上 下
117 / 333
第2章 辺境伯爵領

第97話 えっ!? しないのかい!?

しおりを挟む
 
 忠告はしたぜ?



 パキリと両手の指を動かしてそれぞれを鳴らし、前屈みになって俺は石畳を蹴ったーー。



 こんな暗がりで、油灯カンテラを1つ2つ持ってたとしても無駄だ。

 こっちは夜目が利く。お蔭で昼間に近い明るさだ。判ってのか?

 武器というか、手にした道具を構えて俺を迎え撃とうとするがーー。



 遅え。



 若造どもの間を駆け抜けながら、喉仏のどぼとけに手刀を叩き込む。

 腰が入ってねえ。んな振りで当たるかよ。

 「ぐえっ」「がはっ」「げえっ」「はかっ」「ごっ」「があっ」「ぐふっ」「ごほっ」



 ーー辛夷打こぶしうち。



 ガランガランと、手元からノコや斧、ハンマーが手から滑り落ちて騒がしく石畳の上で跳ね、若造どもも、痛みと苦しさで声を出せずに転げまわってる。

 そりゃそうさ。喉を潰す技だからな。

 ま、投げ技で最後、喉に膝を叩き込む辛夷割こぶしわりって技もあるが、それを使っちまうと首の骨まで折っちまうからな。十中八九殺せるんだわ。

 それだと意味がねえ。

 「「「ひ、ひぃぃっ」」」「だ、誰だ!?」「誰に頼まれた!?」「俺らがコワリスキー商会の」「莫迦ばかっ」

 残った7人は見るからに逃げ腰だが、逃げれねえ何かがあるんだろう。

 案の定、恐怖で身元を漏らしてくれた。慌てて仲間が注意するが、もう遅え。

 「はい、ありがとさん。人違いだったらわりいなと思ってたんだよ。それと、誰に頼まれたかって? そんな奴居ねえねな。強いて言えば、坊やたちのやり方に腹が立った俺のさ晴らしだな」

 ああ言うやつが1人は居てくれるんだから、助かるぜ。

 「俺らに手を出すことがどういうことか解ってるんだろうな?」

 暗がりで凄んでも、全然怖くねえな。油灯カンテラの光が届く外に立ってんだからよ。

 「ああ、心配せんでも近く挨拶に行くつもりだったから大丈夫さ。もっとも、お前さんたちが無事で居れるかどうかは別問題だって、解ってんだろうな?」

 虎の威を借る狐じゃねえが、こういうたぐいのチンピラは替えが利くと相場が決まってる。俺が殺っちまうと、それを口実に責められるのも面倒だからな。

 ま、向こうもこれくらいのことは想定してるだろうさ。

 「ぐ、おい、俺らで隙を作る。知らせに走れ」「わ、分かった」

 「はいそうですかと、行かせる訳がねえだろうが」

 「ひぃっ!? がはっ」「しまっ!? げへっ」

 ホイ、2人完了。あと5人か。

 悶絶して転げまわる2人を見て、残った奴らが道具や油灯カンテラを足元に置き始める。

 「坊やたちどうした?」

 「こ、降参だ」「み、見逃してくれ」「こ、殺さないでくれ」「頼む!」「ーー」

 「ふ~ん……俺は初めに言ったよな? 見なかったことにしてやるからこのまま帰れって」

 「「「「「ーーっ!」」」」」

 思い出したようにカクカクと首を上下に振る5人。このままだと殺されると思ってるんだろうな。まあ、こんだけしたらそう思うかも知れんが、下手な手心を加えて要らん噂を吹聴されても……な。

 「今の位置から3歩下がりな」

 「こ、これでいいか? があっ」「なんぐへっ」「がひゅっ」「ごっ」「げはっ」

 下がったのを見計らって、喉仏に手刀を叩き込む。

 「わりいな。お前らだけ何もしてねと、喉潰のどつぶされた奴らがうらめしがるだろう? 後は、教訓だ。人の忠告は素直に聞いとくもんだってな。あん時、素直に帰っときゃこんなことにならずに済んだんだぜ?」

 痛くて、聞こえちゃいねえか。

 その間に、物騒な道具は【無限収納】に放り込む。残ったのは3個の油灯カンテラだけだ。

 もうそろそろ起きれる頃だろう。

 初めに喉を潰した若造どものとこへ行って、襟をつかんで無理矢理立たせる。

 顔は見られねえように後ろに回ってるから大丈夫だろう。ヒュウヒュウ言ってるが、命あっての物種だ。殺されな方だけでも良かったと思うんだな。

 「おい、お前ら立てるな? 物騒な道具はこっちで没収したから、お前らはそこで転がってる奴らを連れて帰りな。言っとくが、次はねえぞ? カンテラは持って帰んな。夜道が暗いと要らん怪我するだろうからよ」

 呻きながら立ち上がり、カンテラを手に仲間を起き上がらせ肩を貸し始めるのを見ながら、周囲の気配を探すが特に何も感じん。スキルがあるわけでもないし、こんなもんだろう。

 カンテラを向けられても見えない位置に下がり、ぞろぞろと力なく帰っていく若造どもを見送る。この先どう転ぶかはあいつら次第だろうさ。

 出来れば、殺されんことを願うばかりだがそこまでは面倒見きれねえ。

 「さてと、んじゃ資材はここに出しとくか」

 屋敷の庭に当たるであろう敷地に、さっき【無限収納】に取り込んだ木材や煉瓦レンガを取り出して置く。廃材になりそうな折れた木材や瓦礫は別のとこに山積みにしておいた。

 【無限収納】の中で、勝手に整理整頓してくれるのはありがてえよな。

 そんなことを思いながら、クロの待つ屋根の上に戻ると両肩をガシッとつかまれた。

 「ねえ、ハクト、あんた何者なんだい!? それに何だい、あの動き! 何かの技なのかい!? あたしにも教えておくれよ!」

 こう、グワングワンシェイクされる訳で……。

 「やかましい」

 「あうっ!」

 首が鞭打ちになりそうな勢いで振るもんだから、眉間にチョップを入れてやった。

 「落ち着け。全部は教えれねえが、ヒルダとプルシャンの相手をしてもらってる間に動きくらいは良いぜ?」

 技を教えるつもりは更々ねえ。

 こっちの世界の方が、より凶悪で行かされる技術だからな。

 「本当かいっ!? 必ずだからね!」

 次の瞬間抱き着かれてた。うん、腕は筋肉質だが胸は柔らけえんだな。胸に挟まった頬の感触は上々だ。

 「分かった、分かったから離れろ」

 「もう、にぶちんだねえ」

 はあ? 何処の言葉だそりゃ? 意味解らんわ。

 けど、鈍いってことなら、違う。雌の匂いに反応しねわけがねえ。ペロペロと俺の頬を舐め毛繕けづくろいをしてくるクロの胸元を押しながら距離を取る。これ以上だと、息子マイサンが言うこと聞かなくなるからな。

 誰かが来る気配もねえし、居そうな気配もねえ。次に行くか。

 「おい、クロ。街の警備兵の詰め所の位置、分かるか?」

 「えっ!? しないのかい!?」

 「こんなとこでするか、け。というか、お前に手え出したら、芋づる式に面倒見なきゃならんだろうが」

 「何だい。しぶちんだねえ。女が4、5人増えたくらいでガタガタ言うんじゃないよ。はあ、まあいいさ。依頼は受けたんだ、色々・・・・面倒見てもらおうかね。ふふふ」

 「……ほら、阿呆あほなこと言ってねえで、案内しろ」

 双子の月の光に照らされて笑う虎女クロの横顔に、一瞬見惚みとれかけた俺は、慌てて目を逸らして顎で促す。

 やれやれ。獣人には反応しねえと思ってたが、どうやら俺は節操がねえらしい。

 「へいへい、今度の依頼主様は人使いが荒いねえ」

 そう笑うと、クロが屋根伝いに駆け出す。慣れてやがるな。

 「何言ってやがる。勝手に付いて来たのはお前だろうが」

 機嫌よく揺れる虎の尻尾を追うように俺もその後へ続き、次の屋根に向って大きく飛び跳ねたーー。





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

最弱クラスからの逆転冒険者ライフ! ~不遇スキルで魔王討伐?! パーティーは奇形・単眼・屍喰鬼(グール)娘のハーレム!?~

司条 圭
ファンタジー
普通の高校2年生、片上勇二は軽トラに轢かれそうになった子犬を助けた……つもりで、肥溜めに落ちて窒息死する。 天国に行くかと思いきや、女神様に出会い、けちょんけちょんにけなされながら異世界へ強制的に転生することに。 しかし、聖剣にも匹敵するであろう「強化」スキルのおまけつき! これなら俺も異世界で無双出来る! ヒャッホウしている勇二に、女神は、ダンジョンの最深部にいる魔王を倒せなければ、次の転生はミジンコだと釘を刺されてしまう。 異世界に着いたのは良いが、貰った「強化」スキルは、自分の能力を増幅させるもの! ……かと思いきや、他者が使ったスキルを強化させるためのスキルでしかなかった。 それでいて、この世界では誰でも使えるが、誰も使わない……というより、使おうともしない最弱スキル。 しかも、ステータスは並以下、クラスは最弱のノービス。 しかもしかも、冒険者ギルドに薦められた仲間は3本目の腕を持つ奇形娘。 それから立て続けに、単眼娘、屍喰鬼(グール)娘が仲間になり、色モノパーティーに…… だが俺は、心底痛感することになる。 仲間の彼女たちの強い心と卓越した能力。 そして何より、俺のスキル「強化」の持つ潜在能力を……!

処理中です...