黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第二部 ソレーユ編~失くした恋の行方~

52.※恩恵

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※このお話は【恋煩い】とリンクしています。

────────────────

それからクレイが仕事の合間を縫ってソレーユの魔道士を何度か鍛えにきたのだが、何故か周囲を煽るような言動を繰り返すのでこちらは自然と皆をまとめてクレイに文句を言う役どころになってしまった。
ある意味一致団結はできたが、これではクレイがただの悪役のようでなんだかモヤッとしてしまう。
けれどそれをロイドに愚痴っても、魔道士達のレベルは確実に上がっているし、結束力も高まっているから問題ないの一言だ。
クレイが嫌われ者になっていても構わないのだろうか?

「別に?クレイの良さは私がわかっていればそれでいい。それにわかる奴にはわかる事だ。気にするな」

恐らくライアードだけではなくミシェルでさえわかっている事だとロイドは笑みを浮かべながら言うが、自分にはクレイが何を考えているのかがさっぱりわからなかった。

「シュバルツ。クレイはああ見えて一流の黒魔道士だぞ?仕事はきちんとこなしている。何も憂うことはない」

けれどロイドがここまで言うのならそれに対してこれ以上何も言わないほうがいいのだろう。

「ん…わかった。ね、ロイド…今日は一緒に寝てくれる?」
「悪いが明日は早くから用があるんだ」
「……最近多くない?」
「気のせいだ」
「本当に?」

ここ最近ロイドがつれないのは本当に気のせいなのだろうか?
最初は本当に忙しいのだろうとは思った。
サティクルド関係で何か後始末的なことや偵察的な事をしているのかもしれないと思ったからだ。
でもそれとなく王宮の動きを見て、ライアードの行動なども見遣っているとどうも違うような気がしてならなかった。
それならばロイドが自分を避けているのだろうと思い至り、色々考えた結果今回のクレイの件も絡んでいるのかもしれないと考えたのだ。
けれどそれさえ違うと言うのなら、後は最近のマンネリなセックスに飽きたという事くらいしか思いつかない。
けれど夢現と同じように抱いて気づかれたらという怯えが出るから、これもどうしようもないのだ。

(取り敢えず、ロイドが何も言ってくれないなら様子を見るより他にない……か)

隙を見て夜這いをかけて夢現で自分に酔わせればいいだろうか?
いつ誰に奪われるともしれない現状で、全く寝ないと言う選択肢など自分の中には既になかった。
心移りされたくないと言う焦りばかりが募って、心に全く余裕がない。

(ロイド……私だけを見つめてくれ)

夢現で抱くロイドはどんどん自分に嵌っていってくれている。
嬉しそうに抱かれ、素直に嬌声を上げる。
熱に浮かされたように見つめられると、これ以上ない程に貪りたくなる。
現実で満たされない想いがどんどん加速して、夢の中で燃え上がっていく。

「はぁッ!シュバルツッ!気持ちいい!もっと…!」

甘い声でねだってくるロイドが可愛くて、今だけは自分のものなのだと夢中になった。
もっと自分に溺れさせれば現実でも自分を捨てたりしなくなるだろうか?
そう思いながらも、現実はどこまでもシビアだった。

「気分じゃない」

誘ってそう言われた時の絶望感と言ったら半端ではなかった。
もう捨てられてしまうのかと、そう考えるだけで居ても立っても居られなくて、クレイに相談してまた地獄に突き落とされた気がした。

曰く、最近のロイドの態度は『恋煩い』のせいだと言われたからだ。
一体誰に────?

そこから喧嘩になって、子供のように泣いて責め立てて、ロイドに嫌われたとこれ以上ない程落ち込んで眠ったら、何故か朝にはロイドが笑顔で自分の前に現れた。
本当に黒魔道士と言うのはよくわからない。

遊びを変えたと笑って、今度は何故か色香全開で口説かれるようになった。
こんなの、揶揄われているとしか思えないではないか。
けれど自分と別れる気はないのだと知って、安堵したのは確かだった。
こちらがお子様だからと譲歩してくれたのかもしれない。

けれど、どうやら本当にクレイが言っていたようにロイドに本命ができたらしいのは気になった。
自分と別れてそっちとくっつくわけではなさそうだが、いつ別れ話を持ち出されてもおかしくはない。
だから、それならそれでもっとテクニックを磨いて、捨てられないようロイドを夢中にさせようと思った。
悔しいが、こちらに振り向いてもらうためならできる努力は全てやるつもりだ。
ロイドが好きな気持ちは絶対に誰にも負けないと言う妙な自信が湧き上がる。

それと共に仕事面もより一層力を入れることにした。
魔道士達の底上げはもう十分だが、より連携を高めるべく黒魔道士の双子達とも話し合ってもっと結束力を固めていきたいと思っている。
彼らの目は今現在ロイドにもミシェルにも向けられてはいない。
全ては“クレイに認めさせてやる”と言わんばかりに全力でクレイへと向けられているのだ。
それによって最初の頃のふざけた態度がすっかりなりを潜め、このひと月で一回り成長したように感じられた。
これなら一先ず問題を起こすような事にはならないだろう。

そしてそのひと月が過ぎた頃、王宮でクレイを見かけ呼び止めると、今日はミシェルとライアードに呼ばれているのだと言われた。
そのついでにロイドとのことをそれとなく聞かれたので、ライバルには負けないと力強く宣言しておいた。
その答えにクレイは満足したのか、何故かグリグリと頭を撫でられてしまう。

「お前も成長したな」
「は?子供扱いするなっ!」

いつまでも子供扱いをして欲しくなくてつい勢いよく噛み付いてしまうが、そんな自分をクレイはどこか微笑ましいように見つめて、しっかりロイドを捕まえておくんだぞと言い去っていった。

「言われなくても、絶対手放すものか!」

そうしてクレイの背に言葉をぶつけると、楽しげに肩を揺らされてしまった。

(笑うなんて本当に失礼な!)

こうして腹立たしい気持ちを抱えたまま、今日も魔道士宮へと向かったのだった。


***


「クレイ、来たか」

ミシェルはクレイを前に思わず笑みがこぼれるのを感じた。
最初あの双子を牢から出す時、ロイドを使ってしまったことをシュバルツに本当に申し訳なく思っていたのだ。
だから最初にクレイが挨拶に来てくれた時、あの双子が自分やロイドに執着してこないよう何か手は打てないだろうかと相談してみたのだ。
するとクレイは簡単だと言って、すぐに請け負ってくれた。
魔道士達の底上げもきちんとするし、そちらも含めて全て上手くやってやるから何も心配するなと言われてホッと安堵する自分がいた。
クレイに任せておけば大丈夫だと言う確信があったからだ。

そしてひと月が過ぎた今、それは確実に成功したと言っても過言ではないだろう。
今現在あの双子の黒魔道士はシュバルツと共に王宮魔道士を引っ張る役割をしっかりと努め、その興味をクレイへと向けていて、全く余所見する暇もない。

「クレイ、本当に今回は助かったぞ」

そうしてホッとする気持ちはライアードの方も同様だったようで、クレイを前にして笑顔で礼を述べた。

「クレイ。シュバルツ殿とロイドの仲も取り持ってくれたらしいな。あの双子の件と合わせて礼を言わせてくれ」
「そっちはロイドとシュバルツの問題で俺は関係ないぞ?」
「そうか?裏でシュバルツ殿に自信をつけさせてくれていただろう?」
「そちらはただのついでだ。どうもシュバルツはいつまでも自分に自信が持てないようだったから、このままいくとロイドが面白くないだろうと思ってな」

少しだけ手を貸したに過ぎないとクレイは宣った。
それに対してロイドも嬉しそうに笑う。

「クレイ。お前は本当に優秀だな。こんなに仕事は完璧なのに、誤解されやすいのが難点だな。シュバルツが随分心配していたぞ?」
「誤解されたり嫌われるのは慣れているから、今回はそれを利用しただけなんだが…。あいつも本当に無駄にお節介なところがあるな」
「ハハッ…!お前だって似たようなものだろうに」
「俺が気に掛けるのは気に入っている相手にだけだ。慈悲の白魔道士と比べられても困る」
「それもそうだな」

そうして似た者同士の黒魔道士達はククッと笑い合った。



そして話がひと段落したところで、改めて礼を述べて本題を切り出すことにした。

「クレイ、今回は色々助けてもらって本当に感謝している。報酬の方は何か希望はあるか?」
「ん~特にはないな。普通に金貨でくれればそれでいい」

これはある意味予想通りだった。
クレイはここにそれほど重きを置いていないと知っているからだ。
アストラスの通貨ではなくソレーユの通貨で渡すのも悪いので、今回はどこでも使える金貨を用意しておいたのだが、クレイもそれは予想していたのだろう。

「わかった。では金貨100枚と先日出た黒曜石を受け取ってほしい」
「黒曜石?!」
「ロイドにも見てもらって、お前が喜ぶものを用意できたと思う」

その言葉と共に箱に収められた一粒の大きな黒曜石を差し出すと、クレイは感嘆の声を上げた。

「凄い!この間もらったものも凄く良かったが、これはまた格別だな」

それを見つめるクレイの目がこれ以上ない程キラキラと輝いているので、用意しておいて正解だったと思った。
これだけ喜んでもらえたなら用意した甲斐もあると言うものだ。

「ミシェル王子!ありがとう!そうだ、この間フォンからミシェル王子が玩具好きだって聞いて…むがっ」

一体こんな場所で何を言い出すのだと思い慌てて口を塞いで、込み入った話があるなら後でと言うとそのままコクリと頷いたので、ライアード達に退席を求めた。
けれど何故かライアードは笑顔で、そこから動こうとはしない。

「兄上。大丈夫ですよ?ここには我々だけですし、どうぞそのままお話しください」

どうやらクレイの話の続きがどうしても気になるらしい。
これは正直やめてほしいと思ったが、引く気がなさそうだったので仕方なく諦め、クレイの口から手を離した。

「…それで?」
「はぁ…。そうそう、玩具が好きでもミシェル王子は魔力導入型の物は使えないだろう?」

それはそうだ。
興味がないと言えば嘘になるが、自分もアルバートも魔力はないからそういったものは意味をなさない。

「それで、この間もらった最高級品の黒曜石をちょっと加工してコレを作ったんだ」

そうして手渡された物は一つの指輪だった。

「これは?」

一体これに何の意味があるのかと首を傾げていると、クレイがクスリと笑って特別製だと言ってきた。

「それには俺の魔力を圧縮して込めてあるんだが、同時に例の防御魔法を応用したものを掛けてあるんだ。アルバートの剣にかけてあるやつの簡易応用版だ」

つまりこの指輪があれば魔力のない自分でも、任意でこの指輪から魔力を放出させることができる代物らしい。

「これがあれば玩具も使えるようになるし、幻影魔法くらいならミシェル王子にも使えるようになるから便利かと思って」

どうやら魔力を然程使わない魔法なら使用可能になるようだと聞いて、正直開いた口が塞がらなくなった。
これは魔力なしの者に対する革命的で画期的なアイテムと言えるのではないだろうか?

「そこに込めた魔力を使い切ったら使えなくなるが、言ってくれれば俺がまた入れてやるし、遠慮なく受け取ってくれ」

ただのお試しで作った遊びのものだからとクレイは言うが、これは商品化すればどれだけ国の産業に改革を起こすかわかっていないのだろうか?

「あ、こっちはアルバートに。少し聞いたんだが、そのうち結婚する予定なんだろう?結婚指輪代わりになるし、よかったら使ってくれ。品質は保証する」

そんな嬉しい言葉を言ってもらえるなんて、これでは受け取らざるを得ないではないか。

「クレイ。こんなに嬉しいプレゼントは初めてだ。有り難く受け取らせてもらう」

ありがとうと礼を述べると、クレイは満足げに笑い笑顔で帰っていった。
けれどライアードはその指輪に釘付けだ。
それはそうだろう。
ライアードにもこの指輪の無限の可能性は容易に想像がつくだろうから…。

「兄上、それを鉱山から出る黒曜石の低品質のもので商品化する気はありませんか?」

案の定すぐさまそのように提案があがる。
これが民に普及すれば、各所で途轍もない利益に繋がるとわかってのことだ。

「そうだな。そうすれば無駄は減るし、魔力を込める側の魔道士達の副収入にも繋がる上、魔力を持たない者達の生活向上にも一役買うだろうな」

幻影魔法を皆に広めるのはなかなか難しいが、例えば一つの街につき数台、幻影魔法を発動させる魔道具を開発させて設置してみたらどうだろうか?
それにこの指輪をかざしたらそこから魔力を感知させ連絡を取りたい相手へと繋ぐ。
そんな夢のような魔道具を────。
そうして意見を口にすると、それはいいアイデアだと言う言葉が返ってきた。

「手紙で数日かかるものがそれならすぐですしね。急ぎで連絡を取りたい商人などには確実に重用されることでしょう」

それならば商品の流通にも積極的になってくれるだろうし、幅広く活用できるよう尽力してもらえるはずだ。
開発にあたっては融資だって期待できる。

「どうだ、ロイド。お前も何か意見はないか?」

黒魔道士としての意見も聞きたいとライアードが尋ねると、ロイドは少し考え、魔力は込められても圧縮魔法は無理かもしれないと口にした。

「余程品質が良くなければ黒曜石が砕けますし、あまり安価な黒曜石にはお勧めはしません」
「そうか。ではそれなりの品質のものを使って、且つ魔力を圧縮しなければどれくらい使えそうだ?」
「そうですね。サイズ的に見て幻影魔法5回分と言ったところでしょうか?繰り返し使用するならそれでも商品化する価値はあるかと」
「そうか…。因みに兄上が貰ったものはどの程度だ?」
「本気でおっしゃっていますか?クレイの圧縮魔法の入った最高級の黒曜石の品ですよ?幻影魔法だけで余裕で100回は使えます」

他にもやろうと思えばいくらでも使いようはあるのではないかと言われた。
まさに珠玉の逸品らしい。

「これからは更に玩具で遊び放題ですね、ミシェル王子」

クッと笑いながら揶揄ってくるロイドが非常に腹立たしい。
とは言えクレイはそちらを目的としてこれをくれたのだから、何が福を呼ぶかわからないものだなと思った。

「これを商品化して利益が出たらクレイに還元したいのだが、構わないだろうか?」

だからロイドを無視してそう口にしたのだが、ライアードはそれが意外だったのか、クレイは受け取らないと思うと言ってきた。
けれどこれではあまりにも申し訳なさすぎる。

「流石に全部の利益をソレーユの懐に入れるわけにはいくまい。利の三割をクレイではなくレイン家に還元すると言えば恐らくクレイは納得するだろう。それで調整してもいいだろうか?」
「レイン家に……ですか?」

それでは同じことなのではないかとライアードは言うが、クレイはこれなら受け取ってくれるはずだという確信があった。
レイン家に手を出した者への怒りを思うに、彼はそれだけ家を大切に思っているのだろうから────。

「まあ兄上がそう仰るのなら、それで交渉してみられては?」

とは言えまずは魔道具の開発と物の生産だ。
これによりソレーユが益々発展することになるのは、まだ少し先の話────。


***


魔道具開発の職人として生計を立ててうん十年。
ロッシは突然王家から舞い込んだ依頼に度肝を抜かされた。
それはとある指輪を媒介に魔力を感知して発動する魔道具を開発し、各街に設置したいとの要望だった。
これは成功すれば一生遊んで暮らせるような報酬が手に入る一大プロジェクトそのものだった。

これまでの魔道具と言えば、魔道士達が閨で使用する玩具くらいのものだ。
酔狂な者達は奇抜な魔道具を作ったりもするが、それはとてもではないが一般に広まるようなものではない。
自分もたまに作りはするが、そちらは趣味の一環と言っても過言ではなかっただろう。
あくまでも魔道具は魔力を持つ魔道士向けというのが常識中の常識だ。

そうしていつも通りに生活を送っていたというのに…それがいきなりの大仕事────。
魔力のない者でもその指輪があれば魔力を使って魔道具を使用できるだなんて……。
これは魔道具の歴史すら変えるのではないだろうか?
誰がその指輪を考えたのかは知らないが、そんな物が本当にあるのだとしたら夢は広がる一方だ。

「やります!やらせてください!」

そうして希望を胸に抱いた職人が数多く集められ、連日王宮に泊まり込み、皆で知恵を絞りながらあれこれと試作する日々。
そして暫く滞在して知ったことは、どうやらこの素晴らしい指輪は、アストラスの王族がミシェル王子と愛する恋人騎士との仲を取り持つ為に用意し贈った物とのことだった。
どうやら『魔力のない王族は使えないから必要ない』という常識を覆してでも、魔力導入型玩具を楽しんでほしいとお勧めしてくれたらしい。
自分達が開発した玩具を、これまで不要としていた尊い王族に使わせようとしてくれるなんて、なんてできた人なのだろうか。
それを快く受け入れてくれるミシェル王子の懐の深さにも感動した。
王族が使ってくれると言うのなら他の貴族達もこぞって購入を検討してくれるだろうし、自分達の仕事はこの先も末永く安泰だと言えた。
そのことにこの仕事に携わる皆が感動して、このプロジェクトが成功したら最高の玩具をその人とミシェル王子にプレゼントしたいなと口々に称賛し盛り上がった。
その話を視察に来たミシェル王子に話したら、それはいいと賛同してもらえたので、ミシェル王子の愛しの騎士をアドバイザーに迎え、こちらも皆で意見を出し合った。
気に入ってもらえるといいなと笑顔で開発したのは実に有意義な時間だったと言える。
こうして皆で積極的に取り組んで、半年もしないうちに求められた魔道具と数種類の玩具は納品されたのだった。


***


「ライアード。一先ず魔道装置の主要な都市への設置は終わったようだが、指輪の方はどうだ?」
「そちらはクレイに事情を話し、まとめて例の任意魔法を掛けてもらったので、先程商人の手へと渡しました。これから各所でテストを行ってから市場に出回る予定です」
「そうか」

職人達の手で予定よりも早く魔道具が完成し、いよいよこのプロジェクトが本格的に動き始めた。
これに関しては父王もかなり注目しており、王子主体のプロジェクトとして民にも期待されている。
普通なら失敗したら王家の信頼失墜に繋がりかねないのだが、この指輪自体の可能性の方に注目がいっているため、ダメ元で気楽にやってくださいと皆には言われていた。

これは非常にありがたいことだ。
リスクが高いことをするのはまだまだ抵抗があるが、今回の件は非常にやり甲斐があると考え力を入れていた。
そして今回の件で、意外な事に父やライアードから自分の評価が変わったと言われた。
どうやら自分が民に随分認められているのだと認識されたらしい。
自分からすれば周囲の助けを得ながらコツコツと仕事をこなしてきた結果だからそう驚くことでもなかったし、民達にミシェル王子の企画ならと受け入れてもらえるのは割とよくあることだったのだが、二人からするとこれは想定外だったらしい。
王宮内では確かに二人が思っていた通り近寄りがたいだとか、リスクの高い仕事は絶対にしない保守派だとか色々言われているが、やることはやっているのだ。
普段自分は別に民に直接姿を見せることはないから、いつも手の者が動いて自分のやりたい事を実行に移してくれている。
今回はそれが功を奏したというだけの話だ。
そう考えると側近の者達には本当に感謝の念でいっぱいだった。




「ミシェル様。こちらは如何致しましょう?」
「ああ、アルか。そちらは眷属に相談してクレイの元に届けてやってくれ。よく吟味して送ってやるといい」
「畏まりました。お世話になっておりますし、腕によりをかけて選ばせていただこうと思います」

このためにわざわざ先日、本人と玩具の話をしたのだ。
活用してもらえるものを是非送ってやりたいと思う。
今回のプロジェクトが成功した暁には利を三割レイン家に渡したいと話をしたら、そちらも喜んでもらうことができた。
ライアードが契約書を持参し、サインもしてもらえたしこれで何も問題はない事だろう。

「本当に素晴らしい黒魔道士だな」

クレイのソレーユへの貢献度は目を瞠るものがある。
自国でそれを全く行なっていないということが信じられないほどだ。
どうも本人的には面倒事が多いからアストラスの王宮に積極的に関わりたくないと言う気持ちが大きいようだったが、正直勿体無いと思ってしまう。
もっとその才能を生かせる場を作ってやりたいと思うのはエゴだろうか?

これからもクレイとは友好的な関係を築いていきたいなとミシェルはその顔に柔らかな笑みを浮かべたのだった。




第二部 完


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