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第二部 ソレーユ編~失くした恋の行方~
35.拉致
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ちゅっちゅっと優しく与えられる口づけに今日もシリィはうっとりと身を任せる。
例のお茶会後、ライアードの様子が気にはなって少し様子を見てはいたのだが、ライアードは得意のポーカーフェイスで全てを隠してしまっているのか自分にはその心を窺い知ることができなかった。
それならそれで会話を持とうと積極的に話しかけるようにしたのだが、そちらは思った以上に話が弾んで二人の仲をまた少し縮めることができたと思う。
けれど肝心のライアードの心を知るところまでは行きつくことができなかった。
もうこうなっては自分ではお手上げだ。
言ってもライアードは王子で、しかも自分よりもずっと年上の男性なのだ。
ちょっとやそっとでは自分に本音を晒してくれたりはしないような気がする。
婚約者と言ってもこればかりは無理強いできるものではないので諦めるしかできないだろう。
(はぁ……。さて…と。今日はどうしようかしら……)
ライアードを笑顔で仕事へと見送り、内心でため息を吐く日々。
あれからお茶会は暫く自粛すべしと皇太子妃二人からお達しがあったため、王宮でのお茶会はまだ開かれてはいない。
あの二人がそう言ったからにはまずは王妃、もしくは彼女達の茶会が行われないことには王宮での茶会は許可が出ないことだろう。
それは自分的には良かったと言っていいことなのかもしれないが、問題を先送りにしてしまっただけのような気もしてなんだかモヤモヤとしてしまう。
とりあえず主要な王宮内の力関係は把握したので、そのあたりをもう一度おさらいしておくかとため息を吐いた。
(そう言えば今日は外務大臣が夫妻で王宮に姿を見せるって言っていたような……)
外務大臣の妻であるヒルデはとても社交的で、各国との外交の場で夫を支え素晴らしい働きを見せていると聞いているのだが、実はまだ自分は会ったことがなかった。
彼女は普段からあちらこちらと飛び回って忙しく、茶会などには基本的に出席しないため特別な夜会などでしか会えないと聞いた。
だからこそ会える機会があるのならチャンスを逃すべきではないだろうと思った。
(思い切ってご挨拶に伺ってみようかしら)
ライアードからもできれば挨拶をして交流を持った方がいいと言われているし、思い切って行ってみようと動くことにしたのだが、その途中で同じく彼らの元へと向かっているミシェルとステファンに出会った。
「シリィ?」
慌てて回廊脇に下がり礼をとるが、ミシェルは構わずそのまま話しかけてくる。
「もしやこれからヒルデ夫人に挨拶に行くところか?」
そんな言葉に慌てて顔を上げその通りだと口にする。
「そうか。私もちょうど夫君のバルディオスに会いに行くところだ。ライアードは今別件で少し出ているようだし私と一緒に挨拶に行くか?」
そんな申し出に有難いと素直に謝辞を述べ、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えてご一緒させていただきます」
そうして並んで歩いていると、そう言えばとステファンが口を開いた。
「二人の結婚式にはロックウェルは来るのだろうか?」
「え?ええ。あそこは夫婦揃って来る予定です」
その言葉にステファンは少し考えた後、物凄く言いにくそうに尋ねてくる。
「シリィ様はロックウェルの相手に会ったことが?」
そんな言葉に思わずクスリと笑ってしまう。
「シリィでいいですよ。ロックウェル様の相手というとクレイのことですよね?」
「ああ」
その答えにもしかしたらステファンはクレイに会ったことがないのではないだろうか?と思った。
けれど、尋ねてみると予想に反してステファンは会ったことがあると答えてきた。
「俺が会った時はあいつが17くらいの時だったか…。随分不遜で傲慢な感じで……何と言うか生意気な子供みたいな感じだったな」
生意気な……子供?
「ふふっ…。想像すると可愛いですね。私も見てみたかったです」
そんな自分にステファンは面食らったように目を丸くしたが、続く言葉は思いがけず好意的なものだった。
「シリィがそういう反応を示すってことは、あいつも成長して丸くなったということなのかな」
どうやらステファンの言葉によると昔はかなり付き合いにくい人柄だったらしい。
「俺はあまり接点がなかったが、同業の黒魔道士にさえ一線引かれているくらいには付き合いにくい奴だったんだ」
そんな中ロックウェルは仲良くしているようだったから不思議に思って聞いてみたことがあるらしい。
「そしたらあいつは『不器用なだけで付き合ってみたら素直なところもあるぞ』って笑って言っていたから、本当に人付き合いの上手い奴だなと感心したもんだ」
そんなロックウェルに惹かれて一時付き合うことになったのは今でもいい思い出だとステファンはどこか懐かしむように微笑みを浮かべている。
「だからあんないい奴がクレイと結婚したって聞いて正直驚いた。話を初めて聞いた時から、あのクレイに振り回されて大変な想いをしているんじゃないかと心配していたんだ」
そんな言葉にステファンにとってロックウェルは今でも大事な友人なんだなと胸が温かくなる。
「大丈夫ですよ。確かに振り回されてはいるみたいですけど、上手く調教してるみたいですし、あそこはいつでもラブラブですから」
そうして笑顔でサラッと二人の関係を口にして安心してもらおうと思ったのだが、何故かその言葉を聞いてステファンは表情を固まらせてしまった。
「……?どうかされましたか?」
「え?いや。今聞き間違いのような言葉が…」
はて?どの言葉だろう?
そうして首をかしげていると、恐る恐るというようにステファンが尋ねてきた。
「今『調教』とか『ラブラブ』という言葉を聞いたような気がするのだが空耳だろうか?」
けれどどうしてそんなことを言われるのかさっぱりわからなくて、思い切り笑顔で肯定の言葉を返す。
「空耳じゃないですよ?ロックウェル様はどうもクレイが絡むと嫉妬でおかしくなってしまうんですよ。クレイも天然でそういうのに気づかないことも多いからついついロックウェル様を怒らせることが多くて……。私がいた時はかばってあげたりもできたんですけど、今はどうしているのか…本当に心配です。また問答無用で縛り上げられていないといいんですけど……」
そうして物憂げに口にしたところでステファンは思考が停止したように頭を押さえ始めた。
『嫉妬?あのロックウェルが?』と呟いていることから、どうやら受け入れがたい言葉があったらしい。
けれどそんな自分たちのやり取りにミシェルがクスリと笑みを溢す。
「ミシェル様?」
そんなミシェルを不思議に思い名を呼ぶと、ミシェルはどこか柔らかな表情を浮かべながら口を開いた。
「私は彼らのことをほとんど知らないし、ロックウェル魔道士長に至っては会ったこともないが、その二人の仲がいいことだけは凄く伝わってきた」
そうして結婚式の時には是非会ってみたいものだと言ってくれる。
そんな言葉に二人の仲の良さが伝わったのだとなんだかとても嬉しい気持ちになった。
「ええ。是非ミシェル様にご紹介させてください!」
そうして和やかに歩いていると、突然王宮の南方方向で爆音が上がった。
ドォオォーンッ!
「何事だ?!」
ザワッと平和な王宮内に激震が走る。
そしてその事態にミシェルがすぐさま動き状況の把握へと動き始めたのだが、その動きを封じるかのように目の前へとゆらりと影が立ち上がり、次の瞬間にはそこに二人の黒魔道士が姿を現していた。
「あんたが皇太子?」
「そうだよね?そんなに綺麗で気高い雰囲気纏ってるもんね?」
まるで対の様にそっくりな黒魔道士の二人はどこか楽し気にそんな風に口にしてくる。
「ミシェル様、お下がりください!」
ステファンがそんな二人に対してミシェルを庇うように前へと出るのに合わせ、シリィもすぐさま防御と攻撃がいつでもできるようにと戦闘態勢をとる。
何と言ってもミシェルは魔法が使えない弱い存在なのだ。
もしここで万が一にでもミシェルが殺されることにでもなったらライアードにも申し訳が立たない。
何としてでも自分達が守らなければ────!
そうして気合を入れたところで相手の黒魔道士が攻撃へと転じてくる。
拘束魔法を駆使してくるところを見るに、依頼主は暗殺ではなく拉致を指示した可能性が高い。
だからそれらを自分の魔法で根こそぎ叩き落し、その隙にステファンが攻撃魔法を唱え相手へと攻撃を仕掛けた。
次々と繰り出される光の矢を双子達は危なげなく叩き落していくが、その様子を見るに実力差はこちらと然程大きくは違わないように思えた。
だからこれなら守り切れると、自分だけではなくステファンも思ってしまった。
そうして激しく戦いを繰り広げているところで双子の一人が奇妙な動きをしていることに気づいた時には手遅れだった。
「完成♪」
そうしてニヤッと笑ったと思ったところでサークル上に魔法が発動し、フオンッと音が聞こえると同時にちょうどサークルの真ん中に位置していたステファンの足元が爆発した。
「グハッ…!」
それと同時にサークル内にすさまじい爆風が吹き荒れる。
「きゃぁああああっ!」
そしてそれと同時に体が吹き飛ばされ壁へと叩きつけられたのを感じ取ったのを最後に、シリィはカクンと意識を失ったのだった。
***
「う……っ」
拉致に巻き込まれてしまったシリィが呻きを上げ目を覚ますのを感じた。
その口には魔法が唱えらえないよう猿轡が噛まされ、手足も縄で拘束されてしまっている。
恐らく今回の件は第二王子擁立派の仕業だろうが、もしかしたら他の者も噛んでいるのかもしれない。
ミシェルとしては彼女を巻き込んでしまった事に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
爆風に吹き飛ばされ気を失った後、自分達はどこかの屋敷へと連れてこられたらしい。
自分もつい先ほど気が付いたばかりだが両手両足を拘束されているため身動きすらできない状況だ。
あの時爆発で吹き飛ばされたステファンは大丈夫だろうか?
(また…私のせいで命を失うことにでもなったら……)
ジャスティンと同じように自分を守るために命を散らせてしまったらと考えるとどうしても体が震えてしまう。
防御に優れた白魔道士だし、そこは無事であると信じたい。
生きてさえいてくれたらそこからライアードへと話がいってすぐさま救助へと動いてもらえるだろうが、今王宮内は最初に上がった爆発の方の調査などもありかなり混乱している事だろう。
果たしてそんな中、離れた場所で襲われた自分達の状況を把握し、ステファンを助けてくれる者がいるだろうか?
願わくばロイドの眷属なりシュバルツなりが気づいてくれればいいのだが……。
いずれにせよ自分とシリィがいなくなったことが発覚すれば大事になってしまうのはまず間違いない。
(アルにも心配をかけてしまうな……)
自分の事をこれ以上ないほど大切にしてくれているアルバートの事だ。
恐らく話が耳に入れば必要以上に心配をかけてしまうことだろう。
そうしてぐるぐると色々なことを考え込んでいると、突然部屋のドアが開き先程襲ってきた双子の黒魔道士が姿を現した。
「あ、二人共起きたんだ」
「どっちも綺麗だから寝てるうちに襲っちゃおうと思ってたのに。残念」
クスクスと楽しげに笑ってくる二人に危機感ばかりが募る。
正直ここでシリィを襲われてはたまったものではない。
何が目的でシリィまで一緒に攫ってきたのかは知らないが、シリィはライアードと結婚を控えている身だ。
こんな男達に犯されて子でも孕んだら目も当てられないだろう。
それだけはなんとしても回避しなければならないと強く思った。
「彼女は関係ないだろう?お前達の狙いは私だけのはずだ!襲うなら私だけにしろ!」
正直アルバート以外に襲われるのは絶対に嫌だ。
けれど守るべき対象がいるのならば背に腹は代えられないと思った。
自分は男だ。
孕む危険性はないのだから皇太子と言う立場など忘れてシリィを守るべきだと判断した。
そんな自分に男達はニヤニヤと笑みを浮かべるが、シリィは蒼白になりながら首をブンブンと激しく振っている。
その姿はやめてくれと言わんばかりだ。
「ん────!!んんん────!!」
必死に訴えてくるがこればかりは譲れるものではない。
「一人ずつ抱くつもりだったのに、皇太子がここまで言うなら仕方がないな~」
「ちゃんと一人で俺達二人を満足させられる?ふふっ…。精々楽しませてくれよ?皇太子様♪」
そうして二人が自分へとゆっくりと近づいて足の拘束をハラリと解き、そのままベッドへと運ばれる。
なんとか少しでも二人を自分に惹きつけなければ────そんな風に思いながらミシェルは身を強張らせながらも気丈に屈辱に耐えた。
例のお茶会後、ライアードの様子が気にはなって少し様子を見てはいたのだが、ライアードは得意のポーカーフェイスで全てを隠してしまっているのか自分にはその心を窺い知ることができなかった。
それならそれで会話を持とうと積極的に話しかけるようにしたのだが、そちらは思った以上に話が弾んで二人の仲をまた少し縮めることができたと思う。
けれど肝心のライアードの心を知るところまでは行きつくことができなかった。
もうこうなっては自分ではお手上げだ。
言ってもライアードは王子で、しかも自分よりもずっと年上の男性なのだ。
ちょっとやそっとでは自分に本音を晒してくれたりはしないような気がする。
婚約者と言ってもこればかりは無理強いできるものではないので諦めるしかできないだろう。
(はぁ……。さて…と。今日はどうしようかしら……)
ライアードを笑顔で仕事へと見送り、内心でため息を吐く日々。
あれからお茶会は暫く自粛すべしと皇太子妃二人からお達しがあったため、王宮でのお茶会はまだ開かれてはいない。
あの二人がそう言ったからにはまずは王妃、もしくは彼女達の茶会が行われないことには王宮での茶会は許可が出ないことだろう。
それは自分的には良かったと言っていいことなのかもしれないが、問題を先送りにしてしまっただけのような気もしてなんだかモヤモヤとしてしまう。
とりあえず主要な王宮内の力関係は把握したので、そのあたりをもう一度おさらいしておくかとため息を吐いた。
(そう言えば今日は外務大臣が夫妻で王宮に姿を見せるって言っていたような……)
外務大臣の妻であるヒルデはとても社交的で、各国との外交の場で夫を支え素晴らしい働きを見せていると聞いているのだが、実はまだ自分は会ったことがなかった。
彼女は普段からあちらこちらと飛び回って忙しく、茶会などには基本的に出席しないため特別な夜会などでしか会えないと聞いた。
だからこそ会える機会があるのならチャンスを逃すべきではないだろうと思った。
(思い切ってご挨拶に伺ってみようかしら)
ライアードからもできれば挨拶をして交流を持った方がいいと言われているし、思い切って行ってみようと動くことにしたのだが、その途中で同じく彼らの元へと向かっているミシェルとステファンに出会った。
「シリィ?」
慌てて回廊脇に下がり礼をとるが、ミシェルは構わずそのまま話しかけてくる。
「もしやこれからヒルデ夫人に挨拶に行くところか?」
そんな言葉に慌てて顔を上げその通りだと口にする。
「そうか。私もちょうど夫君のバルディオスに会いに行くところだ。ライアードは今別件で少し出ているようだし私と一緒に挨拶に行くか?」
そんな申し出に有難いと素直に謝辞を述べ、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えてご一緒させていただきます」
そうして並んで歩いていると、そう言えばとステファンが口を開いた。
「二人の結婚式にはロックウェルは来るのだろうか?」
「え?ええ。あそこは夫婦揃って来る予定です」
その言葉にステファンは少し考えた後、物凄く言いにくそうに尋ねてくる。
「シリィ様はロックウェルの相手に会ったことが?」
そんな言葉に思わずクスリと笑ってしまう。
「シリィでいいですよ。ロックウェル様の相手というとクレイのことですよね?」
「ああ」
その答えにもしかしたらステファンはクレイに会ったことがないのではないだろうか?と思った。
けれど、尋ねてみると予想に反してステファンは会ったことがあると答えてきた。
「俺が会った時はあいつが17くらいの時だったか…。随分不遜で傲慢な感じで……何と言うか生意気な子供みたいな感じだったな」
生意気な……子供?
「ふふっ…。想像すると可愛いですね。私も見てみたかったです」
そんな自分にステファンは面食らったように目を丸くしたが、続く言葉は思いがけず好意的なものだった。
「シリィがそういう反応を示すってことは、あいつも成長して丸くなったということなのかな」
どうやらステファンの言葉によると昔はかなり付き合いにくい人柄だったらしい。
「俺はあまり接点がなかったが、同業の黒魔道士にさえ一線引かれているくらいには付き合いにくい奴だったんだ」
そんな中ロックウェルは仲良くしているようだったから不思議に思って聞いてみたことがあるらしい。
「そしたらあいつは『不器用なだけで付き合ってみたら素直なところもあるぞ』って笑って言っていたから、本当に人付き合いの上手い奴だなと感心したもんだ」
そんなロックウェルに惹かれて一時付き合うことになったのは今でもいい思い出だとステファンはどこか懐かしむように微笑みを浮かべている。
「だからあんないい奴がクレイと結婚したって聞いて正直驚いた。話を初めて聞いた時から、あのクレイに振り回されて大変な想いをしているんじゃないかと心配していたんだ」
そんな言葉にステファンにとってロックウェルは今でも大事な友人なんだなと胸が温かくなる。
「大丈夫ですよ。確かに振り回されてはいるみたいですけど、上手く調教してるみたいですし、あそこはいつでもラブラブですから」
そうして笑顔でサラッと二人の関係を口にして安心してもらおうと思ったのだが、何故かその言葉を聞いてステファンは表情を固まらせてしまった。
「……?どうかされましたか?」
「え?いや。今聞き間違いのような言葉が…」
はて?どの言葉だろう?
そうして首をかしげていると、恐る恐るというようにステファンが尋ねてきた。
「今『調教』とか『ラブラブ』という言葉を聞いたような気がするのだが空耳だろうか?」
けれどどうしてそんなことを言われるのかさっぱりわからなくて、思い切り笑顔で肯定の言葉を返す。
「空耳じゃないですよ?ロックウェル様はどうもクレイが絡むと嫉妬でおかしくなってしまうんですよ。クレイも天然でそういうのに気づかないことも多いからついついロックウェル様を怒らせることが多くて……。私がいた時はかばってあげたりもできたんですけど、今はどうしているのか…本当に心配です。また問答無用で縛り上げられていないといいんですけど……」
そうして物憂げに口にしたところでステファンは思考が停止したように頭を押さえ始めた。
『嫉妬?あのロックウェルが?』と呟いていることから、どうやら受け入れがたい言葉があったらしい。
けれどそんな自分たちのやり取りにミシェルがクスリと笑みを溢す。
「ミシェル様?」
そんなミシェルを不思議に思い名を呼ぶと、ミシェルはどこか柔らかな表情を浮かべながら口を開いた。
「私は彼らのことをほとんど知らないし、ロックウェル魔道士長に至っては会ったこともないが、その二人の仲がいいことだけは凄く伝わってきた」
そうして結婚式の時には是非会ってみたいものだと言ってくれる。
そんな言葉に二人の仲の良さが伝わったのだとなんだかとても嬉しい気持ちになった。
「ええ。是非ミシェル様にご紹介させてください!」
そうして和やかに歩いていると、突然王宮の南方方向で爆音が上がった。
ドォオォーンッ!
「何事だ?!」
ザワッと平和な王宮内に激震が走る。
そしてその事態にミシェルがすぐさま動き状況の把握へと動き始めたのだが、その動きを封じるかのように目の前へとゆらりと影が立ち上がり、次の瞬間にはそこに二人の黒魔道士が姿を現していた。
「あんたが皇太子?」
「そうだよね?そんなに綺麗で気高い雰囲気纏ってるもんね?」
まるで対の様にそっくりな黒魔道士の二人はどこか楽し気にそんな風に口にしてくる。
「ミシェル様、お下がりください!」
ステファンがそんな二人に対してミシェルを庇うように前へと出るのに合わせ、シリィもすぐさま防御と攻撃がいつでもできるようにと戦闘態勢をとる。
何と言ってもミシェルは魔法が使えない弱い存在なのだ。
もしここで万が一にでもミシェルが殺されることにでもなったらライアードにも申し訳が立たない。
何としてでも自分達が守らなければ────!
そうして気合を入れたところで相手の黒魔道士が攻撃へと転じてくる。
拘束魔法を駆使してくるところを見るに、依頼主は暗殺ではなく拉致を指示した可能性が高い。
だからそれらを自分の魔法で根こそぎ叩き落し、その隙にステファンが攻撃魔法を唱え相手へと攻撃を仕掛けた。
次々と繰り出される光の矢を双子達は危なげなく叩き落していくが、その様子を見るに実力差はこちらと然程大きくは違わないように思えた。
だからこれなら守り切れると、自分だけではなくステファンも思ってしまった。
そうして激しく戦いを繰り広げているところで双子の一人が奇妙な動きをしていることに気づいた時には手遅れだった。
「完成♪」
そうしてニヤッと笑ったと思ったところでサークル上に魔法が発動し、フオンッと音が聞こえると同時にちょうどサークルの真ん中に位置していたステファンの足元が爆発した。
「グハッ…!」
それと同時にサークル内にすさまじい爆風が吹き荒れる。
「きゃぁああああっ!」
そしてそれと同時に体が吹き飛ばされ壁へと叩きつけられたのを感じ取ったのを最後に、シリィはカクンと意識を失ったのだった。
***
「う……っ」
拉致に巻き込まれてしまったシリィが呻きを上げ目を覚ますのを感じた。
その口には魔法が唱えらえないよう猿轡が噛まされ、手足も縄で拘束されてしまっている。
恐らく今回の件は第二王子擁立派の仕業だろうが、もしかしたら他の者も噛んでいるのかもしれない。
ミシェルとしては彼女を巻き込んでしまった事に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
爆風に吹き飛ばされ気を失った後、自分達はどこかの屋敷へと連れてこられたらしい。
自分もつい先ほど気が付いたばかりだが両手両足を拘束されているため身動きすらできない状況だ。
あの時爆発で吹き飛ばされたステファンは大丈夫だろうか?
(また…私のせいで命を失うことにでもなったら……)
ジャスティンと同じように自分を守るために命を散らせてしまったらと考えるとどうしても体が震えてしまう。
防御に優れた白魔道士だし、そこは無事であると信じたい。
生きてさえいてくれたらそこからライアードへと話がいってすぐさま救助へと動いてもらえるだろうが、今王宮内は最初に上がった爆発の方の調査などもありかなり混乱している事だろう。
果たしてそんな中、離れた場所で襲われた自分達の状況を把握し、ステファンを助けてくれる者がいるだろうか?
願わくばロイドの眷属なりシュバルツなりが気づいてくれればいいのだが……。
いずれにせよ自分とシリィがいなくなったことが発覚すれば大事になってしまうのはまず間違いない。
(アルにも心配をかけてしまうな……)
自分の事をこれ以上ないほど大切にしてくれているアルバートの事だ。
恐らく話が耳に入れば必要以上に心配をかけてしまうことだろう。
そうしてぐるぐると色々なことを考え込んでいると、突然部屋のドアが開き先程襲ってきた双子の黒魔道士が姿を現した。
「あ、二人共起きたんだ」
「どっちも綺麗だから寝てるうちに襲っちゃおうと思ってたのに。残念」
クスクスと楽しげに笑ってくる二人に危機感ばかりが募る。
正直ここでシリィを襲われてはたまったものではない。
何が目的でシリィまで一緒に攫ってきたのかは知らないが、シリィはライアードと結婚を控えている身だ。
こんな男達に犯されて子でも孕んだら目も当てられないだろう。
それだけはなんとしても回避しなければならないと強く思った。
「彼女は関係ないだろう?お前達の狙いは私だけのはずだ!襲うなら私だけにしろ!」
正直アルバート以外に襲われるのは絶対に嫌だ。
けれど守るべき対象がいるのならば背に腹は代えられないと思った。
自分は男だ。
孕む危険性はないのだから皇太子と言う立場など忘れてシリィを守るべきだと判断した。
そんな自分に男達はニヤニヤと笑みを浮かべるが、シリィは蒼白になりながら首をブンブンと激しく振っている。
その姿はやめてくれと言わんばかりだ。
「ん────!!んんん────!!」
必死に訴えてくるがこればかりは譲れるものではない。
「一人ずつ抱くつもりだったのに、皇太子がここまで言うなら仕方がないな~」
「ちゃんと一人で俺達二人を満足させられる?ふふっ…。精々楽しませてくれよ?皇太子様♪」
そうして二人が自分へとゆっくりと近づいて足の拘束をハラリと解き、そのままベッドへと運ばれる。
なんとか少しでも二人を自分に惹きつけなければ────そんな風に思いながらミシェルは身を強張らせながらも気丈に屈辱に耐えた。
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