黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

117.二人の距離

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「う…っ」

シュバルツが目を覚ますと、そこは寝台の上だった。
何があったのかを思い出そうと軽く頭を振ると、コンコンというノックと共にロイドとクレイの姿が現れ、一気に自分の状況を思い出す。

「…………!」

慌てて飛び起き警戒心を露わにするが、二人は気にすることなくそっと自分の元へとやってくると何事もなかったかのように話しかけてきた。

「気分はどうだ?」
「最悪だ…!」

先程までの事を思い出して吐き捨てるようにそう言ったのに、与えられたのは優しい口づけだった。

「そう怒るな。魔力を上げてやっただけだろう?」

ロイドの甘やかな声が耳に心地よく響く。
「そ、そうは言っても…あんな方法でっ!」
「あんな?」
優しげなヘーゼルアイが自分を甘く見つめてきてシュバルツは思わず顔を伏せた。

「ロイド、そう怯えさせるな」
「失礼だなクレイ。こんなに優しく話しかけてやっているのに」
「いいから、ほら。具合は悪くないか?」

今度はクレイがそっと傍へとやってきてゆっくりと顎を持ち上げてくる。
「ああ、顔色は悪くはないな」
そう言いながらふわりと綺麗な顔で微笑んでくれた。
「あ……大丈夫だ」
緊張でドキドキと弾む鼓動を押さえながら二人の様子を窺うが、どうやら自分を害す気はないらしい。

「今日の交流会もそろそろおしまいだ。お前はもう部屋に帰ってくれていい」
「え?」

そんな簡単に解放してくれるのかと驚いて二人を見遣ると、当然だと言わんばかりに微笑まれた。
「俺達はロックウェルを元通りにしてほしくてお前の魔力を上げてやっただけで他意はない。お前は魔力も上がったし、ついでに口づけも上手くなった。何も損はしていないだろう?」

確かにそう言われてみればその通りだ。
「……そうか」
「ふっ…解放前にどれだけ上達したか見てやろうか?」
ロイドがそんな言葉と共にそっと自分へと口づけてきて、魔力を交流しながら甘く舌を絡め始める。
「んっ…はぁっ…」
心地よく自分を酔わすロイドの魔力が気持ち良くて、ついつい夢中になってその舌を味わってしまう。
クチュクチュとわざと音を立て自分を嬲るロイドに官能を引き出され、感じてしまっている自分がいた。

(こんなの…ダメなのに…)

これではフローリアの事を非難することができない。
ロイドの口づけにどんどん溺れて、離れ難い気持ちが湧き出てしまう。
「も、力が入らない…」
そんな言葉を口にした自分にロイドが妖しく笑い、舌を吸い上げながら一気に与える魔力を増してきた。
「んっんっん────ッ!」
ビクビクと体が震えてイッた時のように頭が真っ白になって力が抜ける。
気持ちよすぎてたまらない。

「はぁ…だめ…」
「そんな目で見つめてくるな。もっとしてやりたくなるだろう?」

もっと?
望めばしてもらえるのだろうか?

「お前がいい子に私に従うなら好きなだけしてやるぞ?」

そう言いながらまた優しくチュッと口づけられる。
「ロイド…」
そう呼びかけると甘やかな瞳が自分を見つめてくる。
「何だ?」

おかしい…とは思う。
相手は男で…自分はフローリアが好きなはずだったのに…と。
けれど目の前の男の腕の中で喜んでいる自分が不思議だった。
酷いことをされたはずなのに、振り返ると確かに自分にとってプラスの事しかされていない。
こうして優しく口づけだってしてくれる。
なんだかこの男が与えてくれる安心感に包まれていたい────そんな気分にさせられた。

「はぁ…もっと…」

試しにそう口にするとまた舌を絡めてうっとりと酔わされる。
「ふっ…気持ちよさそうだな?」
「んっ…気持ちいい…」
そうして暫くその心地いい時間を与えられた後でそっと身を離された。

「今日はここまでだ。明日、ロックウェルの魔法を解くのに協力してくれたらまたしてやるからな」
「あ……」

そうだった。
彼らの目的はそれだったのだと思い出す。
そのまま部屋を出ていった二人を呆然と見つめて、一体どうしたものかとただただ考え続けた。


***


「簡単だったな。クレイ、ご褒美は?」
ロイドは部屋を出るなり早速と言うようにクレイへと口づけた。
「お前は…あんなに魔力交流したくせにまだ足りないのか?」
呆れたように言うクレイに思わず笑ってしまう。

「お前のは別格だろう?それに名を呼びたいのはお前だけだ」

あんな簡単に落ちるような奴に興味はない。

「封印した状態の俺に口づけても楽しくないだろうに」
そんな風に言うが、クレイは心地よさそうにうっとりとこちらを見つめてくれた。
あの男との魔力交流で現状クレイを酔わす程度には魔力が上がっているせいだ。

「封印を解いたお前にいつも酔わせてもらっているしな。たまにはお前を酔わせてやりたい」
どうせロックウェルと寝ていないから欲求不満だろう?と笑ってやると、渋々ながらも自分を受け入れてくれる。

「んっ…あっ…」

そっと肩に添えられた手が可愛く震え、魔力に溺れないようにと舌を絡めてそちらに集中しようとしてくるクレイの行動が嬉しかった。
クレイの口づけは本当に上手くて、もっともっとと貪欲に求めてしまう。
あんなお子様とは大違いだ。
互いに求め合うように激しく口づけ合って、最後に大目に魔力を送ってやるとクレイがビクビクと身体を震わせ自分に縋りついてきた。

「はぁ…ッ…」

その姿は色香が満ち溢れていて、このまま抱いてしまえたらどんなにいいだろうと思うほどにたまらなく扇情的だ。
「クレイ…大丈夫か?」
「はぁ…お前は本当に嫌な奴だな」
気持ち良かったくせにそんな憎まれ口を叩いてくるクレイが愛しくて仕方がない。

「良かったくせに」
「さっさと満足いくだけの魔力を最初から送ってくれればいいだけの話だろう?」
荒い息を整えながらそんな風に言ってくるクレイににこやかに笑ってやる。
「お前を堪能したいから焦らしただけで、他意はないが?」

「はぁ…悪かった。シュバルツの相手をお前一人にさせたから怒っているんだろう?」
そんな見当違いのことを言ってくるからたまらない。
好きだから堪能したかっただけなのだが…。

「さあどうかな?悪かったと思うならもう一度してくれないか?」
けれどクレイの勘違いを利用するともっと口づけてもらえるのだから悪くはない。
「仕方がないな。続きは部屋でだぞ?」
「ああ。今度はお前の方から積極的に口づけてくれたら嬉しい」
魔力交流よりも口づけが目的だと思わずポロリとこぼすと、クレイはその言葉をちゃんと汲んでくれる。
「何だ。もしかして魔力交流よりキスの方で満足させてほしいのか?」
「仕方がないだろう?あいつの口づけは下手だったんだから」
「ははっ…!なるほどな」
理解したとクレイが楽しげに笑った。
「そう言うことなら今日は頑張ってくれたお前に好きなだけ口づけてやるとしよう」
そんな風に嬉しい言葉を言ってくれるからしてやったりと笑みがこぼれ落ちる。
「あいつとの口づけを上書きするくらいさせてくれ」
「ああ、別に構わないぞ?」

クレイの言質は取れた。
これでまた眷属達は動くことができなくなる。
どこまでも自分に優位に進む展開に笑いが止まらない。
「クレイ。もうこのまま私のものになってしまわないか?」
「そんな簡単になるわけがないだろう?」
落ちそうで落ちないクレイを早く手に入れて、一刻も早くこの腕の中へと閉じ込めたい。
どうせ今日も一緒に寝るのだから、様子を見ながらまた距離を縮めてやろう。

「…お前はまた悪巧みをしているな」

クレイがすぐに気づいてそんなことを言ってくるが、それが自分を落とすためのものだとまでは思っていないだろう。
「ロックウェルを取り戻す手段を考えていたに決まっているだろう?」
だからそんな風に言ったのに、クレイから思いがけない言葉が返ってきて驚いた。

「どうだかな。言っておくが俺はシュバルツ程簡単じゃないからな?」

まさか鈍いクレイがそこを察してくれるとは思っても見なかった。
「お前は俺を誤解しているようだが、お前が俺を落とすために頑張っているのはちゃんとわかっているんだぞ?」
そうやって蠱惑的に笑うクレイを思わず抱きしめたくなる。
わかってくれていたのが嬉しくて仕方がない。

「クレイ…」
「そうだな…以前お前をセフレ候補だと言った言葉くらいは撤回してやってもいい」
「え?」
「お前の望みはセフレじゃなく、恋人なんだろう?」

勿論そうだ。
そのためにこれまで少しずつ距離を詰めてきたのだから…。
そんな自分にクレイがふっと表情を緩めた。

「現状、俺がロックウェルを諦められたらお前が一番の恋人候補だと言ったら…どうする?」

そんな言葉に思わず頭が真っ白になるのを感じて、次の瞬間歓喜に襲われてしまう。

「クレイ…」

それは本当だろうか?
他にもライバルはいるが、それでも自分を選んでくれると?
あまりにも嬉しくて思わず強く抱きしめると、耳元でクスリと笑われてしまった。

「まあ、それでもお前に抱かれてやるつもりは一切ないがな」

そんな風に牽制してくるどこまでもつれないクレイに、勿論わかっていると言ってやる。
こんな言葉は聞き流すに限る。

「それでも構わない。お前になら抱かれてやってもいいと以前も言っただろう?」

クレイと肌を重ねて恋人同士になれるのなら別に自分はどちらでも構わないのだ。
「クレイ…ロックウェルなんて私が忘れさせてやるから、今夜にでもしないか?」
そうやって思い切って誘ってはみたが、クレイはやっぱりするりと躱してしまった。

「傷心を癒すのに魅力的な誘いではあるが、ロックウェルを諦められたら恋人になってやると言っただろう?もうここまでで満足してさっさと俺の事は諦めろ」

「冷たいな。まあそんなところが好きなんだが」
「お前は本当に諦めようとしないな。俺が思いやりで言ってやってるのに…」
「お前を諦めるなんて絶対にないな。なんならロックウェルと三人でヤッてでもお前と寝たいくらいには愛してるぞ?」
「ぶっ…!ゴホッ…!何を言い出すんだ!」
「クレイ。愛してる」
「そう言うセリフは恥ずかしいからやめろ!」
「お前が恋人なら聞いてやるが、現状は友人なんだから大人しく口説かれていろ」
「~~~~っ!」

こんなじゃれ合いが楽しくて仕方がない。
クレイを手に入れるまであと一歩────。
今回は攻めるだけ攻めたら落とせるかもしれない。
そんな希望が胸を熱くさせた。
そんな風に喜びに満たされていたところで前からアベルがやってくるのが見え、そっと揃って足を止める。




「クレイ。やっと見つけた」
「……何の用だ」

アベルのどこか勝ち誇ったような眼差しを受け、クレイが警戒心を剥き出しにして睨み付ける。

「そろそろ心は決まったかと聞きに来た」
「…決まるわけがないだろう?」
「ふっ…何を企んでいるのかは知らないが、ロックウェルを取り戻そうとしても無駄だぞ?」
「…………」
「フローリアの魔法を解けるのは本人か私だけだ。さっさとお前が私の物になればロックウェルは助けてやると言っているのに…」
「…そんなことを言ってもあの女はロックウェルに夢中なんだろう?手放すはずがないと思うが?」
「……知っていたか。まあ否定はしない。フローリアは結婚したいと言い出したからな。今日ロックウェルとも話したが、本人も乗り気だし、お前が私の元へ来ないというのならこのまま二人が結婚すればいいとは思っている」
「……っ!嘘だ!」
「嘘なものか。普通に考えてこれ以上にないほどの良縁だ。あの若さで魔道士長に登り詰めるほど上昇志向の強いロックウェルならあり得ない話ではないだろう?」
「…………」
「まあお前が今すぐ私の物になって大人しくトルテッティに来るというのなら、妹にロックウェルとの結婚を考え直すよう話してやらなくもないが?」

クッと笑いながらクレイを追い詰めてくるアベルに、ロイドがスッと庇うように前へと出た。

「クレイ。耳を貸す必要はない。今の言葉はただの戯言だ」

いつものクレイなら気が付くだろうが、今のクレイは正常な判断ができないだろうとロイドがそのまま会話を引き継ぐ。

「アベルと言ったか?あいつはそんな簡単にあの女に靡くような男ではないと思うが?」
「ふ…。そんなことはない。妹があいつに夢中なように向こうも妹に夢中の様だぞ?先程交流会が終わると同時に妹を部屋に連れ去っていったからな。今はお楽しみの真っ最中だろう」
そんな言葉にクレイがふるふると震えるのを背中で感じた。

表向き気丈に振る舞い平気そうに見えてもクレイの心の傷は深い。
昨日今日の発言を振り返っても情緒不安定なのがよくわかる。
正直これ以上クレイを傷つけたくはなかった。

「…ふん。あの男がこれまでどれだけの女を抱いてきたか知らないのか?姫だろうがなんだろうが、すぐに飽きられて捨てられるぞ?」

アベルを牽制しつつクレイに気にするなと言ってやれる言葉はこれくらいしかない。

「…それはどうかな?飽きられて捨てられるのはそっちのクレイの方ではないのか?」

そんな言葉で更にクレイを傷つけてくるアベルが腹立たしくて仕方がなかった。

「あいつがそんな簡単にクレイに飽きてくれるなら私も苦労はしていない。クレイは魅力的でちっとも飽きない男なんだからな」
「ほう?そう言うことならお前にとって今回の事はチャンスと言うことか?」
「当然だな。クレイをお前に渡すくらいなら私がソレーユに連れ去って優しく癒してやる」
「…それは聞き捨てならないな」
「ふっ…ではどうする?私はロックウェルもお前もライバルでしかない。脅しは効かないぞ?」
「なるほど…とんだ邪魔者だな。まあいい。クレイ!ロックウェルを取り戻したいならそんな男に縋らず、私に縋ってこい。悪いようにはしないし、なんならロックウェルと一緒にトルテッティで暮らさせてやってもいい。じっくりよく考えるんだな」

そんな言葉と共にアベルは踵を返して行ってしまった。
後に残されたのは悔しそうに拳を握りしめるクレイの姿だけだ。

「クレイ。心配するな。こっちにはシュバルツがいる」
「ロイド……」
「私に任せておけ」
「うっ…」
「ほら。慰めてやるから部屋に戻ろう」
「……悪い」
そんな言葉と同時にそっと身を寄せてくれたクレイを抱きしめ、ほくそ笑みながら影を渡って部屋へと戻った。


***


「んんっ…」
ソファに座り、弱り切ったクレイを腕に閉じ込め、先程の約束だろう?と声を掛けて唇を奪う。
「はぁ…ロイド…」
「クレイ…もっとしてくれ…」
そう言ってやると望むままにクレイが口づけを与えてくれる。
「んっ…ふぅっ…」
溶け合うように口づけ、飲みきれない唾液が口の端を伝っていく。
気持ちよさそうなクレイの表情を堪能しながら頭を掻き抱き、全てを求めるように激しく口づけた。
クレイとこれまでこんな風に口づけあったことなどない。
いつも余裕の表情で自分を翻弄して、あっという間に身を離してしまうクレイ。
そんなクレイが自分とこんな風に恋人同士のように口づけてくれるのが嬉しくて仕方がなかった。
だから…気付けばソファにクレイを押し倒して、夢中で唇を貪りながら魔力交流で酔わせている自分がいた。

「あ…ロイド…」

熱を帯びたその眼差しが抱いてほしいと訴えているようにも見えて、もうこのまま食べてしまってもいいのではないかとさえ思わせる。

「クレイ…優しくするからこのまま抱いてもいいか?」

頷いてほしい。
そうすれば眷属だろうと誰だろうと邪魔することはできないのだから────。

「傷つけられたお前を慰めてやりたいんだ…」

けれどその言葉と同時にクレイの目には涙が溢れた。

「う…嫌だ……」
「クレイ……」
「俺を抱くのはロックウェルがいい……」

そんな言葉に胸が痛む。

「うぅ…」
「クレイ…悪かった」
「ロイド……」
「焦った私が悪かった」

そう言ってそっとクレイを抱き起して包み込む。

「お前の気持ちを大事にしてやりたい」
「う…っく…」
「今なら私しか聞いていない。弱音を吐いてもいいから、辛いならちゃんと言え」

そう言ってやると綺麗な涙を流しながらギュッと縋りつくように抱きついてきた。

「ロイド…お前には本当に甘えてばかりで…悪い……」
「役得だ。気にするな」
「ふぅ…っ」
「そんな風に気持ちを抑えつけずに好きなだけ吐き出せばいい」

いくらでも利用できるものは利用するのが黒魔道士だろうと言ってやると、幾分素直になってくれる。

「ロイド…」
「なんだ…」
「う…ッ…。ロックウェルに抱いてほしい」
「ああ」
「ひっ…く…。嫉妬の眼差しで見られながら犯されたい…」
「ああ」
「他の女より、……俺を見つめてほしい…っ」
「当然だな」
「うぅ…ロックウェルにメチャクチャにされたい…ッ」
「嫉妬を煽れば今のあいつでも抱いてくれると思うぞ?」
「恋人じゃないロックウェルには抱かれたくないぃ…っ!」

グスグスと泣き始めたクレイをヨシヨシと可愛がりながら、素直なクレイは本当に可愛いなと抱き締める。
不遜なクレイも、黒魔道士らしいクレイも、時折甘えてくるクレイも、どんなクレイも愛おしかった。

(ああ、そう言えば人を愛したのはこれが初めてな気がするな……)

これまでを振り返ってもこんな感情を抱いたことは一度もなかった。
それはなかなか諦められないはずだ。

「クレイ。それじゃああいつの嫉妬をもっともっと煽ってからシュバルツに魔法を解かせてやればいい。それなら戻ったあいつは嫉妬に狂ってお前を好きなだけ蹂躙してくれると思うぞ?」
「え?」
「楽しみだな。あいつに嫌がらせもできるし、私も一石二鳥だ」
「…お前らしいな」
「ふっ…当然だ。お前を泣かせた償いくらいはさせてやりたいし、そこは譲れないポイントだ」
「ロイド……」
「全て私に任せておけばいい」
「…お前は優しすぎる」

困ったように笑うクレイに気にするなと言いながら口づけを落として涙を拭ってやった。

「お前が泣くのは本意ではないからな」
「本当に……お前はいい男だな」
「惚れ直したか?」
「ああ。ロックウェルと出会ってなかったら、お前にあっさり落ちていたかもしれないな」
そんな言葉と共にクレイがふわりと笑ってくれる。

────今はただそれだけで十分だった。



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