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夫婦はやっと同居中!
33.戸惑い
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マドラスに助けられ屋敷まで送ってもらったところでシーファスに遭遇した。
どうやら早めに依頼をこなし終わって帰って来たらしい。
数日離れていただけだったのに顔を見た途端なんだか胸がいっぱいになって、思わず飛びつきたくなってしまった。
それはやっぱりガイウス達の言葉が心のどこかに引っかかっていて不安だったからかもしれない。
でも今はマドラスもいるし、ちゃんとしっかり我慢。
流石に友達の前でデレデレイチャイチャする気はない。
後でいっぱい甘えればいいのだ。
そんなこんなでマドラスには無難に『また明日』と言えたと思う。
で、だ。何が問題かというと、現在進行形で正面玄関に連れて行かれようとしていることが問題だった。
何を思ったのか、裏口からいつも通り屋敷に戻ろうとする俺を引き留め、シーファスが俺の手を掴んで歩き出したんだ。
「シ、シーファス?!」
「…………」
「ダメだって!俺、表じゃなくて裏から行くから!」
「…………」
「シーファス!頼むからっ!」
流石にこれはマズいと思って何とか思いとどまらせようとするのに、シーファスは全く話を聞き入れてはくれない。
しかもその表情はどこか怒っているように見えなくもない。
(さっき何か気に障ることでもしたっけ?!)
思い当たることなんて何もないのに、急に不安になった。
そしてとうとうシーファスは俺を連れたまま屋敷正面の玄関扉をくぐってしまう。
「お帰りなさいませ。シーファス様。そちらはお客人でしょうか?」
家令が出迎えてくれたけど、いつもの女装姿じゃないからか俺だとは気づいていない様子。
それ自体にホッと安堵し、このまま冒険者の友人が遊びに来た的に誤魔化せないかと考え始めたところで、シーファスがズバッとソレを口にしてしまったから、動揺して蒼白になってしまった。
「客じゃない。俺の嫁だ」
「はい?」
「聞こえなかったか?ラインハルトは正式な俺の妻だ」
これには他の出迎えに出てきた使用人達も揃って戸惑うほかない。
俺は額に手を当て、この状況をどうしたものかとグルグル考えるものの、全くいい考えが浮かばない。
そんな状況でシーファスは淡々と言葉を続けていく。
「疑うようなら役所から送られてきている婚姻証明書を見せてもいい。俺の嫁はミシェイラじゃない。ここにいるラインハルトだ」
その言葉にどよめきがその場に響き、動揺していた家令がなんとか立ち直ってシーファスと俺へと交互に目をやった後、『一先ずこちらへ』と執務室へと案内してくれた。
執務室に入るや否やシーファスは執務机からとある封書を取り出し、それを手にソファへと腰を落ち着け、家令にも座るよう促した。
ちなみに俺はシーファスの隣で何故か逃げられないよう腰を引き寄せられている状況だ。
居心地が悪くて居た堪れない。
シーファスは一体なんで急にこんなことをしようと思ったんだろう?
(俺の思うようにしていいって言ってくれてたのに…っ)
そんな俺の心境なんてなんのその。シーファスは先程執務机から取り出した封書をそっと家令へと差し出し、見ろとばかりに目で促した。
家令はそれを受け、『拝見させていただきます』とそっと封書を開け、内容を確認しにかかる。
「これは……」
絶句し、今度は俺へと目を向けた。
「確かに確認いたしました。しかし…一体これはどういう…?」
「ラインハルトはミシェイラの弟だ」
「ミシェイラ様の」
「そうだ。彼女も俺と同じくこんな強引な結婚はお断りだったらしくてな」
「それで弟君を身代わりにと?」
「そうだ」
シーファスがはっきりと家令へと言い放つ。
「ではラインハルト様のお気持ちは…」
「それに関しては問題ない。俺とハルは相思相愛だからな」
そう言ってシーファスは俺との出会いを説明し、ここに来てからの俺の事や、すれ違いから最近やっと誤解が解けたのだということまで暴露してしまった。
「では屋敷でドレスをお召しだったのは…」
「ハルがハルの姉の意向でそうしていた。どうせすぐに離婚するだろうと思っていたらしいからな。でも俺はハルと今後も別れる気はないし、だからこれを機にちゃんと屋敷でのハルの待遇を整えたいと思っている」
「なるほど。そういうことでしたか」
家令は話を聞き、暫し黙考してやがてゆっくりと口を開いた。
「わかりました。では屋敷の者達には話を通しましょう。今後はミシェイラ様ではなくラインハルト様を奥様として周知させます。しかし…旦那様達にはお伝えしていいものかどうか…」
「そちらはわざわざ知らせなくても構わない。どうせ知ったらすぐに離縁だなんだと騒ぎ立てるに違いないからな」
「確かに。わかりました。ではそのようにいたします」
「それと、ハルが俺の妻だと周知させるために結婚指輪とプレートを用意したい。明日にでも商人をここに呼べるか?」
「結婚指輪はわかりますが、プレートとは?」
「そちらは冒険者の者達への周知用だ。それがないとギルドでは既婚者だと認識されないらしい」
「わかりました。そういうことでしたらすぐにでも手配させていただきます」
「助かる」
そんな感じでトントン拍子に話が進んで、俺は目を白黒させてしまった。
もっと反対されたり騒ぎになったりするのかと思ってたのに、こんなにスムーズに話が進んでいいんだろうか?
そんな風に戸惑う俺に家令が生真面目に謝ってくる。
「ラインハルト様。知らぬこととは言えご無理をさせてしまい申し訳ありませんでした」
「い、いえっ!俺の方こそ騙すようなことをして…っ」
「いいえ。そもそも最初からシーファス様が屋敷に居てくださっていれば初日で判明したことなのです。長らくご苦労をお掛けしたこと、謝罪させていただきます。大変申し訳ありませんでした」
立ち上がり、きっちり腰を90°曲げて深々と頭を下げてくる家令に、俺はそこまでしなくていいと慌てて立ち上がり、頭を上げてもらって『これからよろしくお願いします』と改めて口にした。
どうやら早めに依頼をこなし終わって帰って来たらしい。
数日離れていただけだったのに顔を見た途端なんだか胸がいっぱいになって、思わず飛びつきたくなってしまった。
それはやっぱりガイウス達の言葉が心のどこかに引っかかっていて不安だったからかもしれない。
でも今はマドラスもいるし、ちゃんとしっかり我慢。
流石に友達の前でデレデレイチャイチャする気はない。
後でいっぱい甘えればいいのだ。
そんなこんなでマドラスには無難に『また明日』と言えたと思う。
で、だ。何が問題かというと、現在進行形で正面玄関に連れて行かれようとしていることが問題だった。
何を思ったのか、裏口からいつも通り屋敷に戻ろうとする俺を引き留め、シーファスが俺の手を掴んで歩き出したんだ。
「シ、シーファス?!」
「…………」
「ダメだって!俺、表じゃなくて裏から行くから!」
「…………」
「シーファス!頼むからっ!」
流石にこれはマズいと思って何とか思いとどまらせようとするのに、シーファスは全く話を聞き入れてはくれない。
しかもその表情はどこか怒っているように見えなくもない。
(さっき何か気に障ることでもしたっけ?!)
思い当たることなんて何もないのに、急に不安になった。
そしてとうとうシーファスは俺を連れたまま屋敷正面の玄関扉をくぐってしまう。
「お帰りなさいませ。シーファス様。そちらはお客人でしょうか?」
家令が出迎えてくれたけど、いつもの女装姿じゃないからか俺だとは気づいていない様子。
それ自体にホッと安堵し、このまま冒険者の友人が遊びに来た的に誤魔化せないかと考え始めたところで、シーファスがズバッとソレを口にしてしまったから、動揺して蒼白になってしまった。
「客じゃない。俺の嫁だ」
「はい?」
「聞こえなかったか?ラインハルトは正式な俺の妻だ」
これには他の出迎えに出てきた使用人達も揃って戸惑うほかない。
俺は額に手を当て、この状況をどうしたものかとグルグル考えるものの、全くいい考えが浮かばない。
そんな状況でシーファスは淡々と言葉を続けていく。
「疑うようなら役所から送られてきている婚姻証明書を見せてもいい。俺の嫁はミシェイラじゃない。ここにいるラインハルトだ」
その言葉にどよめきがその場に響き、動揺していた家令がなんとか立ち直ってシーファスと俺へと交互に目をやった後、『一先ずこちらへ』と執務室へと案内してくれた。
執務室に入るや否やシーファスは執務机からとある封書を取り出し、それを手にソファへと腰を落ち着け、家令にも座るよう促した。
ちなみに俺はシーファスの隣で何故か逃げられないよう腰を引き寄せられている状況だ。
居心地が悪くて居た堪れない。
シーファスは一体なんで急にこんなことをしようと思ったんだろう?
(俺の思うようにしていいって言ってくれてたのに…っ)
そんな俺の心境なんてなんのその。シーファスは先程執務机から取り出した封書をそっと家令へと差し出し、見ろとばかりに目で促した。
家令はそれを受け、『拝見させていただきます』とそっと封書を開け、内容を確認しにかかる。
「これは……」
絶句し、今度は俺へと目を向けた。
「確かに確認いたしました。しかし…一体これはどういう…?」
「ラインハルトはミシェイラの弟だ」
「ミシェイラ様の」
「そうだ。彼女も俺と同じくこんな強引な結婚はお断りだったらしくてな」
「それで弟君を身代わりにと?」
「そうだ」
シーファスがはっきりと家令へと言い放つ。
「ではラインハルト様のお気持ちは…」
「それに関しては問題ない。俺とハルは相思相愛だからな」
そう言ってシーファスは俺との出会いを説明し、ここに来てからの俺の事や、すれ違いから最近やっと誤解が解けたのだということまで暴露してしまった。
「では屋敷でドレスをお召しだったのは…」
「ハルがハルの姉の意向でそうしていた。どうせすぐに離婚するだろうと思っていたらしいからな。でも俺はハルと今後も別れる気はないし、だからこれを機にちゃんと屋敷でのハルの待遇を整えたいと思っている」
「なるほど。そういうことでしたか」
家令は話を聞き、暫し黙考してやがてゆっくりと口を開いた。
「わかりました。では屋敷の者達には話を通しましょう。今後はミシェイラ様ではなくラインハルト様を奥様として周知させます。しかし…旦那様達にはお伝えしていいものかどうか…」
「そちらはわざわざ知らせなくても構わない。どうせ知ったらすぐに離縁だなんだと騒ぎ立てるに違いないからな」
「確かに。わかりました。ではそのようにいたします」
「それと、ハルが俺の妻だと周知させるために結婚指輪とプレートを用意したい。明日にでも商人をここに呼べるか?」
「結婚指輪はわかりますが、プレートとは?」
「そちらは冒険者の者達への周知用だ。それがないとギルドでは既婚者だと認識されないらしい」
「わかりました。そういうことでしたらすぐにでも手配させていただきます」
「助かる」
そんな感じでトントン拍子に話が進んで、俺は目を白黒させてしまった。
もっと反対されたり騒ぎになったりするのかと思ってたのに、こんなにスムーズに話が進んでいいんだろうか?
そんな風に戸惑う俺に家令が生真面目に謝ってくる。
「ラインハルト様。知らぬこととは言えご無理をさせてしまい申し訳ありませんでした」
「い、いえっ!俺の方こそ騙すようなことをして…っ」
「いいえ。そもそも最初からシーファス様が屋敷に居てくださっていれば初日で判明したことなのです。長らくご苦労をお掛けしたこと、謝罪させていただきます。大変申し訳ありませんでした」
立ち上がり、きっちり腰を90°曲げて深々と頭を下げてくる家令に、俺はそこまでしなくていいと慌てて立ち上がり、頭を上げてもらって『これからよろしくお願いします』と改めて口にした。
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