黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

150.契機

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選定試験翌日、新たに選ばれた王宮魔道士達が加わり王宮内は俄かに変わり始めた。
全ての部隊を招集し、デスクワークを振り分けると言う名目からこれまで第一部隊所属だった者達も第二第三部隊へと振り分けたのだ。
王やドルト、第一部隊の者達には予め話を通し、約一か月の移行期間を設けることとした。

「第一部隊の王宮魔道士 20名は王宮内で生じた魔道士の仕事と各部署の不正の取り締まりを行う」
「はっ!」
「白魔道士主体の第二部隊 68名は城下の仕事を中心に行いつつ訓練に励むように」
「はっ!」
「黒魔道士主体の第三部隊 62名は地方の仕事を中心に行いつつ訓練に励むように」
「はっ!」
「デスクワークが新たに加わったことによって混乱も生じるだろうが、元第一部隊の者達は皆優秀だ。上手く回してくれると信じている」
「はっ!」


そうして朝から通達を出したところで次いでルドルフの元へと向かう。
昨日ルドルフ達が襲われたことを口実に、他の候補者達を一まとめに諦めさせるため一堂に会すと言う話を聞いていたからだ。
何事もなければいいが、万が一ということもあるし護衛は必要だろう。
そう思って出向いたのだが、その場にはルドルフとサシェに加えて王とドルト、候補者達と王妃の姿があった。
それよりも何よりも何故かそこにクレイの姿があり少々驚いた。
護衛の為に呼ばれていたのだろうか?

「陛下。これは一体どういうことです?私はルドルフに良かれと思って花嫁候補を御用意いたしましたのに…」

どうやらまだ集まったばかりだったようで王妃が一体どういうことだと口を開く。

「どうもこうもない。昨日そこの花嫁候補の内の一人がルドルフを傷つけようと襲ったと言う話を聞いただろう?」
「……それは聞きましたわ。けれどあの者は見込み違いだっただけの事。私のルドルフを害そうとするなど…極刑にしていただきたいくらいですわ」

非常に不快そうにそう答えた王妃にルドルフが何か言おうとするが、そこをサシェがそっと差し止めた。

「ルドルフ様。どうぞご冷静に」
「だがサシェ…」
「大丈夫でございます」

そうやって花のように美しく微笑むサシェに、ルドルフは柔らかな笑みを浮かべる。

「…さすがは王宮一の才媛サシェ=ラーク。上手くルドルフに取り入ったようね。けれどそなたは魔力を有してはいないでしょう?私は魔力のない者をルドルフの相手と認めるつもりはないのよ?潔く身を引いてちょうだい」

王妃が牽制するようにそう口を開くが、サシェはまるで気にしていないかのように華やかに微笑んだ。

「王妃様。お忘れでございますか?私の妹のシリィは第一部隊に所属が許されるほどとても優秀な白魔道士でございます。それにラーク家は代々強大な魔力を持った者を多く輩出する家柄。私自身に魔力がないからと侮り、ルドルフ様の花嫁候補から除外されてしまうのは些か早計かと」
「ほう?」
「それに大変失礼ですがルドルフ様はそちらの方々から執拗に追い回され、職務にも影響が出ておられました。本来夫となるルドルフ様を支えるべき花嫁候補の方がそのような愚かな行為を行うこと自体間違っていると考えます」
「…………」
「ルドルフ様はこのことから女魔道士はコリゴリだと仰せでございます。王妃様と致しましてはいかがお考えでしょうか?」
「……それは」
「私としましては花嫁候補はルドルフ様にご相談の上、お支えできる女人を一から選定し直す方が望ましいかと」

サシェから柔らかな笑みで提案され、王妃は何も言えなくなってしまった。
そんな王妃にルドルフがそっと口を開く。

「母上の御好意は非常に有難く思っておりますが、私と致しましてはどうしてもそこの魔道士達よりもサシェの方が何倍も妻に相応しいと考えてしまいます。どうぞご理解ください」
「…ルドルフ」

その言葉に王妃は残念そうにはしたが、それ以上は何も言わなかった。
どうやら思うところがあったらしい。
そのまま毅然と背を伸ばし、候補者達へと声を掛ける。

「帰ります」

けれど候補者達はどうにも納得がいかないようで、王妃へと訴え始めた。

「そんな…王妃様!」
「ここまで来て諦めろと仰るのですか?」
「……すべては自分達の蒔いた種。己を振り返って反省なさい」
「そんな…!あんまりでございます!」
「王妃様!」

そんな声にも一切怯むことなく王妃は自室へと帰っていく。
後に残された候補者達は愕然としながらその場へとへたり込んだ。
けれどそのうちの一人が突如バッとクレイの方へと向き直り、声を上げた。

「それならクレイ!貴方でいいわ!ルドルフ様の代わりに私と結婚して頂戴!」
「……は?」
「貴方も王の血を引く者でしょう?!そこのロックウェル様とではなく、私と結婚して子を為してちょうだい!」
「お断りだ」

明後日の方向に飛び火した事態にロックウェルはクレイの方へと向かおうとしたが、それよりも早く女がクレイの方へと走り寄った。
ギュッと胸を押し付けているのが腹立たしい。

「ね?いいでしょう?花嫁修業で閨だって完璧なのよ?絶対に後悔させないから!」

男にはない良さが女にはあるからと堂々と言い放つ女に、けれどクレイははっきりと告げた。

「悪いがロックウェル程相性抜群の相手はいないし、ロックウェル程俺を満足させてくれる相手もいない。他を当たってくれ」
「~~~~っ!どうして?私じゃ物足りないとでも?試してみないとわからないでしょう?」
「ふぅん?そこまで言うなら試してやろうか?」

そう言って黒魔道士然として妖しく笑いながら女の腰を抱き寄せて、クレイはそのまま女へと口づけた。
そんなクレイに初めでこそしてやったりと言う顔をした女だったが、どうやら魔力も送りこまれたのかあっという間にトロリとした顔になって、そのまままるでイッてしまったかのように真っ赤になりながら身を震わせへなへなとへたり込んでしまった。

「お前ごときに俺を満足させられるわけがないだろう?せめてロイドクラスになってからそういうセリフを口にするんだな」

はっきり言ってまさかクレイが問答無用でこんな行動をするとは思っていなかったのだが…。

【おやおや。クレイ様は随分腹を立てられたご様子。すっかりスイッチが入ってしまわれましたね】
「……え?」

どうやら大した面識もないのに自分達の間に無理やり割り込もうとしたのが気に入らなかったらしい。

【ロイドにも初めはそうだったでしょう?】

すっかり忘れていたが確かにヒュースの言葉通り、言われてみればクレイは親しい相手以外には昔からこういう感じだった。
ファルの元にいた頃も、他の魔道士達から何故あんな偉そうな奴と仲良くするんだとか、こんなひどいことを言われた等愚痴を溢されたことも一度や二度ではない。
ある種の人見知りとも言えるのだが、そこにはクレイ的線引きがあって、そこに入れた者にしか優しくないのがクレイだった。
最近はこんな姿を見ることもなくなってはいたが、それは単に親しい相手がここで増えたからだけだったのかと思い至る。

【まあ、あの状態が続くのもこの場では良くないでしょうし…。ロックウェル様。さっさといつものクレイ様にお戻しになって差し上げてください】

そんな言葉にクレイの方を見ると、ドSな表情を浮かべながら女へと一歩歩み寄っているのが目に映った。
確かにこのままでは問題を起こしそうだ。

「クレイ!」
「え?」

すぐさま駆け寄りチュッと軽く口づけてやると、ハッと我に返ってそっと頬を染めたのでホッと安堵の息を吐く。

「クレイ?軽々しく他の誰かに口づけるなと言っているだろう?」

そのまま自分だけを見てくれるように囲い込み、余所見をする暇など与えてやらない。

「え?あ…すまなかった」
「わかればいい」

そして口直しにそっと魔力を交流しながら口づけてやるとうっとりとしながら身を任せてきたので、そのままクレイを酔わせながら足元で腰を抜かしていた女に下がれと手で示してやる。

「はぁ…」

最近魔力交流をあまりしていなかったせいか、クレイはやけに満足気にしながらそっと身を離した。

「やっぱりお前と交流するの…好き……」

クレイは恐らくもう周囲が全く見えていないだろう。
本当に自分しか見ていないのがよくわかる。
それは嬉しくはあるが、正直他の者達は困っているはずだ。

「わかったから先に執務室に行っていてくれるか?私はここを収拾してから行くから」
「…わかった」

そうしてクレイはそのまま素直に影渡りで姿を消した。
それを確認後王へと向き直り、謝罪の言葉を口にし頭を下げる。
さすがに親の前で息子の唇を奪ってしまったのは申し訳なかったかもしれないと思ったからなのだが…。

「…大変申し訳ございません」
「いや。正直お前が猛獣使いのように見えて仕方がなかったぞ。よくぞ止めてくれた」
「ロックウェル様。息子が本当に申し訳ない。私の方からもどうか謝らせていただきたい」

どうやら二人とも全く怒ってはいないらしい。

「ああやって見るとクレイは本当に黒魔道士なのだと実感しますね」
「そうだな。いつもの不遜な態度に磨きがかかったようで思わず固まってしまった」

そんな二人にロックウェルは困ったように笑うことしかできない。

「クレイはクレイです」

どちらかといえば最近のクレイの姿の方がずっとクレイらしいとは思うが、確かに先程の姿もクレイの一部。
それを忘れないようにしなければと気を引き締める。

「ではそこの魔道士達を引き取らせていただきますので、陛下とドルト殿はルドルフ様の方を宜しくお願い致します」
「ああ。勿論だ」
「ロックウェル様。宜しくお願い致します。あと…クレイにお伝え頂きたいのですが……」

そう言って申し訳なさそうにドルトがその話をしてくれる。

「クレイがレイン家の者だと言う話が流布されつつあります。不穏な輩の姿も見受けられますので、暫くは気を付けるように…と」
「かしこまりました」

そしてドルト達を見送るとロックウェルはそのまま候補者の女達へと向き直り、冷たく言い放った。

「さて…大人しくついてきてもらおうか」

こうしてルドルフの結婚問題については一応の幕引きとなったのだった────。


***


「クレイ!」

シリィが執務室へと戻ってきたクレイへと声を掛ける。

「姉様は大丈夫だった?」

心配だからついていてあげてほしいとシリィから頼まれてルドルフ達に同席したのだが、特に問題はなかったと答えを返す。

「サシェはちゃんと一人で堂々と王妃に意見をして黙らせていたぞ?」
「そう。良かった」

ホッと安堵したように微笑むシリィにクレイも穏やかに微笑むが、そこでハッと我に返った。
あまりにも見事にサシェが事を収めたので失念していたが、そう言えばあそこには王とドルトもいたのではなかっただろうか?
つい先程の女魔道士達との一件を思い出して思わず蒼白になってしまう。
ルドルフ達とロックウェルだけなら然程問題ではなかったかもしれないが、あの二人の前であんなことをしてしまったのはまずかったのではないだろうか?

(……しまった)

うっかりロックウェルと魔力交流までしてしまったし、はっきり言って最終的にロックウェルしか見ていなかった自分が恥ずかしくて仕方がない。

「うぅ…情けない。ロックウェルに嵌りすぎている自分が嫌だ……」

そうやって撃沈した自分にシリィがクスクスと笑う。

「クレイは本当にロックウェル様が大好きね。でもよかったわ。封印が解けたばかりの頃は本当に辛そうだったもの」

最初の二人を知っているシリィからすれば、今の幸せそうな二人の関係は本当に奇跡のようなものに見えるのだろう。

「私は確かにクレイが好きだったし、失恋して悲しかったけど…二人が幸せになってくれるのは本当に嬉しいと思ってるのよ?」
「シリィ…」
「だからね?ロックウェル様をしっかり捕まえて、余所見させないように繋ぎとめてね?」
「…ああ」

そうやって祝福してくれるシリィに微笑んで、素直に『約束だ』と言う言葉を紡いでいる自分がいた。

「あ~あ。でもこれで姉様もお嫁入りかしら?私もクレイや姉様の後に続きたいわ……」

そうやってぼやくシリィにクレイがクスリと笑う。

「シリィはライアード王子とソレーユでどんなことを話したんだ?」
「え?」
「俺をソレーユまで迎えに来た時、暫く二人で話したんだろう?」
「え…ええ。あの時は確か……」

最初は何を話せばいいのかわからなくてライアードに合わせて受け答えをしていただけだったが、気づけばリラックスして笑い合っていたように思うとシリィは答えた。

「何と言うか…婚約者だった時とは違って随分距離が近く感じられたわね」

堅苦しかったあの頃とは違い、自然と笑みが浮かぶ楽しいひと時だったとシリィは口にする。
それを聞いてクレイもそうかとだけ答えた。

月日は良くも悪くも人を変えていく。
それは人と人との出会いだったり、遭遇した出来事によるものだったりと様々だ。
いつまでも同じということはない。
今回ライアードがアストラスに来ることで二人の関係がまた変化するのは確実だった。
それが再度の婚約という形へと繋がるのか、友情という形で落ち着くのかはまだわからないけれど…。

「シリィはライアード王子に襲われそうになったのに…そんな風に思えるなんて凄いな」
「そう?でもあの時はロックウェル様とクレイが助けてくれたし、どちらかというといざという時に魔法を唱えられなかった未熟な自分に腹が立ってたから…」

あの時ライアードに対して恐怖心があったのは確かだが、シリィはそれよりも自分自身に特に腹が立ったのだとか。
精神的に強くなって、どんな時でも魔法を唱えられるくらいでないとと自主的にそこから特訓もしたらしい。

「私にだってロックウェル様の隣で仕事をこなしている第一部隊の者としてのプライドがあるんですもの」

エリート中のエリートと称される第一部隊で魔道士長を支えるべき自分が、いざという時使い物にならないなんてシャレにもならないとシリィは毅然と言い放つ。
こんなことでへこたれるような自分ではダメなのだと真っ直ぐに立ったシリィは誰よりも綺麗に輝いて見えた。

「シリィは絶対に幸せになれる。俺が保証する」

だから気づけばそんな言葉を口にしていたのかもしれない。
これだけの強さがあればきっと相手が誰であっても幸せになれるはずだ。

「ライアード王子でも、シュバルツでも、まだ見ぬ相手でも…シリィなら大丈夫だ」

そうやってエールを送ったクレイに、シリィは嬉しそうに笑ってくれた。

「もうっ!クレイにそんなこと言われたら泣いちゃうじゃない!」

そうやって涙を滲ませ微笑んだシリィにクレイもふわりと優しく微笑んでいたのだが、そこにシュバルツがやってきてしまう。

「……!クレイ!またシリィを泣かせたのか?!」
「…いや、これは」
「全く!いい加減にしろ!」

そう言いながら自分達を勢いよく引き離し、そっと優しくシリィの肩を抱く。

「シリィ。もうクレイに構うなと言っただろう?」

そうやってシリィは自分が守ると言わんばかりのシュバルツはシリィの前ではやけに男前だ。
これで友人のようなものとはよくも言えたものだと思えて仕方がない。
とは言えロイドの事を語る時のシュバルツの嬉しそうな顔もまた本物なので、どちらに転がるのかは全く分からないというのが正直なところだった。

「はぁ…お前もなんだかんだと罪作りだと俺は思うぞ?」
「はぁあっ?!」

お前には言われたくないと言われながら、シュバルツと今日も大して成果の上がらないお色気修行を続ける。

「…こっちとくっつくのにも三年くらいかかりそうなのに、ロイド相手だと十年くらいかかりそうな気がするな……」

そうやって呟いたクレイに、室内にいた数名の魔道士達もまた深く頷いたのだった。


***


その時、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。
どうぞと第一部隊の者が声を掛けるとそこにはショーンの姿があった。

「すまないがロックウェルはいないか?」

そんな言葉に先程の件を話し、今頃後処理をしている頃ではないかと告げた。
そこにはショーンの部下も含まれているが、こればかりは仕方がないと思っての事だったが、返ってきたのはショーンの笑顔と思いがけない言葉だった。

「そうか。じゃああの二人の離職届がやっと受理されるな」

どうやらショーンは問題が生じて早々その二人の首を切るよう動いていたらしい。

「うちの部署は特殊な部署だからな。まあ優秀な部下の言葉を借りるとしたら…『その場の状況に応じて最も適切な行動を為すのが重要な部署において、あのように欲に目が眩み全く見当違いの行動を起こしてしまう軽率且つ愚鈍な者を置いておくわけにはいかない』というところか?」

けれど離職届を上へ提出はしたものの、それで即首を切れば彼女達が自棄になって暴走してしまうだろうし、やるのなら他部署の候補者達と一緒に一まとめに片付けないと意味がないとドルトが一時預かる形で保留にしていたとのことだった。

「だから今回王妃が諦めてくれたなら、もうあの二人はお役御免で王宮の外に放り出されるだけってことだな」
「……そうなのか」

思いがけない言葉にクレイとしては言葉もない。
こう考えると本当に例えロックウェルが望んできたとしても王宮勤めは自分には無理だなと考えてしまう。
築いた土台があっという間に他者に崩されるのは性に合わないからだ。

「それはそうとクレイ。お前にも話があったんだった」

そう言ってショーンは奥の部屋で少しいいかと断りを入れシュバルツから引き離すと、そのまま本題を切り出してきた。

「実は昨日聞いたスパイ連中の黒幕の事なんだが、それがどうやら厄介そうでな」
「ああ。それなら眷属達も言っていた。だから取り締まりに動いてもらったはずだが?」
「もちろんだ。今はその黒幕が誰と繋がっているのか調査している真っ最中なんだが、実はお前への話というのはその調査中に耳に挟んだことでな…」

そしてそのうちの一人がどうもドルトに突っかかっているようだという話をしてきた。

「不穏な輩と直接関係のないことだからどうかとは思ったんだが、お前の結婚の件でのことだし一応耳に入れておいた方がいいと思ってな」

それによると、突然クレイがレイン家の息子だと言うことが発表されて貴族達に衝撃が走ったということだった。
これまでレイン家には子供はいないというのが周知の事実であった為、クレイが王の子であると知らない者達からすればいきなり大貴族のレイン家当主が魔力が高い黒魔道士を抱えて何やら不穏な動きを見せたと映ったらしい。
確かに言われてみればその通りだった。
加えて法を短期間で改正させてまでその息子と魔道士長を結婚させると言うのだから、何やら裏があるのではないかと勘繰る者も多いのだとか。
王の子であると言うことを元黒魔道士排除派と第一部隊の者以外に伏せていたのが裏目に出た形だ。

「…しまったな」

これでドルトに迷惑をかける羽目になるとは思っても見なかった。
けれどそんなクレイにショーンが何と言うこともない様に口を開く。

「別にいいんじゃないか?お前とロックウェルはどうせもうゴールインだし、このまま何事も起こらなければただの相手方の嫌味で済む。ただ…ドルト殿だけではなくお前にも嫌味を言ってくる輩が現れないとも限らないから、絶対に熱くなるなと言いたくてな」
「………」

ショーンが言うように多分いきなり嫌味をぶつけてこられたら先程同様その者を叩き伏せるべく動いてしまったことだろう。
けれどそれは即ちドルトの立場を揺るがすだけの行いでしかないわけで……。

「わかった。それについては少し考え直したいことがあるから後で直接王へと言ってこようと思う」
「そうか。そう言ってもらえたら嬉しい」

そう言って微笑んだ後、ショーンはロックウェルはまだ帰ってこなさそうだなと言って、また出直してくるからと去っていった。




【クレイ様。行かれるのですか?】

コートがそっと声を掛けてきたのでそっと頷きを返す。

【まあ、ちょうどいい頃合いと言えば頃合いでございます。全てを明らかにすれば小物も大人しくなってくれることでしょう】

バルナもまた背中を押してくれる。

「気は乗らないが…父様に迷惑をかけるのは本意ではないからな」

自分だけに火の粉が降り注ぐなら構いはしないが、敬愛すべき父に迷惑はかけたくない。
そう結論づけるとそのまま黒衣を翻し一気に影を渡った。




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