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第二部番外編 シュバルツ×ロイドの恋模様
8.切欠(前編)
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「シュバルツ…おはよう」
からかわれたと思った朝からロイドはこれまでと一転、本当に自分に対する態度を変えてきた。
新しい遊びだと言うだけあって、自分を落とすと言う名目の元毎日色香たっぷりに迫ってくる。
その誘うような目線に…触れられる指先に…意図せず熱が灯ってしまう。
(黒魔道士の本気を侮ってた!!)
正直全く勝てる気がしない。
このままでは心臓が持ちそうにない。
顔は熱くなるし常に発情してしまうし、もう頭がパニックになってここ最近は思い切り逃げ出してしまう始末。
好き過ぎて、好き過ぎて、胸が苦しすぎる。
「うぅ…ロイド…ずるい……」
できれば以前のように悪態を吐いていて欲しい。
冷たい態度をとっていて欲しい。
こんな風に迫ってこられたらもう何も言えないし、好きにしてと言ってしまいそうだ。
これでは抱かれる側にいつ回ってもおかしくないではないか。
(悔しい!!)
「うぅ…ダート…相談に乗ってくれ……」
思わずロイドの眷属に助けを求めてしまうほど困り果てて、ベッドでのた打ち回りながらその言葉を溢した。
【ロイド様は優秀な黒魔道士だぞ?本気になって落ちない相手はクレイ様くらいだ。別に不思議でもなんでもない。好きなだけ悩め】
呆れたようにため息を吐きながらもダートは相談に乗ってくれる。
「クレイは絶対おかしい!あんなロイドに落ちないなんて異常だ!目が節穴なんじゃないか?」
【あの方はちゃんとロイド様を見た上でその実力も認めてくださっていたぞ?節穴ではない】
やけにクレイの肩を持つところが憎たらしいが、まあクレイのことが大好きなロイドの眷属だからこの辺りは仕方がないのかもしれないが……。
「ロイドが好き過ぎて辛い~…」
【抱かれたくなったのか?】
「違う!チラッと思ったけど、私はロイドと対等になって愛し合いたいのに、これじゃあダメダメだと言ってるんだ!」
自分らしさをちっともアピールできないなら対等になるなんて夢のまた夢だ。
これではお子様返上なんてとてもではないができそうにないではないか。
「これじゃあいつまで経ってもライバルとの差が縮められない……」
ただでさえロイドは別な男に惚れていると言うのに、このままではまたいつ別れの危機がやってくることか────。
けれどダートはそんな自分にあっさりとその言葉を口にした。
【ロイド様は遊びを満喫していらっしゃる。当面お前と別れる気はないと思うぞ?】
「え?」
【のた打ち回るお前が面白いとご満悦だ。精々もっと楽しませてやってくれ】
そんな言葉に益々情けなくなってくる。
「~~~~っ!酷い!弄んでるってこと?!」
本命が別にいるからこっちは玩具なのかと腹が立ってくる。
けれどここで引いたらライバルに隙を与えるだけだ。
「……!ダート!ライバルってどんな奴?!私に勝てそうな要素はないか?」
【……お前がお子様なうちは無理じゃないか?ロイド様的に『理想の恋人』らしいから……】
そんな言葉にショックを受ける。
「り……理想の恋人?」
【ああ。ロイド様はあれくらい積極的な方がお好きらしいな】
「…………それって、もしかしてもしかしなくても抱かれてるってこと?」
【まあそうだな】
サラリと返ってきた言葉に眩暈がしてくる。
夜は大抵自分と一緒なのに一体いつの間に浮気をしていたのか……。
いや。仕事で昼間に女性と寝ることもあるし、その男とも昼間に寝ているのかもしれない。
相手は一体どこのどいつなのか……。
(許せない!!)
ロイドの心を独り占めしている相手が憎い。
突きとめてやろうかと考えていると、ダートが呆れたようにため息を吐いた。
【無駄なことはしないで、お前はロイド様とイチャイチャすればいいだけの話だ。逃げずにさっさと突撃しろ】
「は?」
【だから、逃げずにロイド様に迫れと言っている】
迫る?
あんな色気過多のロイドを相手に?
「できるわけがないだろう?!」
一体どうやったらあんなロイドに自分から迫れると言うのか…。
それこそ心臓がいくらあっても足りないだろう。
【逃げてるうちはまだまだだな。これじゃあロイド様にからかわれても仕方がない】
「うぅ……」
ダートの辛辣な言葉には返す言葉もなかった。
そんなある日、クレイがひょっこりと自分の所に顔を出した。
「シュバルツ!ロイドを知らないか?」
「クレイ?!」
どうやら魔法研究の手助けの為呼び出されたらしい。
「ロイドが黒魔法でも回復系に近い魔法をなんとか開発してみたいと言ってたから、少しでも力になれるかもと思ってな」
「え?」
回復系は白魔法に属するものなのにそんなことが可能なのだろうか?
「まあ精霊魔法寄りにして境界を曖昧にしつつ上手くスペルを調整したらできなくはないんじゃないか?そこを吟味して開発するのが楽しいんじゃないか」
そう口にしたクレイは本当に楽しそうで、純粋にその魔法を開発するのを楽しみにしているんだなと言う気持ちが伝わってくる。
「ロイドは今結界を張った部屋で実験中だから、案内する」
部屋さえわかればどうせクレイはあっさりと中に入れるのだ。
何も問題はないだろう。
「あれ?」
そこまで考えて、わざわざ自分にロイドの場所を訊きに来る必要はなかったのではないかと思い至った。
何故ならクレイはそう言った魔法の掛かった部屋は誰に聞くまでもなく自力でわかるはずだからだ。
だから自分の所に顔を出したその意味は────。
「俺はお前に誤解される気はないからな。一緒に行きたいと思っただけだ」
バレたかとクスリと笑いながらクレイがあっさりと白状する。
どうやら恋人である自分にこれでも気を遣ってくれたらしい。
そして扉の前まで行くとやはりと言うかなんと言うか、ノックの後あっさりとその結界内へと足を踏み入れた。
「ロイド!」
「クレイ!」
ロイドが嬉しそうにクレイを出迎える。
けれど次いでこちらへと向けられた視線にまた胸がドキッと弾んでしまった。
「なんだ。連れてきてくれたのか?」
どうやら朝逃げたから今日はもう来ないと思っていたらしい。
こちらへと向けられた視線はクレイがいると言うのにどこまでも甘くて、また逃げ出したくなった。
「凄いなシュバルツ。ロイドといい感じじゃないか」
何も知らないクレイはそんな風に茶化してくるが冗談ではない。
「ロイドは私で遊んでからかってるだけだ!」
「……?そうなのか?」
きょとんとしたようなクレイに思わず悔し涙が浮かんでしまう。
「こんな色気過多なロイドに振り回されて、心臓が壊れそうなんだ!」
ビシッと指を差しながら怒ったように訴えると、ロイドからは呆れたようなため息を吐かれ、クレイからは笑われてしまった。
「シュバルツ。相変わらずロイドのことが大好きだな。微笑ましいぞ」
「~~~~~っ!!」
「……クレイ。あまりシュバルツをからかってやるな。可哀想だろう?」
そんな言葉と共にロイドがスッとクレイへと寄り添う。
いつも自分に向かってくる時同様、その行動は色香たっぷりだ。
それなのにクレイはやっぱり全く動じることがない。
それどころか同じように色香を出してそっとロイドの頬へと指を伸ばす。
「ふっ…素直じゃないな。シュバルツをからかうのは自分の特権だと言えばいいのに……」
「言わなくてもわかってくれるお前にわざわざ言うまでもないだろう?」
「そうだな。お前のそういうところは本当に可愛いと思うが…そこをシュバルツが全くわかっていないのが残念だ」
そうしてともすれば自然に口づけがされてしまうのではないかと思えるほどの親密さで、二人が甘く視線を絡ませ合う。
あのロイド相手に自然にあんな風に振る舞えるクレイが正直羨ましくて仕方がない。
以前なら『黒魔道士は本当にどうしようもないな』とか『またイチャイチャして。ロックウェルに誤解されても知らないぞ』とか一言の元不機嫌に吐き捨てたものだが、今の自分にはとてもそんな風には思えない。
目の前で繰り広げられるやり取りがまるで手の届かない高度なやり取りに見えて思わずガン見してしまった。
二人の間に何かがあるはずもないのに、どうしてこの二人のやり取りはこんなにも淫靡なのだろうか?
(黒魔道士の馬鹿────!!)
熱くなってしまった下半身が辛い!
そうして顔を隠してしゃがみこんでしまった自分に二人の視線が向けられるのを感じた。
「はぁ…言ってた通りだな」
「そうだろう?少しは成長したんだなと思いはするが、お子様すぎて困ってるんだ」
「腕に囲って逃がさなければすぐに落ちるだろう?まずはそこからじゃないのか?」
「落ちすぎて襲ってもらえなくなったら嫌だろう?」
「ああ、そっちの心配か。それもそうだな。じゃあ……」
何やら二人が話す内容が不穏そうだと思い、そっと顔を上げるとロイドと視線が合った。
ニコッと微笑まれるその顔にまた胸が弾んでしまう。
「色香をもうちょっと抑えていっぱい好きだと言ってやれ」
「……嫌だ。面倒臭い」
(面倒臭い?!酷い!)
笑顔なのにどうしてそんな酷い言葉が口から飛び出すのだろうか?
ロイドは本当によくわからない男だ。
「そうは言ってもある程度は合わせてやらないと…。かなり鈍いから察してくれと言うのは無理があるぞ?現に伝わってないだろう?」
「……まあな。そこも含めて面白いから放置してたんだが、方針を変えた方がいいか……」
「その方がいいぞ?あまり虐めてやるな」
「わかってはいるが……お前を口説く方がやはり楽しいし、やりやすいと思えるんだが?」
「ただの慣れだろう?遊びならいくらでも付き合ってやるから、ちゃんと本命に集中しろ」
「早く好みに落として、別件でお前と遊びたい……」
「お前は本当に変わらないな。そういうところも好きだが……」
そんなやり取りに思わず叫びながら乱入してしまった。
「クレイ!既婚者の癖に何を言ってるんだ!ロイドも!口説くなら私にしろ!」
真っ赤になってそう口にすると二人からクスクスと笑われてしまった。
「わかってないな。お前の事を話していただけなのに」
「お子様すぎだろう?雰囲気にのまれて会話の内容を聞いてないんじゃないのか?」
そんな言葉に思わず首を傾げてしまう。
今二人はそんな話をしていただろうか?
単にじゃれ合っていたように思ったのだが……。
「シュバルツ?私から逃げるな」
そうして考え込んでいると、ロイドがそっと自分の元へとやってきてクイッと顎を上げさせ真っ直ぐに自分を見つめてくる。
そんな風にされてしまうとあっさりと魅入られてしまうではないか。
その甘くて優しげなヘーゼルアイに見つめられると自分は弱いのだ。
思わずコクリと素直に頷いてしまう。
「それでいい」
そうしてクレイへと向き直ると、まるで何事もなかったかのように『さあ魔法の研究を始めよう』と口にし、クレイもその言葉を合図にさっさと気持ちを切り替えてしまった。
「さてと。じゃあ早速取り掛かるとするか」
「そうだな。ある程度大枠は決めているのか?」
「ああ。今ここまで練ってて…こっちのスペル変換と方式を模索しているところなんだが…」
「ああなるほど。じゃあこっちの精霊魔法で使われているこの方式を応用して……」
そんな風にあっという間に置いてけぼりにされて、またからかわれたとガックリ肩を落とす。
この辺の黒魔道士のペースが自分には本当にさっぱりわからない。
どうしてクレイはついていけるのだろう?
(やっぱり黒魔道士同士だから…なのかな)
でもクレイだってロックウェルと恋人関係になる前は友人同士だったらしいし、白魔道士も黒魔道士もそれほど大きく変わらないと思うのだが……。
何やら二人で議論し始めたので、こっそり部屋を抜け出し密かにロックウェルに連絡を取ってみることにした。
からかわれたと思った朝からロイドはこれまでと一転、本当に自分に対する態度を変えてきた。
新しい遊びだと言うだけあって、自分を落とすと言う名目の元毎日色香たっぷりに迫ってくる。
その誘うような目線に…触れられる指先に…意図せず熱が灯ってしまう。
(黒魔道士の本気を侮ってた!!)
正直全く勝てる気がしない。
このままでは心臓が持ちそうにない。
顔は熱くなるし常に発情してしまうし、もう頭がパニックになってここ最近は思い切り逃げ出してしまう始末。
好き過ぎて、好き過ぎて、胸が苦しすぎる。
「うぅ…ロイド…ずるい……」
できれば以前のように悪態を吐いていて欲しい。
冷たい態度をとっていて欲しい。
こんな風に迫ってこられたらもう何も言えないし、好きにしてと言ってしまいそうだ。
これでは抱かれる側にいつ回ってもおかしくないではないか。
(悔しい!!)
「うぅ…ダート…相談に乗ってくれ……」
思わずロイドの眷属に助けを求めてしまうほど困り果てて、ベッドでのた打ち回りながらその言葉を溢した。
【ロイド様は優秀な黒魔道士だぞ?本気になって落ちない相手はクレイ様くらいだ。別に不思議でもなんでもない。好きなだけ悩め】
呆れたようにため息を吐きながらもダートは相談に乗ってくれる。
「クレイは絶対おかしい!あんなロイドに落ちないなんて異常だ!目が節穴なんじゃないか?」
【あの方はちゃんとロイド様を見た上でその実力も認めてくださっていたぞ?節穴ではない】
やけにクレイの肩を持つところが憎たらしいが、まあクレイのことが大好きなロイドの眷属だからこの辺りは仕方がないのかもしれないが……。
「ロイドが好き過ぎて辛い~…」
【抱かれたくなったのか?】
「違う!チラッと思ったけど、私はロイドと対等になって愛し合いたいのに、これじゃあダメダメだと言ってるんだ!」
自分らしさをちっともアピールできないなら対等になるなんて夢のまた夢だ。
これではお子様返上なんてとてもではないができそうにないではないか。
「これじゃあいつまで経ってもライバルとの差が縮められない……」
ただでさえロイドは別な男に惚れていると言うのに、このままではまたいつ別れの危機がやってくることか────。
けれどダートはそんな自分にあっさりとその言葉を口にした。
【ロイド様は遊びを満喫していらっしゃる。当面お前と別れる気はないと思うぞ?】
「え?」
【のた打ち回るお前が面白いとご満悦だ。精々もっと楽しませてやってくれ】
そんな言葉に益々情けなくなってくる。
「~~~~っ!酷い!弄んでるってこと?!」
本命が別にいるからこっちは玩具なのかと腹が立ってくる。
けれどここで引いたらライバルに隙を与えるだけだ。
「……!ダート!ライバルってどんな奴?!私に勝てそうな要素はないか?」
【……お前がお子様なうちは無理じゃないか?ロイド様的に『理想の恋人』らしいから……】
そんな言葉にショックを受ける。
「り……理想の恋人?」
【ああ。ロイド様はあれくらい積極的な方がお好きらしいな】
「…………それって、もしかしてもしかしなくても抱かれてるってこと?」
【まあそうだな】
サラリと返ってきた言葉に眩暈がしてくる。
夜は大抵自分と一緒なのに一体いつの間に浮気をしていたのか……。
いや。仕事で昼間に女性と寝ることもあるし、その男とも昼間に寝ているのかもしれない。
相手は一体どこのどいつなのか……。
(許せない!!)
ロイドの心を独り占めしている相手が憎い。
突きとめてやろうかと考えていると、ダートが呆れたようにため息を吐いた。
【無駄なことはしないで、お前はロイド様とイチャイチャすればいいだけの話だ。逃げずにさっさと突撃しろ】
「は?」
【だから、逃げずにロイド様に迫れと言っている】
迫る?
あんな色気過多のロイドを相手に?
「できるわけがないだろう?!」
一体どうやったらあんなロイドに自分から迫れると言うのか…。
それこそ心臓がいくらあっても足りないだろう。
【逃げてるうちはまだまだだな。これじゃあロイド様にからかわれても仕方がない】
「うぅ……」
ダートの辛辣な言葉には返す言葉もなかった。
そんなある日、クレイがひょっこりと自分の所に顔を出した。
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「クレイ?!」
どうやら魔法研究の手助けの為呼び出されたらしい。
「ロイドが黒魔法でも回復系に近い魔法をなんとか開発してみたいと言ってたから、少しでも力になれるかもと思ってな」
「え?」
回復系は白魔法に属するものなのにそんなことが可能なのだろうか?
「まあ精霊魔法寄りにして境界を曖昧にしつつ上手くスペルを調整したらできなくはないんじゃないか?そこを吟味して開発するのが楽しいんじゃないか」
そう口にしたクレイは本当に楽しそうで、純粋にその魔法を開発するのを楽しみにしているんだなと言う気持ちが伝わってくる。
「ロイドは今結界を張った部屋で実験中だから、案内する」
部屋さえわかればどうせクレイはあっさりと中に入れるのだ。
何も問題はないだろう。
「あれ?」
そこまで考えて、わざわざ自分にロイドの場所を訊きに来る必要はなかったのではないかと思い至った。
何故ならクレイはそう言った魔法の掛かった部屋は誰に聞くまでもなく自力でわかるはずだからだ。
だから自分の所に顔を出したその意味は────。
「俺はお前に誤解される気はないからな。一緒に行きたいと思っただけだ」
バレたかとクスリと笑いながらクレイがあっさりと白状する。
どうやら恋人である自分にこれでも気を遣ってくれたらしい。
そして扉の前まで行くとやはりと言うかなんと言うか、ノックの後あっさりとその結界内へと足を踏み入れた。
「ロイド!」
「クレイ!」
ロイドが嬉しそうにクレイを出迎える。
けれど次いでこちらへと向けられた視線にまた胸がドキッと弾んでしまった。
「なんだ。連れてきてくれたのか?」
どうやら朝逃げたから今日はもう来ないと思っていたらしい。
こちらへと向けられた視線はクレイがいると言うのにどこまでも甘くて、また逃げ出したくなった。
「凄いなシュバルツ。ロイドといい感じじゃないか」
何も知らないクレイはそんな風に茶化してくるが冗談ではない。
「ロイドは私で遊んでからかってるだけだ!」
「……?そうなのか?」
きょとんとしたようなクレイに思わず悔し涙が浮かんでしまう。
「こんな色気過多なロイドに振り回されて、心臓が壊れそうなんだ!」
ビシッと指を差しながら怒ったように訴えると、ロイドからは呆れたようなため息を吐かれ、クレイからは笑われてしまった。
「シュバルツ。相変わらずロイドのことが大好きだな。微笑ましいぞ」
「~~~~~っ!!」
「……クレイ。あまりシュバルツをからかってやるな。可哀想だろう?」
そんな言葉と共にロイドがスッとクレイへと寄り添う。
いつも自分に向かってくる時同様、その行動は色香たっぷりだ。
それなのにクレイはやっぱり全く動じることがない。
それどころか同じように色香を出してそっとロイドの頬へと指を伸ばす。
「ふっ…素直じゃないな。シュバルツをからかうのは自分の特権だと言えばいいのに……」
「言わなくてもわかってくれるお前にわざわざ言うまでもないだろう?」
「そうだな。お前のそういうところは本当に可愛いと思うが…そこをシュバルツが全くわかっていないのが残念だ」
そうしてともすれば自然に口づけがされてしまうのではないかと思えるほどの親密さで、二人が甘く視線を絡ませ合う。
あのロイド相手に自然にあんな風に振る舞えるクレイが正直羨ましくて仕方がない。
以前なら『黒魔道士は本当にどうしようもないな』とか『またイチャイチャして。ロックウェルに誤解されても知らないぞ』とか一言の元不機嫌に吐き捨てたものだが、今の自分にはとてもそんな風には思えない。
目の前で繰り広げられるやり取りがまるで手の届かない高度なやり取りに見えて思わずガン見してしまった。
二人の間に何かがあるはずもないのに、どうしてこの二人のやり取りはこんなにも淫靡なのだろうか?
(黒魔道士の馬鹿────!!)
熱くなってしまった下半身が辛い!
そうして顔を隠してしゃがみこんでしまった自分に二人の視線が向けられるのを感じた。
「はぁ…言ってた通りだな」
「そうだろう?少しは成長したんだなと思いはするが、お子様すぎて困ってるんだ」
「腕に囲って逃がさなければすぐに落ちるだろう?まずはそこからじゃないのか?」
「落ちすぎて襲ってもらえなくなったら嫌だろう?」
「ああ、そっちの心配か。それもそうだな。じゃあ……」
何やら二人が話す内容が不穏そうだと思い、そっと顔を上げるとロイドと視線が合った。
ニコッと微笑まれるその顔にまた胸が弾んでしまう。
「色香をもうちょっと抑えていっぱい好きだと言ってやれ」
「……嫌だ。面倒臭い」
(面倒臭い?!酷い!)
笑顔なのにどうしてそんな酷い言葉が口から飛び出すのだろうか?
ロイドは本当によくわからない男だ。
「そうは言ってもある程度は合わせてやらないと…。かなり鈍いから察してくれと言うのは無理があるぞ?現に伝わってないだろう?」
「……まあな。そこも含めて面白いから放置してたんだが、方針を変えた方がいいか……」
「その方がいいぞ?あまり虐めてやるな」
「わかってはいるが……お前を口説く方がやはり楽しいし、やりやすいと思えるんだが?」
「ただの慣れだろう?遊びならいくらでも付き合ってやるから、ちゃんと本命に集中しろ」
「早く好みに落として、別件でお前と遊びたい……」
「お前は本当に変わらないな。そういうところも好きだが……」
そんなやり取りに思わず叫びながら乱入してしまった。
「クレイ!既婚者の癖に何を言ってるんだ!ロイドも!口説くなら私にしろ!」
真っ赤になってそう口にすると二人からクスクスと笑われてしまった。
「わかってないな。お前の事を話していただけなのに」
「お子様すぎだろう?雰囲気にのまれて会話の内容を聞いてないんじゃないのか?」
そんな言葉に思わず首を傾げてしまう。
今二人はそんな話をしていただろうか?
単にじゃれ合っていたように思ったのだが……。
「シュバルツ?私から逃げるな」
そうして考え込んでいると、ロイドがそっと自分の元へとやってきてクイッと顎を上げさせ真っ直ぐに自分を見つめてくる。
そんな風にされてしまうとあっさりと魅入られてしまうではないか。
その甘くて優しげなヘーゼルアイに見つめられると自分は弱いのだ。
思わずコクリと素直に頷いてしまう。
「それでいい」
そうしてクレイへと向き直ると、まるで何事もなかったかのように『さあ魔法の研究を始めよう』と口にし、クレイもその言葉を合図にさっさと気持ちを切り替えてしまった。
「さてと。じゃあ早速取り掛かるとするか」
「そうだな。ある程度大枠は決めているのか?」
「ああ。今ここまで練ってて…こっちのスペル変換と方式を模索しているところなんだが…」
「ああなるほど。じゃあこっちの精霊魔法で使われているこの方式を応用して……」
そんな風にあっという間に置いてけぼりにされて、またからかわれたとガックリ肩を落とす。
この辺の黒魔道士のペースが自分には本当にさっぱりわからない。
どうしてクレイはついていけるのだろう?
(やっぱり黒魔道士同士だから…なのかな)
でもクレイだってロックウェルと恋人関係になる前は友人同士だったらしいし、白魔道士も黒魔道士もそれほど大きく変わらないと思うのだが……。
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