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第一部 アストラス編~王の落胤~
94.晒された秘密
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寝台に横たわるクレイの髪を撫で上げ、ロックウェルは心配げに付き添っていた。
もうすぐヒュースが言っていた小一時間だ。
王宮内の騒ぎもそろそろ落ち着いてきたようだと報告が入った。
「ロックウェル様。クレイの様子はいかがですか?」
シリィとアレスがやってきて尋ねてくるが、クレイの意識はまだ戻りそうになくただ首を振ることしかできない。
「解毒はできているでしょうし、やはり目を覚まさないのはこの眷属達の暴走に起因しているのでは?」
後からやってきた黒魔道士のサイファとメロウも心配げに声を掛けてきた。
「ただでさえ一昨日の今日でしょう?きっと精神的な負担も大きかったのではないでしょうか?」
彼らは一昨日クレイに会いに来ていた者達だ。
だからこそクレイを慮ってくれた。
「ロックウェル様。それなら我々で回復魔法を掛けてみてはいかがでしょう?」
「ああ。それはいいかもしれません。先日何があったかは知りませんが、精神疲労からくるものなら回復魔法で目を覚ますかも…」
その言葉を受けて白魔道士三人でクレイに回復魔法を試みる。
そしてパァッとクレイの体が光に包まれフワリと温かな光が消えると同時に、ゆっくりとその瞳が開かれた。
「あ…」
シリィが焦ったように声を上げるが、この場にいる者は一人を除きそのほとんどがその紫の瞳を知る者ばかりだ。
「アレス。この事は…」
「わかっております。むしろ納得がいきました」
別に驚きはしないと言い切り、アレスはそっとロックウェルをクレイの元へと促した。
「クレイ。具合はどうだ?」
どこか気分が悪かったりしないかと尋ねようとしたところで、クレイがガバッと勢いよく飛び起きた。
「どうして?!」
そしてそのまま部屋を飛び出し一目散に広間の方へと走って行ったので皆で慌てて後を追う。
一体どうしたと言うのか────?
「ヒュース!コート!バルナ!カルディア!ミラン!レオ!皆!」
眷属の名を順に呼び走るクレイはどこか泣きそうだ。
そして広間の扉を勢いよく開けたところで、やっとホッとしたように足を止めた。
「良かった…みんな無事で…」
そんなクレイに追いついた面々がただ成り行きを見守る中、クレイが自分の眷属と使い魔達へと声を掛ける。
「戻ってこい。お前達が傍に居てくれないと寂しくて仕方がない」
そんな切ない声を聞いて、怒りに満たされていた使い魔達と眷属達が一気に大人しくなり、我先にとクレイの元へと帰っていく。
【クレイ様。お側を離れて申し訳ございません】
【お体の方は大丈夫でございますか?】
「ああ。みんなで回復してくれたようだから心配するな」
【それはようございました。クレイ様に何かあれば、我らこの場にいるものを皆殺しにしてしまうところでございましたよ】
「またそんな冗談を。優しいお前達がそんな事をするはずがないだろうに」
クスリと笑うクレイに眷属達はどうですかねと笑うだけだ。
そんな光景をその場の者達がただ呆然と見つめ、ハッと我に返った者達から次々とその場に平伏し始めた。
「クレイ。とりあえず落ち着いたら瞳は…」
ロックウェルもそれらを見てやっと我に返り、すぐさま瞳を隠すよう声を掛けたのだが、時既に遅し。
王がそれよりも早く声を上げたのだ。
「クレイ!無事で良かった。皆、これこのようにクレイは私の息子である!」────と。
***
クレイは王の言葉にしまったと思わず目を押さえてしまう。
どうしてこう迂闊なのか…。
どうもここ最近気が緩みまくっているような気がする。
「もうバレているし隠すこともない。大体私が認めた時点で素直になれば良かったのだ」
そんな王の言葉にクレイがイラッと返す。
「そんな仕事に支障をきたす事ができるものか。大体認めてくれなくていいと言っただろう?継承問題に巻き込まれるのも御免だと言ったはずだ」
「だがお前が私の血を引いている事は明白だ。もう隠すのも面倒だし、これを機にここで宣言させてもらう」
「…じゃあもう二度と俺は王宮には来ない」
「ロックウェルに会えなくなってもいいのか?」
「…外で会うからいい」
「仕事を詰め込んでやってもいいのだぞ?」
「卑怯な事を言うな!このっ…!」
「ではハインツの教育係はこれからも続けてくれるな?」
そんな二人のやり取りに皆はハラハラとするばかり。
「…………!!瞳の封印は続けるし、これ以上の周知をしないのが絶対条件だ!」
「善処しよう」
そうやって話をつけるとクレイはすぐさま瞳を封印し直して、帰ると言い踵を返した。
「不愉快だ!」
その不遜な態度は誰がどう見ても親子だなと感じるもので、最早誰一人疑問も文句も口にする事はできなかった。
「あれあのように息子は頑ななのでな。皆、口外はせぬように」
その言葉にその場に詰めていた第一部隊の者達全て含めその場で深く頭を下げる。
そんな中、ルドルフが王へと声を掛けた。
「陛下。それでこの問題はどう収拾を図ることに?」
全員拘束はされているようだがと尋ねたルドルフに、王はなんでもないことのように口を開く。
「クレイを殺せと言ってきたのでな。全員鞭打ちにしてやる予定だ」
その言葉に拘束された者達が次々と懇願の声を上げ始める。
「陛下!どうぞお許しください!」
「陛下のご子息とは知らなかったのでございます!」
「お許し頂けるのであればクレイ様が黒魔道士として王宮に出入りしても誰にも文句を言わせぬよう尽力させていただきます!」
「陛下とクレイ様の仲が良くなるよう我々も手を尽くさせていただきます」
「どうぞ御慈悲を…!」
その言葉に陛下が暫し考えショーンを呼ぶ。
「…ショーン。悪いが取捨選択して、極悪人のみ牢に放り込んでくれぬか?」
使えそうな者は釈放しても構わないと口にした王に皆がホッと息を吐く。
「かしこまりました♪」
こうして裁量はショーンの手へと委ねられた。
***
【ロックウェル様。お傍を離れまして申し訳ございません】
「ヒュース。クレイの傍に居なくて大丈夫なのか?」
ロックウェルがショーンのために王宮魔道士を動かし順次取り調べに手を貸していると、徐にヒュースが声を掛けてきた。
【クレイ様がロックウェル様の元に戻れと仰いましたので…】
「そうか」
そんなやり取りに近くにいた魔道士達が話しかけてくる。
「ロックウェル様。こちらは我々で捌きますのでクレイの元へ向かってやってはいかがです?」
「そうですよ。先程まで意識がなかったので状況もよくわかっていないでしょう」
その言葉にロックウェルはそれもそうかと思いつつ、クレイが今どうしているのかをヒュースへと尋ねてみた。
「ヒュース。今クレイはどうしている?」
【クレイ様ですか?どうも先程余程お淋しかったのか、今は自宅で眷属や使い魔と沢山触れ合っておりますよ?】
だから正直こちらの状況などは気にも留めていないだろうとスッパリと言い切った。
「…そんなにクレイは寂しがり屋なのか?」
【ですから以前言ったではありませんか。クレイ様は寂しいからと眷属や使い魔を増やしていくような方ですよ?先程の全員お傍から離れた件は相当衝撃だったようで…あまりにお寂しそうだったので、皆で謝り倒しております】
そんな言葉に第一部隊の者が目を丸くした後クスクスと笑い始めた。
「つまり、あの数の多さは寂しがり屋の結果と言うことなのか…」
「なんだか可愛いわ」
思いがけないヒュースの言葉に皆妙に和んでしまう。
「それにしても物凄い数だったが、お前の主はどれくらい抱えているんだ?」
【使い魔ですか?クレイ様の使い魔は250匹程でございますよ】
しかしその答えに皆が首を傾げる。
確かに多いが、どう考えても先程の使い魔の数はそれを大幅に超えているように見えたからだ。
しかしヒュースは何でもないことのようにその疑問へと答えた。
【ロックウェル様はご存知ですが、我々眷属もクレイ様が心配なため、多くの使い魔を子飼いとして飼っているのです】
だからその分だと言うことらしい。
【眷属も18体もおりますと、子飼いの数も全部合わせて千を越えるのでございます。そうですね…今はクレイ様の使い魔と我々の子飼いを合わせると二千も越えてきますかね…】
それが寝起きに全部一気に傍に感じられなくなって、焦って部屋を飛び出したのだろうとヒュースは言った。
「に…二千…」
「それは確かに急に居なくなったら焦るな…」
放し飼いにも程があるだろう。
【まあそんな訳ですので、クレイ様は暫く放っておいても大丈夫でございます。落ち着いたらこちらに顔を出してくださるようお話しておきますので、ロックウェル様はこちらを最優先でサクサクお片付けください】
「…わかった」
そしてあっという間に静かになったヒュースに皆が感心したように頷いた後、また仕事へと戻っていった。
***
翌日、ヒュースが言っていたようにクレイは申し訳なさそうにこっそり第一部隊の方へと顔を出してきた。
けれど他の者にはあまり会いたくなかったのか影を渡って直接こちらへ来たらしい。
「その…昨日は騒がせてしまってすまなかった。何か面倒は起きていないか?」
そんなクレイに第一部隊の者達はプッと楽しげに吹き出した。
この姿は昨日の王に対しての不遜な態度とは程遠く、ロックウェルの隣で仲良く話すいつも通りのクレイの姿と一緒だった。
どうやら本人は本当に身分には無頓着らしい。
それならそれでこれまで通りの接し方のほうがいいだろうと皆が判断する。
「こちらは大丈夫よ。クレイの方が大変だったんじゃない?」
「眷属や使い魔は落ち着いたのか?」
「ああ。こっちも大丈夫だ」
問題はないと答えるクレイに皆がホッと息を吐いたちょうどその時、ショーンが誰かを連れて執務室へとやってきた。
「ロックウェル。あ、なんだ。クレイも来ていたのか。それなら話は早い」
そう言ってその相手を前へと押し出す。
「悪いが牢がいっぱいで、こいつを釈放してもいいか聞きに来たんだが…」
その言葉と同時にその場にいた黒魔道士三名とロックウェルがクレイを庇うように前へと出た。
ここでまた眷属が騒いではたまらない。
「ショーン…。悪いがそいつはクレイを襲った奴だ。近寄らせるわけにはいかない」
その言葉に他の皆もエッと驚きに目を見開く。
「いや。軽く事情は聞いたが、今は只人なんだろう?釈放しても大丈夫かと…」
「ショーン!リーネが言っていたが、そいつは釈放されたら魔力を返してもらいに俺の家まで来ると言っていたぞ?そんな奴を釈放されたら怖くて家に帰れない!」
「え?じゃあ今返して…あ、でもそれだと罰にならないのか…う~ん…困ったな」
そうやって悩むショーンを振り切り、アベルがクレイの方まで走ってくる。
「クレイ!私が悪かった!この通りだ!なんでもするから私を魔道士に戻してくれ!」
「………」
「なんなら踏みつけてくれてもいいし、詰ってくれてもいい!本当にどんな事でも受け入れるから!」
この通りだと土下座したアベルに流石にクレイもほんの少し情が湧く。
「…本当に反省しているのか?」
「もちろんだ!」
「………わかった。まあ未遂だし、今回は許してもいい」
そう言ってそっとロックウェル達を脇へと下がらせ、そのままアベルの額へと手を翳しながら呪文を唱える。
「お前の罪を許す」
そしてその言葉と共にアベルの身に元通り魔力が戻り、その場にいた者達はまた驚きに目を見開いた。
「は…ハハッ!やった!やった!!」
アベルは余程嬉しかったのか身を震わせて歓喜の叫びを上げたのだが、クレイはもう興味がないとあっさりと背を向けてしまう。
「さっさと帰れ…」
そう言ったところで、アベルが喜びのあまりクレイに抱きついたのはタイミングが悪かったとしか言いようがない。
「……~~~~っ!!この変態!」
バシィッ!と勢いよく魔法で壁まで吹き飛ばされアベルは激しく咳き込む羽目になった。
大丈夫かと周囲の者が慌ててアベルに近寄るが、当の本人は自分で回復魔法を唱えて物凄く嬉しそうだ。
「魔法が使える!使えるぞ!」
「当たり前だ!二度と勝手に口づけたり抱きついたりするな!」
涙目で怒るクレイに周囲の者がオロオロしていると、そっとロックウェルが背後から抱きしめて落ち着けと声を掛ける。
「すぐに王宮から追い出すから心配するな」
「ロックウェル…」
「そうよ。心配で暫く家に帰れないなら王宮で寝泊まりすればいいわ」
ここの警備は万全だからとシリィも笑顔で勧めてくれる。
「怖かったんでしょう?家に帰らなくても暫くロックウェル様の部屋に泊まらせてもらったら?それなら一人じゃないし、安全でしょ?」
「え?」
「それは名案だな。私がいればお前も安心だ」
「…え?いや、それなら別にソレーユでも…」
「あら!ここの方が絶対安全よ!」
「いや…ここは色々面倒だし。それにロイドが困ったらいつでも頼ってくれって言ってくれていたから…」
「ロイドが?」
「ああ。一緒に暮らさないかとこの間も言ってくれて……」
その言葉に場の空気が一気に凍る。
「…クレイ。聞いてないんだが?」
「へ?ああ、この前飲み会でそんな事を…」
そうやって言葉を続けようと思ったところで、シリィが爆弾を落とした。
「クレイの恋人って、ロイドだったの?!」
その言葉と同時にロックウェルの口から底冷えするような声が紡ぎ出される。
「クレイ…どうやらまた話し合いの必要がありそうだな?」
「ロ、ロックウェル?」
蒼白になりながらフルフルと震えるクレイに、ロックウェルが冷たく笑う。
それは言わなくてもわかるだろうと言わんばかりだ。
明らかに怒っている。
「…わかった!ソレーユじゃなくてちゃんとお前の部屋に滞在するから…!」
「当然だな」
そしてそっとクレイから身を離すと、妖艶に笑いながら一言告げた。
「ちゃんといい子で待っていろ」
「~~~~っ!誰が大人しく待つか!このドS!」
クレイは真っ赤になりながらそのまま執務室を飛び出していく。
もうこれは二人が付き合っているのは一目瞭然だ。
気づいていないのはシリィくらいではないだろうか?
そんなシリィにロックウェルは笑って釘を刺しにかかる。
「シリィ?今の発言は問題だ。ロイドはただの友人だぞ?私が以前クレイを誰にも渡す気はないと言った言葉をよく考えるんだな」
「え、いきなりなんです?ロックウェル様だって友人でしょう?そうやって勝手に独り占めしないでください!それにあんな風にからかったらクレイが可哀想ですよ?全く…」
ぷんぷんと可愛く怒るシリィに、あそこまで言われて気づかないって凄いなと、皆は深いため息をついたのだった。
もうすぐヒュースが言っていた小一時間だ。
王宮内の騒ぎもそろそろ落ち着いてきたようだと報告が入った。
「ロックウェル様。クレイの様子はいかがですか?」
シリィとアレスがやってきて尋ねてくるが、クレイの意識はまだ戻りそうになくただ首を振ることしかできない。
「解毒はできているでしょうし、やはり目を覚まさないのはこの眷属達の暴走に起因しているのでは?」
後からやってきた黒魔道士のサイファとメロウも心配げに声を掛けてきた。
「ただでさえ一昨日の今日でしょう?きっと精神的な負担も大きかったのではないでしょうか?」
彼らは一昨日クレイに会いに来ていた者達だ。
だからこそクレイを慮ってくれた。
「ロックウェル様。それなら我々で回復魔法を掛けてみてはいかがでしょう?」
「ああ。それはいいかもしれません。先日何があったかは知りませんが、精神疲労からくるものなら回復魔法で目を覚ますかも…」
その言葉を受けて白魔道士三人でクレイに回復魔法を試みる。
そしてパァッとクレイの体が光に包まれフワリと温かな光が消えると同時に、ゆっくりとその瞳が開かれた。
「あ…」
シリィが焦ったように声を上げるが、この場にいる者は一人を除きそのほとんどがその紫の瞳を知る者ばかりだ。
「アレス。この事は…」
「わかっております。むしろ納得がいきました」
別に驚きはしないと言い切り、アレスはそっとロックウェルをクレイの元へと促した。
「クレイ。具合はどうだ?」
どこか気分が悪かったりしないかと尋ねようとしたところで、クレイがガバッと勢いよく飛び起きた。
「どうして?!」
そしてそのまま部屋を飛び出し一目散に広間の方へと走って行ったので皆で慌てて後を追う。
一体どうしたと言うのか────?
「ヒュース!コート!バルナ!カルディア!ミラン!レオ!皆!」
眷属の名を順に呼び走るクレイはどこか泣きそうだ。
そして広間の扉を勢いよく開けたところで、やっとホッとしたように足を止めた。
「良かった…みんな無事で…」
そんなクレイに追いついた面々がただ成り行きを見守る中、クレイが自分の眷属と使い魔達へと声を掛ける。
「戻ってこい。お前達が傍に居てくれないと寂しくて仕方がない」
そんな切ない声を聞いて、怒りに満たされていた使い魔達と眷属達が一気に大人しくなり、我先にとクレイの元へと帰っていく。
【クレイ様。お側を離れて申し訳ございません】
【お体の方は大丈夫でございますか?】
「ああ。みんなで回復してくれたようだから心配するな」
【それはようございました。クレイ様に何かあれば、我らこの場にいるものを皆殺しにしてしまうところでございましたよ】
「またそんな冗談を。優しいお前達がそんな事をするはずがないだろうに」
クスリと笑うクレイに眷属達はどうですかねと笑うだけだ。
そんな光景をその場の者達がただ呆然と見つめ、ハッと我に返った者達から次々とその場に平伏し始めた。
「クレイ。とりあえず落ち着いたら瞳は…」
ロックウェルもそれらを見てやっと我に返り、すぐさま瞳を隠すよう声を掛けたのだが、時既に遅し。
王がそれよりも早く声を上げたのだ。
「クレイ!無事で良かった。皆、これこのようにクレイは私の息子である!」────と。
***
クレイは王の言葉にしまったと思わず目を押さえてしまう。
どうしてこう迂闊なのか…。
どうもここ最近気が緩みまくっているような気がする。
「もうバレているし隠すこともない。大体私が認めた時点で素直になれば良かったのだ」
そんな王の言葉にクレイがイラッと返す。
「そんな仕事に支障をきたす事ができるものか。大体認めてくれなくていいと言っただろう?継承問題に巻き込まれるのも御免だと言ったはずだ」
「だがお前が私の血を引いている事は明白だ。もう隠すのも面倒だし、これを機にここで宣言させてもらう」
「…じゃあもう二度と俺は王宮には来ない」
「ロックウェルに会えなくなってもいいのか?」
「…外で会うからいい」
「仕事を詰め込んでやってもいいのだぞ?」
「卑怯な事を言うな!このっ…!」
「ではハインツの教育係はこれからも続けてくれるな?」
そんな二人のやり取りに皆はハラハラとするばかり。
「…………!!瞳の封印は続けるし、これ以上の周知をしないのが絶対条件だ!」
「善処しよう」
そうやって話をつけるとクレイはすぐさま瞳を封印し直して、帰ると言い踵を返した。
「不愉快だ!」
その不遜な態度は誰がどう見ても親子だなと感じるもので、最早誰一人疑問も文句も口にする事はできなかった。
「あれあのように息子は頑ななのでな。皆、口外はせぬように」
その言葉にその場に詰めていた第一部隊の者達全て含めその場で深く頭を下げる。
そんな中、ルドルフが王へと声を掛けた。
「陛下。それでこの問題はどう収拾を図ることに?」
全員拘束はされているようだがと尋ねたルドルフに、王はなんでもないことのように口を開く。
「クレイを殺せと言ってきたのでな。全員鞭打ちにしてやる予定だ」
その言葉に拘束された者達が次々と懇願の声を上げ始める。
「陛下!どうぞお許しください!」
「陛下のご子息とは知らなかったのでございます!」
「お許し頂けるのであればクレイ様が黒魔道士として王宮に出入りしても誰にも文句を言わせぬよう尽力させていただきます!」
「陛下とクレイ様の仲が良くなるよう我々も手を尽くさせていただきます」
「どうぞ御慈悲を…!」
その言葉に陛下が暫し考えショーンを呼ぶ。
「…ショーン。悪いが取捨選択して、極悪人のみ牢に放り込んでくれぬか?」
使えそうな者は釈放しても構わないと口にした王に皆がホッと息を吐く。
「かしこまりました♪」
こうして裁量はショーンの手へと委ねられた。
***
【ロックウェル様。お傍を離れまして申し訳ございません】
「ヒュース。クレイの傍に居なくて大丈夫なのか?」
ロックウェルがショーンのために王宮魔道士を動かし順次取り調べに手を貸していると、徐にヒュースが声を掛けてきた。
【クレイ様がロックウェル様の元に戻れと仰いましたので…】
「そうか」
そんなやり取りに近くにいた魔道士達が話しかけてくる。
「ロックウェル様。こちらは我々で捌きますのでクレイの元へ向かってやってはいかがです?」
「そうですよ。先程まで意識がなかったので状況もよくわかっていないでしょう」
その言葉にロックウェルはそれもそうかと思いつつ、クレイが今どうしているのかをヒュースへと尋ねてみた。
「ヒュース。今クレイはどうしている?」
【クレイ様ですか?どうも先程余程お淋しかったのか、今は自宅で眷属や使い魔と沢山触れ合っておりますよ?】
だから正直こちらの状況などは気にも留めていないだろうとスッパリと言い切った。
「…そんなにクレイは寂しがり屋なのか?」
【ですから以前言ったではありませんか。クレイ様は寂しいからと眷属や使い魔を増やしていくような方ですよ?先程の全員お傍から離れた件は相当衝撃だったようで…あまりにお寂しそうだったので、皆で謝り倒しております】
そんな言葉に第一部隊の者が目を丸くした後クスクスと笑い始めた。
「つまり、あの数の多さは寂しがり屋の結果と言うことなのか…」
「なんだか可愛いわ」
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確かに多いが、どう考えても先程の使い魔の数はそれを大幅に超えているように見えたからだ。
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だからその分だと言うことらしい。
【眷属も18体もおりますと、子飼いの数も全部合わせて千を越えるのでございます。そうですね…今はクレイ様の使い魔と我々の子飼いを合わせると二千も越えてきますかね…】
それが寝起きに全部一気に傍に感じられなくなって、焦って部屋を飛び出したのだろうとヒュースは言った。
「に…二千…」
「それは確かに急に居なくなったら焦るな…」
放し飼いにも程があるだろう。
【まあそんな訳ですので、クレイ様は暫く放っておいても大丈夫でございます。落ち着いたらこちらに顔を出してくださるようお話しておきますので、ロックウェル様はこちらを最優先でサクサクお片付けください】
「…わかった」
そしてあっという間に静かになったヒュースに皆が感心したように頷いた後、また仕事へと戻っていった。
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翌日、ヒュースが言っていたようにクレイは申し訳なさそうにこっそり第一部隊の方へと顔を出してきた。
けれど他の者にはあまり会いたくなかったのか影を渡って直接こちらへ来たらしい。
「その…昨日は騒がせてしまってすまなかった。何か面倒は起きていないか?」
そんなクレイに第一部隊の者達はプッと楽しげに吹き出した。
この姿は昨日の王に対しての不遜な態度とは程遠く、ロックウェルの隣で仲良く話すいつも通りのクレイの姿と一緒だった。
どうやら本人は本当に身分には無頓着らしい。
それならそれでこれまで通りの接し方のほうがいいだろうと皆が判断する。
「こちらは大丈夫よ。クレイの方が大変だったんじゃない?」
「眷属や使い魔は落ち着いたのか?」
「ああ。こっちも大丈夫だ」
問題はないと答えるクレイに皆がホッと息を吐いたちょうどその時、ショーンが誰かを連れて執務室へとやってきた。
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そう言ってその相手を前へと押し出す。
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ここでまた眷属が騒いではたまらない。
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その言葉に他の皆もエッと驚きに目を見開く。
「いや。軽く事情は聞いたが、今は只人なんだろう?釈放しても大丈夫かと…」
「ショーン!リーネが言っていたが、そいつは釈放されたら魔力を返してもらいに俺の家まで来ると言っていたぞ?そんな奴を釈放されたら怖くて家に帰れない!」
「え?じゃあ今返して…あ、でもそれだと罰にならないのか…う~ん…困ったな」
そうやって悩むショーンを振り切り、アベルがクレイの方まで走ってくる。
「クレイ!私が悪かった!この通りだ!なんでもするから私を魔道士に戻してくれ!」
「………」
「なんなら踏みつけてくれてもいいし、詰ってくれてもいい!本当にどんな事でも受け入れるから!」
この通りだと土下座したアベルに流石にクレイもほんの少し情が湧く。
「…本当に反省しているのか?」
「もちろんだ!」
「………わかった。まあ未遂だし、今回は許してもいい」
そう言ってそっとロックウェル達を脇へと下がらせ、そのままアベルの額へと手を翳しながら呪文を唱える。
「お前の罪を許す」
そしてその言葉と共にアベルの身に元通り魔力が戻り、その場にいた者達はまた驚きに目を見開いた。
「は…ハハッ!やった!やった!!」
アベルは余程嬉しかったのか身を震わせて歓喜の叫びを上げたのだが、クレイはもう興味がないとあっさりと背を向けてしまう。
「さっさと帰れ…」
そう言ったところで、アベルが喜びのあまりクレイに抱きついたのはタイミングが悪かったとしか言いようがない。
「……~~~~っ!!この変態!」
バシィッ!と勢いよく魔法で壁まで吹き飛ばされアベルは激しく咳き込む羽目になった。
大丈夫かと周囲の者が慌ててアベルに近寄るが、当の本人は自分で回復魔法を唱えて物凄く嬉しそうだ。
「魔法が使える!使えるぞ!」
「当たり前だ!二度と勝手に口づけたり抱きついたりするな!」
涙目で怒るクレイに周囲の者がオロオロしていると、そっとロックウェルが背後から抱きしめて落ち着けと声を掛ける。
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「ロックウェル…」
「そうよ。心配で暫く家に帰れないなら王宮で寝泊まりすればいいわ」
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「怖かったんでしょう?家に帰らなくても暫くロックウェル様の部屋に泊まらせてもらったら?それなら一人じゃないし、安全でしょ?」
「え?」
「それは名案だな。私がいればお前も安心だ」
「…え?いや、それなら別にソレーユでも…」
「あら!ここの方が絶対安全よ!」
「いや…ここは色々面倒だし。それにロイドが困ったらいつでも頼ってくれって言ってくれていたから…」
「ロイドが?」
「ああ。一緒に暮らさないかとこの間も言ってくれて……」
その言葉に場の空気が一気に凍る。
「…クレイ。聞いてないんだが?」
「へ?ああ、この前飲み会でそんな事を…」
そうやって言葉を続けようと思ったところで、シリィが爆弾を落とした。
「クレイの恋人って、ロイドだったの?!」
その言葉と同時にロックウェルの口から底冷えするような声が紡ぎ出される。
「クレイ…どうやらまた話し合いの必要がありそうだな?」
「ロ、ロックウェル?」
蒼白になりながらフルフルと震えるクレイに、ロックウェルが冷たく笑う。
それは言わなくてもわかるだろうと言わんばかりだ。
明らかに怒っている。
「…わかった!ソレーユじゃなくてちゃんとお前の部屋に滞在するから…!」
「当然だな」
そしてそっとクレイから身を離すと、妖艶に笑いながら一言告げた。
「ちゃんといい子で待っていろ」
「~~~~っ!誰が大人しく待つか!このドS!」
クレイは真っ赤になりながらそのまま執務室を飛び出していく。
もうこれは二人が付き合っているのは一目瞭然だ。
気づいていないのはシリィくらいではないだろうか?
そんなシリィにロックウェルは笑って釘を刺しにかかる。
「シリィ?今の発言は問題だ。ロイドはただの友人だぞ?私が以前クレイを誰にも渡す気はないと言った言葉をよく考えるんだな」
「え、いきなりなんです?ロックウェル様だって友人でしょう?そうやって勝手に独り占めしないでください!それにあんな風にからかったらクレイが可哀想ですよ?全く…」
ぷんぷんと可愛く怒るシリィに、あそこまで言われて気づかないって凄いなと、皆は深いため息をついたのだった。
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快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
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書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
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