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第一部 アストラス編~王の落胤~
59.会いたい気持ち
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「どうだ?フェルネスは」
ロックウェルがショーンの元へ行って尋ねると、相変わらずだという答えが返ってきた。
「知らぬ存ぜぬ。自分ではないの一点張りだ」
「…そうか」
これではハインツ王子の呪を解くどころではない。
「なんとかお前の力で解くことはできないのか?」
ショーンからそう言われるが、白魔道士としてできることとできないことがあるのだ。
毒の効果を消すことはできても呪の方の力が複雑に融合されているため完全に解くことができない。
いっそ殺してしまった方が手っ取り早いが、知らぬ存ぜぬと言われてしまっては元魔道士長なだけあって迂闊に手は出せなかった。
それに万が一、命が消えても呪が残ってしまう可能性も考えられる。
一体どうすればよいものか────。
そんな時、不意に足元からヒュースの声が聞こえてきた。
【そんなもの…ロックウェル様がドS全開で尋問なされば一発でございますよ】
その言葉にショーンが思い切り吹き出し、腹を抱えて笑い始める。
「…ヒュース。戻ったのか」
【ええ。ロックウェル様についていて良いと言われましたので】
「そうか」
それは嬉しいが、先程の言葉は一体どういう意味なのか…。
「ちなみに私はドSではないが?」
【…ご自覚がないのなら構いません。いずれにせよロックウェル様が尋問にお加わりになればすぐにでも吐くのではと、そう言っただけです】
「……意味が分からない」
【そうでしょうか?ギリギリのところで回復魔法を掛けるその手腕はなかなかのものだと思いますが?】
「……」
【まあ…帰る間際に王から尋問に加われと言われてクレイ様とお会いになれなくなるなど笑い話にもなりませんので一応ご忠告した次第です】
それではとあっさりと引き下がったヒュースにロックウェルはため息を吐いた。
「…そんなこと、あるはずがないだろうに」
そうやって高を括っていたのだが、午後になってその話は本当に自分の元へとやってきた。
「ロックウェル。なんとか今日中にフェルネスを上手く説得してはくれぬか?」
「……」
「昨日からいくら尋問してもあやつは知らぬ存ぜぬでな」
そんな王の言葉を無視することなどできない。
けれど今日は折角クレイを可愛がろうと思っていたのに────。
「……わかりました。どんな手段を使っても?」
「構わん」
その言葉に恐ろしいほど思考が回りだす。
(絶対に夜までには吐かせてやる…)
王へと礼を執ると、冷たい笑みを浮かべながらそのままロックウェルはフェルネスの元へと足を向けた。
牢で尋問官がフェルネスを責め立てるがフェルネスは頑なに口を開かず殺せと言わんばかりにただ耐えている。
そんなフェルネスの姿にロックウェルはクッと酷薄な笑みを浮かべた。
「ロックウェル様!」
「ああ。暫く見させてもらう」
「はっ…!」
その言葉と共に尋問を開始する尋問官を見るとはなしに見遣りながらそっと場所を移動する。
そしてそのまま暫くフェルネスにもよく見える位置に立って、ただただ冷たくその姿を見つめ続けた。
鞭で打たれ、フェルネスがそろそろ気を失いそうだと言うタイミングでロックウェルは冷笑を浮かべながら唐突に最低限の回復呪文を唱える。
それには尋問官もフェルネスも驚いたようだが、ロックウェルは冷たい笑みを崩さなかった。
「続けろ」
ただ一言そう言って、尋問を繰り返させる。
回復してもらえるのならと尋問官の手は安堵からかどんどん強さを増していく。
フェルネスはそれによって苦痛に顔を歪めるが、気を失いそうになる度に回復魔法で回復され、気の緩む暇もなかった。
そして幾度目かの回復魔法でフェルネスが絶望的な顔でロックウェルの方へと顔を向けてきたので、ゆっくりと歩を進めそのまま側へと立った。
「フェルネス…言っておくがお前が黙っていようとどうしようと、私は何度でも回復魔法を使ってやる。ひと月でもふた月でも、毎日尋問を繰り返され続けるのを望むなら…好きなだけ付き合ってやるぞ?」
顔を覗き込み、殺しはしないがずっといたぶり続けてやるとクッと昏く笑ったロックウェルにフェルネスはガクガクと震え始めた。
「私の魔力の高さは知っているだろう?お前の心がどれほど持つのか…試してやろうか?」
その残酷なまでの言葉にフェルネスはただ震えることしかできない。
ロックウェルの本気が伝わってきて怖くて怖くて仕方がなかった。
「……呪を解く」
「聞こえないな」
「呪を解く!!」
「…嘘偽りはないな?」
「ない…」
「ではまずやり方を教えてもらおうか?」
「私にやらせてくれるのではないのか?」
「ふっ…嘘八百を並べられても困るしな。念には念をだ」
「……」
「おかしな真似をしたら…わかっているな?」
「…わかった」
観念したように項垂れるフェルネスを満足げに見遣ると、すぐにショーンを呼ぶように伝えた。
「ロックウェル。吐いたか?」
「吐くと約束はさせた。ふざけたことをしてきたらすぐに知らせろ」
「わかった」
そしてショーンへとそのまま引き継ぐとそのまま牢を出てすぐさまクレイの元へと向かう。
(全く…無駄に時間がかかった)
夕方ではなく午後に言われたのは幸いだったが、時間的にもギリギリだ。
「ああ…早くクレイを抱きたいものだ」
そうやって愛しい者を想って言葉を紡いだのに、足元のヒュースからはため息交じりにぼやかれた。
【取りあえず、そのドSな笑みは引っ込めてから向かって下さいね…逃げられますから】
失礼なと思ったが、逃げられてはたまらないと思い直し一度着替えてから向かうことにする。
「ロックウェル様!」
「ああ。急ぎの案件があれば明日の朝一番で片付けるから置いておけ」
部下に呼び止められようと関係ない。
「随分お急ぎですね」
「ああ。恋人を待たせているからな」
そう言って甘い笑みを浮かべると、部下は少し驚いたようにした後でそういうことならと微笑んでくれた。
「ロックウェル様ほどのお優しい方に愛されて、その方もお幸せですね」
そんな言葉に柔らかく微笑み返した後で、そっとクレイの顔を思い浮かべ街へと向かったのだった。
***
クレイは王宮を出た後、一度家へと戻り使い魔達に指示を出して軽く掃除を終わらせた。
今夜はロックウェルが来るのだ。少しでも綺麗にしておきたい。
そう思っていると、そこへロイドが顔を見せた。
「クレイ」
「ロイド!」
扉を開けたところで一人かと聞かれ、そうだと答えると、心配したといきなり抱き込まれてしまう。
昨日の件がやはり気になって心配してくれたのだろう。
「大丈夫だ。別にそこまで心配しなくても…」
そう言ってもロイドは手を離さない。
「お前に二度と会えなくなると思ったら怖くなった。まさか封印魔法まで使って来るなんて…」
「ああ。まあロックウェルは嫉妬深いから、あり得なくはないと考えるべきだったな」
「お前が無事で良かった」
「…ああ」
確かにロイドからすればとんでもない事だったとは思うが、好きな相手からあそこまで想われたのは素直に嬉しかった。
「そんなに心配しなくていい。またいつでも会えるだろう?」
「本当に?」
「ああ。ロックウェルからは嫉妬するような事をしなければいいと言われただけで、お前と会うなとは言われていないしな」
その言葉にロイドがそっと身を離す。
「寝るのは無理だが、お前さえ良ければこれからも交流してくれ」
そう言うとロイドは少し考えたところで短く尋ねた。
「友人として?」
「ああ」
「…魔力交流は?」
「別に構わないが?」
その言葉にロイドはどこか嬉しそうに微笑んだ。
「わかった。それならいい。また面白い話があれば持って来る」
「そうしてくれ」
そしてそこで帰るのかと思いきや、続けてソレーユでの事を話してくれた。
「シリィには、お前は無事にアストラスに戻ったから心配はいらないと伝えておいた。馬車で戻るから、あと二、三日でこちらに着くだろう」
「そうか」
それなら良かった。
彼女には先に戻るとしか言ってこなかったから悪いことをしたと思っていたのだ。
「じゃあ私はこれで一度帰るが…。クレイ。あいつの嫉妬深さに耐え切れなくなったらいつでもソレーユに逃げて来い」
「…わかった」
やっぱりロイドはなんだかんだと優しいなと思いながらクレイは笑顔でその姿を見送ると、さてとと気を取り直して街へ出る準備を始める。
久方ぶりのアストラスでの仕事だ。
何か楽しいものがあればいいのだが…。
「ファル!」
街へ出るとすぐにファルが馴染みの店に居るのを発見した。
「クレイ!久しぶりだな」
「ああ。ここひと月ほどソレーユで仕事をしていたからな」
「そうか。でもひと月となるとなかなか長期だな。ロックウェルが妬いたんじゃないか?」
「…そうだな。酷かった」
「だろうな。あいつは本当に執着心が強いから…」
「さすがファル。よくわかってるな」
正直、以前のファルの言葉も思い出したから、あの時封印魔法を唱え始めたロックウェルの心境が嫉妬とかかわっていると思いつけたのだ。
ここは素直に感謝しておきたい所だ。
あれがなければまた勘違いしてしまうところだった。
「当然だ。それより今日は仕事を聞きに来たのか?」
「ああ。久しぶりだし、軽めの物をいくつか受けようと思って」
「それならちょうどいいのがあるぞ。貴族の護衛、隣町の魔物退治、夜魔に浚われた子供の追跡と保護、あとは山賊退治、盗まれた宝石の行方探しだろ…。まあ一番頼みたいのは人探しだな」
次々言われた内容を反芻するが、人探しとはどんなものだろうか?
気になって詳細を尋ねてみると、どうもとある貴族が見初めた相手を探してほしいと言うもののようだった。
「これがな~簡単そうだから何人か引き受けた奴らもいたんだが、どうしても見つからなかったらしくてな」
時間を掛けてもいいとは言われたが、全く追えないから困っているのだとファルは言う。
「お前ならとは思うんだが…どうだ?」
他のものは別に構わないからとファルが言ってきたので、そう言うことならと引き受けることにした。
「夜魔に浚われた子供も引き受けようか?」
「そうしてくれるか?それも早い方がいいだろう。頼む」
「わかった」
それと同時にすぐに眷属へと調査を頼み、各所へと情報を得るために動き始める。
(夜までに終わるといいな)
そう思いながら────。
【クレイ様。子供の行方は分かりました】
「そうかすぐに行く」
そうして夜魔の退治はすぐに終えて子供の保護はできたのだが。もう一件の人探しの方は判明しなかった。
「…珍しいな」
【どうも漠然としすぎているのですよ…】
詳細としては、貴族の屋敷で開かれた茶会に来ていた女人を見初めて、どうしてももう一度会いたいから探してくれというものなのだが、参加者リストを全て洗っても該当者がいなかった。
誰か代理で来たと言う可能性もあるかとそちらも調べさせたが、そのようなこともないとのことで…。
「考えられるとしたら淫魔が紛れ込んでいた…とかか?」
もしそうなら厄介だ。
依頼者を淫魔に引き合わせるわけにはいかなくなってしまう。
「取りあえずもう暫く探ってみてくれ」
【かしこまりました】
どちらにせよ今日はロックウェルと夕食を食べる予定だから、ついでにファルとも話して現時点での報告を入れようと店へと向かった。
ロックウェルがショーンの元へ行って尋ねると、相変わらずだという答えが返ってきた。
「知らぬ存ぜぬ。自分ではないの一点張りだ」
「…そうか」
これではハインツ王子の呪を解くどころではない。
「なんとかお前の力で解くことはできないのか?」
ショーンからそう言われるが、白魔道士としてできることとできないことがあるのだ。
毒の効果を消すことはできても呪の方の力が複雑に融合されているため完全に解くことができない。
いっそ殺してしまった方が手っ取り早いが、知らぬ存ぜぬと言われてしまっては元魔道士長なだけあって迂闊に手は出せなかった。
それに万が一、命が消えても呪が残ってしまう可能性も考えられる。
一体どうすればよいものか────。
そんな時、不意に足元からヒュースの声が聞こえてきた。
【そんなもの…ロックウェル様がドS全開で尋問なされば一発でございますよ】
その言葉にショーンが思い切り吹き出し、腹を抱えて笑い始める。
「…ヒュース。戻ったのか」
【ええ。ロックウェル様についていて良いと言われましたので】
「そうか」
それは嬉しいが、先程の言葉は一体どういう意味なのか…。
「ちなみに私はドSではないが?」
【…ご自覚がないのなら構いません。いずれにせよロックウェル様が尋問にお加わりになればすぐにでも吐くのではと、そう言っただけです】
「……意味が分からない」
【そうでしょうか?ギリギリのところで回復魔法を掛けるその手腕はなかなかのものだと思いますが?】
「……」
【まあ…帰る間際に王から尋問に加われと言われてクレイ様とお会いになれなくなるなど笑い話にもなりませんので一応ご忠告した次第です】
それではとあっさりと引き下がったヒュースにロックウェルはため息を吐いた。
「…そんなこと、あるはずがないだろうに」
そうやって高を括っていたのだが、午後になってその話は本当に自分の元へとやってきた。
「ロックウェル。なんとか今日中にフェルネスを上手く説得してはくれぬか?」
「……」
「昨日からいくら尋問してもあやつは知らぬ存ぜぬでな」
そんな王の言葉を無視することなどできない。
けれど今日は折角クレイを可愛がろうと思っていたのに────。
「……わかりました。どんな手段を使っても?」
「構わん」
その言葉に恐ろしいほど思考が回りだす。
(絶対に夜までには吐かせてやる…)
王へと礼を執ると、冷たい笑みを浮かべながらそのままロックウェルはフェルネスの元へと足を向けた。
牢で尋問官がフェルネスを責め立てるがフェルネスは頑なに口を開かず殺せと言わんばかりにただ耐えている。
そんなフェルネスの姿にロックウェルはクッと酷薄な笑みを浮かべた。
「ロックウェル様!」
「ああ。暫く見させてもらう」
「はっ…!」
その言葉と共に尋問を開始する尋問官を見るとはなしに見遣りながらそっと場所を移動する。
そしてそのまま暫くフェルネスにもよく見える位置に立って、ただただ冷たくその姿を見つめ続けた。
鞭で打たれ、フェルネスがそろそろ気を失いそうだと言うタイミングでロックウェルは冷笑を浮かべながら唐突に最低限の回復呪文を唱える。
それには尋問官もフェルネスも驚いたようだが、ロックウェルは冷たい笑みを崩さなかった。
「続けろ」
ただ一言そう言って、尋問を繰り返させる。
回復してもらえるのならと尋問官の手は安堵からかどんどん強さを増していく。
フェルネスはそれによって苦痛に顔を歪めるが、気を失いそうになる度に回復魔法で回復され、気の緩む暇もなかった。
そして幾度目かの回復魔法でフェルネスが絶望的な顔でロックウェルの方へと顔を向けてきたので、ゆっくりと歩を進めそのまま側へと立った。
「フェルネス…言っておくがお前が黙っていようとどうしようと、私は何度でも回復魔法を使ってやる。ひと月でもふた月でも、毎日尋問を繰り返され続けるのを望むなら…好きなだけ付き合ってやるぞ?」
顔を覗き込み、殺しはしないがずっといたぶり続けてやるとクッと昏く笑ったロックウェルにフェルネスはガクガクと震え始めた。
「私の魔力の高さは知っているだろう?お前の心がどれほど持つのか…試してやろうか?」
その残酷なまでの言葉にフェルネスはただ震えることしかできない。
ロックウェルの本気が伝わってきて怖くて怖くて仕方がなかった。
「……呪を解く」
「聞こえないな」
「呪を解く!!」
「…嘘偽りはないな?」
「ない…」
「ではまずやり方を教えてもらおうか?」
「私にやらせてくれるのではないのか?」
「ふっ…嘘八百を並べられても困るしな。念には念をだ」
「……」
「おかしな真似をしたら…わかっているな?」
「…わかった」
観念したように項垂れるフェルネスを満足げに見遣ると、すぐにショーンを呼ぶように伝えた。
「ロックウェル。吐いたか?」
「吐くと約束はさせた。ふざけたことをしてきたらすぐに知らせろ」
「わかった」
そしてショーンへとそのまま引き継ぐとそのまま牢を出てすぐさまクレイの元へと向かう。
(全く…無駄に時間がかかった)
夕方ではなく午後に言われたのは幸いだったが、時間的にもギリギリだ。
「ああ…早くクレイを抱きたいものだ」
そうやって愛しい者を想って言葉を紡いだのに、足元のヒュースからはため息交じりにぼやかれた。
【取りあえず、そのドSな笑みは引っ込めてから向かって下さいね…逃げられますから】
失礼なと思ったが、逃げられてはたまらないと思い直し一度着替えてから向かうことにする。
「ロックウェル様!」
「ああ。急ぎの案件があれば明日の朝一番で片付けるから置いておけ」
部下に呼び止められようと関係ない。
「随分お急ぎですね」
「ああ。恋人を待たせているからな」
そう言って甘い笑みを浮かべると、部下は少し驚いたようにした後でそういうことならと微笑んでくれた。
「ロックウェル様ほどのお優しい方に愛されて、その方もお幸せですね」
そんな言葉に柔らかく微笑み返した後で、そっとクレイの顔を思い浮かべ街へと向かったのだった。
***
クレイは王宮を出た後、一度家へと戻り使い魔達に指示を出して軽く掃除を終わらせた。
今夜はロックウェルが来るのだ。少しでも綺麗にしておきたい。
そう思っていると、そこへロイドが顔を見せた。
「クレイ」
「ロイド!」
扉を開けたところで一人かと聞かれ、そうだと答えると、心配したといきなり抱き込まれてしまう。
昨日の件がやはり気になって心配してくれたのだろう。
「大丈夫だ。別にそこまで心配しなくても…」
そう言ってもロイドは手を離さない。
「お前に二度と会えなくなると思ったら怖くなった。まさか封印魔法まで使って来るなんて…」
「ああ。まあロックウェルは嫉妬深いから、あり得なくはないと考えるべきだったな」
「お前が無事で良かった」
「…ああ」
確かにロイドからすればとんでもない事だったとは思うが、好きな相手からあそこまで想われたのは素直に嬉しかった。
「そんなに心配しなくていい。またいつでも会えるだろう?」
「本当に?」
「ああ。ロックウェルからは嫉妬するような事をしなければいいと言われただけで、お前と会うなとは言われていないしな」
その言葉にロイドがそっと身を離す。
「寝るのは無理だが、お前さえ良ければこれからも交流してくれ」
そう言うとロイドは少し考えたところで短く尋ねた。
「友人として?」
「ああ」
「…魔力交流は?」
「別に構わないが?」
その言葉にロイドはどこか嬉しそうに微笑んだ。
「わかった。それならいい。また面白い話があれば持って来る」
「そうしてくれ」
そしてそこで帰るのかと思いきや、続けてソレーユでの事を話してくれた。
「シリィには、お前は無事にアストラスに戻ったから心配はいらないと伝えておいた。馬車で戻るから、あと二、三日でこちらに着くだろう」
「そうか」
それなら良かった。
彼女には先に戻るとしか言ってこなかったから悪いことをしたと思っていたのだ。
「じゃあ私はこれで一度帰るが…。クレイ。あいつの嫉妬深さに耐え切れなくなったらいつでもソレーユに逃げて来い」
「…わかった」
やっぱりロイドはなんだかんだと優しいなと思いながらクレイは笑顔でその姿を見送ると、さてとと気を取り直して街へ出る準備を始める。
久方ぶりのアストラスでの仕事だ。
何か楽しいものがあればいいのだが…。
「ファル!」
街へ出るとすぐにファルが馴染みの店に居るのを発見した。
「クレイ!久しぶりだな」
「ああ。ここひと月ほどソレーユで仕事をしていたからな」
「そうか。でもひと月となるとなかなか長期だな。ロックウェルが妬いたんじゃないか?」
「…そうだな。酷かった」
「だろうな。あいつは本当に執着心が強いから…」
「さすがファル。よくわかってるな」
正直、以前のファルの言葉も思い出したから、あの時封印魔法を唱え始めたロックウェルの心境が嫉妬とかかわっていると思いつけたのだ。
ここは素直に感謝しておきたい所だ。
あれがなければまた勘違いしてしまうところだった。
「当然だ。それより今日は仕事を聞きに来たのか?」
「ああ。久しぶりだし、軽めの物をいくつか受けようと思って」
「それならちょうどいいのがあるぞ。貴族の護衛、隣町の魔物退治、夜魔に浚われた子供の追跡と保護、あとは山賊退治、盗まれた宝石の行方探しだろ…。まあ一番頼みたいのは人探しだな」
次々言われた内容を反芻するが、人探しとはどんなものだろうか?
気になって詳細を尋ねてみると、どうもとある貴族が見初めた相手を探してほしいと言うもののようだった。
「これがな~簡単そうだから何人か引き受けた奴らもいたんだが、どうしても見つからなかったらしくてな」
時間を掛けてもいいとは言われたが、全く追えないから困っているのだとファルは言う。
「お前ならとは思うんだが…どうだ?」
他のものは別に構わないからとファルが言ってきたので、そう言うことならと引き受けることにした。
「夜魔に浚われた子供も引き受けようか?」
「そうしてくれるか?それも早い方がいいだろう。頼む」
「わかった」
それと同時にすぐに眷属へと調査を頼み、各所へと情報を得るために動き始める。
(夜までに終わるといいな)
そう思いながら────。
【クレイ様。子供の行方は分かりました】
「そうかすぐに行く」
そうして夜魔の退治はすぐに終えて子供の保護はできたのだが。もう一件の人探しの方は判明しなかった。
「…珍しいな」
【どうも漠然としすぎているのですよ…】
詳細としては、貴族の屋敷で開かれた茶会に来ていた女人を見初めて、どうしてももう一度会いたいから探してくれというものなのだが、参加者リストを全て洗っても該当者がいなかった。
誰か代理で来たと言う可能性もあるかとそちらも調べさせたが、そのようなこともないとのことで…。
「考えられるとしたら淫魔が紛れ込んでいた…とかか?」
もしそうなら厄介だ。
依頼者を淫魔に引き合わせるわけにはいかなくなってしまう。
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