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第一部 アストラス編~王の落胤~
57.決着
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「陛下…只今クレイをお連れ致しました」
そんな言葉と共に王の待つ部屋へと通される。
そこにはハインツとルドルフも同席し、クレイを待ち構えていた。
それを確認はしたものの、クレイは一先ず礼を執り王の言葉を待った。
「…クレイ。面を上げよ」
その言葉に顔を上げるが口は開かずただ言葉を待つ。
「その瞳の封印を今ここで解いてはくれぬか?」
「……その必要性を感じませんのでお断りいたします」
「…王の命令が聞けぬと申すか?」
「聞く気はありません。この瞳は碧眼。それでよいかと」
「そう言う訳にはいかぬ!!すぐに封印を解け!」
その言葉にクレイは小さくため息を吐くとそのまま立ち上がり踵を返した。
「必要ない。俺が命令を聞くとしたらそれはロックウェルの言葉だけだし、王宮の仕事を受けるのもロックウェル経由でしか受けるつもりはない。王だろうとなんだろうと俺を縛ることはできないとだけお伝えしておく」
そうしてあっさりと去って行こうとするクレイに場にいた者達がギョッと驚きに目を見開くが、知ったことではない。
ショーンはそのままの自分でいいと言っていた。
ロックウェルとの仲が修復できたなら別に普段はソレーユで暮らして仕事をし、会いたい夜だけロックウェルの元に来るのも悪くはないと、そう思ったのもあった。
よく考えればアストラスにこだわる必要は一切ないのだ。
それはソレーユで仕事をしたこのひと月でよくわかった。
けれど王はそんなクレイに腹を立てたのか、バチッ!!と魔法で威嚇をしてくる。
「クレイ!」
けれどクレイは王の呼びかけにゆっくりと不遜な笑みで振り返り、その言葉を紡ぐ。
「別にやり合いたいなら相手になるが?」
そうやって挑発したところで突然ロックウェルに腕を引っ張られた。
「クレイ!無礼もいい加減にしないか!」
「……」
「陛下、申し訳ございません。けれどクレイは以前にも申しました通り頑ななところがございますので、どうかお許しください」
その言葉と共に背に庇われる。
「……どうあっても瞳を見せる気はないと?」
王からのそんな言葉にロックウェルがそっと自分を見つめてくる。
その目は我慢しろと言わんばかりだ。
「……お前が言うなら聞いてもいい」
「では…お見せしろ」
その言葉に仕方がないなとため息を吐いてそっとその瞳の魔法を解いた。
そこに現れたのは煌めくアメジストの輝きを宿した美しい紫の瞳────。
その美しさにはルドルフもが思わず感嘆のため息を吐くほどだった。
「これで満足か?」
フッと笑ってすぐにまたその瞳を封印してしまったクレイに、王はため息を吐きながらその言葉を告げる。
「クレイ…その瞳をもって、お前を我が子と認めよう」
けれどそれに対してクレイはあっさりと拒絶の言葉を吐いた。
「結構だ。俺は今までもこれからもただの黒魔道士として生きていく」
「…さすがにそう言う訳にはいかぬ。後々跡継ぎ問題も絡む故…」
そこまで王が口にしたところでロックウェルが二人の間へと割り込んだ。
「陛下…大変申し上げにくいのですが、クレイは私の想い人。これから先他の誰にも渡す気はございませんので、クレイに跡継ぎ等あり得ないとだけ…言わせていただきたい」
「…ロックウェル」
その言葉にクレイが目を瞠る。
まさかそんなことを王の前で口にするなど思っても見なかったからだ。
「傍に…いてくれるんだろう?」
そんな言葉に心が震えて仕方がない。
思わず頬を染めてコクリと頷いた自分を見てロックウェルが嬉しそうに笑ってくれた。
そんな二人に王とハインツは驚いているようだったが、ルドルフとショーンは頬を緩ませている。
そしてそこでルドルフが王へと口を開いた。
「陛下。そういうことですので、王位継承権第一位は今のまま、ハインツで宜しいのではと」
それを受けて王も安堵したように満足げに頷きを落とした。
「そうか。そうだな」
そうやって場が丸く収まろうとしていたが、ふとハインツの方を見たクレイがその言葉を投下した。
「ハインツは王になりたいと望んでいなさそうだし、ルドルフ王子が後を継いではどうだ?」
あまりにもサクッと言われた言葉にそこに居た皆が驚いてクレイを見つめる。
けれどクレイはなんということもない様にハインツへと向かって言葉を続けた。
「ハインツ。以前に俺と話した時のように、言葉は飲みこまずにきちんと話せ。嫌なものは嫌だと言えばいいし、やりたいことはやりたいと言えばいい」
自分はいつもそうしているし、譲れるところと譲れないところはしっかりと主張すべきだと背中を押した。
その言葉にハインツの目から思いがけずポロリと涙がこぼれる。
「ク…クレイ…」
「ああ」
待っててやるからちゃんと言えと、あの日のように待ってくれるクレイにハインツは思い切って自分の思いを口にした。
「僕は…僕には王は無理です」
その言葉に王もルドルフも驚きを隠せない。
「ハ…ハインツ!お前…!」
「だって、そうでしょう?どう考えても国の事を何もわかっていない僕が王になれば国が荒れてしまいます!これから勉強はするつもりですが、性格的にプレッシャーにも強くありませんし、絶対に向いていません!」
泣きながら訴えるハインツに王もどう言っていいのか測りかねてしまった。
このままでは後を継げるものが誰もいないということになってしまう。
そこへクレイがまた先程の事を口にした。
「別に中継ぎの王をルドルフ王子にお願いして、その次の王をハインツの子にすれば問題はないだろう?やりたい者が王になればいいのに、血筋だ血統だと言うからややこしくなる」
現時点でルドルフも王子なのは変わらないのだし、最も適任だと言い切ったクレイにルドルフはおかしくて仕方がなかった。
そこに自分を入れてこないところがクレイらしいのかもしれない。
けれど…。
「レノバイン王の血にこだわる者は意外にも多い」
それほど彼の王は偉大だったのだ。
その血にこだわる者達が自分を素直に受け入れるとは考えにくい。
ましてや今は王妃を追放した直後だ。反発も大きいだろう。
「それならハインツを育てて常に隣に立たせればいい。やり方はいくらでもあるだろう」
二人で国を盛り立てる形を取れば上手くいくのではないかとやはりあっさりとクレイは言った。
「正直王宮内の者達の考え方はややこしすぎてよくわからないな。こちらはさっさと面倒事からは手を引きたいから、飛び火してこないようにだけよろしく頼む」
そう言って笑ったクレイの足元でヒュースが【本当に頼みますよ】とぼやいていたのは内緒だ。
そんなクレイに王は悩んだが、それについてはこれからの話し合いで決めたいと答えるにとどめた。
そして、もう一つの問題へと言葉を続ける。
「一先ずハインツの呪を解く方向で動きたいと思っているが、フェルネスがどこにいるのかお前に捜索を頼みたい」
それはロックウェルも望んでいることだと言われ、クレイはため息を吐きつつも了解したと答え自分の眷属へと声を掛けた。
「ヒュース。すぐに動けるか?」
【そんなものクレイ様がここに戻った時点でもう既に皆で捜索に動きました。面倒なのですでに捕獲しております。ご命令いただければすぐにでも身柄をお持ちいたします】
ヒュースがまるで欠伸でもするかのように答え、クレイが満足げに微笑む。
「そうか」
報酬に好きなだけ魔力を持っていけと眷属達に声を掛け、クレイはその情報をあっさりと口にした。
「そんな訳ですでに捕獲済みだそうだ」
その言葉と共にフェルネスが拘束された状態でクレイの眷属によってその場へと連れてこられる。
「これで俺の仕事は終わりだな。悪いがこれで失礼する」
そしてロックウェルにだけそっと微笑み、小さく「部屋で待ってる」とだけ告げ、あっさりとそこから立ち去ってしまった。
後に残された面々はあまりにも仕事が早すぎると驚きながらも、フェルネスを今度こそ牢へと連行したのだった。
***
「クレイ」
ロックウェルが仕事を終えて部屋へと戻ると、そこにはちゃんとクレイの姿があってホッとした。
これが夢ではないと確認したくてすぐに腕の中へと閉じ込めて優しく口づける。
「ん…ロックウェル…」
ギュッと抱きついてくるクレイが愛しくて仕方がなかった。
「クレイ…戻ってきてくれて嬉しい…」
そう言いながら思うさま唇を堪能すると気持ちよさそうにうっとりと自分を見つめてくるから、つい長々と口づけを交わしてしまった。
「はぁ…っ」
その熱い眼差しが自分だけを見つめてくれるのが嬉しい。
けれどこの表情をロイドも知っているのだと思うとなんだか悔しくもあった。
「クレイ…ロイドとの口づけと…どちらが好きだ?」
だからついそうやって聞いてしまったが、クレイはその言葉にきょとんとした後でクスリと笑った。
「そんなもの、ロックウェルの方がいいに決まっているだろう?」
「本当に?」
「…ロックウェルに嫉妬されるのは嬉しいが、疑われるのはいい気はしない」
そう言うとクレイはスッと身を自分から離してしまう。
「ロイドはただのセフレ予備軍だ。お前とは全然違うから心配するな」
ニッと笑ってそんなことをいきなり言い出したクレイに、思わずどこが心配いらないのかと聞きたくなった。
これは絶対に何かやらかしたに決まっている。
【あ~あ…。クレイ様?折角のいい雰囲気が台無しですよ?】
ヒュースがまたぼやくように口を出し、クレイはそちらをギッと睨んだ。
「ヒュース!お前はまた呼んでもいないのに…!」
けれどここはロックウェルとしては是非とも話を聞いておきたいところだった。
「いい。ヒュース。話を聞くから教えてくれ」
「ロックウェル?!」
【そうですね~。本当にクレイ様はうっかりが服を着て歩いているような方で申し訳ありません】
そうしてクレイの問題発言について教えてくれたのだが…。
「………クレイ?」
思わず氷点下の声で尋ねてしまったのは仕方がないだろう。
「そんなに怒らなくても、ちゃんと押さえるところは押さえているから大丈夫だ!」
『ロックウェル以外には抱かれたくないとしっかり釘は刺した』とクレイは主張するが、そんなものは逆ならアリと言った時点で無効もいいところだ。
ロイドがあまりにも可哀想になってくる。
【クレイ様はどうしてこう失言なさるのでしょうね…】
ヒュースがため息交じりに『やはりひと月は長かった』とぼやきだす。
「そんなの一年も見込みがなければさっさとあいつも諦めるだろう?」
『問題ない』とそんなことまで言うものだから本当に性質が悪い。
どこまで見込みが甘いのだろう?
「大体俺はお前とはもうダメだと思っていたから、そういうこともあるかと提案しただけだ」
あくまでも本命ではなくセフレだと言っておいたし問題ないと拗ねて顔を背けるクレイに、確かに自分にも責任の一端はあるのかもしれないとは思ったが…。
「お前は本当にどこまでも罪作りだな。女だったら悪女まっしぐらだ」
そう言いながら勢いよく自分へと引き寄せて激しく口づけた。
「んぅ…!は…はぁ…あ…」
そうしてトロリと瞳を潤ませるクレイにその言葉を突きつける。
「お仕置きと優しく抱かれるのなら…お前はどちらを選ぶ?」
「え?」
「今日は選ばせてやる」
意地悪くそうやって聞いてやると、クレイは真っ赤になって暫く考えた後でキュッと服の裾を掴んだ。
「…あの時みたいなお仕置きは嫌だけど、優しくよりは激しく抱いてほしい……」
ダメかと上目遣いで強請られて思わずそのまま押し倒してしまう。
どうしてクレイはこうやってすぐに煽ってくるのだろう?
「お前はすぐにそうやって私に火をつけるのをやめた方がいい」
「え?あっ…んぁっ…!!」
項に口づけ所有の証を刻む。
「決めた。今日は甘いお仕置き決定だ」
「え?やっ…あぁんっ…!」
そんな自分達にヒュースが楽しげに一言だけ言って姿を消した。
【ロックウェル様。先程のフェルネスの件で我々も好きなだけ報酬を頂けましたので、しっかりと魔力交流をして差し上げて下さいませ】
その言葉にクレイが大きく目を瞠り、焦ったようにちょっと待てと声を上げる。
「まっ…待ってくれ…ロックウェル…!」
「…?どうかしたのか?」
「最悪だ…。…ヒュース達にやられた。悪いが今日は諦めてこのまま帰る」
そんな言葉と共にどこかそわそわしだしたクレイを逃がさないようそっと腕の中へと囲い込んだ。
「…?魔力を持っていかれたからか?魔力が足りないならヒュースが言うように私が魔力交流してやるから心配しなくても構わないだろう?」
回復魔法だって使えるし問題ないと言いながらゆっくりと魔力を口にして口づけたのだが、それに対してクレイが想像以上に体を震わせた。
「んっ…んふっ…ふあぁっ…!」
その表情は気持ちよさそうに蕩けきっていて、たまらなく扇情的だ。
「んぅ…はぁっ…ま、待って…」
何故か懸命に訴えてくるが当然待つわけがない。
「待たない」
そのまま服を剥いで床へと落とし、ゆっくりとクレイの肌を堪能する。
「あっ…あぁっ…んんっ…」
魔力が浸透するたびにビクビクと身を震わせるクレイが可愛すぎてたまらない。
「ロ…ロックウェル…わ、わかった…から…。お願いだから封印を解かせてくれ…」
逃げたりしないから瞳の封印を解かせてほしいと言い出したクレイに不思議に思って尋ねてみると、魔力交流自体、魔力値の差で感度が変わってくるようなのだと教えてくれた。
普段は然程変わりないレベルだからちょうどいいのだが、今は眷属達に必要以上に魔力を持っていかれてしまったせいで魔力差が出て感じすぎて辛いのだとか。
「このままだとお前に貫かれた途端意識が飛ぶから…」
魔力交流せずに抱かれるか、交流するなら封印を解いて抱かれるかのどちらかしか選択肢がないと涙目で言う。
別に意識が飛ぶくらい感じてくれる分にはそれはそれで良さそうなのに、クレイ的には嫌なのだと主張した。
「久しぶりだし、俺だってできればいっぱいお前を堪能したいんだ…」
そんな風に「意識を飛ばしたら感じられないから嫌だ」と言ってくる可愛さに、もうどうしてくれようかと言う気にさせられてしまう。
「わかった。じゃあ封印を解いてくれるか?」
その言葉にクレイがそっと頷き、封印されていたあの美しい瞳を解放した。
そんな言葉と共に王の待つ部屋へと通される。
そこにはハインツとルドルフも同席し、クレイを待ち構えていた。
それを確認はしたものの、クレイは一先ず礼を執り王の言葉を待った。
「…クレイ。面を上げよ」
その言葉に顔を上げるが口は開かずただ言葉を待つ。
「その瞳の封印を今ここで解いてはくれぬか?」
「……その必要性を感じませんのでお断りいたします」
「…王の命令が聞けぬと申すか?」
「聞く気はありません。この瞳は碧眼。それでよいかと」
「そう言う訳にはいかぬ!!すぐに封印を解け!」
その言葉にクレイは小さくため息を吐くとそのまま立ち上がり踵を返した。
「必要ない。俺が命令を聞くとしたらそれはロックウェルの言葉だけだし、王宮の仕事を受けるのもロックウェル経由でしか受けるつもりはない。王だろうとなんだろうと俺を縛ることはできないとだけお伝えしておく」
そうしてあっさりと去って行こうとするクレイに場にいた者達がギョッと驚きに目を見開くが、知ったことではない。
ショーンはそのままの自分でいいと言っていた。
ロックウェルとの仲が修復できたなら別に普段はソレーユで暮らして仕事をし、会いたい夜だけロックウェルの元に来るのも悪くはないと、そう思ったのもあった。
よく考えればアストラスにこだわる必要は一切ないのだ。
それはソレーユで仕事をしたこのひと月でよくわかった。
けれど王はそんなクレイに腹を立てたのか、バチッ!!と魔法で威嚇をしてくる。
「クレイ!」
けれどクレイは王の呼びかけにゆっくりと不遜な笑みで振り返り、その言葉を紡ぐ。
「別にやり合いたいなら相手になるが?」
そうやって挑発したところで突然ロックウェルに腕を引っ張られた。
「クレイ!無礼もいい加減にしないか!」
「……」
「陛下、申し訳ございません。けれどクレイは以前にも申しました通り頑ななところがございますので、どうかお許しください」
その言葉と共に背に庇われる。
「……どうあっても瞳を見せる気はないと?」
王からのそんな言葉にロックウェルがそっと自分を見つめてくる。
その目は我慢しろと言わんばかりだ。
「……お前が言うなら聞いてもいい」
「では…お見せしろ」
その言葉に仕方がないなとため息を吐いてそっとその瞳の魔法を解いた。
そこに現れたのは煌めくアメジストの輝きを宿した美しい紫の瞳────。
その美しさにはルドルフもが思わず感嘆のため息を吐くほどだった。
「これで満足か?」
フッと笑ってすぐにまたその瞳を封印してしまったクレイに、王はため息を吐きながらその言葉を告げる。
「クレイ…その瞳をもって、お前を我が子と認めよう」
けれどそれに対してクレイはあっさりと拒絶の言葉を吐いた。
「結構だ。俺は今までもこれからもただの黒魔道士として生きていく」
「…さすがにそう言う訳にはいかぬ。後々跡継ぎ問題も絡む故…」
そこまで王が口にしたところでロックウェルが二人の間へと割り込んだ。
「陛下…大変申し上げにくいのですが、クレイは私の想い人。これから先他の誰にも渡す気はございませんので、クレイに跡継ぎ等あり得ないとだけ…言わせていただきたい」
「…ロックウェル」
その言葉にクレイが目を瞠る。
まさかそんなことを王の前で口にするなど思っても見なかったからだ。
「傍に…いてくれるんだろう?」
そんな言葉に心が震えて仕方がない。
思わず頬を染めてコクリと頷いた自分を見てロックウェルが嬉しそうに笑ってくれた。
そんな二人に王とハインツは驚いているようだったが、ルドルフとショーンは頬を緩ませている。
そしてそこでルドルフが王へと口を開いた。
「陛下。そういうことですので、王位継承権第一位は今のまま、ハインツで宜しいのではと」
それを受けて王も安堵したように満足げに頷きを落とした。
「そうか。そうだな」
そうやって場が丸く収まろうとしていたが、ふとハインツの方を見たクレイがその言葉を投下した。
「ハインツは王になりたいと望んでいなさそうだし、ルドルフ王子が後を継いではどうだ?」
あまりにもサクッと言われた言葉にそこに居た皆が驚いてクレイを見つめる。
けれどクレイはなんということもない様にハインツへと向かって言葉を続けた。
「ハインツ。以前に俺と話した時のように、言葉は飲みこまずにきちんと話せ。嫌なものは嫌だと言えばいいし、やりたいことはやりたいと言えばいい」
自分はいつもそうしているし、譲れるところと譲れないところはしっかりと主張すべきだと背中を押した。
その言葉にハインツの目から思いがけずポロリと涙がこぼれる。
「ク…クレイ…」
「ああ」
待っててやるからちゃんと言えと、あの日のように待ってくれるクレイにハインツは思い切って自分の思いを口にした。
「僕は…僕には王は無理です」
その言葉に王もルドルフも驚きを隠せない。
「ハ…ハインツ!お前…!」
「だって、そうでしょう?どう考えても国の事を何もわかっていない僕が王になれば国が荒れてしまいます!これから勉強はするつもりですが、性格的にプレッシャーにも強くありませんし、絶対に向いていません!」
泣きながら訴えるハインツに王もどう言っていいのか測りかねてしまった。
このままでは後を継げるものが誰もいないということになってしまう。
そこへクレイがまた先程の事を口にした。
「別に中継ぎの王をルドルフ王子にお願いして、その次の王をハインツの子にすれば問題はないだろう?やりたい者が王になればいいのに、血筋だ血統だと言うからややこしくなる」
現時点でルドルフも王子なのは変わらないのだし、最も適任だと言い切ったクレイにルドルフはおかしくて仕方がなかった。
そこに自分を入れてこないところがクレイらしいのかもしれない。
けれど…。
「レノバイン王の血にこだわる者は意外にも多い」
それほど彼の王は偉大だったのだ。
その血にこだわる者達が自分を素直に受け入れるとは考えにくい。
ましてや今は王妃を追放した直後だ。反発も大きいだろう。
「それならハインツを育てて常に隣に立たせればいい。やり方はいくらでもあるだろう」
二人で国を盛り立てる形を取れば上手くいくのではないかとやはりあっさりとクレイは言った。
「正直王宮内の者達の考え方はややこしすぎてよくわからないな。こちらはさっさと面倒事からは手を引きたいから、飛び火してこないようにだけよろしく頼む」
そう言って笑ったクレイの足元でヒュースが【本当に頼みますよ】とぼやいていたのは内緒だ。
そんなクレイに王は悩んだが、それについてはこれからの話し合いで決めたいと答えるにとどめた。
そして、もう一つの問題へと言葉を続ける。
「一先ずハインツの呪を解く方向で動きたいと思っているが、フェルネスがどこにいるのかお前に捜索を頼みたい」
それはロックウェルも望んでいることだと言われ、クレイはため息を吐きつつも了解したと答え自分の眷属へと声を掛けた。
「ヒュース。すぐに動けるか?」
【そんなものクレイ様がここに戻った時点でもう既に皆で捜索に動きました。面倒なのですでに捕獲しております。ご命令いただければすぐにでも身柄をお持ちいたします】
ヒュースがまるで欠伸でもするかのように答え、クレイが満足げに微笑む。
「そうか」
報酬に好きなだけ魔力を持っていけと眷属達に声を掛け、クレイはその情報をあっさりと口にした。
「そんな訳ですでに捕獲済みだそうだ」
その言葉と共にフェルネスが拘束された状態でクレイの眷属によってその場へと連れてこられる。
「これで俺の仕事は終わりだな。悪いがこれで失礼する」
そしてロックウェルにだけそっと微笑み、小さく「部屋で待ってる」とだけ告げ、あっさりとそこから立ち去ってしまった。
後に残された面々はあまりにも仕事が早すぎると驚きながらも、フェルネスを今度こそ牢へと連行したのだった。
***
「クレイ」
ロックウェルが仕事を終えて部屋へと戻ると、そこにはちゃんとクレイの姿があってホッとした。
これが夢ではないと確認したくてすぐに腕の中へと閉じ込めて優しく口づける。
「ん…ロックウェル…」
ギュッと抱きついてくるクレイが愛しくて仕方がなかった。
「クレイ…戻ってきてくれて嬉しい…」
そう言いながら思うさま唇を堪能すると気持ちよさそうにうっとりと自分を見つめてくるから、つい長々と口づけを交わしてしまった。
「はぁ…っ」
その熱い眼差しが自分だけを見つめてくれるのが嬉しい。
けれどこの表情をロイドも知っているのだと思うとなんだか悔しくもあった。
「クレイ…ロイドとの口づけと…どちらが好きだ?」
だからついそうやって聞いてしまったが、クレイはその言葉にきょとんとした後でクスリと笑った。
「そんなもの、ロックウェルの方がいいに決まっているだろう?」
「本当に?」
「…ロックウェルに嫉妬されるのは嬉しいが、疑われるのはいい気はしない」
そう言うとクレイはスッと身を自分から離してしまう。
「ロイドはただのセフレ予備軍だ。お前とは全然違うから心配するな」
ニッと笑ってそんなことをいきなり言い出したクレイに、思わずどこが心配いらないのかと聞きたくなった。
これは絶対に何かやらかしたに決まっている。
【あ~あ…。クレイ様?折角のいい雰囲気が台無しですよ?】
ヒュースがまたぼやくように口を出し、クレイはそちらをギッと睨んだ。
「ヒュース!お前はまた呼んでもいないのに…!」
けれどここはロックウェルとしては是非とも話を聞いておきたいところだった。
「いい。ヒュース。話を聞くから教えてくれ」
「ロックウェル?!」
【そうですね~。本当にクレイ様はうっかりが服を着て歩いているような方で申し訳ありません】
そうしてクレイの問題発言について教えてくれたのだが…。
「………クレイ?」
思わず氷点下の声で尋ねてしまったのは仕方がないだろう。
「そんなに怒らなくても、ちゃんと押さえるところは押さえているから大丈夫だ!」
『ロックウェル以外には抱かれたくないとしっかり釘は刺した』とクレイは主張するが、そんなものは逆ならアリと言った時点で無効もいいところだ。
ロイドがあまりにも可哀想になってくる。
【クレイ様はどうしてこう失言なさるのでしょうね…】
ヒュースがため息交じりに『やはりひと月は長かった』とぼやきだす。
「そんなの一年も見込みがなければさっさとあいつも諦めるだろう?」
『問題ない』とそんなことまで言うものだから本当に性質が悪い。
どこまで見込みが甘いのだろう?
「大体俺はお前とはもうダメだと思っていたから、そういうこともあるかと提案しただけだ」
あくまでも本命ではなくセフレだと言っておいたし問題ないと拗ねて顔を背けるクレイに、確かに自分にも責任の一端はあるのかもしれないとは思ったが…。
「お前は本当にどこまでも罪作りだな。女だったら悪女まっしぐらだ」
そう言いながら勢いよく自分へと引き寄せて激しく口づけた。
「んぅ…!は…はぁ…あ…」
そうしてトロリと瞳を潤ませるクレイにその言葉を突きつける。
「お仕置きと優しく抱かれるのなら…お前はどちらを選ぶ?」
「え?」
「今日は選ばせてやる」
意地悪くそうやって聞いてやると、クレイは真っ赤になって暫く考えた後でキュッと服の裾を掴んだ。
「…あの時みたいなお仕置きは嫌だけど、優しくよりは激しく抱いてほしい……」
ダメかと上目遣いで強請られて思わずそのまま押し倒してしまう。
どうしてクレイはこうやってすぐに煽ってくるのだろう?
「お前はすぐにそうやって私に火をつけるのをやめた方がいい」
「え?あっ…んぁっ…!!」
項に口づけ所有の証を刻む。
「決めた。今日は甘いお仕置き決定だ」
「え?やっ…あぁんっ…!」
そんな自分達にヒュースが楽しげに一言だけ言って姿を消した。
【ロックウェル様。先程のフェルネスの件で我々も好きなだけ報酬を頂けましたので、しっかりと魔力交流をして差し上げて下さいませ】
その言葉にクレイが大きく目を瞠り、焦ったようにちょっと待てと声を上げる。
「まっ…待ってくれ…ロックウェル…!」
「…?どうかしたのか?」
「最悪だ…。…ヒュース達にやられた。悪いが今日は諦めてこのまま帰る」
そんな言葉と共にどこかそわそわしだしたクレイを逃がさないようそっと腕の中へと囲い込んだ。
「…?魔力を持っていかれたからか?魔力が足りないならヒュースが言うように私が魔力交流してやるから心配しなくても構わないだろう?」
回復魔法だって使えるし問題ないと言いながらゆっくりと魔力を口にして口づけたのだが、それに対してクレイが想像以上に体を震わせた。
「んっ…んふっ…ふあぁっ…!」
その表情は気持ちよさそうに蕩けきっていて、たまらなく扇情的だ。
「んぅ…はぁっ…ま、待って…」
何故か懸命に訴えてくるが当然待つわけがない。
「待たない」
そのまま服を剥いで床へと落とし、ゆっくりとクレイの肌を堪能する。
「あっ…あぁっ…んんっ…」
魔力が浸透するたびにビクビクと身を震わせるクレイが可愛すぎてたまらない。
「ロ…ロックウェル…わ、わかった…から…。お願いだから封印を解かせてくれ…」
逃げたりしないから瞳の封印を解かせてほしいと言い出したクレイに不思議に思って尋ねてみると、魔力交流自体、魔力値の差で感度が変わってくるようなのだと教えてくれた。
普段は然程変わりないレベルだからちょうどいいのだが、今は眷属達に必要以上に魔力を持っていかれてしまったせいで魔力差が出て感じすぎて辛いのだとか。
「このままだとお前に貫かれた途端意識が飛ぶから…」
魔力交流せずに抱かれるか、交流するなら封印を解いて抱かれるかのどちらかしか選択肢がないと涙目で言う。
別に意識が飛ぶくらい感じてくれる分にはそれはそれで良さそうなのに、クレイ的には嫌なのだと主張した。
「久しぶりだし、俺だってできればいっぱいお前を堪能したいんだ…」
そんな風に「意識を飛ばしたら感じられないから嫌だ」と言ってくる可愛さに、もうどうしてくれようかと言う気にさせられてしまう。
「わかった。じゃあ封印を解いてくれるか?」
その言葉にクレイがそっと頷き、封印されていたあの美しい瞳を解放した。
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気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
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