黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

87.父との再会

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「んんっ…」
朝、女装を終えてよし行くかと気合を入れた途端部屋を出る前にいきなり腕へと囚われ口づけに酔わされ、クレイは頬を染めながらロックウェルの魔力を堪能していた。

「はぁ…気持ちいい…」

うっとりと見上げてくるクレイを満足げに見遣り、ロックウェルはそのまま逃がさぬようにと抱きしめる。
「クレイ…」
「ん…これ以上は我慢できなくなるからダメだ」
「一回だけなら…」
「服が汚れるし、お断りだ」
「つれないな。こんなに愛してるのに」
「…一体何人の男女にそんな台詞を吐いたんだ?」
「お前だけだが?」
「嘘をつけ。ほら、遊んでないで行くぞ」
そんな言葉にクスリと笑ってロックウェルはクレイの腰を支えて部屋を出た。

「ほら。恋人らしく私に凭れていろ」
「…~~~っ!!ふざけるな!」
全く油断も隙もないと、怒って離れそうになったので逃がさないとそのまま指を絡めとって口づけてやる。
「クレイ…恋人同士だろう?」
「……そうだったな」
噂払拭だったとなんとか思い出させてそのまま二人で仲良く並んで歩き出した。

「でもどうして朝一緒に歩くだけで噂払拭になるんだろうな…」

こうして歩くだけならいつもと然程変わらないと思うのだがと、三日経ってもまだクレイは首を傾げていた。

「クレイ…。男同士なら友人同士に見えても、男女が朝から一緒にいれば夜を共に過ごしたと皆が思うに決まっている」

そうやって教えてやるとやっと気づいたのか、なるほどと納得してそっと頬を染めている。

「お前は本当に鈍くて可愛いな」
「…悪かったな」
「そう言うところも気に入っている」
「……」

フイッと照れて横を向くクレイに満足しながらそのまま執務室へと入ると、いつもの面々がいつもの様に出迎えるのでクレイはそのままではまたと立ち去っていった。

「あーあ。彼女照れ屋なのか全く話してくれないんですよね」
「まあ照れ屋なのはあるかもしれないが、私が話すなと言っているからな」

サラリとそうやって言ってから仕事に取り掛かると、皆が楽しげに勝手に誤解していく。

「ロックウェル様って独占欲が強いんですね」
「まあな。否定はしない」
「彼女可愛いから、ここから帰る時に誰かに狙われちゃうんじゃないですか?」
「相手にするなと言っているし、何かあればすぐに潰してやるから言ってこいとも伝えておいた」
「ひゃー!ロックウェル様ったら怖い!」

そうやって茶化してくるいつもの連中を適当に受け流し仕事をしていると、シリィがそう言えばと言ってきた。

「今日は陛下がこちらの方まで足を運ぶと仰っていましたが、何かあるんですか?」
「ああ。魔道士達の普段の仕事ぶりを見ておきたいと仰ってな」

最近魔道士達が全体的に弛んでいると思われてしまったようだからそのせいだろうと答えると、納得がいったとシリィが頷いた。

「じゃあ益々皆には気を引き締めてもらわないと!」

そうしてパンパンと手を叩いて皆を仕事へと促していく。

「陛下がこちらに来られるそうだから、皆真面目に仕事をするように!」

その言葉と共に皆が口を噤んでまたキビキビと動き出す。

「さてと…私も頑張るか」

そうしてまた書類を片付け始めた。


***


「ほら…あの方…」
「え?ロックウェル様の…?」

クレイが回廊を歩いていると早速と言うように噂話が耳へと飛び込んできた。

(どうやら上手く言っているようだな)

この姿になってから三日で既に効果が出始めているようだから、この分なら一週間もすればリーネとロックウェルの噂は消えてしまうだろうと思われた。
リーネにもこの作戦の事は伝えて「助かる」と言われたし、何ら問題はなさそうだ。
そう思いながら進んでいると、前から来る王の姿に気が付いた。
あちらもクレイに気が付いたようだが、スッと脇に下がったクレイに何も言わず横を通り過ぎようとしてくれる。
これはもはや暗黙の了解と言ってもいいだろう。

けれど一緒にいた背の高い男が徐に自分へと声を掛けてきた。
「…これ、そこの者」
「は…。私の事でしょうか?」
「ああ。顔を上げてくれないか?」
そうしてそっと顔を上げると、そこには見知った顔があった。

(…お元気そうでよかった)

記憶を操作しレイン家を出たため彼は自分の事を覚えてはいないだろうが、クレイは育ての父の元気そうな顔が見れて嬉しかった。
母との別れはあのようなことになってしまったが、この父との最後の日はまた違ったものだったし、今二人に憂いがないのならそれでいい。




「クレイ…どうした?」
あの日────突然自分の前へと現れたクレイに驚きながらもそうやって言葉を掛けてくれた父。
この父はいつも自分を見ると何か言いたそうにはしても、結局言葉にすることもなく背を向けることが多かった。
けれどあの日は何か話があるのではないかと、尋ねてくれたのだ。
だから思い切ってレイン家を出ようと思うと伝えてみた。
そんな彼から返ってきたのは驚きの眼差しと、辛そうな顔。そして申し訳なさそうな顔だった。

「お前に何もしてやれない親ですまない…」

そんな父にもう苦しまなくてもいいからと伝えて、魔法を使った。
多分父はずっと悩んでいたのだろう。
自分が王の子であることを承知の上で、どう扱っていいのか…悩んでいた。
このままレイン家の子として育てたらいいのか、いつか王に返すべきなのかわからず、結局時だけが過ぎたのだと思う。
だからそんな父を楽にしてやりたかった。
そんな父が今、自分の目の前に立っている────。




「不思議だな。お前は私の妻の若い頃に少し面影がある気がする」
「…光栄でございます」
「名は…なんと?」
「……クレアと」
「そうか。覚えておこう」
変装しているというのに、父が僅かな自分と母の共通点を見つけてくれた。
何故かそれが嬉しく感じられて、クレイは暫くその場で動くことができずただ静かに頭を下げたのだった。


***


「ドルト…。今の者はそれほどお前の妻に似ていたか?」
「ええ。何故か…どこか懐かしいような気がしたので顔を上げさせましたが、よく見るとやはり妻の若い頃にどこか似ておりました」
「そうか…」

王は自分の片腕と話しながら先程すれ違ったクレイに思いを馳せる。
自分の息子でありながら不遜で、王の子であるなど認めてくれずとも結構だと言い放ったクレイ。
ハインツなどはクレイに懐いているようだが、正直自分としてはクレイの事が苦手でしかなかった。
親として何かしてやりたい気持ちもあるが、どうしてやるのが一番いいのかがさっぱりわからない。
取りあえずただの黒魔道士として接してやれば満足なのだろうと思い、先程は声も掛けずそのまま素通りしようと思ったのだが、思いがけずドルトが声を掛けたので焦ってしまった。

しかし先程のクレイの表情を見て、自分は何もわかっていなかったのだと実感してしまった。
クレイの認識では、父親は王である自分ではなくドルトだったのだ────と。
ドルトの顔を見たあと、ほんの一瞬どこかホッとしたような嬉しそうな表情を浮かべた。
その顔はすぐに隠してしまったが、自分に対する態度とは明らかに違っていた。
そこには確かな気遣いと、敬意があったのだ。

(まさか…こうも違うとはな……)

自分が見捨てた子ではあるが、それを嫌と言うほど実感させられて胸が締め付けられる。
けれどこの関係は今更どうすることもできないのだ。

(王の子としてではなく、レイン家からロックウェルに嫁ぐと言う方がクレイは喜んだのかもしれないな…)

何故また女装していたのかは知らないが、もしやロックウェル絡みだろうか?
あとでショーンにでも訊いてみようと思い、そこでふと二人の関係についてどう思うかドルトにも聞いてみたくなった。

「時にドルト。お前に息子がいたとして、相手が男だった場合お前ならどうする?」
「は?」
「たとえばの話だ」
「さっさと別れさせます」
「…そうか」

これは聞くべきではなかったかと話をそこで終わらせようと思ったが、ドルトは珍しく饒舌に続けて言葉を紡いでくる。

「幸せになってくれればいいですが、この国では同性婚は認められておりませんので」
「ふむ。なるほどな」

それは確かにと考えて、それなら無理に女装させてロックウェルに嫁がせるよりも法改正でも考えた方がいいのだろうかと思い直した。

「なかなか難しいものだな」

幼き頃その存在を見捨てたとはいえ、クレイが我が子であることには変わりはない。
それならば僅かなりともこれまでの償いに動いてみようかと思えて、他にもできることはないかと王は考え始めた。

「陛下。今日は魔道士の視察でございましょう?」
「ああ。そうだな」
「先日貴族の者が数名、黒魔道士について意見書を提出してまいりました」
「ああ。黒魔道士は不要ではないかと言ってきたやつか」
「ええ。黒魔道士の王宮仕事は主に調査、追跡、呪の解除等ですが、その本質は攻撃魔法を得意とする者達。護衛や戦の際は役に立つこともあるが、平和な現状ただの無駄な人材であるとの意見も多く、いっそ第三部隊を閉鎖して第一部隊の黒魔道士だけでよいのではと言ってまいりました」
「まあ一理あるな。お前はどう思う?」
「私は…そこで大幅に減らせば白魔道士が黒魔道士よりも優秀だと驕り、却ってマイナスになってしまうのではと懸念しております」
「なるほどな」

それは確かにと頷かざるを得ない。

「私には魔力がないため、ただの一意見としかなりませんが…今回の件にいたしましては現状維持をご推奨させていただきます」
「わかった」

魔道士長が白魔道士であるロックウェルに変わった時点でこれまで黒魔道士を疎んじていた輩が動き始めた。
正直自分としても前魔道士長であるフェルネスがハインツに呪を掛けていたと知った時点で黒魔道士に対して良い印象はない。
けれどそこからハインツを助けるために尽力してくれたのは、他の誰でもない黒魔道士であるクレイだった。
ここで下手に黒魔道士を全て排除する気になれないのもそのせいだ。
ここはドルトの意見を取り入れるのが一番だろう。

「では皆の仕事ぶりを見に行くとしよう」

そうして第一部隊へと二人で足を向けたのだが…。




「終わった?」
「はい。申し訳ございません。第一部隊は優秀な者が多く、陛下が来ると言う情報がきた途端皆が皆張り切って仕事をこなしてしまい、あとは雑用を残すのみとなってしまいまして…」

概ね今日の仕事は終わってしまったのだと申し訳なさそうに応対に出たシリィが説明をしてくれた。

「……そうか」

これはどう考えても仕事の量と人の数があっていないのではないだろうか?
やはり人材は減らす方に動いた方がいいのかもしれない。

「では第二部隊の方に行ってみることにしよう」
「本当に申し訳ございません」

するとそこでドルトが声を掛けてくる。

「それならば第一部隊の者達を連れて一緒に第二部隊と第三部隊を回ってみてはいかがでしょう?」
「え?」
「第一部隊は白魔道士と黒魔道士が両方いると伺いました。それぞれの目線から見た第二部隊、第三部隊について意見が聞ければ陛下の判断基準にもなるかと…」
「確かに。それは良いやもしれぬ」

そして焦るシリィにすぐに皆を集めるようにと声を掛けた。
「だ、第一部隊全員でしょうか?!」
40名全員を集めるのかと聞かれたのでそうだと答えるとすぐさまロックウェルに可能か尋ねてくると言い、あっという間に去ってしまう。
そして暫くして、ロックウェル本人がやってきて意見を聞いてくれた。

「陛下とドルト様のご意見はよくわかりました。私の方に少し仕事があり補佐もニ、三人必要ですので、それ以外の黒魔道士18名、白魔道士19名でいかがでしょう?」
「ああ。勿論仕事の方を優先してもらって構わない」
その返事と共にロックウェルがすぐさま皆を集めてくれる。
「皆、くれぐれも粗相のない様に」
自分は同席できないからとそのように言い含め、ロックウェルは第一部隊の者を貸し出してくれた。
そしてそのまま皆でぞろぞろと第二部隊の方へと足を向ける。



「陛下!ようこそいらっしゃいました」
隊長であるカインが笑顔で出迎えてくれ、コーネリアが後を引き継ぐ形で案内してくれる。
そうして皆の修練ぶりを見せてくれるが、正直申し分ない出来としか言いようがない。

「問題はなさそうだな」

けれどそれを第一部隊の黒魔道士がクスリと笑いながら意見を言ってくる。
「こんなの見せかけだけですよ。第一部隊のサボってばっかりの能天気白魔道士の方がよっぽど優秀です」
「そうそう。あいつらが片手間に掛ける拘束魔法はえげつないですよ」
それに比べたらこんなものは大したことはないとせせら笑った。
「おいおい。言ってくれるなルーシュ」
「本当の事だろう?なあアリア」
「あら。片手間に掛ける拘束魔法って私が掛けた魔法の事だったのかしら?」
「もちろん」
「あれは貴方がこっそり仕事が終わる前に抜け出そうとしたからでしょうに」
そうやって仲がいいのか悪いのか言い合いを始めた第一部隊の者達に、ドルトがコホンと咳払いをする。

「私語は謹んで、問題点のみを明確に陛下にお伝えしていただけると助かります」

そんな言葉に皆がハッと身を引き締める。
「申し訳ございません。私共が見る限りではありますが…確かに色々甘い点が見受けられます。まず第一に、拘束魔法を試みるのなら、相手は全力で逃げに回り対抗魔法も全力で唱えた上で、そこを拘束するという鍛錬が肝心かと。今のままではただの遊びとしか思えません。これではいざと言う時に果たして役に立つのかどうか…」
「なるほど」

そんな意見に第二部隊から、ですがと強い反発の声が上がる。
「それではあっという間に魔力切れになってしまいます!」
「そうです!それでは鍛錬にはなりません!」

けれどそんな意見を第一部隊はバッサリだ。
「何のための回復魔法だ?お前達は白魔道士だろう?」
グサッと突き刺さるその言葉に皆二の句が紡げない。
「そもそも鍛練法に問題があるな。四チームに分けて対抗魔法チーム拘束魔法チーム、回復魔法チーム、休憩チームに分けてローテーションで回して行けばいいのに…」
他にも色々な意見が出てそのどれもが実に有意義なものだった。
それを一つ一つ丁寧にドルトが紙へと記入していく。
王もそれらの意見を元にどう改善していくか考えることができ、非常に参考になった。

「よし、ではそろそろ第三部隊に行くとしよう」

自信があっただけにすっかり意気消沈してしまった面々を置いて、続いて第三部隊の方へと皆で向かう。




扉を開けてすぐに目に飛び込んできたのはローテーションで戦いまくる第三部隊の者達の姿だった。
「今度こそ当てる!!」
「やってみなさいよ。できるものならね!」
どうやら演習場全てに特殊な結界が張られているらしく、ある一定条件の元でしか魔法が使えないようにされているらしい。
しかも余程集中して攻撃しないと魔法がブレて相手に当たらないようだ。
隊長であるリーネが見守る中、チームが四つに分けられ二チームずつ対戦させているようだった。
休んでいる者達も戦っている者達を見ながら次に自分達がどう戦うのかシミュレーションしているらしく、誰もこちらを見てこない。
そして暫く見ている間に時間が来たのかリーネが終了の合図を出した。
「そこまで!反省点を自分なりに考えて報告!その後各自暫しの休憩とする」
「はい!」
そしてリーネがやっと自分達の方へとやってくる。

「お待たせして申し訳ございません陛下」
「いや。実戦練習が見れて良かった」
「ありがたきお言葉痛み入ります」
そんなリーネにまずは素晴らしかったと声を掛け、今のはどういった訓練なのか、いつから始めているのかと次々尋ねていく。

「これは全てカルロから引き継いだ訓練法なのか?」
「いいえ。友人が教えてくれたものを自分なりにアレンジして生かしてみました。どうも実力も足りないのに偉そうな事を言う者が多かったので懲らしめてやろうと思いまして」
ふふふと実に楽しそうに言うリーネに第一部隊の者達が声を掛けた。

「なかなか面白そうな結界だな。これが噂のクレイ直伝の結界か?」
「そうよ。凄くいいでしょう?彼曰くレノバイン王が実際に部下育成で用いた結界魔法なんですって」
「それは凄い!俺も混ざってやってみたいな」
「…第一部隊の面々のレベルに合わせて結界を張り直したら第三部隊はほとんど攻撃できなくなっちゃうわ」
「別にいいじゃん。一回やってみろよ」
「…まあいいけど」

じゃあ希望者だけでと言ってリーネはそこに張っていた結界を一度解き、改めて結界を第一部隊の面々に合わせて張り直した。

「面白れ~!俺も参加しようっと!」

第一部隊の黒魔道士達が楽しそうに目を輝かせて参加する中、白魔道士達の中にもちらほらと参加者が現れ、場はちょっとした力試しの場へと変わってしまう。

「思いがけない展開になりましたね」

ドルトが興味深げに頷き、王もまた見そびれてしまった第一部隊の力量を別の観点で測れると、成り行きを興味津々で見守っていた。

そこからは王宮魔道士同士の実力の世界で非常に見ごたえがあり、途中で面白いとリーネまで参加してなかなかの奮闘を見せてくれた。
これを見る限り、第一部隊とは言え実力は実にさまざまで、得意不得意とするものもあるのだと言うのがよくわかった。
頭の回転が速く仲間の補佐に長けた者、目配り気配りに長けて仲間の消耗をいち早く察しすぐさま動ける者、黒魔道士でも相手の力量に合わせて最も効果的な攻撃をするのに長けた者、チームワークよりも一人で動く方が向いている者などなかなか見ていて面白い。

「それまで!」

副長とリーネに指名されたらしい男が時間と共にそう声を上げると、皆が示し合わせたかのようにピタリと動きを止めすぐさまやめたのも興味深かった。
これはロックウェルの教育の賜物だろうか?
実に統制が取れている。

「はぁ…久しぶりに面白かった」
「最近使ってなかった魔法が試せて楽しかったな」
「あ~第一部隊でもたまにこういうことやってみたいな~。暇な時間が多いんだから、演習場作ってくれればいいのに」
そう言ってワイワイと盛り上がる面々の意見もドルトが次々に書き記していく。

「ふむ。なかなか第三部隊の者達にも良い刺激に繋がったようですね」
「そうだな。それなら月に二、三度各部隊の演習場で第一部隊も演習を行うようにすればどうだろう?」
「それは良いかもしれませんね。後で他の意見と共にまとめて、ロックウェル魔道士長に伺ってみることに致しましょう」

こうしてその日の視察はなかなか実りあるものとして終わりを迎えた。


***


「いや~まさかリーネがこの短期間であんなに成長しているとは思ってなかったな~」
「あいつもちゃんとできるんだ」
「それよりあの魔法、俺も覚えたい!」

そんな言葉と共に第一部隊の面々が執務室へと戻ってきて、場は一気に賑やかになる。
しかも珍しく黒魔道士と白魔道士が仲良く話す姿も見受けられ、一体何があったのかと気になってしまった。

「ねえ、何があったの?」

シリィがこっそり尋ねると聞かれた方のシオンがあっさりと教えてくれたのだが…。

「えぇっ?!」

まさか第一部隊の面々で汗を流してきたと聞かされるとは思ってもみなかった。
これはロックウェルに報告を入れなくても大丈夫なのだろうか?
そう思っていると、大丈夫だとシオンが笑いながら言ってくる。

「ロックウェル様への報告はアレスがしてくれるってさ」
「そう。よかった」

ちらりとそちらを向くとちょうどそれらを順に報告しているらしく、ロックウェルも真剣に報告を聞いているようだった。




そして昼の休憩後はハインツの教育があるから今日の仕事はこれ以後明日に回すようにと言い置いて、ロックウェルがそっと席を立った。

「あ、ロックウェル様。もしかしてお昼はクレイと一緒ですか?」

ふとその考えに至った者が声を上げるとロックウェルはそうだと答えたのだが、それを聞きつけた者達がそれなら皆で食堂に行こうと言い出した。

「……打ち合わせもあるから却下だ」
「え~?!それなら今日の夜に一緒に飲みたいと伝えてください」
「そうですよ!折角だし飲み会でもしましょうよ」
「私も一度ゆっくりと話してみたいです!」

そうやって口々に言うものだから、ロックウェルとしても断りにくかったのか、じゃあ後で聞いてみるとだけ答えてくる。

「絶対ですよ!」
「…ああ」

そうして皆は笑顔でロックウェルを見送ったのだった。



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