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第二部 ソレーユ編~失くした恋の行方~
1.出会い
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※第二部はアストラスサイドではなく基本的にソレーユサイドのお話となっております。
騎士(一途)×皇太子(ドM)メイン、ライアード×シリィがサブ、番外編はシュバルツ×ロイドメインですが、出だし(1~6)は第一部の裏話になるためライアード視点となっております。
他にも部分部分で一部と重なっているため出来るだけリンク部位を掲載させて頂こうと思います。
読みにくくて本当に申し訳ありません。
こちらも地雷多めだと思うので、合わないと思ったら即撤退してください。
※ロイドは相手がシュバルツの時以外は全て攻めです。
※ロイド×モブ女性、双子魔道士×皇太子(3P)、ロイド×双子黒魔道士(3P)等もありますので、苦手な方は回避してください。
宜しくお願いしますm(_ _)m
────────────────
ガタゴトと王族の馬車がひた走る。
道の脇に控えるのは行き交う商人や魔道士達。
皆が王族に頭を下げる中、その子供だけは木の上に座りながらただその馬車列を眺めていた。
そんな子供に隊列の馬上からそっと視線をやると、その子供はすぐにこちらに気が付いておよそ子供らしからぬ不敵な笑みを浮かべた。
ロイドとの出会いはそれが初めてだった。
それから2年程が経ったある日のこと────。
ザシュッ!!
刺客に狙われた兄王子を守るため剣を振るっていた自分。
魔法を使えないのだから剣で戦う以外に方法はない。
幸いにも王宮魔道士達から防御魔法を掛けてはもらっているため魔法攻撃はなんとか防ぐことができている。
ただそれだけでは身の危険を回避することはできない。
そんな中で、途中から参戦してきた相手方の黒魔道士達が自分達に掛けられた防御魔法をものともせずに攻撃を仕掛けてきたのだ。
「すみませんね~。貴方方を始末したら報酬は思いのままと言われているので…」
ニヤニヤとしながら黒衣の男達が迫りくる。
最早ここまでかとそう思ったところで、突如双方の間に一陣の風が吹き抜けた。
そしてそこに立っていたのはまだ十五かそこらの子供だった。
(この子供…どこかで…)
そう思ったところでその子供がゆっくりとこちらへと振り返る。
柔らかい光を宿すそのヘーゼルアイは、まるで安心しろとでもいうかのように優しくこちらへと向けられていた。
「この子供…!」
「邪魔だ!」
男達がそう叫んだにもかかわらず、少年はその顔に浮かんだ不敵な笑みを崩すことなく短く告げた。
「邪魔も何も…もう終わっているのだとわからないのか?」
「は?」
何を言われたのかさっぱりわからないと言う顔をした男達だったが、少年がパチンと指を鳴らしたところで彼らは一瞬にして結界へと囚われ一斉に悲鳴を上げた。
そして少年は微笑みながらこちらへと声を掛けてくる。
「このまま連行する?それとも全員ここで息の根を止めようか?」
無邪気なその言葉に兄王子は恐れを抱いたようだった。
「助けてもらった事には感謝しよう。その者達はこのまま連行させてもらう」
「そう」
その言葉と同時に少年が結界を解き、変わって素早く拘束魔法を唱えた。
最早男達には抵抗の意思はない。
ブルブルと震えながら少年の方を見つめ、ただ短く問うた。
「その年でこの魔力…。お前は…まさか…」
そんな彼らに少年が艶やかに笑う。
「ふっ…なんだ知っていたのか」
「ボロス…」
男達の言葉に少年は満足げに笑ってこちらをただ真っ直ぐに見つめてきた。
無事に城へと戻り、男達を兵へと引き渡したところでボロスと名乗った少年の対応を兄から任され会話を試みる。
彼は一体どうしてこちらへと手を貸してくれたのだろう?
ただの親切とも思えなかったのだが……。
「勿論、意味もなく手を貸すはずがない」
そんな疑問に返ってきた答えは予想通りのものでしかなかった。
「たまたまお腹が空いてたから、助けたら美味しいものでももらえるかと思って」
にっこりと微笑んできた彼は本当に無邪気な子供の様に見えたが、先程の男達を捕らえた時の鮮やかな手並みと言い、どうもかなり優秀な魔道士のようだった。
「兄上。いかがです?暫く彼を護衛として雇ってみては」
だからこそ食事を頼みに行ったついでに兄の元へと足を向けそう提案したのだが、兄は頑なにイエスとは答えなかった。
曰く、得体がしれない────と。
魔道士など王宮魔道士で見慣れているはずの兄がそんなことを口にしたのは意外だと思ったが、それほどボロスは凄いのだろうか?
「ちなみにいつから魔道士をしているんだ?」
食事を与えてやりながらそう尋ねると、ボロスは暫く考えた後、7才の頃からだと答えを返してきた。
「親が何でもいいから金を持って帰って来いって煩かったから、小銭稼ぎで色々やってたんだ」
その言葉は正直衝撃的だった。
まさかそんな年端もいかないうちから親に働きに行かされていたとは思いもよらなかった。
「今…ご両親は?」
「ああ、二人とも流行病であっさり死んでくれたから今は一人だ」
聞くところによると、ボロスが12になる頃その当時蔓延していた流行病で二人とも亡くなってしまったらしい。
「その頃にはもう仕事も順調だったし、元々自分だけの稼ぎで生活してたから」
何一つ困ることなどなかったのだと何でもないことの様に少年は笑顔で口にした。
しかもどうやら今の名は元々の名前ではないらしい。
「元々親に呼ばれてた名前もあるにはあるけど…仕事でその名を使ったら実生活に支障があるかと思って黙ってたんだ」
けれどいつしかそんな彼を周囲が勝手に名づけ始めたのだという。
「ボロスって言う名はウロボロスからもじったらしいよ?」
ウロボロス────それが意味するところは『全知全能』…つまりは完璧なる者。
この目の前の少年は幼くしてそれを他者に認めさせるほど優秀な成果を上げてきたのだろう。
しかも圧倒的なその力をもって────。
そう言うことなら兄が恐れるのはわからないでもない。
自分では扱いきれないとでも思ったのだろう。
けれど────。
「ボロス。満足できたか?」
「ああ。もうお腹はいっぱいだ」
満足そうに彼は笑う。
きっと彼はこのままあっさりとここから姿を消すことだろう。
けれどそれは本意ではなかった。
「ボロス。これからも美味い物を沢山食べさせてやる代わりに、私の元へ来ないか?」
「え?」
少年は驚いたようにそのヘーゼルの瞳を丸くする。
まさかこんな提案をされるとは思いもよらなかったのだろう。
「あ~…。有難い申し出だけど…」
そうやってすぐさま苦い顔で断られそうになり、思わず言葉をさえぎってしまった。
「何故だ?」
「…お互いにメリットがないから…かな」
至極あっさりと言い切られた言葉に思わず笑いが込み上げてしまう。
まさかそう返されるとは思わなかった。
普通は王族のお抱え魔道士にしてもらえるとなると、手放しに喜ぶものなのではないだろうか?
そこには通常誰しもが自分への利しか頭にないものだが、少年はそうではなくギブアンドテイクを口にしたのだ。
王族に対してそんな事を口にするなんてとつい笑いが込み上げてしまう。
「ククッ…お前は本当に面白い奴だな。気に入った。王宮に来い。メリットなどいくらでもあるだろう。お前は寝食に困らない上、仕事だってできる。私の方のメリットは…そうだな。退屈しないで済むと言うのでどうだ?」
そう。きっとこの少年といたら自分は何も退屈しないで済む。
そう思ったのだ。
「貴方は…人から変わっていると言われませんか?」
どうやらその誘いは彼の心をほんの少し動かしたらしい。
急に口調が丁寧なものへと変化する。
「そんなもの…言いたい輩には言わせておけばいい」
そう言ってやると彼は満足げな笑みを浮かべてゆっくりと頭を下げた。
「お名前をお伺いしても?」
「私の名は────ライアードだ」
「ライアード様。どうぞ私の事はお好きにお呼びください」
そんな少年に少し考えたところで静かに微笑み名を与える。
「そうだな。ロイド…お前をロイドと呼ぶことにしよう」
目立たないよくある名ではあったが、彼はその名に満足したようだった。
「では…ライアード様に心からの忠誠をお誓いいたします」
「ああ。できるだけ私を楽しませて、退屈させてくれるなよ?」
「……」
問い掛けに対し彼は実に楽しげに笑みを浮かべたので、これから楽しい日々が始まるのだと心弾む自分がいた。
第二王子として生まれた自分。
そこには責務はあれど、重圧は思ったほどにはなかった。
正直与えられた仕事だけをこなすのは退屈以外の何物でもない。
元々仕事ができる性質ではあったが、兄よりも秀でているところを見せては兄の立場がないということもわかっていた。
だから何事もほどほどにやってきたつもりだ。
それが良いか悪いかではなく、それが『普通』であり、自分に求められるスキルでもあったのだ。
けれどそんな日々は酷く単調で、何一つ面白みがなかった。
だから剣の稽古に励んだり、国の隅々の諸問題などに目を向けて何か国を発展させる面白いことはないかと目を向けたりもした。
けれどそれにすらすぐに飽いた。
何をしてもつまらない…その一言に尽きる。
だから兄が嫌悪したこの魔道士を傍に置いたら何か変わるかもしれないと、半ばお遊び気分で抱えてみた。
本当にただそれだけだったのに────彼は本当にこれ以上ないほどに優秀な魔道士だった。
「ライアード様。ライアード様は美しいものがお好きなようなので、今日は新しい魔法を考えてみました」
そうやって様々な手法で自分の目を楽しませてくれるロイド。
「ほう。今回は炎か。炎が揺らめいてなかなか幻想的だな」
「はい。お気に召されましたか?」
「ああ。実に美しい」
仕事の合間にこうして楽しませてくれるロイドはいつしか自分にとってなくてはならない大切な側近となった。
周囲の者達は最初でこそロイドのその魔力の高さや態度から存在を恐れたりしたものだが、慣れればただの第二王子が気まぐれに抱えた魔道士として接するようになった。
恐らくロイドが使う魔法が自分を楽しませるためだけに使われるのを目の当たりにしてそう判断したのだろう。
実にお気楽だと呆れてしまう。
「この城の者は本当に馬鹿ばかりだな」
カップを傾けながら嘲笑うかのように小さく口にすると、ロイドがため息を吐きながら窘めてきた。
「ライアード様。そういったことはあまり口になさらない方がよいかと」
「ふっ…わかっている」
主人のために苦言を呈してくれるロイドはこんなにも素晴らしい魔道士なのに、この城にいる者達はそれを全く分かってはいないのだ。
「ロイド…美しいものにも飽いた。最近は美しければ美しいものほどどうしようもなく穢したくて仕方がないのだ」
昔から多少なりともそういった傾向はあったが気にしないようにしてきた。
けれど最近はそれが顕著に表れてきたような気がする。
そしてそれには少し思い当たることがあった。
自分は完璧なものほど壊したくなるのだ。
それは鬱屈した今の環境が大きく影響しているのだろう。
けれどそれを言ってもどうしようもないのはわかりきっていた。
誰にもどうすることはできないのだ。
自分が第二王子として飼い殺しにされている現状は何一つ変わらない。
もっとできることがあるはずなのに何もできない自分が酷く空しかった。
(いっそ何もかも壊してしまおうか…)
そんな考えにさえ囚われそうになり、思わずふるりと頭を振る。
さすがにそこまで愚かにはなりたくはない。
きっと自分はこのまま無難に日々を過ごし、ロイドの魔法に慰められながら適当な相手と結婚し子を為して、そのまま死ぬまで息苦しい人生を送るのだろう。
「最悪だな」
そんな風に生きるしかない自分の今の立場が煩わしくて仕方がなかった。
そう思った時、ふと窓の外を飛ぶ鳥が目に入った。
「あの自由な鳥が憎らしいな。いっそ飛べなくなってしまえばいいのに…」
そんな言葉を口にした時だった。
ロイドがその声に反応するかのようにフッと笑った。
「そんなこと、簡単なことですよ」
そしてその鳥がバルコニーに来たところでその呪文を唱えたのだ。
「ほら。こうしてしまえばもうこの鳥は飛ぶことすら叶わない」
そしてその鳥の方へとスッと足を向け、その手に水晶の塊と化した鳥を乗せこちらへと戻ってくる。
「……死んだのか?」
「いいえ。生きていますよ」
話を聞くとその鳥はこうして水晶化しつつもまだ生きているのだという。
だから魔法を解きさえすればまた空へと飛び立つらしい。
「この鳥は生きているにもかかわらずどんなに羽ばたきたくとも空を飛ぶことは叶わないのです。ライアード様のお望みどおりに」
そんな言葉に恐る恐るその鳥をロイドから受け取るが、その水晶はひんやりとしていてとても生きているようには見えなかった。
「ああ、落とさないで下さいよ?さすがに床に落として砕かれてしまうと死んでしまいますからね」
その鳥の命は自分の手の中なのだと言われて思わずフルリと身が震え、かつてないほどの興奮を覚える。
(これはいい…)
「ライアード様。お貸しください」
そしてロイドがその鳥を受け取りまた呪文を唱えると、鳥は一瞬にして元へと戻りそのまま逃げるように大空へと羽ばたいていった。
後に残されたのは不思議な昂揚感だけだ。
この感覚はなんなのだろう?
それはどこか性的興奮に似ているように感じた。
騎士(一途)×皇太子(ドM)メイン、ライアード×シリィがサブ、番外編はシュバルツ×ロイドメインですが、出だし(1~6)は第一部の裏話になるためライアード視点となっております。
他にも部分部分で一部と重なっているため出来るだけリンク部位を掲載させて頂こうと思います。
読みにくくて本当に申し訳ありません。
こちらも地雷多めだと思うので、合わないと思ったら即撤退してください。
※ロイドは相手がシュバルツの時以外は全て攻めです。
※ロイド×モブ女性、双子魔道士×皇太子(3P)、ロイド×双子黒魔道士(3P)等もありますので、苦手な方は回避してください。
宜しくお願いしますm(_ _)m
────────────────
ガタゴトと王族の馬車がひた走る。
道の脇に控えるのは行き交う商人や魔道士達。
皆が王族に頭を下げる中、その子供だけは木の上に座りながらただその馬車列を眺めていた。
そんな子供に隊列の馬上からそっと視線をやると、その子供はすぐにこちらに気が付いておよそ子供らしからぬ不敵な笑みを浮かべた。
ロイドとの出会いはそれが初めてだった。
それから2年程が経ったある日のこと────。
ザシュッ!!
刺客に狙われた兄王子を守るため剣を振るっていた自分。
魔法を使えないのだから剣で戦う以外に方法はない。
幸いにも王宮魔道士達から防御魔法を掛けてはもらっているため魔法攻撃はなんとか防ぐことができている。
ただそれだけでは身の危険を回避することはできない。
そんな中で、途中から参戦してきた相手方の黒魔道士達が自分達に掛けられた防御魔法をものともせずに攻撃を仕掛けてきたのだ。
「すみませんね~。貴方方を始末したら報酬は思いのままと言われているので…」
ニヤニヤとしながら黒衣の男達が迫りくる。
最早ここまでかとそう思ったところで、突如双方の間に一陣の風が吹き抜けた。
そしてそこに立っていたのはまだ十五かそこらの子供だった。
(この子供…どこかで…)
そう思ったところでその子供がゆっくりとこちらへと振り返る。
柔らかい光を宿すそのヘーゼルアイは、まるで安心しろとでもいうかのように優しくこちらへと向けられていた。
「この子供…!」
「邪魔だ!」
男達がそう叫んだにもかかわらず、少年はその顔に浮かんだ不敵な笑みを崩すことなく短く告げた。
「邪魔も何も…もう終わっているのだとわからないのか?」
「は?」
何を言われたのかさっぱりわからないと言う顔をした男達だったが、少年がパチンと指を鳴らしたところで彼らは一瞬にして結界へと囚われ一斉に悲鳴を上げた。
そして少年は微笑みながらこちらへと声を掛けてくる。
「このまま連行する?それとも全員ここで息の根を止めようか?」
無邪気なその言葉に兄王子は恐れを抱いたようだった。
「助けてもらった事には感謝しよう。その者達はこのまま連行させてもらう」
「そう」
その言葉と同時に少年が結界を解き、変わって素早く拘束魔法を唱えた。
最早男達には抵抗の意思はない。
ブルブルと震えながら少年の方を見つめ、ただ短く問うた。
「その年でこの魔力…。お前は…まさか…」
そんな彼らに少年が艶やかに笑う。
「ふっ…なんだ知っていたのか」
「ボロス…」
男達の言葉に少年は満足げに笑ってこちらをただ真っ直ぐに見つめてきた。
無事に城へと戻り、男達を兵へと引き渡したところでボロスと名乗った少年の対応を兄から任され会話を試みる。
彼は一体どうしてこちらへと手を貸してくれたのだろう?
ただの親切とも思えなかったのだが……。
「勿論、意味もなく手を貸すはずがない」
そんな疑問に返ってきた答えは予想通りのものでしかなかった。
「たまたまお腹が空いてたから、助けたら美味しいものでももらえるかと思って」
にっこりと微笑んできた彼は本当に無邪気な子供の様に見えたが、先程の男達を捕らえた時の鮮やかな手並みと言い、どうもかなり優秀な魔道士のようだった。
「兄上。いかがです?暫く彼を護衛として雇ってみては」
だからこそ食事を頼みに行ったついでに兄の元へと足を向けそう提案したのだが、兄は頑なにイエスとは答えなかった。
曰く、得体がしれない────と。
魔道士など王宮魔道士で見慣れているはずの兄がそんなことを口にしたのは意外だと思ったが、それほどボロスは凄いのだろうか?
「ちなみにいつから魔道士をしているんだ?」
食事を与えてやりながらそう尋ねると、ボロスは暫く考えた後、7才の頃からだと答えを返してきた。
「親が何でもいいから金を持って帰って来いって煩かったから、小銭稼ぎで色々やってたんだ」
その言葉は正直衝撃的だった。
まさかそんな年端もいかないうちから親に働きに行かされていたとは思いもよらなかった。
「今…ご両親は?」
「ああ、二人とも流行病であっさり死んでくれたから今は一人だ」
聞くところによると、ボロスが12になる頃その当時蔓延していた流行病で二人とも亡くなってしまったらしい。
「その頃にはもう仕事も順調だったし、元々自分だけの稼ぎで生活してたから」
何一つ困ることなどなかったのだと何でもないことの様に少年は笑顔で口にした。
しかもどうやら今の名は元々の名前ではないらしい。
「元々親に呼ばれてた名前もあるにはあるけど…仕事でその名を使ったら実生活に支障があるかと思って黙ってたんだ」
けれどいつしかそんな彼を周囲が勝手に名づけ始めたのだという。
「ボロスって言う名はウロボロスからもじったらしいよ?」
ウロボロス────それが意味するところは『全知全能』…つまりは完璧なる者。
この目の前の少年は幼くしてそれを他者に認めさせるほど優秀な成果を上げてきたのだろう。
しかも圧倒的なその力をもって────。
そう言うことなら兄が恐れるのはわからないでもない。
自分では扱いきれないとでも思ったのだろう。
けれど────。
「ボロス。満足できたか?」
「ああ。もうお腹はいっぱいだ」
満足そうに彼は笑う。
きっと彼はこのままあっさりとここから姿を消すことだろう。
けれどそれは本意ではなかった。
「ボロス。これからも美味い物を沢山食べさせてやる代わりに、私の元へ来ないか?」
「え?」
少年は驚いたようにそのヘーゼルの瞳を丸くする。
まさかこんな提案をされるとは思いもよらなかったのだろう。
「あ~…。有難い申し出だけど…」
そうやってすぐさま苦い顔で断られそうになり、思わず言葉をさえぎってしまった。
「何故だ?」
「…お互いにメリットがないから…かな」
至極あっさりと言い切られた言葉に思わず笑いが込み上げてしまう。
まさかそう返されるとは思わなかった。
普通は王族のお抱え魔道士にしてもらえるとなると、手放しに喜ぶものなのではないだろうか?
そこには通常誰しもが自分への利しか頭にないものだが、少年はそうではなくギブアンドテイクを口にしたのだ。
王族に対してそんな事を口にするなんてとつい笑いが込み上げてしまう。
「ククッ…お前は本当に面白い奴だな。気に入った。王宮に来い。メリットなどいくらでもあるだろう。お前は寝食に困らない上、仕事だってできる。私の方のメリットは…そうだな。退屈しないで済むと言うのでどうだ?」
そう。きっとこの少年といたら自分は何も退屈しないで済む。
そう思ったのだ。
「貴方は…人から変わっていると言われませんか?」
どうやらその誘いは彼の心をほんの少し動かしたらしい。
急に口調が丁寧なものへと変化する。
「そんなもの…言いたい輩には言わせておけばいい」
そう言ってやると彼は満足げな笑みを浮かべてゆっくりと頭を下げた。
「お名前をお伺いしても?」
「私の名は────ライアードだ」
「ライアード様。どうぞ私の事はお好きにお呼びください」
そんな少年に少し考えたところで静かに微笑み名を与える。
「そうだな。ロイド…お前をロイドと呼ぶことにしよう」
目立たないよくある名ではあったが、彼はその名に満足したようだった。
「では…ライアード様に心からの忠誠をお誓いいたします」
「ああ。できるだけ私を楽しませて、退屈させてくれるなよ?」
「……」
問い掛けに対し彼は実に楽しげに笑みを浮かべたので、これから楽しい日々が始まるのだと心弾む自分がいた。
第二王子として生まれた自分。
そこには責務はあれど、重圧は思ったほどにはなかった。
正直与えられた仕事だけをこなすのは退屈以外の何物でもない。
元々仕事ができる性質ではあったが、兄よりも秀でているところを見せては兄の立場がないということもわかっていた。
だから何事もほどほどにやってきたつもりだ。
それが良いか悪いかではなく、それが『普通』であり、自分に求められるスキルでもあったのだ。
けれどそんな日々は酷く単調で、何一つ面白みがなかった。
だから剣の稽古に励んだり、国の隅々の諸問題などに目を向けて何か国を発展させる面白いことはないかと目を向けたりもした。
けれどそれにすらすぐに飽いた。
何をしてもつまらない…その一言に尽きる。
だから兄が嫌悪したこの魔道士を傍に置いたら何か変わるかもしれないと、半ばお遊び気分で抱えてみた。
本当にただそれだけだったのに────彼は本当にこれ以上ないほどに優秀な魔道士だった。
「ライアード様。ライアード様は美しいものがお好きなようなので、今日は新しい魔法を考えてみました」
そうやって様々な手法で自分の目を楽しませてくれるロイド。
「ほう。今回は炎か。炎が揺らめいてなかなか幻想的だな」
「はい。お気に召されましたか?」
「ああ。実に美しい」
仕事の合間にこうして楽しませてくれるロイドはいつしか自分にとってなくてはならない大切な側近となった。
周囲の者達は最初でこそロイドのその魔力の高さや態度から存在を恐れたりしたものだが、慣れればただの第二王子が気まぐれに抱えた魔道士として接するようになった。
恐らくロイドが使う魔法が自分を楽しませるためだけに使われるのを目の当たりにしてそう判断したのだろう。
実にお気楽だと呆れてしまう。
「この城の者は本当に馬鹿ばかりだな」
カップを傾けながら嘲笑うかのように小さく口にすると、ロイドがため息を吐きながら窘めてきた。
「ライアード様。そういったことはあまり口になさらない方がよいかと」
「ふっ…わかっている」
主人のために苦言を呈してくれるロイドはこんなにも素晴らしい魔道士なのに、この城にいる者達はそれを全く分かってはいないのだ。
「ロイド…美しいものにも飽いた。最近は美しければ美しいものほどどうしようもなく穢したくて仕方がないのだ」
昔から多少なりともそういった傾向はあったが気にしないようにしてきた。
けれど最近はそれが顕著に表れてきたような気がする。
そしてそれには少し思い当たることがあった。
自分は完璧なものほど壊したくなるのだ。
それは鬱屈した今の環境が大きく影響しているのだろう。
けれどそれを言ってもどうしようもないのはわかりきっていた。
誰にもどうすることはできないのだ。
自分が第二王子として飼い殺しにされている現状は何一つ変わらない。
もっとできることがあるはずなのに何もできない自分が酷く空しかった。
(いっそ何もかも壊してしまおうか…)
そんな考えにさえ囚われそうになり、思わずふるりと頭を振る。
さすがにそこまで愚かにはなりたくはない。
きっと自分はこのまま無難に日々を過ごし、ロイドの魔法に慰められながら適当な相手と結婚し子を為して、そのまま死ぬまで息苦しい人生を送るのだろう。
「最悪だな」
そんな風に生きるしかない自分の今の立場が煩わしくて仕方がなかった。
そう思った時、ふと窓の外を飛ぶ鳥が目に入った。
「あの自由な鳥が憎らしいな。いっそ飛べなくなってしまえばいいのに…」
そんな言葉を口にした時だった。
ロイドがその声に反応するかのようにフッと笑った。
「そんなこと、簡単なことですよ」
そしてその鳥がバルコニーに来たところでその呪文を唱えたのだ。
「ほら。こうしてしまえばもうこの鳥は飛ぶことすら叶わない」
そしてその鳥の方へとスッと足を向け、その手に水晶の塊と化した鳥を乗せこちらへと戻ってくる。
「……死んだのか?」
「いいえ。生きていますよ」
話を聞くとその鳥はこうして水晶化しつつもまだ生きているのだという。
だから魔法を解きさえすればまた空へと飛び立つらしい。
「この鳥は生きているにもかかわらずどんなに羽ばたきたくとも空を飛ぶことは叶わないのです。ライアード様のお望みどおりに」
そんな言葉に恐る恐るその鳥をロイドから受け取るが、その水晶はひんやりとしていてとても生きているようには見えなかった。
「ああ、落とさないで下さいよ?さすがに床に落として砕かれてしまうと死んでしまいますからね」
その鳥の命は自分の手の中なのだと言われて思わずフルリと身が震え、かつてないほどの興奮を覚える。
(これはいい…)
「ライアード様。お貸しください」
そしてロイドがその鳥を受け取りまた呪文を唱えると、鳥は一瞬にして元へと戻りそのまま逃げるように大空へと羽ばたいていった。
後に残されたのは不思議な昂揚感だけだ。
この感覚はなんなのだろう?
それはどこか性的興奮に似ているように感じた。
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