代理婚!

オレンジペコ

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夫婦は只今別居中!

3.出会い② Side.シーファス

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辛うじて剣を手にしてはいるものの、動揺して固まっているのか、対峙した魔獣を前に動けなくなっていた男を見つけた。
そんな男をジッと見つめ、魔獣が突進を掛けるのを見て咄嗟に助けに入る。

ザシュッと一閃。
それだけで終わりだ。
高々Eランクの魔獣如きにこの俺が遅れなど取るわけがない。

Aランク冒険者、シーファス。それが俺だ。
俺は事業に失敗して没落しかかった伯爵家の生まれで、冒険者を始めたのも実家の借金を何とかしようとしたのが切っ掛けだった。
登録できるようになった12才の頃から22才になる今まで十年間働き続けた。
まあ途中学園にも通わされたから、そこまでガッツリ稼げていたかと言われれば微妙だけど。

そんなこんなで両親は俺に感謝していたはずなのだが────。

「は?」

両親から告げられた話に対して、俺の口から零れ落ちたその声はどこまでも不快感を露わに部屋の中に冷たく響いた。
だって両親が俺に勧めたのは、まさかの子爵令嬢との結婚話だったんだから。

「なんでだよ?!」

結婚相手なんて自分で選ぶものだと思ってた俺は即座に拒絶の意思を示した。
なのに持参金でやっと借金を返し終えることができるんだと両親が明るい顔で言ってくる。

(ふざけるな!)

「それくらい俺がもう少し頑張ったら返済しきれるだろう?」
「そうは言うがお前ももう結婚適齢期だ。いつまでも冒険者なんていう危ない仕事を続けなくていいじゃないか。ここは素直に嫁を取って爵位も継いで、これからは貴族として平穏に生きて行けばいい」

尤もらしいことを父は言ってきたが、俺からしたらこれまでの俺の頑張りを全部踏みにじられたような気になって不愉快でしかない。

「誰が結婚なんかするか!」
「シーファス!お前のためを思って言ってるんだぞ?!」
「そうよ!もう婚約は正式に成立してるんだから、素直に受け入れなさい!」
「そんなもの、破棄してやる!」
「な、なななっ?!それだけは許さんぞ!慰謝料が発生するだろう?!」
「そうよ!何を言い出すの?!」
「そんなもの、俺が払ってやる!」

相手は商売に成功している子爵家の一人娘。
持参金もたんまりあるからそれで借金を返すんだと両親は言うが、それこそ相手にも失礼だろう。
正直慰謝料は痛いが、傷は浅い方がいいに決まっている。
金持ちの令嬢ならきっと婚約が解消されてもすぐに別の相手を見つけるだろう。

「シーファス!我儘も大概にしろ!」

(我儘はどっちだ?!)

「兎に角、俺は婚約は絶対に認めないから!」

そんな風に言い合いになって、結局その後も折り合いがつかず俺は部屋へと閉じ込められた。

部屋は三階。
頑張れば抜け出せなくはないが、見張りは当然いるし騒ぎになるのは明らかだ。
それでも夜闇に乗じたらいけるかもと思って深夜窓からこっそり脱出したものの、父の魔法であっさり見つかってしまった。
悔しい。

(ならハンガーストライキだ!)

そう思って食事を一切食べなかったら、一週間くらいしたところで母親から泣かれ、『先に謝っておくわ。ゴメンなさいね』その言葉と共に水魔法を口に突っ込まれて無理矢理水を飲まされ、ニッコリ怖い笑みを浮かべながら俺に匙を差し出し『ほら。お水の次は栄養を取らなくちゃ。母さんが食べさせてあげるわね』なんて言われた。
その前の水の件があったから、ここで断ったら絶対無理矢理食べさせてくるという確信があった。

(くそっ……!)

なんてふざけた両親だ!
そんなに俺をねじ伏せてくる実力があるなら、自分達も冒険者デビューして稼いでたら良かっただろ?!

(そうしたらきっともっと早く借金は返せたはずなのに…!)

そう考えるだけで腸が煮えくり返り、益々意固地になってくる。

絶対絶対俺は屈しない!
絶対婚約期間中に婚約は破棄してやる!

そう思っていたのに────。

「シーファス。お前を見てたら結婚は早い方がいいと判断した。だから、今すぐこの婚姻届けにサインをしてもらおうか」
「私達、あなたが心配なのよ?結婚式は落ち着いてからで構わないし、取り敢えずサクッと結婚しちゃいましょうね」

そして相手側が空欄の婚姻届けに無理矢理サインさせられてしまった。

「こんなもの、無効だ!!」
「『本人が書いた』という事実さえあればこの書類は成立するんだ。残念だったな」

満足そうに笑う両親。

「取り敢えず花嫁をこちらに送ってもらえるよう先方には伝えておく。しっかりやるんだぞ」
「失礼のないようにね」

そして俺と会ったこともない子爵令嬢との結婚は成立してしまったのだが…。

(誰が大人しく従うか!!)

新婚夫婦の邪魔になりたくはないからと言って、領地の邸を出て王都のタウンハウスへと居を移した両親。
花嫁がやってくるのは一週間後とのこと。
ならその間にやることは一つだ。

「家を借りよう」

(事情を知らない花嫁には悪いが、俺は逃げる!)

画してベッド脇に置手紙だけを用意し、俺は自腹で借りた家で一人暮らしを始めたのだった。



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