【完結】魔法飛空士は自由を満喫する

オレンジペコ

文字の大きさ
上 下
13 / 35

12.寝不足だ。

しおりを挟む
結局昨日はなかなか寝付けなくて、二、三時間ほどしか寝れなかった。
完全に寝不足だ。
今日は編隊の訓練だから頭が働かないと本当に困るのに……。

そしてちょっとフラフラしながら他の隊員達と共に隊長の話を聞いて、各自自分の愛機の元へと走る。
俺もいつも通り愛機【ライラ】に魔力を充填していく。
ミサイル、機体…えっと後はなんだっけ?計器チェック…?
頭が回らない。
そうしてると次々先輩達が作業を終わらせて上空へと飛び立っていく。
俺も遅れないようにと焦っていたら、セドリック隊長がやってきて、ストップをかけた。

「バン。お前今日は体調管理不十分だから、部屋に戻って休んで始末書書いとけ」

それって始末書って言う名の反省文ですよね?
でも本当にこんな状態じゃ訓練しても失敗するだけだから隊長の判断は正しいと思う。
だから俺はおとなしく自室に下がって少しだけ仮眠をとった後、これによって考えられる部隊全体に掛かる迷惑等を考えられるだけ書き連ねて、それによりどういった状況に陥る危険性が考えられるかも書きまくり、猛反省しながら謝罪の文で締めくくった。
以後十二分に気をつけますと書き添えて。

それを手に隊長の元へと謝罪に行ったら、その始末書に一通り目を通した上で満足げに頷かれ改めて指導された。

他の部隊の隊長は甘えるなと無理矢理訓練に参加させたりもするらしいけど、明らかにそういう体調不良者は足を引っ張るし、それのフォローに回る者の負担も増えるし、何よりもしもの時のリスクが高まり部隊全体の命取りに繋がるからそうなるくらいなら最初から参加させずに復帰後しごいて戦力増強に努めるんだと隊長は言う。
その方がずっと隊の死者数は減るし、結果的に戦力を蓄えることが出来るからだ。

確かにそれはその通りで、実際に第五部隊は精鋭揃い。
それもこれも今のセドリック隊長がここの隊長になってからの話だ。
隊長、本当にカッコいい!
俺、隊長に一生ついてく!
やっぱ第五部隊に来てよかったと感動した。

そして気持ちも新たに心からの尊敬の念を込めて最敬礼で挨拶をし俺は執務室を後にしたんだが、そこには俺の寝不足の原因とも言えるクレールが立っていて正直ビビった。
隊長に用でもあったんだろうか?
そう思って俺の用は終わったから気にせずどうぞという感じで場所を譲ったんだが、こいつはドアをノックするでもなくいきなり俺の腕を掴んで無言で歩き出した。
何?もしかして俺を待ってたのか?
まさかな。いや、でも……。




連れてこられたのはクレールの自室で、部屋に入るなり何故か思い切り抱きしめられた。
苦しい!放せ!
なんでいきなりこんな行動に出られたのかが全く分からない。
でも何故か必死な感じが伝わってくるような気がしたから、なんとなく前のように突き放せなくなった。

「……クレール。何かあったのか?」
「…………」
「それとも…俺を心配したとか?ま、それはないか」

たかが寝不足だしそんなことあるわけないよなと思いながら茶化すようにそう言ってやったんだが、どうもこれはクレール的には大外れだったらしくて、そのまま身を離したと思ったら怖い顔で壁ドンされてしまった。

「……バン?」
「え……」

何が悪かったんだろう?
茶化したのが悪かったんだろうか?
もしかして真剣に心配してくれてた…とか?
それとも昨日あんなことを言ってたのに俺の方が訓練に参加できなかったことを怒ってるのか?
でもあの状態で参加したらやっぱりマズかったと思うし、隊長の判断は間違っていないと思う。

「そ…そんなに怒るなよ。訓練に参加できなくなるくらい寝不足だったのは俺も反省してるし、もう二度とそんなことにならないよう気を付ける!それでいいだろ?!」

なんだかバツが悪くて思い切りプイッと横を向いたら、グイッと無理矢理顔を正面に向けられて真っ直ぐに突き刺すような目で見つめられた。
こんなクレール、初めて見た気がする。

「…………隊長と二人っきりで何の話をしてたんだ?」

どうしてこんなことを聞かれるんだろう?

「え?今日の件で叱られただけだけど?」
「本当に?」
「ああ。本当に」
「何も…特別なことはなかったか?」
「特別?特別というほど特別なことはなかったぞ?相変わらず凄くてカッコいいなと思って惚れ直したくらいで」

そう言ったらものすっごく怖い顔をされた。
ギリッと歯噛みするほど怒らなくてもいいじゃないか!
なんでだ?!
隊長がカッコいいのなんて今に始まったことじゃないし!前からだし!
俺が隊長のこと尊敬してて物凄く好きなのくらい知ってただろう?
そう思ってクレールを見返したけど、こいつはなんだか苦しそうな顔をした後で思い切り深く息を吐いてそっと身を離した。

「…………わかった。もう行っていい」

クレールはそのまま下を向きながら小さくそう言って、もう俺の方を見ようとはしなかった。
こいつ…大丈夫か?
なんだか昨日今日の俺の二の舞になりそうで気になるんだけど……。
だから去り際に一応こう言っておいたんだ。

「お前な。何をグルグル考えてるか知らないけど、俺の二の舞になるなよ?お前のせいで俺、昨日寝れなかったんだからな!全く…」

じゃあなとドアを開け外に出る直前、クレールの「え?」という声だけが聞こえたような気がした。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

異世界転移した先は陰間茶屋でした

四季織
BL
気が付いたら、見たこともない部屋にいた。そこは和洋折衷の異世界で、俺を拾ってくれたのは陰間茶屋のオーナーだった。以来、俺は陰間として働いている。全くお客がつかない人気のない陰間だけど。 ※「異世界に来た俺の話」と同じ世界です。 ※謎解き要素はありません。 ※ミステリー小説のネタバレのようなものがありますので、ご注意ください。

騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。 突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。 貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。 お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。 やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...