の骨にしていなくてはなりません。歪な形、例えるならこぶのような骨の節が突然現れることもなく、元の形のままで質量が増えているということです。

 もうこの時点で、人ととしてどうかという存在なのですが……。

 考えても見なさい。骨の大きさは変わらずに、骨の密度と質量が変わるのです。物理的な法則が欠落しているでしょ?

 推測でしか語れませんが、体長10m級の巨人と良い勝負ではないでしょうか。

 その身体に収まっている骨を、相手の骨の中へ流しこむのです。

 しかも、【骨譲渡】した骨が拒絶反応を起こした形跡もありません。

 譲渡された側も、筋肉に変化はありませんが骨はハクトのように変化しています。誰かに隷属させられると危険な存在になりえますね。そう考えると、ヴィンデミアトリックス姉様の取られた方法もうなずけます。



 ――ちょっと待って。



 【骨融合】は純粋に骨だけ・・・・しか取り込んでないのかしら?

 深淵の森にあった骨の谷の遺骨群は、完全に骨髄腔ほねのなかが乾燥してたけど、死んですぐの遺体から取った骨や、あの竜から取った骨は逆に骨髄なかみがあったはず。

 骨だけじゃなく、骨髄も中身も全部融合してる……?

 だとしたら、そこから創りだされるハクトの血液は完全に兎人とじんとは別物なのではありませんか? 器としては兎人であるものの、完全に中身は別物……。

 譲渡された者たちも……。



 ぞくりっ



 そんな結論に、思わず背筋に悪寒が走ってしまいました。

 いえ、まだそうだとは決まった訳ではありません。目は離せなくなりましたが、引き続き観察しなければなりません。

 とそこへ、ヴィンデミアトリックス姉様がサロンに入ってこられました。

 え? ハクトに新たな従者ですか?

 姉様に促されて、ここ数日の流れを水盤に映し出します。

 確かに、この流れでは増えそうですね。

 蜥蜴とかげ族の混血の娘に、雪毛ゆきげの兎人の幼女ですか。

 奴隷商もなんと浅ましい。

 今の人の子らは随分と欲にまみれているのですね。これでは、ハクトの居た世界の日本とも差はない気がします。むしろ、魔法がある分だけ質が悪いかもしれませんね。

 あら、姉様たちもお出でになられたのですか?

 気が付くと、いつものように8人が水盤の前に集まっていました。

 ハクトが雪毛の兎人の骨折をスキルで治し始めるのを皆で見詰めます。

 幼子の泣き叫ぶ様子にわたしたちが心揺さぶられることはありません。そのような脆弱ぜいじゃくな心だと世界を管理できるはずないでしょう?

 今この瞬間に何百何千という叫びが上がってるのですから。

 人の営みに神が介入することは、極力無いほうが良いのです。例外はありますが……。

 などと思っていたら、ハクトがとんでもない事を言い始めたではありませんか。

 「おう。デミア姉ちゃん。余所じゃ従者契約が上手い事いかねえんだわ。ヒルダやプルシャンの時みてえに力を貸して下さい。頼んます」

 血が出てる指には当てないように、ハクトが元居た日本の神社でするような柏手かしわでをぽふっぽふっと2回打って1礼する姿が水盤に映しだされました。

 「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 誰が女神の名前を短縮して、愛称で呼ぶというのでしょうか。水盤を覗いていたわたしたし全員が耳を疑いました。

 前代未聞です。

 創造主様からいただいた名を短くするなどともっての外です!

 「デミア、デミア……」

 ヴィンデミアトリックス姉様!?

 わたしの隣りにいるヴィンデミアトリックス姉様が、ハクトの口走った愛称をブツブツと口に出して居られます。

 まさか……。いえ、そんなことはないはずです。

 「ハクトちゃんも大胆ね~」

 ヘゼ姉様!?

 「誰も愛称で呼ばないことが当たり前だったからな。ある意味新鮮な響だぞ?」

 アウヴァ姉様まで!?

 「創造主様から戴いたお名前なのよ? 人の子らのように愛称で呼ぶのはどうかと思わ」

 わたしもその意見に賛成です、ザヴィヤヴァ姉様。

 「ん……そうは言うけど、ヴィンデミアトリックス姉様を呼ぶ時短いと助かる」

 「デミア姉様なのだ!」

 「デミア姉様なの!」



 あ な た た ち、 何 を 言っ て る の か し ら?



 下の3姉妹は論外です。

 そうしてる間にも、ハクトの心の声が聞こえて来ます。

 どうやら、ヒルダとプルシャンにした事を思い出しているようですね。

 確かに、契約に関する権能はわたしではなくヴィンデミアトリックス姉様です。

 ええ。律令りつりょう神殿で見られているここ数百年の流れはそろそろ看過できなくなってきました。その思いはわたしではなく、ヴィンデミアトリックス姉様の方が御強いはずです。

 人族だけをフォルトゥーナの中で特別視したことなど、唯の1度もありませんのに……。

 あの蜥蜴族の混血の娘は良く解っているようですね。

 神聖な名前は正しく使うべきなのです。とうなずいていたら、ヴィンデミアトリックス姉様が席を立たれたではありませんか。

 「姉様たち。それに皆も聞いてくださるかしら。わたくしは創造主様から戴いたこの名前に誇りを持っていますわ」

 ええ。ええ、わたしもですわ姉様。

 「ですが、わたくしの名前を言うだけで、要件が1つ言えてしまう程時間が取られるとこも多々ありますの」

 そ、それは、否めませんが、それとこれとは話が違います。

 「それで、公の場やわたくしたち8人以外の者が居る時は今まで通りヴィンデミアトリックスの名で呼んでいただきたく思いますが、8名だけの時に限りデミアで試してみたく思いますの。飽く迄、試みですわ」

 ヴィンデミアトリックス姉様!? 本気ですか!?

 「8名だけの時に使ってみて、創造主様より苦言が呈されれば即座に止めるつもりですが、仮にもハクトはスピカの伴侶と成る者です。いずれ神族に名を連ねるのですから、ハクトに限って認めても良いと思うのですが、姉様たち、皆もどうかしら?」

 「あら~。それは助かるわ。デミアちゃん。ハクトちゃんも助かると思うの」

 「別に、デミアが良いと言ってるわけではありませんからね?」

 「デミア姉上。うむ、承知した」

 姉様たち……。宜しいのですか?

 「良いと思いますよ? 下級神の中には昔から愛称で呼び合っている者も少なからず居ましたしね」

 ヘゼ姉様、それでは示しが付かないのではありませんか?

 「ん……デミア姉様。覚えた」

 「デミア姉様なのだ!」

 「デミア姉様なの!」

 はあ。分かりました。皆が良いならわたしもそう致します。

 そううなずいた時、丁度ハクトが蜥蜴族の混血の娘と主従契約を始めたではありませんか。

 蜥蜴族の混血の娘がハクトを非難するような目で見上げていますが、そんなことは気に掛けずに指を口に含ませた時でした――。

 ヴィンデ……いえデミア姉様が水盤に右手を差し入れ、宣言されたのです。



 『ハクトに限り、デミアと呼ぶことを許します。よくわたくしに辿たどり着きましたね。その2人は、ヴィンデミアトリックスの名にいてハクトの従者になることを認めます。以後は農耕の神殿にきなさい。幾久しく、ハクトとスピカの事を頼みましたよ』



 その声に、ハクトが天に顔を向けて驚いてるのが見えました。

 そうでしょう。場所が神殿なら間違いなく神託オリーカルとして平伏される状況ですからね。

 というか、デミア姉様! 軽々に神託をするとあの宿が聖域になってしまいます!

 「あら、それは困りますわね。漏れた力は回収しておきましょう」

 いうと、水盤に差し込んだままの右手でぐるっと大きく円を描くように動かし、水盤から手を抜かれました。直ぐに手を拭くための布を手渡します。

 ハクトの居た世界のタオルは良い物ですね。あっという間に水気を吸ってくれます。

 どうやら宿が聖域にならずに済んだようですが、ハクトたちが宿を後にして移動する様子が見えました。あの馬車に描かれた聖印は農耕神殿のようですね。

 はからずも、農耕神殿へ出向いてくれうようです。

 宿の外に出たハクトが、黙ったままぱふっぱふっと毛で覆われた手で柏手かしわでを打ち、一礼する姿が揺れの消えた歓談室サロンの水盤に映し出されていました――。





 
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