代理婚!

オレンジペコ

文字の大きさ
上 下
34 / 45
夫婦はやっと同居中!

33.戸惑い

しおりを挟む
マドラスに助けられ屋敷まで送ってもらったところでシーファスに遭遇した。
どうやら早めに依頼をこなし終わって帰って来たらしい。
数日離れていただけだったのに顔を見た途端なんだか胸がいっぱいになって、思わず飛びつきたくなってしまった。
それはやっぱりガイウス達の言葉が心のどこかに引っかかっていて不安だったからかもしれない。

でも今はマドラスもいるし、ちゃんとしっかり我慢。
流石に友達の前でデレデレイチャイチャする気はない。
後でいっぱい甘えればいいのだ。

そんなこんなでマドラスには無難に『また明日』と言えたと思う。

で、だ。何が問題かというと、現在進行形で正面玄関に連れて行かれようとしていることが問題だった。
何を思ったのか、裏口からいつも通り屋敷に戻ろうとする俺を引き留め、シーファスが俺の手を掴んで歩き出したんだ。

「シ、シーファス?!」
「…………」
「ダメだって!俺、表じゃなくて裏から行くから!」
「…………」
「シーファス!頼むからっ!」

流石にこれはマズいと思って何とか思いとどまらせようとするのに、シーファスは全く話を聞き入れてはくれない。
しかもその表情はどこか怒っているように見えなくもない。

(さっき何か気に障ることでもしたっけ?!)

思い当たることなんて何もないのに、急に不安になった。
そしてとうとうシーファスは俺を連れたまま屋敷正面の玄関扉をくぐってしまう。

「お帰りなさいませ。シーファス様。そちらはお客人でしょうか?」

家令が出迎えてくれたけど、いつもの女装姿じゃないからか俺だとは気づいていない様子。
それ自体にホッと安堵し、このまま冒険者の友人が遊びに来た的に誤魔化せないかと考え始めたところで、シーファスがズバッとソレ・・を口にしてしまったから、動揺して蒼白になってしまった。

「客じゃない。俺の嫁だ」
「はい?」
「聞こえなかったか?ラインハルトは正式な俺の妻だ」

これには他の出迎えに出てきた使用人達も揃って戸惑うほかない。
俺は額に手を当て、この状況をどうしたものかとグルグル考えるものの、全くいい考えが浮かばない。
そんな状況でシーファスは淡々と言葉を続けていく。

「疑うようなら役所から送られてきている婚姻証明書を見せてもいい。俺の嫁はミシェイラじゃない。ここにいるラインハルトだ」

その言葉にどよめきがその場に響き、動揺していた家令がなんとか立ち直ってシーファスと俺へと交互に目をやった後、『一先ずこちらへ』と執務室へと案内してくれた。




執務室に入るや否やシーファスは執務机からとある封書を取り出し、それを手にソファへと腰を落ち着け、家令にも座るよう促した。
ちなみに俺はシーファスの隣で何故か逃げられないよう腰を引き寄せられている状況だ。
居心地が悪くて居た堪れない。
シーファスは一体なんで急にこんなことをしようと思ったんだろう?

(俺の思うようにしていいって言ってくれてたのに…っ)

そんな俺の心境なんてなんのその。シーファスは先程執務机から取り出した封書をそっと家令へと差し出し、見ろとばかりに目で促した。
家令はそれを受け、『拝見させていただきます』とそっと封書を開け、内容を確認しにかかる。

「これは……」

絶句し、今度は俺へと目を向けた。

「確かに確認いたしました。しかし…一体これはどういう…?」
「ラインハルトはミシェイラの弟だ」
「ミシェイラ様の」
「そうだ。彼女も俺と同じくこんな強引な結婚はお断りだったらしくてな」
「それで弟君を身代わりにと?」
「そうだ」

シーファスがはっきりと家令へと言い放つ。

「ではラインハルト様のお気持ちは…」
「それに関しては問題ない。俺とハルは相思相愛だからな」

そう言ってシーファスは俺との出会いを説明し、ここに来てからの俺の事や、すれ違いから最近やっと誤解が解けたのだということまで暴露してしまった。

「では屋敷でドレスをお召しだったのは…」
「ハルがハルの姉の意向でそうしていた。どうせすぐに離婚するだろうと思っていたらしいからな。でも俺はハルと今後も別れる気はないし、だからこれを機にちゃんと屋敷でのハルの待遇を整えたいと思っている」
「なるほど。そういうことでしたか」

家令は話を聞き、暫し黙考してやがてゆっくりと口を開いた。

「わかりました。では屋敷の者達には話を通しましょう。今後はミシェイラ様ではなくラインハルト様を奥様として周知させます。しかし…旦那様達にはお伝えしていいものかどうか…」
「そちらはわざわざ知らせなくても構わない。どうせ知ったらすぐに離縁だなんだと騒ぎ立てるに違いないからな」
「確かに。わかりました。ではそのようにいたします」
「それと、ハルが俺の妻だと周知させるために結婚指輪とプレートを用意したい。明日にでも商人をここに呼べるか?」
「結婚指輪はわかりますが、プレートとは?」
「そちらは冒険者の者達への周知用だ。それがないとギルドでは既婚者だと認識されないらしい」
「わかりました。そういうことでしたらすぐにでも手配させていただきます」
「助かる」

そんな感じでトントン拍子に話が進んで、俺は目を白黒させてしまった。
もっと反対されたり騒ぎになったりするのかと思ってたのに、こんなにスムーズに話が進んでいいんだろうか?
そんな風に戸惑う俺に家令が生真面目に謝ってくる。

「ラインハルト様。知らぬこととは言えご無理をさせてしまい申し訳ありませんでした」
「い、いえっ!俺の方こそ騙すようなことをして…っ」
「いいえ。そもそも最初からシーファス様が屋敷に居てくださっていれば初日で判明したことなのです。長らくご苦労をお掛けしたこと、謝罪させていただきます。大変申し訳ありませんでした」

立ち上がり、きっちり腰を90°曲げて深々と頭を下げてくる家令に、俺はそこまでしなくていいと慌てて立ち上がり、頭を上げてもらって『これからよろしくお願いします』と改めて口にした。



しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

恋人が出て行った

すずかけあおい
BL
同棲している恋人が書き置きを残して出て行った?話です。 ハッピーエンドです。 〔攻め〕素史(もとし)25歳 〔受け〕千温(ちはる)24歳

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

処理中です...