黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第三部 アストラス編~竜の血脈~

4.※無二の友

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シュバルツとの仲が解消されるかもしれない────。
それは思った以上にショックなことだった。
だから…有り得もしない『今後はセフレでも』などと言う言葉を口にしてしまったのかもしれない。
王族同士が結婚すれば、叶うはずもない願いだと…十分すぎるほどわかっているはずなのに。

これまで色々あった自分達だけれど、婚約もしてシュバルツのソレーユでの立場も確立して、全てが何の問題もなく過ぎ去る日々。
きっとこのままなんだかんだと喧嘩しつつも二年を過ごして、また楽しく言い合いをしながら結婚に至るのだろうなと……漠然とそう思っていた。
それなのに、それは危うい薄氷の上の関係に過ぎないのだということをまざまざと実感させられて、愕然とした。

『ロイド。お前には可哀想だが────』

そう言いにくそうに言ってきた自分の主人の言葉が胸へと突き刺さる。
それはもうどうしようもないことなのだと…そう暗に語っていたからだ。

王族の力はとても大きなものだ。
しかもそれが他国のものであるのならば、余程のことがない限りはまかり通ってしまう。
特に今回の件については、言われるまでもなく手の施しようのない案件だった。
フローリアがシュバルツの子だと言えばそれが事実とされる。
何故なら元々二人はセフレの関係にあったのだから、それ自体に説得力もあったのだ。
そうなれば否定するのも難しく、たとえ事実無根だとしてもシュバルツはフローリアと結婚するほかない。
今回はたまたま紫の瞳だったからアストラス王家の血が入っているとすぐにわかったが、そうでもなければシュバルツはあっさりと自分の腕の中からすり抜けてしまっていただろう。
婚約しているとは言え、ただの恋人関係に過ぎない自分には為すすべはない。
それが歯痒くもあり、悔しくもあり、遣る瀬無い思いに押し潰されそうな気持ちになった。

まさか自分がいつ失われるともわからない関係にこれほど恐怖するなんて思ってもみなかった。
可能性は考えたことはあっても、それをこれ程身近に感じ、何も手を打てぬままそれに慄く日がやってくるなんて思いもよらなかったのだ。
まさか一流を自負する自分が何もできない事態に見舞われるなど、考えもしなかった。

失いたくない存在を、失うかもしれない────。
それは明らかな恐怖で、生まれて初めて感じた感情だった。
だからシュバルツが怒っているのはわかっていても、どうしてもいつものようにフォローしてやることができなかった。
こんなに余裕がないのは初めてだ。
それでもこれを機にシュバルツが別れたいと思うかもしれないとは思った。
冷たい黒魔道士の恋人などもういらないと……そう言われてもおかしくはなかった。
けれど今の自分には冗談でも自分優位で別れを口にすることなど出来なかったから、要らなくなったら捨ててくれと投げやりな気持ちで言葉を紡いだ。

そうして呆然としながら寝台に腰掛けていると、結界を張り巡らせた部屋に見知った存在が入り込んでくるのを感じた。

「ロイド」

その声は自分がよく知る声で、誰よりも自分を理解してくれる者の声だった。

「…クレイ」

そう応えた自分はきっとどこまでも情けない顔をしていただろう。
けれどクレイは深くは聞かずに、ただ一言口にした。

「借りを返しに来たぞ」
「…………」
「俺の背中を貸してやる」
「…そこは『胸を貸す』じゃないのか?」

言葉のチョイスに思わずクスリと笑みがこぼれる。

「もちろん胸でもいいぞ?」

そう言いながらもクレイはそっと背後に回って、背中と背中がくっつくようによいしょと座った。
背後から伝わってくるその温もりが、ジワリと自分の心に沁みいってくる。

「お前は人一倍プライドが高いから、こういう時顔を見られたくないだろう?」

ポツリと呟かれた言葉が心に響く。
それはその通りだと思った。

「でも……一人でもいたくないだろうと思ってな」

そんな優しい言葉に不覚にも泣きたくなる。
それならそれでクレイのこの行動は現状最も適したものであった。

「ロイド…悔しい時は泣いてもいい。俺だって、お前にはいっぱい慰めてもらったし…今更だ」

自分達の間にあるのはギブアンドテイクだとクレイは敢えて口にする。
それが一番自分の黒魔道士としてのプライドを傷つけることがないとわかっていての言葉だ。
自分の前でなら何一つ気にすることなく泣いてもいいのだと…そんな言葉を掛けられるのはクレイ以外には居ない。
今はその存在がひどく有り難かった。

「さっきシュバルツにはお前をフォローせず放って置くなんて酷い奴だと言って怒っておいてやったからな」
「……それは、憤慨しただろう」

そんな事を言われたらきっとシュバルツは自分は何も悪くないのにと怒ったはずだと容易に想像がつく。
その場の光景が目に浮かぶようだ。

「勿論憤慨してたぞ?でも俺が代わりに慰めに行ってやると言ったら、ロックウェルと二人で目を丸くして驚いていたな」

正直それは意外だった。
慰めに行くくらいで二人が驚く姿は想像できない。

「フッ…そんなのは、俺が手や口で慰めるか花街に連れて行って慰めてやると言えば一発だ」

そんな風にどこか悪戯っぽくクレイが笑ったのを感じて、ああ成る程とおかしくなった。

「ハハッ…!それは焦っただろうな」

あの二人にはきっとこれ以上ないほど予想外の発言だったに違いない。
想像するだけで笑いが込み上げてくる。
その姿にクレイも安心できたのだろうか?
そっと背中を離れて床へと降りる。

「ロイド。俺達は一流の黒魔道士だ。やられっぱなしで良しとするな」

そんな言葉で発破をかけてくれる。

「お前ほどの男があんなお子様に振り回されるなんて惚れ込みすぎだぞ?」
「…お前こそ、あんなドSに嵌っているくせに」

そんな軽口の応酬が心地いい。
そのお陰でいい感じに気分が浮上し、これならなんとか立ち直れそうだと思える自分がいた。
先程までの沈んでいた気持ちとは大違いだ。

「ロイド…辛い時はいつでも頼れ。俺はお前のためならいつだってこの手を貸してやる」

その言葉はともすればグラつきそうな心をしっかりと支えてくれる。
この関係にはそれだけの確かな信頼の絆があった。

「クレイ……助かった」

顔を上げて告げたそんな礼の言葉に、クレイが綺麗な笑みを浮かべる。

「元気が出たらそろそろ結界を解いてやれ。きっと今頃ドンドン煩く扉を叩いているぞ?」

誰がとは聞くまでもないだろう。
あのお子様に違いない。
きっとクレイに言われて飛んで来たのだろうが、予想できる行動があまりにも単純でお子様すぎる。

「……あいつもお前のように結界を潜り抜けてやってくるだけの気概を見せればいいのに」
「ハハッ!無理だろう?ライアード王子自慢の一流黒魔道士のお前の結界だぞ?」

たとえ一流の白魔道士だろうとできるはずがないとクレイが不敵に笑う。
それは自分の黒魔道士としての実力を評価してくれての発言なので、すごく嬉しいものがあった。

「そうだな。私の結界はお前以外にくぐり抜けられるほどヤワではない」

それが折れそうだった一流としてのプライドを補強してくれる。
そうやって自信を持てと…そう言ってくれる確かな存在に支えられ、ゆっくりと自身を守るために張り巡らせていた結界を解除した。


***


「ロイド!」

ドンドンと何度もドアを叩くが、ロイドの部屋は結界が張られているのか全く開く気配がない。
これは本当にマズイのではないかと焦りが出て、ドアを叩く手に力が篭る。

確かに凄く腹が立ってはいたし、虚しい気持ちもあった。
とは言えそれはロイドのことがすごく好きだからであって、別れる気など微塵もなかったのだ。
けれど先程のクレイの言葉が本当なら、投げやりな気持ちに陥るほどロイドは身を切るような思いでいたわけで……。
セフレでもと言っていたのも、ロイドなりの精一杯の強がりだったのではないかと思い至った。
いつも飄々としているから気づかなかった。
いつも…なんでも平気そうに物事をこなしているから、ロイドの気持ちをどこかで軽んじてしまった。
確かにこれで別れたらダートが言っていた通りロイドは一生独身を貫くことだろう。
黒魔道士だからそんなものと思っていたけれど、これでは全然意味合いが違ってくる。
つまりはもう誰とも結婚したいと思えなくなるほど、それだけ自分に惚れ込んでくれていたと言うことに他ならないのだから。
だからこそのクレイの怒り────。

「ロイド!ごめん!」

黒魔道士のことは確かに自分には理解できない面は多い。
けれどこうして説明してもらえればわかることだってある。
だから…自分はあの時、感情的にならずにちゃんと話をすれば良かったのだ。
折角ダートが間に入ってくれていたのに、それさえ意味を掴めず無碍にしてしまった。

「ダート…ごめん」

そうして後悔を滲ませながら謝罪を口にすると、ダートはいつものように溜息を吐いた。

【別にいい。それよりクレイ様が中で取りなしてくれているから少し待て】
「クレイが?」
【ああ。本当に今回は感謝だな】

そうして暫く待っているとキンッと空気が震えるような音が響いて結界が霧散し、そっと扉が開いた。

「ロイド!」

そこから出てきたロイドは物凄く機嫌が悪そうで、一体クレイと何を話していたのかがすごく気になった。
けれど何か言われる前に思い切り腕の中へと強く抱き込んで、逃げられないようにしっかりと捕まえた。

「ロイド!ごめん!」

その言葉にロイドが僅かにピクリと反応する。

「……私が悪かった」

そうして重ねて謝るが当然これで許されるとは思っていない。
けれど……。

「いい。クレイにも笑われたし、お子様なお前に振り回されすぎている私が悪かったんだ」

そんな言葉に思わず驚かされる。
クレイがロイドを笑ったと言うのは俄かには信じられなかったのだ。

(あんなに怒ってたのに…?)

けれどそう首を傾げたところで、きっとロイドの性格をよくわかっているからこそ上手く気持ちを切り替えさせようとしてくれたのだろうと思った。
それはきっとロイドのプライドを良い意味で刺激し、ロイドらしさを取り戻させる一助となったのだろう。
そう。少なくともこうして自分の前に姿を見せられるくらいには……。
とは言え自分にできないことがクレイには容易にできるのだというのが悔しくもあった。
できればそれは自分でありたかったと、そう思えて仕方がなかったのだ。
けれどそれを今言っても仕方がない。
クレイに言われるまでロイドの気持ちに気づけなかった自分に、それについて文句を言う資格などありはしないのだから。

それよりも今真っ直ぐに向き合うべきなのは大事な目の前の恋人だ。
いつもフォローされて頼ってばかりな自分だけれど、ロイドだって万能ではないのだと改めて認識し直した。
儘ならぬこともあるし、今回のように結果が出るまでどうしようもない事もある。
そして、いくら口で違うと言おうと確かな証拠がなければ意味がないのだということもよく分かった。
それならば…絶対に揺らがない立場を確立しておくのが一番効果的な対処法だという結論に至った。

「ねえロイド。二人でクレイに例の約束を取り消してもらいに行かないか?」
「どう言う事だ?」
「うん。だから、そもそもあの約束がなければすぐにでも結婚できるって事に気づいたんだ」

どうしてもっと早くこうしなかったんだろう?
思いつけば一発だったと言うのに。

「ロイドの言葉であの時は飲み込んだけど、それ自体を『二人で』取り消してもらいに行けば良かったんだよね?」

そうしたら今回のような場合でも結婚していることを盾にいくらでもやりようがあったのだ。

「考えたんだけど、今回のフローリアの件は濡れ衣として逆のパターンだって考えられる訳だし、やっぱり二年後と言わずすぐに結婚しよう?」

ロイドは仕事で女を抱くことがあるのだから、いつ子供ができたと女に押しかけられてもおかしくはない。

「シュバルツ…それは……」
「ロイド。もう悲しい思いをさせたくないし、私もしたくない。黒魔道士として遊びたいなら結婚してからもある程度は許容するし、仕事にだって口出しはしない。だから兎に角、ごちゃごちゃ言わずにすぐ結婚しよう!」

そうして『無理』という言葉を最後まで言わせてもらえず見事に固まっているロイドにそっと口づけ、そのまま流れるように服を剥ぐ。
強く言いきれず悩む時点で交渉の余地ありだ。
それだけ好きだと、想ってくれているのだと、自ら白状しているようなものなのだから。

「ちょっ…と待、て…」
「ん…待たない」

そうして言い訳をじっくり考えさせる隙など与えず、徐々に口づけを下へ下へと移動させていき、ロイドのものをしゃぶりながら後ろをほぐしていく。
ここだって滅多にこうして口に含まないが、自分にだって口淫くらいはできる。
仕事なら仕方がないが、ロイドのすべては自分のものだから、プライベートでは誰にも譲りたくなどなかった。

(まあ上手くはできないけど)

それでも慈しむことはしてあげられるし、同じ男だからイイところだって勿論よくわかるつもりだ。
だから今日は一生懸命ロイドのそこを口と手で慰めにかかった。

「んッ、はぁ…!シュバルツ……!」

そんな切羽詰まった声にそっと上を見上げると、困惑しつつも切なそうな眼差しで頰を色っぽく染め上げるロイドの姿があって、知らずズクリと股間が疼いてしまう自分がいた。
必死に口を手で押さえている姿にたまらなく魅了されてしまう。
こんなに可愛い姿を見せられると、今すぐ貫きたくなってしまうではないか。
けれどここでロイドに酷いことをする気はなかった。

「ロイド…。ね、返事を聞かせて?」

合間に口を離してそう尋ねるが、ロイドはふるふると首を振ってしまう。
どうやらそう簡単には結婚はしてもらえないらしい。
やはり強情だ。
それならもっと誠心誠意奉仕して、傷つけてしまったお詫びをした方がいいかも知れない。
そうして今度は前を扱きながら後ろへと舌を這わせた。
壁に手をつかせて、後ろの蕾を指で開いて中まで舌で可愛がる。

「あ…嫌…だぁあ…ッ!」

そうは言いながらも腰は気持ちよさそうに揺れているのだからやめる必要などないだろう。
いつも自分が挿れさせてもらっている大事な場所だ。
丁寧に愛してやりたい。

「シュバルツ…!はぁっ……も、挿れて欲し……ッ!」
「いいよ。傷つけた分、いっぱい償わせて?」

そうしてすっかりほぐれきった蕾に怒張を添えて、そのままゆっくりと奥まで突き刺していった。

「んあぁああああッ!」

欲しかったものがもらえてロイドの身体が待ちかねたように締め付けてくるが、気にせずそのまま最奥をこじ開けるべく体位を変える。
立ったまま奥をこじ開けるのは少しコツがいるのだ。
バックで貫くだけでは届かない。
けれどこちらの意図に気づいたロイドが焦ったように身動ぎ声を上げてくる。

「シュ、シュバルツッ!」
「うん。ちゃんと捕まっておいた方がいいよ?」

そうして片足を抱え上げ、最奥まで抉るように腰を進めた。

「それ、やめッ…!────ッ!」

適度なスライドと奥への刺激ですっかり覚えこんだそこが徐々に花開くかのように綻んで自分を迎え入れていく。

「あぁああッ!」

ガクガクと理性を飛ばしながら溺れ始めるロイドを支えて、促されるままに一度奥に注いで滑りを良くし、更に激しく奥を犯す。

「凄いね…もうこんなにすっかり覚え込んで」
「あぁ…やぁあ……」

あの日からここを開発し、すっかり馴染みきったそこは自分をいつだって喜んで迎え入れてくれるようになった。
ロイドもここを犯されるのは大好きだから、そのまま素直に抱きついてくる。

「シュバルツ…ッ!もっと……ッ!」

(本当に快楽に弱いんだから…)

そうして望まれるままにたっぷりと与えてやった。

「シュバルツ、シュバルツ……ッ」
「ロイド…泣かないで」

それと同時に縋る様に抱きつきながらロイドの目から涙が零れ落ちる。
過ぎた快感によるものなのかそれとも別の涙なのかは判別できなかったが、なんとなく我慢していたものが零れ落ちたようにも見えて居た堪れない気持ちになってしまった。

「ふぁあッ!」
「ロイド…愛してる。不安にさせてごめん。いつも甘えてごめん……」
「はぁ…あッ!」
「いつまでも頼りなくて、子供っぽくてごめん」
「うっうぅ…」

腕の中で喘ぎピクピクと震えるロイドをしっかりと抱きしめて思いつく限りの謝罪を口にする。

「もっと成長してから結婚してあげたかったけど、ロイドを手放すリスクがあるなら今すぐ結婚してちゃんと捕まえておきたいんだ。余裕がなくてごめん」
「あっあっ…シュバルツッ!待ってくれッ…ああんッ!」
「ロイド…。頼むから結婚して?」
「やぁあああっ!」

快感に堪えきれず崩れ落ちそうな身体を支えて優しく口づけを落とし、その後も甘く愛を囁き続けた。



「ロイド。明日クレイに許可を貰ったらすぐに籍を入れてもいいよね?」

そうして暫く悦ばせた後、聞こえているのかいないのかわからない状態のロイドにそう尋ねたのだが、放心状態で身を震わせるだけだったので少しだけ魔法で回復してあげる。

「う…シュバルツ……酷……ぃ」

理性が戻ってきたロイドが、立てないと泣き言を言ってくる。
まあ随分と激しくしてしまったし、頼られたくてわざと立てない程度に回復させたため、文句を言われても仕方がない面はあるのだが……。

「うん。でも気持ちいいでしょ。支えてるから安心して?それより返事をまだもらってないんだけど?」
「はぁ…ッ、こんなにされたら、気持ちよすぎてもうお前以外じゃ満足できないだろう……?やり過ぎだ。うぅ…ッ」

そうやって暗に『溺れすぎず、余力を見せながら互いに楽しみ合って満足させ合うのが黒魔道士の流儀なのに』と文句を口にするが、こちらは白魔道士だ。
全力で可愛がるに決まっている。
頭が真っ白になるくらい溺れて夢中になって自分だけを見つめてほしいのだから、とことん自分に嵌って欲しい。
それに普段は言い包められることが多いのに、弱ってる今付け込まないでいつ付け込めと言うのか?

「ロイド…。ロイドを幸せにしたいから、頷いて?」

そうして甘く懐柔しようと試みるが、ロイドは抵抗し未だふるふると首を振って拒否の姿勢を変えようとはしない。

(本当に素直じゃないな……)

落ち込むくらい自分のことが好きで、自分とのセックスにだって夢中なくせに、どこまで意地っ張りなのか。
素直に今すぐ結婚すると言ってくれればいいのに。
それともあんなに想いの丈をぶつけたのに、わかってもらえなかったのだろうか?
それはそれで少し悲しい。
けれどここで引き下がったら、また同じことの繰り返しだ。
だからこそここは一気に攻めるに限る。

「うん。じゃあ勝手に良いように解釈するね?こんな身体にした責任を取るから、結婚しよう」
「え?あんっ!」

(他じゃ満足できなくなるって文句を言ってるし、そう解釈するのもアリだよな?)

そう取りさえすれば、二年待たずに結婚してもいいと言ってくれたも同然と考えていいだろう。

「ロイド愛してる。一生掛けて幸せにするから、後ですぐサインしてね?約束だよ?」
「あッ…シュバルツ!それ、違ッ…!」
「違わない」

言葉遊びは黒魔道士がよく使う手なのだから、逆手に取るのも悪いことではない。
そうして奥までズンッと突き上げたところで、ロイドが涙目で諦めたように口づけてきたので、幸福感に満たされながらまた満足させてあげるべく快楽の波へと連れ去った。


***


「はぁ…本当にシュバルツは世話が焼けるな」

クレイはレイン家へと戻り、先ほど見たロイドの姿を思い出しながら大きな溜息を吐いていた。
ロイドらしくなく傷ついた表情でベッドの縁に腰掛け、どこか途方に暮れたような様子で落ち込んでいたのだ。
精一杯慰めたくもなる。

「あんなに一途で可愛い奴を虐めるなんて!」

好きな相手に尽くしすぎるところはロイドの美点だが、今回の件は流石に可哀想だと思った。
本当にトルテッティの王族は皆自分勝手だ。
そうして憤慨している自分にロックウェルが呆れたように溜息を吐く。

「お前の目はどうなっているんだ?」

どう考えてもロイドが可愛いというのは理解できないとロックウェルは言うが、ここは声を大にして言わせてもらいたい。

「お前の方こそ目がおかしいんじゃないか?付き合いが長くなればなるほどロイドはデレてくるんだ。ロイドがちらちら見せるちょっと捻くれた可愛さはなかなかのものだぞ?ライアード王子とそんな話で盛り上がったこともあるし、そう考えるのは俺だけじゃない」

ロイドはカッコいいところと可愛いところと面白いところと腹黒いところがあってそこに優しさもあるから魅力的な男なのだ。
けれどそうやって力説したのにロックウェルには何やらスイッチが入ってしまったらしい。

「クレイ?今回の件ではあの男に同情はするが、そうやって私以外の男を褒め千切るのは許せるものではないな」
「……。しょうがないだろう?お前はロイドと全く違うタイプだし。いつだって目を奪われるし、抱かれたいと思うし、側にいるだけで胸が弾むんだ。だから敢えて言うなら『カッコいい』の一言でしか言い表せない!」

だからそんなドSな表情で自分を魅了してこないで欲しいとプイッと視線を逸らすと、ややあってロックウェルに無理矢理唇を奪われてしまった。
やっぱりロイドに対する言葉よりも褒め言葉が少なくて怒ってしまったのだろうか?
けれどその表情は何故か怒っているというよりも欲情しているようにしか見えなかった。
そんな色気駄々洩れの熱い眼差しで見つめられたらこちらが困るではないか。

「お前は本当に小悪魔のようだな」
「んぅ…はっ…なん…の、ことだ?」

ちゅうッと吸い付くように口づけられて合間合間に言葉を口にするが、その言葉を全て吸い上げようとするかのように慈しまれてしまう。

「はぁ…ん…」
「お前のすべては私のものだ。ロイドはシュバルツに任せてお前はいつでも私だけを見つめていてくれ」
「んっんっ…待…て……」

懸命に静止の声を上げようとするが、ロックウェルの手にかかれば抵抗など無駄な足掻きだ。

「クレイ?今日も可愛い声で啼いてくれ」

そうして耳元で甘く溶かすような声で囁かれ、その手に導かれるままにどこまでも快楽に堕ちていった。



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