黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第二部 ソレーユ編~失くした恋の行方~

40.竜の尾

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あれから数日が経ち、ライアードからの報告を受け双子の黒魔道士と対面するため牢まで足を運んだ。
アルバートもこれだけは譲れないと言って同席してくれたので正直心強いなと思った。

「兄上。調べたところこの二人は隣国サティクルドの王子────ベルナルドの元お抱え魔道士でした」

どうやら今回の件は単純に事件が重なっただけではなく、各者の様々な思惑が絡んでいた案件だったらしい。

なんでもいいから有利な形でソレーユに戦いを吹っかけたいサティクルド国。
ミシェルを殺して何食わぬ顔で後釜にライアードを据えたい第二王子擁立派。
表向き中立派としてはいたものの、自分の利益を第一に各所に恩を売るために蠢く貴族。
ミシェルに見限られるのはプライドが許さないと考え、アルバートとの仲を裂き、ミシェルを傷つけつつそれを慰める事で自分の立場を回復させようと画策した皇太子妃。

正直どれもこれも頭の痛い問題だった。
利用された形の双子の黒魔道士ではあったが、その行動は到底許せるものではない。
しかしここであっさりと命を奪ってしまってはそれこそサティクルドの思う壺だ。
それをダシに攻め込んでくることも十分に考えられるだけに、事は慎重を要する。
だからこそライアードも自分にこの双子の処分を委ねたのだろう。
現状暫くここに留め置くほかないとは思うのだが────。

「ミシェル!」
「ミシェル……」

そんな風に考え込む自分に双子達が訴えるように視線を向けてくる。
やはり彼らとしては牢から出たいのだろう。

「会いたかった…」
「?」

何故そこで熱っぽい眼差しを向けてくるのだろう?
自分を玩具だと言い放ち、散々弄ぶように抱いたくせにおかしいではないか。

「ミシェル…お前の身体が忘れられないんだ……」

その言葉に身体目当てかとうんざりしてしまう。
恩赦が欲しいのなら正直これでは逆効果だ。
とは言え彼らは黒魔道士だし、もしかしたら牢を出るためにそこに一縷の望みでもかけたのかもしれないなとふと思った。
黒魔道士は閨に長けた者が多いし、あの時感じていた自分を思い出してそこに希望でも見出したのかもしれない。
けれど自分が寝たいのはあくまでもアルバートだけだし、そこだけははっきりと言っておきたいと思った。

「私がお前達と寝ることは今後一切ない。牢から出たいのなら別の提案をするんだな」

だから厳しい口調ではっきりと警告したというのに、何故か諦めずに更に言葉を重ねてきた。
余程自信でもあるのだろうか?

「何故だ?!俺達はそこの男よりずっとミシェルを満足させられるぞ?!」
「そうだ!ミシェルも楽しんでくれてたじゃないか!どうせその男からは腫れ物を扱うようにされて悲しい思いをしてるんだろう?それなら俺達が相手の方がずっといいはずだ!」

確かにその意見は普通ならそうだったかもしれない。
けれど……。

「アルはそんな男じゃない」

そう。アルバートはどこまでも大きな愛を持ち、懐も深い男だった。

「嘘だ!」

嘘ではないのだが、男達は自分達が癒してやると言って聞かず、自分の言葉を全く信じてくれそうにない。
このままでは話が進まないし、さっさと諦めて思考を切り替えてほしいのだが……。
そう思っていると、アルバートが進み出て下がるように言ってきた。

「ミシェル様。どうぞお下がりください。私がこの者達と話をつけますので」
「?」

恐らく自分では収拾がつかないと思ってくれたのだろう。
だから一先ず任せる事にした。




「お前!ミシェルに何を言った!」
「そうだ!ミシェルはもうお前のものじゃない!俺達のものだぞ?!」

アルバートが二人の前に進み出ると、二人は剣呑な眼差しを向けそんな風に責め立ててきた。
そんな双子達ににこやかに微笑みかけつつ一切笑っていない眼差しを向けその言い分を一刀両断にする。

「ミシェル様は私だけの恋人だ。お前達のものではない。私に斬り捨てられた時に記憶も一緒に飛んだのか?」

けれどその言葉に双子達はハッと嘲笑うかのように口を開いた。

「ミシェルはお前じゃなくても感じていたぞ?それなら相手はお前以外でもいいはずだ」
「そうだ。俺達の方がミシェルを可愛がってやれるし、楽しませてやれる」

そんな言葉に思わずフッと笑ってしまう。

「残念だが、私の愛の深さにお前達が勝てるとは思えないな」

はっきりと言い放ったその言葉に二人は一瞬虚を突かれたような顔をしたが、すぐに勝ち誇ったようにそれを口にしてきた。

「そんなもの、俺達のテクの前じゃあ無意味だね。黒魔道士の閨を知らないのか?お前にはできないことだっていっぱい教えてやれるし、勿論二人掛かりでも可愛がってやれる。それに…お前よりいろんな道具も使って楽しませてやれるぞ?」
「黒魔道士だから…玩具にも詳しいと?」

その言葉にそうだと言い切る二人にクスリとまた笑いが込み上げる。

「……108種類だ」
「?」

男達は言われた意味が分からないと言う顔をしたが次の言葉に驚愕の表情を浮かべた。

「私がこれまでミシェル様に試した玩具は108種類だと言っている」
「はぁっ?!」
「その中からミシェル様のお好きなものを厳選し今は使っている。それ以外となると、お前達に出来るのは精々魔力で動かすタイプのものを試すくらいだ。たかがその程度で私のミシェル様への愛に勝てると思うのか?」
「……?!」
「ミシェル!嘘だろう?!」

ミシェルにまで男達はそう尋ねるがミシェルはただ首を傾げている。

「……?さあ。前はほぼ日替わりだったからあまり覚えていない」

その答えに男達は愕然としてしまった。

「ドSか?!ミシェル!悪いことは言わない!今すぐそんな男捨ててやれ!」
「そうだ!怖かっただろう?俺達がしっかり守って助けてやる!」

何を勘違いしたのか男たちがしきりに訴えてくるが、ミシェルは首をかしげながらサラリと答えを返した。

「アルは私を怖がらせるようなことはしないし、沢山愛してくれる。勘違いをするな」

その答えに男達が驚きの表情を浮かべたので思わずほくそ笑んでしまう。
あの頃はミシェルを満足させるためにありとあらゆることに全力を注いでいたのだ。
こんな男達に自分が負けるわけがないではないか。
けれど彼らはどこまでもしつこく、諦めようとはしなかった。

「ミシェル!お前が仮に虐められるのが好きだと言うなら他のプレイだって楽しませてやれるぞ?!」
「ああ!この間のもよがって喜んでいただろう?!」

そんな言葉にミシェルが傷ついたような表情をしたので、安心させるようにそっと身を寄せ包み込む。

「この間と言うと…二輪挿しか?それも悪いがしっかり上書きさせてもらった。その他のことも、ミシェル様が望むなら私が全力で応えるつもりだ。これ以上私の大切なミシェル様を傷つけるような事を言わないでもらおうか」

自分達の方が上だとばかりに言う双子達を睨みながらそう言ってやると、彼らはふざけるなと言ってきた。

「一人でできるはずがないだろう?!」
「そうだ!仮に玩具と一緒に使ったとしても俺達との方がずっと良かったはずだ!どうせお前はミシェルを責め立てるように酷い目に合わせたんだろうからな!」

そうだろう?とめげずに口にする男達に、けれどミシェルは甘い吐息を吐き出しながら答えを返した。

「いや。悪いが比べるまでもなくアルとの方が最高に気持ち良かった……」

責め立てられた覚えは全くないと告げるミシェルに、男達が食いつくように否定の言葉を吐く。

「絶対に嘘だ!」

納得できずに男達が騒いでくるが、ミシェルが思い出したようにうっとりとした表情を浮かべているためやけに説得力があった。
どうやら共同作業だったのが余程好かったらしい。
正直ミシェルがこうして男達の閨ではなく自分との閨を頭に浮かべてくれるのが嬉しくて仕方がない。
男達など眼中にもないと言わんばかりのその姿に歓喜が湧き上がる。
やはりあの時の自分の対応に間違いはなかった。

「うぅう…!ミシェル目を覚ませ!お前はきっとその男に洗脳されてるんだ!」
「そうだ!こいつは騎士の皮を被った黒魔道士なんだ!そうでないと説明がつかない!」

きっと記憶操作されているのだと言ってきかない二人の前でにこやかに宣言する。

「全てはミシェル様への愛のなせる業だ。ミシェル様は私で十分満足してくださっている。お前達は必要ない」

そうバッサリ言い切ったところで立ち会っていたロイドが笑い出した。

「ははっ!黒魔道士にそこまで言い切れるなんて本当に凄い男だな」

そんなロイドにミシェルが剣呑な眼差しを向けるがロイドは完全に無視だ。

「ロイド!」

けれどミシェルが苛立たしげにそう叫んだところで突如ロイドがピタリと笑うのをやめた。
最初はミシェルの言葉に反応しての事だと思ったのだが、次の瞬間それは違ったのだと知る。
何故ならそこに魔法の発動が見受けられたからだ。

そしてぼんやりと幻影が浮かんだかと思うと、そこにはいつか見たロイドの想い人の姿があった。

「クレイ!」

ロイドが嬉しそうに声を上げると呼びかけられた方もうっすらと笑みを浮かべる。
どうやら二人は良い友人関係になっているらしい。

「ロイド。悪いな。そこにライアード王子はいないか?」

けれど挨拶もそこそこにそんな風に急に話を切り出してきたと言うことは緊急の用事だろうか?
自分達が聞いていいものか判断しかねて大人しく黙っていると、ロイドがすぐさまそれに答えを返した。

「悪いが今は取り込み中だ。急ぎの件でなければ出直してもらえないか?」

そう尋ねたロイドにクレイは迷うことなくその言葉を口にする。

「悪いが急ぎなんだ。情報料は最高級黒曜石100石分…と言えば分かるか?」

その法外な価格に思わずその場の皆が目を見開き、事の大きさを悟った。
わざわざ他国の王族にコンタクトを取ってまでこうして法外な情報料を告げてきたと言うことは、ソレーユ自体を揺るがす案件と言うことに他ならない。
火急の件と言うのは誰の目にも明らかだった。

「わかった。ライアード様」

ロイドはそれを受けすぐさまライアードへと交代する。

「クレイ。久しぶりだな」
「ああ。突然すまない。こちらに腹立たしい依頼が来たんだが、そちらと手を組んで徹底的に潰したくなった」

どうやら事はソレーユサイドだけでは収まらない話らしい。

「それで?」

ライアードが促すとクレイが依頼内容を語り始める。

「依頼人はアストラスの貴族が仲介してきた商人なんだが、ソレーユの商人仲間からとある商品を受け取りたいから是非協力してもらいたいというものだった」
「……とある商品とは?」
「なんでも世界一美しい生物の水晶像…だそうだ」

その言葉に思わず目を見開く。
それはもしや………。

「これだけだとソレーユの動物を水晶化させるのを頼むと言われたようなものだからな。特に気にするものではなかったんだが…商人本人の依頼ではなく、貴族に仲介までさせて仲間に依頼を任せたという点が引っかかって少し保留にして調べさせてもらった」

そして判明したのがソレーユの皇太子であるミシェルを捕らえて水晶化してほしいと言う案件だったと言う。

「一番裏にいるのはサティクルド国だ。どうやらこの件でアストラスとソレーユを仲違いさせ互いを一触即発状態にした隙に、油断した背後から一気にソレーユに攻め入ろうと画策しているらしい」

その話から、サティクルド国はあの手この手で戦争に向けて本格的に手を打っていることがよくわかった。
けれどそれは同時にこの黒魔道士を怒らせるに至ったらしい。

「俺は別に国同士がどうこうしようと好きにやればいいと思うが…貴族に手を回し王の側近であるレイン家を失墜させようとするなんて許せるはずがないからな。徹底的に潰してやる」

他に依頼が回れば厄介ごとが増えるだけと思い、クレイはそのまま条件を付けて何食わぬ顔でその依頼を受けることにしたらしい。
正直こうして依頼内容を開示してくれたのは有難いことだった。
クレイは恐らくライアードやロイドとの繋がりがなければこちらに情報をくれることはなかったのだろう。

「ライアード王子には世話になったし、王位に興味もなかったはずだから仕事を受けるにあたって一応耳に入れておこうと思ってな」

それを証拠にそんなことを口にしてくる。

「正直有難い。それで?こちらは兄上を全力で守りきればいいのか?」

勿論そのための情報だろうと思ったのだが、クレイの口から出た言葉は全く逆だった。
クッと黒魔道士らしく笑みを浮かべる。

「まあそうしてくれてもいいが、一応正式な依頼として引き受けたからな。俺は俺の仕事をこなす。領域侵犯になるから邪魔はしてくれるな」
「黙って兄上を渡し水晶化されるのを見ていろと?」

この国の皇太子をそう簡単に悪人に手渡せと言うのか?
そう尋ねたライアードに、クレイはその通りだと笑った後計画を話してくる。

「サティクルドはしつこそうだから今ここで潰しておいた方がいい。それに契約書には『商人に協力し、商人の前で確実に対象を水晶化して引き渡せ』としか書かれていない」
「……つまり?」
「つまり商人の前で一度水晶化させれば契約成立。その後俺が水晶像を気紛れに奪おうと水晶化を解除しようと依頼人は文句は言えないし、仮に商人の元から水晶像が姿を消しても俺が責任を取る必要は一切ない…という事だ」

それなら依頼は成立しているから領域侵犯の問題も発生しないし、身の安全まで保障できるとクレイは言い切った。
その言葉に今度はライアードが満足げな笑みを浮かべる。

「流石は優秀な黒魔道士。そちらの都合もあるとは言え、お前がこの依頼をわざわざ受けてくれてよかった。しかしそれだと攫う段にはお前は絡んでこないのか?」

別な黒魔道士が絡んでくると少々厄介だと口にするライアードにクレイが肩をすくめる。

「そこはある程度仕方がないな。サティクルドに協力している奴は俺を嵌めてレイン家を陥れるために動いている奴らだし、攫うのはできるだけ別の魔道士に頼みたいはずだからな」
「そうか……」

こればかりは仕方がないかとライアードが口にしたところでクレイがにやりと笑う。

「まあ馬鹿を装えばやってやれないこともないし、数回失敗したら諦めて俺に追加で依頼してくるだろう。ケースバイケースで動けばいいだけの話だ」

その言葉にライアードがなるほどと納得した。

「いずれにせよアストラス側はミシェル王子の水晶像がないと動きがないはずだからのんびりされるのは少々都合が悪い。俺としては早めに決着できるよう動くつもりだ」
「そうか。そういうことならお前はお前で好きに動いてくれ。この件はどうせこちら側にも蠢く者が居るはずだから調べてみよう」
「ああ。誰が攫うにせよ最低限他の黒魔道士にミシェル王子が傷つけられないよう安全面にはフォローを入れておいてやろう」
「助かる」

そうしてサクサクと物事が決まっていくが、アルバートとしては不満だった。
ミシェルは先日攫われたばかりだ。
いくらなんでも連続で攫われるのは許せるものではない。
護衛を増やしてでもしっかりと守るべきなのではないだろうか?

そんな自分にロイドは何を思ったのかそっと目を遣った後フッと笑ってクレイへと尋ねた。

「ちなみにお前ならミシェル王子をどう攫う?王宮の警備は減らさなくても大丈夫か?」
「…?減らさなくても簡単に攫えるぞ?わかっている癖におかしなことを言うな」

きょとんとしたように答えを返すクレイに正直アルバートとしては怒りが込み上げてくる。
それはあまりにも護衛を馬鹿にした発言だからだ。
けれど次の瞬間それは衝撃と共に自分に事の重大さを思い知らせることとなった。

「こうして……」
「え?」
「こうすればいいだけだろう?」

時間にして僅か一瞬────。
あっという間にミシェルを抱きしめた姿が魔法の向こうに見えて慌ててミシェルがいたところを振り返ると、そこにミシェルの姿はすでになかった。

「ミシェル様!!」

気づかぬままにミシェルを攫われ焦ったように声を上げたが、その次の瞬間にはミシェルの身柄はクレイの手によってあっという間に返されていた。

「俺にとったら簡単な案件だ」

そんな風にクレイはロイドに笑顔で話してはいるが、自分としては生きた心地がしなかった。
正直黒魔道士の影渡りがこれほど恐ろしいものだとは思いもしなかった。
ドッドッと激しく鼓動が弾み、苦しくて思わず蒼白になりながら胸を押さえてしまう。
そんな自分にロイドが大丈夫だと声を掛けてくれた。

「今のはクレイだからできたことで、普通はそう簡単にはできることじゃない」
「…?」

ロイドによると一口に影渡りと言っても黒魔道士によって沈む速さが全く異なるのだと言う。

「黒魔道士として優秀なほど素早く影渡りで逃げることができるんだ。そこの双子ならあそこまでの見事な影渡りはできなかったはずだ」

その言葉に本当かと思いながら双子の黒魔道士の方を見遣ると、呆けたような顔でクレイの方を見つめていた。
どうやらロイドのその言葉は正しかったらしい。

「本当にお前が敵じゃなくて良かった」
「褒め過ぎだぞ、ロイド」
「本当の事だろう?私と同等以上の影渡りはお前以外に見たことがないんだから。敵に回られたら後手後手になって大変なことになるところだった」

そう言ってクスクスと笑いあう二人は微笑ましいが、言っている内容は恐ろしいの一言に尽きる。
そうして蒼白になる自分にクレイがふと目を止めた。

「そう心配するな。他の黒魔道士なら影を渡る際に僅かに隙ができるからそこを狙って攻撃してみろ。後はそうだな……ミシェル王子には安全のため予め防御魔法をかけて、俺の使い魔もつけておいてやろう」

それなら安全性は増すだろうとまでクレイは言ってくれた。
これは正直非常に有難い申し出だ。

「クレイ。助かる」

そうして礼を述べるライアードにクレイはクスリと笑った。

「仕事のついでだ。気にするな」

そしてその場にクレイの使い魔が二体、姿を現したのだが……。

「クレイ?お前は眷属クラスを使い魔にしてるのか?」

これに対してロイドが驚いたようにそう口にした。

「…?まあ便宜上使い魔と呼んでいるが、どちらも俺の大事な友人だ。粗末には扱わないでやってくれ」
「通常このクラスの魔物が使い魔などで大人しく従う筈がないからな。そういうことなら納得だ。お前は本当に予想外過ぎて面白い」

ロイドが呆気にとられたようにしながらも納得がいったと頷く。
恐らくクレイはその言葉通り彼らを友人として大事にしているのだろう。
だから従う。
どうやらそういうことらしい。
これには双子黒魔道士達も同様に驚いていた。

「あり得ない……」
「あのクラスで使い魔?勿体なさ過ぎる……」

そう呟いているのが耳へと届いてくる。
そんな面々に構わずクレイは短く「ではまたな」と言ってアストラスへと戻っていった。
後に残されたのは神妙な顔つきの者達ばかり。

そこで最初に口を開いたのはライアードだった。

「正直助かったな。兄上、申し訳ないですがそう言う訳なので再度攫われるお覚悟を」
「…まあ仕方がないな。まずは協力してサティクルドの企みを潰さないと…。ライアード、あのクレイと言う魔道士は信用に値するか?」

そう尋ねたミシェルにライアードは笑顔でもって肯定する。

「もちろんです。クレイはアストラス王の実子。身元も確かな上、とても優秀な黒魔道士です。味方としてはこれ以上にない者だと言えます」

その言葉に驚きを隠せないが、それは確かに心強い味方と言えるだろう。

「それにしてもサティクルドは下手を打ちましたね。レイン家ではなくアストラス国そのものを狙ったならあれほどクレイを怒らせなかったものを……」
「竜の尾を踏みつけるなど…愚か極まりない。サティクルドは終わったな」

その言葉にミシェルも自分も首を傾げたが、ライアードは勿論ロイドもどこか嘲笑うかのように微笑むだけで、それ以上のことは教えてくれなかった。

「一先ずそこの黒魔道士達の件は保留でいいでしょう」

状況は変わったのだから急いで決断をすることはなくなったとライアードは言い、ミシェルもまたそうだなと答えを返す。

「最終的にはサティクルドにつき返すことになるとは思うが……」

それもまた状況次第。
そんなミシェルの背を見ながら、アルバートはミシェルを守るために後でロイドによくよく相談してみようと深く息を吐いた。


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