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15.アリストとの再会
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その日は冒険者ギルドで請け負った軽めの修繕仕事を片付けて、昼を食べがてら兄が面倒を起こしていないか確認しておこうと宿屋へと戻ったのだけど、そこでまさかまさかのアリストの姿を目にして物凄く驚いてしまった。
「アリスト?」
「エディ!」
名を呼んだ途端、嬉しそうに笑顔で駆け寄ってきて抱きしめられたからどうやら本当に本人のようだ。
「やっと…捕まえた」
そんな言葉にどうしようもなく嬉しい気持ちが込み上げてきてしまう。
でもここは人通りの多い往来だ。
しかもアリストをここまで案内してきてくれたのか、クリストファー王子の姿もある。
ここは平静を装って気を引き締めないといけない。
取り敢えずドキドキするからアリストには離れてもらおうと思い、グイッと押しのけ俺から引き剝がす。
そして友人との感動の再会に浸るアリストの目を覚まさせるべく、往来で何をするんだと冷静に告げた。
「折角の再会だったのに、エディアスが冷たい」
拗ねたように言うアリストは可愛いけど、それはそれ、これはこれなんだ。
他国の王子の前なんだし、少しは取り繕って欲しい。
「この間会っただろう?ちゃんと事情説明だってしたし、何で来たんだ?」
俺はてっきりあのまま結婚相手に会うため城に帰るとばかり思っていたのに。
俺に会いに来てくれて嬉しくはあったけど、どうしても不思議で仕方がなかった。
「俺は…エディがあんな風に消えたから心配で迎えに来たんだ」
「心配?」
「ああ。生涯一緒に居てくれるって約束してくれただろう?逃げずにちゃんと俺の隣にいてほしい」
そう言いながら今度は包み込むように優しく抱きしめられて胸が高まってしまう。
アリストはなんて罪作りな男なんだろう?
(俺じゃなかったら勘違いするぞ?)
だってちゃんと分を弁えて、自分の立場をわかっているつもりの俺でも、こんなにドキドキしてしまうんだから。
とは言えどうやら転移魔法で慌ただしく去ってしまったせいで不安にさせてしまっていたらしいし、これは明らかに俺が悪いだろう。
ちゃんと謝って安心させてやらないと。
そう思うのに、久しぶりのアリストの抱擁は心地よくて離れがたかった。
「……わかった」
だから自分でもよくない行動だとは思うけど短くそう答えるだけ答えて、照れ隠しにフイッと横を向いてしまう。
(頼むからこれ以上ドキドキさせないでくれ)
「取り敢えずジオラルドをサザナードに無事に送り届けられたんだし、この後ジオラルドに挨拶だけしたらエディアスは俺と一緒に国に帰ろう」
そんな俺に呆れもせず優しい笑顔でそう言ってくれたアリストに、俺は暫し考え頷いた。
「わかった。ちょうど今後の身の振り方も考えないといけないなって思っていたところだし、折角アリストが迎えに来てくれたなら一回帰ろうかな」
自分的にはこのまま平民になる気満々だったけど、そう言えばアリストは前回会った時に公爵位と領地を陛下から貰うと言っていた。
それならアリストの領地に住まわせてもらうのもありかもしれない。
俺自身は国外追放になったわけじゃないから、平民として暮らすにしても隣国にこだわる必要はない。
ある意味自由だ。
アリストが治める領地に住んだら視察とかで遊びに来てもらえたりするかもしれないし、何か手伝えることもあるかもしれない。
少しでも傍に居られるのならそういった選択肢もアリだなと思った。
(ただな…)
直接アリストの領地に行くならまだしも、王都に戻るのなら注意が必要だった。
あの両親に万が一にでも見つかれば、無理矢理公爵家を継がされる可能性が高いからだ。
そうならないためにも穏便に除籍してもらえる手段を考えないといけなかった。
そんな俺の気持ちに気づいてくれたのか、アリストは俺の悩みはわかっているとばかりに言ってくれた。
「エディアス。もし実家の件が気がかりなら俺が助けてやれると思う。それも含めてゆっくり部屋で話さないか?」
正直驚きはしたものの、何か手があるのなら一応話だけでも聞こうと思い場所を移動する。
そして腰を落ち着けたところでアリストは穏やかに切り出した。
「父に話して王位継承権を放棄する代わりに公爵位を授かったという話はしただろう?」
「ああ」
「つまり俺は王子ではなくなるわけだ」
「うん」
「父の保護下から離れて公爵家の当主になったから、養子縁組もしやすくなった。これでエディアスを幸せにしてやれる」
「養子縁組?」
「そう。エディアス。ジルフィール公爵家を捨てて、俺の籍に入ってほしいんだ。そうしたらエディは煩わしい身内と縁も切れて俺とずっと一緒に暮らせるだろう?」
つまりアリストの籍に入る手続きをして、合法的にジルフィール家を出るということのようだ。
(凄い!)
やっぱりアリストは頭が良い。
俺が相談する前から色々考えてこんな風にベストな答えを見つけてくれたんだろう。
なんていい奴なんだろう?
本当にこれで惚れない方がおかしい。
「アリスト。俺のために色々考えてくれたんだな。ありがとう」
しかもそうお礼を言った俺にすぐさま書類を差し出してきてくれた。
本当に仕事が早くてありがたい限りだ。
もしかしてこれもあってわざわざ会いに来てくれたんだろうか?
本当に頭が下がる。
一応契約書の類だしきちんと全部に目を通すけど、そこには俺に有利な条件しか書かれていなかった。
言ってみれば家族として受け入れて、財産も何もかも共有しますよという内容だ。
まあ俺はアリストの財産に手を付ける気なんて全くないし、アリストの領に住むことになっても働く気満々だからあくまでも形だけってことになる。
(でもそうか…)
これにサインをしたら形式上だけでもアリストの家族になるんだと思うとなんだか凄くくすぐったく思えて、頬が緩みそうになった。
(ダメだダメだ!)
アリストはあくまでも友人である俺を助けようとしてこれを用意してくれたんだから、邪な考えを持つべきではない。
それでも嬉しい気持ちはどうしても隠し切れなくて、サインをした後俺は満面の笑みでアリストに『これからもよろしく』と伝えたのだった。
「アリスト?」
「エディ!」
名を呼んだ途端、嬉しそうに笑顔で駆け寄ってきて抱きしめられたからどうやら本当に本人のようだ。
「やっと…捕まえた」
そんな言葉にどうしようもなく嬉しい気持ちが込み上げてきてしまう。
でもここは人通りの多い往来だ。
しかもアリストをここまで案内してきてくれたのか、クリストファー王子の姿もある。
ここは平静を装って気を引き締めないといけない。
取り敢えずドキドキするからアリストには離れてもらおうと思い、グイッと押しのけ俺から引き剝がす。
そして友人との感動の再会に浸るアリストの目を覚まさせるべく、往来で何をするんだと冷静に告げた。
「折角の再会だったのに、エディアスが冷たい」
拗ねたように言うアリストは可愛いけど、それはそれ、これはこれなんだ。
他国の王子の前なんだし、少しは取り繕って欲しい。
「この間会っただろう?ちゃんと事情説明だってしたし、何で来たんだ?」
俺はてっきりあのまま結婚相手に会うため城に帰るとばかり思っていたのに。
俺に会いに来てくれて嬉しくはあったけど、どうしても不思議で仕方がなかった。
「俺は…エディがあんな風に消えたから心配で迎えに来たんだ」
「心配?」
「ああ。生涯一緒に居てくれるって約束してくれただろう?逃げずにちゃんと俺の隣にいてほしい」
そう言いながら今度は包み込むように優しく抱きしめられて胸が高まってしまう。
アリストはなんて罪作りな男なんだろう?
(俺じゃなかったら勘違いするぞ?)
だってちゃんと分を弁えて、自分の立場をわかっているつもりの俺でも、こんなにドキドキしてしまうんだから。
とは言えどうやら転移魔法で慌ただしく去ってしまったせいで不安にさせてしまっていたらしいし、これは明らかに俺が悪いだろう。
ちゃんと謝って安心させてやらないと。
そう思うのに、久しぶりのアリストの抱擁は心地よくて離れがたかった。
「……わかった」
だから自分でもよくない行動だとは思うけど短くそう答えるだけ答えて、照れ隠しにフイッと横を向いてしまう。
(頼むからこれ以上ドキドキさせないでくれ)
「取り敢えずジオラルドをサザナードに無事に送り届けられたんだし、この後ジオラルドに挨拶だけしたらエディアスは俺と一緒に国に帰ろう」
そんな俺に呆れもせず優しい笑顔でそう言ってくれたアリストに、俺は暫し考え頷いた。
「わかった。ちょうど今後の身の振り方も考えないといけないなって思っていたところだし、折角アリストが迎えに来てくれたなら一回帰ろうかな」
自分的にはこのまま平民になる気満々だったけど、そう言えばアリストは前回会った時に公爵位と領地を陛下から貰うと言っていた。
それならアリストの領地に住まわせてもらうのもありかもしれない。
俺自身は国外追放になったわけじゃないから、平民として暮らすにしても隣国にこだわる必要はない。
ある意味自由だ。
アリストが治める領地に住んだら視察とかで遊びに来てもらえたりするかもしれないし、何か手伝えることもあるかもしれない。
少しでも傍に居られるのならそういった選択肢もアリだなと思った。
(ただな…)
直接アリストの領地に行くならまだしも、王都に戻るのなら注意が必要だった。
あの両親に万が一にでも見つかれば、無理矢理公爵家を継がされる可能性が高いからだ。
そうならないためにも穏便に除籍してもらえる手段を考えないといけなかった。
そんな俺の気持ちに気づいてくれたのか、アリストは俺の悩みはわかっているとばかりに言ってくれた。
「エディアス。もし実家の件が気がかりなら俺が助けてやれると思う。それも含めてゆっくり部屋で話さないか?」
正直驚きはしたものの、何か手があるのなら一応話だけでも聞こうと思い場所を移動する。
そして腰を落ち着けたところでアリストは穏やかに切り出した。
「父に話して王位継承権を放棄する代わりに公爵位を授かったという話はしただろう?」
「ああ」
「つまり俺は王子ではなくなるわけだ」
「うん」
「父の保護下から離れて公爵家の当主になったから、養子縁組もしやすくなった。これでエディアスを幸せにしてやれる」
「養子縁組?」
「そう。エディアス。ジルフィール公爵家を捨てて、俺の籍に入ってほしいんだ。そうしたらエディは煩わしい身内と縁も切れて俺とずっと一緒に暮らせるだろう?」
つまりアリストの籍に入る手続きをして、合法的にジルフィール家を出るということのようだ。
(凄い!)
やっぱりアリストは頭が良い。
俺が相談する前から色々考えてこんな風にベストな答えを見つけてくれたんだろう。
なんていい奴なんだろう?
本当にこれで惚れない方がおかしい。
「アリスト。俺のために色々考えてくれたんだな。ありがとう」
しかもそうお礼を言った俺にすぐさま書類を差し出してきてくれた。
本当に仕事が早くてありがたい限りだ。
もしかしてこれもあってわざわざ会いに来てくれたんだろうか?
本当に頭が下がる。
一応契約書の類だしきちんと全部に目を通すけど、そこには俺に有利な条件しか書かれていなかった。
言ってみれば家族として受け入れて、財産も何もかも共有しますよという内容だ。
まあ俺はアリストの財産に手を付ける気なんて全くないし、アリストの領に住むことになっても働く気満々だからあくまでも形だけってことになる。
(でもそうか…)
これにサインをしたら形式上だけでもアリストの家族になるんだと思うとなんだか凄くくすぐったく思えて、頬が緩みそうになった。
(ダメだダメだ!)
アリストはあくまでも友人である俺を助けようとしてこれを用意してくれたんだから、邪な考えを持つべきではない。
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