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二週目 ~ゾクゾクする感じ~
しおりを挟む「……今週は、きつかったなぁ……」
改札へと続く階段を上がりながら、ホッと息をついた。今週は、毎晩コンビニ弁当だった。
――たった一人分作るの面倒くさいんだもん。
拓海は毎日カレーライスでも許せるタイプだが、私はカレーの翌日は大根おろし添えの焼きじゃけが食べたくなるタイプだ。
毎日同じメニューは食べたくない。さりとて、毎日違うオカズを一人分を作るのはコストパフォーマンスが良いとは言えない。お皿を洗うのも面倒だ。
というわけで、今週はコンビニにお世話になりっぱなしだったわけだが、それでも、十五品目雑穀弁当だのミックスサンドウィッチに野菜ジュースだのを選ぶ理性が残っていただけ上出来だと思う。
欲望のままに、毎日からあげちゃんとこしあんまんセットで済まそうとしなかっただけ褒めて欲しい。
――今日は中戸屋の唐揚げ定食にしようかな。
拓海も唐揚げは大好きだ。
よし、そうしようと決めて、SYAIKAをピッとかざして、改札を抜けて。
「――萌」
かけられた声に人ごみのなか立ちどまり――はせず、ひとまずロータリーまで歩きつづけた。
「え――ちょっ、めぐみ! まってよ!」
人ごみを縫って近付いてくる気配に、わざと足を速めたりしながら。
「もー、なんで意地悪するかな」
「だって、あんなところで立ちどまったらガンガンぶつかられちゃうじゃない」
クスクスと笑いながら鍵を差しこみ、がちゃりと回して、ドアを開ける。
ふくれっつらの拓海をよそに郵便受けをチェックして、ガス代の明細に「いつもより安い」と首をかしげながら、パンプスを脱ぐ。
こんなに踵が高くて大丈夫かと不安だったが、美咲がオススメするメーカーだけあって、今までの五センチパンプスと体感的には大して変わらない。
低反発インソールと踵の位置が少しだけ土踏まず寄りになっているのがポイントらしいが、人体の不思議だ。
――裸足に比べればどっちもキツイのは変わんないけどね。
ぺたりと廊下に足を下ろして、ホッとする。
まぁ、どうせ同じくらい辛いなら、見栄えが良い方がずっといい。
「……何?」
パンプスをそろえようと振りむいて、拓海と目があう。
「え……あ、うん。パンプス脱ぐといつもの萌だなって」
「そう?」
「うん。小さくて可愛い」
女子の平均身長ピッタリの私より、拓海は二十センチ近く背が高い。
「私は今の靴、好きだけど。拓海と視線が近くなるし、キスしやすいでしょう?」
彼とキスをするとき、私はいつも目いっぱい背伸びをしていた。つまさき立つ足をぐらつかせ、彼にすがりつくように。
今の靴ならば支えられなくても、私は彼と向きあえる。
「それは……まぁ、そうかもだけど……キスしてもいいの?」
「ダメ」
「……だよね」
はぁ、と溜め息をついた拓海からコートを受けとって、仲良く廊下を進み、部屋に入った。
「……じゃあ、脱ぐから」
拓海のものに次いで自分のコートをハンガーにかけていると、背後から声がかかった。
え、と振りむくと拓海は上着のボタンを外しおえるところだった。
私の視線に気がついて、顔を上げた拓海が動きを止める。
「……違うから」
「え?」
「ガッついてるわけじゃなくて、前もその前もそういう流れだったし、そうかなって思っただけだから」
「うん」
「そういうことだから」
「そっか。わかった。どうぞ、続けて」
「……うん」
俯いて前をはだけ、上着を脱ぎさる拓海の耳が赤い。
――可愛い。
そう感じた自分に少し驚いた。
今までも拓海に対して「可愛い」と感じることはあったが、それは何というか子供っぽいところや無邪気なところに対してのもので、いわゆる母性本能的な「可愛い」だった。
今の「可愛い」は違う。
――なんというか、ゾクゾクする感じ。
拓海が見せる戸惑いや、恥じらいや、悔しそうな表情に身体の奥底が甘く疼く。
浮気なんてしやがった男にお仕置きをしてやりたいと思った。セックスなんてできないようにして、苦しめてやりたいと当てつけのような気持ちを抱いた。
そうして始めた射精管理だ。それなのに、この疼きは、そういう感情とは違う気がする。スカッとするとか、ざまぁみろとか、そういう感情とも違う。
――楽しい。
私の悦びのためではなかったはずなのに。
彼に普通に抱かれていた時とは味わいの違う、もっと濃い悦びの予感で胸がざわめく。
「……今日は、全部ここで脱いでね」
先週同様、ボクサーパンツ一枚になった拓海に微笑む。
「……わかった」
頷き、拓海は私の命令に従った。
最後の一枚をスラックスの上に置いて、拓海が背を伸ばす。
ほどよく引きしまった男の身体。股間にぶら下がったステンレスの金具が、室内灯の光を反射して、やけにキラキラとして見えた。
ジッと見つめていると、小さく呻きを上げて、拓海が前かがみになる。
「……ああ、ごめんね。勃っちゃった? 早く、取って抜いちゃおうか」
ゆるみそうになる頬に力を入れて、何でもないことのように言いながら浴室へと向かう。
あ、とか、まって、とか上ずった声と足音が私を追ってくるのに、知らず足取りが弾んでいた。
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