黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

127.結末

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クレイ達が広間へと向かうとそこには各国の魔道士達が皆揃っていた。
どうやらソレーユの魔道士達はこの後すぐに出立のようで、見送りに来たハインツへと挨拶を交わしている姿が見受けられる。
傍にはシリィの姿もあるから、どうやらフォローも万全のようだ。

「クレイ!」
そんな姿を見遣っていると、ちょうどそこへショーンがグスター達と共にこちらへとやってきた。
その隣にはすっかり憔悴しきったアベルとフローリア、それとシュバルツの姿がある。

「クレイ様。帰国前に今一度お時間を頂けないでしょうか?」

どうか宜しくお願いしますとグスターが深々と頭を下げ、アベル達もそれに倣うように頭を下げた。
そんな彼らにクレイは深く息を吐く。

「グスター殿。昨日も言ったが、俺は許す気はない」

冷たくそれだけを言い放つ自分にグスターは何とか取り成そうと口を開いたが、それを止めるかのようにアベルがククッと笑った。

「無駄だ、グスター。私の魔力はもう戻らん」

「アベル様!」
「クレイ…お前のその魔力は国をも潰す禍でしかない。私がこのまま国へと帰れば父は黙ってはいまい。アストラスとトルテッティは戦争になるぞ?」

それでもいいのかと言ってくるアベルにクレイはクッと昏く笑ってやった。

「馬鹿だな。そんなもの、いくらでも俺が潰してやる」

いっそのことトルテッティ国そのものを滅ぼしてやろうかと言い放ったクレイにグスターが慌てて間に入る。

「アベル様!自棄にならないでください!いくらなんでも挑発が過ぎます!クレイ様も、暴言が過ぎるでしょう。お腹立ちは最もではございますが、どうぞお納めください」

そんな状況を見てショーンとロックウェルは顔を見合わせ、別室で話し合おうと提案してきた。

「コーネリア。済まないがお茶の用意を…」

たまたま近くに控えていたコーネリアにロックウェルがそう指示を出すと、コーネリアはスッと礼を取りすぐにお持ちいたしますと答えて下がっていく。
それを見送るとショーンが皆を別室へと誘導してくれ、一先ず腰を落ち着けた。




「…それで、クレイとしては何か妥協できる点はないのか?」

ロックウェルがまず最初に口火を切ったので、クレイは憮然と答えざるを得ない。

「妥協なんてできるはずがないだろう?俺のことだけならそもそもこんなに怒ってはいない」

今回はロックウェルに手を出したからこれ程許せないのだと、クレイは真っ直ぐにアベルを睨みつけた。
けれどそこでロックウェルはため息をつき、気持ちはわかるがと説得にかかってくる。

「お前は今王子という立場ではなく、一介の黒魔道士だ。国と国の戦争を引き起こす発言を安易にすべきではない」

そう言われ、それは確かにと頷かざるを得ない自分に気がついた。
けれど許せないものは許せないのだ。
そんな自分にショーンが一つの提案をしてくる。

「クレイ…どうだろう?一年、アベル王子達の行いを見て、改心したと判断できたら魔力を返すというのは?」

そんな言葉に場にいた全員の顔が希望に輝いたが、クレイとしては素直に頷くことができない。
あんな目に合わされたのに何故許さなければいけないのか────。
そんな考えがどうしても拭えなかった。
そうして沈黙するクレイにロックウェルがそっと声を掛けようとしたところで、ちょうど部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。




コンコン…。

「失礼します」

入ってきたのはコーネリアではなくリーネだ。
けれどその手には人数分のカップが乗せられている。

「先程コーネリアから頼まれまして、こちらをお持ちいたしました」

どうやらショーンを呼びに来るついでに頼まれたらしい。

「ショーン室長、陛下が呼んでいるとシリィが探しておりましたのでこちらは私に任せてどうぞ行ってきてください」

そんな言葉にショーンが暫し悩んだ様子を見せたが、他の誰でもない陛下の呼び出しなら断ることはできないだろう。
ロックウェルはここは大丈夫だからと言って、そのままショーンを送り出した。
リーネがそっとカップを配し終わったところで席へと着き、話し合いは続けられる。

「……正直俺は一年でアベルを許す気になれるとは思えない」

落ち着くためだろうか?
クレイはそっと紅茶へと口をつけた後で、苦々しげにその言葉を吐き出した。
けれどトルテッティ側が何か言おうとしたところで、突如驚きの表情をした後その場に崩れ落ちてしまう。

「リー…ネ…?」

ガシャーンッ…!

あまりの出来事に場にいた皆がその場から慌てて立ち上がった。
一体何が起こっているのだろう?

「クレイ?!」

対するリーネに視線を向けるが、リーネも何が起こったのか全く分からず蒼白になってクレイへと駆け寄るばかり。

「なっ…何が?!」

オロオロとクレイの様子を確認するリーネを押しのけロックウェルがクレイの状態を確認すると、どうやらクレイは深い眠りについているようだった。
そうして半ばパニックになる面々の元へ、扉が開いてずらりと5人の黒魔道士が姿を見せる。

「誰だ?!」

そんな誰何の声に男達はにやにやと笑いながら結界魔法を唱え、部屋を隔離しに掛かった。

「あんた達に恨みはないんだが…こっちも仕事でね」

そう言いながらあっという間に散開し、拘束魔法を唱え始める。
どうやらかなりの魔道士達らしく、動きは機敏で呪文を唱えるのも早い。
最初に身を守るすべを持たないアベルとフローリアが拘束され、それを守ろうとしたグスターが続いて拘束されてしまった。
リーネは何とか対抗魔法で凌いでいるが数が数だ。あれでは時間の問題だろう。
ここは魔力の高いシュバルツとロックウェルでなんとかする他ないが、如何せんシュバルツは実戦経験が少なかった。

「うわっ…!」

次々に繰り出される魔法を捌ききれず、壁へと叩きつけられそのまま拘束されてしまう。

「シュバルツ殿!」

そしてそちらへと意識を向けた途端、隙を逃さず別の魔道士がロックウェルを拘束しにかかる。

「グッ…!」

辛うじて守護壁を張ったが、すぐにでも別の手立てを考えなければ砕かれてしまうだろう。
ジリジリと五人で追い詰めてくる魔道士達にどう対抗すべきかと考えたところで、眷属達が動いた。
リーネの眷属も動き、戦いへと参戦している。
自分の眷属は二体。リーネの眷属も二体だ。
けれど相手の持つ眷属もなかなかの強さで、これではやはり勝てる気がしなかった。

【やれやれ…私の出番ですかね~】

そんな中、ヒュースの声が響くと同時に場にいた眷属達が皆一息に薙ぎ払われ、何事だと皆が驚きに目を見開いた。

【ロックウェル様を攻撃することはまかりなりません】

ジリッとロックウェルを守るように立ちはだかったヒュースに、黒魔道士達が狼狽えるのを感じる。
どうやらヒュースは眷属の中でもかなりの実力者のようで、相手の眷属達が酷く怯えているようだ。
そんな緊迫した状況で黒魔道士達がギリッと歯噛みし、その言葉を口にした。

「我々の仕事はこの場にいる女を犯すことのみ。その男には手は出さん!大人しく見ていろ!」
「…え?」

国と国の話し合いをしていた我々に、この男達は一体何を言っているのかと思わず思考が停止してしまったのが悪かった。

「キャーッ!!」

黒魔道士がフローリアの拘束を解き、そのまま押し倒したのだ。
見るとリーネの方も必死に抵抗しているが、先程の男の言葉で同じように思考停止している隙に押し倒されたのだろう。
既に服が剥がれかけている。

「やめなさいよ!なんであんた達に犯されないといけないのよ!」
「いやっ!いやぁっ!ロックウェル様!助けて…!」

フローリアが泣き叫びながら服を剥がれていくのを見て、慌ててそちらを助けに行くが、他の男達に立ち塞がられてしまった。

「ク…クレイ!起きてッ!!お願いだから起きてっ!!」

リーネも必死に身を守ろうとクレイを呼ぶが、眠り薬を盛られたクレイは一向に目覚める気配がない。
絶体絶命だと思ったその時、グスターが渾身の力を出しクレイへと解毒魔法を試みた。
それを受けてパァッ…とクレイの身体から薬が抜けていく。

「ん……」

小さく呻き声をあげたクレイに、リーネが叫ぶように助けを求める。

「クレイ!」

そんな悲痛な声にクレイがバッと顔を上げ、一瞬で状況を確認すると、すぐさま立ち上がり呪文を唱え始めた。
防御魔法と攻撃魔法を組み合わせた威力の高い魔法だ。
リーネとフローリアに覆いかぶさっていた男達がバシィ!!と勢いよく吹き飛ばされ、そのまま地へと叩きつけられる。
その後すぐさまロックウェルと対峙していた三人がスルスルと湧き上がった蔦で縛り上げられ、拘束されてしまう。

「…貴様ら。ロックウェルに攻撃するとはいい度胸だな?そのまま火あぶりにしてやろうか?」

そうして壮絶な笑みを浮かべるクレイに、男達は蒼白になりながら震えあがった。

「ひっ…!」
「…こら、クレイ。そんなドSな発言はやめておけ」
「……お前に言われたくはないが?」
「私はお前にしかそんな発言はしないぞ?」
「……それは…嬉しいな」
「そうか。それなら後でいくらでも言ってやろう」

そうして甘い空気を漂わせた二人に、男達が懇願する。

「あ、あんたに逆らう気はない!許してくれ!」

どうやら相手はクレイの名前くらいは聞いたことがあるようで、必死に逃げ道を探しているようだった。

「契約内容は?」
「……この部屋の女を犯してほしいという依頼だ。あんたの恋人に手を出す気はなかったし、傷つける気もなかった!」

そんな言葉にクレイの眉が顰められる。

「…女?リーネとフローリアを犯して誰か得をする者がいるとでも?」

そう口にしたクレイにリーネが声を上げた。

「貴方達!コーネリアから頼まれたんじゃないの?!」

その言葉に男達は渋々ながら頷きを落とす。

「……そうだ」
「あの女!」

リーネが腹立たしげに吐き捨てるように悪態をついた。

「クレイが眠った時におかしいと思ったのよ!きっとその横で私が犯されたらクレイが憐れんでそのまま私と付き合うとでも思ったんじゃないの?!」

同じようにロックウェルはフローリアへと手を差し伸べて、円満に二人を別れさせようとしたに違いないと言い切る。
そんな言葉にクレイの怒りにまた火が灯ったらしい。

「それは聞き捨てならないな」
「全くだ」

どうして皆自分達を別れさせようとするのか────。
正直腹立たしいことこの上ない。




「ロックウェル…一先ずそこのフローリアが落ち着くように見ていてやれ」

リーネは辛うじて悪態をつきながら自分を保ってはいるが、それでも相当怖かったらしく小刻みに身体を震わせていた。

「リーネ。ほら、こっちに来い」

クレイがそっと抱き寄せて『もう大丈夫だ』と声を掛けてやると、その瞳からは案の定ポロリと涙がこぼれ落ちる。

「もう大丈夫だから…」
「うっ…怖かった…」
「今度こういう時に効果的な魔法をいっぱい教えてやる」
「魔法…封じられてて…何もできなくて……」
「ああ。そういう時に使えるものも一緒に教えてやる」
「クレイ……」
「ああ」
「ありがとう…」
「ああ」

そうして落ち着かせてからそっとロックウェルの方へと目を遣ると、あちらはまた全然違う落ち着かせ方をしていた。



「姫……」
「あ…ロックウェル様……」

ガタガタと震えるフローリアに精神安定の魔法を掛けて、そのまま落ち着くようにと何度も優しく口づけを落とす。

「はっ…はぁ……」
「あんな男達のことなど忘れてしまうといい」
「ロックウェル様…」

甘い微笑みと優しい言葉と確かな魔法効力であっという間にフローリアを落ち着かせるそんな姿に、クレイはため息を吐いてしまった。



「はぁ…ロックウェルは本当に罪作りだ」

けれどそんな呟きにリーネがクレイも大概よとクスリと笑った。

「私はあんな甘すぎる言葉よりクレイの方が好きだわ」
「そうか?」
「ええ。優しいだけじゃなくて提案も実用的だしね」
「そっちの方がいいだろう?」
「もちろんよ。クレイに魔法を教えてもらえるなんて本当に嬉しいわ」
「ああ。どうせ交流会が終わったら家に帰るし、いつでも遊びに来るといい」
「本当に?!じゃあついでに今度一緒に出掛けない?服も選んで買ってくれるんでしょう?」
「ああ、そう言えば言ったな。お礼はちゃんとしたいし…ちゃんとリーネに一番似合うのを選んでやる」

そこまで言ったところでロックウェルが勢いよく戻ってきた。

「クレイ!お前は本当に油断も隙もないな。ロイドの次はリーネか?!」
「ええっ?!」
「浮気にも程があるぞ?」
「浮気じゃないだろう?!」
「十分浮気だ」
「違うぞ?ただの遊びの約束だ!」
「デートの約束をしていただろう?」
「デートじゃない!服を買ってやる約束で……!」

そこまで言ったところで嫉妬に狂ったロックウェルに勢いよく唇を奪われてしまった。




「んんんっ…!」
「クレイ?女の服を買うのは脱がせるためだと…知っていてそんなことを言っているのか?」
「ロ…ロックウェル様!これは…ただのお礼の話でして……」

リーネがダラダラと冷や汗をかきながら弁明するが、ロックウェルは許す気はないようだ。
自分だって浮気していたくせに、どうして自分のことを棚上げして一方的にクレイを責めてくるのか理解に苦しむところだ。
もう少し黒魔道士同士のこういったやり取りを理解してくれればいいのに。
実際の浮気ではなく言葉遊びの延長線だとわかってはもらえないだろうか?
けれどここでそれを持ち出す気はリーネにはなかった。

「……一先ずここは男達を兵に引渡し、コーネリアを拘束する方が重要かと」

具体的にそう提案すると、それはそうだなという答えが返ってきてホッと息を吐く。

「クレイ…今日は残念だけど…」
「ああ。また連絡する」

ニコッと笑ってくれたクレイに微笑みを向けようとしただけなのだが、それすらロックウェルから睨まれて、リーネは慌てて立ち上がった。




「い、今すぐ兵を呼んで参りますので!」

そうして去っていったリーネを見送って、クレイもため息を吐きつつグスター達の拘束を解除させていく。
解放されたトルテッティの面々は複雑そうな表情になった。
それはそうだろう。
とんだとばっちりだったのだから。
そんな彼らにクレイは大きくため息を吐いて、小さくその言葉を口にした。

「さっきは起こしてもらえて助かった」

ロックウェルの方はヒュースが守っただろうが、グスターが自分を起こさなければきっとリーネ達は男達に手籠めにされていただろう。
それを踏まえた上でクレイはきちんと感謝の言葉を綴る。

「グスター殿の先程の行動に敬意を表して、俺も妥協してもいいと思い直した」
「では…!」
「ああ。半分だけ今魔力を返して、残りは一年後に状況を見てから返すというのでどうだろうか?」

その提案にアベルとフローリアが目を瞠る。

「え?」
「……半分だけでも今返してもらえるのか?」
「なんだ。不服か?一年預かっていてもいいなら別に構わないが?」

フッと意地悪く笑ってやると、二人は慌てて首を振った。

「いや…!その条件で構わない!」
「お願い致します!」
「そうか…」

それならと言って、クレイはそっと剥奪魔法を半分だけ解除し二人に魔力を戻してやる。

「あ……」

自分の中に戻ってきた魔力に安堵してフローリアの目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
アベルも魔力を噛みしめるようにそっと手を握りこむ。

「二度と悪いことを考えるな」

いいなと念を押してやると二人は素直にコクリと頷いた。
そんな中、シュバルツがそっと歩を進めてくる。

「あの…クレイ様?」
「なんだ?」
「クレイ様は私をトルテッティの後継にと押してくださったようですが、こういうことなら必要ありませんよね?」

そんな言葉にまあそうだなと思い『好きにすればいい』と答えてやったのだが、シュバルツはにこやかに次の言葉を口にした。

「それならちょうどアストラスに暫く滞在すると申し入れもしていた事ですし、私は暫くここに予定通り滞在しようと思います」

そんな言葉に場にいた者達が皆ギョッとしたようにシュバルツへと視線を向ける。

「……何を企んでいる?」

訝しげにそう尋ねたクレイにシュバルツは笑みを絶やさぬまま言葉を続けた。

「何も企んではいませんよ。ただ、ご相談したいことがあるだけです」
「ほう?なんだ。言ってみろ」
「ええ。世間知らずの私に是非色々教えていただきたく」
「俺にか?」
「いえ。クレイ様だけではなくそこのロックウェル様にも……是非」

そうやって指名してきたシュバルツにロックウェルとしても驚きを隠せない。
一体何を思ってそんな提案をしてきたのか皆目見当がつかなかった。
それは他の者達も同様だったようで、傍から見ているとまたロックウェルに何かしようと企んでいるようにしか見えず、グスターが慌てて止めに入る。
折角丸く収まりそうだったものがまた収まらなくなっては大変だ。

「シュバルツ様!」

けれどシュバルツは何が悪いとばかりにクレイへと向き直り、一番の目的を告げてきた。

「私はロイドを落としたい。だから…二人に協力して欲しい」

そんなストレートな言葉にクレイは目を瞠り、次いで破顔した。

「なんだ。そういうことか」
「ええ」

そう言うことなら二人で協力してやると口にすると、シュバルツはあからさまに嬉しそうに笑った。

「感謝します」

そうしてあっさりと話をまとめたシュバルツにフローリアが不思議そうに声を掛ける。

「シュバルツ?わ……私は?」
「フローリアはロックウェルが好きなんだろう?それなら私がいなくてもいいじゃないか」
「そ…それはそうかもしれないけれど……」

どこか戸惑うようなフローリアに、シュバルツがクッと笑った。

「私があんな仕打ちをされたにもかかわらずいつまでもお前に執着すると思うのか?自惚れるな」

突然豹変し突き放すように告げられたその言葉にフローリアが一気に蒼白になる。

「そ…それならあのロイドと言う男だってあなたを辱めたのは同じでしょう?!」
「ふ…確かに最初は悔しかったし腹も立った。でも今は……あの性格に惚れた」

そう言い切ったシュバルツにフローリアはわなわなと震えだしたが、シュバルツの方は全く意に介さないようだった。

「お前の言葉じゃないが、大人の魅力と言うやつだな。今まで楽しかった。フローリア、幸せにな」

サクッと関係を切り捨てたシュバルツにフローリアがへなへなとへたり込む。

「どうして…どうしてロックウェル様もシュバルツもアベル兄様も、みんな男に走るのよ────!!」

うわぁっ!と泣き始めたフローリアに誰も何も言うことができない。
そうこうしている内に兵を連れたリーネが戻ってきた。

「ロックウェル様!コーネリアの身柄を確保いたしました」
「ご苦労。この男達も牢に入れておけ」
「はっ…」

そうして連行されていった男達を見送り、ロックウェルが改めてフローリアへと手を差し伸べた。

「姫。どうか見送りだけでもさせてください」
「ロックウェル様……」
「貴女にはきっと深く愛してくれる素晴らしい相手との出会いがあるはずですよ」

その言葉にリーネがこっそり砂を吐いているが、それに対してフローリアはうっとりと耳を傾けロックウェルへとしなだれかかる。

「貴方ほどの素敵な方はそうそうおりませんわ」
「…それは光栄ですが、貴女を選べない私をお許しください」

サラリと流したロックウェルにフローリアが残念そうに肩を落とした。

「わかりました。でもそこのクレイと別れることがあればいつでもお声掛けくださいね」

待てるだけ待っていますと言って頬を染めたフローリアにロックウェルは全く臆することなくその一言を告げる。

「いえ。その必要はありませんので、どうぞお幸せに」

きっぱりと言い切られたフローリアはグッと詰まったが、それでも気持ちを吹っ切るように踵を返した。

「帰ります」

そうして去っていくフローリアにロックウェルが静かに頭を下げる。
その姿はいっそ清々しいものだった。




「なるほど。ロックウェル様がモテるのにこれまで付き合ってきた女性から一切しつこくされなかったのってこういうことだったのね」

あれではもうとりつく島もないだろう。

「ロックウェルは凄いな」

リーネの言葉ではないが、自分もあんな風にきっぱりとロイドを突き放すべきだったんだろうなと非常に勉強になった気がした。

「はぁ…。仕方がない。俺ももう一度ロイドにはっきり言うか……」

そんな自分にリーネが楽しそうに笑った。

「あら。ロイドを振るの?」
「…ああ。このままじゃあいつの為にもならないしな」
「そう。頑張ってね」

できるだけ傷つかないように振ってやりたい。
でもそこに甘さが出てしまうのが自分だ。
先程のロックウェルを見習ってちゃんと振れるといいなと思いながら、クレイは深いため息を吐いた。



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