黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第三部 アストラス編~竜の血脈~

25.※子ドラゴンが生まれる条件

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シュバルツは正直パニックだった。
最初に二人の邪魔をした時も焦ったが、その後急に始まったクレイの口淫は、正直気になって指の間から覗いてしまうくらい圧巻だった。
噂には聞いていたが自分とは雲泥の差だ。
あれは比べるだけ無駄だとよくわかった。
ロイドが絶賛するのも納得だ。
その後クレイの好意で温泉を満喫させてもらっていたが、二人は仲良く寄り添っていてまさに『仲良し夫婦』という感じだった。
自分もこんな風にロイドと夫婦になりたいなと思っていると、急に話を振られて慌てふためく。
ロイドに抱かれた時のことを思い出す羽目になったからだ。
元々少しくらいは抱かれてもいいと思っていただけに、どっぷりハマりそうで怖いと思った。

『シュバルツ…これはどうだ?』

そう言って騎乗位とはまた違う体位で攻めてくるロイドが色っぽくて、ついついもっととねだってしまった。
いつもとは全然違う閨に興奮したと言えるだろう。
けれどロイドを悦ばせるのも大好きだし、一方的に襲われるのはたまにならいいが常時は嫌だ。
それもあってつい逃げてしまう自分がいた。
それなのに─────。
恐らく眷属からこっちに自分がいることを聞いたのだろう。
ロイドが迎えにきてしまったのだ。
温泉でゆっくり浸かりながら考えたいと思っていたのに台無しだった。
けれどまたしてもクレイと思わせぶりな言葉で話す姿にイラッとしてしまった。
ロイドと自分はもう結婚を誓い合った仲なのに酷いと思う。
だから避けていたことも忘れて、そのまま引き寄せ口づけた。
けれどそんな自分達を置き去りに、何故かクレイとロックウェルが盛り上がり出す。
どうもロックウェルはクレイが言っていたように以前と違い激しい嫉妬をしなくなったらしく、その雰囲気はどこか甘い。
クレイ自身それはそれで嬉しいようで、嬉々として二人の世界を作り上げていた。
そのせいか、正直二人の口づけは大人な口づけそのものだった。

(何あれ?!エロい!)

自分のように相手に翻弄されるがままだったり、拙い舌遣いだったりではなく、翻弄しにかかるロックウェルの舌を逆に弄ぶかのように嬲りにかかるクレイの舌。それと同時に唇を食むように使い互いを高め合い、目線もまるで相手の隙を窺うように妖しく絡め合わせながら煌めかせているのだからたまらない。

(大人のキスだ────!!)

あんなのとてもではないがこれ以上直視などできはしない。
既に下半身が刺激されて、今の自分には目の毒状態だった。
けれどそんな自分を見て、ロイドが呆れたように言ってくる。

「シュバルツ、何を恥ずかしがってるんだ?しっかり見ておけ。あれくらいできるようになってくれないと、この先楽しめないだろう?」
「ええっ?!」

そんなの無理に決まっている。
ロイドは一体自分にどれだけ期待しているのだろう?

「私に飽きられたくなかったらチャンスは生かすべきだ。ほら、ちゃんと見ろ。それとも今から実践で教えてやろうか?」
「そ…それは…」

その言い方は卑怯ではないだろうか?
飽きられたくない。そう思って渋々顔を上げてチラリと二人の方へと視線を向けると、何やらロックウェルがドSな事を口にしていた。

「自分で開いてねだったら挿れてやるぞ?」

どうやら嫉妬していなくてもロックウェルのドSは変わらないらしい。
正直これまでのクレイなら恥ずかしがって逃げだす類の事だ。

(これでこの大人な空間から脱出できる!)

だからそう思ったのに────。

何故か少々悩んだ末にクレイはバックの体勢でそこを開いてねだったのだった。

「ロックウェル……舐めて?」

色香をこれでもかとふんだんに含んだ艶のある甘い声。
艶めかしく高く腰を上げ、そこを広げて誘うようにロックウェルを熱く見つめる目線。
あまりにも魅力的で美味しそうなその淫靡な姿を見て、不覚にも抱きたいと思ってしまい、慌てて真っ赤になりながら俯いてしまった。

(く、黒魔道士の誘惑の威力にやられるなんて!)

これはこれまでの『恋人に振り回されるクレイ』ではない。
どこからどう見ても『黒魔道士のクレイ』だった。
方針を変えたらしいクレイのその本領は凄まじかった。
そんな風にゾクゾクしたのはどうやら自分だけではなかったらしく、ロイドまで熱い眼差しをクレイへと向けている。
悔しいがこればかりは責められない。
それなのにロックウェルはそんなクレイを舌と手で嬲るだけ嬲って一向に挿れようとはしなかった。
正直物凄い忍耐力だと思う。
やはり場数が物を言うのだろうか?
あれですぐさま抱こうとしなかったのは称賛ものだと思った。
そうして焦れたクレイが体位を変えて再度挿れて欲しいとねだったところでやっと挿れたのだが、正直ドSここに極まれりという感じだった。

まあ全力で煽られたのだから少しくらい激しくなるのはわからないでもない。
けれどどうやら最奥まで串刺しの上、下から直に魔力を注いだらしい。
クレイが『この鬼畜!』と叫んで気絶したのもわかる酷さだ。
流石にこれはない。
しかも『勝手に気絶するな』とすぐさま起こして、そこからは悶絶地獄だった。
さすが黒魔道士二人にドSと言われるだけのことはある男だ。容赦がない。

他人の行為は初めて見たが、こうして目にして初めて思うこともある。
クレイはどうしてこんな鬼畜な男がずっと好きなのだろう?
いい加減嫌になったりはしないのだろうか?
ロイドの方がずっといい男なのに、こんな酷い抱き方をするロックウェルの方が良いなんて理解に苦しむ。
まあだからこそ自分がロイドを手に入れられたとも言えるのだが……。
でもあそこまでされても呼吸困難にならないのは本気で凄いと思った。
まさに阿吽の呼吸だ。
あれは確かにクレイが言っていたように、ドSの本領が遺憾なく発揮されていると言えた。
ロックウェルのクレイの呼吸管理はそれだけ完璧だった。
そうしてついつい目が離せないでいると、隣から『お前があんな風にドSになったら別れるからな』というご尤もな声が聞こえてきた。

「なるわけないだろ?!」

確かに夢中になるとたまに蹂躙してしまうが、自分はここまでドSではない。
とは言え呼吸管理は是非とも見習いたいと思う。

「それより…」

あの二人のせいでもうのぼせそうで、そのまま湯から出て縁に腰掛け魔法で身体を冷やしにかかった。
本当ならこのままそっと出て行くのがいいのだろうが、すぐに動けないお子様な自分が情けない。
そんな自分を見てロイドが妖しく笑う。

「抜いてやろうか?」

そう言うロイドもどうやらあの二人に煽られているらしく、その表情には欲情の色が垣間見えた。

「抜くだけじゃ足りない…」

クレイの嬌声が熱を煽ってくるからロイドを抱きたいと言うと、ロイドはいいぞと言ってくれる。
どうせあの二人は自分達の世界に夢中だからと言われ、確かにと納得がいったのでそのままロイドの後ろへと優しく指を這わせた。

「んっんっ…」

少し慣れてきたところでゆっくりと指を中へと差し入れてもロイドは声を抑えようとするので、クスリと笑ってしまう。

「ロイド…どうせクレイの嬌声で聞こえないから、無理に声を殺さなくていいよ?」

そう言ってやるとそれもそうかと思ってくれたらしく、意外にも素直に声を聞かせてくれた。

「はぁ…ん……。はっ…シュバルツ。早く欲しい」

そしてさっきのクレイと同じように誘ってきたので、煽られるがままにゆっくりと挿入した。

「ぁうッ!」
「凄いね、ロイド。中、すっごく熱い。あの二人に煽られ過ぎでしょ」
「ふぁッ!お、前だって、同じくせに…ッ」

潤む目でいつもより大きい気がすると言われて、確かにと思った。

「あぁっ!気持ちいいッ!」

どんどん蕩けていくロイドを犯していくと段々ともっと可愛がりたくなって、すっかりクレイ達のことは忘れて思い切り攻めている自分がいた。
ロイドの前も手で扱き上げ、クリクリと先端まで可愛がり奥の好きなところをこじ開けるための下準備に入る。
たっぷり弱いところを攻めればロイドは溶けていく。
そこまでいけば後は自然に体位を変え、奥まで一気に貫けるようになる。

「はぁっ…シュバルツ、シュバルツ…ッ!」

熱に浮かされたかのように名を呼ばれ、応えるように口づけを返すと嬉しそうに抱きついてきてくれたので、そのまま片足を持ち上げ半分だけ捻るような体位で奥まで貫いた。
ヒュッと一瞬息を呑み、ロイドが乱れ始める。

「はぁうッ!当たってる!これ、ダメッ!」
「ダメじゃないでしょ?」

大好きなところにズッポリ入って最早ロイドは嬌声を上げるしかない。

「あっあっあっ!やっ…!イクッイクッ!」
「いっぱいイって?」
「あ────ッ!」

ヒクンヒクンと身を震わせイク姿は何度見てもいい。

「ん…今度はこっち」

そうして口づけと共に魔力を交流させてどこまでも溺れさせていく。

「あぁッ!シュバルツッ…!シュバ、ルツッ…!」
「気持ちいい?ロイド」

けれどロイドはうっとりとこちらだけを見つめ、返事の代わりに口づけを交わしてくれた。
この状況で余所見をせずに自分だけを見つめてくれるのが素直に嬉しい。

「一緒にイこうね、ロイド?」

そしてロイドが苦手な体位で何度も突き上げ、最後に思い切り奥まで注いでやった。

「────ッ!!ンクッ!ひう…あ…あぁ……ッ」

いつもと違って回復魔法を使わず呼吸だけを気をつけてイかせ続けたせいか、ロイドは意識を半ば飛ばしながら荒い息を整え、蕩けきった表情でこちらに身を任せてきていた。

(こういうのもいいかも……)

すごく恋人らしくて、こんなロイドも可愛いと思う。
そうしてニコニコしながら抱き締めていると、ロックウェルの方もいつの間にか終わっていたらしくクレイを抱き上げて話しかけてきた。

「シュバルツ殿。私達はこの後まだ続きがあるのでお先に失礼します。後は気にせずごゆっくり」

正直まだ続きがあるのかと驚いたが、どうやら腕の中にいるクレイが文句を言ったかららしい。

「ロックウェル!自分で歩けるから降ろせ!」
「どうせ一緒にベッドに行くんだから大人しく抱かれていろ」
「次は俺の番だろう?!約束だぞ!」
「わかったわかった。たっぷり愛し合おうな?」
「ん…」

そうして二人で幸せそうに軽く口づけ合って『お先に』と温泉から出て行った。
正直あんな目に遭わされてもあんなに嬉しそうにできるクレイは凄いと思う。
普通なら泣きながら逃げ出すレベルだ。

(あそこは完全に上級者レベルだから、きっと想像できないくらいの何かがあるんだろうな…)

そう思いながら、そっと自分は自分の幸せを手に入れようとロイドを抱き寄せた。

「ロイド…。帰ってゆっくり休もうね」

湯冷めしないように二人分回復魔法を唱えてそっとロイドを抱き上げる。

「ダート、お願い」

そしていつものように眷属に頼んで自分達の部屋へと帰り、そのまま幸せを噛み締めながらロイドと共に眠りに就いた。


***


正直もう少しクレイを可愛がりたかったのだが、こっちが盛り上がったせいか、後ろで恋人達が盛り上がり始めてしまった。
夢中になってるだろうから構わないだろうと思ったのかもしれないが、当然そんなわけがない。
黒魔道士は気にしないかもしれないが、自分は白魔道士だ。
それに経験値が少なく余裕のないシュバルツとは違い自分は一応余裕もある。
つまり……気になると集中できなくなって────萎える。
こちらが先に盛り上がった手前文句は言えないが、他者と同所で行う行為がこんなにもやる気を削ぐものだとは思ってもみなかった。

(これなら一度注げば十分だな)

クレイの可愛い表情と気持ちいい締めつけに出来るだけ集中して奥へと思い切り注ぐと、クレイがビクビクッと震えてまたドライで飛んだ。

「はぁ…ロックウェル…も、終わる気だろ」

ぐったりしながらもクレイはこちらを劣情を孕ませた目で見つめ、そう言ってくる。
その表情には唆られるが、この場ではもうする気はない。

「ああ。邪魔も入ったことだし、のぼせる前に上がろうと思ってな」

そうして回復魔法をかけてやるとやっぱり酷いと言われてしまった。

「人をドライでだけイカせ続けて終わりなんて酷い!」

『このドS!』と怒られて、そう言えば前を戒めたままだったと思い出した。
そうは言っても気が乗らないのだから仕方がないと言ってやる。

「それなら、あっちが終わったら部屋に戻ってリベンジだ!」
「わかったわかった。ベッドでなら好きなだけ付き合ってやる」
「約束だぞ?」

そう言いながらクレイは嬉しそうに口づけてくれた。




あちらへと視線をやると、あっちはあっちでもう少しかかりそうだった。
こうしてみるとシュバルツはロイドに随分育てられたのだなと感心してしまう。
認めるのは癪だが、流石一流の黒魔道士を自負しているだけのことはあるといったところか。
けれど正直シュバルツに抱かれているロイドはいつもとは違って、素のロイドという感じがして年相応に見えた。
そんな中、クレイがクスリと隣で楽し気に笑う。

「ロイドは思った通り快感に弱いな。ああいうわかりやすいところがあいつの可愛いところなんだよな」

クレイにこんな風に言われるのはどうなのだろう?
とは言えなんとなくクレイが言いたいことは分かる気がした。
クレイ曰く、ロイドはそれこそ弟のような感じなのだとか。
兄の背を追い、いつか追いついてやると思い、仲良く話し他愛のない話で盛り上がる。そんなイメージらしい。
もちろん実際は弟ではないし一番話の合う親友ポジションだとも言っているが、その眼差しはやはり身内を見るように柔らかい。
確かにそういう感覚だとするなら、自分がこれまで嫉妬する度にクレイが言っていた言葉もすんなり納得することができる気がした。
一体自分は何をあんなにイライラしていたのだろう?
ロイドだって、今はあんなにシュバルツに溺れているというのに…。
まさかあのロイドがあれだけ素直に身を任せているとは思いもよらなかった。

「シュバルツ…ッ!」

あんなにも夢中で溺れ、甘い声で名を呼んでいるなら余所見の心配も全く必要ないことだろう。
そうこうしているうちに二人でイッたようだったので、さっさとここを立ち去るべく落ち着いた頃合いを見計らってクレイを抱き上げ、シュバルツへと声を掛けた。

ロイドを抱き寄せるシュバルツに『お先に』と言って温泉を後にして、部屋へと向かう。
クレイは余程時間が惜しいのか、魔法で髪と身体を乾かしてきたのでつい笑ってしまった。

「ロックウェル!今度はさっきみたいなことはするなよ?あれは俺じゃなかったら腹上死していてもおかしくないほどの快感だったんだからな?」

咄嗟に魔力量に合わせて魔法で精神面を防御したのだとクレイは文句を言ってくるが、そもそもクレイはもうこういったことに対し結構な耐性をつけているからそこまで怒るようなことではないように思うのだが…。

「普通にやっても気絶する場所を魔力責めにするなんて、ドSにも程がある!」

どうやら先程の行為は体内での魔力交流とはまた違う魔力責めという新たな技になってしまったらしく、クレイは自分以外には絶対にやるなと注意を促してきた。
そんな風に言わなくてもクレイ以外と寝る気はもうないし、気遣うとするならクレイにだろう。

「そうか。じゃあ今度からは私がしっかり精神防御の魔法をかけてやるから安心しろ。大事なお前を殺したくはないからな」
「……お前の魔力で死ぬなら本望だ」

それはそれで幸せすぎるから良いと言ってのけるクレイについ喜びが込み上げ、頬が緩んでしまう。
死んでほしくはないが、それだけ自分のことが好きで感じてしまうと言われたのと同じだったからだ。
魔力の相性が良過ぎと言うのも考え物かもしれない。
自分の魔力で染め上げたい気持ちと、死なれては困るという気持ちの板挟みに胸が締め付けられる。

「クレイ…愛してる」

だから込み上げる愛しい気持ちそのままに、優しく愛でながらゆっくりとシーツの海に沈み込んだ。




それから─────。

「ひぅ…、あ……んんッ」

夜明け頃、腕の中で溺れ切りビクンビクンと震えながら虚ろな目で力なく横たわるクレイの姿があった。
正直ここまでする気はなかったのだが、途中から『黒魔道士としてもっと全力で楽しませてやる』と張り切ったクレイがあまりにもこちらのツボ過ぎて、ついやり過ぎてしまったかもしれない。
これではドSと言われても何も反論できないし、対抗手段でクレイが瞳の封印を解いて下半身に魔力を込めて自己防衛に走ったのもわかる。
どんどん込められていく魔力量が増えてきて焦ったのだろうから、それを咎める気はない。
けれど……。

【ロックウェル様…これではすぐに子沢山になって、ドラゴンの谷そのものが復活してしまいますよ?】
【わーい!兄弟、兄弟!】
【弟、弟!】

ヒュースからは呆れたように溜め息を吐かれ、ラピスとルナには大喜びされた。
そこに居たのは自分そっくりな顔立ちと銀髪を持つ、クレイと同じアメジスト・アイを持った子供ドラゴンだった。
まさか一日に二体も魔物が生まれるなんて思いもよらなかった。
一般的に魔力溜まりというものはそんなに簡単に出来るようなものなのだろうか?
正直こんなにぽんぽん生まれてこられて、唖然としてしまう。
本当に程々にしないとこのままではヒュースが言うように、あっという間にドラゴンの谷が必要になる程溢れてしまうことだろう。

先程わかったのだが、どうもドラゴン誕生はクレイ側の影響が大きいらしい。
『瞳の封印が解かれている状態』で『魔力の量、質、循環が最高の状態であること』が条件のようだった。
ラピス達が教えてくれたのだが、この『循環が最高』というのがどうもクレイが最高に気持ち良いと満足している状態の事らしく、魔力が一段と活性化するのだそうだ。
それが凄まじい魔力の奔流となって溢れ出て魔力溜まりを作り出し、ドラゴンを生み出しているのだとか。

気持ちよくなってくれるのは素直に嬉しいから別に構わないが、これは困る。
そうして困惑していると、実にあっさりとヒュースが答えを言ってくれた。

【タイミングを見計らって、途中でロックウェル様側の魔力を解除すれば良いのですよ】

そうすればクレイの魔力が必要以上に膨れ上がることもないと言われ、なるほどと思った。
これなら大丈夫かもしれない。
そうしてそのまま眠ってしまったクレイの髪を撫でてそっと口づけを落とすと、新たに生まれたそのドラゴンに名前をつけた。

「リド…でどうだ?」
【リド?】
「ああ。クレイは宝石を連想させる名前にしたいようだったしな。ペリドットからとってみた。『夫婦の幸福』という意味のある石だ」

そう言ってやると、嬉しそうに何度もその名を口にしていた。

【リド!僕の名前!】
「兄弟三人仲良くするんだぞ?」

そう言ってやると笑顔で揃って頷いた。

その後は軽くクレイの汗を流してやってから共に眠りにつく。
きっとリドが生まれたことは気づいてなかったと思うから、起きたら驚くだろうなとそっと抱き寄せたのだった。


***


「ん……」

朝目が覚めると大好きなロックウェルの腕の中で、幸せいっぱいな気持ちに包まれた。

「う~…幸せ」

そうしてそっと寄り添って暫しの幸せを満喫していると、ロックウェルの身体がピクリと動きゆっくりとその綺麗な瞳が開かれた。

「おはよう。ロックウェル」

そう声を掛けると、どこか冷たく見えるその顔に綺麗な笑みを湛え優しい眼差しのまま口づけをくれる。

(…まずい)

正直ここ数日ロックウェルはこれまで以上にキラキラしすぎだと思う。
前のように嫉妬しなくなったというのに、何故かこれまで以上に格好良く見えてならない。
こんなロックウェルを結婚という形で独り占めしている自分はなんと贅沢なのだろう…。
いっそのことロックウェルそっくりの子供が欲しいくらいだ。
そう思っていると、ロックウェルが不思議そうに顔を覗き込んできた。

「クレイ?どうかしたのか?」
「なんでもない」

そう言って照れ隠しに素早く身を起こし、素っ気ない態度で寝台から脱出する。

「今日は父様と一緒に朝食を食べるんだ。早く行くぞ」

そうして出来るだけ平静を装い、さっさと一人で部屋を出た。




クレイが冷たい。
正直『置いていかれた』と言う気持ちでいっぱいだった。
昨日虐め過ぎたせいだろうかと少々反省していたのだが、それをフォローするようにヒュースがあれはただの照れ隠しだと口にする。

【ロックウェル様が目を覚まされるまで幸せそうに寄り添ってらっしゃいましたし、心の声がダダ漏れで眷属一同良かったですねとしか言えないほど好きが溢れておられましたよ?】
「……」

それは本当だろうか?
逃げるように寝台から脱出されて、全くそんな風には見えなかったのだが…。
どうもクレイはわかりやすい時とわかりにくい時がある。
けれどそんな自分にラピス達がやってきて言った。

【僕達も見てたよ!】
【クレイ凄く嬉しそうだった!】
【こっそりレオが教えてくれたけど、ロックウェルそっくりの子供も欲しいって考えてたみたいだよ。それで余計に恥ずかしかったみたい!】
「そ…そうか」

どうやら本当に照れ隠しの行動だったようで、ポロリと溢された暴露話に頬を緩ませながら自分もすぐに後を追う。

(私に似た子…か)

それなら早めにリドの紹介もしてやるべきだろう。

(きっと喜ぶ)

────そう思いながら朝食の席へと急いだのだった。



────────────────

※次回クレイの母親が出てきますが、苦手な方はスルーをお願いします。

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