176 / 264
第二部 ソレーユ編~失くした恋の行方~
16.恋模様
しおりを挟む
※このお話は第一部『43.王子ルドルフ~47.夜会での襲撃』と『55.手紙』とリンクしております。
────────────────
シリィが使者としてアストラスに来た事はライアードにとって非常に嬉しいことだった。
ひと月程前にアストラスの王宮で会ったばかりだと言うのに、心が弾んでしまう。
あの時ロックウェルを探しに来たシリィの姿を一目見て、嬉しい気持ちが湧きおこるのを感じた。
彼女が自分の前に居て、逃げることなく自分をまた見つめてくれたのが純粋に嬉しかった。
それからちゃんと謝罪もして少し話もできた。
話してみると婚約していた時と同様の卒ない受け答えが返ってきたから、やはり女性とはこういうものなのだろうかと思った。
けれどその後クレイと話しているシリィは少し様子が違うのが見てとれて、自分がいかに本当のシリィを知らなかったのかを思い知った。
「ええぇええっ?!」
こんなに驚いたシリィの姿を見たことがなかった。
「し…仕事?そ、そうね。お仕事なら…あり…なのかしら?」
クレイの言葉で目をグルグル回している姿が新鮮に映った。
「相変わらずシリィは面白いな」
「ど、どうせ可愛くはないわよ!」
「…?十分可愛いと思うが?」
「~~~~っ!!」
こんな風に面白いと言われ反論するシリィも、可愛いと言われて照れるシリィも自分は全く想像もしたことがなかったのだ。
婚約時に自分が口先で褒めていた時はもしや本気にとられていなかったと言うことなのだろうか?
それほどクレイの前では全く反応が違って見えて、正直こんな彼女と自分も話してみたいなと思った。
だからダンスにも思い切って誘ってみたのだ。
そうでもなければ謝罪を終えた元婚約者に公の場で声を掛けるわけがない。
自分の知らないシリィの姿をもっと知って、上っ面の彼女ではなく、等身大の彼女を知ってみたいと思った。
だからその後もソレーユに滞在することになったクレイに彼女の話を聞かせてもらった。
クレイの口から語られるシリィの姿はやはり自分の知るシリィとは大きく違っていて、興味ばかりが募っていく。
「シリィはからかうと面白い反応が返ってくるから子供っぽいと思うかもしれないが、ああ見えてロックウェルの補佐をきびきびとこなす優秀な白魔道士なんだ。姉が官吏だからか政や国の情勢なんかにも意外に精通しているみたいだし、魔法の話ができなくてもライアード王子と話が弾むこともあるかもしれないな」
そんなことは知らなかった。
女性とは政治の話などしたこともないししようと思ったこともない。
そういうことなら一度ちゃんと会って話してみたい。
その機会が欲しい。
そう願っていたところで、クレイを迎えに来るという名目でシリィがソレーユへとやってきたのだ。
喜ばないわけがなかった。
とは言えシリィは仕事でここまで来たのだ。
いきなりプライベートな話に持ち込むことなどできはしない。
だからまずそちらを片付けてしまおうと思った。
クレイに会ったシリィは心配していたのだと涙を浮かべていた。
それはそうだろう。
クレイがソレーユに来たのはいきなりだったし、事情もよくわからぬままアストラスに帰ってこなくなったのだから。
自分もロイドから聞くまで詳細は知らなかったが、内密にしていたクレイの素性が父親であるアストラス王にばれたらしい。
それから幾度も使者が送られてきたが使者が口にする言葉は事情を知らないのだなと察して余りあるものだった。
曰く、『王がその黒魔道士に重要な話がある為、早急に引き渡しをお願いしたい』というものだった。
重要な話と言われても彼に仕事を頼んでいる手前すぐには帰すことができないし、本人も国に帰ることは望んでいない。どうしてもと言うのなら重要度を知りたいので詳細をと言うと気まずそうにして王に聞いてまいりますと引き下がる始末。
中には『重要な話とは内密の依頼事項だと思う』と力説してきた猛者もいたが、それならば他の者に頼めばよい。自分の頼んでいる案件も十分国家機密に関することだから重要だと言ってやるとすぐに黙った。
その程度の事で匿っている相手を易々と引き渡すわけがないではないか。
ただでさえ匿っているのはロイドの想い人だ。
下手に引き渡して王に殺されでもしたら目も当てられない。
それを恨まれてロイドが自分の元から去っていったらどうしてくれるのか。
優秀なお抱え魔道士を失っては自分にとって大きな損害となってしまうではないか。
とは言え今回わざわざクレイと親しいシリィを使者に立てたと言うことは裏があると思えて仕方がなかった。
向こうにはクレイを殺す気はないのだろうか?
そう思って成り行きを見守っていると、やはりと言うかなんと言うか仕事の依頼を絡めて帰って来いと伝えてきた。
アストラスの王宮で大きな動きがあったようだが、恐らくクレイはそれでも動かないだろう。そう思った。
なにせクレイが国に帰りたがらないのは素性がばれたことだけではなく、ロックウェルに捨てられたことが起因しているのだ。
暫く会いたくないしそっとしておいてほしいと言うのが本音だろう。
そして案の定断りの返事を入れたクレイにシリィががっくりと肩を落としたのが見て取れた。
軽く世間話をする二人を見ながら、このまま彼女は帰ってしまうのかと残念に思っていたのだが、そこでそう言えばと言ってシリィは手紙を取り出しクレイへと渡した。
そこからはまさに急展開と言っても良かっただろう。
手紙に目を通すなりクレイの顔色が変わったのだ。
大した説明をすることなく慌てたように『先にアストラスに戻る』と言ってそのまま影を渡り姿を消した。
そこに慌てたようにロイドが駆け込んできて事情を聴くなりすぐに追い掛けていった。
あの男のあれほど焦った姿は見たことがない。
余程の緊急事態でもあったのだろう。
何はともあれシリィは事態について行けず戸惑うばかり。
正直自分にとっては好都合だ。
「シリィ。どうせ詳細はロイドが持ち帰ってくるだろう。それまでゆっくり休んでいくといい」
そう声を掛けるとシリィが自分の方へと視線を向けてくれた。
「…ライアード様」
「クレイからシリィの話もよく聞かせてもらった。私の知らないシリィの話が沢山聞けて楽しかったぞ」
これまでとは違い少しからかうような口調で言ってみると、シリィが焦ったように言葉を返してくれる。
これは先程の事で多少パニックになっているから引き出せた反応だろう。
「ええっ?!ク、クレイはなんて言っていました?おかしなお話ばかり聞かせていたのでは?!」
「いや、シリィは元気があって面白いと……」
「そんなっ…!」
自分が紡いだ言葉に初めて見せてくれる新鮮な反応────それが見れて嬉しくて仕方がなかった。
「以前は知らなかったそんな一面を聞いて、私も見てみたいと思ってしまったな」
「~~~っ!!お見せできません!」
現に今見せてくれていると言うのに、彼女は気づいていないのだろうか?
「ふはっ…!クレイの言は正しいな。からかうと可愛い一面が見られると…」
「えぇっ?!」
正直百面相を見ているようでとても面白かった。
澄ましていない彼女はとても生き生きしていて魅力に溢れていたのだ。
これを知ろうとしなかった過去の自分は本当に馬鹿だったなと思えて仕方がない。
自分は一体彼女の何を見ていたのだろう?
そうして二人の時間を楽しみながら、ライアードはロイドが事の結末を持ち帰るまで暫し戯れの時を過ごした。
***
それから暫くしてロイドが意気消沈しながら一人で戻ってきた。
どうやらクレイはロックウェルとよりを戻してアストラスに帰ることにしたようだ。
それについては詳細には語られなかったものの、ロイドの落ち込みぶりを見れば一目瞭然だった。
(後一歩と言うところだったのにな……)
正直まさかあのロイドをここまで振り回す人間がいるとは思ってもいなかった。
クレイに会えば会うほどのめり込んでいくロイドが見ていて可愛くて仕方がない。
恋とは人をここまで大きく変えるのかと思うほどのロイドの姿についつい観察に力が入ってしまう。
「心配ですし、念のため明日様子を見に行くご許可をお与えください」
「もちろんだ」
以前なら誰かを心配するようなことはなかったと言うのに……。
本当にこの二人の関係は興味深い。
「シリィ。一先ずクレイの方はこれで落ち着くと思う」
結局どうなったのかと心配していたシリィにそう伝えてやると、彼女はホッと安堵の息を吐いた。
「良かったです。これで私も安心してアストラスに帰ることができます」
当然と言えば当然だが、その言葉にもうすぐにでも帰ってしまうんだなと残念に思った。
本当はもっと彼女の色々な面を見てみたかったのだが、如何せん仕事で来ているだけにあまり引き留めることもできないだろう。
「シリィ。帰る前に私にドレスをプレゼントさせてもらえないだろうか?」
だからけじめとして以前の詫びも込めて贈らせてほしいと伝えた。
少しでも繋がりをという気持ちもあっての事だったのだが、それに対しシリィは毅然とした態度でお受けできませんと答えを返した。
「ライアード様がそう仰って下さるお気持ちだけで十分誠意は伝わりました。どうぞもうお気になさらず」
そうして笑った彼女の笑みはとても力強くて、これまで会ったどんな女性よりもずっとずっと綺麗で格好良かった。
正直女性に対して格好良いと思うなんて初めての事で、思わず自然と笑みが浮かんでしまう。
(ああ…自分の目は本当に確かだった)
自分よりもずっと年下の少女ではあるが、こんなに魅力的な女性を前にして惚れるなと言う方がおかしかったのだ。
自分はこれからこのシリィよりも魅力的な女性に出会えるだろうか?
可能性は低い。
けれど自分に見えていない面をきっと誰もが持っているはずだから可能性はゼロではない。
足掻いて足掻いて探せばいい。
ちょうどアストラスでクレイを手懐けたロックウェルの姿を見て、美しい虎を自分も手懐けてみたいと思ったことだし、そういう女性を探すのも手だろう。
それでもダメならまたシリィに会ってみよう。
そうしたら、また違った答えが導き出されるかもしれないのだから────。
「シリィ。また会える日を楽しみにしている」
今度会う時は友人としてだろうか?
それとも恋の相手としてだろうか?
願わくば、彼女とは末永く良好な関係を築いていきたい。
そんな風に前向きに思えた自分が意外ではあったが悪くはないと思った。
こうして自分の恋愛とロイドの恋愛に目を向けている間に、まさか生真面目を地でいく兄が大変なことになっているなど思いもせず、こちらにちょっかいをかけてこないのは兄も恋愛が上手くいっているからだろうと勝手に思い込んでいた。
そんな自分が甘かったと知るのはもっとずっと先の話────。
────────────────
シリィが使者としてアストラスに来た事はライアードにとって非常に嬉しいことだった。
ひと月程前にアストラスの王宮で会ったばかりだと言うのに、心が弾んでしまう。
あの時ロックウェルを探しに来たシリィの姿を一目見て、嬉しい気持ちが湧きおこるのを感じた。
彼女が自分の前に居て、逃げることなく自分をまた見つめてくれたのが純粋に嬉しかった。
それからちゃんと謝罪もして少し話もできた。
話してみると婚約していた時と同様の卒ない受け答えが返ってきたから、やはり女性とはこういうものなのだろうかと思った。
けれどその後クレイと話しているシリィは少し様子が違うのが見てとれて、自分がいかに本当のシリィを知らなかったのかを思い知った。
「ええぇええっ?!」
こんなに驚いたシリィの姿を見たことがなかった。
「し…仕事?そ、そうね。お仕事なら…あり…なのかしら?」
クレイの言葉で目をグルグル回している姿が新鮮に映った。
「相変わらずシリィは面白いな」
「ど、どうせ可愛くはないわよ!」
「…?十分可愛いと思うが?」
「~~~~っ!!」
こんな風に面白いと言われ反論するシリィも、可愛いと言われて照れるシリィも自分は全く想像もしたことがなかったのだ。
婚約時に自分が口先で褒めていた時はもしや本気にとられていなかったと言うことなのだろうか?
それほどクレイの前では全く反応が違って見えて、正直こんな彼女と自分も話してみたいなと思った。
だからダンスにも思い切って誘ってみたのだ。
そうでもなければ謝罪を終えた元婚約者に公の場で声を掛けるわけがない。
自分の知らないシリィの姿をもっと知って、上っ面の彼女ではなく、等身大の彼女を知ってみたいと思った。
だからその後もソレーユに滞在することになったクレイに彼女の話を聞かせてもらった。
クレイの口から語られるシリィの姿はやはり自分の知るシリィとは大きく違っていて、興味ばかりが募っていく。
「シリィはからかうと面白い反応が返ってくるから子供っぽいと思うかもしれないが、ああ見えてロックウェルの補佐をきびきびとこなす優秀な白魔道士なんだ。姉が官吏だからか政や国の情勢なんかにも意外に精通しているみたいだし、魔法の話ができなくてもライアード王子と話が弾むこともあるかもしれないな」
そんなことは知らなかった。
女性とは政治の話などしたこともないししようと思ったこともない。
そういうことなら一度ちゃんと会って話してみたい。
その機会が欲しい。
そう願っていたところで、クレイを迎えに来るという名目でシリィがソレーユへとやってきたのだ。
喜ばないわけがなかった。
とは言えシリィは仕事でここまで来たのだ。
いきなりプライベートな話に持ち込むことなどできはしない。
だからまずそちらを片付けてしまおうと思った。
クレイに会ったシリィは心配していたのだと涙を浮かべていた。
それはそうだろう。
クレイがソレーユに来たのはいきなりだったし、事情もよくわからぬままアストラスに帰ってこなくなったのだから。
自分もロイドから聞くまで詳細は知らなかったが、内密にしていたクレイの素性が父親であるアストラス王にばれたらしい。
それから幾度も使者が送られてきたが使者が口にする言葉は事情を知らないのだなと察して余りあるものだった。
曰く、『王がその黒魔道士に重要な話がある為、早急に引き渡しをお願いしたい』というものだった。
重要な話と言われても彼に仕事を頼んでいる手前すぐには帰すことができないし、本人も国に帰ることは望んでいない。どうしてもと言うのなら重要度を知りたいので詳細をと言うと気まずそうにして王に聞いてまいりますと引き下がる始末。
中には『重要な話とは内密の依頼事項だと思う』と力説してきた猛者もいたが、それならば他の者に頼めばよい。自分の頼んでいる案件も十分国家機密に関することだから重要だと言ってやるとすぐに黙った。
その程度の事で匿っている相手を易々と引き渡すわけがないではないか。
ただでさえ匿っているのはロイドの想い人だ。
下手に引き渡して王に殺されでもしたら目も当てられない。
それを恨まれてロイドが自分の元から去っていったらどうしてくれるのか。
優秀なお抱え魔道士を失っては自分にとって大きな損害となってしまうではないか。
とは言え今回わざわざクレイと親しいシリィを使者に立てたと言うことは裏があると思えて仕方がなかった。
向こうにはクレイを殺す気はないのだろうか?
そう思って成り行きを見守っていると、やはりと言うかなんと言うか仕事の依頼を絡めて帰って来いと伝えてきた。
アストラスの王宮で大きな動きがあったようだが、恐らくクレイはそれでも動かないだろう。そう思った。
なにせクレイが国に帰りたがらないのは素性がばれたことだけではなく、ロックウェルに捨てられたことが起因しているのだ。
暫く会いたくないしそっとしておいてほしいと言うのが本音だろう。
そして案の定断りの返事を入れたクレイにシリィががっくりと肩を落としたのが見て取れた。
軽く世間話をする二人を見ながら、このまま彼女は帰ってしまうのかと残念に思っていたのだが、そこでそう言えばと言ってシリィは手紙を取り出しクレイへと渡した。
そこからはまさに急展開と言っても良かっただろう。
手紙に目を通すなりクレイの顔色が変わったのだ。
大した説明をすることなく慌てたように『先にアストラスに戻る』と言ってそのまま影を渡り姿を消した。
そこに慌てたようにロイドが駆け込んできて事情を聴くなりすぐに追い掛けていった。
あの男のあれほど焦った姿は見たことがない。
余程の緊急事態でもあったのだろう。
何はともあれシリィは事態について行けず戸惑うばかり。
正直自分にとっては好都合だ。
「シリィ。どうせ詳細はロイドが持ち帰ってくるだろう。それまでゆっくり休んでいくといい」
そう声を掛けるとシリィが自分の方へと視線を向けてくれた。
「…ライアード様」
「クレイからシリィの話もよく聞かせてもらった。私の知らないシリィの話が沢山聞けて楽しかったぞ」
これまでとは違い少しからかうような口調で言ってみると、シリィが焦ったように言葉を返してくれる。
これは先程の事で多少パニックになっているから引き出せた反応だろう。
「ええっ?!ク、クレイはなんて言っていました?おかしなお話ばかり聞かせていたのでは?!」
「いや、シリィは元気があって面白いと……」
「そんなっ…!」
自分が紡いだ言葉に初めて見せてくれる新鮮な反応────それが見れて嬉しくて仕方がなかった。
「以前は知らなかったそんな一面を聞いて、私も見てみたいと思ってしまったな」
「~~~っ!!お見せできません!」
現に今見せてくれていると言うのに、彼女は気づいていないのだろうか?
「ふはっ…!クレイの言は正しいな。からかうと可愛い一面が見られると…」
「えぇっ?!」
正直百面相を見ているようでとても面白かった。
澄ましていない彼女はとても生き生きしていて魅力に溢れていたのだ。
これを知ろうとしなかった過去の自分は本当に馬鹿だったなと思えて仕方がない。
自分は一体彼女の何を見ていたのだろう?
そうして二人の時間を楽しみながら、ライアードはロイドが事の結末を持ち帰るまで暫し戯れの時を過ごした。
***
それから暫くしてロイドが意気消沈しながら一人で戻ってきた。
どうやらクレイはロックウェルとよりを戻してアストラスに帰ることにしたようだ。
それについては詳細には語られなかったものの、ロイドの落ち込みぶりを見れば一目瞭然だった。
(後一歩と言うところだったのにな……)
正直まさかあのロイドをここまで振り回す人間がいるとは思ってもいなかった。
クレイに会えば会うほどのめり込んでいくロイドが見ていて可愛くて仕方がない。
恋とは人をここまで大きく変えるのかと思うほどのロイドの姿についつい観察に力が入ってしまう。
「心配ですし、念のため明日様子を見に行くご許可をお与えください」
「もちろんだ」
以前なら誰かを心配するようなことはなかったと言うのに……。
本当にこの二人の関係は興味深い。
「シリィ。一先ずクレイの方はこれで落ち着くと思う」
結局どうなったのかと心配していたシリィにそう伝えてやると、彼女はホッと安堵の息を吐いた。
「良かったです。これで私も安心してアストラスに帰ることができます」
当然と言えば当然だが、その言葉にもうすぐにでも帰ってしまうんだなと残念に思った。
本当はもっと彼女の色々な面を見てみたかったのだが、如何せん仕事で来ているだけにあまり引き留めることもできないだろう。
「シリィ。帰る前に私にドレスをプレゼントさせてもらえないだろうか?」
だからけじめとして以前の詫びも込めて贈らせてほしいと伝えた。
少しでも繋がりをという気持ちもあっての事だったのだが、それに対しシリィは毅然とした態度でお受けできませんと答えを返した。
「ライアード様がそう仰って下さるお気持ちだけで十分誠意は伝わりました。どうぞもうお気になさらず」
そうして笑った彼女の笑みはとても力強くて、これまで会ったどんな女性よりもずっとずっと綺麗で格好良かった。
正直女性に対して格好良いと思うなんて初めての事で、思わず自然と笑みが浮かんでしまう。
(ああ…自分の目は本当に確かだった)
自分よりもずっと年下の少女ではあるが、こんなに魅力的な女性を前にして惚れるなと言う方がおかしかったのだ。
自分はこれからこのシリィよりも魅力的な女性に出会えるだろうか?
可能性は低い。
けれど自分に見えていない面をきっと誰もが持っているはずだから可能性はゼロではない。
足掻いて足掻いて探せばいい。
ちょうどアストラスでクレイを手懐けたロックウェルの姿を見て、美しい虎を自分も手懐けてみたいと思ったことだし、そういう女性を探すのも手だろう。
それでもダメならまたシリィに会ってみよう。
そうしたら、また違った答えが導き出されるかもしれないのだから────。
「シリィ。また会える日を楽しみにしている」
今度会う時は友人としてだろうか?
それとも恋の相手としてだろうか?
願わくば、彼女とは末永く良好な関係を築いていきたい。
そんな風に前向きに思えた自分が意外ではあったが悪くはないと思った。
こうして自分の恋愛とロイドの恋愛に目を向けている間に、まさか生真面目を地でいく兄が大変なことになっているなど思いもせず、こちらにちょっかいをかけてこないのは兄も恋愛が上手くいっているからだろうと勝手に思い込んでいた。
そんな自分が甘かったと知るのはもっとずっと先の話────。
8
お気に入りに追加
891
あなたにおすすめの小説


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる