【本編完結】公爵令息は逃亡しました。

オレンジペコ

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22.※失敗した Side.クリストファー

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俺には昔弟がいた。
素直で可愛い弟だった。
その弟が14才の頃、悪女に弄ばれて捨てられた。
年は俺より3つほど上の女で、当時20才かそこらだったはずだ。
大人の色気で弟を誑かし、ベッドに引きずり込んで関係を持った。
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俺はそれを聞いて涙が出た。
弟は子供の顔も見ずに逝ってしまったのだ。
これが泣かずにいられるだろうか?

当然流れから言って両親が引き取ると俺は思った。
実の孫だし、弟にそっくりなのだからと。
でもそうはならなかった。
両親は女への怒りの方が強かったのだ。
だから俺はその子を実子として引き取ることにした。

実の両親が揃っていなくなる子供に、お前の親は死んだと告げるのは流石に酷だろう。
俺が本当の父親だと言って育てようと思った。
弟のこともあって俺は女に嫌悪感を抱いていたし、当面結婚する気はなかったから何も問題はない。
将来的に結婚するのならこの子の存在を認めてくれるような相手を選びたい。
間違っても自分の子を優先してこの子を蔑ろにするような相手は選びたくないなと思った。

けれどそこで優しい性格の相手を探そうとしないところがきっと俺の悪いところなのだろうと思う。
俺は元々向こうから寄ってくる相手には興味が持てない性質たちで、多少捻くれているいわゆるツンデレ系の方が好みだった。
それで話の合う相手なら尚良い。
けれどそんな相手は案外いないものだ。
頭がよく才色兼備と言われる令嬢とも何人か話したことはあるが、まつりごとの話についてこれる相手は皆無だった。

『不勉強で申し訳ございません』

困惑したように返される言葉に何度ガックリしたことか。

そんな俺に隣国マーヴァインの第二王子、アリストが一人の男を紹介してくれた。
それがジオラルド=ジルフィールだった。
頭は良いくせに周囲から理解されない不器用な男。
口は悪くてちょっとひねくれているけど、弟思いの可愛い男だった。
マーヴァインの王太子の側近として仕事をしていただけあって政策にも詳しいし、一つ尋ねればポンポン答えが返ってくるのが小気味よかった。
正直言ってどうして国外追放なんかになったのか不思議でならない。
俺だったらまず間違いなく取り立てて、国のために使い倒してやるのに。
可愛い上に使える奴を捨てる奴の気が知れない。
だから口説いた。
雰囲気作りを徹底し、ジオラルド好みの話を振り、さりげなくエディアスを褒めて好感度を上げた。
一緒にいればいるほど好きになる。
だから異例のスピードでプロポーズしたのだ。

『ジオ、愛してる。優秀なお前を一生使い倒してやるから、これからはずっと俺の傍に居ろ』

膝の上に乗せ、キスをして熱く見つめながらジオラルド好みの言葉でそう言ったら、真っ赤になって照れたように『熱烈なプロポーズだな』と返された。
普通ならプロポーズに不向きな言葉も、ジオラルドにとってはこれ以上ないほど嬉しい言葉に変わると俺は知っている。
ジオラルドは自分の能力を生かせる場所を強く求めているから、こう言えば頷いてくれるとわかっていた。
逆にそれ以外の言葉なら頷いてはくれなかっただろう。
『お前と結婚したい』。そう言えば恐らく返ってきた答えは『まだ知り合ってちょっとしか経っていないだろう?寝言は寝て言って欲しい』だっただろうし、或いは脈アリでもちょっと照れながら『そういうのはまだ早いと思う』と返ってきたはずだ。
ジオラルドの性格をしっかり把握して言葉を選んだからこそ、俺のプロポーズは成功したと言えた。

『クリス。好きに俺を使ってくれ』

照れ臭そうにそう言ってくれる姿を見て、正直我慢ができなくて、深く口づけ撫でまわして『お前が欲しい』と言ってしまった。
ジオラルドも頷いてくれたから、部屋に連れ込んで愛し合った。

ジオラルドはこういったことが初めてだったらしく終始恥ずかしがっていて、それを組み敷くのがたまらなかった。

『こ、こんな恥ずかしい格好っ…や、嫌だっ…!』
『これくらい普通だ。慣れろ』
『嘘つ…きっ、ひぁあっ!』

慣らした後大きく開脚させたら文句を言われたけど、そんなところも初心で愛らしかった。
その後も必死に縋りつくように抱き着いてきて、『怖いから離れるな』とか『変な声が出るからいっぱい突かないでくれ』とか『奥が何か変!クリスッ、切ないっ!助けてっ!』とか煽ってるとしか思えないような言葉のオンパレードだった。
可愛いし、もっと虐めたくなる。
本人にそんなつもりはないのだろうが、天然でこれなんて最高すぎだろう。
気づけば三度もしてしまっていた。
身体の相性も最高だ。
絶対にもう放してやれない。

もうすぐにでも俺の嫁として周知させたい!
そう思い、浮かれて翌朝ベッドの上で息子に紹介したいと言ってしまったのは流石に性急だったと思う。
前振りも何もなくそんなことを口走ってしまったせいで、誤解を生んで枕を投げつけられ、ものの見事に逃げられてしまった。
多分子育て要員にしようとして性急にプロポーズをして身体の関係まで持ったと誤解されたと思う。
完全に誤解だ。

それにしても、まさかここにきて転移魔法を発動させてくるなんて思ってもみなかった。
それまで一度も聞いたことはなかったから、多分初めて発動させたんだと思う。
魔法発動と同時にジオラルドの怒りを表すかのように魔力が荒れ狂い、室内は酷い有様になった。
咄嗟に結界を張った俺は無事だったものの、城の者達が何事かと飛んできて大騒ぎになってしまったし、騒ぎを収めるのに一苦労だった。
こんなジオラルドの後始末をいつもしていたエディアスはきっと大変だったことだろう。
でも、これだけ怒るということは単に流されて俺を受け入れたわけじゃなく、俺のことを少なからず想ってくれていたということに他ならないし、それを思うと怒るに怒れなかった。
と言うより、嬉しくて頬が緩む。

「はぁ…。とは言えご機嫌取りが大変そうだな」

まずは誤解を解かないと。
そう思ってジオラルドが泊まっている宿まで行ったら、ボソボソと室内から話し声が聞こえてきて驚いた。
だってそうだろう?
ジオラルドはあの性格だし、この国に来てからまだ日が浅い。
だからまだ部屋に入れるほど親しい相手は自分以外に居ないはずなのに。
話している内容まではわからないが、どうも相手はジオラルドと親しい間柄のように感じられた。

(どこのどいつだ?!)

そう思った瞬間、嫉妬から思い切りドアを叩いていた。

すると話し声は止み、少ししてカチャリと鍵を開ける音が聞こえてドアノブが回される。

「エディアス!開けるな!」

焦ったような声と共に扉はあっさりと開かれてそこから顔を出したのは、一週間ほど前にアリストが連れて行ったはずのジオラルドの弟だった。

「エディアス…?」
「クリストファー王子。取り敢えず中へ」

何が何だかわからないが、相手がエディアスだったのは幸いだった。
これなら嫉妬のしようもないしな。

(それにエディアスなら上手く俺とジオラルドの仲を取り持ってくれる可能性が高い。ある意味居てくれてよかった)

そうして俺はホッとしながら中へと足を踏み入れたのだった。


****************

※補足。サザナード国はマーヴァイン国と違って同性婚(一夫一婦制)が認められています。
ただ王族は後継問題があるので、確実に子が産まれるよう制限なく重婚が認められています。

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