上 下
124 / 333
第2章 辺境伯爵領

第104話 えっ!? そりゃ反則だろ!?

しおりを挟む
 
 「なっ!?」

 まばたきするくらいの時間で危険度が一気に跳ね上がるのが判った。

 首筋が、背後から当てられる殺気でチリチリする。

 多分、首から背中にかけての毛が逆立ってるだろうさ。

 重心を後ろに残してたことが幸いした。こんなもん・・・・・が飛んでくるなんて誰が思うかよ。

 そう思いながら、俺の目は大地に突き刺さる俺の背丈を超えそうな戦鎚ウォーハンマーと、その回りに出来たクレーターを凝視していた。冒険者の姉ちゃんと、その姉ちゃんをなぶってたオークの姿は何処にもねえ。肉片だ。

 どう当たりゃそんなになるのかは判らねえが、その原因が目の前で黒光りを放つウォーハンマーであることくれえ、鈍い俺にでも判る。そして、その持ち主が重々しい足取りで近づいていることも、だ。

 疲労で重々しいんじゃねえ。そもそも、体がデケえんだ。

 周りのオークと違い、肌が消炭色けしずみいろっていうのか? 灰色よりももっと黒っぽい肌をした大きなオークだ。2.5mはある骸骨騎士ガイを超えてる気がする。

 背丈も、身体の厚みもな。

 足を踏み出すだけで、自重で足が減り込んで、足跡がクッキリ残る。

 そりゃ、こんなデケえウォーハンマーを振り回せるはずだぜ。

 「Թրթրուկ毛虫が!」

 莫迦バカデケえ黒オークが何かを叫んだのはわかったが、意味はわからねえ。解ったのは、意思の疎通が出来る知能体だってことだ。

 けど、今ここに至ってはお互いに傷がデカ過ぎる。もう話し合い云々うんぬんのタイミングじゃねえ。



 ーー殺るか、殺られるか、だ。



 「ハクト! そいつはオークジェネラルかも知れないよっ! もう逃げようっ!!」

 離れたところから虎女クロの警告が聞こえる。

 莫迦を言うな。

 今逃げたら、間違いなく街まで付いて来るだろうが。というか、後ろからこのウォーハンマーを投げられたら一巻いっかんの終わりだ。誰も助からん。

 ずんずんと距離が縮まるにつれて地響きが強くなるのを感じながら、俺はクロたちと向かい合う形になるように黒オークの右手側へ回りこむ。ウォーハンマーとも、クロたちとも距離を取るためだ。

 オークジェネラルが俺の思ってる通りの意味なら、こいつは一軍の将だ。弱い訳がねえ。

 気を引き締めろ。判断を誤れば即死だ。



 ゾクリ



 殺気を受けた時とは違う身震いが背中を駆け上る。

 「お前らは下がってろっ!! こいつは俺が殺るっ!!」

 聞こえたかどうかは判らんが、視線は黒オークから切らさずにガナっておいた。

 ペロッと唇を湿らし、俺は前に倒れ込みそうなほど前傾姿勢になって、地面を蹴る。

 こいつに跳技は悪手だ。

 図体がデケえとのろいと思うだろうが、思い込みは危険だぜ。なんせ俺はこいつの動きを見てねえ。確証がねえものを100%信じたら、待ってるのは“死”だ。跳び上がったところを掴まれたら、逃げ道なんてねえだろがよ。



 ーーまずは、足をつぶす。



 そう思い、あと2mの距離まで来た時だった。

 頭の上を黒い影が横切ったのさ。思わず目で追っちまう。で、おどれえた。



 「えっ!? そりゃ反則だろ!?」



 黒オークの右手に、さっきまで地面に突き刺さってた戦鎚ウォーハンマーが握られてたんだからよ。

 「Սպանել死ね!」

 陽の光を受けて、ゆらっと黒光りを放つウォーハンマーを持つ腕がかすむのが見えた。



 回れまわれ回れまわれっ!



 左フックを体に巻きつけるような勢いで振り抜きながら、腰を回す!

 ドンッ!! 「痛ッ!?」「「「「「「「キャー―ッ!!?」」」」」」」『ハクトさんっ!?』

 地面が弾け飛び、土砂どしゃに混じった砂利じゃり飛礫つぶてのように後頭部や背中に当たる。痛いってもんじゃねえぞ!? 刺さってんじゃねえのか!?

 「あっぶねえーーっ!」

 回りながら躱したものの、その勢いでザーッと地面を滑る俺の姿を目で追う黒オークと目が合った。遠くで見てたら、頭を潰されたように見えたかも知れねえな。それくらい、ギリギリだった。

 「チッ! Առնետի պեսちょこまかと!」

 舌打ちしやがった。

 ウォーハンマーから一瞬手を離して、俺を踏み潰そうと2度、3度と踏み蹴りを放ってくるが、そのまま起き上がらずに転がってかわす。俺が起き上がった頃には、奴の手にウォーハンマーが戻っていた。

 何だありゃ? 引き抜かねえでも勝手に戻って来る機能でも付いてんのかよ!?

 『ハクトさん! あれは魔法武器マジックウエポンです!』

 「マジックウエポン……。けっ。ファンタジーの世界じゃ何でもありって事かよ」

 頭上から降ってくる、スピカの声に思わず失笑する。異世界をめてたぜ。出し惜しみしてちゃ、今の俺じゃ勝てねえな。

 「行くぜ。【粉骨砕身】」

 この魔法スキル諸刃もろはの剣だが、熟練度が最大のレベル10になったことで、リミットが100分になった。よっぽどのことがなけりゃ、現状打破には申し分のないスキルなのさ。

 「【骨釘ほねくぎ】。【骨釘】」

 左右から両膝へ、白い5寸15㎝釘を10本ずつ打ち出す。狙うは、防御の時に動かす利き腕だ。きっとウォーハンマーで弾くだろう。

 俺の姿は白く霞んで見えにくいだろうに、キキキキンと高い金属に似た音を立てて、白い5寸釘が弾かれる。その瞬間を見計らって、ウォーハンマーの柄に手掛けて利き腕にてのひらを当ててやった。

 「【骨切ほねぎり】」「ガアッ!?」

 本当は抜きたいとこだが、掌を当てる、下に引いて、抜くという工程が増える【骨盗ほねとり】はこの瞬間は悪手だ。柄の後ろ先にある石突いしづきで突かれて御陀仏おだぶつさ。

 ブオンッ!

 俺の体をぎ払おうと振り回されるウォーハンマーを避けながら、俺は懐に飛び込んだ。

 「【骨釘】!」「チィッ!!」

 薙いだ分だけ重心は引っ張られる。幾らマジックウエポンだろうが、その現象はどうしようもねえはずだ。そこへ、顔に白い5寸釘を打ち込んでやったぜ。

 トトトッと顔を守るために挙げた左腕に釘が刺さるのを確認して、俺は躊躇ためらわずに右腕を黒オークの左腕と顔の隙間に伸ばした。ブツンと何かが切れる音が指に伝わってくる。

 「ガアアアアアア――――ッ!!! Ա、Աչքերめ、目がッ!?」

 それに合わせて、黒オークの顔が大きく仰け反らせて吠えた! このまま攻めたいとこだが、不測の事態を避けるために俺は奴の胸を蹴り、距離を取って様子見だ。



 ーー擬宝珠抜ぎぼうしぬ



 俺の掌には、卓球のピンポン球大の眼球が1つ乗ってる。

 ああ、そうさ。中指を目の中にぐにゅって突っ込んで、眼球を押出し引き抜く技だ。これで大分、動きやすくなったぜ。

 「グッ! մերժում許さんッ! մերժում許さんぞぉーーーーッ!!!」

 そう思い、死角へ回りこもうと小さく足を挙げた瞬間、黒オークが吠えた。ビリビリと空気が震えるほどの咆哮だ。周りのオーク共も怯えてるのが判る。それだけじゃねえ。吠えると同時に、周りを威圧してやがるのさ。

 赤竜と殺り合った経験がなけりゃ、今の咆哮でちびってただろうが、んなことはねえ。

 怒りで我を忘れて、骨折してる右手で戦鎚ウォーハンマーを闇雲に打ち込み始めやがった。鎚が打ち込まれたところは漏れ無く爆散して、沢山のクレーターが出来てる。ありゃ相当怒ってるな。

 そのうち右腕が使えなくなるのを待つってのも有りだが、余裕ぶっこいて後悔したくねえ。



 決めてやる。



 骨が手元に無えなら、自前の骨を使えばいい。今なら蓄えがたんまりある。

 「【骨槍ほねやり】。オラッ!」

 ウォーハンマーを振り下ろした横、飛び散る土砂の中を抜けて、左後方しかくへ回りこみ、白い短槍を左脇腹に投げつけてやった。

 「ガアアアアアア――――ッ!!!」

 ドムッと鈍い音と一緒に白い短槍が黒オークの脇腹に深々と突き刺さる。

 怒りで我を忘れてなけりゃ、防げた攻撃だろうがよ。

 ここで手心を加えても、どっちがが死ぬしか事は収められねえ。俺が殺されたら、あいつらはさっきの冒険者の姉ちゃんと同じ運命になる。ヒルダは微妙だが……。

 なら、選択肢はねえ!

 「【骨爪こっそう】」「Թրթրուկ毛虫が――ッ!!」

 新しく指先から白い骨の爪を生え出させて、黒オークの膝裏をぐ。背がたけえからな。跳び上がれなくはねえんだが、出来ればこいつ自身の体重を利用したいだろ?

 膝の裏を切り裂かれて、踏ん張りを利かなきなった黒オークが吠えながら後ろへ倒れてくる。その首へ跳び掛かり、背中を合わせた状態であごの下に回した両手の指を組み、思い切り背負投をかます。

 普段ならこの体格差でびくとも動かねえだろうが、相手の重心が崩れてるのと、【粉骨砕身】のブースト効果でパワーやスピードが段違いに上がってるから出来る技だ。

 本来なら、何のひねりもなく顔を地面に叩きつけて、相手の体重で顔や首の骨を折る技なんだが、技の完成直前で閃いちまった。

 「【骨盗ほねとり】」

 ずるんっと指を組んだ両手に何かが引っ掛かって、顎から外れる。

 相手の顔が着地寸前だってこともあり、俺も勢い余って背中から落ちてしまった。ってえ。



 パチュッ



 同時に形容しがたい、柔らかいものが潰れてぜるような音が耳に届く。



 ーー鬼灯ほおずき



 それが技の名前だ。

 技が決まったあと、小さな血溜ちだまりが出来る、あるいは顔が血塗ちまみれになることから付けられた名前らしいが……。

 この改良版でもっとえげつねえものになったな。

 変な体勢で転がったまま俺の視線の先を見ながら、「ふぅ~っ」と大きく息を吐く。その先で横たわる黒オークの首から上は、高いところから落としたトマトみてえになってたーー。





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...