黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第二部番外編 シュバルツ×ロイドの恋模様

2.※嫉妬(後編)

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「~~~~っ!クレイクレイクレイ!ロイドはそんなにクレイがいいのか?!」

シュバルツの口からそんな言葉が飛び出した。

「クレイの名前なんてもうお前の口から聞きたくない!」

そう叫んで、シュバルツが思いの丈をぶつけてくるかのように魔力を自分へと注ぎ込んでくる。

(こいつは……)

どうしてこれほどまでにシュバルツは自分に夢中なのだろう?
はっきり言ってさっぱりわからない。
けれどこれほどまでに嫉妬されて、満更悪い気はしない自分がいた。

「シュバルツ…」
「ロイド」

自分を押し倒すシュバルツは熱っぽくこちらを見つめていて、酒のせいか頬は赤く染まっている。
それがやけに扇情的で、今日はこのまま頂いてしまおうかなと思った。
正直駆け引きを楽しむのは好きだし、シュバルツの出方を知っていきたい気持ちはあるが、月に一度くらいは欲求不満を解消してほしい。
今日満足させてもらったらまたひと月近く寝なくても大丈夫だろう。
それだけのものをシュバルツは十分自分へと与えてくれるのだから────。

「ほら、こい」

そうやって甘く声を掛けてやると、シュバルツの手がそっと自分へと回される。
そして何度も何度も口づけ、自分が望むだけの魔力交流をしてくれた。

(たまらないな……)

クレイと比較するとどうしても劣ってしまうが、シュバルツの魔力は自分を満たすには十分なほど高い。
それはソレーユに来るまで、シュバルツが自主的に圧縮魔法を使い魔力を高め続けてきたからに他ならない。

(本当に犬のように可愛い奴だな)

自分の為だけに尽くしてくる可愛いペット。
それが今のシュバルツに対する見解だ。
けれどそれをクレイに言うと、何故か笑われてしまう。

「お前は何もわかってないんだな。いや、気づいてないだけか?」

面白そうに言われたあの言葉の意味がさっぱり分からない。
しかもロックウェルにまでため息を吐かれた。

「クレイ。この馬鹿な男に構うな。精々悩むだけ悩んでドツボに嵌ればいい」
「ロックウェル…そんな酷いことを言ってやるな」

そんな二人のやり取りとその後見せつけられた甘いやり取りを思い出し、ついイラッとした表情を顔に出してしまった。
それをシュバルツが目敏く見咎めてくる。

「ロイド…今何を考えた?」

その目はいつもとは違い、小犬ではなくどこか鋭くて…責めるような色合いが滲んでいた。

「別に何でもいいだろう?それよりも、する気がないならさっさと上からどけ」

本当は肌も重ねたかったが、魔力交流である程度満足はできたしこのまま険悪になるのも嫌だったので、そう言って軽く押し退けてやる。
けれどいつもなら引き下がりそうなそのシチュエーションで、シュバルツは引き下がらなかった。

「ロイド…クレイのことは私が忘れさせてやる……」

その言葉に、どうやらまだ自分がクレイを引きずっているのだと勘違いしているらしいという事が窺い知れた。
けれど流石にそれは大きな勘違いだ。
振られてから何ヶ月経ってると思うのか?
自分はそこまでは女々しくないつもりなのだが……。

「シュバルツ。確かにクレイと戯れるのは好きだが……ッ?!」

ちゃんと言ってやろうと折角口を開いたのに、シュバルツは最後まで聞かずにそのまままた口づけ、急くように服を脱がせ始めた。
とは言えその手つきは雑ではなくどこか丁寧で柔らかい。
この辺りは育ちの良さが出るなと感心してしまう。

「んっ…!シュバルツ、ちょっと待ッ…!」

合間合間に言葉を紡ごうとするのだが、その度に口を塞がれ魔力を送られる。
正直気持ちいい上にちょっと楽しい。
良い感じに溶かされて、思わず笑みが溢れるほどに……。

「はぁ…今日のお前はなかなかいいな」
「…どうせクレイと比べているくせに……」

なのにシュバルツの口からはどこまでもつれない言葉が飛び出てくる。
そんな訳がないのに……。

(酔っているからか?)

嫉妬と酒のせいか、いつもとは違った様子のシュバルツに思わず期待が高まる。
これなら少しくらい乱れてもいくらでも誤魔化しがきくだろう。

(そろそろもう少しステップアップしてみたかったしな)

これまでシュバルツと寝たのはたった三回。
その三回で自分が好きな体位もシュバルツが好きな体位も把握した。
遠慮しながらもこちらを気持ちよくさせようと頑張るシュバルツは、見ていて好ましい。
だからこれまでは散々言葉と手管で溶かしてやってから挿れさせて、主導権は自分で持つようにしていた。
これは最初にやった時の教訓からだ。
諸々相性が良いだけに、下手に主導権を渡して好き勝手されるのは困ると思ってのこと…。
けれど激しいセックスだってたまにはやってみたい。
最初の時のあの溺れそうな快楽が忘れられないのもある。
それは黒魔道士の淫らな欲求とも言えるのかもしれないが、激しく交わってイかせて欲しい欲求がどうしても拭えなかった。

(今日は酔ってるしな。これなら上手くやればいけるだろう)

そう思って大人しくシュバルツに身を任せる。

「んっんっ……」

後孔を優しく愛撫し、ゆっくりと解されていく。

「はぁッ…。シュバルツ…久し振りなんだ。お前も今日は好きなだけ私を堪能しろ」

その言葉はどうやらシュバルツの心を上手く揺さぶれたらしい。

「ロイド…何それ…。狡い……」
「はッ…ぁ、狡くはない。お前と交わって一緒に溺れたいだけだ」
「……ッ!」

それと同時にうつ伏せにされ、腰を高く上げさせられる。

「んッ……!」

待ち望んでいたそれがズズッとゆっくりと慎重に挿れられて、背筋がゾクゾクと快感で震えてしまう。

「ふっ…んくッ…!」

相変わらずの相性の良さに思わず声を上げそうになるが、そこはプライドで出来るだけ抑え込んだ。

(最高過ぎる……)

久し振りに挿れられたそれは自分の中にぴったりと収まり、良いところを擦っていく。
ゆっくりと馴染ませるように動かされるそれが、まるで焦らされるかのように感じられて煽られているような錯覚に襲われた。

「シュバルツ……」

早くもっと激しく奥まで来て欲しい。
遠慮なんていらないから、どこまでも自分を好きに揺さぶって欲しい。
そんな本音を綺麗に隠し、下手なのは百も承知だし、激しくさえ動いてくれれば後は自分が調整して好きに動くからさっさとやれと笑いながら煽ってやる。
すると案の定シュバルツは簡単に煽られて動きを激しくしてきた。
パンパンと奥まで激しく突かれて、たまらず背を反らしながら歓喜の声を上げてしまう。

「ふぁっ!あぁっ!」
「ロイド…やっぱり激しいのが好き?今日はクレイのことなんて考えられなくなるくらい激しくしてあげるから…」

いつもは遠慮がちにこちらを窺ってくるシュバルツが、嫉妬のせいかそんなことを言ってくる。
そして反らせた背をそっと抱き込んで、そのまま口付け激しく腰を振り始めた。

「ひっ…!」

中途半端な体位で奥の一番感じるところを抉るようにコツコツと突き上げられて、思わず身を震わせてしまう。

「ふふっ…見つけた。ここ、好きだよね?」
「あ、待…てッ!んああぁああ!」

ビクビクと体が震えても、シュバルツの腰の動きは止まらない。

「くっ…奥はうねってるのに凄い締まる。凄く気持ちいいッ!」

そんな情欲を滲ませた声を耳元で零されるとこちらまで煽られてしまう。

「あッ…!シュバルツッ!」
「わかってるッ!」
「うぁッ!」

強請ると同時に前を扱かれ益々高みへと登っていく。
そこからは声は抑えつつも好きなだけ腰を振って狂乱に身を任せた。
ずっと待ち望んでいた快楽だ。
楽しまなくては損だとばかりに堪能する。
そうしてこれまでよりも満ち足りた気分で三度登りつめ、シュバルツがイッたのを感じながら満足感に満たされそのままベッドに沈み込んだのだが、ここに来てシュバルツが思いがけない行動に出た。
まさかの回復魔法を唱えたのだ。

「シュ、シュバルツ?」

なんだか嫌な予感がすると思ってそう呼びかけると、シュバルツはうっとりとするように自分を見つめ、こう言った。

「ロイド…欲求不満って本当だったんだ…。今日はロイドに煽られていくらでもできそうだし、ちゃんと満足がいくまで付き合うから」
「ちょっと待て…。足りてるぞ?」
「そんなに気を遣わなくてもいいから。クレイに愚痴をこぼしにいくくらい足りてなかったんだろう?ちゃんと満足させるから、ずっとそばに居てくれ…」
「ちょッ!んんッ!」

こうしてまた襲われて、気づけばドライオーガズムを経験する羽目になっていた。

(くそッ!これはこれで気持ちよかったが、最悪だ!)

正直喘がされ過ぎるのは疲れるし、理性が飛ぶのはプライドが許さないから嫌だ。
率直に言うと、懇願するのも縋るように抱きつくのも相手がシュバルツなだけに恥ずかしいし、お断りなのだ。
無意識に縋った事もなくはないが、出来るだけ回避したい。

(絶対に自ら望んではしてやらない!)

そうして辛うじて一線は守ったと思いつつ、煽るためとは言え最初に自分の方から好きなだけしろと言ってしまった手前文句も言い難く不満気に押し黙ることしかできない。

「ロイド…きっと釣り合う男になってみせるから…クレイより私を見てくれ…」

事後、そうやって切なく名を呼ばれながら見当違いの事を口にされ包み込むように抱き締められたのだが、結局応えてやるのが癪でそのまま無言で眠りについた。


***


「ひぁッ!」

ビクビクと何度も腕の中で身悶えるロイドがなんだかいつも以上に愛しく感じられて、そのどこか切羽詰まったような眼差しを熱く見つめ返す。
いつもより長時間愛でたからか、感じすぎてうっすらと目に涙を滲ませていたのが印象的だった。
これは最初の時以来ではないだろうか?
けれど普段プライドの塊のようなロイドがこんな姿を見せてくれるのがたまらなく思えて、もっともっとと欲が出てしまう。

「ふ…うぅ…ッ」

途中途中必死に声を抑えようとする姿がいじらしくて……。

「はッ…あぁッ!」

感じるところを突き上げても意地でもこちらに縋るものかと潤む目で睨み付けてくる姿にそそられる。

(ああ…なんて可愛いんだろう……)

これを可愛いと感じる自分はおかしいのだろうか?
普段のカッコいいロイドも、閨で艶やかに誘ってくるロイドも、こうして時間と共に理性と戦うロイドも、全部全部丸ごと愛おしく感じられて何とか自分だけのものにしたいという独占欲が頭をもたげてしまう。

「ロイド…きっと釣り合う男になってみせるから…クレイより私を見てくれ……」

少しやり過ぎたかなと反省しつつ、少しでも気持ちが伝わってほしいと思いながらそのままロイドを腕の中に閉じ込めて眠りについた。




そして翌朝目を覚ますと物凄く不機嫌そうなロイドに悪態を吐かれた。

「最悪だ!」

どうやらかなり怒らせてしまったらしい。

「ロ…ロイド!悪かった!」
「うるさい。さっさと回復魔法を掛けろ。動けないだろう?」

どうやら昨夜は無理をさせ過ぎたらしく、これじゃあ仕事に行けないと文句を言われてしまった。

「本当に白魔道士はたちが悪いな!」

どうやら怒りはなかなか収まらないらしく、朝食の時も辛辣な言葉は止まなかった。
こればかりは本当に自分が悪いし、何も申し開きできそうにない。
そしてロイドはこちらをちらりと見た後で、吐き捨てるように言った。

「こんなにされるのは月に一回で十分だ!それ以外は絶対に私からは誘わないからな!」

フンッ!と言わんばかりにロイドは席を立ち、そのまま勢いよく仕事へと行ってしまう。

「はぁ……」

嫉妬していたからと言ってあそこまで怒らせてしまったのは失敗だった。
これではこれまでよりも最悪の状況になってしまったと言えるのではないだろうか?
もうこうなったら変に意固地にならず、ロックウェル達に相談すべきだろうか?
そう思い、昼に思い切って連絡を取ってみたのだが────。

「やったなシュバルツ!」

何故かロックウェルの隣にいたクレイから、おめでとうと言う見当違いの言葉が返ってきてイラッとしてしまった。
隣にいるロックウェルもそれには不可解そうだ。
今の話でどこをどう取ればおめでとうなのかさっぱりわからない。
けれどクレイは何でもないことの様にその意図を告げてくる。

「え?だって、月一で満足いくくらいロイドを満足させたんだろう?凄いじゃないか。後は口説きたい放題だな。失敗しても月に一度は絶対ロイドの方から誘ってくれるから安心だし、これでいい方向に進めるぞ!」

凄い凄いとクレイは言うが、ロイドのあの様子では全くそんな風には思えないのだが……。
けれどそんなやり取りをしているところに急に背後からロイドの声が響いた。

「クレイ。無駄だぞ?このお子様は言ってもわからないからな」
「そうなのか?」
「ああ。もうどうやって躾けてやろうかイライラしているくらいだ」
「ははっ!ロイドはわかりやすいのにな。それならそれで、そのままストレートに『ずっと傍に居ていい』と言ってやればいいのに」
「ふんっ。ペットは主人の隣に居て当然だろう?わざわざ言うまでもない」
「勝手にどこかに行ったら探しに行ってやるくらいには想ってやってるんだろう?」
「まあな」
「シュバルツは鈍いんだから、ちゃんと言葉にして伝えてやればいいのに」
「私がそんなことをわざわざ言ってやる義理はない」

そんなやり取りに思考がついて行かない。
黒魔道士同士のやり取りは相変わらず不可解だ。
この場合ペットと言うのは自分の事なのだろうか?
正直そんな扱いは嫌だと思いながら一応ペットの返上を主張してみるが、それに対しクレイは苦笑し、ロイドは眉を顰めるばかり。
二人からはただのたとえ話だと言い切られてしまう。

(本当に?)

そうやって首を傾げていると何故かロイドからクシャリと頭を撫でられ、あっさりと魔法を解除されてそのまま優しく唇を奪われた。
それと共に自分へと言葉が向けられる。

「ペットを返上したいなら、まずは私と話すことからやってみろ」

どうやらそれ自体がここに来てから会話を持とうとしなかった自分への忠告のようだった。
確かにこれではペットと変わらなかったかもしれない。

「う…ちゃんと今日からはロイドと話すし…積極的に口説きに行く!」

ちゃんと向き合ってロイドをこの手に摑まえたい。
だから努力は惜しまない。
そんな風に真っ直ぐに伝えた自分に、ロイドが珍しく満足げな笑みを浮かべた。

「お前のお子様返上に期待している」

(あれ?)

クレイと話したせいなのか、いつの間にやら朝の怒りは収まりロイドの機嫌は直ったようだ。
そんな姿にやはり嫉妬は隠せないけれど、いつかロイドの恋人として堂々と隣に立てるようになってやると誓いながら、自分もまた微笑みを返したのだった────。



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