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16.兄への報告
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アリストとの話を終えたので昼食を摂ってから出発しようということになった。
兄への報告もその時でいいだろう。
そう思いながら兄の部屋をノックしたら、兄はまたソファーで寛ぎながら本を読んでいた。
相変わらずマイペースな人だ。
「なんだ。アリスト殿下。エディアスを追って来たのか?」
「ああ。そうだ。この後連れて帰るからそのつもりで」
「はぁ…。仕方がないな。エディアス。行ってもいいが、週に一度は転移魔法でこっちに顔を出すように。絶対だぞ」
「……え?」
「なんだ。何か文句でもあるのか?」
「……いえ。わかりました」
嫌ですと言いたかったけど、兄がこう言うからにはきっと何かやらかした時の後始末役として俺が欲しいんだろう。
もしくは情報収集の一環か。
(まあいいか)
これまで毎日毎日胃が痛い思いをしてきたのだ。
それが一週間に一日だけになるならずっと楽だし、構わないだろう。
そう思って承諾したのだけど、それを聞いたアリストはあからさまに不機嫌になった。
「ジオラルド。以前にも言ったが、エディアスを便利に使うのはやめてほしい。エディアスは便利な道具じゃない。一人の人間だ」
「おかしなことを言わないでもらいたい。そんなことくらいわかっている。俺はエディアスの実力をちゃんと把握しているし、可愛がっている。その上で使っているんだ。アリスト殿下に口を出されるいわれはない」
双方の間に火花が散ってるけど、取り敢えず俺はこう言いたい。
(兄上…俺を可愛がってくれたことなんて一度もありませんよね?)
嘘も大概にしてもらいたい。
そして結局そんな二人の睨み合いを終わらせてくれたのはクリストファー王子だった。
「アリスト。ジオラルドの説得は俺に任せておけ。ジオラルド。寂しいなら俺が側にいてやる。だからアリストにエディアスを譲ってやれ」
「……俺は別に寂しくてそう言ったわけじゃない。それにクリスとエディアスは立場が全然違うだろう?引き合いに出すのはおかしい」
正直言って、兄がいつの間にかクリストファー王子のことを愛称で呼んでいてびっくりした。
確かにクリストファー王子は毎日のように兄のところに来ていたし、しょっちゅう連れ出していたから仲が良いなとは思っていたのだけど、まさか兄が誰かの愛称を呼ぶ日がやってくるなんて思ってもみなかった。
しかもそんな兄に近づいて、クリストファー王子は甘々な空気を漂わせ始めたから更に驚いた。
相手は傲慢兄なのにもかかわらず、可愛い奴だなと言わんばかりの態度が凄い。
恋愛フィルターを通すとこんな兄でも可愛く見えるんだろうか?不思議だ。
(でもこれなら大丈夫かも…)
そう思ったのは俺だけではなかったようで、アリストもどこか満足そうに二人の様子を見ている。
「それなら別の理由か?言ってみろ」
「お前に言っても仕方がない」
「言ってみなければわからないだろう?それとも俺が信じられないか?」
「……そういうわけじゃない」
(おお!凄く頼もしい!)
これはもしかしてもしかしなくても完全に兄から解放されるんじゃないだろうか?
そう思ったところで兄はよくわからないことを言い出した。
「…………エディアスは魔法が得意でな。転移魔法も回復魔法も収納魔法も使えるし、壊れた物を直す修復魔法も使える。しかもそれだけじゃなく魔力操作が得意だから臨機応変な魔法が使えるんだ。しかも魔法だけじゃなく雑用の類だってほぼなんでもできるし、アリスト殿下の補佐も完璧だ。なんだかんだ文句を言いつつも仕事をこなすのが早い。それこそ十人雇うところを一人で賄えるくらい優秀な奴なんだ」
(え……)
これは褒めてるんだろうか?
正直言って『人件費が浮いて便利な奴なんだ』と言われたようで非常に複雑だ。
とても素直に喜べそうにない。
「これで察してくれ」
しかもこれで言いたい事を察しろ?無理だろう。
そう思ったのに、クリストファー王子はあっさりと返事を返した。
「…なるほど?つまりエディアスは優秀だからこそ心配、ということだな?」
「……っ!」
「ククッ…。本当に面白いな。素直に『可愛い弟が心配だから定期的に顔を見て安心したい』と言えばいいだけだろうに」
それを聞いて珍しく兄が動揺している気がする。
もしかして図星だったとか?
(え?まさかな。兄上に限ってそれはないと思うんだけど…)
とは言え口をはさんでも何も良い事はないから、ここは取り敢えず成り行きを見守ろう。
クリストファー王子には是非とも兄の説得を頑張ってもらいたい。
「ジオラルド。心配なのはわかるが、取り敢えずここは俺の顔を立てて無条件でアリストにエディアスを預けてやってくれないか?アリストなら大丈夫だ。ちゃんとお前と同じくらい気にかけてエディアスを守ってやれる」
「…………」
凄い。あの兄が珍しく考え込んでいる。
いつもだったら即却下で何かしら言ってくるのに。
「……わかった。その代わり、エディアスを一生大事にすることが条件だ」
兄は真剣な顔でそう言ってアリストを見たけど、俺はこう言いたい。
(アリストは兄上なんかより百倍俺を大事にしてくれると思うんだけどな)
大体一度でも大事にしてくれた試しはないだろうとツッコミを入れたい。
どうも兄の認識はズレているように感じて仕方がなかった。
まあ、これですんなり俺を送り出してくれるならそれでいいんだけど。
そんな俺の前でクリストファー王子が満足げな笑みを浮かべ、アリストへと向き直る。
「そうか。アリスト。どうだ?」
「もちろん言われなくても一生大事にするつもりだ。そこは信頼してもらいたい」
それに対して力強く頷くアリスト。
そんな風に一生大事にと言ってもらえて、ジワリと嬉しい気持ちが込み上げてくる。
たとえ友人としてでもそう言ってもらえるのは本当に嬉しくて、思わず頬が緩んでしまった。
そしてその言葉に兄もやっと折れる気になったのか、フゥと溜息を吐いて渋々条件なしで送り出すことを了承してくれる。
「わかった。そこまで言うなら週に一度戻ると言う縛りはなくそう。だがエディアス。忘れるな。万が一アリスト殿下に愛想が尽きたら俺のところに必ず戻ってこい。居場所はいつでも作ってやるし、いくらでもお前を有効に使ってやるからな」
「はあ。そうですか。わかりました」
(誰が戻るか!)
そう思いながらもまあ最後だしと割り切って俺は兄と一緒に昼食を食べ、面倒事は起こさないようにとこれでもかと釘を刺してからアリストと共に別れを告げた。
****************
※ジオラルドが言った言葉の要約『もし万が一アリスト殿下の側にいられなくなってもここにお前の居場所はあるから、気軽に戻ってこいよ、いつでも受け入れてやるからな』
クリストファー王子にしかその本意は伝わっていないという結果に。残念(^^;)
兄への報告もその時でいいだろう。
そう思いながら兄の部屋をノックしたら、兄はまたソファーで寛ぎながら本を読んでいた。
相変わらずマイペースな人だ。
「なんだ。アリスト殿下。エディアスを追って来たのか?」
「ああ。そうだ。この後連れて帰るからそのつもりで」
「はぁ…。仕方がないな。エディアス。行ってもいいが、週に一度は転移魔法でこっちに顔を出すように。絶対だぞ」
「……え?」
「なんだ。何か文句でもあるのか?」
「……いえ。わかりました」
嫌ですと言いたかったけど、兄がこう言うからにはきっと何かやらかした時の後始末役として俺が欲しいんだろう。
もしくは情報収集の一環か。
(まあいいか)
これまで毎日毎日胃が痛い思いをしてきたのだ。
それが一週間に一日だけになるならずっと楽だし、構わないだろう。
そう思って承諾したのだけど、それを聞いたアリストはあからさまに不機嫌になった。
「ジオラルド。以前にも言ったが、エディアスを便利に使うのはやめてほしい。エディアスは便利な道具じゃない。一人の人間だ」
「おかしなことを言わないでもらいたい。そんなことくらいわかっている。俺はエディアスの実力をちゃんと把握しているし、可愛がっている。その上で使っているんだ。アリスト殿下に口を出されるいわれはない」
双方の間に火花が散ってるけど、取り敢えず俺はこう言いたい。
(兄上…俺を可愛がってくれたことなんて一度もありませんよね?)
嘘も大概にしてもらいたい。
そして結局そんな二人の睨み合いを終わらせてくれたのはクリストファー王子だった。
「アリスト。ジオラルドの説得は俺に任せておけ。ジオラルド。寂しいなら俺が側にいてやる。だからアリストにエディアスを譲ってやれ」
「……俺は別に寂しくてそう言ったわけじゃない。それにクリスとエディアスは立場が全然違うだろう?引き合いに出すのはおかしい」
正直言って、兄がいつの間にかクリストファー王子のことを愛称で呼んでいてびっくりした。
確かにクリストファー王子は毎日のように兄のところに来ていたし、しょっちゅう連れ出していたから仲が良いなとは思っていたのだけど、まさか兄が誰かの愛称を呼ぶ日がやってくるなんて思ってもみなかった。
しかもそんな兄に近づいて、クリストファー王子は甘々な空気を漂わせ始めたから更に驚いた。
相手は傲慢兄なのにもかかわらず、可愛い奴だなと言わんばかりの態度が凄い。
恋愛フィルターを通すとこんな兄でも可愛く見えるんだろうか?不思議だ。
(でもこれなら大丈夫かも…)
そう思ったのは俺だけではなかったようで、アリストもどこか満足そうに二人の様子を見ている。
「それなら別の理由か?言ってみろ」
「お前に言っても仕方がない」
「言ってみなければわからないだろう?それとも俺が信じられないか?」
「……そういうわけじゃない」
(おお!凄く頼もしい!)
これはもしかしてもしかしなくても完全に兄から解放されるんじゃないだろうか?
そう思ったところで兄はよくわからないことを言い出した。
「…………エディアスは魔法が得意でな。転移魔法も回復魔法も収納魔法も使えるし、壊れた物を直す修復魔法も使える。しかもそれだけじゃなく魔力操作が得意だから臨機応変な魔法が使えるんだ。しかも魔法だけじゃなく雑用の類だってほぼなんでもできるし、アリスト殿下の補佐も完璧だ。なんだかんだ文句を言いつつも仕事をこなすのが早い。それこそ十人雇うところを一人で賄えるくらい優秀な奴なんだ」
(え……)
これは褒めてるんだろうか?
正直言って『人件費が浮いて便利な奴なんだ』と言われたようで非常に複雑だ。
とても素直に喜べそうにない。
「これで察してくれ」
しかもこれで言いたい事を察しろ?無理だろう。
そう思ったのに、クリストファー王子はあっさりと返事を返した。
「…なるほど?つまりエディアスは優秀だからこそ心配、ということだな?」
「……っ!」
「ククッ…。本当に面白いな。素直に『可愛い弟が心配だから定期的に顔を見て安心したい』と言えばいいだけだろうに」
それを聞いて珍しく兄が動揺している気がする。
もしかして図星だったとか?
(え?まさかな。兄上に限ってそれはないと思うんだけど…)
とは言え口をはさんでも何も良い事はないから、ここは取り敢えず成り行きを見守ろう。
クリストファー王子には是非とも兄の説得を頑張ってもらいたい。
「ジオラルド。心配なのはわかるが、取り敢えずここは俺の顔を立てて無条件でアリストにエディアスを預けてやってくれないか?アリストなら大丈夫だ。ちゃんとお前と同じくらい気にかけてエディアスを守ってやれる」
「…………」
凄い。あの兄が珍しく考え込んでいる。
いつもだったら即却下で何かしら言ってくるのに。
「……わかった。その代わり、エディアスを一生大事にすることが条件だ」
兄は真剣な顔でそう言ってアリストを見たけど、俺はこう言いたい。
(アリストは兄上なんかより百倍俺を大事にしてくれると思うんだけどな)
大体一度でも大事にしてくれた試しはないだろうとツッコミを入れたい。
どうも兄の認識はズレているように感じて仕方がなかった。
まあ、これですんなり俺を送り出してくれるならそれでいいんだけど。
そんな俺の前でクリストファー王子が満足げな笑みを浮かべ、アリストへと向き直る。
「そうか。アリスト。どうだ?」
「もちろん言われなくても一生大事にするつもりだ。そこは信頼してもらいたい」
それに対して力強く頷くアリスト。
そんな風に一生大事にと言ってもらえて、ジワリと嬉しい気持ちが込み上げてくる。
たとえ友人としてでもそう言ってもらえるのは本当に嬉しくて、思わず頬が緩んでしまった。
そしてその言葉に兄もやっと折れる気になったのか、フゥと溜息を吐いて渋々条件なしで送り出すことを了承してくれる。
「わかった。そこまで言うなら週に一度戻ると言う縛りはなくそう。だがエディアス。忘れるな。万が一アリスト殿下に愛想が尽きたら俺のところに必ず戻ってこい。居場所はいつでも作ってやるし、いくらでもお前を有効に使ってやるからな」
「はあ。そうですか。わかりました」
(誰が戻るか!)
そう思いながらもまあ最後だしと割り切って俺は兄と一緒に昼食を食べ、面倒事は起こさないようにとこれでもかと釘を刺してからアリストと共に別れを告げた。
****************
※ジオラルドが言った言葉の要約『もし万が一アリスト殿下の側にいられなくなってもここにお前の居場所はあるから、気軽に戻ってこいよ、いつでも受け入れてやるからな』
クリストファー王子にしかその本意は伝わっていないという結果に。残念(^^;)
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