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第二部 ソレーユ編~失くした恋の行方~
47.夢の跡
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クレイが早々にアストラス側の問題を片付け屋敷に戻ると、そこにミシェルの姿はなく、ロックウェルが簡単に変装させて王宮に連れて行ったと眷属から報告が入った。
それを受けて念のため様子を見に行くかと王宮へと足を運んだのだが────。
「ああ、クレイ。様子を見に来たのか?」
そこにはにこやかに微笑む父とロックウェルに連れられたミシェルがいた。
変装と聞いて真っ先に女装を思い浮かべたのだが、予想とは違いそこには茶色い短髪のカツラを付け、繊細なフレームの眼鏡を掛けたミシェルの姿があった。
人形のように完璧で麗しい姿に変わりはないが、髪型と髪色が違うのと眼鏡があるだけで随分印象が変わる。
そして服装もまた何故か黒魔道士の衣装だった。
「どうだ?これならバレないだろう?」
そう口にしたロックウェルの言葉に、確かにと頷いてしまう。
これなら誰もミシェル王子だと気づきはしないだろう。
「一応ソレーユから来た黒魔道士の客人ということにしたが、制度改革に興味があって勉強にきたという設定だから問題はないだろう」
なるほど。それなら王宮内のどこに居てもおかしくはない。
考えたものだ。
「じゃあそっちは任せる。俺はこれからちょっと出かけないといけないから任せてもいいか?」
「ああ」
そんな答えに安心して今度はミシェルへと笑顔で請け負う。
「じゃあ今から魔法兵団を潰してくるから、朗報をのんびり待っていてくれ」
「「え?」」
「ああ、すまないな。待っている」
驚く二人の言葉をサラリと流し、クレイはそのまま一気に影を渡って本命であるサティクルドへと向かったのだった。
***
まず初めにソレーユへと足を運ぶと、そこにはサティクルドから宣戦布告を受けて物々しい雰囲気を漂わせながら騎士団と魔道士達に指示を出す国王の姿があった。
どうやら混合編成にして魔法兵団に対抗しようとしているらしい。
ミシェルを失い動揺する王宮内で的確な指示を出すところはなかなかのものだ。
けれどソレーユの魔道士の質を考えるとどう考えても魔法兵団にはかなわないだろう。
それは当然ながら皆が皆考えていることで、その表情は暗い。
けれど国を奪われるわけにはいかないと、皆死ぬ覚悟で挑むつもりのようだ。
そんな状況にクレイはそっとため息をつき、すぐさまロイドの姿を探した。
その近くには必ずライアードがいるだろうと踏んだからだ。
「クレイ」
そんな自分をロイドは目敏く見つけてすぐさまライアードの元へと案内してくれた。
「クレイ。そちらの方は片付いたのか?」
ライアードが真っ先にそう尋ねてくれたのでこちらも短く答えを返した。
「ああ。もう終わった」
するとそこでミシェルの騎士であるアルバートが落ち着かない様子で尋ねてきた。
「ミシェル様は!ミシェル様はご無事ですか?!」
「ああ。すでに水晶化は解いて、今はアストラスの王宮をロックウェルが案内している。いい勉強になるんじゃないか?」
そうやってサラリと口にすると、アルバートはホッと息を吐き、ロイドは面白そうに笑った。
「ははっ!こちらは一触即発だというのに、呑気なものだな」
「そうは言ってもミシェル王子を今ここに戻しても意味がないし、時間は有効に使った方がいいだろう?どうせ今日中に片はつく。たまにはのんびりさせてやれ」
少し話しただけでミシェルの生真面目さが分かっただけに、あまり虐めてやるなと思わずフォローを入れてしまう。
あれではロイドと反りが合わないことだろう。
そんな自分にロイドはクスリと笑った。
「それで?もう今から行くのか?」
「ああ」
「首尾は?」
「上々だ。かなりこちらを甘く見ているようだし、現状では陣形も広げていないから一網打尽にした方が早い。あれなら黒曜石は10個もあれば十分だし、さっさと結界で囲って決着をつけてくる」
「さすがに仕事が早いな」
「ふっ…メインはそっちじゃないからな。そこが終わったらその足でベルナルドを押さえるつもりだ」
「そうか。じゃあ後は任せる。魔力交流は?」
「昨日ロックウェルに十分にしてもらったから大丈夫だ」
そうしてその紫の瞳の封印を解き放ち、その足で一気に影を渡った。
***
魔法兵団はソレーユとの国境付近で、すでに勝利を確信しながら作戦会議に講じていた。
あの豊かな国がとうとう自分達のものになる。
それは皆を高揚させるのには十分で、士気が非常に高まっているのを感じた。
クレイはそんなソレーユサイドと全く逆の心境にある兵達の様子を見ながら、木の上から眷属達からの報告を待っていた。
するとものの数分で彼らは黒曜石を所定の位置へと置いて戻ってきた。
「終わったか?」
【ええ。問題なく】
「そうか」
そしてその場で立ち上がるとすぐさま結界魔法を発動させた。
キンッと張りつめる空気。
その大規模な範囲に、魔法兵団の者達が何事だと騒ぎ始めるが最早手遅れだ。
その結界に捕らわれた者達の魔法はあっという間に行使できなくなってしまう。
「何が起こっている?!」
「状況確認!結界魔法発動!敵襲だ!」
「魔法が使えないぞ?!どうなっている!」
そんな騒がしい声が耳へと届くが関係ない。
「はぁ…本当につまらない仕事だな」
そんな呟きと共に、彼らを無力化させる魔法を唱え切った。
ドンドンドンドン…………ッ!!!!
彼らが死なない程度に抑えた雷の攻撃魔法が結界内で炸裂する。
「うわぁあああっ!!」
「ひぃいいいいっ!」
最初に聞こえたそんな声も徐々に聞こえなくなり、後に残ったのは倒れ伏す魔法兵団の成れの果て────。
(鎧など着るものじゃないな)
皆感電して、身を弾ませ泡を吹きながら白目を剥いてしまっている。
それを一瞥してため息を吐いたところでクレイはさっさとその場を後にした。
向かうはサティクルドで報告を待つベルナルドがいる王宮だ。
ベルナルドはいよいよ始まったソレーユ侵攻に気持ちが高まるのを抑えることができなかった。
宣戦布告から半日。
ソレーユは恐らく騎士団と魔道士達の混合編成で対処してくることだろう。
けれど自慢の魔法兵団にそんな烏合の衆が太刀打ちできるはずもない。
駆逐されていくその姿を実際にこの目で見られないのは残念だが、自分の代わりに父王が見てきてくれるというのならおとなしく聞かざるを得なかった。
だからまだまだ報告など来はしないのに、そわそわとしながら外ばかりを見つめていた。
そんな自分の元に一体いつの間に現れたのか、黒衣の魔道士が姿を見せた。
艶やかな黒髪の青年で、その瞳はまるで宝石のように美しく輝いており、思わずその紫の瞳に魅入られるようにその白皙の美貌を見つめてしまった。
そんな彼が自分を見て冷たく笑う。
「皇太子ベルナルドだな?」
その問いに自分はそうだともそうではないとも答えることができなかった。
気づけば自分の体は自らの意思で動かすことが出来なくなっていたからだ。
一体自分の身に何が起こったのか?
けれどその青年はコツコツと足音を響かせて自分の元へと足を運んでくる。
「お前の処遇はサティクルドに任せる。長生きができるといいな?」
そんな言葉と共にその黒魔道士はあっさりと姿を消した。
(おい!待ってくれ!行かないでくれ!)
そんな声なき声が空しく自分の中で繰り返されるが、その声を聞く者はもうどこにもいなかった────。
***
クレイはベルナルドを水晶化させ終わったところで王はどこだと眷属へと尋ねた。
それによるとどうやら王は意気揚々と戦場へと足を運んでいたらしい。
そんなどうしようもない王に思わずため息が出てしまう。
それなら今頃あの結界の中で倒れ伏していることだろう。
「本当につくづくどうしようもない国だな」
【まあそう仰らず。不戦条約を結ぶのなら必要な相手でございますよ?】
心底つまらないと吐き出す自分を宥めるように眷属であるコートが言葉を紡ぐ。
【クレイ様のお気持ちもわかりますが、先ほどミシェル王子につけていた使い魔達が楽し気に報告してきたこともありますので、それでも楽しみにしながらサッサと片付けてくださいませ】
「…それは楽しみだな」
【ええ。ミシェル王子のお部屋で見つけたとはしゃいでおりましたから、きっとわくわくするものでしょう】
「……?よくわからないが、フォン達が騒ぐなら期待できそうだな」
どうやらミシェルにつけた使い魔達は随分楽しく過ごせていたらしい。
そう言うことならこれが終わったら眷属に召し上げてミシェル王子につけておくのも悪くはないかもしれないなとふと思った。
ちょうど最近魔力も上がったことだし、眷属を増やしてもいいかもと考えていたところだったからだ。
彼らは古参の魔物なだけあって眷属として実力も合う。
眷属になれば彼らの魔力も更に高まるし、今よりもよりのびのびと動けるようになることだろう。
そうしてちょっと心が和んだところでそのまま王の元へと向かい回復魔法を唱えてやると、すぐさま王宮へと取って返して不戦条約へと捺印させた。
王はこの事態が一人の魔道士によるものだと知り、化け物と叫んできたがそんなもの今更自分が気にすることもない。
自分が化け物なら、他国に侵略をするためありとあらゆる策略を巡らせたサティクルドは悪魔だと言いたかった。
一体この戦争でどれだけの人々の命を奪うつもりだったのか。
これに比べればミシェルの綺麗事を聞いている方がずっと好ましい。
平和が一番だ。
「言っておくが、この三ヵ国に対する不戦条約を破るなよ?もしも破ったら、その時点でこの国は一夜で焦土と化すと思え」
「ひっ…!」
「わかったな?」
そんな脅しにコクコクと頷く王にフッと笑い、そうだと言って付け加える。
「どうせこの戦争を起こした償いとしてお前もすぐに退位するだろうが…第二王子クシュナートの身はアストラスで預かっている。もし彼に王位を継がせるのなら少しくらいはこの国も好意的に見てやろう。ではな」
そして不敵に笑いながら書類を手にサティクルドを去りソレーユへと戻った。
後には腰を抜かしてへたり込む王と、恐れ慄く高官達があるばかり。
その後、ひっそりと王宮の片隅に置かれていたベルナルドの水晶像は、王の八つ当たりにより粉々に砕け散る羽目になるのだが────それを他国が知ることはなかった。
それを受けて念のため様子を見に行くかと王宮へと足を運んだのだが────。
「ああ、クレイ。様子を見に来たのか?」
そこにはにこやかに微笑む父とロックウェルに連れられたミシェルがいた。
変装と聞いて真っ先に女装を思い浮かべたのだが、予想とは違いそこには茶色い短髪のカツラを付け、繊細なフレームの眼鏡を掛けたミシェルの姿があった。
人形のように完璧で麗しい姿に変わりはないが、髪型と髪色が違うのと眼鏡があるだけで随分印象が変わる。
そして服装もまた何故か黒魔道士の衣装だった。
「どうだ?これならバレないだろう?」
そう口にしたロックウェルの言葉に、確かにと頷いてしまう。
これなら誰もミシェル王子だと気づきはしないだろう。
「一応ソレーユから来た黒魔道士の客人ということにしたが、制度改革に興味があって勉強にきたという設定だから問題はないだろう」
なるほど。それなら王宮内のどこに居てもおかしくはない。
考えたものだ。
「じゃあそっちは任せる。俺はこれからちょっと出かけないといけないから任せてもいいか?」
「ああ」
そんな答えに安心して今度はミシェルへと笑顔で請け負う。
「じゃあ今から魔法兵団を潰してくるから、朗報をのんびり待っていてくれ」
「「え?」」
「ああ、すまないな。待っている」
驚く二人の言葉をサラリと流し、クレイはそのまま一気に影を渡って本命であるサティクルドへと向かったのだった。
***
まず初めにソレーユへと足を運ぶと、そこにはサティクルドから宣戦布告を受けて物々しい雰囲気を漂わせながら騎士団と魔道士達に指示を出す国王の姿があった。
どうやら混合編成にして魔法兵団に対抗しようとしているらしい。
ミシェルを失い動揺する王宮内で的確な指示を出すところはなかなかのものだ。
けれどソレーユの魔道士の質を考えるとどう考えても魔法兵団にはかなわないだろう。
それは当然ながら皆が皆考えていることで、その表情は暗い。
けれど国を奪われるわけにはいかないと、皆死ぬ覚悟で挑むつもりのようだ。
そんな状況にクレイはそっとため息をつき、すぐさまロイドの姿を探した。
その近くには必ずライアードがいるだろうと踏んだからだ。
「クレイ」
そんな自分をロイドは目敏く見つけてすぐさまライアードの元へと案内してくれた。
「クレイ。そちらの方は片付いたのか?」
ライアードが真っ先にそう尋ねてくれたのでこちらも短く答えを返した。
「ああ。もう終わった」
するとそこでミシェルの騎士であるアルバートが落ち着かない様子で尋ねてきた。
「ミシェル様は!ミシェル様はご無事ですか?!」
「ああ。すでに水晶化は解いて、今はアストラスの王宮をロックウェルが案内している。いい勉強になるんじゃないか?」
そうやってサラリと口にすると、アルバートはホッと息を吐き、ロイドは面白そうに笑った。
「ははっ!こちらは一触即発だというのに、呑気なものだな」
「そうは言ってもミシェル王子を今ここに戻しても意味がないし、時間は有効に使った方がいいだろう?どうせ今日中に片はつく。たまにはのんびりさせてやれ」
少し話しただけでミシェルの生真面目さが分かっただけに、あまり虐めてやるなと思わずフォローを入れてしまう。
あれではロイドと反りが合わないことだろう。
そんな自分にロイドはクスリと笑った。
「それで?もう今から行くのか?」
「ああ」
「首尾は?」
「上々だ。かなりこちらを甘く見ているようだし、現状では陣形も広げていないから一網打尽にした方が早い。あれなら黒曜石は10個もあれば十分だし、さっさと結界で囲って決着をつけてくる」
「さすがに仕事が早いな」
「ふっ…メインはそっちじゃないからな。そこが終わったらその足でベルナルドを押さえるつもりだ」
「そうか。じゃあ後は任せる。魔力交流は?」
「昨日ロックウェルに十分にしてもらったから大丈夫だ」
そうしてその紫の瞳の封印を解き放ち、その足で一気に影を渡った。
***
魔法兵団はソレーユとの国境付近で、すでに勝利を確信しながら作戦会議に講じていた。
あの豊かな国がとうとう自分達のものになる。
それは皆を高揚させるのには十分で、士気が非常に高まっているのを感じた。
クレイはそんなソレーユサイドと全く逆の心境にある兵達の様子を見ながら、木の上から眷属達からの報告を待っていた。
するとものの数分で彼らは黒曜石を所定の位置へと置いて戻ってきた。
「終わったか?」
【ええ。問題なく】
「そうか」
そしてその場で立ち上がるとすぐさま結界魔法を発動させた。
キンッと張りつめる空気。
その大規模な範囲に、魔法兵団の者達が何事だと騒ぎ始めるが最早手遅れだ。
その結界に捕らわれた者達の魔法はあっという間に行使できなくなってしまう。
「何が起こっている?!」
「状況確認!結界魔法発動!敵襲だ!」
「魔法が使えないぞ?!どうなっている!」
そんな騒がしい声が耳へと届くが関係ない。
「はぁ…本当につまらない仕事だな」
そんな呟きと共に、彼らを無力化させる魔法を唱え切った。
ドンドンドンドン…………ッ!!!!
彼らが死なない程度に抑えた雷の攻撃魔法が結界内で炸裂する。
「うわぁあああっ!!」
「ひぃいいいいっ!」
最初に聞こえたそんな声も徐々に聞こえなくなり、後に残ったのは倒れ伏す魔法兵団の成れの果て────。
(鎧など着るものじゃないな)
皆感電して、身を弾ませ泡を吹きながら白目を剥いてしまっている。
それを一瞥してため息を吐いたところでクレイはさっさとその場を後にした。
向かうはサティクルドで報告を待つベルナルドがいる王宮だ。
ベルナルドはいよいよ始まったソレーユ侵攻に気持ちが高まるのを抑えることができなかった。
宣戦布告から半日。
ソレーユは恐らく騎士団と魔道士達の混合編成で対処してくることだろう。
けれど自慢の魔法兵団にそんな烏合の衆が太刀打ちできるはずもない。
駆逐されていくその姿を実際にこの目で見られないのは残念だが、自分の代わりに父王が見てきてくれるというのならおとなしく聞かざるを得なかった。
だからまだまだ報告など来はしないのに、そわそわとしながら外ばかりを見つめていた。
そんな自分の元に一体いつの間に現れたのか、黒衣の魔道士が姿を見せた。
艶やかな黒髪の青年で、その瞳はまるで宝石のように美しく輝いており、思わずその紫の瞳に魅入られるようにその白皙の美貌を見つめてしまった。
そんな彼が自分を見て冷たく笑う。
「皇太子ベルナルドだな?」
その問いに自分はそうだともそうではないとも答えることができなかった。
気づけば自分の体は自らの意思で動かすことが出来なくなっていたからだ。
一体自分の身に何が起こったのか?
けれどその青年はコツコツと足音を響かせて自分の元へと足を運んでくる。
「お前の処遇はサティクルドに任せる。長生きができるといいな?」
そんな言葉と共にその黒魔道士はあっさりと姿を消した。
(おい!待ってくれ!行かないでくれ!)
そんな声なき声が空しく自分の中で繰り返されるが、その声を聞く者はもうどこにもいなかった────。
***
クレイはベルナルドを水晶化させ終わったところで王はどこだと眷属へと尋ねた。
それによるとどうやら王は意気揚々と戦場へと足を運んでいたらしい。
そんなどうしようもない王に思わずため息が出てしまう。
それなら今頃あの結界の中で倒れ伏していることだろう。
「本当につくづくどうしようもない国だな」
【まあそう仰らず。不戦条約を結ぶのなら必要な相手でございますよ?】
心底つまらないと吐き出す自分を宥めるように眷属であるコートが言葉を紡ぐ。
【クレイ様のお気持ちもわかりますが、先ほどミシェル王子につけていた使い魔達が楽し気に報告してきたこともありますので、それでも楽しみにしながらサッサと片付けてくださいませ】
「…それは楽しみだな」
【ええ。ミシェル王子のお部屋で見つけたとはしゃいでおりましたから、きっとわくわくするものでしょう】
「……?よくわからないが、フォン達が騒ぐなら期待できそうだな」
どうやらミシェルにつけた使い魔達は随分楽しく過ごせていたらしい。
そう言うことならこれが終わったら眷属に召し上げてミシェル王子につけておくのも悪くはないかもしれないなとふと思った。
ちょうど最近魔力も上がったことだし、眷属を増やしてもいいかもと考えていたところだったからだ。
彼らは古参の魔物なだけあって眷属として実力も合う。
眷属になれば彼らの魔力も更に高まるし、今よりもよりのびのびと動けるようになることだろう。
そうしてちょっと心が和んだところでそのまま王の元へと向かい回復魔法を唱えてやると、すぐさま王宮へと取って返して不戦条約へと捺印させた。
王はこの事態が一人の魔道士によるものだと知り、化け物と叫んできたがそんなもの今更自分が気にすることもない。
自分が化け物なら、他国に侵略をするためありとあらゆる策略を巡らせたサティクルドは悪魔だと言いたかった。
一体この戦争でどれだけの人々の命を奪うつもりだったのか。
これに比べればミシェルの綺麗事を聞いている方がずっと好ましい。
平和が一番だ。
「言っておくが、この三ヵ国に対する不戦条約を破るなよ?もしも破ったら、その時点でこの国は一夜で焦土と化すと思え」
「ひっ…!」
「わかったな?」
そんな脅しにコクコクと頷く王にフッと笑い、そうだと言って付け加える。
「どうせこの戦争を起こした償いとしてお前もすぐに退位するだろうが…第二王子クシュナートの身はアストラスで預かっている。もし彼に王位を継がせるのなら少しくらいはこの国も好意的に見てやろう。ではな」
そして不敵に笑いながら書類を手にサティクルドを去りソレーユへと戻った。
後には腰を抜かしてへたり込む王と、恐れ慄く高官達があるばかり。
その後、ひっそりと王宮の片隅に置かれていたベルナルドの水晶像は、王の八つ当たりにより粉々に砕け散る羽目になるのだが────それを他国が知ることはなかった。
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