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2.兄の国外追放処分
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今日は兄の卒業パーティーが学園で行われる日だ。
いつもの如く俺の部屋へとやってきて、近々城で行われるはずのパーティー用に仕立てていた俺の服を勝手にクローゼットから取り出し、『これは初めて見るな。借りるぞ』と奪っていこうとする兄。
「兄上?!困ります!」
「はぁ?」
「それは今度の城でのパーティー用に新しく仕立てたものなんですけど?!」
「別にいいだろう?大人しく貸せ」
「そんなことを言って返してくれた試しがないじゃありませんか!」
「勝手にクローゼットから引っ張り出して取り返せばいいだけの話だろう?俺のせいにするな」
「そういう問題じゃないんです!それにそれはアリストのリクエストも取り入れてわざわざ作ったんですよ?返してください!」
「チッ……仕方がないな。そこまで言うなら考え直してやろう。その代わり今すぐ俺の部屋に来てお前が適当にいい感じに服を組み合わせろ。五分でやれよ?時間がないんだからな」
「え?!」
「シャツ、タイ、チーフ、靴、時計、その他を上手く組み合わせて、これまで着たことがないようなコーディネートに仕上げろ。ほら、急げ」
兄の口からまた無理難題が飛び出した。
本当に最悪だ。
諦めてくれたからと言って油断したところでこういうことを言い出すのが兄だった。
ここで自分でやればいいでしょうと言うのは簡単だけど、その後で両親が怒鳴り込んでくるのは確実だった。
そして結果的に俺の新調した服が没収されるのだ。
両親はいつも家の体面がどうこうと言う。
それならそれで最初から兄に服を仕立ててくれればいいのに、そうはしてくれない。
俺のを渡せばいいという認識しか持ち合わせていないのだ。
『勘違いするな。お前とジオは同じような体型だし、こっちは元々お前用ではなくジオ用に作っているつもりなんだ。文句を言う方がおかしい。お前は素直に新しいものをジオに差し出せばいいんだ。わかったな?』と言われた時は本気で悔しくて仕方がなかった。
何度言っても全く聞く耳を持ってくれないし、糠に釘とはこのことだ。
まだ兄の方が話が通じると言えた。
兄よりも両親の方が問題だと思う。
さて、これまでの経験上ここでごねても仕方がない。
兄がこれまで着たパターンも覚えていることだし、さっさと終わらせよう。
これまでいつだって無理難題を言ってくる兄に対処してきたのは伊達じゃない。
俺は急いで兄の部屋へと移動し、素早く考えてササッと五分でコーディネートを考え提示した。
でも…。
「気に入らん。別のにしろ」
それさえ気に入らなければあっさり却下されてやり直しだ。
結局3回ほどやり直しをさせられてやっと兄納得のコーディネートになった。
「ふん。全く気の利かない弟だ。最初からこのコーディネートを提示して来い」
時間が無駄になったと言いつつ部屋を出て行く兄。
理不尽だ。
(いや。カフスとタイの組み合わせに文句をつけたのは兄上じゃないか。それくらい自分で好きに選べよ。『それは今日の気分じゃない。他のを選べ』とか言ってくるな。兄上の今日の気分なんか知るか!)
とは言え文句を言っても倍になって言葉が返ってくるのが分かっているからここで何かを言う気はない。
ここはグッと我慢だ。
そうして兄は無事に卒業パーティーに出掛けて行ったのだけど、ある意味その日は兄と俺にとっての転機の日となった。
今頃兄も卒業パーティーを楽しんでいるのかなと思いながら家で課題をこなしている俺。
既に二年前にやったところだから手はスイスイと動く。
これからの二年は俺にとってはこれまでやってきたことの復習になる。
きっとこれまでと比べてかなり楽な日々になるだろう。
それを思うとやっと肩の荷が下りたと笑顔になる。
アリストの仕事の補佐は引き続きする予定だけど、折角だし余裕ができる分新しいことにでも挑戦してみようか?
新しい魔法をあれこれ考えるのも楽しいし、魔道具技師の勉強をするのも楽しそうだ。魔法薬の勉強も捨てがたい。
これからは少しでも自分自身に時間を使いたいな。
思わずそんなことを考え頬を緩ませてしまう。
けれどそんな時間は長くは続かなくて、何故か急に階下が騒がしくなった。
何かあったんだろうか?
そう思い部屋を出ると、どうやら兄が帰ってきたようだと察しがつく。
(あれ?まだパーティー中だよな?)
そんな疑問は兄の苛立った声と共に霧散した。
「くそっ!なんでこの俺が国外追放なんかに!」
バシッとジャケットを床に叩きつける兄。
(国外追放?!)
どうやらパーティーで何かがあったらしい。
これはしっかり話を聞かないといけない気がする。
そう思ったのは俺だけではなかったようで、バタバタとやってきていた両親もその言葉を聞いて蒼白になりながら兄に詳細を確認し始めた。
「こ、国外追放?!ジオ!何があったんだ?!」
「そうよ!何があったの?!ああ、でも、そうね。ゆっくり落ち着いて話を聞いた方がいいわ。皆でちょっと一度落ち着きましょう」
混乱しながらも母が二人をサロンへと連れて行こうとしたから、俺も急いでそこに合流した。
内容を知っておかないと後で酷い目に合う予感がしたからだ。
そして腰を落ち着かせたところで兄から詳細を聞くと、どうやらパーティー開始早々王太子からいきなり断罪されたのだと言う。
「側近の仕事にかこつけて王城内の仕事を混乱に陥れた罪により国外追放に処す、だそうだ」
兄はこの半年ほど卒業に先駆けて王太子の仕事を手伝うために放課後は城に出仕していた。
書類をパラパラパラッと見て、ここがおかしいだとか、不正箇所が大量にあるだとか、この事業は上手くいかないだとかあれこれあれこれ言っていたらしい。
多分兄がそう言うからにはちゃんと理由があって、きっと的確な結論を口に出していたんだろう。
でも────これまでのことから考えるに、きっと物凄く一方的に言ったんだと思う。
『何故』そうなるのかを兄は『それくらい分かるだろう?疑問があるならまずは自分の頭で考えろ』の一言で切り捨てる。
基本的に面倒臭がりだから、文句と共に多少のヒントをくれることくらいはあっても、懇切丁寧に説明してくれるなんてことは一切ないのだ。
きっと王太子が優秀な人且つ兄を上手く使える人ならまた話は違ったと思う。
兄の言った内容を把握し、部下に指示を出し調査させ、裏付けを取った上で諸々対処できただろう。
でも今の王太子はそうじゃない。
どちらかというと無能な方だ。
1から10まで言わないとわからない方だし、兄を上手く使うなんて絶対に無理だと思う。
きっと理解できずに不満ばかりが溜まったに違いない。
恐らくそれは王太子だけではなかったはず。
他の補佐官達も同様だった可能性は高い。
不正を指摘された相手だって都合が悪いだろう。
そんな者達が結託すれば兄を目の上のたんこぶとして国外追放にしてやりたいと思ってもおかしくはなかった。
つまり兄は────不要な者の烙印を押されて城から、いや、国から追い出されることになったと言うわけだ。
「はぁ…」
両親はどうしてこんなことにと呆然となっているが、よく考えればわかることだった。
逆にそうなる可能性を全く考えていなかった俺が悪かったのかもしれない。
もっと各所に目を配って調整をかけてフォローを入れておくべきだった。
ただでさえアリストのところに仕事が大量に降ってきていたのを知っていたんだから。
あれは絶対に兄の指示だったに違いない。
兄は無能な王太子に仕事を回すより、優秀なアリストに仕事を回した方が効率的だと判断したんだと思う。
結果的にアリストは仕事が倍増して一人で回しきれず、周囲から無能呼ばわりされて散々な目に合わされて俺が手伝うという事態に陥ったのだけど、そちらに手を掛け過ぎて兄のフォローが足りなさ過ぎた。
まあ俺も学園生活を送りながらだったし、忙し過ぎてフォローができたとしても最終的に同じ結果になった可能性は高いけど。
(あ、でも兄上が王太子の側から外されたならアリストの仕事も減るよな?)
アリストがてんてこ舞いになる要因(兄)が国外追放になるのなら、もうあんな風に仕事に追われることもなくなって、また元通り仕事量は以前の量へと戻されるはず。
そう考えると兄の追放もあながち悪いことではないように思えた。
でもここで思うのはただ一つ。
それは自分の身の振り方だ。
ここで身の振り方を間違えれば、きっとあっと言う間に酷い目に合うのは間違いない。
いくら公爵家とは言え、嫡男が国外追放なんて醜聞以外の何物でもない。
兄がいなくなって俺が公爵家を継ぐ?
あり得ない。
良い家からの嫁の来てなんてまずないだろうし、没落が分かっている公爵家と懇意にしたがる貴族だって碌にいないだろう。
ただでさえ浪費家でもある両親だ。
爵位だけ譲られて金だけ湯水のように使われて資金繰りに四苦八苦する自分の未来が見えるようで身震いしてしまう。
それが分かっていて大人しく両親と一緒に泥沼に沈むなんて絶対に嫌だと思った。
(よし。家を出て自立しよう)
そして俺はあっさりと自分の身の振り方を決めた。
こういう時は先手必勝。言ったもの勝ちだ。
「どうしよう…。どうすれば……」
動揺激しく狼狽える両親を前に俺は笑顔で言い放つ。
「国外追放なんですよね?それなら俺がお世話のために一緒について行きます」
まずは自然な形で家を出よう。
常に兄優先でここまできた両親なら、混乱している今、まず反対はしないはず。
「「……え?」」
「兄上。国外での新生活に慣れるまで色々大変でしょう。心配ですし、どうか一緒に連れて行ってもらえませんか?」
その言葉に兄が暫し考える。
「なるほど。確かに雑用が得意なお前が同行するなら雑事を全部丸投げできるな。名案だ。そうと決まればすぐに荷造りだ。10分後ここに集合だ。いいか?1分たりとも遅れるな」
相変わらずの無茶ぶりだけど、このままここに長居する気のない俺にはある意味好都合だった。
さっさと隣国に行って、兄の生活基盤を作ったら適当なタイミングでフェードアウトしよう。
自由になるんだ。
きっと俺なら一人でも生きていけるはず。
これまでにそれだけのスキルは身に着けてきた自負があるから。
「では父上、母上。俺はここで」
そうして急いで部屋へと戻り、素早く荷造りを終えて玄関ホールへと向かったのだった。
いつもの如く俺の部屋へとやってきて、近々城で行われるはずのパーティー用に仕立てていた俺の服を勝手にクローゼットから取り出し、『これは初めて見るな。借りるぞ』と奪っていこうとする兄。
「兄上?!困ります!」
「はぁ?」
「それは今度の城でのパーティー用に新しく仕立てたものなんですけど?!」
「別にいいだろう?大人しく貸せ」
「そんなことを言って返してくれた試しがないじゃありませんか!」
「勝手にクローゼットから引っ張り出して取り返せばいいだけの話だろう?俺のせいにするな」
「そういう問題じゃないんです!それにそれはアリストのリクエストも取り入れてわざわざ作ったんですよ?返してください!」
「チッ……仕方がないな。そこまで言うなら考え直してやろう。その代わり今すぐ俺の部屋に来てお前が適当にいい感じに服を組み合わせろ。五分でやれよ?時間がないんだからな」
「え?!」
「シャツ、タイ、チーフ、靴、時計、その他を上手く組み合わせて、これまで着たことがないようなコーディネートに仕上げろ。ほら、急げ」
兄の口からまた無理難題が飛び出した。
本当に最悪だ。
諦めてくれたからと言って油断したところでこういうことを言い出すのが兄だった。
ここで自分でやればいいでしょうと言うのは簡単だけど、その後で両親が怒鳴り込んでくるのは確実だった。
そして結果的に俺の新調した服が没収されるのだ。
両親はいつも家の体面がどうこうと言う。
それならそれで最初から兄に服を仕立ててくれればいいのに、そうはしてくれない。
俺のを渡せばいいという認識しか持ち合わせていないのだ。
『勘違いするな。お前とジオは同じような体型だし、こっちは元々お前用ではなくジオ用に作っているつもりなんだ。文句を言う方がおかしい。お前は素直に新しいものをジオに差し出せばいいんだ。わかったな?』と言われた時は本気で悔しくて仕方がなかった。
何度言っても全く聞く耳を持ってくれないし、糠に釘とはこのことだ。
まだ兄の方が話が通じると言えた。
兄よりも両親の方が問題だと思う。
さて、これまでの経験上ここでごねても仕方がない。
兄がこれまで着たパターンも覚えていることだし、さっさと終わらせよう。
これまでいつだって無理難題を言ってくる兄に対処してきたのは伊達じゃない。
俺は急いで兄の部屋へと移動し、素早く考えてササッと五分でコーディネートを考え提示した。
でも…。
「気に入らん。別のにしろ」
それさえ気に入らなければあっさり却下されてやり直しだ。
結局3回ほどやり直しをさせられてやっと兄納得のコーディネートになった。
「ふん。全く気の利かない弟だ。最初からこのコーディネートを提示して来い」
時間が無駄になったと言いつつ部屋を出て行く兄。
理不尽だ。
(いや。カフスとタイの組み合わせに文句をつけたのは兄上じゃないか。それくらい自分で好きに選べよ。『それは今日の気分じゃない。他のを選べ』とか言ってくるな。兄上の今日の気分なんか知るか!)
とは言え文句を言っても倍になって言葉が返ってくるのが分かっているからここで何かを言う気はない。
ここはグッと我慢だ。
そうして兄は無事に卒業パーティーに出掛けて行ったのだけど、ある意味その日は兄と俺にとっての転機の日となった。
今頃兄も卒業パーティーを楽しんでいるのかなと思いながら家で課題をこなしている俺。
既に二年前にやったところだから手はスイスイと動く。
これからの二年は俺にとってはこれまでやってきたことの復習になる。
きっとこれまでと比べてかなり楽な日々になるだろう。
それを思うとやっと肩の荷が下りたと笑顔になる。
アリストの仕事の補佐は引き続きする予定だけど、折角だし余裕ができる分新しいことにでも挑戦してみようか?
新しい魔法をあれこれ考えるのも楽しいし、魔道具技師の勉強をするのも楽しそうだ。魔法薬の勉強も捨てがたい。
これからは少しでも自分自身に時間を使いたいな。
思わずそんなことを考え頬を緩ませてしまう。
けれどそんな時間は長くは続かなくて、何故か急に階下が騒がしくなった。
何かあったんだろうか?
そう思い部屋を出ると、どうやら兄が帰ってきたようだと察しがつく。
(あれ?まだパーティー中だよな?)
そんな疑問は兄の苛立った声と共に霧散した。
「くそっ!なんでこの俺が国外追放なんかに!」
バシッとジャケットを床に叩きつける兄。
(国外追放?!)
どうやらパーティーで何かがあったらしい。
これはしっかり話を聞かないといけない気がする。
そう思ったのは俺だけではなかったようで、バタバタとやってきていた両親もその言葉を聞いて蒼白になりながら兄に詳細を確認し始めた。
「こ、国外追放?!ジオ!何があったんだ?!」
「そうよ!何があったの?!ああ、でも、そうね。ゆっくり落ち着いて話を聞いた方がいいわ。皆でちょっと一度落ち着きましょう」
混乱しながらも母が二人をサロンへと連れて行こうとしたから、俺も急いでそこに合流した。
内容を知っておかないと後で酷い目に合う予感がしたからだ。
そして腰を落ち着かせたところで兄から詳細を聞くと、どうやらパーティー開始早々王太子からいきなり断罪されたのだと言う。
「側近の仕事にかこつけて王城内の仕事を混乱に陥れた罪により国外追放に処す、だそうだ」
兄はこの半年ほど卒業に先駆けて王太子の仕事を手伝うために放課後は城に出仕していた。
書類をパラパラパラッと見て、ここがおかしいだとか、不正箇所が大量にあるだとか、この事業は上手くいかないだとかあれこれあれこれ言っていたらしい。
多分兄がそう言うからにはちゃんと理由があって、きっと的確な結論を口に出していたんだろう。
でも────これまでのことから考えるに、きっと物凄く一方的に言ったんだと思う。
『何故』そうなるのかを兄は『それくらい分かるだろう?疑問があるならまずは自分の頭で考えろ』の一言で切り捨てる。
基本的に面倒臭がりだから、文句と共に多少のヒントをくれることくらいはあっても、懇切丁寧に説明してくれるなんてことは一切ないのだ。
きっと王太子が優秀な人且つ兄を上手く使える人ならまた話は違ったと思う。
兄の言った内容を把握し、部下に指示を出し調査させ、裏付けを取った上で諸々対処できただろう。
でも今の王太子はそうじゃない。
どちらかというと無能な方だ。
1から10まで言わないとわからない方だし、兄を上手く使うなんて絶対に無理だと思う。
きっと理解できずに不満ばかりが溜まったに違いない。
恐らくそれは王太子だけではなかったはず。
他の補佐官達も同様だった可能性は高い。
不正を指摘された相手だって都合が悪いだろう。
そんな者達が結託すれば兄を目の上のたんこぶとして国外追放にしてやりたいと思ってもおかしくはなかった。
つまり兄は────不要な者の烙印を押されて城から、いや、国から追い出されることになったと言うわけだ。
「はぁ…」
両親はどうしてこんなことにと呆然となっているが、よく考えればわかることだった。
逆にそうなる可能性を全く考えていなかった俺が悪かったのかもしれない。
もっと各所に目を配って調整をかけてフォローを入れておくべきだった。
ただでさえアリストのところに仕事が大量に降ってきていたのを知っていたんだから。
あれは絶対に兄の指示だったに違いない。
兄は無能な王太子に仕事を回すより、優秀なアリストに仕事を回した方が効率的だと判断したんだと思う。
結果的にアリストは仕事が倍増して一人で回しきれず、周囲から無能呼ばわりされて散々な目に合わされて俺が手伝うという事態に陥ったのだけど、そちらに手を掛け過ぎて兄のフォローが足りなさ過ぎた。
まあ俺も学園生活を送りながらだったし、忙し過ぎてフォローができたとしても最終的に同じ結果になった可能性は高いけど。
(あ、でも兄上が王太子の側から外されたならアリストの仕事も減るよな?)
アリストがてんてこ舞いになる要因(兄)が国外追放になるのなら、もうあんな風に仕事に追われることもなくなって、また元通り仕事量は以前の量へと戻されるはず。
そう考えると兄の追放もあながち悪いことではないように思えた。
でもここで思うのはただ一つ。
それは自分の身の振り方だ。
ここで身の振り方を間違えれば、きっとあっと言う間に酷い目に合うのは間違いない。
いくら公爵家とは言え、嫡男が国外追放なんて醜聞以外の何物でもない。
兄がいなくなって俺が公爵家を継ぐ?
あり得ない。
良い家からの嫁の来てなんてまずないだろうし、没落が分かっている公爵家と懇意にしたがる貴族だって碌にいないだろう。
ただでさえ浪費家でもある両親だ。
爵位だけ譲られて金だけ湯水のように使われて資金繰りに四苦八苦する自分の未来が見えるようで身震いしてしまう。
それが分かっていて大人しく両親と一緒に泥沼に沈むなんて絶対に嫌だと思った。
(よし。家を出て自立しよう)
そして俺はあっさりと自分の身の振り方を決めた。
こういう時は先手必勝。言ったもの勝ちだ。
「どうしよう…。どうすれば……」
動揺激しく狼狽える両親を前に俺は笑顔で言い放つ。
「国外追放なんですよね?それなら俺がお世話のために一緒について行きます」
まずは自然な形で家を出よう。
常に兄優先でここまできた両親なら、混乱している今、まず反対はしないはず。
「「……え?」」
「兄上。国外での新生活に慣れるまで色々大変でしょう。心配ですし、どうか一緒に連れて行ってもらえませんか?」
その言葉に兄が暫し考える。
「なるほど。確かに雑用が得意なお前が同行するなら雑事を全部丸投げできるな。名案だ。そうと決まればすぐに荷造りだ。10分後ここに集合だ。いいか?1分たりとも遅れるな」
相変わらずの無茶ぶりだけど、このままここに長居する気のない俺にはある意味好都合だった。
さっさと隣国に行って、兄の生活基盤を作ったら適当なタイミングでフェードアウトしよう。
自由になるんだ。
きっと俺なら一人でも生きていけるはず。
これまでにそれだけのスキルは身に着けてきた自負があるから。
「では父上、母上。俺はここで」
そうして急いで部屋へと戻り、素早く荷造りを終えて玄関ホールへと向かったのだった。
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