黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

104.許可

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「クレイ。こうして王宮内を一緒に歩くのは久しぶりだな」

ロックウェルが嬉しそうにそう言ってくるが、クレイとしては正直気が重かった。
何故ならこれからあれほど避け続けていた王に自ら会いに行くのだから────。




「陛下。お時間を頂きましてありがとうございます」

そう言って頭を下げたロックウェルと共にクレイもまた頭を下げる。

「おお、ロックウェル!今日はクレイが珍しく願いがあるとか…」

どこかホッとした様子の王に、クレイはため息を吐きそうになるのを我慢してそっと顔を上げた。

「…まずは先日の非礼をお詫びさせていただきたく」
「よいよい。私もお前の母の事を持ち出して悪かった。もっと良い面を口にすれば良かったと私もあれから反省したのだ」
「…………」
「お前は一途なところが実にミュラに似ていると思うぞ?ロックウェルとも上手くいっているようで微笑ましい限りだ」
「…………」

やっぱり会いに来なければよかったと思いながら眉間に皺を寄せ黙り込んだクレイに、ロックウェルが見兼ねて口を開く。
「陛下。実は近々行われる魔道士交流会にクレイも参加してみたいとのことで…。私としましては優秀な黒魔道士であるクレイに参加してもらえれば更に交流会は盛り上がるのではと…」
「なるほど。別にそれ自体は構わぬ。但しトルテッティの方から今日書状が届いてな、王族の者も今回の交流会には参加したいからハインツも参加させてほしいと言い出したのだ」

さすがにロックウェルは忙しいだろうから、できればクレイに付き添いをお願いしたいのだと王は言った。
「お前はちょうどハインツの教育係だし、傍に居ても不自然ではないだろう。その王族の者達は交流会後も数日ここに滞在して色々と見識を広めたいと言っていてな。お前の部屋も早急に用意させるし暫く王宮に滞在してハインツと共に案内等してくれないだろうか?」
その言葉にクレイは思わず固まってしまう。

(…仕掛けてきた)

既に相手は正式な手順を踏んで仕掛けてきていた。
交流会中は兎も角、交流会後なら自分がかかわっていなければハインツと共に王族の相手をするのは順当に言ってロックウェルだっただろう。
そこを狙われたら一発でまずい展開になってしまうところだった。

(間に合ったか…?)

ここは自分が引き受けるのが順当だろうとクレイはそのまま話を進めてもらうことにする。
「わかりました。ではそのように…」
「なっ…!クレイ?!」
お前も狙われているんだぞとロックウェルは焦ったように目で訴えてくるが、それでもリスクは少ない方がいいに決まっている。
相手はあの卑劣な手を使ってきたアベルなのだ。
ここは経験の豊富な自分が動くに越したことはない。

「そうか!受けてくれるか!それならすぐに部屋を用意させよう。場所は便利なようにハインツとロックウェルの部屋の間あたりでいいだろうか?設えは…ああ、そうだ!すぐにドルトを呼べ!」
ドルトに任せれば間違いないと言い出した王にクレイはギョッとする。

「ちょっ…!」

慌てて止めようと思ったが、ドルトは思った以上に早く顔を出してしまった。
「お呼びでしょうか?」
「ああ。クレイの部屋を早急に用意してもらいたくてな」
王族として恥ずかしくない部屋をと言い出した王にクレイは怒りたくなったが、ドルトは暫し考えてにっこりとクレイへと微笑みかけた。

「黒魔道士のクレイ殿ですね。初めまして。お会いできて光栄です」
「え…?あ、はい…」

そう言えば前回はクレアの姿だったからこの姿で会うのはこれが初めてだったかもしれないと慌てて居住まいを正す。

「部屋は沢山ありますので、貴方自身で気に入るものを選んでいただければ嬉しいのですが」

どうぞこちらへと誘ってくれたドルトに戸惑いながらも、勝手に決められるよりはその方がいいかと大人しく従った。

「じゃあロックウェル。また後で」
「ああ」
「陛下。決まり次第お知らせさせていただきますので」
「ああ。クレイの好きな部屋を好きなように用意してやってくれ」
「かしこまりました」

こうして緊張しながらそっとクレイはドルトと共に部屋を後にした。




「あ…あの…」
「はい?」
「その…」
何を言っていいのかわからずクレイは俯きながらドルトへと付き従う。
そんなクレイにドルトはクスリと笑って話しかけてきた。

「クレイ殿は内装がシンプルな方が落ち着く方でしょうか?それとも華美な方を好みますか?」
「え?…あ、シンプルな方が…」

促されるままそう答え、続く言葉の数々にも素直に正直な答えを返して行く。

「魔道士の方々は部屋で酒を酌み交わしながら語り合うことも多いと聞きました。折角の交流会ですし、滞在中気の合う方と盛り上がることもあるかもしれません。諸々想定するにベッドルームは念のため二部屋あるほうがいいでしょう」

使わなければ使わないで別に構うこともないしとドルトはニコリと微笑みを浮かべる。

「あ…はい」
「では、こちらの部屋などはいかがでしょう?」

そう言って案内された部屋は、広くはあるがすっきりとしていてクレイ好みと言っても過言ではなかった。

「…すごい」
「気に入ってもらえそうですか?」
「はい。ここなら…」
「それはよかった」

そう言って嬉しそうにするドルトにクレイは不思議に思う。
どうしてさっきの今ですぐにこんな部屋へと案内することができるのだろうか?
そうやって不思議そうにしていると、ドルトはフッと笑って種明かしをしてくれた。

「実は陛下は貴方にずっと部屋を与えたいと言っていたので、いつか必要になるかと勝手に何部屋か用意していたのです」

どんなものが好みかわからなかったため、ロックウェルにも世間話的に話を聞いたのだという。

(ああ…だからか)

妙に居心地がいいと思ったとフッと頬が緩む。
「…助かりました」
そんなクレイにドルトがそっと鍵を手渡してくれる。
「ここは交流会が終わっても貴方の部屋として残す予定ですので、いつでも好きに使って下さい」
「え?」

さすがにそれはできないと言おうとしたが、ドルトは物は考えようだと笑って言った。

「ここに部屋を置いておくだけで陛下は安心なさいます。王宮に貴方の居場所がある、ただそれだけで心穏やかになられてわざわざ接触を増やしてきたりはされないことでしょう。その方が黒魔道士としての仕事にも差し支えがないのでは?」

なるほど。ドルトの言うことには一理あるかもしれない。

「…では…もし問題がないのであれば…」
「ええ。その方が陛下もお喜びになりますし、ロックウェル様もご安心なさることでしょう」

そんなドルトの言葉にクレイは心からの感謝をこめて礼を執った。
「お心遣いに心より…感謝申し上げます」
「…いえ」
どこか眩しいものを見るかのようにクレイを見つめた後、ドルトはあっさりと踵を返して別れを告げる。

「それでは私はこれで」
「はい。ありがとうございました」

パタンと閉じられた扉を見つめて、クレイはそっと鍵を握りしめながら父を想ったのだった。


***


(間違いない…)

ドルトは部屋を辞してクレイを思っていた。
王に対しては不遜な態度を取りやすいと聞いてはいたが、クレイは自分に対しては非常に気を遣っているのが見て取れた。
そして最後の礼のとり方はレイン家にいた乳母が教えたであろうそのものの礼の仕方だった。

(クレイは間違いなくレイン家で育った者だ…)

以前聞いた話を疑っていたわけではない。
ただ、記憶がないだけに確信を得られなかっただけで、今日それを目にすることによってそれは確かなものへと変わったのだ。

「…ミュラとの確執…か」

夫婦仲の事を考えて家を出たと聞いたが、恐らく子供の目から見ても夫婦仲が良いとは見えなかったのだろう。
そこは反省すべき点だ。
それが自分のせいだと思い至った時、クレイはどんな気持ちだったのだろうか?

(無理強いできないといったあの眷属の話もわかる…が)

傷口を抉る行為は自分もしたくはない。
けれどどこかで妥協できる点はないものだろうか?
ミュラの記憶は戻さないなら戻さないで構わないと思う。
それがすなわち彼女の幸せだと…そう思えなくもないのだから。
けれどクレイはどうだろう?
夫婦仲が幸せならそれでいいとあの眷属は言ってくれたし、クレイ自身もロックウェルと恋仲になれて幸せだと言っていた。
けれど本当にそれに甘えてもいいのかと言う気がしないでもない。

(いつかクレイの力になってやれる日が来ればいいが…)

ドルトは仕事へと戻りながらそっと息を吐いた。


***


その日の夜、ロックウェルはクレイを前に重要な話し合いをしていた。

「クレイ…。明日から家に戻るって…どうしてだ?」

はっきり言って自分の部屋にこのままとどまってくれていいと言っているのにクレイは頷いてはくれない。

「アベルはきっと交流会までは大人しくしているだろう。今の内に荷物を部屋に運んでおきたい」

今日ドルトに案内された部屋に荷物を運んでおきたいと言うが、それだけなら然程時間はかからないはずだ。
わざわざ家に戻る必要などはない。

「…使い魔に頼めないのか?」
「…ロックウェル。俺だってお前と離れたくない。でも…よく考えたらあっちは王族だ。こちらから下手な手は打てないだろう。今からできるだけの対策を考えておく必要がある」

立場的にはどう考えても自分達の方が弱いのだ。
対策を多くとっておくに越したことはない。
どうしても嫌な予感がして仕方がないから色々手を打っておきたいのだと言うクレイにロックウェルとしてもそれ以上言うことはできなかった。

「…わかった。その代わり明日は私がそちらに泊りに行ってもいいか?」
「ああ」

それなら大丈夫だと言ってくれたクレイに、ロックウェルは軽く口づけを落として安心させるように笑ってやる。
何がそんなにクレイを不安へと追いやるのかはわからないが、少しでも安心できるよういっそ思うようにさせてやるかと、そうやって話をつけたはずだったのに────。




「クレイ…何故ロイドがここにいる?」

仕事を終えてクレイの家へと行くと何故かロイドが一緒にいた。

「ああ。さっきまで一緒に呑んでて…色々話をしていたんだが、そういうことなら交流会にも参加してくれると…」

あくまでも心配してくれての事だからと言うクレイにイライラした気持ちばかりが募ってしまう。
一体どこまでロイドを信用しているのだろうか?

「それで、ロックウェルがここに来るのを話したら自分の口からちゃんとお前に話したいって…」
「ほぅ…?」

そういうことなら受けて立つのも吝かではないだろう。
ソファで寛ぐロイドに冷笑を浮かべながら水を向けてやるとロイドは不敵に笑いながらその口を開いた。

「そんなに警戒するな、ロックウェル。今回はあのアベルと言う奴にクレイを取られたくない私と、お前を取られたくないクレイの共同戦線なんだから。下手なことをする気はない」
「……」
「お前だってクレイを渡したくはないんだろう?今回は協力しようじゃないか」
「……お前は信用ならない」
「そうか。それは残念」
「ロックウェル…。ロイドは優秀な黒魔道士だぞ?はっきり言って俺はロイド以上の黒魔道士は他に知らない」

これ以上心強い味方はいないだろうと言うクレイにロックウェルは冷たく言い放つ。

「どうせ報酬はお前なんだろう?」
「俺と言うか、俺との魔力交流だ」

今更だし、別に構わないじゃないかと言ってくるクレイに一体どう言えばいいのだろうか…。
ロイドがクレイに懸想していなければ確かにこれ以上ないほどに心強い味方だが、明らかにクレイを狙っているのだから近づけたくはない。

「クレイ…。どうやらこいつは聞く耳を持つ気はなさそうだぞ?まあ私はお前さえ無事なら構わないんだ。なんならこのまま暫くソレーユに避難しないか?ロックウェルに会いたい時は会いに行けばいいんだし、私は誰かと違って心が狭いことは言わないから考えてみないか?さすがにアベルもソレーユまでは追ってこないだろう?」
「……それは確かに」
「待て!クレイは誰にも渡さない!」
「ククッ…本当に余裕がないな、ロックウェル。そんなに私をライバル視してくれるのは嬉しいが…」

そう言ってロイドはそっとクレイの頤を持ち上げるとそのまま甘く口づけた。

「ほら…クレイは私には靡いていないだろう?」
「まあ…もうお前とのこれは慣れだしな」

クレイはあっさりとそう言うが、それが危険なのだとわからないのだろうか?
今のはどう考えてもどさくさまぎれにクレイに口づけたかっただけだろうに────。

「そう言えば今気付いたが、また魔力が上がったか?」

クレイがロイドにそう尋ねるとロイドが嬉しそうに笑う。

「わかるか?お前との魔力交流と圧縮魔法のお蔭で少しずつ上がってきてるんだ」
「へぇ…」
「封印を解いたお前と一緒にいて恥ずかしくないほど魔力を上げたいしな。これからも宜しく頼む」
「ははっ!お前は本当にリーネ以上に貪欲だな」
「勿論だ。そのうち今のお前を酔わしてやれるほど魔力を上げてやるから楽しみにしていろ」
「…できるものならやってみろ」

フッと笑うクレイにロイドが満足げに笑う。


こんな駆け引きを見てロックウェルはブチッと切れた。
今のロイドの言葉は、いずれ釣り合う男になってやるから待っていてくれと言うことではないか…!
何故クレイも煽るようなことを安易に言ってしまうのか?
あまりにも腹が立って、そのままグイッとクレイを奪い返して唇を奪ってやる。

「んんん…ッ!」

魔力で酔わせてそのまま服を剥ぎにかかるとクレイは焦ったように身動ぎ始めた。

「んっんっんっ…!」

そんな自分をロイドが笑いながら窘めてくる。

「ロックウェル…。ここでクレイを怒らせたら追い出されるのはお前の方だぞ?」
「……」
「クレイの迂闊が移ったんじゃないか?私がこのまま奪ってもいいならそれでも構わないが…?」

そんな言葉にそっとクレイを見遣ると涙目でギッと睨まれてしまった。

「今のはただのよくある黒魔道士同士のじゃれ合いだろう?!どうして信用してくれないんだ!」
「……」
「ロイドとは何でもないって何度も言ってるのに!」

お前はそうだと思ってもロイドは違うのだと自分も何度か言ったように思うのだが、ここが白魔道士と黒魔道士の感覚の違いなのだろうか?

「クレイ。だから白魔道士には黒魔道士同士のやり取りは理解できないと言っただろうに」
「…ロイド」
「お前は疚しいことがないと思うからロックウェルの前でわざわざ私とのやり取りを見せてやったのにな?ほら。服を脱いだついでにシャワーでも浴びてきたらどうだ?この間は私が慰めてもらったしな。今日はお返しに私がお前を慰めてやろう」

思わせぶりなその言葉で自分を刺激してくるロイドが憎たらしい。
そして話はつけておくからと言ったロイドに任せてそのままシャワーを浴びに行ってしまったクレイの迂闊さには最早脱力するしかない。
いくら眷属がいるからといって油断のし過ぎだ。
万が一襲われでもしたらどうするつもりなのだろうか?

「ふふっ…。クレイは本当に簡単だな」

落とすのだけが難しいだけで、扱い方はとてもわかりやすいとロイドが笑う。
この辺りの考え方は自分と正反対だ。
落としてもクレイの扱いはいつまで経っても上手くいく気がしない。

「それで?泊っていくのか?」
「もちろんだ。お前はこのまま帰れ」
「断ると言ったら?」

そうやって笑顔で威嚇しあっているとヒュースが徐に声を上げた。

【ロックウェル様。クレイ様はロイドに遅くなったら泊っていけと言っていたご様子】
「なっ…!」
「以前泊めてやったからな。そのお返しだそうだ」

ギブアンドテイクがクレイの基本だからなと言ってくるロイドに思わずギリギリと歯噛みしてしまう。
たまらずそのままバスルームに向かうとクレイへと勢いよく尋ねた。

「クレイ!ロイドに泊まれと言ったのか?!」
「え?ああ。だってお前が泊っているなら問題ないだろう?」
「~~~~~ッ!」

二人きりじゃないからと言うクレイにそう言う事かと納得がいくが、腹が立って仕方がなかった。
けれどここで自分が帰ってしまうとロイドとクレイが二人きりになってしまうから帰るに帰れない。

「クレイ…後で覚えておけ」
「?!」

そうして驚くクレイをバスルームに残してロイドへと改めて向き合い牽制するように威嚇する。

「いつまでもお前の思うように運ぶと思ったら大間違いだ」
「さて…それはどうかな。精々クレイを誰にも奪われないよう守ってやるんだな」

油断したらすぐに奪ってやると言わんばかりのロイドに怒りが込み上げてブルブルと身が震えてしまった。




「ロ…ロックウェル?ロイドは話したら面白い奴だぞ?そんなに邪険にせず、少し話してみないか?」

シャワー後にこちらを窺うように言ってくるクレイに冷たい眼差しを向けるが、二人の仲を取り持とうとしているのか懸命にロイドの良さをアピールしてくる。

「ロイドは意外と優しくていい奴だぞ?ほら。一足早い交流会だと思って仲良くしないか?」
「…………」
「あ~…そうだ!」

そして既に知っているだろうがと言いながら、クレイは奥の部屋から黒曜石を取り出してくる。

「今この黒曜石には俺の魔力を圧縮してあるが、これだって白魔道士が魔力を圧縮するだけで話は変わってくるんだぞ?」

その言葉に一体どういうことだろうかとロックウェルはほんの少しだけ興味が湧いた。

「例えば回復魔法を使う時にその圧縮させた石を部屋の四隅に配置して広域魔法と同時に発動させると、その部屋にいる相手を全て同時に回復させることができる」

その言葉はロックウェルからすると驚き以外の何物でもなかった。
そんなことが本当に可能なのだろうか?

「人数は関係ないのか?」
「ああ。広域魔法と同時に発動させているし、石に圧縮している魔力が補助の役割を果たすからその結界内に於いて自分の消費魔力は普段と変わらないはずだ」

それは非常に画期的な魔法の使い方だった。
応用すれば解毒魔法も一気に掛けられるし、有事の際はこれ以上ないほど重宝されることだろう。

「これは元々ロイドが考えた魔法なんだ」

凄いだろうと言ってくるクレイにロックウェルもそこは認めざるを得ない。

「いや、凄いのはクレイだな。私は自分の魔力を上げるために考えたに過ぎないから…。石にそれを込めて応用させるのはクレイのアイデアだ」
「そんなに謙遜する事はないだろう?」
「いや。ソレーユの魔道士は私が新しい魔法を開発する話をしても、そんなものできるはずがないんだからやめておけとしか言わないんだ。これまでお前以外に興味があると言ってもらえたことは一度もない」

だからリーネが教えてほしいと言ってきた時驚いたのだと言う。

「なんだそうなのか。面白いのにな」

素直に残念そうにするクレイにロイドが嬉しそうに顔を綻ばせた。

「やっぱりお前と話していると楽しいな。もうずっとお前とだけ交流出来たらいいのに…」

そんなロイドに、ロックウェルも気持ちは分からなくはないなと一定の理解を示す。
確かに話が合う者と話せる事ほど楽しい事はないだろう。
そこだけは認めてもいい。
但し、余計な事さえ言わなければの話だが────。

「クレイ…やっぱりソレーユに住んで、ずっと私の隣で仕事をしないか?」
「悪いがそれは断る。できるだけロックウェルの傍に居たいしな。まあ面白そうだし定期的にこっちから会いに行っても…」

そんな風に言い出したクレイの口を慌てて塞ぐ。

「クレイ?そこは前半の言葉だけでいい。余計なことまで言う必要はないんだ」
「え?」
「まあ…さっきの話で確かに何かしら有意義な意見交流はできそうだとは思ったし、私も多少譲歩してもいいかもとは思えるようになった」

多少の交流くらいは認めてもいいと言った自分にクレイは凄く嬉しそうに顔を輝かせた。

「そうか!ロックウェルならわかってくれると思った」
「…まさかお前の口からそんな言葉が飛び出すとはな」
「私は実力のある者は認める主義だが?」
「そうか。魔道士交流会でも話の通じる者がいればいいが…。居なければクレイとずっと話しているとしようか」
「そうだな。折角の交流会だ。是非クレイとばかり居ずに色々な者と話すといい」

こうしてロイドと自分の間には見えない牽制の火花が散っていると言うのに、クレイはやはりと言うかなんと言うか全く気がつかないようだった。

「じゃあそろそろ寝るか。ロイド、もしソファが狭かったら気にせず帰ってもいいからな?」
「大丈夫だ」

気にするなと笑うロイドはどうやら自分達の邪魔をする気満々のようだ。

「そうか?じゃあおやすみ」

そう言ってクレイは笑顔でロイドへと告げると、そっと自分の手を取り寝台へと手を引いてくれる。
今日のところはそれでいいかと割り切って、ロックウェルはそっと寝室の扉を閉めたのだった。




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