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第二部 ソレーユ編~失くした恋の行方~
39.※進展
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「ミシェル様……」
ミシェルを取り戻した夜、アルバートは約束通りミシェルを縄で拘束し、蕩けるような眼差しで自分を見つめるミシェルを貫いていた。
「あぁん…」
最初は緊張していた様子だったがじっくりと愛撫で可愛がり、指の先まで可愛がって蕩けさせたのですっかりそれもなくなっている。
「はぁぅ…。アル…気持ちいい……」
「怖くはないですか?」
「んぅ…大丈夫だ……」
「ミシェル様…ここもここも…全部上書きいたします」
「ぁん…ッ!アル…待って……」
そうしてこのまま激しく抱いて忘れさせようと思っていたところでストップが掛けられ、そっと顔を覗き込むとミシェルが言い難そうにしていたので動きを止めた。
「ミシェル様?」
激しくよりも優しくの方がいいのかと思い次の言葉を待っていると、ミシェルは頬を染めながらやっと次の言葉を口にしてきた。
「その……お前の…をちゃんと覚え直したい……」
「?」
それはつまり自分に抱かれたいと言うことだと思うのだが違うのだろうか?
そうして首を傾げていると、意図が伝わっていないのがわかったのか今度は具体的に言ってくれた。
「アルの形をその…しっかり感じて覚えたいから…ゆっくり挿れてくれないか?」
「……!!」
たまらない!本当にたまらない!
あまりにも可愛すぎて、男達に抱いていた嫉妬なんて明後日の方向に飛んで行ってしまった。
ミシェルの愛が全部自分に向けられているのは疑う余地すらない。
「あぁ…ミシェル様。こんなに可愛いセリフで私を虜にしてしまうなんて……」
「え?…あんッ!」
そのまま一度引き抜いて、望むままにゆっくり挿れて奥まで突くと可愛い声で啼いてくれる。
「そういうことなら色んな体位で教えて差し上げますね」
「んんんっ…気持ちいい…ッ!」
そしてそのまま三度ずつゆっくりと色んな体位で挿入していったのだが、幾度目かでミシェルは限界を迎えてしまった。
「あ…あぁあ…アル…アル…」
ピクピクと震えて全身で自分を求めてくるミシェルにゴクリと咽喉が鳴る。
「早くぅ…。お願い…いっぱい奥まできてぇ……」
快楽に溺れトロトロになって熱っぽい眼差しを向けてくるミシェルの姿に煽られてこちらも我慢などできそうにない。
「ミシェル様…!」
「アルッアルッ!んぁあああああッ!」
ズッと一息に奥まで挿れて突き上げると、ビクビクと身体を震わせながらそのまま達してしまう。
「ひ…あぁ…ぅ…」
そんな可愛い姿に煽られて、イッているにもかかわらず何度も突き上げてしまった。
「んあぁっ!あひぃッ!」
感極まったように唾液を口の端から溢れさせ、ミシェルが身悶えながら喘ぎを上げ続ける。
「ミシェル様…!このまま攻めさせていただきますので」
恐らくこのまま責め立てればあっという間に気絶してしまうことだろう。
それはこれまでの経験上確実だと思ったので、予め一応断りを入れておく。
「アルぅ…!ひ、ぎ、も、犯し尽くしてぇ……ッ!」
「ミシェル様…またそんな言葉を…!」
そこまで言われたらこのまま攻めるだけでは足りないのではと思ってしまうではないか。
自分的にも我慢の限界だが、せめてこれだけはと三つの凹凸のついた短い管を取り出しゆっくりとミシェルの前へと収めた。
「んきゃぁああああッ!これ好きぃいいいぃ!」
ちゅぽちゅぽとそのまま尿道口を可愛がり、奥のいい所も激しく突き上げていく。
「ミシェル様…もう一つ…二輪挿しの準備でこちらもしておきましょうね」
「んふぅうううッ!気持ちいいのぉッ!アルぅうううッ!」
腹側に指も入れて前立腺までしっかりと可愛がるとミシェルが自ら腰を振って乱れ狂った。
そんなミシェルがたまらなくエロくて、そのままうっとりとそれを見ながら胸の尖りへと吸い付いた。
「やぁああああッ!無理ぃ!アルッ、アルッ!も、イク────ッ!」
そしてあっという間にミシェルは全身を震わせながら失神してしまう。
「くぅ…ミシェル様…ッ!」
本当に最高に気持ちいい締め付けが自身を襲い、とてもではないが耐え切れずそのまま思い切り奥へと注いでしまった。
「あぁ…ミシェル様……。誰よりも愛しています」
いくら抱いても足りないほどに好きで好きで仕方がない。
こんな極上の体に溺れない男なんていないとさえ思う。
心は自分のものだと知っているが、この身体だけでもと願う輩はあの双子以外にも出てくるはずだ。
だからこそしっかりと自分が繋ぎとめて誰にも奪われないように守っておかなければならない。
「はっ…ぁ…。ミシェル様。今の内に挿れてしまいましょうね」
もう少し余韻に浸りたいところではあるが、起きている内に挿れるよりは今挿れてしまった方が負担も少なくていいだろうと思いゆっくりと身を離す。
そしてどの玩具を使おうかと思案しジェルを中で出せるものに決め、そのままズチュッと奥まで挿入し次いでミシェルの足を大きく開いて本当に入るだろうかと思いながらゆっくりと自身の先端を差し込んでみた。
「くっ…難しいな……」
この体位では挿れにくいのかもしれないと思い、今度はバックへと体勢を変えてみる。
そして少し指で慣らしていけそうだと判断したところでゆっくりとそこへと挿入していった。
「うっ…凄ッ……」
初めての体験ではあったが、それはきつくて────でもミシェルの中でいい感じに擦れて思った以上に具合が良かった。
「これで…座位…だったな」
ミシェルから聞いた体位に持ち込んで、そのままミシェルの身体を引き上げて後ろから抱き込んでやる。
「ん…んぅう……」
そこでやっとミシェルの意識が戻ってきたので、そのまま優しく声を掛けた。
「ミシェル様。大丈夫ですか?」
「ア……ル?」
「はい。腕は痛くないですか?」
「はぁ…大丈夫…だ」
まだ頭がはっきりしていないのか、答える言葉はどこか億劫そうだが取りあえず大丈夫そうだと判断する。
「ミシェル様。一度拘束を解きますのでお待ちください」
「…え?」
そうして驚くミシェルに構わずスルリと拘束を解き、そのままギュッと身体を抱きしめる。
「ここに…私のものと玩具が入っているのがわかりますか?」
そうしてピッタリと身を寄せ耳元で囁くと、ミシェルがたちまちカァッ!と身を朱に染め上げた。
「ほら……とても美味しそうに受け入れてらっしゃいますよ?」
「あ…アル……」
恥ずかしそうにするミシェルの表情を堪能しながら、そのまま更に言葉を紡いでいく。
「ミシェル様…折角の二輪挿しです。一緒に気持ち良くなりましょうね?」
そしてそっとミシェルの手を取り、玩具の方へとその手を導いた。
「……初めての共同作業ですね」
そうやって欲情に満ちた声で囁き耳を甘噛みしてやると、それを合図にミシェルはあっという間に溺れていった。
「アルッ…アルゥッ…凄いぃ…!」
自身の手で官能を極め、あられもない声で善がり狂うミシェルの姿に自身も煽られながら理性を手放し溺れていく。
キツくてたまらないそこで擦れるのが良くて腰をついつい激しく揺らしてしまうが、それに合わせるかのようにミシェルの腰が淫らに揺れ動き、より一層劣情を刺激される。
「ミシェル様……こんな可愛い姿をもう他の男に見せないでくださいね。私は誰にも見せたくないほど可愛い貴方を独り占めしたくて仕方がないんです」
「あぁんっ!アル!嬉しいっ!もっといっぱい独り占めしてぇッ!」
上気した頬で甘く誘うような声を出すミシェルが愛しくて、そのまま強く抱きしめ首元に激しく口づけ赤く色づいた印へと舌を這わせる。
(この人は私のものだ…!この肌も…いや全て、身も心も私だけのッ……!)
理性を保てないほど乱れたこのミシェルの前でなら、どこまでも欲深い自分を曝け出してもいいだろうか?
本心を曝け出して犯しつくしてもいいだろうか?
「はぁッ!アルッ!ゴリゴリがたまらないのぉッ!」
「ミシェル様……!もっともっと甘く啼き乱れて、その口で私だけを好きだと言ってください…!」
「あぁ…アルぅ……!好きッ好きぃッ!もっと好きなだけ奥の奥まで全部蹂躙してぇッ!」
「……ッ!本当に可愛い言葉ばかり口にして…。あの黒魔道士達にも強請ったりしていませんか?」
「はぁんっ!してないぃッ!アルだけが欲しいのッ!アルにだけ犯し尽くしてほしいぃッ!アルにだけ種付けしてほしいのぉッ!」
そんな風に恍惚とした顔で懸命に訴えてくる言葉が嬉しくて、胸の尖りをきつく抓り上げるとミシェルが歓喜の声を上げて身を震わせた。
ミシェルがこんな淫らな姿を晒すのは自分の前でだけ────その事実はどこまでも自分の心を幸せに満たしていく。
この腕の中にいる時だけは、この人は高貴な皇太子ではなく、この手で育てたどこまでも淫らで可愛い自分だけの恋人へと変わるのだ。
「ひあぁあぁあッ!溺れるぅううぅッ!」
「ミシェル様…愛しています。沢山可愛がって差し上げますから……もっともっと私をその言葉の数々で酔わせてください」
「ひっ…ひうぅ……。アル…も……幸せすぎて…ダメぇ……」
そうして二人で理性を手放しながら熱く交わり、空が白む頃ゆっくりと寄り添いながら眠りについた。
***
その日の夜、シリィは何故こうなったのだろうと思いながらライアードにベッドへと押し倒されていた。
最初はいつものように優しいライアードだったのだ。
今回の件で傷ついているだろうと気遣ってくれている様子がとてもよく伝わってきていた。
男達に何もされていないかと心配されたので、自分は大丈夫だったがミシェルが大変な目にあったので心配だと涙ながらに訴えた。
それに対してライアードはそっと抱きしめながら優しく頭を撫でてくれたので、その優しい温もりへと素直に体を預けた。
トクトクと規則正しく弾む鼓動を聞いているとなんだか少しずつ気持ちが落ち着いてくるような気がして、しばらく甘えさせてもらった。
ここまでは何も問題はなかったし、逆に言えばここで失言さえしなければいつも通りの二人でいられたはずだったのだ。
それなのに────。
「シリィ…兄上にはアルがついているから大丈夫だし、必要以上にシリィが気に病む必要はない」
少し落ち着いたところでそうやって宥めるように紡がれた言葉────。
「兄上には申し訳なかったが、シリィがあの魔道士達に手籠めにされなくて本当に良かった」
そうしてそっと髪に口づけを落としてくるライアードに少しの反発を覚えてしまったのだ。
皇太子という尊い身の上でありながら身を挺して自分を守ってくれたミシェル。
そのミシェルがどんな目にあったのか、ライアードは本当にわかっているのだろうか?
「ライアード様!申し訳ないって……本当にそんな言葉で事足りるなんてものじゃなかったんですよ?!」
思わずといったように大きな声で非難した自分にライアードが驚いたように目を見開く。
姉の件を除いてここまでライアードに怒りの感情を向けたことが無かったせいかもしれないが、それでも言わずにはいられなかったのだ。
「あんな…二人がかりで襲われて…!嫌だって泣きながら何度も犯されてたんですから……!」
「…………」
これにはさすがにライアードも何も言えないようだったので、続けざまにミシェルの被害を訴える。
「いくらなんでも抵抗できない相手にあれは酷すぎると思うんです!」
「…………」
「あのミシェル様があんなに可愛く泣かされて…どれだけプライドが傷ついたことか!そりゃあ思わず私でも目を奪われて見惚れるほど綺麗で可愛かったですし、あの黒魔道士達が私なんて見向きもせずミシェル様に夢中になるのも仕方がないとは思いますよ?!でもですね、いくらなんでも二人がかりで無茶なことをされたらミシェル様だって心が折れますよ!気丈に振舞ってはいましたけど、きっと凄く辛かったはずです!あまりにも可哀想じゃありませんか!ですからここは私も白魔道士ですし、今回庇っていただいた恩プラス償いも込めて精一杯精神的なアフターケアをすべきだと思って……ッ?!」
そこまで熱弁したところで突然ライアードから有無を言わさぬほど激しく口づけられ、言葉を奪われてしまった。
「~~~~~ッ?!」
あまりのことに懸命に身を捩じらせそこから逃げ出そうとするが、ライアードの腕が緩むことはなかった。
舌の付け根に舌を這わせられ、そうかと思えば舌を痺れるほど強く吸い上げられる。
チュパッと音高く離れたかと思えば次には舌をチロチロと彷徨うように動かしながら弱いところを攻め立ててくる。
そんな舌遣いに思わず翻弄され、気づけば全く体に力が入らず、ライアードに支えられ好きなようにされるがままになっている自分がいた。
そしてやっと長い口づけが終わったと思ったところで荒い息を整えながらそっとライアードの方を見遣ると、彼の目はこれまで見たことのないような獰猛な輝きを放っていた。
そんな眼差しにまるで射抜かれたかのように動きが止まり、思わず魅了されてしまう。
彼はこれまでこんな目で自分を見たことがあっただろうか?
たとえて言うなら水晶化された姉の前で押し倒された際に近しい表情はしていたかもしれない。
けれどあの時はどちらかというと狂気の中の熱情といったような眼差しだったように思う。
今のこの目のように、どこか…怒りを含んだような、そんな色は見受けられなかった気がする。
「ラ、ライアード様……?」
その緊迫した空気に心臓が痛いほど早鐘を打ち、自分は何か地雷でも踏んだのだろうかとパニックになる。
自然、口から出る言葉は微かに震えを帯びて顔色をなくしてしまう。
けれどそんな自分にライアードは少し間をおいて、思い切り腹黒いような顔で艶やかに笑ったのだ。
その表情に背筋がゾクゾクするのを感じ、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。
「シリィ……」
ツッ…と彼の指先が動き、自分の首筋をゆっくりと辿っていく。
バクバクと弾む鼓動はそれに釣られるかのように益々速さを増し、そのまま口から飛び出してしまうのではないかとさえ思えてしまった。
けれど自分の言葉に何故ライアードがこれほど怒りを覚えてしまったのか、それを知りたいとも思った。
「な…何をそんなにお怒りなのですか?」
「何を?……わからないのか?」
ライアードはそう問いかけてくるが、言ってくれないとわからないのだから仕方がないではないか。
「…わからないから聞いているんです」
だから正直にそう言ったのに、ライアードは納得がいかないようだった。
「シリィは先程兄上に魅了されたと言っただろう?私が怒らないと、本気で思っているのか?」
そして続いて紡がれたそんな言葉に思わず首をかしげてしまう。
自分はそんな言葉を口にしただろうか?
けれどそうしてよくわからないという顔をしてしまったのがまずかったのだろう。
そのまま抱き上げられて、スタスタとベッドまで運ばれてしまい、おろされたと思った瞬間には上から両手を押さえつけられていた。
「シリィは先程兄上に見惚れたと言い、二度も可愛いと褒めそやした上アフターケアと称して側に侍って奉仕したいとまで言った」
上から降ってくるそんな言葉の数々に思わず目を白黒させてしまう。
ライアードは一体何を言っているのだろう?
いくらなんでも言葉の取り違いが過ぎるだろう。
けれどその目はどこまでも真っ直ぐに自分へと向けられていて、その真剣さに目を離せなくなってしまった。
「私の側には私から声を掛けねば居てくれないというのに、兄上の側には自主的に行くと言うのか…?」
どこか苦々しそうな口調ながら静かな声で言うライアードの姿に、やっと言われている意味が分かって、思わず目を丸くしてしまう。
「兄上はそんなに可愛かったか?シリィの心を捉えるほど?」
「え?」
「兄上の声にこの胸を高鳴らせたのか?もしや感じたなんて…言わないだろうな?」
その言葉の数々を思わず頭の中で反芻してしまう。
そして次の瞬間、一気に顔が熱くなってしまった。
間違いない。
これは────『嫉妬』だ。
(え?えぇっ?!)
まさかこのタイミングでライアードがミシェルに対して嫉妬を抱くなんて思いもよらなかった。
(だって、あの状況下で私がミシェル様に惚れちゃうなんて普通考えないでしょう?!それにミシェル様はお妃様だっているし、アルバートさんもいるのよ?!私なんて眼中にないだろうし、いくらなんでも明後日の方向に心配し過ぎよ?!)
確かにミシェルは綺麗だとは思うし今日抱かれていた姿は可愛かったとは思うが、別にそれだけだ。
ライアードが嫉妬を抱くなんて筋違いもいいところだ。
それなのに、その眼差しは真剣そのものなのだ。
まさかそれほど自分を愛してくれているとでも────?
その時初めてそこに思い至り、思わずベッドの上をゴロゴロと転げ回りたい気持ちがこみ上げてきてしまった。
未だ嘗て誰かにこれほどの気持ちを向けられたことなどあっただろうか?
いや、ない。
こういったものはロックウェルや姉などモテる人達の特権だと勝手に思い込んで、自分とは無縁のものだと思っていたのだ。
それなのに……。
(どうしよう……嬉しい)
最初はあくまでも好意だと思った。
条件に合う女性の中で一番気に入ってくれたからプロポーズしてくれたのだろう。話も合うし、面白いと思ったから選んでくれたのだろう。そう思った。
そして婚約者になったからこそ優しく接し気を遣ってくれるのだろうと────そう思っていた。
口説いてくる言葉の数々も気恥ずかしく擽ったいが、その延長線上にあるものだとばかり考えていた。
そうやって好意的に接してくれるライアードに甘えていたから気づいていなかった。
好きは好きでも、とっくの昔に彼の好きは『好意』よりももっと進んだ『愛情』になっていたのではないだろうか?
つまりは口説き文句の中で使われていた『愛』と言う言葉はライアードの気持ちそのものだったのではないだろうか?
もしもそうだったとするのなら、愛情をこれから二人で育んでいけばと呑気に構えていた自分に対してさぞヤキモキした事だろう。
ここ最近以前にも増して二人の距離は近づいていたけれど、それはライアードが望んでいたものに比べればまだまだ及ばなかったとも言えるかもしれない。
そんな中一気に距離を縮めようと無理に襲い掛からず、キスで留めてくれていたのは偏に自分の事をそれだけ大事に思ってくれていたから。
それなのに自分はそれに甘えてまさに今さっき、無自覚にライアードを怒らせる言葉を口にしてしまったのだ。
それこそ意味の取り違えと言ってしまえばそれまでだが、ライアード的にはあまりに鈍感な自分にそろそろ限界を感じていたのかもしれない。
そしてここにきて相手が兄であるミシェルと言うのももしかしたらまずかったのかもしれないと思い至る。
兄弟だし、何かしらの確執だってこれまであったのかもしれないのに…流石に無神経すぎたかと反省してしまった。
だから────そのままフッと身体から力を抜き、そっと上目遣いでライアードを見つめる。
彼の怒りはどれほどだろう?
今の自分の正直な気持ちを話しても聞いてくれるくらいの聞く耳は持ってもらえるだろうか?
そうして窺うようにおずおずとその綺麗な顔を見遣ると、その瞳が葛藤に揺れてるように見受けられた。
そんなライアードの姿になんだか胸が痛くなって、気づけばその言葉をそっと口にしていた。
「ライアード様。心配しなくても私はちゃんとライアード様のことを好き…ですよ?」
けれどその言葉はライアードの心には届かなかったようで、どうせその場凌ぎで言った言葉だろうと取られてしまったようだった。
「シリィは本当に残酷だ」
そんな憂うように紡がれた言葉に、返って傷つけてしまったようだとズキリと胸が痛む。
それと同時にこれまで言葉が全く足りていなかったのだと改めて思い知る羽目になってしまった。
ここはもう腹を据えて自分の気持ちを一度きちんと話すべきなのかもしれないと、大きく息を吐き腹に力を入れる。
そして真っ直ぐライアードへと向けて言葉を発した。
「ライアード様。私、もっと早くきちんと貴方に話すべきでした。貴方に甘えすぎていて本当にすみません」
そんな言葉にライアードが困惑気味に眉を顰める。
一体何を言い出したのかと訝しげにしているが、どうやら話は聞いてもらえそうだと判断し、そのまま目を逸らさずに話し続けた。
「私…ここ最近、えっと…朝晩の口づけが始まって暫くしてからなんですけど、ライアード様に向き合おうと思って結構ライアード様のお仕事ぶりとかを覗きに行ったりしていたんです」
「…………」
「それで、いつも私に見せる表情とは全然違う姿に最初は驚いたりもしたんですけど、仕事ができるところとかは本当に時折見惚れるほど素敵だなって思ってました」
「…………」
「勿論…その…いろんな表情を見ていたので全部が全部好きってわけではないんですけど…、それでもあの…白状しますと、時折見るどこか悪だくみしているような顔もですね、普段の優しい姿とのギャップで、結構好き…なんです」
「シリィ……」
そうして驚いたような顔でこちらを見てくるライアードがなんだか擽ったい。
「だから…ですね、こうして強引な姿も別に怯えたりとかしないので、何かご不満な点があったら隠さずにぶつけてきてほしいなと…思ってですね…」
そこまで言って、なんだか今更ながら恥ずかしくなり顔が赤くなっていくのを感じてフイッと目をそらしてしまう。
「あと…その…ですね?確かにライアード様のお気持ちに比べればまだまだだとは思うんですが、ライアード様との口づけも、段々自然に受け止められるようになりましたし、ここ最近沢山お話しして随分距離も近くなったと…思ってましたし、もし結婚前に私を抱きたいと思っていただけるのであれば、いつでも私の初めてを貰っていただきたいな…とは思える程度にはですね……」
最後の『私も好きになりましたよ』の部分がモゴモゴと尻すぼみになりながら言ってしまったので本人に聞こえたのかどうかは定かではないが、ここは恥ずかしいし別に聞き流してもらっても構わないところだったのでそれならそれでと言い切った感でいっぱいになっていたところでそっと抱きしめられた。
「シリィ……本当に?」
どこか感極まったような声で問うてくるライアードに、少しでも気持ちが伝わったかなとなんだか嬉しくなってくる。
嫉妬されるのは嬉しいが必要以上に彼を傷つけたくはなかったからだ。
「ええ。私はちゃんとライアード様と寄り添いたいと思っているので、もうちょっと信頼してくださいね」
変な勘違いはしないでほしい。そんな気持ちを込めてそっとライアードを窺うと柔らかい口づけがそっと唇へと落とされた。
「シリィ……愛してる」
そんな風に熱い声で耳元で囁かれたら困ってしまうではないか。
これはまずいかもと思いながら、こうして大きくライアードへと傾いたベクトルはそのままシリィの心を攫って行ったのだった。
ミシェルを取り戻した夜、アルバートは約束通りミシェルを縄で拘束し、蕩けるような眼差しで自分を見つめるミシェルを貫いていた。
「あぁん…」
最初は緊張していた様子だったがじっくりと愛撫で可愛がり、指の先まで可愛がって蕩けさせたのですっかりそれもなくなっている。
「はぁぅ…。アル…気持ちいい……」
「怖くはないですか?」
「んぅ…大丈夫だ……」
「ミシェル様…ここもここも…全部上書きいたします」
「ぁん…ッ!アル…待って……」
そうしてこのまま激しく抱いて忘れさせようと思っていたところでストップが掛けられ、そっと顔を覗き込むとミシェルが言い難そうにしていたので動きを止めた。
「ミシェル様?」
激しくよりも優しくの方がいいのかと思い次の言葉を待っていると、ミシェルは頬を染めながらやっと次の言葉を口にしてきた。
「その……お前の…をちゃんと覚え直したい……」
「?」
それはつまり自分に抱かれたいと言うことだと思うのだが違うのだろうか?
そうして首を傾げていると、意図が伝わっていないのがわかったのか今度は具体的に言ってくれた。
「アルの形をその…しっかり感じて覚えたいから…ゆっくり挿れてくれないか?」
「……!!」
たまらない!本当にたまらない!
あまりにも可愛すぎて、男達に抱いていた嫉妬なんて明後日の方向に飛んで行ってしまった。
ミシェルの愛が全部自分に向けられているのは疑う余地すらない。
「あぁ…ミシェル様。こんなに可愛いセリフで私を虜にしてしまうなんて……」
「え?…あんッ!」
そのまま一度引き抜いて、望むままにゆっくり挿れて奥まで突くと可愛い声で啼いてくれる。
「そういうことなら色んな体位で教えて差し上げますね」
「んんんっ…気持ちいい…ッ!」
そしてそのまま三度ずつゆっくりと色んな体位で挿入していったのだが、幾度目かでミシェルは限界を迎えてしまった。
「あ…あぁあ…アル…アル…」
ピクピクと震えて全身で自分を求めてくるミシェルにゴクリと咽喉が鳴る。
「早くぅ…。お願い…いっぱい奥まできてぇ……」
快楽に溺れトロトロになって熱っぽい眼差しを向けてくるミシェルの姿に煽られてこちらも我慢などできそうにない。
「ミシェル様…!」
「アルッアルッ!んぁあああああッ!」
ズッと一息に奥まで挿れて突き上げると、ビクビクと身体を震わせながらそのまま達してしまう。
「ひ…あぁ…ぅ…」
そんな可愛い姿に煽られて、イッているにもかかわらず何度も突き上げてしまった。
「んあぁっ!あひぃッ!」
感極まったように唾液を口の端から溢れさせ、ミシェルが身悶えながら喘ぎを上げ続ける。
「ミシェル様…!このまま攻めさせていただきますので」
恐らくこのまま責め立てればあっという間に気絶してしまうことだろう。
それはこれまでの経験上確実だと思ったので、予め一応断りを入れておく。
「アルぅ…!ひ、ぎ、も、犯し尽くしてぇ……ッ!」
「ミシェル様…またそんな言葉を…!」
そこまで言われたらこのまま攻めるだけでは足りないのではと思ってしまうではないか。
自分的にも我慢の限界だが、せめてこれだけはと三つの凹凸のついた短い管を取り出しゆっくりとミシェルの前へと収めた。
「んきゃぁああああッ!これ好きぃいいいぃ!」
ちゅぽちゅぽとそのまま尿道口を可愛がり、奥のいい所も激しく突き上げていく。
「ミシェル様…もう一つ…二輪挿しの準備でこちらもしておきましょうね」
「んふぅうううッ!気持ちいいのぉッ!アルぅうううッ!」
腹側に指も入れて前立腺までしっかりと可愛がるとミシェルが自ら腰を振って乱れ狂った。
そんなミシェルがたまらなくエロくて、そのままうっとりとそれを見ながら胸の尖りへと吸い付いた。
「やぁああああッ!無理ぃ!アルッ、アルッ!も、イク────ッ!」
そしてあっという間にミシェルは全身を震わせながら失神してしまう。
「くぅ…ミシェル様…ッ!」
本当に最高に気持ちいい締め付けが自身を襲い、とてもではないが耐え切れずそのまま思い切り奥へと注いでしまった。
「あぁ…ミシェル様……。誰よりも愛しています」
いくら抱いても足りないほどに好きで好きで仕方がない。
こんな極上の体に溺れない男なんていないとさえ思う。
心は自分のものだと知っているが、この身体だけでもと願う輩はあの双子以外にも出てくるはずだ。
だからこそしっかりと自分が繋ぎとめて誰にも奪われないように守っておかなければならない。
「はっ…ぁ…。ミシェル様。今の内に挿れてしまいましょうね」
もう少し余韻に浸りたいところではあるが、起きている内に挿れるよりは今挿れてしまった方が負担も少なくていいだろうと思いゆっくりと身を離す。
そしてどの玩具を使おうかと思案しジェルを中で出せるものに決め、そのままズチュッと奥まで挿入し次いでミシェルの足を大きく開いて本当に入るだろうかと思いながらゆっくりと自身の先端を差し込んでみた。
「くっ…難しいな……」
この体位では挿れにくいのかもしれないと思い、今度はバックへと体勢を変えてみる。
そして少し指で慣らしていけそうだと判断したところでゆっくりとそこへと挿入していった。
「うっ…凄ッ……」
初めての体験ではあったが、それはきつくて────でもミシェルの中でいい感じに擦れて思った以上に具合が良かった。
「これで…座位…だったな」
ミシェルから聞いた体位に持ち込んで、そのままミシェルの身体を引き上げて後ろから抱き込んでやる。
「ん…んぅう……」
そこでやっとミシェルの意識が戻ってきたので、そのまま優しく声を掛けた。
「ミシェル様。大丈夫ですか?」
「ア……ル?」
「はい。腕は痛くないですか?」
「はぁ…大丈夫…だ」
まだ頭がはっきりしていないのか、答える言葉はどこか億劫そうだが取りあえず大丈夫そうだと判断する。
「ミシェル様。一度拘束を解きますのでお待ちください」
「…え?」
そうして驚くミシェルに構わずスルリと拘束を解き、そのままギュッと身体を抱きしめる。
「ここに…私のものと玩具が入っているのがわかりますか?」
そうしてピッタリと身を寄せ耳元で囁くと、ミシェルがたちまちカァッ!と身を朱に染め上げた。
「ほら……とても美味しそうに受け入れてらっしゃいますよ?」
「あ…アル……」
恥ずかしそうにするミシェルの表情を堪能しながら、そのまま更に言葉を紡いでいく。
「ミシェル様…折角の二輪挿しです。一緒に気持ち良くなりましょうね?」
そしてそっとミシェルの手を取り、玩具の方へとその手を導いた。
「……初めての共同作業ですね」
そうやって欲情に満ちた声で囁き耳を甘噛みしてやると、それを合図にミシェルはあっという間に溺れていった。
「アルッ…アルゥッ…凄いぃ…!」
自身の手で官能を極め、あられもない声で善がり狂うミシェルの姿に自身も煽られながら理性を手放し溺れていく。
キツくてたまらないそこで擦れるのが良くて腰をついつい激しく揺らしてしまうが、それに合わせるかのようにミシェルの腰が淫らに揺れ動き、より一層劣情を刺激される。
「ミシェル様……こんな可愛い姿をもう他の男に見せないでくださいね。私は誰にも見せたくないほど可愛い貴方を独り占めしたくて仕方がないんです」
「あぁんっ!アル!嬉しいっ!もっといっぱい独り占めしてぇッ!」
上気した頬で甘く誘うような声を出すミシェルが愛しくて、そのまま強く抱きしめ首元に激しく口づけ赤く色づいた印へと舌を這わせる。
(この人は私のものだ…!この肌も…いや全て、身も心も私だけのッ……!)
理性を保てないほど乱れたこのミシェルの前でなら、どこまでも欲深い自分を曝け出してもいいだろうか?
本心を曝け出して犯しつくしてもいいだろうか?
「はぁッ!アルッ!ゴリゴリがたまらないのぉッ!」
「ミシェル様……!もっともっと甘く啼き乱れて、その口で私だけを好きだと言ってください…!」
「あぁ…アルぅ……!好きッ好きぃッ!もっと好きなだけ奥の奥まで全部蹂躙してぇッ!」
「……ッ!本当に可愛い言葉ばかり口にして…。あの黒魔道士達にも強請ったりしていませんか?」
「はぁんっ!してないぃッ!アルだけが欲しいのッ!アルにだけ犯し尽くしてほしいぃッ!アルにだけ種付けしてほしいのぉッ!」
そんな風に恍惚とした顔で懸命に訴えてくる言葉が嬉しくて、胸の尖りをきつく抓り上げるとミシェルが歓喜の声を上げて身を震わせた。
ミシェルがこんな淫らな姿を晒すのは自分の前でだけ────その事実はどこまでも自分の心を幸せに満たしていく。
この腕の中にいる時だけは、この人は高貴な皇太子ではなく、この手で育てたどこまでも淫らで可愛い自分だけの恋人へと変わるのだ。
「ひあぁあぁあッ!溺れるぅううぅッ!」
「ミシェル様…愛しています。沢山可愛がって差し上げますから……もっともっと私をその言葉の数々で酔わせてください」
「ひっ…ひうぅ……。アル…も……幸せすぎて…ダメぇ……」
そうして二人で理性を手放しながら熱く交わり、空が白む頃ゆっくりと寄り添いながら眠りについた。
***
その日の夜、シリィは何故こうなったのだろうと思いながらライアードにベッドへと押し倒されていた。
最初はいつものように優しいライアードだったのだ。
今回の件で傷ついているだろうと気遣ってくれている様子がとてもよく伝わってきていた。
男達に何もされていないかと心配されたので、自分は大丈夫だったがミシェルが大変な目にあったので心配だと涙ながらに訴えた。
それに対してライアードはそっと抱きしめながら優しく頭を撫でてくれたので、その優しい温もりへと素直に体を預けた。
トクトクと規則正しく弾む鼓動を聞いているとなんだか少しずつ気持ちが落ち着いてくるような気がして、しばらく甘えさせてもらった。
ここまでは何も問題はなかったし、逆に言えばここで失言さえしなければいつも通りの二人でいられたはずだったのだ。
それなのに────。
「シリィ…兄上にはアルがついているから大丈夫だし、必要以上にシリィが気に病む必要はない」
少し落ち着いたところでそうやって宥めるように紡がれた言葉────。
「兄上には申し訳なかったが、シリィがあの魔道士達に手籠めにされなくて本当に良かった」
そうしてそっと髪に口づけを落としてくるライアードに少しの反発を覚えてしまったのだ。
皇太子という尊い身の上でありながら身を挺して自分を守ってくれたミシェル。
そのミシェルがどんな目にあったのか、ライアードは本当にわかっているのだろうか?
「ライアード様!申し訳ないって……本当にそんな言葉で事足りるなんてものじゃなかったんですよ?!」
思わずといったように大きな声で非難した自分にライアードが驚いたように目を見開く。
姉の件を除いてここまでライアードに怒りの感情を向けたことが無かったせいかもしれないが、それでも言わずにはいられなかったのだ。
「あんな…二人がかりで襲われて…!嫌だって泣きながら何度も犯されてたんですから……!」
「…………」
これにはさすがにライアードも何も言えないようだったので、続けざまにミシェルの被害を訴える。
「いくらなんでも抵抗できない相手にあれは酷すぎると思うんです!」
「…………」
「あのミシェル様があんなに可愛く泣かされて…どれだけプライドが傷ついたことか!そりゃあ思わず私でも目を奪われて見惚れるほど綺麗で可愛かったですし、あの黒魔道士達が私なんて見向きもせずミシェル様に夢中になるのも仕方がないとは思いますよ?!でもですね、いくらなんでも二人がかりで無茶なことをされたらミシェル様だって心が折れますよ!気丈に振舞ってはいましたけど、きっと凄く辛かったはずです!あまりにも可哀想じゃありませんか!ですからここは私も白魔道士ですし、今回庇っていただいた恩プラス償いも込めて精一杯精神的なアフターケアをすべきだと思って……ッ?!」
そこまで熱弁したところで突然ライアードから有無を言わさぬほど激しく口づけられ、言葉を奪われてしまった。
「~~~~~ッ?!」
あまりのことに懸命に身を捩じらせそこから逃げ出そうとするが、ライアードの腕が緩むことはなかった。
舌の付け根に舌を這わせられ、そうかと思えば舌を痺れるほど強く吸い上げられる。
チュパッと音高く離れたかと思えば次には舌をチロチロと彷徨うように動かしながら弱いところを攻め立ててくる。
そんな舌遣いに思わず翻弄され、気づけば全く体に力が入らず、ライアードに支えられ好きなようにされるがままになっている自分がいた。
そしてやっと長い口づけが終わったと思ったところで荒い息を整えながらそっとライアードの方を見遣ると、彼の目はこれまで見たことのないような獰猛な輝きを放っていた。
そんな眼差しにまるで射抜かれたかのように動きが止まり、思わず魅了されてしまう。
彼はこれまでこんな目で自分を見たことがあっただろうか?
たとえて言うなら水晶化された姉の前で押し倒された際に近しい表情はしていたかもしれない。
けれどあの時はどちらかというと狂気の中の熱情といったような眼差しだったように思う。
今のこの目のように、どこか…怒りを含んだような、そんな色は見受けられなかった気がする。
「ラ、ライアード様……?」
その緊迫した空気に心臓が痛いほど早鐘を打ち、自分は何か地雷でも踏んだのだろうかとパニックになる。
自然、口から出る言葉は微かに震えを帯びて顔色をなくしてしまう。
けれどそんな自分にライアードは少し間をおいて、思い切り腹黒いような顔で艶やかに笑ったのだ。
その表情に背筋がゾクゾクするのを感じ、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。
「シリィ……」
ツッ…と彼の指先が動き、自分の首筋をゆっくりと辿っていく。
バクバクと弾む鼓動はそれに釣られるかのように益々速さを増し、そのまま口から飛び出してしまうのではないかとさえ思えてしまった。
けれど自分の言葉に何故ライアードがこれほど怒りを覚えてしまったのか、それを知りたいとも思った。
「な…何をそんなにお怒りなのですか?」
「何を?……わからないのか?」
ライアードはそう問いかけてくるが、言ってくれないとわからないのだから仕方がないではないか。
「…わからないから聞いているんです」
だから正直にそう言ったのに、ライアードは納得がいかないようだった。
「シリィは先程兄上に魅了されたと言っただろう?私が怒らないと、本気で思っているのか?」
そして続いて紡がれたそんな言葉に思わず首をかしげてしまう。
自分はそんな言葉を口にしただろうか?
けれどそうしてよくわからないという顔をしてしまったのがまずかったのだろう。
そのまま抱き上げられて、スタスタとベッドまで運ばれてしまい、おろされたと思った瞬間には上から両手を押さえつけられていた。
「シリィは先程兄上に見惚れたと言い、二度も可愛いと褒めそやした上アフターケアと称して側に侍って奉仕したいとまで言った」
上から降ってくるそんな言葉の数々に思わず目を白黒させてしまう。
ライアードは一体何を言っているのだろう?
いくらなんでも言葉の取り違いが過ぎるだろう。
けれどその目はどこまでも真っ直ぐに自分へと向けられていて、その真剣さに目を離せなくなってしまった。
「私の側には私から声を掛けねば居てくれないというのに、兄上の側には自主的に行くと言うのか…?」
どこか苦々しそうな口調ながら静かな声で言うライアードの姿に、やっと言われている意味が分かって、思わず目を丸くしてしまう。
「兄上はそんなに可愛かったか?シリィの心を捉えるほど?」
「え?」
「兄上の声にこの胸を高鳴らせたのか?もしや感じたなんて…言わないだろうな?」
その言葉の数々を思わず頭の中で反芻してしまう。
そして次の瞬間、一気に顔が熱くなってしまった。
間違いない。
これは────『嫉妬』だ。
(え?えぇっ?!)
まさかこのタイミングでライアードがミシェルに対して嫉妬を抱くなんて思いもよらなかった。
(だって、あの状況下で私がミシェル様に惚れちゃうなんて普通考えないでしょう?!それにミシェル様はお妃様だっているし、アルバートさんもいるのよ?!私なんて眼中にないだろうし、いくらなんでも明後日の方向に心配し過ぎよ?!)
確かにミシェルは綺麗だとは思うし今日抱かれていた姿は可愛かったとは思うが、別にそれだけだ。
ライアードが嫉妬を抱くなんて筋違いもいいところだ。
それなのに、その眼差しは真剣そのものなのだ。
まさかそれほど自分を愛してくれているとでも────?
その時初めてそこに思い至り、思わずベッドの上をゴロゴロと転げ回りたい気持ちがこみ上げてきてしまった。
未だ嘗て誰かにこれほどの気持ちを向けられたことなどあっただろうか?
いや、ない。
こういったものはロックウェルや姉などモテる人達の特権だと勝手に思い込んで、自分とは無縁のものだと思っていたのだ。
それなのに……。
(どうしよう……嬉しい)
最初はあくまでも好意だと思った。
条件に合う女性の中で一番気に入ってくれたからプロポーズしてくれたのだろう。話も合うし、面白いと思ったから選んでくれたのだろう。そう思った。
そして婚約者になったからこそ優しく接し気を遣ってくれるのだろうと────そう思っていた。
口説いてくる言葉の数々も気恥ずかしく擽ったいが、その延長線上にあるものだとばかり考えていた。
そうやって好意的に接してくれるライアードに甘えていたから気づいていなかった。
好きは好きでも、とっくの昔に彼の好きは『好意』よりももっと進んだ『愛情』になっていたのではないだろうか?
つまりは口説き文句の中で使われていた『愛』と言う言葉はライアードの気持ちそのものだったのではないだろうか?
もしもそうだったとするのなら、愛情をこれから二人で育んでいけばと呑気に構えていた自分に対してさぞヤキモキした事だろう。
ここ最近以前にも増して二人の距離は近づいていたけれど、それはライアードが望んでいたものに比べればまだまだ及ばなかったとも言えるかもしれない。
そんな中一気に距離を縮めようと無理に襲い掛からず、キスで留めてくれていたのは偏に自分の事をそれだけ大事に思ってくれていたから。
それなのに自分はそれに甘えてまさに今さっき、無自覚にライアードを怒らせる言葉を口にしてしまったのだ。
それこそ意味の取り違えと言ってしまえばそれまでだが、ライアード的にはあまりに鈍感な自分にそろそろ限界を感じていたのかもしれない。
そしてここにきて相手が兄であるミシェルと言うのももしかしたらまずかったのかもしれないと思い至る。
兄弟だし、何かしらの確執だってこれまであったのかもしれないのに…流石に無神経すぎたかと反省してしまった。
だから────そのままフッと身体から力を抜き、そっと上目遣いでライアードを見つめる。
彼の怒りはどれほどだろう?
今の自分の正直な気持ちを話しても聞いてくれるくらいの聞く耳は持ってもらえるだろうか?
そうして窺うようにおずおずとその綺麗な顔を見遣ると、その瞳が葛藤に揺れてるように見受けられた。
そんなライアードの姿になんだか胸が痛くなって、気づけばその言葉をそっと口にしていた。
「ライアード様。心配しなくても私はちゃんとライアード様のことを好き…ですよ?」
けれどその言葉はライアードの心には届かなかったようで、どうせその場凌ぎで言った言葉だろうと取られてしまったようだった。
「シリィは本当に残酷だ」
そんな憂うように紡がれた言葉に、返って傷つけてしまったようだとズキリと胸が痛む。
それと同時にこれまで言葉が全く足りていなかったのだと改めて思い知る羽目になってしまった。
ここはもう腹を据えて自分の気持ちを一度きちんと話すべきなのかもしれないと、大きく息を吐き腹に力を入れる。
そして真っ直ぐライアードへと向けて言葉を発した。
「ライアード様。私、もっと早くきちんと貴方に話すべきでした。貴方に甘えすぎていて本当にすみません」
そんな言葉にライアードが困惑気味に眉を顰める。
一体何を言い出したのかと訝しげにしているが、どうやら話は聞いてもらえそうだと判断し、そのまま目を逸らさずに話し続けた。
「私…ここ最近、えっと…朝晩の口づけが始まって暫くしてからなんですけど、ライアード様に向き合おうと思って結構ライアード様のお仕事ぶりとかを覗きに行ったりしていたんです」
「…………」
「それで、いつも私に見せる表情とは全然違う姿に最初は驚いたりもしたんですけど、仕事ができるところとかは本当に時折見惚れるほど素敵だなって思ってました」
「…………」
「勿論…その…いろんな表情を見ていたので全部が全部好きってわけではないんですけど…、それでもあの…白状しますと、時折見るどこか悪だくみしているような顔もですね、普段の優しい姿とのギャップで、結構好き…なんです」
「シリィ……」
そうして驚いたような顔でこちらを見てくるライアードがなんだか擽ったい。
「だから…ですね、こうして強引な姿も別に怯えたりとかしないので、何かご不満な点があったら隠さずにぶつけてきてほしいなと…思ってですね…」
そこまで言って、なんだか今更ながら恥ずかしくなり顔が赤くなっていくのを感じてフイッと目をそらしてしまう。
「あと…その…ですね?確かにライアード様のお気持ちに比べればまだまだだとは思うんですが、ライアード様との口づけも、段々自然に受け止められるようになりましたし、ここ最近沢山お話しして随分距離も近くなったと…思ってましたし、もし結婚前に私を抱きたいと思っていただけるのであれば、いつでも私の初めてを貰っていただきたいな…とは思える程度にはですね……」
最後の『私も好きになりましたよ』の部分がモゴモゴと尻すぼみになりながら言ってしまったので本人に聞こえたのかどうかは定かではないが、ここは恥ずかしいし別に聞き流してもらっても構わないところだったのでそれならそれでと言い切った感でいっぱいになっていたところでそっと抱きしめられた。
「シリィ……本当に?」
どこか感極まったような声で問うてくるライアードに、少しでも気持ちが伝わったかなとなんだか嬉しくなってくる。
嫉妬されるのは嬉しいが必要以上に彼を傷つけたくはなかったからだ。
「ええ。私はちゃんとライアード様と寄り添いたいと思っているので、もうちょっと信頼してくださいね」
変な勘違いはしないでほしい。そんな気持ちを込めてそっとライアードを窺うと柔らかい口づけがそっと唇へと落とされた。
「シリィ……愛してる」
そんな風に熱い声で耳元で囁かれたら困ってしまうではないか。
これはまずいかもと思いながら、こうして大きくライアードへと傾いたベクトルはそのままシリィの心を攫って行ったのだった。
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