黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第二部 ソレーユ編~失くした恋の行方~

17.※勘違い

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「ミシェル様。本日はこちらをお持ちいたしました」

そう言いながら目の前に出されたのはやはり思った通りの張り型だった。
まさかこれからそんなものを中に挿れられるなんてと泣きたくなる。
昨日の事は夢だと思い込みたかったのだが、目の前の現実から目を逸らすこともできない。
アルバートからすれば主の望みを叶えたというただそれだけの事なのだ。
良く取れば純粋な好意もしくは忠誠心なのだろうが、そこには自分の欲しい愛情などというものは一切含まれていない。
そんな事実にまた胸がズキッと痛む。

「アル…怖いからいきなりはやめてくれないか?」

せめていつもの様に可愛がって欲しくてそう口にすると、アルバートは少し虚を突かれたような顔をした後ふわりと優しく微笑みチュッと口づけてくれた。

(え?)

そうして驚いていると、アルバートがそっと抱き寄せてくれる。

(温かい……)

この腕の中にいるのは至福の時だと思わずうっとりとしていると、そのまま抱き上げられてゆっくりとベッドの上へと下ろされてしまった。
一体何がと内心パニックになってしまうが、アルバートはそっと添い寝をするかのように自分の隣へと横になった。

「アル?」

そうしてバクバクと弾む胸を押さえながらアルバートの方を見遣ると、そこには変わらぬ笑みを浮かべるアルバートの姿があって無駄に期待してしまう自分がいた。
これではまるで自分が望むようにこれから襲ってくれるかのようではないか。
そう思って成り行きを見守っていると、アルバートがそっと耳元に唇を寄せ囁きを落としてくる。

「ミシェル様。どうぞ緊張なさらずいつもの様に私にその身をお委ね下さい」

そんな言葉に思考が溶けていくのを感じた。
大好きなアルバートにそんなセリフを言われて喜ばないわけがない。

「アル……」

だから自分から口づけて、早く…と強請ってしまったのは自分が悪いわけではないと思う。


***


アルバートは宣告通り張り型を用意してミシェルの部屋を訪れた。
これで自分の悪行が許されないだろうかと内心ドキドキしながらミシェルの前に披露したのだが、ミシェルの表情はすぐれなかった。
これはやはり叱責されてもう来るなと言われるのだろうかとそう思ったところで、ミシェルの口から酷く心細そうな言葉がこぼれ落ち思わず耳を疑ってしまう。

「アル…怖いからいきなりはやめてくれないか?」

その言葉はとても初々しいもので、その姿はまるで初夜を控えた娘のような反応そのものだ。
これはもしやバレたというわけではなく、純粋にこれまでの行為に物足りなさを覚えてあのセリフを紡いでしまっただけというパターンだったのではとやっと思い至った。

(ミシェル様…申し訳ありません……)

後ろ暗いことをしていた故の勘違いでこの純粋な人に張り型を入れる羽目に陥ったなんて口が裂けても言えない。
あの時、素直にちゃんと話を聞いて『おかしいのは貴方ではなく自分だから安心していい。これからは気をつけますので』と宥めて言えばよかっただけの話だったのだ。
そうすればこんな事態にはならなかったと言うのに……。

正直今からでもやめればいいとは思う。
怖いと言っているし、言ってみれば今夜はミシェルにとっての初夜のようなもの。
無理に実行に移す必要はない。
けれど────ミシェルの初めては自分が勝手にもらってしまったけれど、あの時見ることが叶わなかったミシェルの可愛い姿を見ることができるかもしれない。
そう考えるとこのまま流れに身を任せるのも悪くないかもしれないと思い直した。

(仕切り直しだな…)

ミシェルにそのつもりはなくとも、今夜自分がミシェルの初めてをもらうのだ。
せめて今夜だけは甘い恋人のような空気の中、優しく初めてを奪ってやりたい。
ミシェルが望むままに、指で届かない奥まで満足させてやりたいと思った。

怯えさせないように優しくキスを落として、そっと抱き込んでやると緊張していたその体からフッと力が抜けるのを感じた。

(可愛い……)

主に対して不敬だとは思うが、これまでの姿からミシェルを愛しく感じる想いは膨らむばかりで、誰が何と言おうとミシェルは可愛いの一言に尽きた。
ミシェルは綺麗なだけの人形ではない。
どこまでも可愛い自分の大切な人────。

そんな人の初めてをもらうのだから怖がらせないようそっとベッドへと運び、安心させるように自分も一緒に横になった。
いつもはベッドの縁に座らせて気づけばミシェルだけが後ろに倒れ込むように横になっているのだが、今日は初めて二人で寝台に上がった形だ。
広い寝台は男二人が横になってもまだ人が二人寝れるほどの余裕がある広さ。
そこに上がる勇気がこれまでなかったけれど、こうして隣に寝ても怒られないのならこれはミシェルの怒りを買うことのない行為だと言っていいのだろう。

「アル?」

こちらに向けられるミシェルの言葉の中に怒りの感情が含まれていないのがその証拠だ。
けれど不安そうなのは相変わらずのようだったので、ちゃんと緊張が解けるように甘く言葉を落とした。

「ミシェル様。どうぞ緊張なさらずいつもの様に私にその身をお委ね下さい」

その言葉にミシェルはカッと頬を染め、名を呼びながら口づけてくれ、『早く…』と強請ってくれた。
その時の気持ちをどう表したらいいのだろう?
まるで気持ちに応えてもらったように思った自分は悪くないと思う。
これでは初めてをもらってほしいと言われたようなものだ。

「はぁ…ミシェル様……」

思わず誘われるままに熱のこもった眼差しでミシェルを見つめ、そのまま熱く口づけを交わしてしまう。
ともすれば「愛しています」と口にしてしまいそうになるのを懸命にこらえ、「お慕いしております」と思いの丈を伝えた。
当然だがミシェルはその言葉に一度も応えてくれたことはない。
けれどこんな風に受け入れ態勢を取ってくれるのなら望みはあるはずだ。

本音を言えば抱きたい。
ずっと恋い焦がれたこの人をこのまま愛し尽くしたい。
このまま一息に襲ってしまってはいけないだろうか?
ミシェルが認識する『初めて』が自分ではダメだろうか?

けれどその想いのままに口づけからそのまま項へと口づけ、思い切り吸い上げたところでハッと我に返った。
陶器のように美しいミシェルの肌に鬱血痕が残ったのを見て、これは『ダメ』だと思った。
自分達がやってきた行為は恋人達のそれではない。
自分達はあくまでも主従で、これは元々ミシェルの性欲処理のための行為であり、自分が勝手に暴走することなど許されないのだ。
こんな風に主人に所有痕を残すなど以ての外だ。
そうして動きを止めた自分に、ミシェルが戸惑うように声を掛けてくる。

「アル…?」
「……ミシェル様。申し訳ございません。貴方の尊い身に痕をつけてしまいました……」

けれどそんな風に沈む自分にミシェルはふわりと笑ってくれた。

「ん…アルになら何をされても大丈夫だ。はぁ…ッ。気にせず可愛がってくれないか?」

そんな優しい言葉に胸が熱くなってしまう。
ミシェルは本当にどこまで純粋で優しいのだろう?
どこまでも自分を信じきったその姿が今の自分には眩し過ぎた。
こんな心の綺麗な人を自分などで穢してしまうわけにはいかないと改めて身を引き締め、これまでの行いを後悔してしまう。
自分は心を入れ替え、もっと騎士としてミシェルに忠義を尽くすべきなのだ。
こんな素晴らしい主が持てて幸せだと思わなければならない。

「ミシェル様。誠心誠意心を込めてお慰めさせていただきます」

そして驚くミシェルの下穿きだけを緩め、いつもの様にそこを手で可愛がり始めた。

「あっ…!」

最初は半立ちだったそこを緩々と可愛がると、たちまち元気よく立ち上げてしまう。

「は…はぁん……」

可愛い声がすぐ横で聞けるのが新鮮で、その蕩けた顔にそそられてしまった。

「あ…アルぅ……」

そのまま抱きつき口づけを交わしてくるミシェルが可愛すぎるのだが、これは大丈夫なのだろうか?
けれどふわりと香るミシェルの香りに包まれて、このままでは理性が飛んでしまいそうだと慌てて身を離した。

「ミシェル様。今日も口でお慰めさせてください」

下穿きを全て取り払い両足を持ち上げいつもの様に前と後ろを可愛がり、自分のペースを思い出すようにそちらへと集中する。

「あっんんッ!アルッアルッ…!」

そうして可愛い声を聞きながら後ろをほぐすと、切羽詰まった声でミシェルが訴え始めた。

「はっはぁうッ!アル…イきたいッ!イカせて!」

指を入れたそこがきゅうきゅうと締まり、反り返った前が限界を訴える。
そこでやっと本来の今日の趣旨を思い出しそれを手へと取った。
自分が用意した張り型。
これを今からミシェルに挿れるのだ。

「ミシェル様…すぐに気持ち良くして差し上げますので」

そしてその言葉と共にゆっくりとその張り型をヒクつく中へと挿入してやると、ミシェルが叫びをあげながら身を反らした。

「あ────ッ!」

ズズッと飲みこまれていく張り型を見ながら、これが自分だといいのにという思いに知らず駆られてしまう。
必死に敷き布に爪を立てビクビクと身を震わせるミシェルの姿は卑猥ではあるが、どこまでも綺麗だった。

「あ…あぅう…っ」

身を強張らせるミシェルを宥める為、そっと抱きしめるように身を寄せ唇を重ねてやる。

「あ…あぁ……」

それと同時に少し体のこわばりが解けてふっと力が抜けたのでそのまま一気に奥まで押し込んだ。

「あんっ…!」

腕の中でミシェルがビクッと震える。
荒い息で自分を見つめる。

「アル…入っ…た?」

そう尋ねられたものがどうして自分のものではないのだろう?
この表情を引き出すのが自分のものであれば良かった。
この言葉が自分に向けられたものであれば良かった。
そうしたら自分の身でミシェルを存分に愛してやることができたのに……。
けれど今のこの関係でそれを望むのが間違っているのだとわかっているから……全てを飲みこみ笑顔で応えた。

「全部入りましたよ。馴染んでから動かしますので、どうぞご心配なさらず」

そんな自分にミシェルはスリッと身を寄せ、その綺麗な瞳に涙を滲ませながら少しだけこうさせてくれと言ってそっと抱きついてくる。
愛しい愛しい自分の主人。
ただの戯れでいい。
こうして夜に呼ばれるのがずっと自分であればいい。
可愛い声も乱れる姿も自分だけが知っておきたい。

「ミシェル様。どんな貴方もお慕いしております」

そうしてゆっくりと馴染んだ張り型を動かし始めた。

「あ…あぁあッ!怖いッ!アルッ!」
「大丈夫です。私がついております。ミシェル様はただ感じてください」
「んんッ!やっ…!」
「後ろが怖いならこちらに集中なさってください」
「やだぁ…!アルッ、アルッ!」

泣きながら首を振るミシェルが可哀想で、これでは気持ちよくないだろうと再度前を口に含んでやり、ミシェルが好きな先端を舌でグリグリとこじ開けてやる。

「あっ!あぅうッ!」

すると気持ち良いのか少し強張りが緩んだ。

「は…はぅう…。いい…」

それを見てホッと安堵し、そこを重点的に攻めながら後ろは優しく動かしてやった。

「あ…ん…っ!」
「ミシェル様…」

反応を見ながらそうして暫く可愛がっていると、ミシェルの反応に変化が見られ始める。

「は…あぁ…中、気持ちいい…」
「慣れてきましたか?」
「ん……」

コクリと素直に頷かれて良かったと息を吐いた。
これでまたミシェルを満足させてやれる。

自分の立場が弱いとわかっているだけに、嫌われないよう細心の注意を払わなければならない。
ミシェルの反応を見て望まれるままに与え続けることこそ、この関係を続けていくために重要なことなのだ。

(前がお好きだから、そちらの道具も用意しておくか…)

抱けないのは仕方がないが、出来ることは全てやってやりたかった。
ミシェルをどこまでも満足させてやることこそ自分の使命。
そうやって思った事が後に悲惨な結果を生むとは思いもせずに、アルバートはただただミシェルを満足させ続けた。





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