代理婚!

オレンジペコ

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夫婦は只今別居中!

18.運命の時はやってきた①

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ヤバい。ヤバすぎる。
とうとう結婚から三か月が経過してしまった。
それ即ちシーファスが離縁を言いに来る日が来たということだ。

「ふふふふふ。やっとクズ旦那の顔を拝めるんですね」

フリージアがそんなことを言い、

「ラインハルト様を散々弄んだクズ野郎が、どの面下げてやってくるのか見物みものですわ」

サフランもまたおっそろしい笑顔でそんなことを口にしていた。
二人ともこの三か月、日に日に怒りを募らせていたからそんな風に言う気持ちはもちろんわかる。
この様子だと、もしかしたら平手打ちの一発くらい炸裂させてしまうかもしれない。
まあシーファスはAランク冒険者だし、女性の平手打ちくらい蚊に刺された程度のダメージしか受けないだろうけど。

「それでいつ頃来られる予定なんですか?」
「多分朝一…かな」
「それならお支度を急がないといけませんね」

そう言ってサフランとフリージアは急いで俺を着飾り始めた。

実は昨日シーファスの家で一緒に夕食を食べていた際、やけに機嫌がいいから『何かいいことでもあったのか?』と聞いたんだ。
そしたら『やっと憂いが晴れるんだ』なんて言ってて、『憂い?』って首を傾げたら晴れやかな笑みを浮かべて『明日、やっと妻と別れられるんだ』って言い出した。

『ハルに何度も妻の話を持ち出されてきたけど、これでやっとハルの心も晴れるな』
『え…あ…うん?そう、だな?』

その時の俺の心境は晴れどころか曇りさえ通り越して嵐のようだった。
いよいよ捨てられると思うだけで辛いし、逃げ出したくてしょうがなかったんだ。
いっそ会わずに暫く実家に帰ろうかとさえ思ったくらい、心の中では嵐が吹き荒れていた。
でもそれはやっても意味はない。
離婚はシーファスの中で既に決定事項なんだから。

「はぁ…」

結局俺はシーファスとは結ばれない運命なのだろう。
わかってたはずなのに、心がズキズキ痛む。

(そろそろ…来るかな)

昨日シーファスは『もう離婚届にサインしたんだ』と言って俺に見せてきた。
シーファスからしたら俺と結婚したいから、ちゃんと離婚するっていう意思表示で見せてきたんだと思う。
でも俺からしたら『お前とはこれで終わりだ』って言われたようなものだ。
辛い。

(うぅ…泣きそうだ)

でも逃げちゃダメだ。
そう思ったから今日はギルドへは行かずに屋敷に留まり、侍女ズに話をしたんだ。
そして今、鏡の前には完璧に淑女にしか見えない姿の俺がいて、憂い顔で溜息を吐いている。

「ミシェ…いいえ、ラインハルト様」
「……何?」

憂い顔の俺に、サフランが真面目な顔で徐に言ってきた。

「言わせてもらいますが、シーファス様がこの姿の貴方に全く気付かなかった場合はこちらから捨ててやればいいと思うんです」
「……こっちから捨てる?」

(俺が…捨てられるんじゃなくて?)

言われていることが分からず首を傾げていると、サフランだけではなくフリージアもコクコクと頷いてその通りだと言い出した。

「好きな相手がどんな格好をしていようとちゃんと気づく。それが本当の愛ですよ?上っ面だけ見て全く気づきもしなかったなら、ただの性欲処理相手と変わりません」
「その通りです!浮気男の口先三寸に乗せられて遊ばれるなんて最悪以外の何物でもありませんからね。もしシーファス様が本当にそんな最低最悪男だったらこっちから捨ててやればいいんです!」

意気込みながら言ってくる二人はきっと少しでも俺の気持ちが軽くなるようにとそんなことを言ってくれたんだろう。

「サフラン…フリージア…」

ちょっと感動。
でも続く言葉は正直感動からは程遠かった。

「大体好きな相手が『奥さんに一回くらい会ってきたら?』って何度も勧めてるのに全スルーした男ですからね。期待なんて最初からしない方がいいですよ!私的にお勧めなのはラインハルト様のご友人、エドワルド様ですわ!」
「ああ、エドワルド様は紳士的ですものね。確かに浮気夫とは大違いです!ここから出たら即実家に帰って手紙を書きましょう!きっと慰めてくださいますし、あの方はラインハルト様に惚れてると私は確信しているので、もしかしたらそこから再婚、なんてこともあるかもしれないですよ!」

正直散々な謂れように凹むけど、二人ともきっと悪気はないんだと思う。
捨てられても友人に慰めてもらったらいいじゃないかって言ってくれてるんだろう。多分。

「じゃあそういうわけで、準備も終わったことですしサクサク荷造りのほう、始めさせていただきますね!」
「え?!」
「だってどう考えても望み薄でしょう?」
「そうですよ。どうせ大して顔も見ずにラインハルト様本人に『結婚したい相手がいるから離婚届にサインしてくれ』って言い放つと思いますよ?」
「私もそう思います!その上で『さっさと荷物を纏めて出て行ってくれ』とか言いそうですよね」

(やっぱり二人の中では『それで決まり』なくらいのクズ旦那ってことなんだな)

こっちから捨ててやれとは言ってくれたけど、別れること自体が既に二人の中では決定事項のようだった。
なのに別れたくないという気持ちがどうしても込み上げてきて、何とかならないかと思ってしまう自分がいる。
我ながら悪足掻きが過ぎる。
でもそんな俺の心境を察することなくサフラン達が荷造りを終えた頃、俄かに玄関付近が騒がしくなった。

「……来たようですね」

サフランが不敵な笑みを浮かべ窓から下を覗き込む。

「やっと……ご対面ですわ」

フリージアも同じく不敵な笑みで窓の外を見下ろした。
二人ともやる気満々だ。
でも────やっぱり諦めきれなくて、俺は二人に言ったんだ。

「サフラン。フリージア。悪いけど、部屋から下がっていてもらえないか?」
「……え?」
「元々…話し合うために呼び出す予定だっただろう?二人がいたら感情的になるかもしれないし、頑張って俺だけで話すよ」
「そんな!ラインハルト様?!」
「無理ですよ!これまでを振り返ってみてください!」

確かにこれまでを振り返ったら全戦全敗だけど、最後くらいシーファスの愛情に賭けてみたって罰は当たらないだろう?

「いいんだ。当たって砕けたら慰めてくれ」
「ラインハルト様……」

そして渋々ながらも下がってくれた二人を見送り、俺はソファへと腰かけ、気持ちを落ち着かせるべくそっと紅茶を飲んだのだった。


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