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4.婚約者との顔合わせ
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「それで?何があった?」
客間で向かい合うようにソファに座り、ゆったりとお茶を飲みながら俺が落ち着くのを待ったアルフォンスは人払いをした後俺へとそう声を掛けた。
「実は……」
俺は正直に不穏なメイドの行動をアルフォンスへと相談してみる。
手に不審なロープを持って入室してきたこと。逃げた俺を必死に追いかけて来たことなどだ。
それを聞いたアルフォンスは俺を痛ましげに見遣りながら、それは怖かっただろうと慰めてくれる。
今はその優しさがじわりと胸に沁みた。
それからアルフォンスは執事のギャロットを呼び出して俺から聞いた話を漏らさず彼へと話し、そんな危険なメイドを俺の傍には置いてほしくないから解雇をと口にした。
これにはギャロットも困惑顔だ。
けれど何故かアルフォンスは決して引かず、なんならそのメイドがいなくなるまで俺を公爵家で預かるとまで言ってくれた。
これには俺も感動して思わず涙が滲んでしまう。
それだけ…あの異常なメイドが怖かったのだ。
そんな俺の様子を見て事の重大さをやっと認識してくれたのか、そういうことなら侯爵が帰り次第話しておくので今日のところはロード公爵家でお過ごしくださいと送り出してくれた。
これには俺もホッと胸を撫で下ろし、交渉してくれたアルフォンスに素直に感謝したのだった。
でも────ガタゴトと揺れる馬車の中で俺を抱き寄せて頭を撫でてくるのはちょっとやり過ぎじゃないだろうか?
「アルフ…」
「なんだ?」
「俺もう大丈夫だから」
「無理はしなくていい。さっきまで震えていただろう?」
そうは言うけどもうだいぶ落ち着いたし、どちらかというと友達にこんな風に甘えている方が恥ずかしいような気がする。
今更?とは思うけど、落ち着いたら流石にそろそろ離れた方がいいんじゃないだろうかって思うのが普通だろ?
「でもその……」
「レオ。大丈夫。俺の前では何も飾らなくていいから気にせず頼ってくれ」
友達だろと優しい眼差しを向けてくれるアルフォンスの好意を無碍にはできそうにない。
俺は仕方なくロード公爵家までアルフォンスの方へと身を任せた。
***
ロード公爵家は国内有数の名家で、領地は豊かで交易も盛んなため非常に裕福だ。
俺の侯爵家も裕福だが、ロード公爵家はそれより遥かに格上だった。
そんな公爵家の嫡男ということもあってアルフォンスは非常にモテる。
まだ成長途上だと言うのに凛々しい切れ長の目が男らしさを強調し、背も高くてそれなりに筋肉もついているから正直羨ましいほどカッコよかった。
俺はと言うとカッコいいと言うよりは美麗な容姿で、変な色香漂う妖しい系美人とでも言うんだろうか?
ゲームではイケメンドSキャラだったけど、性格が歪んでなければ普通にモテる容姿だとは思う。
ただそれでも俺は女が苦手だから女に騒がれたくはないなというのが本音だった。
アルフォンスのようにきゃあきゃあ言われたくはない。
別にゲーム通りのドSキャラになる気はないけれど、適度に人を寄せ付けないよう対策は取った方がいいだろう。
それこそ女には冷たい目線を送るだけで十分効果は見込めるはず。
美人の冷たい目って結構心に刺さるはずだし、誰もわざわざ好き好んで近づいてきたりはしないだろう。
俺は俺が心を許した相手にだけ素の自分を見せられればそれでいいし、友達のアルフォンスには自分を偽ることもない。こんな相手を何人か作れればそれだけで十分だと思った。
アルフォンスはいい奴だ。
気さくに俺に話しかけ、楽しいことや面白いことを一緒になって楽しんでくれる優しい親友。
小さい時から仲良く遊んでいる仲だから気心も知れているし、絶対に裏切らないという安心感もある。
ゲームではすれ違っていた部分があるみたいだけど、あのメイドがいなくなった今は何も問題は起こることなく二人の仲は良好だった。
でも…ここ最近時々スキンシップが激しくなってきたような気がするんだけど、どうしてだろう?
やっぱりお年頃だからかな?
そう言えば転生前も友人がやけにスキンシップが激しかった時期があったなぁなんて思いながら、俺は日々を過ごしていた。
そうこうしているうちに月日は過ぎ、あと半年で学園に入学という時期にとうとう俺に婚約話が持ち上がった。
相手は俺より二つ年下の伯爵令嬢で、ミオ=ガーネット。言わずもがなゲームのヒロインだ。
稚い愛らしい容姿はどこからどう見ても癒し系で、大抵の男は好ましく思うことだろう。
けど、俺は別だ。
本人を目の前にしてもやっぱりゲームで受けた印象と全く変わらず嫌いなタイプだったし、甘えるような声にはゾワゾワ鳥肌が立った。
せめて知的なクール系女子ならまだよかったのに、どうしてこのタイプを婚約者にしてきたのかとつい父親を冷めた目で見つめてしまう。
デレデレと頬を緩ませる姿を見る限り、単なる父の好みではないのかと言いたくなった。
「初めまして。ミオ=ガーネットと申します。これからよろしくお願い致します」
そう言ってどこか媚びを売るような顔で笑顔を向けられたけれど、どうしても妹の顔とそれが重なって心から笑いかけることができなかった。
「レオ=ダンタリオンだ。……よろしく」
きっと俺は冷めた目で冷たく笑っていただろう。
その表情を見て彼女も何か感じたのかもしれない。
少し顔を顰めた後、取り繕うように笑って頭を下げた。
客間で向かい合うようにソファに座り、ゆったりとお茶を飲みながら俺が落ち着くのを待ったアルフォンスは人払いをした後俺へとそう声を掛けた。
「実は……」
俺は正直に不穏なメイドの行動をアルフォンスへと相談してみる。
手に不審なロープを持って入室してきたこと。逃げた俺を必死に追いかけて来たことなどだ。
それを聞いたアルフォンスは俺を痛ましげに見遣りながら、それは怖かっただろうと慰めてくれる。
今はその優しさがじわりと胸に沁みた。
それからアルフォンスは執事のギャロットを呼び出して俺から聞いた話を漏らさず彼へと話し、そんな危険なメイドを俺の傍には置いてほしくないから解雇をと口にした。
これにはギャロットも困惑顔だ。
けれど何故かアルフォンスは決して引かず、なんならそのメイドがいなくなるまで俺を公爵家で預かるとまで言ってくれた。
これには俺も感動して思わず涙が滲んでしまう。
それだけ…あの異常なメイドが怖かったのだ。
そんな俺の様子を見て事の重大さをやっと認識してくれたのか、そういうことなら侯爵が帰り次第話しておくので今日のところはロード公爵家でお過ごしくださいと送り出してくれた。
これには俺もホッと胸を撫で下ろし、交渉してくれたアルフォンスに素直に感謝したのだった。
でも────ガタゴトと揺れる馬車の中で俺を抱き寄せて頭を撫でてくるのはちょっとやり過ぎじゃないだろうか?
「アルフ…」
「なんだ?」
「俺もう大丈夫だから」
「無理はしなくていい。さっきまで震えていただろう?」
そうは言うけどもうだいぶ落ち着いたし、どちらかというと友達にこんな風に甘えている方が恥ずかしいような気がする。
今更?とは思うけど、落ち着いたら流石にそろそろ離れた方がいいんじゃないだろうかって思うのが普通だろ?
「でもその……」
「レオ。大丈夫。俺の前では何も飾らなくていいから気にせず頼ってくれ」
友達だろと優しい眼差しを向けてくれるアルフォンスの好意を無碍にはできそうにない。
俺は仕方なくロード公爵家までアルフォンスの方へと身を任せた。
***
ロード公爵家は国内有数の名家で、領地は豊かで交易も盛んなため非常に裕福だ。
俺の侯爵家も裕福だが、ロード公爵家はそれより遥かに格上だった。
そんな公爵家の嫡男ということもあってアルフォンスは非常にモテる。
まだ成長途上だと言うのに凛々しい切れ長の目が男らしさを強調し、背も高くてそれなりに筋肉もついているから正直羨ましいほどカッコよかった。
俺はと言うとカッコいいと言うよりは美麗な容姿で、変な色香漂う妖しい系美人とでも言うんだろうか?
ゲームではイケメンドSキャラだったけど、性格が歪んでなければ普通にモテる容姿だとは思う。
ただそれでも俺は女が苦手だから女に騒がれたくはないなというのが本音だった。
アルフォンスのようにきゃあきゃあ言われたくはない。
別にゲーム通りのドSキャラになる気はないけれど、適度に人を寄せ付けないよう対策は取った方がいいだろう。
それこそ女には冷たい目線を送るだけで十分効果は見込めるはず。
美人の冷たい目って結構心に刺さるはずだし、誰もわざわざ好き好んで近づいてきたりはしないだろう。
俺は俺が心を許した相手にだけ素の自分を見せられればそれでいいし、友達のアルフォンスには自分を偽ることもない。こんな相手を何人か作れればそれだけで十分だと思った。
アルフォンスはいい奴だ。
気さくに俺に話しかけ、楽しいことや面白いことを一緒になって楽しんでくれる優しい親友。
小さい時から仲良く遊んでいる仲だから気心も知れているし、絶対に裏切らないという安心感もある。
ゲームではすれ違っていた部分があるみたいだけど、あのメイドがいなくなった今は何も問題は起こることなく二人の仲は良好だった。
でも…ここ最近時々スキンシップが激しくなってきたような気がするんだけど、どうしてだろう?
やっぱりお年頃だからかな?
そう言えば転生前も友人がやけにスキンシップが激しかった時期があったなぁなんて思いながら、俺は日々を過ごしていた。
そうこうしているうちに月日は過ぎ、あと半年で学園に入学という時期にとうとう俺に婚約話が持ち上がった。
相手は俺より二つ年下の伯爵令嬢で、ミオ=ガーネット。言わずもがなゲームのヒロインだ。
稚い愛らしい容姿はどこからどう見ても癒し系で、大抵の男は好ましく思うことだろう。
けど、俺は別だ。
本人を目の前にしてもやっぱりゲームで受けた印象と全く変わらず嫌いなタイプだったし、甘えるような声にはゾワゾワ鳥肌が立った。
せめて知的なクール系女子ならまだよかったのに、どうしてこのタイプを婚約者にしてきたのかとつい父親を冷めた目で見つめてしまう。
デレデレと頬を緩ませる姿を見る限り、単なる父の好みではないのかと言いたくなった。
「初めまして。ミオ=ガーネットと申します。これからよろしくお願い致します」
そう言ってどこか媚びを売るような顔で笑顔を向けられたけれど、どうしても妹の顔とそれが重なって心から笑いかけることができなかった。
「レオ=ダンタリオンだ。……よろしく」
きっと俺は冷めた目で冷たく笑っていただろう。
その表情を見て彼女も何か感じたのかもしれない。
少し顔を顰めた後、取り繕うように笑って頭を下げた。
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