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13.俺の危機感が甘すぎた。
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クレールを部屋に残して俺は夕食を食べるために食堂に向かった。
いつもはクレールと一緒だからできるだけ空いてる場所で食べるんだけど、今日は一人だし適当に一席空いてる場所へと滑り込む。
すると先輩達が珍しいなと笑いながら話しかけてくれた。
「バン、今日は寝不足だったんだろ?」
「え?ええ。まあ」
「クレールにほどほどにしてやれって言っといてやろうか?」
「ははは…!バンが可愛いから離せなかったってとこじゃねえか?いいね~若いもんは」
口々に先輩達にそんなことを言われてなんだか居た堪れなくなる。
隊長達は自分達が寝てないってわかる奴にはわかると言ってたが、この人達にはきっと俺達がちゃんとした恋人同士に見えてるんだろうなと思った。
「そうだ。今度お前、初めての休暇だろう?どっか二人で出掛けんのか?」
俺が注文した食事を食べていると、先輩が徐にそんな話を振ってくる。
休暇…休暇か。
確かに入隊してからは初めての休暇だった。
でもクレールとどこかに出かける予定なんかは特にない。
「別に二人では出掛けないですよ?」
と言うよりも、俺は家出中だったからここ数年まともに街に行ったりはしていなかったんだ。
見つかるリスクも高かったし、出掛ける気なんて更々なかった。
あの父親のことだ。
絶対に探しているに違いないと思っていたから────。
でも、もうあれから三年以上経つ。
さすがにもう探してはいないだろう。
もし万が一探していたとしても、まさか俺があの家から数キロしか離れていない場所でのうのうと暮らしているとは思ってもいないだろうし、今頃はどこか遠くの街を探しているはずだ。
それなら街に行ってみるのも気晴らしにはなるかもしれない。
最近クレールとばかり一緒にいたから一人で行動するのも久しぶりだ。
(書店に行くのもいいし、図書館で読書もいいな)
ちょうど調べたいこともあったし、たまには娯楽本も買ってみたい。
後は訓練校時代の友人からもらったトワレが気に入ったから追加で買っておきたいと思った。
吹き抜ける春風のように柔らかい香りでなんとなく落ち着く香りなのだ。
俺をイメージして二人で選んだとか言われたけど、俺はこんなに優しい香りを纏うように見えたんだろうか?
そこだけは疑問だ。
自分的には夏空イメージなんだけどな。
この香りはどちらかと言うと俺というよりもクレールの方が似合いそうな気がする。
まあ気に入ってるからガッツリ使うけどな。
食事の後は少し考えてから、クレールが一緒じゃないなら人が多い時間帯に入りに行くかと浴場へと向かった。
やっぱり安全性という観点からはその方が安全だろうと思ったからだ。
今日はキスマークもついてないし、何の問題もない。
いつも危機感がないとか説教されるけど、きっと今日はこれが正解だろう。
そう思って突撃したのに、何故か皆から思い切り揶揄われた。
「なんだバン?クレールと喧嘩でもしたのか?」
「寝不足になるくらい可愛がられて訓練できなくなったんだろ?」
「ああ、そりゃあバンも怒るよな」
「よっしゃ!俺がクレールを叱っておいてやるからな!」
そんな言葉の数々にこれはクレールにとばっちりがいくんじゃないかとちょっと思って頬が引き攣ったけど、まあ後で謝ればいいかと思って曖昧に笑っておいた。
そんな先輩達とは別になんだかニヤニヤしてる先輩や変に目がギラギラしてる先輩もいるように思ったけど、きっと俺とクレールの仲を想像してそんな顔をしてるんだろうなとは思った。
これならいつもの時間に一人で入浴した方が良かったかもしれない。
まあ今更だけど。
そんな感じで今日も一日の終わりを迎えて、俺は明日の訓練へと思いを巡らせる。
隊長からは今日休んだ分も含めて他の隊員達よりもしごかせてもらうからなと言われた。
だからきっとハードな一日になるだろう。
「今日こそしっかり早く寝ておかないとな」
そして俺は軽くストレッチをしてから気持ちのいい眠りについた。
***
スヤスヤと気持ちよく眠っていたのに…俺の意識が何かを感じて急浮上する。
これは…夢?
肌を這いまわる気持ちの悪い手。
はあはあと聞こえる荒い息遣い。
コレハ…ダレ?
「バン…」
俺の名を呼ぶこの声は誰のものだろう?
クレール?
違う。
クレールの声はもっと耳障りの良いテノールで、俺の名を呼ぶ声はどこか甘いんだ。
手つきだって、こんなに一方的に欲望を満たそうとするような荒々しい感じじゃなかった。
じゃあこれは一体────。
俺は自分に触れる相手を見るためにそっと目を開く。
そこにいたのは浴場で目をギラギラさせていた男。
何故…この男が俺の部屋にいるんだろう?
何故…俺のベッドに潜り込んでいるんだ?
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い……!
クレールが俺に触れた時は大丈夫だったのに、今この瞬間触れられていることに物凄い嫌悪感が込み上げてきて、俺は気づけば完全に油断しきっていたその男を殴り飛ばしていた。
驚いた男がこっちを見てそのギラついた目を向けてくる。
俺はこの目を知っている。
父親がたまに俺に向けていた目とよく似た、欲望を抱える目…。
情欲を孕んだその瞳が自分へと向けられることに怖気が走った。
「バン」
気安く俺の名を呼ぶな。
「昨日はクレールと寝たんだろう?」
寝てなんていない。
「俺とも楽しもう?俺はあいつよりも上手いぜ?」
楽しむ?何を?
クレールより上手い?何が?
つまりは…今から俺とヤリたいってことなんだよな?
(嫌だ、嫌だ、嫌だ……!)
鍵はしっかり閉めて寝ているから自室は一番安全な場所のはずだったのに、どうしてこんな目に合うのだろう?
夜這いなんて最悪だ!
レイプなんて死んでもお断りだ!
「バン?」
気づけば俺は一気に男と距離を詰め、昔父親対策として考えた生活魔法を応用したスタンガン魔法を使って男を気絶させた後、泣きそうな気持ちでクレールの部屋へと走っていた。
自室の次に安全な場所がクレールの傍というのが我ながら笑える。
でも……今一番頼れる相手というとクレールしか思いつかなかったんだ。
俺は自分の危機感がどこまでも甘かったんだと思い知りながら、何度も忠告してくれていたクレールの顔を思い浮かべた。
いつもはクレールと一緒だからできるだけ空いてる場所で食べるんだけど、今日は一人だし適当に一席空いてる場所へと滑り込む。
すると先輩達が珍しいなと笑いながら話しかけてくれた。
「バン、今日は寝不足だったんだろ?」
「え?ええ。まあ」
「クレールにほどほどにしてやれって言っといてやろうか?」
「ははは…!バンが可愛いから離せなかったってとこじゃねえか?いいね~若いもんは」
口々に先輩達にそんなことを言われてなんだか居た堪れなくなる。
隊長達は自分達が寝てないってわかる奴にはわかると言ってたが、この人達にはきっと俺達がちゃんとした恋人同士に見えてるんだろうなと思った。
「そうだ。今度お前、初めての休暇だろう?どっか二人で出掛けんのか?」
俺が注文した食事を食べていると、先輩が徐にそんな話を振ってくる。
休暇…休暇か。
確かに入隊してからは初めての休暇だった。
でもクレールとどこかに出かける予定なんかは特にない。
「別に二人では出掛けないですよ?」
と言うよりも、俺は家出中だったからここ数年まともに街に行ったりはしていなかったんだ。
見つかるリスクも高かったし、出掛ける気なんて更々なかった。
あの父親のことだ。
絶対に探しているに違いないと思っていたから────。
でも、もうあれから三年以上経つ。
さすがにもう探してはいないだろう。
もし万が一探していたとしても、まさか俺があの家から数キロしか離れていない場所でのうのうと暮らしているとは思ってもいないだろうし、今頃はどこか遠くの街を探しているはずだ。
それなら街に行ってみるのも気晴らしにはなるかもしれない。
最近クレールとばかり一緒にいたから一人で行動するのも久しぶりだ。
(書店に行くのもいいし、図書館で読書もいいな)
ちょうど調べたいこともあったし、たまには娯楽本も買ってみたい。
後は訓練校時代の友人からもらったトワレが気に入ったから追加で買っておきたいと思った。
吹き抜ける春風のように柔らかい香りでなんとなく落ち着く香りなのだ。
俺をイメージして二人で選んだとか言われたけど、俺はこんなに優しい香りを纏うように見えたんだろうか?
そこだけは疑問だ。
自分的には夏空イメージなんだけどな。
この香りはどちらかと言うと俺というよりもクレールの方が似合いそうな気がする。
まあ気に入ってるからガッツリ使うけどな。
食事の後は少し考えてから、クレールが一緒じゃないなら人が多い時間帯に入りに行くかと浴場へと向かった。
やっぱり安全性という観点からはその方が安全だろうと思ったからだ。
今日はキスマークもついてないし、何の問題もない。
いつも危機感がないとか説教されるけど、きっと今日はこれが正解だろう。
そう思って突撃したのに、何故か皆から思い切り揶揄われた。
「なんだバン?クレールと喧嘩でもしたのか?」
「寝不足になるくらい可愛がられて訓練できなくなったんだろ?」
「ああ、そりゃあバンも怒るよな」
「よっしゃ!俺がクレールを叱っておいてやるからな!」
そんな言葉の数々にこれはクレールにとばっちりがいくんじゃないかとちょっと思って頬が引き攣ったけど、まあ後で謝ればいいかと思って曖昧に笑っておいた。
そんな先輩達とは別になんだかニヤニヤしてる先輩や変に目がギラギラしてる先輩もいるように思ったけど、きっと俺とクレールの仲を想像してそんな顔をしてるんだろうなとは思った。
これならいつもの時間に一人で入浴した方が良かったかもしれない。
まあ今更だけど。
そんな感じで今日も一日の終わりを迎えて、俺は明日の訓練へと思いを巡らせる。
隊長からは今日休んだ分も含めて他の隊員達よりもしごかせてもらうからなと言われた。
だからきっとハードな一日になるだろう。
「今日こそしっかり早く寝ておかないとな」
そして俺は軽くストレッチをしてから気持ちのいい眠りについた。
***
スヤスヤと気持ちよく眠っていたのに…俺の意識が何かを感じて急浮上する。
これは…夢?
肌を這いまわる気持ちの悪い手。
はあはあと聞こえる荒い息遣い。
コレハ…ダレ?
「バン…」
俺の名を呼ぶこの声は誰のものだろう?
クレール?
違う。
クレールの声はもっと耳障りの良いテノールで、俺の名を呼ぶ声はどこか甘いんだ。
手つきだって、こんなに一方的に欲望を満たそうとするような荒々しい感じじゃなかった。
じゃあこれは一体────。
俺は自分に触れる相手を見るためにそっと目を開く。
そこにいたのは浴場で目をギラギラさせていた男。
何故…この男が俺の部屋にいるんだろう?
何故…俺のベッドに潜り込んでいるんだ?
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い……!
クレールが俺に触れた時は大丈夫だったのに、今この瞬間触れられていることに物凄い嫌悪感が込み上げてきて、俺は気づけば完全に油断しきっていたその男を殴り飛ばしていた。
驚いた男がこっちを見てそのギラついた目を向けてくる。
俺はこの目を知っている。
父親がたまに俺に向けていた目とよく似た、欲望を抱える目…。
情欲を孕んだその瞳が自分へと向けられることに怖気が走った。
「バン」
気安く俺の名を呼ぶな。
「昨日はクレールと寝たんだろう?」
寝てなんていない。
「俺とも楽しもう?俺はあいつよりも上手いぜ?」
楽しむ?何を?
クレールより上手い?何が?
つまりは…今から俺とヤリたいってことなんだよな?
(嫌だ、嫌だ、嫌だ……!)
鍵はしっかり閉めて寝ているから自室は一番安全な場所のはずだったのに、どうしてこんな目に合うのだろう?
夜這いなんて最悪だ!
レイプなんて死んでもお断りだ!
「バン?」
気づけば俺は一気に男と距離を詰め、昔父親対策として考えた生活魔法を応用したスタンガン魔法を使って男を気絶させた後、泣きそうな気持ちでクレールの部屋へと走っていた。
自室の次に安全な場所がクレールの傍というのが我ながら笑える。
でも……今一番頼れる相手というとクレールしか思いつかなかったんだ。
俺は自分の危機感がどこまでも甘かったんだと思い知りながら、何度も忠告してくれていたクレールの顔を思い浮かべた。
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