黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

119.※勝負の行方

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「フォーカード」

これでどうだとばかりにロイドが勝ち誇ったかのようにカードを出す。

「はぁ…フルハウスだな」

クレイのその言葉に嬉しそうにしたロイドだったが、まだリーネが残っている。

「なんだった?」
「私もフルハウスよ」
「え?」

この場合はどうなるのだろう?
そう思って状況を見守っていると、ロイドがそっと二人のカードを覗き込んだ。

「くそっ…クレイの方が強い…」

どうやらクレイの方が三枚キングのカードで強かったらしい。

「残念だったわね、ロイド」

クスッとリーネが笑うがくじを引くのはリーネの方だ。

「ちっ…リーネ。さっさとくじを引け」

そんな言葉にリーネが余裕の表情でいいわよと言ってスッとくじを引く。

「……嫌なカードね」

けれどその結果に眉を顰めて黙り込んでしまった。
一体なんのカードを引いてしまったのだろう?

「なんだった?」

クレイがそう尋ねると大きくため息を吐いてそのカードを見せてくる。
そこには『口淫』と言う言葉が書かれてある。

「あんまりやったことがないし……苦手なのよね」

今一良さがわからないのだとリーネはため息を吐いた。

「そんなことを言ってると上達しないぞ?教えてやろうか?」

あまり乗り気でないリーネにクレイがサラリと口にして皆が驚きに目を見開く。

「クレイ?」
「俺は口淫は元々得意だしな。男にするのもロックウェルで慣れたし、教えてやれるぞ?」

そんなまさかの申し出にロイドの顔に喜色が浮かぶ。

「クレイ。随分男前だな」
「お前を喜ばせるためじゃないぞ?ただリーネの為なら一肌脱いでもいいと思っただけだ」

どうすると聞かれ、リーネは悩んでいるようだ。

「……そうね。ロイドを喜ばせるのは癪だけど、黒魔道士としてのスキルを上げたい気持ちもあるし…」

個人的にクレイのを口にして教えてほしいところではあるが、それはきっとロックウェルや眷属の手前今後一切許されないだろうことは容易に想像がつく。
こんなことでもない限りチャンスはないだろうという気持ちの方が勝った。

「絶対無駄にはしないから教えてもらっていいかしら?」
「リーネ?!」

まさかリーネがそんなことを言いだすとは思っても見なかったシリィは焦りに焦る。

「正気なの?!」
「あら、だって密室でロイドと二人きりでさせるわけじゃないし、こっちの方が安全でしょう?」
「私はその方が流れ的に嬉しいが?」
「うふふ…そう言うと思ったから、公開でやってもらおうと思ったのよ」

リーネとロイドがバチバチと火花を散らすが、シリィは気が気でなかった。
「ク、クレイは本当にいいの?!」
「別に構わないが?」
浮気じゃないしと随分あっさりしたものだ。

(け、眷属さ~ん!!)

あわあわとクレイの影付近へと視線を向けるが、どうやらクレイが言い出したことだからか動く気はないようだった。
けれど本当にいいのだろうか?

「ほら、さっさとするぞ」

そんな言葉と共にクレイがリーネを誘ってロイドの前に跪く。

「まずは普通にやってみろ」

そんな言葉と共にリーネが渋々ロイドの物を取り出してゆっくりと口へと含む。
正直シリィはそんな行為自体を知らないのでギャーと叫んで顔を背けてしまった。


「本当に下手だな」


ロイドのつまらなさそうな声が耳へと届く。

「だからそう言ってるじゃない」

リーネの怒ったような声が聞こえて、それに続いてクレイのため息が聞こえてきた。

「わかった。じゃあ教えてやる」

代わってくれと言って今度はクレイがすることにしたようだ。

「舌を使って裏筋とか先端を攻めるといいぞ?」

そこだけじゃなく全体も可愛がるといいと言ってクレイが実行に移した途端、ロイドの声が変わった。

「ちょ、ちょっと待て!クレイ!」

焦ったような声に思わず何があったのかとそちらを見遣ると、ロイドがたまらないと言わんばかりに頬を染め上げクレイを見つめている姿が目に飛び込んできた。

「うぁっ…!はぁ…っ!」
「ふっ…ロイド。気持ちよさそうだな?」
「んんっ…」

そんなロイドを楽しげに見遣りながらクレイがリーネへと説明を続ける。

「舐める場所と、スライドの力加減、後は吸ったりしてもいいが、丁寧に責めてやるのが大事なんだぞ?」
「はぁ…クレイ…もっと…」
「わかっている。本気でやってやるから待っていろ」

そう言い、そっと手も使って可愛がりながら絶妙の力加減でロイドを追い詰めていく。
それは圧巻の舌技で思わずシリィも釘付けになってしまった。

「くっ…も、出るッ!」

腰を揺らしもう離せと言わんばかりに切ない目でロイドは訴えるが、クレイはニッと笑ってそのまま喉の奥まで引き込んで思い切り追い込みイかせてしまう。

「うぁッ!」

身を震わせてイッたロイドが荒く息を吐き、とろりとした表情で放心する姿はなんともしどけない。
クレイはそんなロイドを満足げに見遣るとコクリと飲みこみポツリと言った。
「…やっぱり味が違うな」
「…感想がそれなの?」
「別にいいだろう?ロックウェルは誰とも寝るなと言っていたし、今後こういうのが必要な仕事が来てもこれならこなせるしな。何事も経験だ」
「…クレイって意外と大物よね」
「それは褒め言葉として受け取っていいのか?」
「…ロックウェル様を怒らせない仕事選びをしてちょうだいね?」
「もちろんそのつもりだ。俺だって好きで怒られてるわけじゃないんだから」
そんな風に何事もなかったかのようにリーネと話しロイドを放置するクレイに、シリィは泣けてくる。

(クレイ…せめて私に対する半分でもいいからロイドに優しくしてあげて…!)

どうやらクレイの天然は相当のようだ。
「シリィ!ロイド!ほら、カードゲームのラストだ。参加しないなら二人でするぞ?」
そんな言葉に慌てて参加を表明する。

「待って!」
「参加するに決まっている…」

ロイドも息を整えて参加の構えだ。

「絶対に勝って明日お前を手に入れてみせる!」

どうやら先程の行為で益々ロイドの心に火をつけてしまったようだ。

「クレイは私のものだ!」

ギラリと目を光らせ不敵に笑うロイドにクレイが妖しく笑う。

「本当にお前は可愛いな。まあできるものならやってみろ」

そう言って最後の勝負は始まった。




「スリーカード」
「ツーペア」
リーネとシリィがそう言うと、ロイドがニッと笑ってカードを見せた。
「ストレートフラッシュ!」
その姿はこれで勝ったと言わんばかりだ。
けれどクレイの余裕の表情は変わらなかった。

「ふっ…引きが強いな。ロイヤルストレートフラッシュだ」

パサリとカードを見せたクレイに皆が目を見開く。
「ロイド約束だ。明日はちゃんとしてくれよ?」
「くっ…!」
「そんなに悔しそうにするな。勝負は勝負だろう?」
「…確かにそうだな」
思いがけず口淫はしてもらえたし、夜も一緒に寝れる。
これ以上は望むべきではないと思い直したのだろう。
ロイドは渋々ながらも頷いた。

「クレイ…お前は本当に思い通りにならないな」
「クッ…そんなにすぐに思い通りになる奴は好きじゃないくせに」
「そうだな。お前は本当に理想の相手だ…」

そう言ってそっとロイドはクレイへと口づけを落として、シャワーへと向かってしまった。
本当に切り替えが早い。

「じゃあ明日はロイドと一緒にシュバルツを使って上手くやるから、シリィ達はショーン達と連携してフォローの方だけ頼む」

そんなクレイの言葉に二人はコクリと頷いて明日へと気持ちを切り替える。
「わかったわ。クレイ…気をしっかりね?」
「わかっている」
そして少しふっと不安そうな表情を浮かべた後、それでも「おやすみ」と笑って二人を隣室へと促してくれた。

「リーネ…明日は…」
「ええ。シリィはクレイの心を癒してあげるのに専念してちょうだい」
わかっていると言ってくれたリーネにシリィはふわりと笑みがこぼれ落ちた。
「ふふっ…なんだかいつの間にか私達仲良しね」
「今回は目的が同じなだけのただの同志でしょう?これが終わったらまた元通りよ」
「あら…私、前ほど貴女のこと嫌いじゃないわよ?」
「…奇遇ね。私もよ?」
そう言って二人で笑い合い、自分達もシャワーを浴びて寝ようと言うことになった。

「そう言えば、さっきの罰ゲームのカードはなんだったの?」
髪を拭きながらリーネが尋ねてきたので、シリィが見てたのかと頰を染める。
「…言わないでね?」
そしてそっと耳元へ唇を寄せてこっそりと囁いた。

『…キスマークをつける、だったの』

さすがにあの場では言えなかったと言うシリィにリーネが勿体無いと言ってくる。
「もうっ!明日私が言ってあげるわ」
「ええっ?!いいわよ!」
「だって相手はクレイよ?してもらったらいいじゃない」
「だって…口づけだけでもあんなになっちゃったのに…恥ずかしいわ」
「いいじゃない。なんなら明日ロイドを押しのけて、私の初めてをもらって下さい!くらい言ってみたら?」
クスクスと笑うリーネにシリィは真っ赤になる。
「そ、そそそそんなことッ!言えるわけがないでしょう?!」
「今ならロックウェル様の嫉妬を煽ると言う名目で言えるわよ?」
「そんなことッ!」
「言えない?まあ別に貴女が言わなくても私が言うから構わないけど…」
うふふと笑いながらリーネが妖艶に笑う。
「ロイドばかり良い思いをするのは気に入らないもの。チャンスは生かさないとね…」
クレイを狙っているのは自分も同じだと言うリーネに、シリィは共感してしまった。
「リーネ…」
「さ、寝ましょう」

そう言って寝台に横になり口を閉ざすとクレイ達の声が聞こえてくる。
どうやら今日もただの添い寝で収まりそうだ。

「おやすみなさい…」
「おやすみ」

こうしてそっと眠りについた。


***


「…クレイ。その眷属はなんだ?」
ロイドは寝台に寝そべるクレイの眷属を見て、胡乱な声を上げた。
「え?ああ。レオがさっきお前が怒っていたように見えたらしくて…」

【どうせ一緒に寝てくれないでしょうし、私を抱き枕にして下さい】と言ってきたらしい。
冗談ではない。

「そんな杞憂は必要ない。ちゃんと今日も添い寝してやるから下げろ」
「意外と気持ちいいぞ?」
フカフカで落ち着くと言うクレイに可愛いとは思うが、折角の添い寝チャンスを潰されるのはいただけない。

「取り敢えずシャワーを浴びてこい。そのフカフカは私が堪能していてやるから」
「そうか?レオ、じゃあロイドに触らせてやってくれ」
【ええっ?!嫌ですよ!クレイ様以外はお断りです!】
「そうか?悪いなロイド」
「いや。問題ない」

簡単に追い払えたのは良かったが、折角さっきの口淫の件を持ち出して甘い雰囲気に持ち込もうと思っていたのに台無しだ。

(ちっ…。まあいい。取り敢えず明日の算段を考えるか)

恐らくアベルはロックウェルとフローリア、シュバルツを引き連れて接触を図ってくるだろう。
その時にシュバルツを上手く促してやることができればわざわざ事前に話を通しておく必要はないし、こちらの動きを知られることもない。
後はどう言うか次第なのだが…。

(それこそ向こうの出方次第だな)

そう思っていたところでクレイがシャワーから戻ってくる。
「クレイ…色っぽいな」
「普通だろう?」
クレイはそう返すが、正直食べてしまいたくて仕方がなかった。
先程の続きがしたくて体が疼く。

「クレイ…さっきの口淫は最高だった。花街の女なんて比じゃないくらい良かったぞ?」
「ふっ…そんなに褒めてももうしてやらないぞ?」

そうは言いつつもクレイは満足そうだ。
「リーネだけじゃなく、私の口淫も評価してもらいたいものだな」
「…お前はそのまま襲ってきそうだからお断りだ」
どうやら即答でそう返してくるくらいには警戒してくれているらしい。

正直先程の口淫後の放置はやっぱり恋人候補としては見てくれていないのではないかと思ってしまったのだが、こんな反応を返してくれると言うことはそれなりには意識してくれているのだろうと安心した。
クレイの天然は本当に酷くてタチが悪い。

「クレイ…じゃあそれは別にいいから、口づけだけさせてくれ」
「それならいいぞ?」

そしてクレイが艶やかに笑ってそっと唇を重ねてくれる。
「んんっ…」
うっとりとクレイの口づけに酔いながらそのまま自然に寝台へと縺れるように倒れこむ。

(気持ちいい…)

「クレイ…これからもずっとお前に酔い続けたい…」
それは本心だったが、それさえもクレイはさらりと流してしまう。
「そんな可愛い台詞を言うところは好きだが、これ以上は応えられないぞ?」
そしてそっと掛け布を捲って潜り込む。

「ロイド…あまり俺に期待をするな」
「…クレイ」

正直この男を手に入れたロックウェルが憎くて仕方がなかった。
自分にはクレイだけなのに…。

(明日は絶対にあいつの心をズタズタにしてやる…)

どこまでもクレイの心を捕らえて離さないロックウェルを思い、ロイドは暗い笑みを浮かべたのだった。



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