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第一部 アストラス編~王の落胤~
64.溢れる情報
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ロックウェルが執務室で部下から仕事を受け取っているところへ、突如その姿は現れた。
「ロックウェル!」
今朝別れたばかりのクレイが何故かシリィを腕に抱いて現れたのだから驚くのも無理はない。
シリィは何故かクレイのマントで包まれ、そっとその身をクレイへと預けている。
一体何があったのかと思いつつも、嫉妬でおかしくなりそうな自分もいた。
一体何がどうなったらそんな状況になるのか────。
「……何があった?」
思わず低く問い掛けたが、クレイは特に気にするでもなく状況を説明してくる。
「シリィの馬車が横転したと使い魔が知らせに来た。回復魔法は掛けたが、取りあえずこのまま部屋に下がらせて構わないか?」
それはつまりクレイがそこまでしてやったと言うことに他ならない。
恐らくシリィ自身が気を失っていたか何かで自力ではどうしようもない状況だったのだろう。
けれど部屋までこのまま運ぶからと言ってくるクレイをちょっと待てと引き留めた。
「…状況はわかったが、クレイ。詳細はお前の方から聞かせてくれるか?」
「ああ」
わかったと言ってクレイがそっとシリィの身体を床へと下ろす。
「シリィ。立てるか?」
そんな言葉にシリィがコクリと頷き、クレイが優しい笑みを向けた。
「よかった」
「ありがとう」
そんな二人を見て、一緒にいた部下が余計なことを言ってくる。
「いや~美男美女でお似合いな二人ですね」
その言葉に思わず手の中のペンをへし折ってしまった。
「ロ、ロックウェル様?」
「……いや。それより、馬車が横転したのなら他にも怪我人が出ただろう。すぐに救援部隊の手配を」
「はっ…!」
そうやってさっさと部下を追いやり、必要はないだろうがと敢えて更にシリィに回復魔法を掛ける。
「シリィ。ご苦労だった」
「ロックウェル様。ありがとうございます」
「遠路の疲れもあるだろうし、今日は一日休んでいい」
「…でも」
「そのマントはまた今度で構わないから」
クレイもそうやって促してやると、キュッとそれを握りしめて口を開いた。
「あ、あの…助けてくれて本当にありがとう」
「いや。無事でよかった」
ふわりと笑うクレイに見惚れるシリィの姿は恋する乙女そのものだ。
正直クレイは自分の物なのにと思えて仕方がなかった。
シリィが礼をして下がったのを見て、すぐにクレイを捕まえて腕の中へと引っ張り込む。
「クレイ…」
「なんだ?」
こんなところで急に抱きつくなと言ってくるつれない恋人を一体どうしてくれようか。
そう思っていたところで、クレイの眷属が報告を入れてくる。
【クレイ様。馬車の件ですが、他の怪我人は救助しておきました】
「ああ。ご苦労」
【それと、残された痕跡からまた何者かの眷属がかかわっていると…】
その言葉にクレイが静かな声で指示を出す。
「わかった。速やかに調べて報告を入れてくれ」
【かしこまりました】
そうして短いやり取りをしたクレイがそっと自分へと振り返った。
「すぐに犯人は判明するから心配するな」
どうやらシリィを心配して自分が犯人に対して怒っているのだと勘違いしたらしい。
「お前は本当に部下思いだな」
そんな言葉がぐさりと胸を刺す。
勿論シリィが怪我をしたと聞けば心配にはなるが、クレイが回復したと言うのなら恐らく全回復してやっただろうとも思った。
だからこその嫉妬だったのだが、これでは嫉妬に狂っている自分だけがどうしようもないようではないか。
「そうだ。王宮に来たついでにハインツの件を聞かせてもらってもいいか?」
そうやって話を振ってくるから、一先ず嫉妬は抑え、今朝王から聞いた内容を伝えることにした。
「週に一度か二度、ハインツ王子に魔法について教えることになった。白黒両方教えて、より適性の高い方に特化しながら教えていくことになると思う」
「そうだな。俺も最初はファルに色々その辺りを教えてもらったが、結局使う方も仕事としても黒魔法の方が性に合っていてそっちを選んだんだ」
懐かしいなと言いながらクレイが笑う。
「そう言えばヒュースとはいつからの付き合いなんだ?」
ファルに適性を見てもらってから黒魔道士の道を選んだのなら、もしやヒュースとはその後からの付き合いなのだろうかと思い至りそっと尋ねてみた。
けれどそれは思っていた物とは違っていて────。
「え?ああ。ヒュースとは元々レイン家に居た頃から知り合いだったんだ。何も知らない俺に他の魔物達と一緒に簡単な魔法とか色々なことを教えてくれてた」
そんな風に最初は友達のようなものだったらしい。
「それでレイン家を出ることになった時に、何故かついてきてくれたんだ」
そこからは使い魔として一緒に居てくれたのだと言う。
「それで、言いにくいんだが、その…14、15くらいの頃だったか?ファルと仕事をした時に、うっかり淫魔に捕まって…」
童貞を奪われたことがあったのだとクレイが言う。
これはあの時ファルと話していたことだろう。
「それでその後、もう放っておけないから眷属として自分を従えてくれと提案されて、受け入れたんだ」
普通は使い魔は主に意見しないものなのだが、ヒュース始め幾名かは本来使い魔に甘んじるようなレベルの者ではなかったらしい。
クレイに魔法を教えたと言う話からしてそれはそうだったのだろう。
【クレイ様は本当に昔から放っておけない方でして】
ヒュースがやれやれと言いながらそっと口を出してくる。
【あの頃レイン家に居た者の内、現在私を含めて3匹が眷属、20匹が使い魔としてお仕えしております】
そこからどちらも更に増えてはいるが、やはり一番使ってもらえるのは自分達なのだとヒュースは言った。
【私などはもう心配過ぎて子飼いの使い魔も120になる始末。クレイ様にはそろそろ落ち着いていただきたいと思っております】
その話を聞いて思わずロックウェルは驚きに目を見開いてしまう。
一体どれほど心配性なのだろうか?
最早ヒュースは親のような心境なのかもしれない。
【そうそう。昨日ロックウェル様からご依頼のあった件。お調べいたしましたよ】
全て報告が上がってきたとヒュースが言う。
【今お話しても?】
クレイがいる場の方が二度手間にならずに済むと言わんばかりの言葉に、ロックウェルは素直に頷いた。
それからヒュースはカルロについてわかったことを報告してくれる。
【ハインツ王子のお祝いの席でクレイ様が捕縛された中に貴族を狙った者達も含まれていたでしょう?あれがどうもそれだったようですね~】
貴族の中で、王宮魔道士に黒魔道士はいらないと言っている輩がいることは知っていた。
けれど具体的に排除の動きが出ていることは特に報告は受けていない。
【その辺りはどうもカルロが意図的に報告を上げなかったようです】
白魔道士である自分にはわかってもらえないと思っての事だったらしいが、はっきり言って職務怠慢だ。
ただでさえ第一部隊は黒白両方の魔道士が揃っているのだ。
分け隔てなく情報は入れてもらえないと困る。
【それから黒魔道士容認派の貴族に繋ぎを取ったらしいのですが、そこが例のクレイ様にきた依頼案件の屋敷だったようです】
茶会に紛れてそこに派遣した三名の黒魔道士のうち一人をその貴族の息子が見初めたのだとか。
「なるほど」
それで納得がいった。
これで全容が把握できるとホッと息を吐いたが、ヒュースの報告は終わらない。
【ロックウェル様?まだご報告をしても宜しいですか?】
「なんだ?」
【はい。そこから派生いたしまして、屋敷に派遣された三名の内、まずはレーチェ。この女は一癖ある者でして、調べましたらフェルネスの元で妃修業をしていた者でございました】
「…?!」
【フェルネスは捕まりましたが、次期王の妃の座を狙って動いているようでございます。手始めにカルロの失脚を企てておりまして…】
そうしてつらつらと内容が語られるが、最早あいた口が塞がらない。
【そんなわけで、ソフィアはレーチェに上手く使われてしまった感じでございます。次にレイスでございますが…】
そちらも別件でのスパイ要員らしく、聞いていて段々頭が痛くなってくる。
【ちなみにフェルネスの元で妃修行をしていた他の者の情報なども集めておきましたので、その辺りも全てお話いたしましょうか?】
120匹の使い魔が他にも沢山の情報を持ってきたのだと言うヒュースに一体どうしたものかと頭を悩ませるしかない。
そんな中、クレイが口を開いた。
「ロックウェル、情報はあくまでもただの情報に過ぎない。全部ではなく必要なことだけ聞いて後は聞き流せばいい。それよりもヒュース。その中に昨日のリーネの情報はないのか?」
【ありますとも。彼女も元々は妃修行をしていた一人だったようですね。けれどそちらは早々に見切りをつけて、現在の目標は魔道士長、つまりはロックウェル様の後釜狙いのご様子】
その言葉に衝撃が走る。
まさかそれが狙いだったとは思いもしなかった。
【今まさに動いている最中の様ですから、どうぞお気を付け下さいませ】
「わかった。お前は何があってもロックウェルを護れ」
【かしこまりました】
それと同時にクレイが深く息を吐く。
「こんな魔窟にいるお前の気がしれない。もういっそさっさと見切りをつけて俺と一緒に仕事をすればいいのに」
王宮なんて出てしまえと言うクレイにロックウェルは思わず苦笑してしまう。
それはとてもクレイらしい考え方で、いっそ清々しかった。
けれどここには自分が望んでいるのだから、そこは許してほしい。
「私はここで頑張りたいんだ」
「…わかっている。言ってみただけだ」
そこでちょうどシリィの件を調べていた者が戻ってきた。
【クレイ様。シリィ様の馬車を狙った者が判明いたしました】
「…誰だ?」
【黒魔道士リーネでございます。足止めをしようとしただけの様ですが、予想以上に被害が広がった模様でして】
「そうか」
これは放っては置けないなとクレイが身を翻す。
「ロックウェル。お前はカルロの件もあるだろう。こっちは俺が引き受けてやる」
「クレイ?!」
それは必要ないと言おうとしたのにクレイはただ楽しげに笑った。
「黒魔道士の件は黒魔道士に任せておけ」
「いや!王宮魔道士の管理は私の職務範囲だ!」
ここは譲れないところだと言っているのに、クレイは聞こうとしない。
「ロックウェル。俺はシリィの件もお前の件も正直腹が立って仕方がないんだ」
リーネについては自分に任せてほしいと言って譲らないクレイを一体どうしたものか…。
【あ~…クレイ様?お気持ちはわかりますが、ロックウェル様の職務もお考えになられてくださいね】
「わかっている」
そうは言っているがわかっていないのは一目瞭然だった。
これはどう言ってやるのが一番いいのだろう?
「クレイ。どうせなら一緒にやらないか?」
もうこれしかないかと敢えて妥協してそれを提案する。
「恐らくリーネはまた何か仕掛けてくるだろうし、ここは協力するのが一番だと思う」
そう言ってやると暫し考えて確かにと頷いた。
これなら説得の余地はあるだろう。
「焦る必要はない。どうせハインツ王子の件でお前も王宮に出入りするんだし、あちらが動くまでお前は動かず傍に居てくれ」
「…────わかった」
確かにその方がいいかとクレイが納得してくれたのを見てホッと息をつく。
「じゃあこれで話は終わりだな」
「ああ」
今日の所は一先ず帰ると言ってくれたクレイに胸をなで下ろし、じゃあまた今夜と言ってそのまま別れた。
けれどこれで一安心と安堵していたのに……。
【おやまあ…。どうやらあちらから接触されてしまったようですよ】
そんなヒュースの言葉で、認識が甘かったと思い知らされることになるとは思っても見なかったのだった────。
「ロックウェル!」
今朝別れたばかりのクレイが何故かシリィを腕に抱いて現れたのだから驚くのも無理はない。
シリィは何故かクレイのマントで包まれ、そっとその身をクレイへと預けている。
一体何があったのかと思いつつも、嫉妬でおかしくなりそうな自分もいた。
一体何がどうなったらそんな状況になるのか────。
「……何があった?」
思わず低く問い掛けたが、クレイは特に気にするでもなく状況を説明してくる。
「シリィの馬車が横転したと使い魔が知らせに来た。回復魔法は掛けたが、取りあえずこのまま部屋に下がらせて構わないか?」
それはつまりクレイがそこまでしてやったと言うことに他ならない。
恐らくシリィ自身が気を失っていたか何かで自力ではどうしようもない状況だったのだろう。
けれど部屋までこのまま運ぶからと言ってくるクレイをちょっと待てと引き留めた。
「…状況はわかったが、クレイ。詳細はお前の方から聞かせてくれるか?」
「ああ」
わかったと言ってクレイがそっとシリィの身体を床へと下ろす。
「シリィ。立てるか?」
そんな言葉にシリィがコクリと頷き、クレイが優しい笑みを向けた。
「よかった」
「ありがとう」
そんな二人を見て、一緒にいた部下が余計なことを言ってくる。
「いや~美男美女でお似合いな二人ですね」
その言葉に思わず手の中のペンをへし折ってしまった。
「ロ、ロックウェル様?」
「……いや。それより、馬車が横転したのなら他にも怪我人が出ただろう。すぐに救援部隊の手配を」
「はっ…!」
そうやってさっさと部下を追いやり、必要はないだろうがと敢えて更にシリィに回復魔法を掛ける。
「シリィ。ご苦労だった」
「ロックウェル様。ありがとうございます」
「遠路の疲れもあるだろうし、今日は一日休んでいい」
「…でも」
「そのマントはまた今度で構わないから」
クレイもそうやって促してやると、キュッとそれを握りしめて口を開いた。
「あ、あの…助けてくれて本当にありがとう」
「いや。無事でよかった」
ふわりと笑うクレイに見惚れるシリィの姿は恋する乙女そのものだ。
正直クレイは自分の物なのにと思えて仕方がなかった。
シリィが礼をして下がったのを見て、すぐにクレイを捕まえて腕の中へと引っ張り込む。
「クレイ…」
「なんだ?」
こんなところで急に抱きつくなと言ってくるつれない恋人を一体どうしてくれようか。
そう思っていたところで、クレイの眷属が報告を入れてくる。
【クレイ様。馬車の件ですが、他の怪我人は救助しておきました】
「ああ。ご苦労」
【それと、残された痕跡からまた何者かの眷属がかかわっていると…】
その言葉にクレイが静かな声で指示を出す。
「わかった。速やかに調べて報告を入れてくれ」
【かしこまりました】
そうして短いやり取りをしたクレイがそっと自分へと振り返った。
「すぐに犯人は判明するから心配するな」
どうやらシリィを心配して自分が犯人に対して怒っているのだと勘違いしたらしい。
「お前は本当に部下思いだな」
そんな言葉がぐさりと胸を刺す。
勿論シリィが怪我をしたと聞けば心配にはなるが、クレイが回復したと言うのなら恐らく全回復してやっただろうとも思った。
だからこその嫉妬だったのだが、これでは嫉妬に狂っている自分だけがどうしようもないようではないか。
「そうだ。王宮に来たついでにハインツの件を聞かせてもらってもいいか?」
そうやって話を振ってくるから、一先ず嫉妬は抑え、今朝王から聞いた内容を伝えることにした。
「週に一度か二度、ハインツ王子に魔法について教えることになった。白黒両方教えて、より適性の高い方に特化しながら教えていくことになると思う」
「そうだな。俺も最初はファルに色々その辺りを教えてもらったが、結局使う方も仕事としても黒魔法の方が性に合っていてそっちを選んだんだ」
懐かしいなと言いながらクレイが笑う。
「そう言えばヒュースとはいつからの付き合いなんだ?」
ファルに適性を見てもらってから黒魔道士の道を選んだのなら、もしやヒュースとはその後からの付き合いなのだろうかと思い至りそっと尋ねてみた。
けれどそれは思っていた物とは違っていて────。
「え?ああ。ヒュースとは元々レイン家に居た頃から知り合いだったんだ。何も知らない俺に他の魔物達と一緒に簡単な魔法とか色々なことを教えてくれてた」
そんな風に最初は友達のようなものだったらしい。
「それでレイン家を出ることになった時に、何故かついてきてくれたんだ」
そこからは使い魔として一緒に居てくれたのだと言う。
「それで、言いにくいんだが、その…14、15くらいの頃だったか?ファルと仕事をした時に、うっかり淫魔に捕まって…」
童貞を奪われたことがあったのだとクレイが言う。
これはあの時ファルと話していたことだろう。
「それでその後、もう放っておけないから眷属として自分を従えてくれと提案されて、受け入れたんだ」
普通は使い魔は主に意見しないものなのだが、ヒュース始め幾名かは本来使い魔に甘んじるようなレベルの者ではなかったらしい。
クレイに魔法を教えたと言う話からしてそれはそうだったのだろう。
【クレイ様は本当に昔から放っておけない方でして】
ヒュースがやれやれと言いながらそっと口を出してくる。
【あの頃レイン家に居た者の内、現在私を含めて3匹が眷属、20匹が使い魔としてお仕えしております】
そこからどちらも更に増えてはいるが、やはり一番使ってもらえるのは自分達なのだとヒュースは言った。
【私などはもう心配過ぎて子飼いの使い魔も120になる始末。クレイ様にはそろそろ落ち着いていただきたいと思っております】
その話を聞いて思わずロックウェルは驚きに目を見開いてしまう。
一体どれほど心配性なのだろうか?
最早ヒュースは親のような心境なのかもしれない。
【そうそう。昨日ロックウェル様からご依頼のあった件。お調べいたしましたよ】
全て報告が上がってきたとヒュースが言う。
【今お話しても?】
クレイがいる場の方が二度手間にならずに済むと言わんばかりの言葉に、ロックウェルは素直に頷いた。
それからヒュースはカルロについてわかったことを報告してくれる。
【ハインツ王子のお祝いの席でクレイ様が捕縛された中に貴族を狙った者達も含まれていたでしょう?あれがどうもそれだったようですね~】
貴族の中で、王宮魔道士に黒魔道士はいらないと言っている輩がいることは知っていた。
けれど具体的に排除の動きが出ていることは特に報告は受けていない。
【その辺りはどうもカルロが意図的に報告を上げなかったようです】
白魔道士である自分にはわかってもらえないと思っての事だったらしいが、はっきり言って職務怠慢だ。
ただでさえ第一部隊は黒白両方の魔道士が揃っているのだ。
分け隔てなく情報は入れてもらえないと困る。
【それから黒魔道士容認派の貴族に繋ぎを取ったらしいのですが、そこが例のクレイ様にきた依頼案件の屋敷だったようです】
茶会に紛れてそこに派遣した三名の黒魔道士のうち一人をその貴族の息子が見初めたのだとか。
「なるほど」
それで納得がいった。
これで全容が把握できるとホッと息を吐いたが、ヒュースの報告は終わらない。
【ロックウェル様?まだご報告をしても宜しいですか?】
「なんだ?」
【はい。そこから派生いたしまして、屋敷に派遣された三名の内、まずはレーチェ。この女は一癖ある者でして、調べましたらフェルネスの元で妃修業をしていた者でございました】
「…?!」
【フェルネスは捕まりましたが、次期王の妃の座を狙って動いているようでございます。手始めにカルロの失脚を企てておりまして…】
そうしてつらつらと内容が語られるが、最早あいた口が塞がらない。
【そんなわけで、ソフィアはレーチェに上手く使われてしまった感じでございます。次にレイスでございますが…】
そちらも別件でのスパイ要員らしく、聞いていて段々頭が痛くなってくる。
【ちなみにフェルネスの元で妃修行をしていた他の者の情報なども集めておきましたので、その辺りも全てお話いたしましょうか?】
120匹の使い魔が他にも沢山の情報を持ってきたのだと言うヒュースに一体どうしたものかと頭を悩ませるしかない。
そんな中、クレイが口を開いた。
「ロックウェル、情報はあくまでもただの情報に過ぎない。全部ではなく必要なことだけ聞いて後は聞き流せばいい。それよりもヒュース。その中に昨日のリーネの情報はないのか?」
【ありますとも。彼女も元々は妃修行をしていた一人だったようですね。けれどそちらは早々に見切りをつけて、現在の目標は魔道士長、つまりはロックウェル様の後釜狙いのご様子】
その言葉に衝撃が走る。
まさかそれが狙いだったとは思いもしなかった。
【今まさに動いている最中の様ですから、どうぞお気を付け下さいませ】
「わかった。お前は何があってもロックウェルを護れ」
【かしこまりました】
それと同時にクレイが深く息を吐く。
「こんな魔窟にいるお前の気がしれない。もういっそさっさと見切りをつけて俺と一緒に仕事をすればいいのに」
王宮なんて出てしまえと言うクレイにロックウェルは思わず苦笑してしまう。
それはとてもクレイらしい考え方で、いっそ清々しかった。
けれどここには自分が望んでいるのだから、そこは許してほしい。
「私はここで頑張りたいんだ」
「…わかっている。言ってみただけだ」
そこでちょうどシリィの件を調べていた者が戻ってきた。
【クレイ様。シリィ様の馬車を狙った者が判明いたしました】
「…誰だ?」
【黒魔道士リーネでございます。足止めをしようとしただけの様ですが、予想以上に被害が広がった模様でして】
「そうか」
これは放っては置けないなとクレイが身を翻す。
「ロックウェル。お前はカルロの件もあるだろう。こっちは俺が引き受けてやる」
「クレイ?!」
それは必要ないと言おうとしたのにクレイはただ楽しげに笑った。
「黒魔道士の件は黒魔道士に任せておけ」
「いや!王宮魔道士の管理は私の職務範囲だ!」
ここは譲れないところだと言っているのに、クレイは聞こうとしない。
「ロックウェル。俺はシリィの件もお前の件も正直腹が立って仕方がないんだ」
リーネについては自分に任せてほしいと言って譲らないクレイを一体どうしたものか…。
【あ~…クレイ様?お気持ちはわかりますが、ロックウェル様の職務もお考えになられてくださいね】
「わかっている」
そうは言っているがわかっていないのは一目瞭然だった。
これはどう言ってやるのが一番いいのだろう?
「クレイ。どうせなら一緒にやらないか?」
もうこれしかないかと敢えて妥協してそれを提案する。
「恐らくリーネはまた何か仕掛けてくるだろうし、ここは協力するのが一番だと思う」
そう言ってやると暫し考えて確かにと頷いた。
これなら説得の余地はあるだろう。
「焦る必要はない。どうせハインツ王子の件でお前も王宮に出入りするんだし、あちらが動くまでお前は動かず傍に居てくれ」
「…────わかった」
確かにその方がいいかとクレイが納得してくれたのを見てホッと息をつく。
「じゃあこれで話は終わりだな」
「ああ」
今日の所は一先ず帰ると言ってくれたクレイに胸をなで下ろし、じゃあまた今夜と言ってそのまま別れた。
けれどこれで一安心と安堵していたのに……。
【おやまあ…。どうやらあちらから接触されてしまったようですよ】
そんなヒュースの言葉で、認識が甘かったと思い知らされることになるとは思っても見なかったのだった────。
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