【本編完結】公爵令息は逃亡しました。

オレンジペコ

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32.※現状報告 Side.エディアス&ジオラルド

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俺はあまりにも早い帰還に叱責されるかなと思いながら憂鬱な気持ちで兄の部屋を訪ねたのだけど、どうやら出掛けているらしくしっかりと鍵がかけられていた。
困った。クリストファー王子と一緒に城の方に行ってしまったんだろうか?
そう思って宿を出て転移魔法陣のある方へと街を歩いていると、遠目に兄達の姿が見えてホッと安堵の息を吐いた。
どうやらまだこれから行くところだったらしい。
最悪明日に出直しますと言って報告書だけでも見てもらおうと急いでそちらへと駆けだした。

「兄上!」
「エディアス?どうした?忘れ物か?」

クリストファー王子と足を止め俺の方を見てくる兄に、ざっくりと城での現状を伝え、報告書を手渡す。

「一先ず把握したことだけでもこれだけあって、現在宰相が手を尽くしていますが各所で業務が滞っている状態です。正直アリストと俺でどれだけ解決できるか……」

俺がそう溢したところで兄はちょうど報告書に目を通し終えたらしく────激怒した。

「あのクソ王太子だけじゃなく王も使えなさすぎる!!ふざけるな!!」

(ちょっ?!魔力!魔力がヤバい!)

慌てて兄の周囲に結界を張って被害を抑えにかかる俺。
本当に困った兄だ。
兄の魔力は暴れ馬みたいに制御が難しいらしいんだけど、何故か自分は絶対傷つかないんだよな。
あと、味方判定している人も兄自身が無意識に結界で守ってたりする。
だから俺は大丈夫っぽいんだけど、街ゆく人を巻き込むわけにはいかないからやめてほしい。
迷惑も甚だしいから。

「兄上!ストップ!ストップ!」
「……すまない。内情を知ってあまりにも腹が立ってな」
「気持ちはわかります。それで、宰相には話を通したので一度城に戻ってきていただけないかと…」
「…………」

どうやら兄的には気乗りしないらしい。
まあ普通に考えたらどの面下げてと言った感じだろうし、国外追放を盾に突っぱねることはいくらでもできるだろう。
でも多分……。

「…………仕方がないな。城の中は地位とプライドだけはご立派な馬鹿が足を引っ張ってる所が多々あって、使える者が全くその能力を生かせていない。王太子周りだけならお前とアリスト殿下の二人でなんとかなっただろうが、王が倒れて宰相も倒れかけとなるともうお前達ではどうしようもないだろう。最低限手助けはしてやる」

思った通り兄は引き受けてくれた。
ちゃんと納得できる条件が揃ってさえいれば兄はちゃんと頷いてくれる。
それはわかっていたけれど、無事に引き受けてもらえて心底ほっとする自分がいた。

「クリス。一週間だけ行ってきてもいいか?」
「はぁ…仕方がないな。その代わり、帰ってきたら両親や息子に紹介させてくれ」
「わかった」

どうやら俺は『ご挨拶』を邪魔してしまったようだ。
本当に申し訳ない。

「あの兄上?別に明日以降でも…」
「馬鹿を言え。王太子の婚約者になってからだと他国に介入しにくくなるだろう?それくらい考えろ!そういうところがダメなんだ!」
「…すみません」

良かれと思って言ったのに叱られてしまった。
でも言ってる内容はある意味正しいし、黙らざるを得ない。

「全く。お前は能力はあるのにまだまだの部分が多すぎる。やはりもっと側に居て鍛えてやるべきか…?」

ブツブツ文句を言っているけど、これ以上は御免ですと言いたかった。
まあいい。取り敢えず帰ろう。

「それじゃあ兄上。よろしくお願いします」
「ああ」

そして俺は兄を連れて城へと転移した。


***


【Side.ジオラルド】

エディアス達が転移で城に帰ったらしい。
そんなに急いで帰るということは何か向こうの情報でも得ての事だったんだろう。
だから少し様子見をと思っていたのに、クリスが『お前を王太子妃として早く周知させたい。取り敢えず両親に会ってもらえないか?』なんて言うから、心が揺れた。

「先に息子に会ってくれるだけでもいいぞ?」

渋っている俺にクリスはそんな言葉も口にしてきて、俺の心を更に揺らしてくる。
それからあれこれ手を変え品を変え俺を連れ出そうとするクリスに根負けして、仕方なく重たい腰を上げた。
いや。実際襲われて頷かされたと言ってもいい。

「こ、こんな手に乗るかぁ!」

そうやって反抗する俺を楽しそうに翻弄して落としてくるクリス。

「頷いてもらえるまで沢山気持ちよくしてやるから。頷いてくれ」

甘い毒を孕んだ言葉を耳へと注ぎ込み、俺を懐柔しようとしてくるクリスと必死に抵抗する俺。
その結果、経験値の低い俺が負けるのは必然だった。

「ジオ…。そろそろ挿れてもいいか?」
「ん…んんぅ……」

触れるか触れないかの絶妙なタッチでたっぷり時間をかけて全身敏感にされていた俺は、うっとりするようなキスで酔わされた挙句そう尋ねられて、促されるまま頷いてしまう。

「抱き着いてていいからな」

ゆっくりゆっくり優しく挿れられていく熱杭に、敏感になった身体がピクピクと震えてしまう。本当に気持ちいい。
そして無理な体勢が嫌だと知っているクリスはそのまま俺の腰を掬い上げるように引き寄せて、俺を持ち上げながら対面座位という体位へと移行していく。

「は…っ、あぁっ…!」

最後に奥までズンッとはめ込むように中へと収めると、俺が落ち着くのを待ってから緩々と優しく揺さぶってきた。

「はっ…ふぁ…」

全身でクリスを感じ、頭が馬鹿になったようにふわふわする。
ただただ気持ちがいいとはこのことかと思った。

「ジオ。凄く可愛い顔になっているぞ」

嬉しそうなクリスの声。
でも思考が上手くまとまらない。

「ジオ。愛してる」

そう言いながらキスをして、それに酔わされているうちに腰の動きが変わっていった。

「ひぁっ!離…せっ!クリスッ…!はぁっ…!そこ、は、あっあっ…!」
「ああ。ジオが…好きなところだろう?知ってる」
「やっやっ…!も、出るっ!出るからっ…!」

そう言って止めようとしたのに更に腰を引き寄せて思い切り腰を押し付けるような形で突き上げられて、俺はたまらず嬌声を上げた。

「ひあぁああっ!」

思い切り射精し、自分の顔まで白濁が飛んでくる。
ついでに中でもイッてしまったのか目の前がチカチカしてしまった。
こんなに優しくも激しく感じさせてくるなんて想定外にも程がある。

「やっ…こんなの…っ」

酷いと言いながらグリグリとクリスに頭を押し付け首を左右に振るけど、クリスはそんな抗議にも動じることなくただただ愛おし気に俺を宥めにかかるばかり。

「ジオ。そんな風にしても俺を煽るだけだぞ?」

意味が分からない。
どこが煽っているというんだ?

そんな風に戸惑う俺を優しく見つめてチュッチュッと軽く髪に口づけ、そっと顎を持ち上げ味わうように唇を重ねてくるクリス。

「ジオ。早くお前と家族になりたい。だから頷いてくれ」
「まだ…早い」
「じゃあもう一回」
「そういう意味じゃないっ…!」

そんなやり取りを数回繰り返した後俺は結局ギブアップした。
満足げなクリスに悔しい気持ちになったけど、まあ平たく言えば遅かれ早かれすべきことではあるしと割り切ることにしたのだ。

そうして準備を整え城に向かうため転移魔法陣へと向かっていたところでエディアスに引き留められた。

何か忘れ物かと思ったがどうやら違ったらしく、現状報告書を渡されたためそれに目を通しつつエディアスの話を聞いたら飛んでもない状況になっていたことが分かり思わず激怒してしまった。

(あのクソ共が!!)

そのせいで魔力が暴走しそうになり慌てたエディアスが即結界を張って対処してくれる。
流石の早業だな。フォローが的確で素晴らしい。
これなら王族警護もばっちりだ!
これからアリスト殿下の安全確保に一役買えることだろう。

そして改めて落ち着いてからエディアスに城に戻ってくれないかと頼まれた。
本来なら断る話ではある。
俺は国外追放になったのだから当然だ。
でもエディアスはちゃんと先手を打って宰相に話も通しているようだし、問題はないと言ってくる。
根回しもちゃんとできるようになって兄としては嬉しいぞ!

ここは弟の成長をより促すべく戻ってもいいかもしれない。
それに内容が内容だけに俺にしかできないことも多々ありそうだ。
だから俺は一時的に戻ることに関しては承諾することにした。
とは言えクリスは折角俺を説得したのにと少し不満げだ。
でも可愛い弟を優先する俺の気持ちを汲んでくれ、特に反対することなく理解を示してくれた。
こういうところは凄く好きだなと思う。

これで何も問題はないと思ったのも束の間。何故かエディアスが変な気を遣ってきたからそのまま叱る羽目に。

「あの兄上?別に明日以降でも…」
「馬鹿を言え。王太子の婚約者になってからだと他国に介入しにくくなるだろう?それくらい考えろ!そういうところがダメなんだ!」
「…すみません」

全く本当に困った弟だな。
常にベストな選択をしろと言って聞かせてきたのに、どうしてここでそんな気を回すんだ?
俺を思ってのことだというのはわかるしその気持ちは嬉しいが、事ここに至っては悪手でしかないぞ?
これで俺がはいそうですかと手を離したら一体どうする気なんだ?
無謀にもほどがある。
自分が困るだけだろうに。

「全く。お前は能力はあるのにまだまだの部分が多すぎる。やはりもっと側に居て鍛えてやるべきか…?」

やっぱりクリスの手を取るのは気が早かったかもしれない。
まだまだエディアスを鍛えてやるためにもうちょっとだけ傍に居てやったほうがいいんじゃないかと不安になる。
でもチラッとそこでクリスに目をやったら『逃がさないぞ』というような視線を返された。
これは無理だ。
仕方がない。
一週間でできるだけエディアスを鍛えてから戻ってくるとしよう。

「それじゃあ兄上。よろしくお願いします」
「ああ」

こうして俺は、可愛い弟のために国を出る元となった場所へと再び舞い戻ったのだった。


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