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2.運命の岐路①
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一先ず俺は自分の記憶を改めて辿ってみることにした。
憑依的なものじゃなくちゃんと転生のようなのでレオとしての記憶はちゃんとあるし、これまでの行いは振り返ることはできる。
やっと前世と今世の記憶が混ざって落ち着いたようなのでそれを踏まえた上でよくよく考えてみよう。
そう思ってみたものの────。
「あれ?」
俺は記憶を辿ったはいいがそこまでの悪行は微塵もなくて拍子抜けしてしまった。
精々ちっさな頃にちょっとしたいたずらでメイド達を困らせた程度じゃないだろうか?
そこでふと鏡の方を見ると、ゲームの中のレオよりも若い少年時代のレオの姿が目に入る。
年の頃で言うと13~14才くらいじゃないだろうか?
そこで自分の年って幾つだったっけと考えたところで、先日14才の誕生日を迎えたばかりだと思い出した。
確かレオに婚約者ができるのはもう少し先だったと思うから、きっとこの後性格がねじれるような何かがあるのだろう。
そうでないと何一つ説明がつかないほど今のレオは普通の少年だった。
一体何がレオを歪ませたのか?
そう考えているとコンコンとドアをノックする音が聞こえてきたので誰何の言葉をかける。
すると暫く沈黙が降りたところで、聞き慣れたメイドの声が返った。
「レオ様。今お時間の方、よろしいでしょうか?至急お話したいことがあるのですが…」
普段ならきっと特に考えもせずレオは入れと言ったと思う。
けれど、その時何故か俺はおかしいなと思ってしまった。
特に根拠はない。
敢えて言うなら前世の勘とでも言うのだろうか?
妹が何か悪巧みしている時に猫をかぶって近づいてくる時のような嫌な予感がしたのだ。
だから────俺は咄嗟にドアの死角に入ってから入室の許可を出した。
いつでも逃げられるように。
これは前世の記憶が戻ったからこそ働いた機転だろう。
そして入ってきたメイドは入ってすぐに後ろ手でドアの鍵を閉め、ニタリと笑って部屋の中を見回し俺の姿を探し始めた。
その姿は異様そのものにしか感じられなくて、俺は彼女の死角を上手く利用し背後を取るとすぐさまドアのカギを開錠して部屋の外へと飛び出した。
(なんだよアレ!)
どう見ても絶対におかしかった。
手にロープを持ったメイドなんて怪しさ満載だ。とても主家の人間の部屋に入る者の行動とは思えない。
もしかしなくてもあれで俺を拘束して何かやらかそうとしていたのではないか?そんな思いが頭をよぎりゾッとして背筋に冷や汗が流れた。
万が一にでも襲われたらとんでもないトラウマになりそうだ。
そこでハッといつだったか妹がそんなことを言っていたのを思い出した。
『レオ様はね、昔メイドに無理矢理酷い目に合わされたから女が許せないのよ。だからヒロインに冷たいの』
『幼馴染のアルフォンス様との仲が悪くなったのもそれが原因なのよ。その事件の第一発見者だったとかで、悲惨な状況を目撃されて心が壊れてしまったのね、きっと』
無邪気に話されていたそれらの言葉が思い出されるとともに、後ろから凄い勢いで追いかけてくるメイドの足音が聞こえてきた。
俺はそんな彼女から勢いよく走って距離を取る。
ここで捕まったら一巻の終わりだということくらい嫌でもわかるから、震える身体を叱咤して必死で逃げた。
なんとか人けが感じられる玄関ホールへと向かい走っていると、ちょうど角を曲がってきた相手と思い切りぶつかってしまう。
「うわっ!」
正直追ってくるメイドが怖くて慌てて立ち上がろうとしたけれど、ガクガク震えて思うように立ち上がれない。
どうやら俺は想像以上にあのメイドに恐怖を感じて怯えていたらしい。
そんな俺にぶつかった相手はそっと優しく手を差し伸べてきた。
「レオ?そんなに慌ててどうしたんだ?」
見上げるとそこには幼馴染のアルフォンスの姿があるではないか。
「ア、アルフッ!」
そのことにホッとしてその手を取ろうとしたところで背後からメイドの声が聞こえてビクッと大きく慄いた。
「ああレオ様。やっと追いつきましたわ。……アルフォンス様が来られるとお知らせに参りましたら突然部屋を飛び出されてしまったので驚いてしまいました。アルフォンス様、申し訳ございません。すぐにレオ様のお支度を整えますので、客間にてお待ちいただけますか?」
そのメイドはまるで何事もなかったかのようににこやかにアルフォンスへと言葉を紡ぐが、俺にはそれが恐ろしくてたまらなかった。
ここで引き渡されたらどうしようとそのことばかりが頭の中をグルグル回る。
心臓がバクバク弾んで胸が痛い。いざとなったらすぐさま逃げなければ────。
そんな俺の耳に飛び込んできたのは思いもしないアルフォンスの言葉だった。
「レオ、そんなに俺に会いたかったのか?嬉しいな。メイドのカルメン…だったかな?確か。レオは俺に会いたかったようだし、もうこのまま連れて行く。支度は不要だ」
「えっ?!ですが公爵家の方にご無礼があってはいけませんので、せめてお支度だけは…」
「いや、結構だ。ほらレオ。行こう?」
そうやって優しく笑って助けてくれたアルフォンスに涙が出そうになる。
(た…助かった……)
大人しく引き渡されなくて本当に良かった。
そう思いながら俺はアルフォンスに促されるまま客間へと向かったのだった。
憑依的なものじゃなくちゃんと転生のようなのでレオとしての記憶はちゃんとあるし、これまでの行いは振り返ることはできる。
やっと前世と今世の記憶が混ざって落ち着いたようなのでそれを踏まえた上でよくよく考えてみよう。
そう思ってみたものの────。
「あれ?」
俺は記憶を辿ったはいいがそこまでの悪行は微塵もなくて拍子抜けしてしまった。
精々ちっさな頃にちょっとしたいたずらでメイド達を困らせた程度じゃないだろうか?
そこでふと鏡の方を見ると、ゲームの中のレオよりも若い少年時代のレオの姿が目に入る。
年の頃で言うと13~14才くらいじゃないだろうか?
そこで自分の年って幾つだったっけと考えたところで、先日14才の誕生日を迎えたばかりだと思い出した。
確かレオに婚約者ができるのはもう少し先だったと思うから、きっとこの後性格がねじれるような何かがあるのだろう。
そうでないと何一つ説明がつかないほど今のレオは普通の少年だった。
一体何がレオを歪ませたのか?
そう考えているとコンコンとドアをノックする音が聞こえてきたので誰何の言葉をかける。
すると暫く沈黙が降りたところで、聞き慣れたメイドの声が返った。
「レオ様。今お時間の方、よろしいでしょうか?至急お話したいことがあるのですが…」
普段ならきっと特に考えもせずレオは入れと言ったと思う。
けれど、その時何故か俺はおかしいなと思ってしまった。
特に根拠はない。
敢えて言うなら前世の勘とでも言うのだろうか?
妹が何か悪巧みしている時に猫をかぶって近づいてくる時のような嫌な予感がしたのだ。
だから────俺は咄嗟にドアの死角に入ってから入室の許可を出した。
いつでも逃げられるように。
これは前世の記憶が戻ったからこそ働いた機転だろう。
そして入ってきたメイドは入ってすぐに後ろ手でドアの鍵を閉め、ニタリと笑って部屋の中を見回し俺の姿を探し始めた。
その姿は異様そのものにしか感じられなくて、俺は彼女の死角を上手く利用し背後を取るとすぐさまドアのカギを開錠して部屋の外へと飛び出した。
(なんだよアレ!)
どう見ても絶対におかしかった。
手にロープを持ったメイドなんて怪しさ満載だ。とても主家の人間の部屋に入る者の行動とは思えない。
もしかしなくてもあれで俺を拘束して何かやらかそうとしていたのではないか?そんな思いが頭をよぎりゾッとして背筋に冷や汗が流れた。
万が一にでも襲われたらとんでもないトラウマになりそうだ。
そこでハッといつだったか妹がそんなことを言っていたのを思い出した。
『レオ様はね、昔メイドに無理矢理酷い目に合わされたから女が許せないのよ。だからヒロインに冷たいの』
『幼馴染のアルフォンス様との仲が悪くなったのもそれが原因なのよ。その事件の第一発見者だったとかで、悲惨な状況を目撃されて心が壊れてしまったのね、きっと』
無邪気に話されていたそれらの言葉が思い出されるとともに、後ろから凄い勢いで追いかけてくるメイドの足音が聞こえてきた。
俺はそんな彼女から勢いよく走って距離を取る。
ここで捕まったら一巻の終わりだということくらい嫌でもわかるから、震える身体を叱咤して必死で逃げた。
なんとか人けが感じられる玄関ホールへと向かい走っていると、ちょうど角を曲がってきた相手と思い切りぶつかってしまう。
「うわっ!」
正直追ってくるメイドが怖くて慌てて立ち上がろうとしたけれど、ガクガク震えて思うように立ち上がれない。
どうやら俺は想像以上にあのメイドに恐怖を感じて怯えていたらしい。
そんな俺にぶつかった相手はそっと優しく手を差し伸べてきた。
「レオ?そんなに慌ててどうしたんだ?」
見上げるとそこには幼馴染のアルフォンスの姿があるではないか。
「ア、アルフッ!」
そのことにホッとしてその手を取ろうとしたところで背後からメイドの声が聞こえてビクッと大きく慄いた。
「ああレオ様。やっと追いつきましたわ。……アルフォンス様が来られるとお知らせに参りましたら突然部屋を飛び出されてしまったので驚いてしまいました。アルフォンス様、申し訳ございません。すぐにレオ様のお支度を整えますので、客間にてお待ちいただけますか?」
そのメイドはまるで何事もなかったかのようににこやかにアルフォンスへと言葉を紡ぐが、俺にはそれが恐ろしくてたまらなかった。
ここで引き渡されたらどうしようとそのことばかりが頭の中をグルグル回る。
心臓がバクバク弾んで胸が痛い。いざとなったらすぐさま逃げなければ────。
そんな俺の耳に飛び込んできたのは思いもしないアルフォンスの言葉だった。
「レオ、そんなに俺に会いたかったのか?嬉しいな。メイドのカルメン…だったかな?確か。レオは俺に会いたかったようだし、もうこのまま連れて行く。支度は不要だ」
「えっ?!ですが公爵家の方にご無礼があってはいけませんので、せめてお支度だけは…」
「いや、結構だ。ほらレオ。行こう?」
そうやって優しく笑って助けてくれたアルフォンスに涙が出そうになる。
(た…助かった……)
大人しく引き渡されなくて本当に良かった。
そう思いながら俺はアルフォンスに促されるまま客間へと向かったのだった。
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