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第2章 辺境伯爵領
第104話 えっ!? そりゃ反則だろ!?
しおりを挟む「なっ!?」
瞬きするくらいの時間で危険度が一気に跳ね上がるのが判った。
首筋が、背後から当てられる殺気でチリチリする。
多分、首から背中にかけての毛が逆立ってるだろうさ。
重心を後ろに残してたことが幸いした。こんなもんが飛んでくるなんて誰が思うかよ。
そう思いながら、俺の目は大地に突き刺さる俺の背丈を超えそうな戦鎚と、その回りに出来たクレーターを凝視していた。冒険者の姉ちゃんと、その姉ちゃんを嬲ってたオークの姿は何処にもねえ。肉片だ。
どう当たりゃそんなになるのかは判らねえが、その原因が目の前で黒光りを放つウォーハンマーであることくれえ、鈍い俺にでも判る。そして、その持ち主が重々しい足取りで近づいていることも、だ。
疲労で重々しいんじゃねえ。そもそも、体がデケえんだ。
周りのオークと違い、肌が消炭色っていうのか? 灰色よりももっと黒っぽい肌をした大きなオークだ。2.5mはある骸骨騎士を超えてる気がする。
背丈も、身体の厚みもな。
足を踏み出すだけで、自重で足が減り込んで、足跡がクッキリ残る。
そりゃ、こんなデケえウォーハンマーを振り回せるはずだぜ。
「Թրթրուկ!」
莫迦デケえ黒オークが何かを叫んだのは判ったが、意味は解らねえ。解ったのは、意思の疎通が出来る知能体だってことだ。
けど、今ここに至ってはお互いに傷がデカ過ぎる。もう話し合い云々のタイミングじゃねえ。
ーー殺るか、殺られるか、だ。
「ハクト! そいつはオークジェネラルかも知れないよっ! もう逃げようっ!!」
離れたところから虎女の警告が聞こえる。
莫迦を言うな。
今逃げたら、間違いなく街まで付いて来るだろうが。というか、後ろからこのウォーハンマーを投げられたら一巻の終わりだ。誰も助からん。
ずんずんと距離が縮まるにつれて地響きが強くなるのを感じながら、俺はクロたちと向かい合う形になるように黒オークの右手側へ回りこむ。ウォーハンマーとも、クロたちとも距離を取るためだ。
オークジェネラルが俺の思ってる通りの意味なら、こいつは一軍の将だ。弱い訳がねえ。
気を引き締めろ。判断を誤れば即死だ。
ゾクリ
殺気を受けた時とは違う身震いが背中を駆け上る。
「お前らは下がってろっ!! こいつは俺が殺るっ!!」
聞こえたかどうかは判らんが、視線は黒オークから切らさずにガナっておいた。
ペロッと唇を湿らし、俺は前に倒れ込みそうなほど前傾姿勢になって、地面を蹴る。
こいつに跳技は悪手だ。
図体がデケえと鈍いと思うだろうが、思い込みは危険だぜ。なんせ俺はこいつの動きを見てねえ。確証がねえものを100%信じたら、待ってるのは“死”だ。跳び上がったところを掴まれたら、逃げ道なんてねえだろがよ。
ーーまずは、足を潰す。
そう思い、あと2mの距離まで来た時だった。
頭の上を黒い影が横切ったのさ。思わず目で追っちまう。で、驚えた。
「えっ!? そりゃ反則だろ!?」
黒オークの右手に、さっきまで地面に突き刺さってた戦鎚が握られてたんだからよ。
「Սպանել!」
陽の光を受けて、ゆらっと黒光りを放つウォーハンマーを持つ腕が霞むのが見えた。
回れまわれ回れまわれっ!
左フックを体に巻きつけるような勢いで振り抜きながら、腰を回す!
ドンッ!! 「痛ッ!?」「「「「「「「キャー―ッ!!?」」」」」」」『ハクトさんっ!?』
地面が弾け飛び、土砂に混じった砂利が飛礫のように後頭部や背中に当たる。痛いってもんじゃねえぞ!? 刺さってんじゃねえのか!?
「あっぶねえーーっ!」
回りながら躱したものの、その勢いでザーッと地面を滑る俺の姿を目で追う黒オークと目が合った。遠くで見てたら、頭を潰されたように見えたかも知れねえな。それくらい、ギリギリだった。
「チッ! Առնետի պես!」
舌打ちしやがった。
ウォーハンマーから一瞬手を離して、俺を踏み潰そうと2度、3度と踏み蹴りを放ってくるが、そのまま起き上がらずに転がって躱す。俺が起き上がった頃には、奴の手にウォーハンマーが戻っていた。
何だありゃ? 引き抜かねえでも勝手に戻って来る機能でも付いてんのかよ!?
『ハクトさん! あれは魔法武器です!』
「マジックウエポン……。けっ。ファンタジーの世界じゃ何でもありって事かよ」
頭上から降ってくる、スピカの声に思わず失笑する。異世界を嘗めてたぜ。出し惜しみしてちゃ、今の俺じゃ勝てねえな。
「行くぜ。【粉骨砕身】」
この魔法は諸刃の剣だが、熟練度が最大のレベル10になったことで、リミットが100分になった。よっぽどのことがなけりゃ、現状打破には申し分のないスキルなのさ。
「【骨釘】。【骨釘】」
左右から両膝へ、白い5寸釘を10本ずつ打ち出す。狙うは、防御の時に動かす利き腕だ。きっとウォーハンマーで弾くだろう。
俺の姿は白く霞んで見えにくいだろうに、キキキキンと高い金属に似た音を立てて、白い5寸釘が弾かれる。その瞬間を見計らって、ウォーハンマーの柄に手掛けて利き腕に掌を当ててやった。
「【骨切り】」「ガアッ!?」
本当は抜きたいとこだが、掌を当てる、下に引いて、抜くという工程が増える【骨盗り】はこの瞬間は悪手だ。柄の後ろ先にある石突で突かれて御陀仏さ。
ブオンッ!
俺の体を薙ぎ払おうと振り回されるウォーハンマーを避けながら、俺は懐に飛び込んだ。
「【骨釘】!」「チィッ!!」
薙いだ分だけ重心は引っ張られる。幾らマジックウエポンだろうが、その現象はどうしようもねえはずだ。そこへ、顔に白い5寸釘を打ち込んでやったぜ。
トトトッと顔を守るために挙げた左腕に釘が刺さるのを確認して、俺は躊躇わずに右腕を黒オークの左腕と顔の隙間に伸ばした。ブツンと何かが切れる音が指に伝わってくる。
「ガアアアアアア――――ッ!!! Ա、Աչքերッ!?」
それに合わせて、黒オークの顔が大きく仰け反らせて吠えた! このまま攻めたいとこだが、不測の事態を避けるために俺は奴の胸を蹴り、距離を取って様子見だ。
ーー擬宝珠抜き
俺の掌には、卓球の球大の眼球が1つ乗ってる。
ああ、そうさ。中指を目の中にぐにゅって突っ込んで、眼球を押出し引き抜く技だ。これで大分、動きやすくなったぜ。
「グッ! մերժումッ! մերժումーーーーッ!!!」
そう思い、死角へ回りこもうと小さく足を挙げた瞬間、黒オークが吠えた。ビリビリと空気が震えるほどの咆哮だ。周りのオーク共も怯えてるのが判る。それだけじゃねえ。吠えると同時に、周りを威圧してやがるのさ。
赤竜と殺り合った経験がなけりゃ、今の咆哮でちびってただろうが、んなことはねえ。
怒りで我を忘れて、骨折してる右手で戦鎚を闇雲に打ち込み始めやがった。鎚が打ち込まれたところは漏れ無く爆散して、沢山のクレーターが出来てる。ありゃ相当怒ってるな。
そのうち右腕が使えなくなるのを待つってのも有りだが、余裕ぶっこいて後悔したくねえ。
決めてやる。
骨が手元に無えなら、自前の骨を使えばいい。今なら蓄えがたんまりある。
「【骨槍】。オラッ!」
ウォーハンマーを振り下ろした横、飛び散る土砂の中を抜けて、左後方へ回りこみ、白い短槍を左脇腹に投げつけてやった。
「ガアアアアアア――――ッ!!!」
ドムッと鈍い音と一緒に白い短槍が黒オークの脇腹に深々と突き刺さる。
怒りで我を忘れてなけりゃ、防げた攻撃だろうがよ。
ここで手心を加えても、どっちがが死ぬしか事は収められねえ。俺が殺されたら、あいつらはさっきの冒険者の姉ちゃんと同じ運命になる。ヒルダは微妙だが……。
なら、選択肢はねえ!
「【骨爪】」「Թրթրուկ――ッ!!」
新しく指先から白い骨の爪を生え出させて、黒オークの膝裏を薙ぐ。背が高えからな。跳び上がれなくはねえんだが、出来ればこいつ自身の体重を利用したいだろ?
膝の裏を切り裂かれて、踏ん張りを利かなきなった黒オークが吠えながら後ろへ倒れてくる。その首へ跳び掛かり、背中を合わせた状態で顎の下に回した両手の指を組み、思い切り背負投をかます。
普段ならこの体格差でびくとも動かねえだろうが、相手の重心が崩れてるのと、【粉骨砕身】のブースト効果でパワーやスピードが段違いに上がってるから出来る技だ。
本来なら、何の捻りもなく顔を地面に叩きつけて、相手の体重で顔や首の骨を折る技なんだが、技の完成直前で閃いちまった。
「【骨盗り】」
ずるんっと指を組んだ両手に何かが引っ掛かって、顎から外れる。
相手の顔が着地寸前だってこともあり、俺も勢い余って背中から落ちてしまった。ってえ。
パチュッ
同時に形容しがたい、柔らかいものが潰れて爆ぜるような音が耳に届く。
ーー鬼灯
それが技の名前だ。
技が決まったあと、小さな血溜まりが出来る、あるいは顔が血塗れになることから付けられた名前らしいが……。
この改良版でもっとえげつねえものになったな。
変な体勢で転がったまま俺の視線の先を見ながら、「ふぅ~っ」と大きく息を吐く。その先で横たわる黒オークの首から上は、高いところから落としたトマトみてえになってたーー。
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