【完結】略奪愛~これもある意味そうかもしれない~

オレンジペコ

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7.厄介な婚約者

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婚約者がとうとう学園に入学してきた。
そして恐れていたことが予想通り起こったのである。

婚約者が入学して数か月────俺の周りはひそひそとした噂話が飛び交うようになっていた。
それらの内容は全て嘘ばかり。
けれどそれを信じる者が多いのは事実だ。
皆(見た目だけは)可愛らしいミオが涙ながらに告げる『俺に虐げられている』という言葉を信じ切ってしまっている。

いつも睨まれる───これはわからないではない。
父に対するその態度にイラついて、つい会う度に冷たい目で見てしまうのだ。
だからこれだけなら噂話も認めても別によかった。
でも髪を鷲掴みにして思い切り引っ張られただの階段から突き落とされそうになっただの、引きずられて噴水に頭を押さえつけられただの、そんな暴力行為など一度としてやったことはない。冤罪だ。
と言うより、それってドSキャラというよりDV男なんじゃないか?突っ込み待ちなのか?
正直ありもしないそんな数々の所業を噂されてうんざりしていた。

そんなある日のこと。俺のところにこれまで全く接点のなかった二人が接触してきた。
所謂攻略対象の男達だ。
これには流石に深く溜息を吐きたくなった。
やっぱりここは現実ではなくゲームの世界で、それと同じような展開になるのかと思ったからだ。
けれど───話しかけてきた二人はここで思いもよらない行動に出てきた。

辺境伯家次男────シン=バナード。彼は騎士団長の秘蔵っ子で剣の申し子と謳われるほどの人物だ。
そんな彼が俺の腕をガシッと掴み、もみもみと二の腕を触りだしたのだ。
いくら人けのない庭園の端っことは言えセクハラもいいところだろう。

「な、何だいきなり?!」
「思ったほど筋肉ねぇな~…」
「煩いな!これでも筋肉つけようと思って肉は多めに食べるようにしてるんだからな!」

いきなり人のコンプレックスを刺激するようなことを言ってくるなと噛みつくと、シンは豪快に笑いだした。

「ははっ!なんだそれ!剣の稽古じゃなくて肉多めって…っぶはは!」
「剣だって一応振ってるし、走り込みだってしてるけど身体を作るのは食事だろ?!」
「はははっ、そうだな。その通りだ!」

怒り心頭の俺にシンはたまらないと笑い転げている。心外だ。
けれどそんな俺達にもう一人が呆れたように声を掛けてくる。

「はぁ…。シン。ちょっと黙っててください」
「なんだよ、カーク。聞いてた話と違ってて面白い奴じゃねぇか」
「そんなものいくらでも取り繕えるでしょう?」

そう言ってこちらへと目を向けたのは魔導士長が目を掛けてるという噂の天才魔導士カーク=ステファニア。
彼は隣国スピカの王族の血を引く侯爵家の嫡男で、その魔法の腕はピカ一。
誰もが認める天才だった。
そんな彼もまた攻略対象者であるのだが…俺に何か用だろうか?
そう思っていると徐にピッと指を突きつけられた。

「貴方にはか弱い女性に暴言を吐き暴力を振るった疑いがあります。どうしてそのようなことをしたのか…それを問い質しに来ました」

(あ~…なるほどな)

俺はやったことがないけど、きっとゲームだとこれがファーストコンタクトっていうやつなんだろう。
ここでレオが悪い笑みを浮かべてそんなことはやってないとか言ってぶつかるんだな。多分。
ゲームを自分でやっていたわけじゃないから詳しいことは全くわからない。
シンが突拍子もない行動をしてきたから多少戸惑いを覚えたが、恐らくゲームではそういう展開になるんだと思う。

でも俺は噂されているようなことを実際にはやっていないし、こんな風に面と向かって言われるのは心外だった。
陰で噂されるだけならまだしも誤解されて難癖つけられたくはない。
だから悪いけど、俺は俺の経験から違う行動に出させてもらおうと口を開いた。

「ここで俺がやってないって言ってもどうせ信じてもらえないだろ?」
「…?」
「だから、俺にサイレントの魔法を掛けてくれないか?」
「……は?」
「だから、サイレントの魔法だよ。俺が婚約者に暴言を吐けないように彼女の前でだけサイレントが発動するように魔法を掛けてくれって言ってるんだ。お前ならできるだろ?」
「…それは」
「それで彼女がまた俺に何を言われただの泣きながら言い出したらそれは嘘っぱちで冤罪ってこと。どうだ?」
「…………」

カークはこちらの真意を問うようにジッとこちらを見つめてきたが、結果から言うとその通りに魔法を掛けてくれた。

「これで貴方は彼女に暴言だけではなく言葉を交わすこともできなくなりました。本当にいいんですか?」
「ああ。だって俺、彼女が入学してから全くしゃべってないし。そもそも最近じゃあうちの屋敷にもぱったり来なくなって顔すら合わせてないから」
「…………」

それは本当のことだったのに、物凄く疑わしい目で見られてしまった。
けれど取り敢えずは信じてもらえたようで、このことは三人だけの秘密だと言って二人は去っていった。
それから数日後────。

「すみませんでした!」

カークは俺に綺麗な礼をしながら謝罪してくれた。
どうやら彼女がまたいつものように彼らの前で嘘八百を並び立てたようだ。

「サイレントの魔法があるから暴言なんて吐けるはずもないのに、彼女は泣きそうな顔で貴方に酷いことを言われたのだと訴えてきました。あり得ません。私の魔法は完璧だと言うのに」

どうやらそれは魔導士としての彼のプライドを些か傷つけたようで、怒っているように見えた。

「俺もおかしいと思ったんだよな。暴力行為もどうも誇張しすぎな気がしたんだ。お前の手はこの間見た時も殴ったりできないような綺麗な手だったし、筋肉だってほとんどないだろ?そんなやわな身体でできる暴力なんて知れてるしな。どうせそっちも嘘なんだろ?」
「嘘だけど…やわって言うな。それに冷たい目で見てたのは本当だから、そこだけは嘘じゃない」
「はははっ!そりゃああれだけ盛大な嘘つかれたらそんな目も向けたくなるわな」

どうやらカークだけではなくシンも俺に好意的になってくれたらしい。
これは正直有難かった。

そんなこんなで二人の誤解は解け、俺は彼らと一緒に過ごす時間が増えたように思う。
アルフォンス以外では初めての友達だ。
寧ろこれまでどうしてアルフォンス以外いなかったんだろうと首を傾げたくなるくらいすんなり友達を作れたような気がする。

「レオ、今日は剣の稽古付き合ってやるよ」
「ありがとう。でも頼むから素振りは100回までにしてくれ」
「筋肉バカに付き合ってばかりだと疲れるでしょう?たまには魔法を教えますよ」
「ああ。助かる。この間の実技散々だったんだよな。効率的な水魔法の上達法とかあればいいんだけど…」

放課後に仲良く話すそんな俺達を見て周囲が少しだけ困惑の表情を浮かべている。
そりゃあそうだ。
婚約者を虐げているという噂の俺がこんな優秀な二人に構ってもらってるんだから。

そうして暫く和気藹々と過ごしていたところで、ずっと避け続けていたアルフォンスに捕まってしまった。

「レオ!」

ボッチの時はその姿を発見すると同時に逃げ出していたんだけど、今日は二人と話してたから完璧に油断していたんだ。

「やっと捕まえた!」
「アルフ…」

今日こそは絶対逃がさないからと言うように腕の中へと引き込まれそのまま抱きしめられたんだけど、俺…どうしたらいいんだろう?


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