黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

78.※失言

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「んっ…」

部屋に戻ると寝台へとクレイを寝かせ、そっと水を口に含んでそのまま口づけた。
コクリと喉を鳴らしながらそれを飲みこむと、クレイがそっと目を開く。

「気づいたか?」
「あ…れ?」

確かさっきまで庭園にいたはずなのにとクレイが不思議そうに首を傾げた。

「具合はどうだ?」

そう聞かれクレイはぼんやりしながらも自分の状態を確認したが、気持ち悪いと胸を抑えてしまう。

「何があったのか知らないが、やけに気持ち悪い…」

そんなクレイにすぐに回復魔法を掛けてやった。

「はぁ…助かった…」

そうやって寝台に身を投げ出すクレイに横から眷属が声を上げてくる。

【クレイ様…申し訳ございません。リーネの眷属は皆で脅しておきましたので…】
「え?」
【惚れ薬と媚薬を混ぜた物を爪に塗布し、クレイ様に刺したのですよ】
「……」
【そちらはロックウェル様が解毒してくださいましたが、恐らく気分が悪かったのはリーネとシリィ様の相反する魔力と連続して交流したせいかと思われます】
「…そうか」

状況は理解したとクレイが答えると、眷属達はそのまますんなり身を潜めた。

「はぁ…」

そうやってため息を吐くクレイの髪をそっと撫で上げる。

「傍にいる時で良かった…」

それは本心ではあったのだが…。

「ロックウェル…怒っているか?」

どこか不安げに問い掛けてくるクレイに別に怒ってはいないと答えてやるが、そっと自分の服の裾を握ってこられた。

「……リーネは兎も角、シリィの唇までお前の目の前で無理やり奪ったなんて…なんて言い訳したらいいのか…」

どうやら一応ちゃんと申し訳ないと思ってくれたらしい。

「別に大丈夫だ。私もお前に襲われたから、二人の前で口づけてやったしな」

だから気にするなと言ってやると、クレイの頬が一気に赤く染まる。

「なっ…?!えっ…?!」

聞いてないと言ってくるクレイに更に追加で情報を伝えてやると、恥ずかしすぎると突っ伏してしまった。

「…もう暫く王宮に来られない…」
「気にせず来ればいい。どうせ明後日はハインツ王子の教育日だ。逃げ場はないぞ?」
「…取りあえずロックウェルだけでやればいいんじゃないか?」
「仕事は仕事…だろう?」

そう言ってやるとクレイはうっと呻きながらそれもそうだとため息を吐いてしまう。

「はぁ…わかった。じゃあその日にシリィとリーネには謝っておく」
「ああ。そうしてやってくれ」

そう答えるとクレイがするりと自分に腕を伸ばしてきた。

「ロックウェル…。俺をお前で満たしてほしい…」

そんな可愛いセリフを言ってきたクレイを抱き寄せて耳元へと囁きを落とす。

「お前は本当に私が好きだな」
「…知っているくせに」

そう言いながら甘い口づけを交わしてくる恋人に満足げに笑みを浮かべる。
ここ数日で随分恋人らしく素直に甘えてくるようになった。

「今日は楽しかったか?」
「…最後以外は楽しかった」
「そうか」

ゆっくりとクレイの服を脱がせ、その身へと手を滑らせていく。

「リーネとシリィの魔力の痕跡など、私が全部塗り替えてやる」

そう言って笑ってやると嬉しそうに抱きついてくる。

「はぁ…ロックウェル…好き…」
「ああ。お前はそのまま私だけを見つめてくれ…」

そして甘く口づけを交わし合いながら、二人は恋人の時間を満喫したのだった。


***


一通り魔力交流し可愛がった後、クレイが頬を染めながら自分の上へと乗ってくる。
「んっ…んんっ…」
そして自分を見つめて行為に耽りながらも、クレイは油断も隙もなく自分の隙をついてくる。
「はぁ…ロックウェルの好きな事もいっぱいしてやる」
そう言って淫らに微笑みながら積極的に自分に奉仕してくるクレイに嬉しくなりながら、負けてはいられないと新たにクレイを開発していく。
「はッ…はぁんッ…!」
これまでもうクレイの身体で知らないところはないというくらい、色んな体位で犯し尽くしてやったと思う。
日によって、気分によっても好きな体位が変わる事も知っている。
今日はきっと攻めたい気分が強いのだろう。
そう言う時は騎乗位で可愛がるのが一番良い。
虐められたい時は後ろから、愛されたい時は前から。
クレイに合わせて愛してやる。

「んっ…。ロックウェル…ッ」

けれどそうやって自分を窺いながらクレイはたまに仕掛けてくるのだ。
「はぁッ…!んっ…!ここからバックにいくのも…好きだろう?」
後ろ向きの騎乗位からバックに移行するのが好きなのを知ってるんだと、嬉しそうに笑ってくるからたまらない。
「お前だってイキっぱなしになるくらい好きなくせに…」
「あっ!あぁあッ…!」
「望み通りこのまま蹂躙してやる」
「はッ…はぁあんッ!」
歓喜の声を上げてクレイが乱れ始める。
どうやら攻める方に満足した後でこうやって犯し尽くされるのが好きな時もあるらしい。

「あっあっあっ…!好きッ、好きッ…!」
「ここ…だろう?」

こんな風に乱れるクレイは本当にたまらなく好きだ。
こんなに開発し甲斐のある相手にはこれまで出会ったことがない。
「お前は本当に淫乱でたまらないな。私をこんなに夢中にさせるなんて…」
細腰を掴んでクレイの好きな場所を穿ってやると、たまらないとばかりに腰を振って応えてきた。
「やっ…!お前が育てた癖に…ッ!はぁあんッ、あっあっあっ!イッちゃう、イッちゃうッ…!」
「イかせてやる」
「あ────ッ!!」
ビクビクと身を震わせ登り詰めたクレイの奥に欲望を吐き出して、その身体を抱き締める。
「クレイ…」
「んんっ…はぁっ…気持ちいい…」
恍惚とした声で紡がれるそんな声が嬉しくて仕方がなかった。

「少し休んだら街に出て食事でもするか?」
「ん…まだくっついていたい…」
そんな可愛いセリフまで言ってくれるなんて男冥利に尽きる。
「じゃあもう少ししたらここで軽く何か食べるか」
その答えにクレイがコクリと頷いた。
「やっぱりロックウェルが最高に好き…」
「当然だな。お前ほど手の掛かる奴を、上手く御せるのは私くらいのものだ」
そうやって言ってやると嬉しそうにするのも知っている。
今なら自信を持ってクレイは自分だけのものだと言い切れる自分がいた。
そこに不安はもうない。

「ほら。もう一度だけ可愛がってやるから、またその可愛い声を聞かせてくれ…」
「ふぅ…ぅうん…」
「可愛いクレイ…」
そうやってどこまでも甘やかしながら、今夜も溺れるように溶かしていった。


***


「ロックウェル…」
「なんだ?」
朝食を摂りながらそう尋ねてやると、クレイは言い難そうに尋ねてきた。
「そう言えば、昨日貰ったものって普通に使っても怒らないか?」
シリィとリーネからの贈り物は使っても構わないのかと今更ながらに思い至ったらしい。
「そんな小さなことで怒ると思われるのは心外だな」
そう答えてやるとクレイがホッとしたように微笑んだ。
「良かった…」
「…お前が私とペアのアイテムに喜んでいたのも知っているしな」
「……!!」
「浮気しなければ別に構わないから、使ってやるといい」
「…嫉妬しなくなったお前は本当に噂通りの男だ」

女性たちから度量の大きな大人の男性だと褒めそやされていたのを知っているのだとクレイは言う。
確かに振り回されていなければ自分はいつもこんな感じだったように思うが…。

「これまでもお前が振り回さなければ良かっただけの話だろうに」
「…俺はお前を振り回したことなんてない」
「それは天然発言すぎだろう?」
「俺はいつでもこうだったし、お前を振り回せるような器用さは持ち合わせていないからな」

そうやってフイッと横を向いてしまったクレイには最早苦笑しか出ない。
一体どこまで自分をわかっていないのか────。
「まあいい。それより今度リーネを第三部隊の隊長に推しておいた。そろそろ返事も貰えるはずだし、これでお前の気苦労も減るだろう」
これで問題はもうないから安心しろと笑顔で言ってやったのに、やはりクレイは自分の予想の範囲を軽々と越えていくのだ。
「ああ、それな。昨日本人からも聞いたが、折角のゲームが終わるのは嫌だと言っていたから、いつでも会いに来いと言っておいたぞ?」

その言葉に思わず手を止める。
「……クレイ?」
人が折角クレイから引き離そうと思ってそうしたと言うのに、一体何をやっているのか。
「ゲームが途中で終わるのも面白くないからな」
「…もうすでに昨日で決着がついたんじゃないのか?」
ほぼクレイに落ちたも同然だろうに、一体何を言っているのだろう?
「いや?まだ終わってないだろう?」
昨日は邪魔も入ったし、まだ勝負はついていないと言ってくるクレイの鈍さには最早ため息しか出ない。
「お前はやっぱり鈍すぎる…」
「え?」

本当に油断も隙もない男だ。
これではちっとも安心などできないではないか。
ヒュースの言葉が今更ながら実感できる。
「…もういい。リーネには私の方から釘を刺しておく」
恋人に手を出すなと言っておけばきっと大丈夫だろうと話を切り上げようとすると、クレイの眷属が言いにくそうに口を挟んだ。
【ロックウェル様…。申し訳ございません。クレイ様はリーネに仕事の時と恋人と会っている時以外ならいつでも来いと仰っておられたので…】
それはあまり意味がないのだと言ってくる。

「…?!」
「やっぱり恋人がいることはちゃんと言っておこうと思って」

クレイもそうやってニッコリ笑ってくるから本当にたちが悪い。
「クレイ…お前にはやはりお仕置きが必要そうだな?」
そう言ってやっても本人は一体何が悪かったのか全く理解できないのか、ただただ首を傾げるばかり。
恋人がいると言ったのにどこが悪いと言わんばかりだ。

「…本当に首に鎖でもつけて縛り付けてやろうか?」

「…?!なんでそうなるんだ?!」
「その言葉はそっくりそのままお前に返してやる」
覚えておけと言いながら、すぐにどうすべきか考え始める。
「取りあえず全部私がなんとかするからお前は大人しくしていろ」
「…?わかった」
「うっかりが服を着て歩いているとは…ヒュースも上手いことを言うものだ…」
「なっ…!酷い!」
心外だと怒るクレイにため息を一つ溢すと、そっとそのまま立ち上がり皿を下げに掛かった。
【ロックウェル様。そういった事は我々がやりますので、どうぞクレイ様のフォローを宜しくお願い致します】
「…わかった」
自分の眷属でないにもかかわらず、最早ヒュースとは阿吽の呼吸で行けそうな気までしてくるから不思議だ。

「~~~~~っ!!もう帰る!今夜は来ないからな!」

不愉快だとクレイはそのまま帰ってしまったが、どうせもう明日には会えるのに…。
【本当にお手数をお掛けいたします】
「いや。惚れた方が負けとはよく言ったものだ…」
こんな恋人でも愛しいと感じられるのだから────。
「眷属が優秀に育つのがわかる気がするな」
主のフォローに振り回されてきたであろうヒュース達を労って、ロックウェルはそっと自分も仕事へと向かった。




「ロックウェル様。おはようございます」
執務室に入るとシリィとリーネが既にそこに居て、心配そうにクレイについて尋ねてきた。
「昨日は大丈夫そうでしたか?」
「具合が悪くなったりはしていなかったでしょうか…?」
いつも自信満々で余裕のあるリーネまでもがクレイを心配している。
やはりこれはもうクレイが何と言おうと落ちているも同然ではないか。
「あの後目覚めてから気持ち悪いと言っていたから回復魔法を掛けておいた。その後は特に体調不良等は見られなかったから大丈夫だ」
そう言ってやると明らかに二人共ホッとしたように安堵の息を吐いた。
「良かったです」
「ああ。シリィ、第三部隊の件でリーネと話があるから人払いをお願いできるか?」
そう言ってやるとすぐに快諾して部屋を辞してくれる。
「かしこまりました」


そしてリーネへと向き合うと、早速口火を切った。
「結論は出たか?」
「…はい。お受けしようと思います」
「そうか。ではそれを踏まえた上でお前に言っておくことがある」
「なんでしょうか?」
「クレイとの勝負は明日を最後に終わりにしてもらいたい」
「…それはロックウェル様には関係のないことですので口出しは…」
「クレイは私の恋人だから、これ以上手を出すなと言っている」
「…?!」
「返答は?」
そう言いながら笑ってやると、一気にリーネは蒼白になった。
「…それは…クレイにも確認しても?」
「別に構わない。どうせ明日は王宮に来るからな」
「…かしこまりました」
そう言いながらリーネは静かに下がっていく。
これで事が治まればいいのだが────。

【リーネの方は見張らせておきますので、ロックウェル様はどうぞお仕事を頑張ってくださいませ】
ヒュースがそうやって何も言わなくてもすぐさま動いてくれるので非常に助かる。
【後はクレイ様次第ですかね~】
その言葉と同時に、二人で同じようにため息を吐いた。



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