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第二部 ソレーユ編~失くした恋の行方~
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アルバートはロイドにミシェルの件を相談しようと思いながらその姿を探していたのだが、どうやら真っ最中のようだったのでそちらは出直すことにして、ステファンの方へと足を向けていた。
それにしても…まさか喘がされてるのがロイドの方だとは思ってもみなかった。
人は見かけによらないものだと若干反省してしまう。
これならシュバルツのどこか諦めたような複雑な表情に納得もいく。
まあ彼はロイド一筋なのが一目でわかることだし、何も心配はいらないだろう。
そうして回廊を歩いていると、ちょうどステファンがこちらへとやってくるのが見えた。
「ステファン殿」
「ああ、アルバート。ちょうどよかった。さっきミシェル様の護衛の件で騎士団の方に呼びに行ったんだが、見当たらなかったから探していたんだ」
その言葉にハッとして気を引き締めなおす。
恐らくクレイが言っていた連中に対する対策だろう。
どうやら早速ライアードが動いてくれたらしい。
「護衛の見直しが行われるのか?」
「ああ。ライアード王子から話を聞いた陛下が前回の件と合わせて事態を重くみられてな。王宮警備の見直しと共に国境警備の強化を行って、ミシェル様個人にも複数の王宮魔道士と騎士を護衛につけるべきだと仰られたんだ」
その為、人選のために騎士団長始め魔道士長などもこれから集まる予定なのだとか。
「私もアルバートもその中に組み込まれる予定だから、一緒に行こうと思ったんだ」
するとそこですぐ傍にいたシリィも声を上げた。
「私も!ライアード様にお願いしてミシェル様の護衛役に立候補させていただきました!シュバルツ様もこれからお声掛けしようと思っていますし、あとは優秀な黒魔道士の方や騎士の方を護衛に選んでいただければ万全だと思うんです!」
そうして勢い込んで話し込んでいると、執務室の方が俄かに騒がしくなってきた。
なんだか嫌な予感がする────。
三人でさっと顔を見合わせた後、急いでそちらの方へと皆走り始めた。
***
「…………」
ライアードはその状況を見て、あまりのことに言葉も出なかった。
まさかさっきの今で襲撃があるとは思っていなかったのだが、突然ミシェルのいる執務室に黒魔道士の集団が姿を現したのだ。
一体王宮の結界はどうなっているのだろうか?
早急に見直さなければと思わず舌打ちをしてしまいたくなる。
王宮魔道士など無視してロイドに全てやらせてしまえば話は早いのだが、それはそれで彼らのメンツを潰してしまうためできないだろうし、正直頭の痛い話だ。
易々と王宮のど真ん中に飛び込んできた黒魔道士の集団はすぐさま行動を開始し始める。
そこに居合わせた官吏達は恐れ慄き、多くが我先にと逃げ始めた。
安全なはずの王宮に立て続けに襲撃があれば逃げだしたくもなるだろう。
けれど果敢にもミシェルを守ろうとする者達もおり、そのこと自体に驚いてしまった。
それだけミシェルが身近な者に慕われているということなのだろうか?
とは言えこのままでは官吏達が自分のために殺されてしまうと思ったのだろう。
ミシェルが徐にその者達へ下がるようにと口にして一歩前へと出た。
その姿に思わず腹立たしい気持ちがわいてしまう。
まだ────親友の死を引き摺っているのだろうか?
自分のために誰も死なせたくないと…本気で思っているのか?
本当にどこまでも甘い兄だ。
周囲の者を使い捨てにしろとは言わないが、守られるべき弱い存在なのだから黙って守られていればいいものを────。
戦えないのならわざわざ前に出ず、下がっていればいいと思う。
ミシェルは自分のように剣が特別使えるわけでもなければ、シリィ達のように魔法を使えるわけでもない。
何よりも非力な、けれど絶対的な立場を持つこの国の『皇太子』なのだから。
それを兄はどこまで軽視しているのだろうか?
(こういう所が嫌いなんだ……)
それでも守らなければという気持ちはどうしても捨て切れない。
滑稽だとは思う。
けれど切り捨てられない。
それが自分にとっての『兄』という存在だった。
だからこそすぐさま兄を守るために動こうと思ったのだが、それよりも早く相手の黒魔道士の方が先に動いた。
黒魔道士達が前へと出たミシェルににやりと笑い、そのまま拘束しようと魔法を唱える。
けれどその魔法はミシェルを捕らえる前に極薄い膜で呆気なく弾き飛ばされた。
「……は?」
その光景に、魔法を弾かれた魔道士が思わず目を丸くする。
周囲の者達も呆気にとられ、何が起こったのかわからない様子だった。
これはもしや先程クレイがミシェルに掛けてくれた防御魔法なのだろうか?
そう思いながら思わず様子を見ていると、彼らは懸命に拘束魔法を駆使し始めた。
依頼内容はミシェルの拉致なのだから、当然と言えば当然の行動だ。
けれどその悉く全てがその魔法の防御膜によって弾き飛ばされていく。
どんな魔法も全く太刀打ちできないほどその魔法は強力で完璧だった。
(さすがクレイだな)
これなら年間契約で兄にずっと防御魔法を掛けてもらおうかと本気で考えてしまうほどのレベルだ。
何しろ既存の数回攻撃を跳ね返したら壊れてしまうような防御魔法と比べるまでもなく格段に性能がいいのだから。
あれだけもう何十回と弾き飛ばしていることから、恐らく強度自体が物凄く高いのだろう。
あの薄さでこの強度ははっきり言って驚異的だ。
(ロイドにも使えるか今度聞いてみようか?)
これが使えるのなら実に画期的だ。
王族の安全は確保されたも同然と言えるだろう。
そうこうしているうちにステファンやアルバート、シリィがその場へと飛び込んできた。
「ミシェル様!ご無事ですか?!」
アルバートがミシェルを守るように背に庇い、しっかりと剣を構える。
それを見て取ると、今度はステファンとシリィが攻撃魔法を唱え始めその場は一気に戦いの場になってしまった。
とは言え相手は黒魔道士10人だ。
さすがに皇太子を狙いに来ただけあり、皆かなりの実力者のように見えた。
白魔道士は防御には優れているが攻撃には弱い。
いくらなんでも相手が多すぎるため、すぐさまロイドを呼んでくるようにと眷属に告げ一先ず自分が攻撃へと転じることに決める。
クレイのお陰でミシェルの身が安全だとわかった今、ミシェルを守るよりもここで攻撃に出る方が得策だと考えたからだ。
自分にはロイドの防御魔法がかかっている上、眷属が付いているし、そうそうやられることはない。
そうして一人二人相手をしている間にロイドがやってきて、皆一纏めに捕まえてくれることだろう。
けれどそれに驚いたのがシリィだ。
「ライアード様?!」
剣を手に黒魔道士達へと突っ込んでいく自分に慌てて防御魔法を追加でかけてくる。
それがなんだか嬉しかった。
そしてその姿を見たアルバートもここで攻撃が必要だと認識し、すぐさま打って出た。
それに対しステファンがそちらの防御を担当する。
けれどそのタイミングで黒魔道士が影へと沈み、一気にミシェルの背後をとった。
これには皆がしまったとミシェルの方へと意識を持っていかれてしまう。
クレイほど速くはないとはいえ、さすがに影渡りに防御魔法は意味を成さないし、逃げられれば追いかけることができない。
そして止めなければと全員の目がそちらへと向いたところで、他の黒魔道士達の魔法が襲い掛かった。
辛うじてステファンが広範囲の防御壁を張り巡らせそれらを防ぐが、室内に吹き荒れる爆風に皆が目を開けることができない。
「ミシェル様!」
いくら攫われた先でクレイがミシェルの安全を保証してくれる筈だとは言え、こんなに簡単に攫われたのではたまらないとアルバートは必死に声を上げた。
けれど、やっと目が開けられたその場には無傷のミシェルとクレイの使い魔に切り裂かれた黒魔道士の姿があった。
それにホッと安堵すると共にアルバートは一気に黒魔道士達へと距離を詰め、一息に彼らを斬り捨てていく。
これ以上脅威を放置することなどできはしないとばかりに自らの剣を振るったが、最初は茫然と事態を見ていた黒魔道士達がそのままおとなしくやられてくれるわけもない。
ハッと我に返った者達が標的を自分へと変え、すぐさま攻撃を仕掛けてきた。
「アル!」
それを見て慌てて走り寄りその場へと飛び込んだミシェルに、その場の誰もが息をのんだ。
(危ない!)
戦いの場に飛び込むなんてまさに自ら死ににくるようなものだ。
「ミシェル様!」
魔法が先か、剣が先か────。
ミシェルの位置はそのどちらも当たる危険な場所で…助けようにも誰も間に合わないタイミングだった。
けれどそうして誰もが蒼白になる中、またしてもミシェルを覆う防御膜が魔法も剣もすべての攻撃を無効化してしまった。
それを見て皆が安堵したのも束の間、今度は別の黒魔道士がミシェルの腕をグイっと引っ張り、影を渡ろうとする。
けれどそれに対しとっさに嫌だとミシェルが拒否反応を示したところで、その手はあっさりとミシェルから弾き飛ばされ今度は掴むことすらできなくなった。
そんな中、どこか場違いに楽し気な笑い声が響き渡った。
見るとそこにはロイドの姿があった。
ミシェルが危険だったというのに一体何がそんなに面白いのだろうか?
そうして訝しんでいたところで、ロイドはその口から魔法を紡ぎだし、あっという間にその場にいた黒魔道士達を拘束してしまった。
まさに一瞬の出来事と言っても過言ではないだろう。
「ライアード様。この者達は一先ず牢に入れておきましょうか?」
「そうだな。どうせ失敗したとわかればまた他の黒魔道士がやってくるだろう。ひとまとめにして牢に入れておいてくれ」
「かしこまりました」
そうして眷属に指示を出し、あっさりと片付けてしまうロイド。
さすがライアードお抱えの優秀な黒魔道士と呼ばれるだけのことはある。
それに引き換えやはり魔力の持たない自分はミシェルを守り切ることができないのかと悔しく思った。
そんな自分にミシェルがそっと声を掛けてくる。
「アル。頼むから、さっきみたいに自分から魔道士に突っ込んでいかないでくれ……」
それはどう考えても自分のセリフなのだが、よく見るとその姿はカタカタと震えていて、目に一杯の涙を湛えていた。
どうやら先程の自分の行動で兄のジャスティンのことを思い出させてしまったらしい。
「ミシェル様……申し訳ございません」
ミシェルを守ろうと動いた結果悲しませる結果になるとは皮肉な話だ。
けれどそれならば自分はどうすればよかったのか……。
大切なミシェルを守れないのであれば自分が騎士でいる意味がない。
ましてや守るべき主人を自ら危険な場へと飛び込ませるなど、あってはならないことだ。
自分の存在意義が分からなくて思わず悲嘆にくれる。
けれどそこでクレイの使い魔がちょっと待っていろとばかりに一旦下がり、暫くしたところでクレイを連れて戻ってきた。
その姿にロイドがすこぶる楽し気に声を掛ける。
「クレイ!あの防御膜は凄いな」
「ああ、なんだ。もう見たのか?最高の出来だっただろう?」
「一体どんな魔法式を使って構成したんだ?本人の意思で弾き飛ばせるなんて初めて見たぞ?ミシェル王子自身には魔力がないのにあんなことができるなんて思ってもみなかったな」
「ああ、あれか。この魔法は対象の拒絶がそのまま反映される優れものなんだ。だから本人が嫌がってたら絶対に触れないぞ?」
「この魔法は誰でも使えるのか?」
「誰でもは無理だな。俺の知る限り、精々お前かハインツくらいじゃないか?」
「なんだ。もしかして白魔道士には使えないのか?」
「ちょっと魔法式が黒魔法寄りだからな。それに…繊細な魔法だから高位の魔道士にしか発動できないんだ。改良前のやつならシュバルツでも使えるんだがな」
そうして何やら二人で魔法談義をしているが、どうやら今回クレイがミシェルに掛けてくれたのはそんな特別な防御魔法だったらしいということだけはわかった。
「と言うことは、元々は例のロックウェルを守るための魔法か?」
「ああ。でもアベルみたいな奴が来ても身を守れるようにって自分用にもちょっと改良したんだ。これでロックウェルから余計な心配をされずに済むだろう?」
「ああ、なるほど。それにしても…全て弾かず任意で相手を受け入れられるようにと条件を足したのはロックウェルのせいか?」
「だってロックウェルの拘束魔法とかまで拒む魔法だったら毎回解除しないといけないから面倒じゃないか」
「……相変わらずだな」
そう言いながらもロイドはこっそり舌打ちしていた。
どうやらロックウェルに拘束されたいとクレイが言ったように聞こえたからのようだ。
「ああ、お前と話してて本題を忘れるところだった」
そして会話が一段落したところでやっとクレイがこちらへと視線を向けてくる。
「ミシェル王子の騎士…恋人はお前か?」
「え?ええ」
一体自分などに何の用だろうと思いながらはっきりと返事を返すと、何やら笑顔で呪文を唱えてくれた。
「これでミシェル王子と同じ魔法がかかったから、全ての魔法攻撃、物理攻撃、拘束魔法、不快行動を弾き飛ばせるようになった。回復魔法や状態異常回復等の魔法はちゃんと効くからそこは安心してもらって大丈夫だ。あとは……」
そう言いながら剣の方へと目を向け、何やらまた少し違った呪文をサッと唱えてくれる。
「こっちも特別仕様にしておいたから一度試してみてくれ」
「特別仕様?」
特段変わったようには見えないのだが、何か変わったのだろうか?
「そのままだと魔法耐性がなくてすぐに壊れそうだったから、強化して魔法も斬れるようにしておいたんだ」
その言葉に思わず剣とクレイを二度見してしまう。
そんなことが果たして可能なのだろうか?
未だかつて一度も聞いたことがないのだが……。
けれどクレイは事も無げに言い放った。
「簡単だ。さっきと同じ魔法を剣に掛けておいたんだ。違うと言えば、持ち主の意思によってその効力は発動されるというだけの違いだな」
それはある意味最強の武器なのではないだろうか?
そんなことができるなんて初めて知った。
これにはその場にいた者達も皆呆気にとられている。
「クレイ…相変わらずお前のその応用力は凄まじいな」
ロイドでさえもこれには驚きを隠せないようだった。
「ははっ!褒めても何も出ないぞ?まあただの発想の転換だ。今度お前にも教えてやるからライアード王子にも使ってやればいい。取り敢えず恋人の安全はこれでいいか?ミシェル王子」
その言葉にミシェルがハッと我に返ってクレイへと礼を述べる。
「クレイ……本当にありがとう。心から礼を言わせてくれ」
「いや。礼ならそこの使い魔に言ってやってくれ」
独自の判断でわざわざ状況を把握して知らせに来てくれたからとクレイがどこか嬉しそうに笑った。
そして、また何かあった場合は言ってもらえたら対処するからと言い、クレイはそのまま鮮やかに帰っていった。
後には何とも言えない表情を浮かべる者があるばかり。
一体彼はどれだけチートなのだろう。
正直クレイにかかれば大抵の難題はあっさりと解決できてしまうのではないだろうか?
本当に彼が味方でよかった。
あれならサティクルドなど敵ではないのではないかと自然に思えた。
ある意味アストラスはクレイがいる限り最強だと言える。
「え~…っと?ミシェル様の安全は確保されたので、過剰な護衛は不要と言うことなんでしょうか?こうなると、実質ミシェル様を攫えるのはもうクレイだけということですよね?」
シリィのどこか脱力したような声が静かにその場に響き、皆が夢から覚めたかのようにハッと我へと返る。
確かにあの防御力を見る限り、ちょっとやそっとの刺客程度では歯が立たないことだろう。
しかもそれに加えてクレイの使い魔が二匹もつけられているのだから、攫えるとしたらその魔法を行使しているクレイくらいのものなのではないだろうか?
「まあそうだな。これだけ完璧に守られたら私でも攫えないぞ?護衛はアルバートさえつけておけば他にはいらないだろう」
しかもロイドにまでそんなお墨付きをもらってしまう。
ミシェルが攫われるのは実質一番安全なクレイの手によるものの場合のみ。
それ以外は自分がこの剣でミシェルの敵を倒し守ればいいということのようだ。
それは物凄く嬉しい。
何故ならそれはずっと自分が願ってきたことだから────。
そしてこれはチャンスだと大きく深く息を吐き、静かに剣へと目を遣ってゆっくりとミシェルの前で膝を折った。
「ミシェル様。どうか私にミシェル様の専属騎士のお許しを頂きたく存じます」
これまでならきっと確実に断られただろう。
けれど先程クレイは自分に戦うすべを与えてくれた。
それはとてもありがたいもので、自分は騎士としての誇りを保つことができた。
だからこそ、ここでミシェルの判断を仰いでみたいと思った。
「常に側にあり、貴方を守り通す剣となる栄誉を私にお与えください」
この言葉にミシェルが答えに時間が要するのはわかっている。
けれどどうか聞き入れて欲しい。
そう願いながらただ黙って静かに頭を垂れ続けた。
「アルバート…」
すると程なくして、ミシェルが恋人としてではなく皇太子の声音で口を開いた。
その言葉だけでもう自分には何となくその先の言葉に想像がついてしまう。
それだけ固く…どこか泣きそうで、けれど決意に溢れたような言葉が紡がれたからだ。
「お前に…私の護衛を命じる。常に側にあり、常に…その持ちうるもの全てで私の身を守れ」
その言葉に────胸に喜びが満ちていく。
決して嬉々として受け入れてもらえたわけではない。
ミシェルにしてみれば苦渋の決断だったといっても過言ではないだろう。
けれど…ずっと欲しかったその言葉に思わず感激し、これ以上ないほど打ち震えてしまった。
ずっと……ミシェルに必要とされたかった。
ずっと……側にいて守ってあげたいと思っていた。
けれど兄の死からそれが困難であるとちゃんとわかってはいた。
たとえミシェルの騎士に対する態度が軟化しようとも、ミシェルが自分にその役目を自ら頼むことはない。
頼まれることがあるとしたらそれは王からかライアードからでしかない。
何故なら自分は魔力を持たないただの騎士だから────。
ミシェルは自らの命を守るために誰かが死ぬのが怖いのだ。
だから…魔道士ではない自分は、本当の意味でミシェルには必要としてもらえないのだと残念に思っていた。
それが今……やっと叶う日が来た。
恋人としてだけではなく、公私共に自分の愛する人を守っていきたい。
そんな願いを、ミシェルは今────聞き届けてくれた。
それだけで自分はこれまで以上に満ち足りた気持ちでいっぱいになってしまう。
「ミシェル様に、私の持ちうる全ての愛と、永遠の忠誠をお捧げ致します」
謹んでお受けいたしますなんて…そんな軽い言葉ではとても言い表せられず、しっかりとそう言葉を紡ぎそっと顔を上げると、ミシェルはやはりどこか泣きそうな顔をしていた。
そしてそのまま踵を返してしまったミシェルの姿に、あとできちんとフォローを入れておかなければと思いながらも、この喜びを少しでも伝えられたらいいなとアルバートは静かに微笑んだ。
それにしても…まさか喘がされてるのがロイドの方だとは思ってもみなかった。
人は見かけによらないものだと若干反省してしまう。
これならシュバルツのどこか諦めたような複雑な表情に納得もいく。
まあ彼はロイド一筋なのが一目でわかることだし、何も心配はいらないだろう。
そうして回廊を歩いていると、ちょうどステファンがこちらへとやってくるのが見えた。
「ステファン殿」
「ああ、アルバート。ちょうどよかった。さっきミシェル様の護衛の件で騎士団の方に呼びに行ったんだが、見当たらなかったから探していたんだ」
その言葉にハッとして気を引き締めなおす。
恐らくクレイが言っていた連中に対する対策だろう。
どうやら早速ライアードが動いてくれたらしい。
「護衛の見直しが行われるのか?」
「ああ。ライアード王子から話を聞いた陛下が前回の件と合わせて事態を重くみられてな。王宮警備の見直しと共に国境警備の強化を行って、ミシェル様個人にも複数の王宮魔道士と騎士を護衛につけるべきだと仰られたんだ」
その為、人選のために騎士団長始め魔道士長などもこれから集まる予定なのだとか。
「私もアルバートもその中に組み込まれる予定だから、一緒に行こうと思ったんだ」
するとそこですぐ傍にいたシリィも声を上げた。
「私も!ライアード様にお願いしてミシェル様の護衛役に立候補させていただきました!シュバルツ様もこれからお声掛けしようと思っていますし、あとは優秀な黒魔道士の方や騎士の方を護衛に選んでいただければ万全だと思うんです!」
そうして勢い込んで話し込んでいると、執務室の方が俄かに騒がしくなってきた。
なんだか嫌な予感がする────。
三人でさっと顔を見合わせた後、急いでそちらの方へと皆走り始めた。
***
「…………」
ライアードはその状況を見て、あまりのことに言葉も出なかった。
まさかさっきの今で襲撃があるとは思っていなかったのだが、突然ミシェルのいる執務室に黒魔道士の集団が姿を現したのだ。
一体王宮の結界はどうなっているのだろうか?
早急に見直さなければと思わず舌打ちをしてしまいたくなる。
王宮魔道士など無視してロイドに全てやらせてしまえば話は早いのだが、それはそれで彼らのメンツを潰してしまうためできないだろうし、正直頭の痛い話だ。
易々と王宮のど真ん中に飛び込んできた黒魔道士の集団はすぐさま行動を開始し始める。
そこに居合わせた官吏達は恐れ慄き、多くが我先にと逃げ始めた。
安全なはずの王宮に立て続けに襲撃があれば逃げだしたくもなるだろう。
けれど果敢にもミシェルを守ろうとする者達もおり、そのこと自体に驚いてしまった。
それだけミシェルが身近な者に慕われているということなのだろうか?
とは言えこのままでは官吏達が自分のために殺されてしまうと思ったのだろう。
ミシェルが徐にその者達へ下がるようにと口にして一歩前へと出た。
その姿に思わず腹立たしい気持ちがわいてしまう。
まだ────親友の死を引き摺っているのだろうか?
自分のために誰も死なせたくないと…本気で思っているのか?
本当にどこまでも甘い兄だ。
周囲の者を使い捨てにしろとは言わないが、守られるべき弱い存在なのだから黙って守られていればいいものを────。
戦えないのならわざわざ前に出ず、下がっていればいいと思う。
ミシェルは自分のように剣が特別使えるわけでもなければ、シリィ達のように魔法を使えるわけでもない。
何よりも非力な、けれど絶対的な立場を持つこの国の『皇太子』なのだから。
それを兄はどこまで軽視しているのだろうか?
(こういう所が嫌いなんだ……)
それでも守らなければという気持ちはどうしても捨て切れない。
滑稽だとは思う。
けれど切り捨てられない。
それが自分にとっての『兄』という存在だった。
だからこそすぐさま兄を守るために動こうと思ったのだが、それよりも早く相手の黒魔道士の方が先に動いた。
黒魔道士達が前へと出たミシェルににやりと笑い、そのまま拘束しようと魔法を唱える。
けれどその魔法はミシェルを捕らえる前に極薄い膜で呆気なく弾き飛ばされた。
「……は?」
その光景に、魔法を弾かれた魔道士が思わず目を丸くする。
周囲の者達も呆気にとられ、何が起こったのかわからない様子だった。
これはもしや先程クレイがミシェルに掛けてくれた防御魔法なのだろうか?
そう思いながら思わず様子を見ていると、彼らは懸命に拘束魔法を駆使し始めた。
依頼内容はミシェルの拉致なのだから、当然と言えば当然の行動だ。
けれどその悉く全てがその魔法の防御膜によって弾き飛ばされていく。
どんな魔法も全く太刀打ちできないほどその魔法は強力で完璧だった。
(さすがクレイだな)
これなら年間契約で兄にずっと防御魔法を掛けてもらおうかと本気で考えてしまうほどのレベルだ。
何しろ既存の数回攻撃を跳ね返したら壊れてしまうような防御魔法と比べるまでもなく格段に性能がいいのだから。
あれだけもう何十回と弾き飛ばしていることから、恐らく強度自体が物凄く高いのだろう。
あの薄さでこの強度ははっきり言って驚異的だ。
(ロイドにも使えるか今度聞いてみようか?)
これが使えるのなら実に画期的だ。
王族の安全は確保されたも同然と言えるだろう。
そうこうしているうちにステファンやアルバート、シリィがその場へと飛び込んできた。
「ミシェル様!ご無事ですか?!」
アルバートがミシェルを守るように背に庇い、しっかりと剣を構える。
それを見て取ると、今度はステファンとシリィが攻撃魔法を唱え始めその場は一気に戦いの場になってしまった。
とは言え相手は黒魔道士10人だ。
さすがに皇太子を狙いに来ただけあり、皆かなりの実力者のように見えた。
白魔道士は防御には優れているが攻撃には弱い。
いくらなんでも相手が多すぎるため、すぐさまロイドを呼んでくるようにと眷属に告げ一先ず自分が攻撃へと転じることに決める。
クレイのお陰でミシェルの身が安全だとわかった今、ミシェルを守るよりもここで攻撃に出る方が得策だと考えたからだ。
自分にはロイドの防御魔法がかかっている上、眷属が付いているし、そうそうやられることはない。
そうして一人二人相手をしている間にロイドがやってきて、皆一纏めに捕まえてくれることだろう。
けれどそれに驚いたのがシリィだ。
「ライアード様?!」
剣を手に黒魔道士達へと突っ込んでいく自分に慌てて防御魔法を追加でかけてくる。
それがなんだか嬉しかった。
そしてその姿を見たアルバートもここで攻撃が必要だと認識し、すぐさま打って出た。
それに対しステファンがそちらの防御を担当する。
けれどそのタイミングで黒魔道士が影へと沈み、一気にミシェルの背後をとった。
これには皆がしまったとミシェルの方へと意識を持っていかれてしまう。
クレイほど速くはないとはいえ、さすがに影渡りに防御魔法は意味を成さないし、逃げられれば追いかけることができない。
そして止めなければと全員の目がそちらへと向いたところで、他の黒魔道士達の魔法が襲い掛かった。
辛うじてステファンが広範囲の防御壁を張り巡らせそれらを防ぐが、室内に吹き荒れる爆風に皆が目を開けることができない。
「ミシェル様!」
いくら攫われた先でクレイがミシェルの安全を保証してくれる筈だとは言え、こんなに簡単に攫われたのではたまらないとアルバートは必死に声を上げた。
けれど、やっと目が開けられたその場には無傷のミシェルとクレイの使い魔に切り裂かれた黒魔道士の姿があった。
それにホッと安堵すると共にアルバートは一気に黒魔道士達へと距離を詰め、一息に彼らを斬り捨てていく。
これ以上脅威を放置することなどできはしないとばかりに自らの剣を振るったが、最初は茫然と事態を見ていた黒魔道士達がそのままおとなしくやられてくれるわけもない。
ハッと我に返った者達が標的を自分へと変え、すぐさま攻撃を仕掛けてきた。
「アル!」
それを見て慌てて走り寄りその場へと飛び込んだミシェルに、その場の誰もが息をのんだ。
(危ない!)
戦いの場に飛び込むなんてまさに自ら死ににくるようなものだ。
「ミシェル様!」
魔法が先か、剣が先か────。
ミシェルの位置はそのどちらも当たる危険な場所で…助けようにも誰も間に合わないタイミングだった。
けれどそうして誰もが蒼白になる中、またしてもミシェルを覆う防御膜が魔法も剣もすべての攻撃を無効化してしまった。
それを見て皆が安堵したのも束の間、今度は別の黒魔道士がミシェルの腕をグイっと引っ張り、影を渡ろうとする。
けれどそれに対しとっさに嫌だとミシェルが拒否反応を示したところで、その手はあっさりとミシェルから弾き飛ばされ今度は掴むことすらできなくなった。
そんな中、どこか場違いに楽し気な笑い声が響き渡った。
見るとそこにはロイドの姿があった。
ミシェルが危険だったというのに一体何がそんなに面白いのだろうか?
そうして訝しんでいたところで、ロイドはその口から魔法を紡ぎだし、あっという間にその場にいた黒魔道士達を拘束してしまった。
まさに一瞬の出来事と言っても過言ではないだろう。
「ライアード様。この者達は一先ず牢に入れておきましょうか?」
「そうだな。どうせ失敗したとわかればまた他の黒魔道士がやってくるだろう。ひとまとめにして牢に入れておいてくれ」
「かしこまりました」
そうして眷属に指示を出し、あっさりと片付けてしまうロイド。
さすがライアードお抱えの優秀な黒魔道士と呼ばれるだけのことはある。
それに引き換えやはり魔力の持たない自分はミシェルを守り切ることができないのかと悔しく思った。
そんな自分にミシェルがそっと声を掛けてくる。
「アル。頼むから、さっきみたいに自分から魔道士に突っ込んでいかないでくれ……」
それはどう考えても自分のセリフなのだが、よく見るとその姿はカタカタと震えていて、目に一杯の涙を湛えていた。
どうやら先程の自分の行動で兄のジャスティンのことを思い出させてしまったらしい。
「ミシェル様……申し訳ございません」
ミシェルを守ろうと動いた結果悲しませる結果になるとは皮肉な話だ。
けれどそれならば自分はどうすればよかったのか……。
大切なミシェルを守れないのであれば自分が騎士でいる意味がない。
ましてや守るべき主人を自ら危険な場へと飛び込ませるなど、あってはならないことだ。
自分の存在意義が分からなくて思わず悲嘆にくれる。
けれどそこでクレイの使い魔がちょっと待っていろとばかりに一旦下がり、暫くしたところでクレイを連れて戻ってきた。
その姿にロイドがすこぶる楽し気に声を掛ける。
「クレイ!あの防御膜は凄いな」
「ああ、なんだ。もう見たのか?最高の出来だっただろう?」
「一体どんな魔法式を使って構成したんだ?本人の意思で弾き飛ばせるなんて初めて見たぞ?ミシェル王子自身には魔力がないのにあんなことができるなんて思ってもみなかったな」
「ああ、あれか。この魔法は対象の拒絶がそのまま反映される優れものなんだ。だから本人が嫌がってたら絶対に触れないぞ?」
「この魔法は誰でも使えるのか?」
「誰でもは無理だな。俺の知る限り、精々お前かハインツくらいじゃないか?」
「なんだ。もしかして白魔道士には使えないのか?」
「ちょっと魔法式が黒魔法寄りだからな。それに…繊細な魔法だから高位の魔道士にしか発動できないんだ。改良前のやつならシュバルツでも使えるんだがな」
そうして何やら二人で魔法談義をしているが、どうやら今回クレイがミシェルに掛けてくれたのはそんな特別な防御魔法だったらしいということだけはわかった。
「と言うことは、元々は例のロックウェルを守るための魔法か?」
「ああ。でもアベルみたいな奴が来ても身を守れるようにって自分用にもちょっと改良したんだ。これでロックウェルから余計な心配をされずに済むだろう?」
「ああ、なるほど。それにしても…全て弾かず任意で相手を受け入れられるようにと条件を足したのはロックウェルのせいか?」
「だってロックウェルの拘束魔法とかまで拒む魔法だったら毎回解除しないといけないから面倒じゃないか」
「……相変わらずだな」
そう言いながらもロイドはこっそり舌打ちしていた。
どうやらロックウェルに拘束されたいとクレイが言ったように聞こえたからのようだ。
「ああ、お前と話してて本題を忘れるところだった」
そして会話が一段落したところでやっとクレイがこちらへと視線を向けてくる。
「ミシェル王子の騎士…恋人はお前か?」
「え?ええ」
一体自分などに何の用だろうと思いながらはっきりと返事を返すと、何やら笑顔で呪文を唱えてくれた。
「これでミシェル王子と同じ魔法がかかったから、全ての魔法攻撃、物理攻撃、拘束魔法、不快行動を弾き飛ばせるようになった。回復魔法や状態異常回復等の魔法はちゃんと効くからそこは安心してもらって大丈夫だ。あとは……」
そう言いながら剣の方へと目を向け、何やらまた少し違った呪文をサッと唱えてくれる。
「こっちも特別仕様にしておいたから一度試してみてくれ」
「特別仕様?」
特段変わったようには見えないのだが、何か変わったのだろうか?
「そのままだと魔法耐性がなくてすぐに壊れそうだったから、強化して魔法も斬れるようにしておいたんだ」
その言葉に思わず剣とクレイを二度見してしまう。
そんなことが果たして可能なのだろうか?
未だかつて一度も聞いたことがないのだが……。
けれどクレイは事も無げに言い放った。
「簡単だ。さっきと同じ魔法を剣に掛けておいたんだ。違うと言えば、持ち主の意思によってその効力は発動されるというだけの違いだな」
それはある意味最強の武器なのではないだろうか?
そんなことができるなんて初めて知った。
これにはその場にいた者達も皆呆気にとられている。
「クレイ…相変わらずお前のその応用力は凄まじいな」
ロイドでさえもこれには驚きを隠せないようだった。
「ははっ!褒めても何も出ないぞ?まあただの発想の転換だ。今度お前にも教えてやるからライアード王子にも使ってやればいい。取り敢えず恋人の安全はこれでいいか?ミシェル王子」
その言葉にミシェルがハッと我に返ってクレイへと礼を述べる。
「クレイ……本当にありがとう。心から礼を言わせてくれ」
「いや。礼ならそこの使い魔に言ってやってくれ」
独自の判断でわざわざ状況を把握して知らせに来てくれたからとクレイがどこか嬉しそうに笑った。
そして、また何かあった場合は言ってもらえたら対処するからと言い、クレイはそのまま鮮やかに帰っていった。
後には何とも言えない表情を浮かべる者があるばかり。
一体彼はどれだけチートなのだろう。
正直クレイにかかれば大抵の難題はあっさりと解決できてしまうのではないだろうか?
本当に彼が味方でよかった。
あれならサティクルドなど敵ではないのではないかと自然に思えた。
ある意味アストラスはクレイがいる限り最強だと言える。
「え~…っと?ミシェル様の安全は確保されたので、過剰な護衛は不要と言うことなんでしょうか?こうなると、実質ミシェル様を攫えるのはもうクレイだけということですよね?」
シリィのどこか脱力したような声が静かにその場に響き、皆が夢から覚めたかのようにハッと我へと返る。
確かにあの防御力を見る限り、ちょっとやそっとの刺客程度では歯が立たないことだろう。
しかもそれに加えてクレイの使い魔が二匹もつけられているのだから、攫えるとしたらその魔法を行使しているクレイくらいのものなのではないだろうか?
「まあそうだな。これだけ完璧に守られたら私でも攫えないぞ?護衛はアルバートさえつけておけば他にはいらないだろう」
しかもロイドにまでそんなお墨付きをもらってしまう。
ミシェルが攫われるのは実質一番安全なクレイの手によるものの場合のみ。
それ以外は自分がこの剣でミシェルの敵を倒し守ればいいということのようだ。
それは物凄く嬉しい。
何故ならそれはずっと自分が願ってきたことだから────。
そしてこれはチャンスだと大きく深く息を吐き、静かに剣へと目を遣ってゆっくりとミシェルの前で膝を折った。
「ミシェル様。どうか私にミシェル様の専属騎士のお許しを頂きたく存じます」
これまでならきっと確実に断られただろう。
けれど先程クレイは自分に戦うすべを与えてくれた。
それはとてもありがたいもので、自分は騎士としての誇りを保つことができた。
だからこそ、ここでミシェルの判断を仰いでみたいと思った。
「常に側にあり、貴方を守り通す剣となる栄誉を私にお与えください」
この言葉にミシェルが答えに時間が要するのはわかっている。
けれどどうか聞き入れて欲しい。
そう願いながらただ黙って静かに頭を垂れ続けた。
「アルバート…」
すると程なくして、ミシェルが恋人としてではなく皇太子の声音で口を開いた。
その言葉だけでもう自分には何となくその先の言葉に想像がついてしまう。
それだけ固く…どこか泣きそうで、けれど決意に溢れたような言葉が紡がれたからだ。
「お前に…私の護衛を命じる。常に側にあり、常に…その持ちうるもの全てで私の身を守れ」
その言葉に────胸に喜びが満ちていく。
決して嬉々として受け入れてもらえたわけではない。
ミシェルにしてみれば苦渋の決断だったといっても過言ではないだろう。
けれど…ずっと欲しかったその言葉に思わず感激し、これ以上ないほど打ち震えてしまった。
ずっと……ミシェルに必要とされたかった。
ずっと……側にいて守ってあげたいと思っていた。
けれど兄の死からそれが困難であるとちゃんとわかってはいた。
たとえミシェルの騎士に対する態度が軟化しようとも、ミシェルが自分にその役目を自ら頼むことはない。
頼まれることがあるとしたらそれは王からかライアードからでしかない。
何故なら自分は魔力を持たないただの騎士だから────。
ミシェルは自らの命を守るために誰かが死ぬのが怖いのだ。
だから…魔道士ではない自分は、本当の意味でミシェルには必要としてもらえないのだと残念に思っていた。
それが今……やっと叶う日が来た。
恋人としてだけではなく、公私共に自分の愛する人を守っていきたい。
そんな願いを、ミシェルは今────聞き届けてくれた。
それだけで自分はこれまで以上に満ち足りた気持ちでいっぱいになってしまう。
「ミシェル様に、私の持ちうる全ての愛と、永遠の忠誠をお捧げ致します」
謹んでお受けいたしますなんて…そんな軽い言葉ではとても言い表せられず、しっかりとそう言葉を紡ぎそっと顔を上げると、ミシェルはやはりどこか泣きそうな顔をしていた。
そしてそのまま踵を返してしまったミシェルの姿に、あとできちんとフォローを入れておかなければと思いながらも、この喜びを少しでも伝えられたらいいなとアルバートは静かに微笑んだ。
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