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第一部 アストラス編~王の落胤~
83.王妃の行方
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「おはようございます」
二人で執務室方面へと向かっていると緊張した様子のリーネと出くわしたので、さりげなくクレイを背後へと庇う。
また纏わりつかれてはたまらない。
「ク…クレイ。その…大丈夫?」
そうやって気遣うように尋ねてくるリーネにクレイがきょとんとしたように答えた。
「何のことだ?」
「…ロックウェル様に酷く叱られなかったかしら?」
「…?ロックウェルとは昨日からずっと仲良くしているし、別に今のところ叱られるようなことはないが?」
その言葉に本当かと疑いの眼差しを向けてくるが、そう言えばすっかり忘れていたなと思い出す。
「クレイ。リーネは飲み会で喧嘩した話を聞いて心配してくれたんだろう」
「ああ。そうか。あれはロックウェルが宿屋まで迎えに来てくれたからもう大丈夫だ」
ちゃんと仲直りしたから問題はないと笑顔で応えたクレイにリーネは複雑そうな顔をしたが、ロックウェルは妖艶に笑いかけてやった。
「クレイの事は誰よりも慈しんでいるから心配はするな」
「……ロックウェル様のその表情、クレイはどう思っているんでしょうね?」
ドS全開ですよと蒼白になるリーネに、クレイがそっと顔を上げてくる。
「…ロックウェル。その顔で魅了するのは俺だけにしてくれないか?」
「リーネは別に見惚れてはいないぞ?私のドSが好きなのはお前だけだろう?」
「俺はドSが好きなんじゃなくて、お前のその顔が好きなんだ」
綺麗だし色気もあってカッコいいだろうとクレイが嬉しそうに笑う。
クレイは恐らく気が付いていない。
自分がリーネに牽制をするためにわざとその流れに持っていった事を────。
惚気るクレイを見ればリーネも流石に勝ち目がないと悟ることだろう。
案の定リーネは悔しそうに唇を噛んでいた。
「クレイ…私、絶対に仕事でも、色気でもロックウェル様に負けないように自分を磨くわ!」
「…?ああ。楽しみにしている」
そしてリーネは話は終わりだとばかりに勢いよく第三部隊の方へと向かっていった。
これで彼女は益々仕事に精を出してくれることだろう。
そんな自分にクレイが少し考えてからそっと口を開いた。
「俺には何がどうなったのかさっぱりわからなかったが、やっぱりお前は部下のやる気を引き出すのが上手いな」
わかっているのかどうなのか、意外と鋭くそんなことを言ってきたクレイにフッと笑うにとどめる。
「さあ、どうかな」
そして取りあえずさっさと仕事を片付けてこの可愛い恋人を愛で倒そうと、執務室へと向かったのだった。
***
時は暫し遡る────。
アストラス国の第三王子、ニコラスと第四王子、ノーティアスは母ターシェがルドルフにより離宮に移されたのをそれはそれは悲しんでいた。
あの立派な兄がどうして最愛の母を陥れたのか?
一体いつの間に父と通じていたのか?
何もかもが信じられなくて、ただただ失意のどん底にいた。
そんな中、次兄であるサイナスがやってきて面白そうに言ったのだ。
「仕方がないだろう?自分達は王の子じゃないのだから」────と。
そしてお前達は報告書を読んだのかと尋ねられ、読んでいないと答えると、そうだと思ったと言われバサリと写しを渡された。
「まぁ、思っていた通りの内容だったし驚くようなことは何もない。私は兄上のお蔭で今ここにいて、地位も剥奪されずにすんでいるのだから文句もないしな」
お前達も割り切って楽しめばいいと言われ、恐る恐るその報告書へと目を通したのだが────。
「嘘だ!!」
バシッとその報告書を投げ捨てノーティアスは怒りに震えた。
「こんなもの、捏造だ!」
「…ノーティアス」
「兄上は信じるのですか?!私には到底信じられません!母上に直接聞くまでは絶対にこんなもの認めません!」
それならばとニコラスも提案する。
「一緒に離宮に行くか?」
「え?」
「母上に直接お会いしてお話を伺おう」
ただ、予め話を通しておくと目付け役などがつけられるかもしれないから誰にも言わずに行こうと言うことで話をつけた。
「わかりました」
そうして念のため最悪の事態も想定して準備を行い、二人の都合のつく日を示し合わせて二人だけで離宮へと馬を走らせる。
(母上…どうか嘘だと言って下さい…)
そんな風に一縷の望みをかけて離宮へとたどり着いたのだが……。
「お、お待ちください!ただ今お母上様にはご来客が…!」
焦ったように止めに入る使用人達を振り切って母の元へと足を向けそっと中の様子を窺うと、そこには男と寝る母の姿があった。
しかも相手は自分達も何度も会ったことがある叔父(父王の妹の夫)だったからたまらない。
「お前がここに来てから誰の目も憚らなくて良くなったな」
「本当に。返って清々したわ」
「ルドルフは幸い王の信頼も得たらしい。ハインツさえ上手く亡き者にすれば我が子が次王か…。悪くはないな」
「あら…あの子は陛下の子よ?」
「ああ、そうだったな」
こちらには気づかずハハハと機嫌よく笑い合う会話が漏れ聞こえてきて、二人は怒りに身が震えるのを感じた。
全く知らなかった母の裏の顔に怖気が走る。
一体どうしてくれようか……。
そこでニコラスが固い声で使用人へと声を掛けた。
「客人が帰ったところでこの香を母上に…」
土産に買ってきたものだと言う白々しい嘘に、使用人は蒼白になりながらもコクリと頷きを落とす。
「私達は別室にいるから、必ず使うように」
「は…はい…」
「このことは他言無用だ…」
「かしこまりました」
そうして叔父が去った後、部屋で香が焚かれ、意識を失った王妃を二人で馬に乗せて連れ去った。
勿論、実行犯の使用人には金をもらって黙ってここを去るか、死んでこの世を去るかの二択を迫って────。
そしてとある貴族の元にまで運びこみ、こう囁いた。
「お可哀想な母上は心労が祟って病になってしまわれた。暫く誰にも言わずにここで療養させてやってほしい」と────。
そして薬はまた届けると言って、そこから立ち去る。
後は少しずつ薬物漬けにして犯人をその貴族に仕立ててしまえばそれでいい。
「我々の心を踏みにじった母上には、それ相応の報いを受けていただく」
ニコラスは厳しい声でそう言い放ち、ノーティアスもまたその言葉にただ深く頷きを落とした。
***
「ルドルフ!」
「クレイ!」
やってきたクレイにルドルフが仕事の手を止め笑顔で出迎える。
周囲の官吏達はそんな二人にどうしたものかと視線を彷徨わせていた。
黒魔道士クレイについては王宮内でも取り扱いがわからないと思っている者が多い。
サシェの件での功労者ではあるが、王の再三の呼び出しを断った変わり者。
挙句他国へと逃げ王からの召還にも応じない。
そうかと思えばハインツ王子の件でフェルネスを捕らえるのに一役買ったとも聞く。
友人の言葉にしか耳を貸さない、取り扱い方がさっぱりわからない謎の黒魔道士なのだ。
そんなクレイは現在ルドルフとも親しくし、ハインツの教育係もしているらしい。
皆がどう接したものかと悩むのも無理はないだろう。
そんな面々にルドルフがクスリと笑う。
「皆、クレイは外部の魔道士ではあるが、ロックウェルと私の友人として好意的に接してもらえると嬉しい」
「…ですがルドルフ様。陛下のお怒りを買ってはと皆悩んでいるのです」
「ああ。それは大丈夫だ。陛下とクレイの件についてはもう蟠りも解けたからな」
「…左様でございますか?」
一体どんな蟠りだったのか気になると思いつつ、皆がそっとクレイの方を窺った。
女と見紛うばかりの美丈夫ではあるが、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出しているためどう考えても仲良くするのは難しい気がする。
容易に冗談で話を振れそうにもない。
しかも本人の口から飛び出すのは本当に好意とは程遠い言葉だけだ。
「そんなことはどうでもいいから、例の件で報告があるんだ」
「何かわかったのか?」
「ああ。どこか場所を移すか?」
「そうだな」
そして不敵に笑いながらルドルフを連れ去っていく。
「少しルドルフを借りるぞ」
「……では我々は他の仕事をしておりますので」
そう言って見送らざるを得ない。
(くそっ!黒魔道士め!)
そしてその官吏の中にもいた黒魔道士を敵視している貴族は、クレイに関しても何か対策は取れないものかと考え始めた。
「それで?母上の事が何かわかったのか?」
「ああ。ただお前には酷な話になるから、覚悟の上で聞いてほしい」
そう前置きしたクレイにルドルフは何やら思案する。
「もしやサイナスが何か?」
報告書の写しを持ち出した形跡があったのだとルドルフは厳しい表情で言うが、それは違うとクレイは言う。
「まあそれを見たのかどうかは知らないが、第三王子と第四王子が王妃を浚っていったのは間違いないようだ」
「ニコラスとノーティアスが?!」
それは予想外の事だったらしく、ルドルフは驚きに目を瞠った。
「ああ。二人で王妃を浚ってとある貴族の元に連れて行ったようなんだが、どうも様子がおかしい」
「…と言うと?」
「最初は王妃が二人を泣き落としたのかと思って調べさせたんだが、どうも王妃は療養中と言う名の監禁生活を強いられているようなんだ」
「監禁だと?」
「ああ。しかも様子がおかしいから、どうも薬を使われているんじゃないかと眷属は言ってきた」
「なっ…!」
「後はお前に任せるが、ショーンにも話を通してより詳しく調べてもらった方がいいかもしれない」
「…その監禁先の貴族の名は?」
「ジェイクロッド…」
「わかった」
すぐに調べると言ってルドルフは立ち上がる。
「クレイ。悪いがもしかしたらまた何か力になってもらうことが出てくるかもしれない」
「ああ。その時はまた言ってくれ」
「助かる。ロックウェルが巻き込まれないようにだけ、私も気を付けておこう」
「ああ」
そしてルドルフはすぐさま王の元へと向かって行った。
「さて、俺もロックウェルの部屋に行こうかな」
そうして回廊を歩いていると、前から白魔道士の一群が歩いて来るのが見えた。
先頭は凛々しい顔の真面目そうな男だ。
そしてそのまますれ違おうとしたのだが、すれ違いざまぼそりとその言葉を吐かれてしまう。
「卑しい黒魔道士め」
その言葉に心がざわりと揺れる。
ゆっくりと振り向きながらそちらへと言葉を紡ぐとあちらも一斉に足を止めた。
「それは俺の事か?」
「お前以外に誰がいる?」
「……」
「ロックウェル様のご友人だか何だか知らないが、黒魔道士が王宮内で大きな顔をしていられるのも今の内だ」
「…どういう意味だ?」
「いずれロックウェル様も目を覚まされると言っている。所詮黒魔道士など、この王宮に必要はないと言うことをわかってくださることだろう」
「……それを決めるのはお前ではなく、ロックウェルや王ではないのか?」
クッと笑ってやるとほんの少し相手は怯むが、引く気はないようだった。
「俺から言わせてもらえれば、お前達のような雑魚こそこの王宮に必要のないものだと思うがな」
そうやって挑発したクレイに相手はカッとなったように「言わせておけば!」と言い出した。
「白魔道士は癒しの力、悪を束縛する力、守護の力を持ち、国を守り民を癒す。そんな存在だ!お前達黒魔道士とは全く違う!」
「…それで?」
「所詮黒魔道士は我々とは存在意義自体が違うのだ!お前達は必要ない!」
「…そうやって黒魔道士を迫害する発言をする輩に、そもそも癒しなどありはしないだろうに」
そうして嘲笑うようにその言葉を突きつけてクレイはあっさりと踵を返す。
その姿はこれ以上付き合うのは時間の無駄だと言わんばかりだ。
「お前達の矜持を否定する気はないが、それだけ大口を叩くのなら、お前達の主の望みを叶え、身を護るくらい自分達でしっかりやればいいだろう?そうすれば、俺が駆り出されることもないんだからな」
「……!!」
「俺のような外部者にそう言われることこそ、恥と知れ」
冷たく突き放すような言い様にその場にいた者達が殺気立つ。
「このっ…!言わせておけば…!」
けれどその場にキィンッと広範囲に結界が広がったのを感じて動きを止める。
「半径5m以内に魔法無効化の結界を張った。この範囲内でお前達の実力で魔法を使うことは不可能だ」
「何っ?!」
そうして何名かがクレイに向けて拘束魔法を唱え始めるが、魔法自体が霧散して成り立ってはくれない。
「ふん。やはり無力だな」
そうしてクレイは余裕の表情で笑いながらその場を立ち去っていく。
「隊長!」
魔法を使おうとしていた白魔道士が悔しそうにリーダーと思しき男に声を掛けるが、その男はクレイを厳しい眼差しで見送るばかりだ。
「クレイ…と言ったな。あの男は黒魔道士だが、ロックウェル様と友人と言うだけあって白魔道の術にも詳しそうだ」
こちらを牽制するために一瞬であんな類の結界を張ってくるとは普通はできないものだ。
一触即発の流れをあんな風に実力行使でねじ伏せに掛かるとは只者ではない。
だが実力は高くてもあんなに性格の悪い者を認めるわけにはいかないと、速やかにロックウェルの執務室へと足を向ける。
「ロックウェル様!」
「…どうした、カイン。第二部隊の者をそんなに引き連れて。騒々しいぞ」
「先だっての第三部隊のカルロの件ですが、いっそ第三部隊そのものを潰してしまった方がよいのではと再度申し上げに参りました!」
「…そちらは第一部隊から隊長を任命し、鍛え直すと言うことで決着がついたと思うが?」
不服でもあるのかと尋ねてくるロックウェルにカインは食い下がった。
「それは一理あるかと思い見てまいりましたが、新しい隊長は女と言うではありませんか!」
「…そうだが?」
それが何か問題でもと言ってくるのでカインはギリギリと歯噛みしてしまう。
「納得がいきません!それこそロックウェル様の女がお情けで就任したと囁く者もいるのですよ?!」
けれどそう言ったところで、ヒヤリとした冷気がその場に満ちる。
「私が…あんな女とか?」
「……!!」
「まあ気持ちもわからなくはないが…あの女は私の恋人にちょっかいを掛けたのでな。お仕置きだ」
ニッと笑うロックウェルにその場の者達の背筋に冷たい物が流れていく。
「とは言え第一部隊にいただけのことはある実力のある女だ。これからの成長に期待もしている。下手にちょっかいを掛けるとお前達の方が潰されるぞ?」
そんな言葉に皆が俯いてしまった。
そこへコンコンとノックの音が響き、数名の第一部隊の者達がやってくる。
「ロックウェル様!お待たせいたしました。急ぎの物はこれだけです」
「さっさと片付けて可愛い恋人の所へ行ってあげてくださいね」
そんな和気藹々とした言葉の数々にロックウェルの冷たかった表情が一気に緩んだ。
「ああ。助かる」
「いいなぁ…俺も恋人がほしいですよ」
「ロックウェル様の恋人…どんな人なんですか?」
「…天然で可愛い奴だ。あいつのおねだりにはいつまで経っても勝てそうにないな」
「いいないいな~」
ラブラブ~と言いながら楽しげに茶化す面々。
「もうっ!ロックウェル様!そんな私用でしょっちゅう抜けられては困りますよ!」
シリィが怒ったようにロックウェルに意見するが、仕事は完璧だからまあいいですがとも言葉を添えていく。
そんな雰囲気に第二部隊の者達はどうしたものかと身の置き場に困ってしまった。
「~~~っ!!ではロックウェル様、外部の魔道士についてもご意見を言わせていただきたい!」
その声に第一部隊の者達が一気に静かになる。
「先程クレイと遭遇いたしまして、我々を愚弄する振る舞いをされました!あのような者にいつまでも大きな顔をされるのは我々王宮魔道士としては不快でしかありません!なにとぞ用のない時の出入りを禁止していただきたく…」
しかしその言葉にシリィがまず声を上げる。
「クレイが意味もなく貴方方に突っかかることはありえないわ。何かそちらから手を出したのでは?」
その言葉にカチンとして部隊の者が声を上げる。
「シリィ様!シリィ様は白魔道士なのに黒魔道士のお味方をされるのですか?!」
「当然ね。彼は私の命の恩人ですもの。優しいし、その辺の性悪な黒魔道士とは全く違う素敵な人よ?」
「クレイはサシェ様やハインツ王子にも無償で救いの手を差し伸べてくださった黒魔道士だ。ロックウェル様のご友人と言うだけあって、シリィ様の言葉通りできた方だと思うぞ?」
他の第一部隊の者もそう口添えをしたので第二部隊の者は怒り心頭だった。
「第一部隊は黒魔道士と仕事をしているせいか、黒魔道士に対して認識が甘いのではないでしょうか?あいつは自分の周辺に魔法無効化などと言う小癪な結界魔法を張って我々を馬鹿にして逃げたのですよ?!」
その言葉に新たに入室してきた者達含め、第一部隊の者が驚きに目を見開き、一斉に部屋の壁へと身を寄せた。
「…今、何と言った?」
カタンという音と共にロックウェルが立ち上がる。
「ロ…ロックウェル様?」
「今の言葉が本当なら、ここに居る者達は全員規律違反で身分剥奪処分だが…?」
その言葉に何故?!と蒼白になるが、ロックウェルに睨まれ皆全くその場から動くことができない。
そしてロックウェルの口から紡がれた呪文に焦りに焦る。
それは一人一人を縛り上げる拘束魔法。
「ひぃっ…!」
「お、お許しください!!」
「外部の…それも陛下のお許しを得た上で出入りしている魔道士に攻撃を仕掛けるとは、一体どういう了見だ?」
「し、しておりません!私はしておりません!」
「わ、私も攻撃呪文を唱える先から無効化されたので攻撃はできませんでした!」
「私もです!どうぞお許しください!!」
ギリギリと段々強く締め付けられていく苦しさから皆が一斉に謝罪に転じる。
「どうも第三部隊だけではなく第二部隊も弛んでいるようだな。明日、私直々に出向いて鍛え直してやるから覚悟しておけ」
以上だと言うと同時に拘束魔法を解除し、ロックウェルはまた執務机へと座り直した。
それと同時に第一部隊の者達がまたそっとロックウェルの方へと書類を持ってくる。
「ロックウェル様。もっとお叱りになればよろしいのに」
「そうですよ!クレイに攻撃なんて、とんでもないです!」
そんな風に言う面々にロックウェルがクスリと笑う。
「いや。クレイに後で事情を聞けば済むと思ってな」
あいつが悪いこともあるからと言うと、シリィも渋々納得した。
「あ~…まあクレイは不器用な上に口下手ですしね」
「わかりにくい奴だし、どうせ失言でもしたんだろう」
「ああ、ありそうですね」
そしてそのまま二人で楽しげに会話を続けていく。
その場にいる第一部隊の者達も最早誰も何事もなかったかのように黙々と仕事をこなしていた。
そしてどうしたものかと戸惑う第二部隊の者達に皆がそっと冷たい眼差しを向けてくる。
その目はすぐに出て行けと言わんばかりだ。
「カイン。明日を楽しみにしていろと第二部隊の者に早く伝えてくるんだな」
その言葉と同時に、第二部隊の者達は急いで部屋から退室していったのだった。
二人で執務室方面へと向かっていると緊張した様子のリーネと出くわしたので、さりげなくクレイを背後へと庇う。
また纏わりつかれてはたまらない。
「ク…クレイ。その…大丈夫?」
そうやって気遣うように尋ねてくるリーネにクレイがきょとんとしたように答えた。
「何のことだ?」
「…ロックウェル様に酷く叱られなかったかしら?」
「…?ロックウェルとは昨日からずっと仲良くしているし、別に今のところ叱られるようなことはないが?」
その言葉に本当かと疑いの眼差しを向けてくるが、そう言えばすっかり忘れていたなと思い出す。
「クレイ。リーネは飲み会で喧嘩した話を聞いて心配してくれたんだろう」
「ああ。そうか。あれはロックウェルが宿屋まで迎えに来てくれたからもう大丈夫だ」
ちゃんと仲直りしたから問題はないと笑顔で応えたクレイにリーネは複雑そうな顔をしたが、ロックウェルは妖艶に笑いかけてやった。
「クレイの事は誰よりも慈しんでいるから心配はするな」
「……ロックウェル様のその表情、クレイはどう思っているんでしょうね?」
ドS全開ですよと蒼白になるリーネに、クレイがそっと顔を上げてくる。
「…ロックウェル。その顔で魅了するのは俺だけにしてくれないか?」
「リーネは別に見惚れてはいないぞ?私のドSが好きなのはお前だけだろう?」
「俺はドSが好きなんじゃなくて、お前のその顔が好きなんだ」
綺麗だし色気もあってカッコいいだろうとクレイが嬉しそうに笑う。
クレイは恐らく気が付いていない。
自分がリーネに牽制をするためにわざとその流れに持っていった事を────。
惚気るクレイを見ればリーネも流石に勝ち目がないと悟ることだろう。
案の定リーネは悔しそうに唇を噛んでいた。
「クレイ…私、絶対に仕事でも、色気でもロックウェル様に負けないように自分を磨くわ!」
「…?ああ。楽しみにしている」
そしてリーネは話は終わりだとばかりに勢いよく第三部隊の方へと向かっていった。
これで彼女は益々仕事に精を出してくれることだろう。
そんな自分にクレイが少し考えてからそっと口を開いた。
「俺には何がどうなったのかさっぱりわからなかったが、やっぱりお前は部下のやる気を引き出すのが上手いな」
わかっているのかどうなのか、意外と鋭くそんなことを言ってきたクレイにフッと笑うにとどめる。
「さあ、どうかな」
そして取りあえずさっさと仕事を片付けてこの可愛い恋人を愛で倒そうと、執務室へと向かったのだった。
***
時は暫し遡る────。
アストラス国の第三王子、ニコラスと第四王子、ノーティアスは母ターシェがルドルフにより離宮に移されたのをそれはそれは悲しんでいた。
あの立派な兄がどうして最愛の母を陥れたのか?
一体いつの間に父と通じていたのか?
何もかもが信じられなくて、ただただ失意のどん底にいた。
そんな中、次兄であるサイナスがやってきて面白そうに言ったのだ。
「仕方がないだろう?自分達は王の子じゃないのだから」────と。
そしてお前達は報告書を読んだのかと尋ねられ、読んでいないと答えると、そうだと思ったと言われバサリと写しを渡された。
「まぁ、思っていた通りの内容だったし驚くようなことは何もない。私は兄上のお蔭で今ここにいて、地位も剥奪されずにすんでいるのだから文句もないしな」
お前達も割り切って楽しめばいいと言われ、恐る恐るその報告書へと目を通したのだが────。
「嘘だ!!」
バシッとその報告書を投げ捨てノーティアスは怒りに震えた。
「こんなもの、捏造だ!」
「…ノーティアス」
「兄上は信じるのですか?!私には到底信じられません!母上に直接聞くまでは絶対にこんなもの認めません!」
それならばとニコラスも提案する。
「一緒に離宮に行くか?」
「え?」
「母上に直接お会いしてお話を伺おう」
ただ、予め話を通しておくと目付け役などがつけられるかもしれないから誰にも言わずに行こうと言うことで話をつけた。
「わかりました」
そうして念のため最悪の事態も想定して準備を行い、二人の都合のつく日を示し合わせて二人だけで離宮へと馬を走らせる。
(母上…どうか嘘だと言って下さい…)
そんな風に一縷の望みをかけて離宮へとたどり着いたのだが……。
「お、お待ちください!ただ今お母上様にはご来客が…!」
焦ったように止めに入る使用人達を振り切って母の元へと足を向けそっと中の様子を窺うと、そこには男と寝る母の姿があった。
しかも相手は自分達も何度も会ったことがある叔父(父王の妹の夫)だったからたまらない。
「お前がここに来てから誰の目も憚らなくて良くなったな」
「本当に。返って清々したわ」
「ルドルフは幸い王の信頼も得たらしい。ハインツさえ上手く亡き者にすれば我が子が次王か…。悪くはないな」
「あら…あの子は陛下の子よ?」
「ああ、そうだったな」
こちらには気づかずハハハと機嫌よく笑い合う会話が漏れ聞こえてきて、二人は怒りに身が震えるのを感じた。
全く知らなかった母の裏の顔に怖気が走る。
一体どうしてくれようか……。
そこでニコラスが固い声で使用人へと声を掛けた。
「客人が帰ったところでこの香を母上に…」
土産に買ってきたものだと言う白々しい嘘に、使用人は蒼白になりながらもコクリと頷きを落とす。
「私達は別室にいるから、必ず使うように」
「は…はい…」
「このことは他言無用だ…」
「かしこまりました」
そうして叔父が去った後、部屋で香が焚かれ、意識を失った王妃を二人で馬に乗せて連れ去った。
勿論、実行犯の使用人には金をもらって黙ってここを去るか、死んでこの世を去るかの二択を迫って────。
そしてとある貴族の元にまで運びこみ、こう囁いた。
「お可哀想な母上は心労が祟って病になってしまわれた。暫く誰にも言わずにここで療養させてやってほしい」と────。
そして薬はまた届けると言って、そこから立ち去る。
後は少しずつ薬物漬けにして犯人をその貴族に仕立ててしまえばそれでいい。
「我々の心を踏みにじった母上には、それ相応の報いを受けていただく」
ニコラスは厳しい声でそう言い放ち、ノーティアスもまたその言葉にただ深く頷きを落とした。
***
「ルドルフ!」
「クレイ!」
やってきたクレイにルドルフが仕事の手を止め笑顔で出迎える。
周囲の官吏達はそんな二人にどうしたものかと視線を彷徨わせていた。
黒魔道士クレイについては王宮内でも取り扱いがわからないと思っている者が多い。
サシェの件での功労者ではあるが、王の再三の呼び出しを断った変わり者。
挙句他国へと逃げ王からの召還にも応じない。
そうかと思えばハインツ王子の件でフェルネスを捕らえるのに一役買ったとも聞く。
友人の言葉にしか耳を貸さない、取り扱い方がさっぱりわからない謎の黒魔道士なのだ。
そんなクレイは現在ルドルフとも親しくし、ハインツの教育係もしているらしい。
皆がどう接したものかと悩むのも無理はないだろう。
そんな面々にルドルフがクスリと笑う。
「皆、クレイは外部の魔道士ではあるが、ロックウェルと私の友人として好意的に接してもらえると嬉しい」
「…ですがルドルフ様。陛下のお怒りを買ってはと皆悩んでいるのです」
「ああ。それは大丈夫だ。陛下とクレイの件についてはもう蟠りも解けたからな」
「…左様でございますか?」
一体どんな蟠りだったのか気になると思いつつ、皆がそっとクレイの方を窺った。
女と見紛うばかりの美丈夫ではあるが、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出しているためどう考えても仲良くするのは難しい気がする。
容易に冗談で話を振れそうにもない。
しかも本人の口から飛び出すのは本当に好意とは程遠い言葉だけだ。
「そんなことはどうでもいいから、例の件で報告があるんだ」
「何かわかったのか?」
「ああ。どこか場所を移すか?」
「そうだな」
そして不敵に笑いながらルドルフを連れ去っていく。
「少しルドルフを借りるぞ」
「……では我々は他の仕事をしておりますので」
そう言って見送らざるを得ない。
(くそっ!黒魔道士め!)
そしてその官吏の中にもいた黒魔道士を敵視している貴族は、クレイに関しても何か対策は取れないものかと考え始めた。
「それで?母上の事が何かわかったのか?」
「ああ。ただお前には酷な話になるから、覚悟の上で聞いてほしい」
そう前置きしたクレイにルドルフは何やら思案する。
「もしやサイナスが何か?」
報告書の写しを持ち出した形跡があったのだとルドルフは厳しい表情で言うが、それは違うとクレイは言う。
「まあそれを見たのかどうかは知らないが、第三王子と第四王子が王妃を浚っていったのは間違いないようだ」
「ニコラスとノーティアスが?!」
それは予想外の事だったらしく、ルドルフは驚きに目を瞠った。
「ああ。二人で王妃を浚ってとある貴族の元に連れて行ったようなんだが、どうも様子がおかしい」
「…と言うと?」
「最初は王妃が二人を泣き落としたのかと思って調べさせたんだが、どうも王妃は療養中と言う名の監禁生活を強いられているようなんだ」
「監禁だと?」
「ああ。しかも様子がおかしいから、どうも薬を使われているんじゃないかと眷属は言ってきた」
「なっ…!」
「後はお前に任せるが、ショーンにも話を通してより詳しく調べてもらった方がいいかもしれない」
「…その監禁先の貴族の名は?」
「ジェイクロッド…」
「わかった」
すぐに調べると言ってルドルフは立ち上がる。
「クレイ。悪いがもしかしたらまた何か力になってもらうことが出てくるかもしれない」
「ああ。その時はまた言ってくれ」
「助かる。ロックウェルが巻き込まれないようにだけ、私も気を付けておこう」
「ああ」
そしてルドルフはすぐさま王の元へと向かって行った。
「さて、俺もロックウェルの部屋に行こうかな」
そうして回廊を歩いていると、前から白魔道士の一群が歩いて来るのが見えた。
先頭は凛々しい顔の真面目そうな男だ。
そしてそのまますれ違おうとしたのだが、すれ違いざまぼそりとその言葉を吐かれてしまう。
「卑しい黒魔道士め」
その言葉に心がざわりと揺れる。
ゆっくりと振り向きながらそちらへと言葉を紡ぐとあちらも一斉に足を止めた。
「それは俺の事か?」
「お前以外に誰がいる?」
「……」
「ロックウェル様のご友人だか何だか知らないが、黒魔道士が王宮内で大きな顔をしていられるのも今の内だ」
「…どういう意味だ?」
「いずれロックウェル様も目を覚まされると言っている。所詮黒魔道士など、この王宮に必要はないと言うことをわかってくださることだろう」
「……それを決めるのはお前ではなく、ロックウェルや王ではないのか?」
クッと笑ってやるとほんの少し相手は怯むが、引く気はないようだった。
「俺から言わせてもらえれば、お前達のような雑魚こそこの王宮に必要のないものだと思うがな」
そうやって挑発したクレイに相手はカッとなったように「言わせておけば!」と言い出した。
「白魔道士は癒しの力、悪を束縛する力、守護の力を持ち、国を守り民を癒す。そんな存在だ!お前達黒魔道士とは全く違う!」
「…それで?」
「所詮黒魔道士は我々とは存在意義自体が違うのだ!お前達は必要ない!」
「…そうやって黒魔道士を迫害する発言をする輩に、そもそも癒しなどありはしないだろうに」
そうして嘲笑うようにその言葉を突きつけてクレイはあっさりと踵を返す。
その姿はこれ以上付き合うのは時間の無駄だと言わんばかりだ。
「お前達の矜持を否定する気はないが、それだけ大口を叩くのなら、お前達の主の望みを叶え、身を護るくらい自分達でしっかりやればいいだろう?そうすれば、俺が駆り出されることもないんだからな」
「……!!」
「俺のような外部者にそう言われることこそ、恥と知れ」
冷たく突き放すような言い様にその場にいた者達が殺気立つ。
「このっ…!言わせておけば…!」
けれどその場にキィンッと広範囲に結界が広がったのを感じて動きを止める。
「半径5m以内に魔法無効化の結界を張った。この範囲内でお前達の実力で魔法を使うことは不可能だ」
「何っ?!」
そうして何名かがクレイに向けて拘束魔法を唱え始めるが、魔法自体が霧散して成り立ってはくれない。
「ふん。やはり無力だな」
そうしてクレイは余裕の表情で笑いながらその場を立ち去っていく。
「隊長!」
魔法を使おうとしていた白魔道士が悔しそうにリーダーと思しき男に声を掛けるが、その男はクレイを厳しい眼差しで見送るばかりだ。
「クレイ…と言ったな。あの男は黒魔道士だが、ロックウェル様と友人と言うだけあって白魔道の術にも詳しそうだ」
こちらを牽制するために一瞬であんな類の結界を張ってくるとは普通はできないものだ。
一触即発の流れをあんな風に実力行使でねじ伏せに掛かるとは只者ではない。
だが実力は高くてもあんなに性格の悪い者を認めるわけにはいかないと、速やかにロックウェルの執務室へと足を向ける。
「ロックウェル様!」
「…どうした、カイン。第二部隊の者をそんなに引き連れて。騒々しいぞ」
「先だっての第三部隊のカルロの件ですが、いっそ第三部隊そのものを潰してしまった方がよいのではと再度申し上げに参りました!」
「…そちらは第一部隊から隊長を任命し、鍛え直すと言うことで決着がついたと思うが?」
不服でもあるのかと尋ねてくるロックウェルにカインは食い下がった。
「それは一理あるかと思い見てまいりましたが、新しい隊長は女と言うではありませんか!」
「…そうだが?」
それが何か問題でもと言ってくるのでカインはギリギリと歯噛みしてしまう。
「納得がいきません!それこそロックウェル様の女がお情けで就任したと囁く者もいるのですよ?!」
けれどそう言ったところで、ヒヤリとした冷気がその場に満ちる。
「私が…あんな女とか?」
「……!!」
「まあ気持ちもわからなくはないが…あの女は私の恋人にちょっかいを掛けたのでな。お仕置きだ」
ニッと笑うロックウェルにその場の者達の背筋に冷たい物が流れていく。
「とは言え第一部隊にいただけのことはある実力のある女だ。これからの成長に期待もしている。下手にちょっかいを掛けるとお前達の方が潰されるぞ?」
そんな言葉に皆が俯いてしまった。
そこへコンコンとノックの音が響き、数名の第一部隊の者達がやってくる。
「ロックウェル様!お待たせいたしました。急ぎの物はこれだけです」
「さっさと片付けて可愛い恋人の所へ行ってあげてくださいね」
そんな和気藹々とした言葉の数々にロックウェルの冷たかった表情が一気に緩んだ。
「ああ。助かる」
「いいなぁ…俺も恋人がほしいですよ」
「ロックウェル様の恋人…どんな人なんですか?」
「…天然で可愛い奴だ。あいつのおねだりにはいつまで経っても勝てそうにないな」
「いいないいな~」
ラブラブ~と言いながら楽しげに茶化す面々。
「もうっ!ロックウェル様!そんな私用でしょっちゅう抜けられては困りますよ!」
シリィが怒ったようにロックウェルに意見するが、仕事は完璧だからまあいいですがとも言葉を添えていく。
そんな雰囲気に第二部隊の者達はどうしたものかと身の置き場に困ってしまった。
「~~~っ!!ではロックウェル様、外部の魔道士についてもご意見を言わせていただきたい!」
その声に第一部隊の者達が一気に静かになる。
「先程クレイと遭遇いたしまして、我々を愚弄する振る舞いをされました!あのような者にいつまでも大きな顔をされるのは我々王宮魔道士としては不快でしかありません!なにとぞ用のない時の出入りを禁止していただきたく…」
しかしその言葉にシリィがまず声を上げる。
「クレイが意味もなく貴方方に突っかかることはありえないわ。何かそちらから手を出したのでは?」
その言葉にカチンとして部隊の者が声を上げる。
「シリィ様!シリィ様は白魔道士なのに黒魔道士のお味方をされるのですか?!」
「当然ね。彼は私の命の恩人ですもの。優しいし、その辺の性悪な黒魔道士とは全く違う素敵な人よ?」
「クレイはサシェ様やハインツ王子にも無償で救いの手を差し伸べてくださった黒魔道士だ。ロックウェル様のご友人と言うだけあって、シリィ様の言葉通りできた方だと思うぞ?」
他の第一部隊の者もそう口添えをしたので第二部隊の者は怒り心頭だった。
「第一部隊は黒魔道士と仕事をしているせいか、黒魔道士に対して認識が甘いのではないでしょうか?あいつは自分の周辺に魔法無効化などと言う小癪な結界魔法を張って我々を馬鹿にして逃げたのですよ?!」
その言葉に新たに入室してきた者達含め、第一部隊の者が驚きに目を見開き、一斉に部屋の壁へと身を寄せた。
「…今、何と言った?」
カタンという音と共にロックウェルが立ち上がる。
「ロ…ロックウェル様?」
「今の言葉が本当なら、ここに居る者達は全員規律違反で身分剥奪処分だが…?」
その言葉に何故?!と蒼白になるが、ロックウェルに睨まれ皆全くその場から動くことができない。
そしてロックウェルの口から紡がれた呪文に焦りに焦る。
それは一人一人を縛り上げる拘束魔法。
「ひぃっ…!」
「お、お許しください!!」
「外部の…それも陛下のお許しを得た上で出入りしている魔道士に攻撃を仕掛けるとは、一体どういう了見だ?」
「し、しておりません!私はしておりません!」
「わ、私も攻撃呪文を唱える先から無効化されたので攻撃はできませんでした!」
「私もです!どうぞお許しください!!」
ギリギリと段々強く締め付けられていく苦しさから皆が一斉に謝罪に転じる。
「どうも第三部隊だけではなく第二部隊も弛んでいるようだな。明日、私直々に出向いて鍛え直してやるから覚悟しておけ」
以上だと言うと同時に拘束魔法を解除し、ロックウェルはまた執務机へと座り直した。
それと同時に第一部隊の者達がまたそっとロックウェルの方へと書類を持ってくる。
「ロックウェル様。もっとお叱りになればよろしいのに」
「そうですよ!クレイに攻撃なんて、とんでもないです!」
そんな風に言う面々にロックウェルがクスリと笑う。
「いや。クレイに後で事情を聞けば済むと思ってな」
あいつが悪いこともあるからと言うと、シリィも渋々納得した。
「あ~…まあクレイは不器用な上に口下手ですしね」
「わかりにくい奴だし、どうせ失言でもしたんだろう」
「ああ、ありそうですね」
そしてそのまま二人で楽しげに会話を続けていく。
その場にいる第一部隊の者達も最早誰も何事もなかったかのように黙々と仕事をこなしていた。
そしてどうしたものかと戸惑う第二部隊の者達に皆がそっと冷たい眼差しを向けてくる。
その目はすぐに出て行けと言わんばかりだ。
「カイン。明日を楽しみにしていろと第二部隊の者に早く伝えてくるんだな」
その言葉と同時に、第二部隊の者達は急いで部屋から退室していったのだった。
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