22 / 45
夫婦は只今別居中!
21.運命の時はやってきた④ Side.シーファス
しおりを挟む
妻がいるであろう部屋のドアをノックし、返事も待たずにドアを勢いよく開け放つ。
気が急いていたのは確かだ。
無作法だったことは謝ろう。
そう思い妻の姿を探すと、彼女は部屋のソファへと座り紅茶を飲んでいたようだった。
その顔がゆっくりと上げられ、そっとこちらへと向けられる。
けれどその顔を見た瞬間、俺はあまりの驚きに目を見開いてしまった。
(え……)
だってそこにいたのは俺の愛するラインハルトにしか見えなかったから。
もしかしてラインハルトが恋しすぎて幻影でも見てしまっているんだろうか?
(いやいや、落ち着け)
そんなこと、あるはずがない。
まずは一旦気持ちを落ち着けて、別人だと認識するところから始めよう。
そう思いながら彼女の前のソファへと腰を落ち着け、確認するように名を呼んだ。
「ミシェイラ=カーバンクル、で間違いはないな」
「既にこちらに籍を入れているので、ミシェイラ=リムモンド、になります」
返ってきた答えは予想通りの女性名。
なのに俺には目の前の彼女がやっぱりラインハルトに見えて仕方がなかった。
(どういうことだ?)
もしかして彼女はラインハルトの血縁者なんだろうか?
(そうか。兄妹って可能性はあるな)
きっとだから似てるんだろう。
何とか自分にそう言い聞かせ、改めて彼女へと視線を向ける。
「それで。本日はどういったご用件でしょう?」
「……っ」
けれどそのどこか憂いを含んだ表情も、紡がれる声も、俺の目にはラインハルトにしか見えなくて、動揺を隠すことができない。
だってそうだろう?
もし万が一本人だったとしたら、俺は────愛する人を失うことにならないだろうか?
だから自分から離婚を切り出すことに躊躇いが生じ、なかなか言い出すことができずにいた。
なのにどこか泣きそうな、複雑そうな顔で俺が躊躇した言葉を口にしてくるんだ。
「離縁の申し込み、で…よろしいでしょうか?」
頭の中がグルグルして思考が上手くまとまらない。
もしこれがラインハルト本人だったなら絶対に離婚なんてしたくはない。
でももし兄妹だったなら離婚しないとラインハルトとは結婚することができない。
(どうする?一体どうしたら……)
そして出した俺の結論は、『離婚届にサインさせて確認する』だった。
もしその名前がミシェイラならそのまま離婚。
ラインハルトだったらその場で離婚届を破り捨てる。
もうこれしかない!
そう決めて俺は意を決し『そうだ』と口にした。
「いただけますか?」
そしてその言葉に促されるように離婚届の入った封書を渡し、バクバクと弾む心臓を抱えながら記される名をジッと見つめていた。
心境はまさに判決を待つ犯罪者の気分だ。
そしてその手は迷いなく己の名をそこへと記した。
『ラインハルト=リムモンド』
(────!!)
離婚届に記された名を見た俺の心境が分かってもらえるだろうか?
やっぱりラインハルト本人だったという気持ちと、迷いなく離婚届に名を書かれた衝撃と、どうぞと泣きそうな顔で俺にそれを差し出してきた姿に頭の中がぐちゃぐちゃになる。
間違いではないのかと思わず何度もその離婚届の名へと目を走らせ、間違いではないと確認し、俺は思い切りその離婚届を破り捨てた。
(こんなもの、絶対に認められない!!)
そしてテーブルを乗り越え、逃げられないようすぐさま腕の中へと閉じ込めた。
(捨てられる、捨てられる、捨てられる……)
最早頭の中はそれ一色と言っていいくらい動揺していたかもしれない。
けれどそんな俺に気づくことなく、戸惑うようにハルが声を掛けてくる。
「え…と…?シーファス…様?」
その距離を置くような呼び掛けを聞いて益々焦りが出た。
(ダメだ!)
何とか話し合わないとと思い、バッと身を離すが、動揺し過ぎて上手く言葉が出てこない。
「どうして黙ってた?!」
だから思わず責めるような言葉が口から零れ落ち、窮地に追い込まれてしまう結果に。
「黙ってて悪かった」
ハルの悲しそうな顔。
「シーファス。今までありがとう。もう二度とお前の前には現れないから」
トンッと突き放される身体。
お別れだと言わんばかりに扉へと向けられる足。
その姿はもう俺に未練はないと言わんばかりで────。
気づけばハルの腕を掴んで自分の元へと引き戻し、その唇を塞いでいた。
「んっ…んんっ……?!」
「ハルッ!逃がさない!」
(こんな展開、認められるか!!)
ここで逃がせばきっとサイン済みの離婚届が後日送られてきておしまいにされてしまうだろう。
今日は仮初の妻と別れて愛するハルにプロポーズする記念すべき日だったはずなのに、どうしてこうなったんだ?!
今更ながらハルがあれほど帰れ帰れと俺を促していた理由がわかって泣きたくなった。
きっと俺なら気づいてくれると思ってたんだろう。
なのに俺はそんなハルの気持ちを踏みにじり、一度も帰らず今日という日を迎えてしまったんだ。
しかも本人を目の前にして別人の名を口にし、剰え離婚届まで差し出したのだから見捨てられても仕方がない。
これまで散々愛してると言い続け、築き上げてきた信頼関係がそれで全て砕け散ったと言っても過言ではない。
でも、だからと言ってそんなに簡単に諦めることなんてできはしなかった。
本当に、運命の相手だと思ったんだ。
心を繋ぎ止めるのに失敗したなら身体から離れられないように繋ぎ止めたい。
話し合いはその後でもできる。
逃げられないようにすることこそが何よりも先決だ。
そう思い、俺はそのままハルを抱き上げ問答無用でベッドへと連れ去った。
気が急いていたのは確かだ。
無作法だったことは謝ろう。
そう思い妻の姿を探すと、彼女は部屋のソファへと座り紅茶を飲んでいたようだった。
その顔がゆっくりと上げられ、そっとこちらへと向けられる。
けれどその顔を見た瞬間、俺はあまりの驚きに目を見開いてしまった。
(え……)
だってそこにいたのは俺の愛するラインハルトにしか見えなかったから。
もしかしてラインハルトが恋しすぎて幻影でも見てしまっているんだろうか?
(いやいや、落ち着け)
そんなこと、あるはずがない。
まずは一旦気持ちを落ち着けて、別人だと認識するところから始めよう。
そう思いながら彼女の前のソファへと腰を落ち着け、確認するように名を呼んだ。
「ミシェイラ=カーバンクル、で間違いはないな」
「既にこちらに籍を入れているので、ミシェイラ=リムモンド、になります」
返ってきた答えは予想通りの女性名。
なのに俺には目の前の彼女がやっぱりラインハルトに見えて仕方がなかった。
(どういうことだ?)
もしかして彼女はラインハルトの血縁者なんだろうか?
(そうか。兄妹って可能性はあるな)
きっとだから似てるんだろう。
何とか自分にそう言い聞かせ、改めて彼女へと視線を向ける。
「それで。本日はどういったご用件でしょう?」
「……っ」
けれどそのどこか憂いを含んだ表情も、紡がれる声も、俺の目にはラインハルトにしか見えなくて、動揺を隠すことができない。
だってそうだろう?
もし万が一本人だったとしたら、俺は────愛する人を失うことにならないだろうか?
だから自分から離婚を切り出すことに躊躇いが生じ、なかなか言い出すことができずにいた。
なのにどこか泣きそうな、複雑そうな顔で俺が躊躇した言葉を口にしてくるんだ。
「離縁の申し込み、で…よろしいでしょうか?」
頭の中がグルグルして思考が上手くまとまらない。
もしこれがラインハルト本人だったなら絶対に離婚なんてしたくはない。
でももし兄妹だったなら離婚しないとラインハルトとは結婚することができない。
(どうする?一体どうしたら……)
そして出した俺の結論は、『離婚届にサインさせて確認する』だった。
もしその名前がミシェイラならそのまま離婚。
ラインハルトだったらその場で離婚届を破り捨てる。
もうこれしかない!
そう決めて俺は意を決し『そうだ』と口にした。
「いただけますか?」
そしてその言葉に促されるように離婚届の入った封書を渡し、バクバクと弾む心臓を抱えながら記される名をジッと見つめていた。
心境はまさに判決を待つ犯罪者の気分だ。
そしてその手は迷いなく己の名をそこへと記した。
『ラインハルト=リムモンド』
(────!!)
離婚届に記された名を見た俺の心境が分かってもらえるだろうか?
やっぱりラインハルト本人だったという気持ちと、迷いなく離婚届に名を書かれた衝撃と、どうぞと泣きそうな顔で俺にそれを差し出してきた姿に頭の中がぐちゃぐちゃになる。
間違いではないのかと思わず何度もその離婚届の名へと目を走らせ、間違いではないと確認し、俺は思い切りその離婚届を破り捨てた。
(こんなもの、絶対に認められない!!)
そしてテーブルを乗り越え、逃げられないようすぐさま腕の中へと閉じ込めた。
(捨てられる、捨てられる、捨てられる……)
最早頭の中はそれ一色と言っていいくらい動揺していたかもしれない。
けれどそんな俺に気づくことなく、戸惑うようにハルが声を掛けてくる。
「え…と…?シーファス…様?」
その距離を置くような呼び掛けを聞いて益々焦りが出た。
(ダメだ!)
何とか話し合わないとと思い、バッと身を離すが、動揺し過ぎて上手く言葉が出てこない。
「どうして黙ってた?!」
だから思わず責めるような言葉が口から零れ落ち、窮地に追い込まれてしまう結果に。
「黙ってて悪かった」
ハルの悲しそうな顔。
「シーファス。今までありがとう。もう二度とお前の前には現れないから」
トンッと突き放される身体。
お別れだと言わんばかりに扉へと向けられる足。
その姿はもう俺に未練はないと言わんばかりで────。
気づけばハルの腕を掴んで自分の元へと引き戻し、その唇を塞いでいた。
「んっ…んんっ……?!」
「ハルッ!逃がさない!」
(こんな展開、認められるか!!)
ここで逃がせばきっとサイン済みの離婚届が後日送られてきておしまいにされてしまうだろう。
今日は仮初の妻と別れて愛するハルにプロポーズする記念すべき日だったはずなのに、どうしてこうなったんだ?!
今更ながらハルがあれほど帰れ帰れと俺を促していた理由がわかって泣きたくなった。
きっと俺なら気づいてくれると思ってたんだろう。
なのに俺はそんなハルの気持ちを踏みにじり、一度も帰らず今日という日を迎えてしまったんだ。
しかも本人を目の前にして別人の名を口にし、剰え離婚届まで差し出したのだから見捨てられても仕方がない。
これまで散々愛してると言い続け、築き上げてきた信頼関係がそれで全て砕け散ったと言っても過言ではない。
でも、だからと言ってそんなに簡単に諦めることなんてできはしなかった。
本当に、運命の相手だと思ったんだ。
心を繋ぎ止めるのに失敗したなら身体から離れられないように繋ぎ止めたい。
話し合いはその後でもできる。
逃げられないようにすることこそが何よりも先決だ。
そう思い、俺はそのままハルを抱き上げ問答無用でベッドへと連れ去った。
21
お気に入りに追加
1,570
あなたにおすすめの小説
悪役令息だったはずの僕が護送されたときの話
四季織
BL
婚約者の第二王子が男爵令息に尻を振っている姿を見て、前世で読んだBL漫画の世界だと思い出した。苛めなんてしてないのに、断罪されて南方領への護送されることになった僕は……。
※R18はタイトルに※がつきます。
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
僕の大好きな旦那様は後悔する
小町
BL
バッドエンドです!
攻めのことが大好きな受けと政略結婚だから、と割り切り受けの愛を迷惑と感じる攻めのもだもだと、最終的に受けが死ぬことによって段々と攻めが後悔してくるお話です!拙作ですがよろしくお願いします!!
暗い話にするはずが、コメディぽくなってしまいました、、、。
Tally marks
あこ
BL
五回目の浮気を目撃したら別れる。
カイトが巽に宣言をしたその五回目が、とうとうやってきた。
「関心が無くなりました。別れます。さよなら」
✔︎ 攻めは体格良くて男前(コワモテ気味)の自己中浮気野郎。
✔︎ 受けはのんびりした話し方の美人も裸足で逃げる(かもしれない)長身美人。
✔︎ 本編中は『大学生×高校生』です。
✔︎ 受けのお姉ちゃんは超イケメンで強い(物理)、そして姉と婚約している彼氏は爽やか好青年。
✔︎ 『彼者誰時に溺れる』とリンクしています(あちらを読んでいなくても全く問題はありません)
🔺ATTENTION🔺
このお話は『浮気野郎を後悔させまくってボコボコにする予定』で書き始めたにも関わらず『どうしてか元サヤ』になってしまった連載です。
そして浮気野郎は元サヤ後、受け溺愛ヘタレ野郎に進化します。
そこだけ本当、ご留意ください。
また、タグにはない設定もあります。ごめんなさい。(10個しかタグが作れない…せめてあと2個作らせて欲しい)
➡︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
➡︎ 『番外編:本編完結後』に区分されている小説については、完結後設定の番外編が小説の『更新順』に入っています。『時系列順』になっていません。
➡︎ ただし、『番外編:本編完結後』の中に入っている作品のうち、『カイトが巽に「愛してる」と言えるようになったころ』の作品に関してはタイトルの頭に『𝟞』がついています。
個人サイトでの連載開始は2016年7月です。
これを加筆修正しながら更新していきます。
ですので、作中に古いものが登場する事が多々あります。
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
涙の悪役令息〜君の涙の理由が知りたい〜
ミクリ21
BL
悪役令息のルミナス・アルベラ。
彼は酷い言葉と行動で、皆を困らせていた。
誰もが嫌う悪役令息………しかし、主人公タナトス・リエリルは思う。
君は、どうしていつも泣いているのと………。
ルミナスは、悪行をする時に笑顔なのに涙を流す。
表情は楽しそうなのに、流れ続ける涙。
タナトスは、ルミナスのことが気になって仕方なかった。
そして………タナトスはみてしまった。
自殺をしようとするルミナスの姿を………。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる