【本編完結】公爵令息は逃亡しました。

オレンジペコ

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5.道中

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乗り合い馬車に乗り隣国への道を行く。
馬車の外には護衛として雇われている冒険者達もいて、なかなか物々しい雰囲気を漂わせていた。
でもこれは魔物や盗賊対策らしい。
この近辺はよくゴブリンなどが巣を作ったり、ウルフ系の魔物が発生したりするから用心に越したことはないとのこと。
盗賊の方はそういった魔物を冒険者ギルドの方で一掃した後にどこからともなくやってきて、無差別に馬車を襲ってくるのだとか。
逃げ足も速く、厄介極まりない連中だと護衛の冒険者達がぼやいていた。
一応この領地の兵達が見回りなどを定期的にしてくれているようだけど、それも万全ではない。
だからこんな乗り合い馬車にも護衛がつけられているのだと聞いた。
その分料金は高くなるが、命には変えられないし、そこは仕方のないことだと。

でもさ。こういうのって保険的意味合いが大きいだろう?
まさか本当に襲われるなんて思わないじゃないか。
どこかで『俺は大丈夫だろう』的な思考になっていた感は否めない。
多分こういうところが『世間知らずの公爵家のお坊ちゃん』なんだろう。
経験を積んでいると言っても所詮は貴族。
一般人に比べると危機感は薄いんだと物凄く身をもって思い知らされた。

ガタゴトと順調に走っていた馬車に突如として射かけられた矢の雨。
それを剣で弾き飛ばす護衛達。
馬の足は止まり、俄かに外が騒がしくなった。

響き渡る怒号。
打ち合う剣の音。
誰か魔法を使ったのか、それ以外の音まで聞こえてくる。
馬車の中にいる人達は蒼白になりながら身を寄せ合って震えていた。

そんな中、兄が加勢に行こうと言い出した。

「兄上?!」
「何事も経験だぞ、エディアス。ここに居ても火矢が飛んで来たら危険だろう?その前に敵を殲滅した方がいい」

やけに落ち着いている兄に肝が据わってるなと感心してしまうが、何かやらかしそうなのはこれまでの経験上よくわかったから、俺も渋々一緒について行くことに。

「ひい、ふう、みい。盗賊の数はザッと三十人くらいか。一人でやれば楽勝だが、他人がいると無理だな。エディアス。回復魔法は何回使える?」
「回復魔法を使う前提に他者を巻き込もうとしないでください!」
「当然ちゃんと加減はする。でも全部一気に吹き飛ばす予定だから、後始末はお前がしろ。これが一番死者が出ず効率がいい」
「せ、せめて火魔法だけはやめてください!」
「ならそれよりも効率的に敵だけを殲滅できる魔法を三分で考えろ」
「さ、三分?!」

また無茶振りが降ってきた。
でもここでパニックを起こしても無為に三分が過ぎて兄の火魔法で辺り一面火の海になりかねない。
だから俺は呼吸を整えすぐさま思考モードに入った。

(風魔法…は兄上の場合関係ない者も巻き込んで下手したら首までざっくり斬り飛ばすだろうから却下だ)

威力は抑えてくれるはずだけど、多分一番被害が大きくてヤバいと思う。

(水魔法なら一番安全だと思うけど、兄上の場合大洪水みたいに全部流しそうだから馬車まで巻き込んで再起不能になる可能性が高いな)

これもマズい。移動手段がなくなってしまう。
でも土魔法も兄の得意なアースニードルで関係のない者を串刺しにしてしまう可能性が高いから死亡率は風魔法とどっこいどっこいかもしれない。
迷惑も甚だしい。

「三分経ったぞ。結論は出たか?」
「……ちなみに兄上的結論は?」
「盗賊が一番密集しているあの辺りに威力を抑えつつ圧縮した爆裂魔法を投下。全部吹き飛ばして、怪我人をお前が治す。これが一番だ」
「却下です!小技が利く俺が全部やりますから大人しくしていてください!」

結局後始末を丸投げされるくらいなら自分でやった方がマシだという結論に至って、俺はまだ交戦中でない盗賊達を中心に土魔法で深い落とし穴を作って排除していくことにした。
きっとこれが一番安全だ。

『アースホール!』

「うわぁっ!」
「ひいっ?!」

その上で残った交戦中の盗賊達に水魔法を放った。

『アクアキューブ!』

「…?!ゴボゴボッ…」

次々と頭部を水球に包まれた盗賊達がもがきながら窒息して気を失っていく。
勿論殺す気はないから気を失った時点で魔法は解除。
これで一先ずは大丈夫なはず。


「ふぅ。これでどうでしょう?」
「上出来だ。頭の悪いお前にしてはよく考えたな」
「いつも兄上のフォローで動いているので、これくらいは」

本当に一言余計な人だなと思いつつ淡々と返す俺。
取り敢えず気絶した盗賊達は縛っておいたらいいのかな?
そう思いながら護衛の冒険者達と一緒に全員後ろ手に縛って一か所に集めておくことにする。

「手助け感謝します。ありがとうございました」
「いえ。怪我人が出なくてよかったです」
「あ…その……」
「え?もしかして誰か怪我をしたんですか?」

言い淀んだ冒険者に尋ねると、最初の襲撃で矢が射かけられた際に二人ほど怪我をしたらしい。
急いでそちらへと向かうと、どうやら矢じりに毒が塗られていたらしく顔色が非常に悪くなっていた。
だから急いで傷口を洗浄し、解毒魔法をかけた上で回復魔法を唱える。

『キュア。ヒール』

すると毒は消え傷口も塞がり、顔色もすぐに良くなった。
もう一人にも同じように処置をして、ホッと安堵の息を吐く。

「これで大丈夫だと思います」

そう言った俺に二人はとても感謝してくれて、お礼にと言ってお金までくれた。
一応最初は断ったのだけど、こういうのは礼儀の問題だから受け取って貰えない方が困るとのことで、しっかりと受け取ることに。

「いやぁ。助かったよ」

他の乗客達からも感謝され、その後馬車は軽く車輪等を点検をするだけで滞りなく出発することができた。

でもその日の夜。
野営地で各々休み、冒険者が火の番をしてくれていたにもかかわらず、俺はそこから攫われて、気づけば盗賊のアジトのような場所で拘束された状態で転がされていた。
精神的に疲れていたのが悪かったのかもしれない。
兄がトイレに立ってホッと安堵して気を抜いた瞬間、後ろから気絶させられてそのまま攫われたと思われる。

「よぉ兄ちゃん。昼間はよくも仲間達をやってくれたな?」

恐らく盗賊の頭なんだろう無精ひげを生やした中年の男が酒の入ったグラスを片手に俺を見遣って言ってくる。
襲撃時に見なかった顔だけど、どうやら落とし穴から仲間達を救出した後俺の特徴を聞き出して攫ってきたようだ。

「見たところどこぞの貴族の息子だろう。おとなしくどこから来たのか吐けば生きて返してやってもいいぞ?」

そうして周りの盗賊達と一緒にニヤニヤと笑い、身代金をたっぷり受け取らないとなと言い出した。
これは困る。
どうせ俺のためなんかに両親はお金なんて出さないだろうし、それを受けて酷い目に合わされて殺されるのは御免だった。
でもここで思いがけないことを言われて、俺は一気に血の気が引くのを感じることに。

「まあその場合、殺しはしなくてもたっぷり可愛がってから返してやるがなぁ」
「へへへ。お頭ぁ。俺にも分けてもらえますよね?」
「そうだな。貴族の澄ました野郎の顔がぐちゃぐちゃに歪むのを見るのはなかなかストレス発散になるしな。皆で可愛がってやろうぜ?」
「やった!じゃあ順番を決めないと」

そう言いながらあり得ないことに本当に盗賊達は順番決めのためにジャンケンをし始めた。

(え…嘘……だろ?)

これはまさかまさかの輪姦コースなのでは?!
そう考えたところで俺は一番安全な相手の魔力をすぐさまサーチし、そのまま一気にその場へと転移した。

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